今回は残酷な描写が多くあります。
不快な思いをなさるかもしれません。
あらかじめ御了承をお願いします。
フワはポリゴンが零れる左頬の傷口を短剣を握った右手で拭った。
「How、久しぶりの痛みはどうだい?」
ポンチョの男だけじゃない。奴の仲間も全員ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「・・・・・・・・」
フワは拭った右手の甲を感慨深そうに眺めた。
「もしかしてやせ我慢っすかぁ?」
「いや、理解が追い付いていないんじゃねえの?」
「アイツ鈍そうだから、あんな小さな傷じゃ分からないんじゃないの?」
ポンチョ以外の三人はニヤニヤしたまま次々と口を開いていった。
「くっくっく・・・・残念だが、その痛みは気のせいじゃないぜぇ」
ポンチョの男は笑みを浮かべたまま両腕を横に開いた。
「イッツ・ショーウ・タァーイム!!」
そんな言葉をフワは聞き流しながら表情を替えずに右手の甲を眺めていた。
「さあ!さっきまでと同じ動きが出来るかぁ!?本当の痛みに怯え!逃げ惑い!悲鳴を上げろぉ!そんな愉快なショーの始まりだぁっ!!」
「__血は出ないのか__」
そんな叫びを無視してフワは同じ表情のまま感慨深そうに呟いた。
「__あ?__」
ようやく口を開いたフワの言葉にポンチョの男は眉を顰めた。
「いや、モンスターとの戦闘でダメージを受けても血が出ないから。もしかしたらプレイヤーとの戦闘なら血も再現するかと期待してたんだけどな・・・・」
残念、フワはそう言わんばかりに溜め息を吐いた。
「気でも狂ったか?」
ポンチョの男は再び笑みを浮かべながら問いかけた。
「__っく、くはっ・・!くぅアはははははハハハハはははははハハハハハ!!」
その笑いは__狂っていた__
その笑いは__愉しげだった__
その笑いは__何も無かった__
その笑いは__作られた仮面を壊し__
__狂った化物の笑みが、支配した__
「ああ、狂ってるだろうな。ただし、物心付く前からだが・・な!」
言葉と共に、その笑みで返した。
「なら狂ったまま踊り狂っちまえ!悲鳴を上げながらなア!」
ポンチョの男の声と共に鎖頭巾がフワへと走りケタケタ笑いながら右手の片手斧を振り上げた。
「本当に頭がパーな人だったんですねぇ!」
フワの左肩に目掛けて袈裟掛けに振り降ろした斧の切っ先がフワに当たった。
鎖頭巾がニヤケながら勢いを殺さない様に片手斧ソードスキルを発動させた。
__片手斧ソードスキル《ターンエンド・クリーブ》__
身体を一回転させて腰だめから両手で持ちながら高威力の攻撃を見舞う単純なソードスキル。
鎖頭巾は恐怖で動けないフワの姿を想像しながら《ターンエンド・クリーブ》を放った。
その瞬間、思考が止まった。
「は?」
まるで手品の様にフワが消えていたから。
思考が止まり反射的に声が出たのは本当に一瞬だったが、鎖頭巾は何が起きたのか分からず時間が引き延ばされるような感覚を覚えた。
「__何処向いてんだ?__」
真後ろで__いや、顔の横に吐息を感じる距離でフワの声が囁いた。
「__?!!?__」
ただ、最初の一撃をミリ単位で躱し、鎖頭巾が回転するのに死角と共に合わせて移動しただけ__
しかし、鎖頭巾には分からず、引き延ばされた時間感覚のまま技後硬直で身体が固まってしまった。
「っあ___」
溢した声は無意識の内だった。
延ばされた時間間隔の中で、左大腿部を何かが通り抜けると燃える様な熱さを感じた。
そして__身を切り裂かれる痛みが襲った。
「___っアアアァァァアアアァァアアアアァアアア!?!!?」
そんな絶叫を聞き流したフワは此方に向かいながらも鎖頭巾が上げた絶叫に驚いている女へと化物の手を伸ばした。
女は笑みを張り付けたまま、目の前の光景に頭が追い付かなかった。
正面から攻撃した筈の仲間が真後ろから攻撃された光景が__痛みで絶叫を上げている姿が__
驚きながらも女の動きはソードスキルのシステムアシストで高速化していた。
「遅い、アスナに比べたら汚いナメクジだな」
女は夢だと思った。
自分のレイピアが擦り抜ける様に躱されると同時に、右逆手に握った短剣で自身の左肩から右脇を切り裂き、ポリゴンが溢れるより早く右肩から左脇へと刃が走り胸にバツ印を書かれた時に。
何故なら、こんな動き人に出来る訳ないと思ったから。
「____!!!?」
だが、そんな都合の良い夢は襲い掛かった痛みが完全に否定した。
フワは鎖頭巾と同じ様に絶叫を上げる女を無視し、振り返る事無く顔を右に傾けると同時に顔の左側に飛んで来たナイフを左手で掴んだ。
「バルス・・ってか?」
フワは呟きながらナイフの飛んで来た方へ振り返ると、不意に左腕がブれ、驚愕の表情で固まっている仮面の男へと掴んだナイフを投げ返していた。
同じ様に放たれたナイフの刀身が光に包まれていた。
が、ソレは明らかに仮面の男が投げていたモノとは別モノだった。
残光しか目に残らなかった仮面の男の右目に、ナイフが突き刺さり顔が跳ね上がった。
「っめっ!めがっ目がアアアアアァァアァアア!!?」
仮面はそのままに、根元まで埋まったナイフを抜く事も出来ず絶叫を上げて膝を着いた。
そして、左手のナイフを放つと同時に右手の短剣も放ち、残光が先程と同じようにポンチョの男の顔を掠った。
「一応言っとくかぁ、今のワザと外したから」
ポンチョの男が短剣が掠った場所を手で触れた。ソコはフワと同じように右頬が小さく裂け、ポリゴンが零れていた。
「っ_____」
ポンチョの男は黙ったまま、周りで痛みに溺れて悲鳴を上げている三人を見回した後にフワを見た。
「って__てめえ・・・・一体何だ?」
その問いにフワは優雅で絵になる仕草と共に自分の胸に右手を添えた。
「《オリジン》って奴でございます」
フワの言葉に納得が出来る訳がなかった。
「違う・・・・そんな事聞いてるんじゃねえんだ?」
フワは胸に添えていた右手を伸ばしてポンチョの男を指差した。
「《ペインアブソーバー》・・・・アンタも使ってるんだろ?」
フワの言葉にポンチョの男が苦虫を噛んだ様な表情のまま沈黙した。
「推測になるが、その《オリジン》って言葉は人を殺したから・・・・だけじゃないんだよ。このゲームが始まって一番最初に《ペインアブソーバー》を使ったと思われてるから《オリジン》じゃないのか・・ってな」
その言葉を聞いたポンチョの男が信じられない目でフワを見た。
「・・・・狂ってやがる・・・・」
フワは再び化物の笑みを浮かべた。
「言ったろ?物心付く前からだってな」
何時しか周りで上げていた絶叫も小さくなっていた。
「余裕の所を悪いが、武器もない状態で大丈夫かい?」
部位欠損ではないダメージ痕は時間が経てば消える。
それは同時に痛みも引く事に繋がる。
「たった一人でよぉ」
減ったHPが元に戻った訳ではないが、フワの攻撃を受けた三人の内、鎖頭巾と女の二人が立ち上がった。
「そこで蹲っている最後の一人が立つまで待ってやろうか?」
未だに右目に突き刺さったナイフを抜く事が出来ず、呻いている仮面の奴を指差してフワは笑った。
「はっ、調子に乗っているのも今の内だ。知ってるんだぜ《ペインアブソーバー》を使ってる奴は使ってない奴の攻撃にも痛みが付くんだろぉ?」
その言葉にフワは溜め息を吐いた。
「脅しにもならないな。ンなこと百も承知だし、逆に言えば《ペインアブソーバー》を使ってない奴にも同じように痛みが付くだろうが」
その言葉を聞いた二人は先程の痛みを思い出したのか身体を震わせた。
「・・・・あ~、本格的に飽きてきた。もう少し楽しむつもりだったけど・・・・もういいか」
怯えた二人の反応を見てフワがつまらなさそうに呟いた。
「た、楽しむ・・だと?」
誰かの驚愕にフワは応えた。
「気付いてなかったのか・・・・逆に聞くけど、あんな動きが出来るのに何で最初の方は短剣でアンタ等の攻撃を受けたりしてたと思うんだ?」
その言葉に目の前であの動きを見てしまった三人は黙ってしまった。
「少しでもプレイヤー同士の殺し合いを楽しむ為に手加減してたんだよ。まあ、狂喜に身を委ねたのは失敗だったかもしれんが、それでも一回痛みを受けただけで腰が引けてるし、もう楽しむ気も失せた」
フワは失望に満ちた目で怯えた二人を見た。
「ま、丸腰のくせに・・・・調子に乗るんじゃねえエ!!」
その失望の目で見られた二人の内の一人、鎖頭巾が吠えながらフワへと襲い掛かった。
「はっ__」
小さく笑ったポンチョの男は合わせる様にフワとの間合いを詰め出した。
「死ねえエエ!!」
鎖頭巾は雄叫びを上げながら近付き、ソードスキルを使う間合いに入ると唐突に右手に握った片手斧をフワへと投げつけた。
フワは驚く事無く、上半身を傾けて片手斧を躱した。
「ちっ__バカがっ!!」
フワが躱した片手斧が自分へと向かっていたポンチョの男は舌打ちをしながら右に跳んで避けた。
最後の武器も投げた鎖頭巾は丸腰になった。
「これでええエエエッ!!」
が、投げつけると同時に先程フワに弾かれて地面に転がっていた直剣を拾ってソードスキルのモーションを取ろうとした。
「だから、遅いって」
フワは地面に転がっていた直剣の刃の腹を右足で踏みつけて動かない様にすると同時に右手でメニューアイコンを押した。
「っぁ___」
《クイックチェンジ》という武器派生スキルで一瞬の内に右手に握られた新たな短剣を見て鎖頭巾は息を飲んだ。
「予備の武器くらい誰だってあるだろう?」
と言っても同じ武器なんだけどな。フワは直剣を拾う為に屈んでいる鎖頭巾を見下しながら右逆手に握った短剣でモーションを取った。
「コレでお前の全てが終了だ」
《エッジ》最初から使える何の特徴もないソードスキルは、フワという使い手により命を刈り取る凶刃と化した。
「___________」
凶刃は飢えた獣の牙の様に鎖頭巾の首に喰らい付いて一瞬で半分以上を引き裂いた。
引き裂かれた首は胴体からも引き千切られかけ、そこから噴水の様にポリゴンが吹き出した。
しばらくポリゴンを吹き出していると、HPが残っているにも関わらずポリゴンの欠片へとなって砕け散った。
「さすがにプレイヤーなら死ぬか」
たった今、人を殺したフワは前にダークエルフが顔面串刺しにされても死ななかった時の事を思い出して違いを確認していた。
不意にフワが前へと上体を逸らすと首があった位置をダガーが通り過ぎた。
「今のくらいはソードスキルを使えよな臆病モン」
フワはその場所から動く事なく振り向くと同時にダガーを握った右手を掴んでポンチョの男と対峙して小さな声で口を開いた。
「どうせ他人を見下し痛ぶる為に《ペインアブソーバー》を使ったんだろうが___後悔しただろ?一度使ったら二度と戻らない事に」
その言葉にポンチョの男が固まった。
「そして痛いのが怖いんだ。誰よりも実際に殺した誰かよりも自分が一番恐れてんだろ?だからリスクを犯さない、常に誰かを盾に出来る様に群れているんだろ?」
フワの目は失望に染まりながらも何処か期待しながら、軽薄な笑みを浮かべて挑発を続けた。
「ホントにくだらねえ奴だな」
フワは掴んだ右手を引いて体勢を崩すと同時に横蹴りを横っ腹に叩き込んで吹き飛ばした。
「ッグハッ!?」
ポンチョの男は蹴られた箇所を手で押さえながら膝を着いた。
「アアウウッ!?」
ポンチョの男の苦悶の声に続く様に女の悲鳴が上がった。
女の左大腿部を後ろからフワの短剣が突き刺さっていた。
「おい、黙って逃げようとするなよ」
右手の先が女に向いたままのフワは薄笑いを浮かべていた。
「い・・・・いやぁ、お願い・・許してぇ・・・・」
女は痛みに悶えながらも消え入りそうな声で懇願した。
「・・・・いいぞ、見逃してやってもいい」
フワは何か思い付いたのか更に化物の笑みを濃くした。
「ただし、見逃すのは三人中二人まで・・だ。三人で話し合って誰が死ぬのか選べ」
ポンチョの男と女はハッとしていると仮面の男が雄叫びと共に立ち上がった。
「アアアアアッ!!っくそがぁ!絶対に殺してやる!!」
仮面が半分割れた所から血走った眼をしていた。
「おっ、ようやく抜いたのか?随分と時間が掛かってたな、この愚図♪」
フワはウインクでもしそうな笑顔で男を迎えた。
「っこの__「ストップだザザ!」__どうしてですかヘッド!?」
痛いのを抑え込んでポンチョの男がザザと呼んだ仮面の男の横に立った。
「フレリアが裏切りやがった。その所為でモルテがやられた、正直分が悪い。ここは引くぞ」
その言葉にザザは戸惑った。
「で、ですがヘッド、フレリアもアイツの攻撃を受けている様に・・・・?」
「フレリアも裏切られたのさ、アイツは皆殺しにするつもりらしい。いいから此処は一旦引くぞ」
ポンチョの男の鬼気迫る雰囲気にザザは飲み込まれて頷いた。
「っま待ってえっ!?ち、違うのっ!アイツが三人の内二人は助けるって__アアアアアッ!!」
女の言葉は途中で悲鳴に変わった。ポンチョの男が投げたダガーが肩に突き刺さったから。
「行くぞ!!」
ポンチョの男の言葉と共に二人は来た道を辿る様に走り去った。
「アアア!いや!イヤアアアアアアア!!」
女の伸ばした手は誰も取らなかった。
「くはは、嘘も方便って所か」
フワは心底可笑しなモノを見れた事により笑いを口にした。
「さて、見捨てられた憐れな生贄をどうするか?」
ゆっくりとフワは出口へと手を伸ばしたままの女へと近づいた。
「あ・・・・ああ、おね・・お願いな何でも・・何でもするから・・・・!!」
生にしがみ付き懇願をする女の顔は醜かった。
ただ、ただ醜くフワは手を掛ける気すら失せた。
「気持ち悪い・・・・お前等の仲間の名前と特徴を全部教えろ。そしたらお前には何もしないから」
女は喜びながら声を荒げながらも、目の前のフワへの恐怖で声を震わせながら自分が知っている事を全て話した。
「こ、これが私の知っている事です」
「あっそう、テキストも送ってくれたし後は好きにしろ」
『それよりも何時になったら力とやらは得られるんだろうか?』
かなり前から必死で話す女に興味を失くしていたフワは奥の扉へと目を向けていた。
奥に目を向けていると頭上から変な感じがして上を向きながら振り返ると、ちょうど女の頭上から黒い瘴気を纏った巨大な蛇が襲い掛かった。
「なにっ!?何これいやっ!?たす助けてえっ!」
喰らい付かれた女は咥えられて振り回された。
振り回されまともに体勢を保てなくなった女はそれでもフワの方へ手を伸ばして三度目の懇願をした。
「助けてえっ!助けてくれるって言ったじゃない!!」
その声、その顔、その性根にフワは見るのも聞くのも感じる事すら嫌気が差した。
「俺は何もしないって言ったんだ。だから何もしない___それに何もしない方が面白くなりそうだしな」
フワは子供の様な期待に満ちた笑顔のまま奥の扉へと向き直った。
後ろで絶叫と飲み込まれる音を関係無いと聞き流して。
やがて後ろから音が消えると神殿全体が震える様に声が聞こえた。
「___生贄は捧げられた。九つの国を全て恐怖に陥れた神である。強靭な身体と共に刃を通さぬ鎧。秘鍵を持つ者よ、全てを奪い取りたい者よ、全てを与えようぞ。そして我と共に更なる力を___」
声が止むと奥の扉が弾け飛んだ。
弾け飛んだ扉がフワへと向かうが、フワは微動だにする事なかった。
扉はフワに当たる事なく通り過ぎて行った。
「ほう、まさか生き残ってるとは思わなかったよフワ殿」
声はメリュジートだった。
しかし、その姿はエルフからかけ離れていた。
眼は赤く光り、額からは禍々しいと呼ぶに相応しい二本の角が生え、身体は元がエルフとは考えられないほど筋肉で膨れ上がり、膨れ上がった身体に合わなくなった鎧の変わりに蛇__いや竜と呼ぶに相応しい鱗が天然の鎧と化していた。
「生贄はフワ殿がなるモノだと思ってましたが、これは僥倖ですね」
その姿を見たフワは笑みを浮かべた。
「何が僥倖なんだ?」
「それは・・・・くそ生意気なてめえを俺自身の手で捻り潰せる事がだよ!」
メリュジートは自分の変わった手を見て顔を嬉しそうに歪ませて嬉しそうに吠えて飛び出した。
「そうかいそうかい、それは面白そうだ。やってみろ役立たず」
フワも再び化物の笑みを貼り付かせて短剣を構えて飛び出した。
そして二つの影が交差した。
主人公の狂っている描写が何処まで書けたかは分かりませんが、これが作者の精一杯です。