シュラアート・オンライン   作:メガネザル

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先に謝罪を、キャラ崩壊の可能性大です。
御気をつけ下さい。




望んだ世界

 

 

___ああ、そうだ、これだ、これなんだ、この世界こそ___

 

___望んでいたモノだったんだ___

 

地を踏みしめた時に上がる土煙、身体を動かす度に飛び散る汗、聖大樹から舞い落ちる木の葉

 

その全てがスローモーションになり、時間が曖昧になる感覚の中でキリトは笑みを浮かべた。

 

再び相手との間合いを詰めて剣を振るう。

 

ソードスキルではない。

 

しかしソードスキルに迫る速度で右手の剣を振るう。

 

まただ、目の前の相手の顔が驚愕に染まる。

 

振る前より迅く振り、相手の剣を弾く。

 

不意に弾かれた事により体勢を崩した所に返す刃で斬り付ける。

 

目の前の相手の顔は苦渋に歪めながらも再び構えようとする。

 

また、構え切るより迅く右手を振り相手の剣を弾いて体勢を崩す。

 

相手は倒れまいと必死な形相で踏ん張るが、再び返す刃で斬り付けられる。

 

その度に目の前の相手は焦りの色を濃くする。

 

全てが把握できた。

 

相手の動きも、次にどう動くかも、相手が何を考えているのかすらも

 

全てが手に取る様に理解できた。

 

音が無くなっていた事にすら気付いていなかった。

 

身体を動かす度に身体の何処の筋肉が収縮するのを感じ、身体の何処の筋が悲鳴を上げているのか分かっていた。

 

痛みが無い事に感謝していた。

 

この世界がゲームで良かったと思っていた。

 

自然と理解していたから。

 

こんな動きをすれば、自分の身体は数秒と耐えられず壊れ始め激痛に襲われる事を__

 

そうなれば自分は今いる感覚に対しての喜びも欲望も高揚感すらも感じる事がなかっただろう。

 

そう、今いるこの世界が愉しくて仕方がなかった。

 

加速する思考が常に最善を選び

 

考えが信号になるよりも迅く身体が動く様な

 

止まる事無く加速する世界が

 

自分の脳髄を蕩けさせるほどの刺激を与え続け

 

与え続けられてもソレに飽きる所か更にもっと、と望んでいる心が

 

まだだ、もっと早く、それでいて一秒でも長くと叫び

 

この世界に居る為には、この感覚を味わう為には

 

どうすればいい、と問い掛け

 

自分が何をしているのかを思い出す

 

目の前の相手と刃を交えてる事を

 

そうか、戦えばいいのか

 

そして相手に願う

 

もっと速く動いてくれと、もっと上手く戦ってくれと

 

今の自分には身体の制御が出来ない

 

最善であり最速以外の動きは出来ないのだから

 

少しでも長くするには、少しでも迅くするには

 

目の前の相手に頼るしかなかったから

 

__そして誰かの為に振っていた剣が__

 

__快楽に溺れ自分の為に振っていた__

 

その事にキリトは気が付いていなかった。

 

「グッ!?」

 

そんなキリトと戦っているノルツァーは焦りの色を隠せないでいた。

 

両手剣は威力も高く、リーチも広い、生半可な武器や防具では受ける事も出来ずに一方的に攻撃が出来る。

 

が、その分だけ攻撃をする前には力を込める為に溜めが必要になる。

 

すなわちソレは隙になる。

 

『また、力を込める寸前を狙った攻撃を!?』

 

口にするのは簡単だ。

 

攻撃する寸前に攻撃を剣に当てればいいだけ。

 

偶然で攻撃が当たる事もあるだろう。

 

だが、狙って何度も何度も同じ事が出来る訳がなかった。

 

ノルツァーはモンスターの様に決まった行動を取らない、力を込めるタイミングも変えたりフェイクも織り交ぜている。

 

しかし、既に十を超える回数。

 

完璧なタイミングで攻撃を当てて剣を弾き体勢を崩されている。

 

__あり得ない__

 

ノルツァーは思っていた。

 

まるで自分の全てを把握されている錯覚に陥りながら。

 

また体勢を崩されたノルツァーはキリトの攻撃を捌けずに攻撃を受けた。

 

『何なのだコイツは!?あの咆哮から動きが全く違うモノに変わった!?』

 

何度も攻撃を受けた鎧はボロボロで、既に鎧としての機能は期待できなくなっていた。

 

踏ん張ったノルツァーは大上段に両手剣を構えた瞬間、再びキリトの狙い澄ました一撃が両手剣の柄を叩いた。

 

「くっ・・!?」

 

ノルツァーは大きく体勢を崩したが、無理に直さずに呻きながら距離を空ける為に転がって膝を着いて、左腰に両手剣を構えてソードスキルのモーションを取った。

 

『同じように間合いを詰めて来ている筈、この一撃が外れても体勢を立て直す隙を__』

 

「!!?」

 

顔を上げた瞬間、ノルツァーは固まった。

 

目と鼻の先に膝を着いた自分と同じ高さにキリトの顔があったからだ。

 

距離を詰めるとは思っていたが、触れるほど近づいてるとは思わなかった。

 

『いや!肉を切らせて骨を断つ!攻撃を受けても怯まずに__』

 

覚悟を決めて左腰から放たれたノルツァーの《ブラスト》

 

しかし、放たれた瞬間に軌道がキリトを避ける様に上へと逸れた。

 

「なっ!?」

 

何故、という言葉が頭に浮かぶと同時に自分が振っている両手剣へと目をやった。

 

その鍔元には下からキリトの直剣が添えられていた。

 

必要最低限の力で音も出さずにノルツァーの《ブラスト》は外されのだ。

 

「あり得ないッ!?」

 

驚愕に包まれたノルツァーが技後硬直で固まる前にキリトは小さく笑みを浮かべた。

 

『笑った・・だと!?一歩間違えれば攻撃を受けたかもしれない状況で!今コイツは笑ったのか!?』

 

既に触れ合えるほどの距離で小さく笑ったキリトにノルツァーは恐怖を感じた。

 

「オオオオオッ!!」

 

吠えたキリトは《ブラスト》を外した時に左に流れた直剣をそのまま左へと引き絞ってソードスキルのモーションを取った。

 

「ガッ!?」

 

《ホリゾンタル・スクエア》左から右への一撃でノルツァーの鎧の左側を砕き、次の右から左への一撃で鎧の右側を砕き、完全に鎧を壊した。

 

「なにっ!?」

 

勢いを殺す事なく一回転をして再び右から左への一撃でノルツァーの両手剣を手元から弾き飛ばした。

 

最後の左から右への一撃を先程と同じように胸の中心へ、されども先程とは違い鎧が無くなり薄い服だけになった無防備な場所に一撃を放った。

 

「グハアアアアアアッ!?」

 

胸に一撃を受けたノルツァーは吹き飛んで地面を転がった。

 

が、既にHPが三分の一も無かった筈のノルツァーのHPがギリギリ残った。

 

「・・・・止めのつもりで放ったんだけどな」

 

技後硬直が解けるまでにキリトは視線を吹き飛んだノルツァーへ向けながら疑問を口に出した。

 

「ふふふ・・・・ああ、助かったよ。胸にコイツを入れてなかったら終わっていただろうな」

 

キリトの一撃を受け服が破れた所には光沢を放つ何かが見えていた。

 

「それは《紅蓮の秘鍵》!?何故貴様が持っている!?」

 

キリトの背後からキズメルが驚きに染まった声を上げた。

 

「そうだ、何でお前が持っているんだ?これじゃ先に中に入っていった仲間が封印を解く事が出来ない筈だ」

 

キズメルの言葉にキリトは考えが追いついた。

 

「・・・・ふふふ、伝承をよく思い出すのだな」

 

フォールンエルフは刃の通さぬ強靭な身体を得る為に聖大樹の聖堂の封印を解こうとして聖大樹の恩寵を断たれた。

 

「その中で強靭な身体を得る為の封印を解くのに秘鍵が必要だと、あったか?」

 

ノルツァーのその言葉にキリトとキズメルはハッとした。

 

「封印を解くのは別のモノが必要なのだよ!それは恩寵を断たれていない高貴なエルフと生贄だ!」

 

キリトがすかさず反応した。

 

「なら、何故先に秘鍵を奪ったんだ?先に封印を解いて力を得てからで良かった筈だ」

 

キリトの問いにノルツァーは笑みを浮かべた。

 

「・・・・古の時に我等フォールンエルフは封印を解いたのだ」

 

その言葉は場を支配した。

 

「まだ分からないか?この事実を知って私の姿を見ても・・・・」

 

額の二本の猛々しい角、ギラギラと輝きを放つ赤い目、キリトの攻撃により破壊された鎧と破れた服の中から色あせた鱗の様なモノが見えた。

 

「まさか・・・・?」

 

「その通りだ。私は古の時に封印を解いたフォールンエルフの一人なのだよ」

 

その衝撃にキリトとキズメルはノルツァーの言葉の続きを聞くしかなかった。

 

「その時に知ったのだ。力を得るのは秘鍵を持つ者だけだと・・・・当時フォールンエルフの中で私だけが__」

 

ノルツァーは手にした《紅蓮の秘鍵》を掲げた。

 

「秘鍵の一つである《紅蓮の秘鍵》を持っていたのだ。たしかに私は刃の通らぬ程の強靭な身体を得た。が、聖大樹の恩寵を失くしたフォールンエルフにとって私一人の力では足りなかった」

 

ノルツァーは色あせた自分の身体を見た。

 

「そこで我々は時が過ぎるのを待った。気が遠くなるほど長い時が事実を伝承に変え危機感が薄れるのを待ったのだ!」

 

長い時で蓄積された魂の咆哮が辺りに響いた。

 

「人族の魔法を消し去る。ソレがフォールンエルフの目的じゃないのか?」

 

キリトの問いにノルツァーは感心した。

 

「ほう、どうしてその事を知ってるんだ?」

 

キリトが不敵な笑みを浮かべた。

 

「壁に耳あり、障子に目あり。不用意に話なんてするもんじゃないぜ」

 

ノルツァーは何処か納得したのか小さく頷いた。

 

「次からは注意しよう。礼にどういう事か教えてやろう。我らが消し去りたい人族の魔法とは___街中での攻撃無効化と命の蘇生だよ___」

 

ホンの数瞬、キリトは思慮し全てを理解した。

 

「__《圏内》とNPCのリポップ__」

 

キリトの呟きはノルツァーには届かなかった。

 

「人族の街の中では全ての攻撃が無効化されて何も破壊出来ず!街の外に出た人族を倒しても次の日には復活する!アレが我々が消し去りたい人族の魔法だ!その為に全ての秘鍵を集め最後の扉を開く!!」

 

更に深い思慮に陥ったキリトは頭が真っ白になっていた。

 

もし《圏内》が無くなれば、街にいる衛兵がリポップしなくなったら、強力なモンスターもしくは大量のモンスターが街に雪崩れ込めば、始まりの街にいるプレイヤーは全滅。

 

それどころか何処に居ようとも殺される様になり、今のデスゲームという世界が地獄と呼ぶに相応しい世界になる。

 

「__そうか、だから犯罪者集団がフォールンエルフと手を組んだのか」

 

そしてキリトの頭には喜々として人を殺すプレイヤー達の姿が頭に浮かんだ。

 

「そうだ、奴等エサを目の前にぶら下げた犬の様に喰い付いたぞ」

 

静かにキリトが直剣を構えた。

 

「・・・・そんな事させるか・・・・」

 

キリトが丸腰のノルツァーに止めを刺そうとした時、奥の真っ暗な聖堂の入口から二つの人影が出てきた。

 

「あれは・・・・?」

 

二つの内、一つの影にキリトは見覚えがあった。

 

第五層で背後からナイフを突き付けた黒ポンチョの男。

 

二つの影はキリト達を見つけながらも直ぐに目を離して聖大樹の根をよじ登って姿を消した。

 

「ふ・・・・ふふふ、ふははははははははははははははははは!!」

 

その事に気が付いたノルツァーは大きく高笑いを上げた。

 

「何が可笑しいんだ!?」

 

キリトの怒号にノルツァーは笑みを張り付けたまま両手を広げた。

 

「あの人族が逃げて来たという事は誰かが生贄として喰われたという事だ!」

 

「っ!?」

 

キリトはすぐさまノルツァーとの間合いを詰める為に走り出すが、ノルツァーは笑みを浮かべたまま口を開いた。

 

「話を聞いてくれた事に感謝する。おかげで間に合ったぞ、再び私はあの力を得るのだ!!」

 

《紅蓮の秘鍵》が強烈な光を放つと同時に衝撃波がキリトを吹き飛ばした。

 

聖大樹からノルツァーへと流れ出している光。

 

その光は周囲を照らし出すほど輝きが強いモノだった。

 

しかし、その強い輝きを放つ光は何処か不安にさせるほど禍々しかった。

 

「ッグオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

その咆哮はノルツァーのモノとは思えなかった。

 

まるで巨大な竜が吠えているようだった。

 

光が収まるとノルツァーの姿はそのままにあった。

 

「ック・・フハハハハハハハハハ!!そうだ!コレだ!コレなのだ!時によって錆びつかされた力が戻ったぞ!!」

 

自らボロボロだった服を引き千切り変わった上半身を露わにした。

 

全身を覆う色あせていた鱗が紅蓮と呼ぶに相応しい色と共に光沢があり、一目見ただけで強固な鎧になっている事が分かる。

 

額から生えていた二本の角は二本とも捻れて禍々しさが増していた。

 

そしてギラギラだった赤い目は微かな光を含ませながら、猛獣の様に瞳孔が開いていた。

 

『HPは回復していない。あと一撃、どんな形でも入ればいい』

 

キリトは自分に酔っているノルツァーへと踏み切ると同時にソードスキルを発動させた。

 

__片手剣ソードスキル《レイジ・スパーク》__

 

自身が走りながら地面に触れるくらいで剣を走らせ下から掬いあげる様に相手の首に突きを入れるソードスキル。

 

「ぬ?」

 

キリトの行動に気が付くのが遅れたノルツァーは一歩も動く事が出来なかった。

 

「なっ!?」

 

しかし、驚きの声を上げたのはキリトだった。

 

放たれた《レイジ・スパーク》をノルツァーは羽虫を払う様に左手で逸らした。

 

見ただけで分かる強固な鱗は完璧にキリトの斬撃を防いでダメージを発生させなかった。

 

キリトが甘かった。

 

聞いていた伝承通りノルツァーは刃の通らぬ強靭な身体を手に入れていた。

 

キリトは驚愕に包まれながら技後硬直で固まった。

 

「そう焦るでない。既に勝負は決したのだから・・・・しかし、貴様には私をコケにしてくれた借りがある。もう一度剣で戦おうではないか」

 

ノルツァーは技後硬直で動けないキリトを見下しながら弾き飛ばされた両手剣を拾いに行った。

 

「さあ、最後まで足掻くがいい。醜く無様に絶望を噛みしめながら踊るがいい。余興にはなるだろう」

 

技後硬直が終わっても動く事が出来ないキリトへと両手剣の切っ先を向けて嗤った。

 






キリトが修羅の門に染まってる気がするのは作者だけでしょうか?
意識して書いたとはいえ、キャラ崩壊が凄まじ過ぎるかも・・・・

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