やはり妹の高校生活はまちがっている。   作:暁英琉

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比企谷八幡の変化

 その後数日はあっという間に過ぎていった。その間も小町は朝は一緒に登校し、昼は一緒に弁当を食べ(時々戸塚も混ざり)、放課後は奉仕部で過ごし、一緒に帰宅していた。ほとんどべったりじゃないかと思わなくもないが、それでも小町の話を聞く限り、交友関係は良好らしい。最初の日曜ですでに遊びに行っているくらいだ。

 本日も奉仕部は平穏無事。俺と雪ノ下は読書をし、時々、由比ヶ浜や小町、一色の会話に混ざる。……いや、一色ナチュラルに入ってきすぎだろ。ナチュラルすぎて雪ノ下すら注意するの諦めてるぞ。

「そろそろ終わりにしましょうか」

「だな。おつかれ」

 冬に比べれば遅くなっているとは言ってもまだまだ日没は早い。だいぶ傾いた日をちらと見て雪ノ下が解散の声を上げる。

 各々荷物をまとめ、一色は一度生徒会室に戻り、雪ノ下と由比ヶ浜はゆりゆりしながら鍵を返しに行く。それを見送った俺たち兄妹もそろって帰路につくことにした。

「あー、小町。ちょっとこの後寄り道していいか?」

いつもなら寄り道なぞ早々しないのだが、今日は出かける用事があった。

「いいけど、どこに行くの?」

「……ららぽ」

 行き先を告げると小町の瞳がキラッっと輝く。なんなの? 目からビーム撃ってくるの? 怖いからやめてね。

 まあ、普通に考えて普通は俺が帰りにららぽに自主的に行くことはないから、察しのいいこいつは何か思うところがあるのだろう。

「なになにお兄ちゃん、ひょっとして誰かと待ち合わせですかな? なんなら小町は自分で帰るよ?」

 口元に手を当てにやにや顔&上目遣いで見つめてくる。かわいいが超うざい。これが一色だったら超あざとうざいとかわいいが抜けてマイナス方向に強化されてしまうのだから、妹補正というのはおそろしい。まあ、今回はその一色関係なのだが。

「あー、あれだ。16日が一色の誕生日なんだけどな。あいつみたいないかにもな女子高生の好むプレゼントが思いつかんから知恵を借りたい」

「…………」

 なんか黙りこんじゃったんだけど、なにこの子どうしたの? なんかUFOでも見たような顔してるんだけど。

「……お兄ちゃんが人の誕生日プレゼントを自分で買おうとしてる……。成長したんだねお兄ちゃん! 小町的に超ポイント高いよ! けど、お兄ちゃんがまた遠くに行っちゃったみたいで小町涙が出てきちゃうよ……」

「いや、成長とかじゃなくて強迫観念というか……」

 誕生日に関しては一月から何度も聞かされていたからから嫌でも覚えたし、こういうの無視すると色々弱みを握られている一色には非常に分が悪い。ていうか、新入生歓迎会をわざわざ自分の誕生日にしたあたり、俺の逃げ道を塞ぎに来てる感がある。いや、さすがにこれは考えすぎかもしれないが。

「? まあ、そういうことなら妹として一肌脱がないわけにはいけないね!」

 層と決まれば善は急げと手を引いてくる。本当にこいつはこういうことになるとやけに楽しそうだ。妹にエンタメを提供できていると思えば悪い気はしない……のか?

 

 

 と言うことで小町を連れて一色の誕生日プレゼントを買いに来たわけだが。いかんせん一色と言う存在がハードル高い。どうせあいついろんな男から誕生日プレゼントもらうんだろ。となると割と被る可能性がある。せっかくプレゼントしたのに誰かと被ったら普通に罵倒されそう。

 となると被らなさそうなアイテムがいいわけだが、服は当人の趣味嗜好が色濃く出るから本人のいないところで買うのは得策ではないし、アクセサリーや小物も被りやすいだろう。こうして考えると非常に難しい。人の誕生日にこれだけいろいろ考えたのはいつ振りだろうか。

 というわけで、八方塞がりな俺達は運命的出会いを求めて店を冷やかす作業に入ったのだった。服屋に入ればなぜか小町の趣味を物色しだし、適当にかわいいかわいい言っているとぷんぷん怒りだし(あざとかわいい)、財布を見だしたので「そっちの色の方がアホっぽくてお前らしいんじゃねえの」とアドバイスをしたら無表情でローキックをかまされた(痛い)。

「そこのカップルさん、入ってみませんか? 現在タイムサービス中ですー!」

 ショップを出ては入り出ては入りを繰り返していると、テンションの高い客引きに引きとめられた。見るとどうやらペアルックアクセサリー専門のショップらしい。いや、店舗情報の前にこの店員の誤解を解いておかなくては。

「あ、いや。俺達兄妹なんで」

「えー、そうなんですかー? とっても仲が良いんですねー」

 満面の笑顔でそんなことを言われるとさすがに照れてしまう。曖昧に流しながら店を離れる。ペアルックアイテムなんぞ今回は見る必要皆無だろう。気恥かしさのためショップから少し離れたところまで歩くと、くいと袖を魅かれた。視線を下げると小町は顔を真っ赤にしてもじもじとしている。

 え、なんでこの子こんな恥ずかしがってんの? お兄ちゃんのことそんなに好き? 結婚する?

「あ、あはは……小町達恋人同士に見えちゃうんだね」

「ま、まあ小町は俺とは違ってかわいいからな。それに去年まではお前が中学の制服だったから兄妹って見られやすかったってのもあるだろうな」

 いや、ほんとそんなに恥ずかしそうに笑わないでよ。かわいい上に俺まで恥ずかしさがぶり返してくるじゃん。

「か、かわっ……そ、そうだね……」

「ま、俺と付き合う趣味持つ奴なんてそうそういないだろうし、ぶっちゃけマイナスイメージだよなー」

 恥ずかしさをごまかすために卑屈になっていると、小町がハッとして今度は強めに袖を引っ張ってくる。

「趣味……そうだよお兄ちゃん! いろはさんの趣味に使う物買ってあげればいいんだよ!」

「趣味……か……」

 そういえば、一色はお菓子作りが趣味とか言っていたか。お菓子作りに必要なアイテムか……。お菓子作りなんてしたことがないが、メン棒とか型抜きとかヘラとか……プレゼントには向かないな……。後はなんとかトリーボードとかふるいとかミトンとか泡だて器とか……。

「あ……」

 一つ思い当って小町の手を引き目的の店に向かう。着いた先は女子向けの台所用品を扱う店。少し探すと目的の品が見つかった。

「これ?」

「あぁ、前一色が『泡だて器で生クリーム作ったりするとちょー疲れるし、腕に筋肉付きそうですよねー』って雪ノ下と話してたんだ。たぶんあいつんちにこれはないんだろ」

 手に取ったのはハンドミキサー。女子向けなだけあって、種類も色も豊富だったので、できるだけ軽いもののピンクをチョイスした。あいつかわいいアピールのためにピンクアイテムたくさん持ってるしな。カーディガンもピンクだし、一色いろはのブランドイメージを壊さないためにも最良の選択だろう。

「……お兄ちゃん皆の事ちゃんと見てるんだね。やっぱり変わったよお兄ちゃん、いい感じにね」

 レジで包装を済ませて戻ると、小町が優しげな笑顔を向けてくる。妙に恥ずかしさがあふれてきて、ついぶっきらぼうな態度になってしまう。

 一年前とは少し変わってしまった環境。人はそうそう変わることはできないし、人が変わっても周囲は変わらない。けれど、人も環境も変わる権利がある。周囲が変わらないからと言って、人が変わってはいけないわけではない。逆説的に人も環境も不変ではないのだから、ひょっとしたら小町の言うとおり、俺は少し変わったのかもしれない。一年前の俺が知ったら、嘲笑と共に一蹴していただろうと思い、知らず自嘲してしまう。

 けれど、後悔はしていない。あるのは自身への責任だけだから。俺はその責任を正しく受けよう、受けたいと思っているのだから。俺のこの一年はきっと間違っていないのだろう。

 この後閉店間際まで小町のショッピングに付き合わされたのは別のお話。

 




キリがいいので今日は少し短め。

次の話は少し長めになるかも?(かも

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