やはり妹の高校生活はまちがっている。   作:暁英琉

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計画は開始される

「「「「「「…………」」」」」」

 翌日の放課後、奉仕部部室には重苦しい空気が溜まっていた。誰も動かないし、誰も口を開くことを許されないような重い重い空気。本来この場にいるべきではない存在をもろとも排除しようとするような明確な敵意だけが交錯する。それは始まる前から判決が出ている異端審問のように、無慈悲で、残酷なものだった。

 そう、今まさに奉仕部異端審問が行われようとしている。

「どうして彼がここにいるのかしら?」

「中二キモい」

「お兄ちゃん……さすがにこのお友達は……」

「ていうか、この人誰ですか?」

 材木座義輝の異端審問が!

 いや、違うだろ。確かに材木座ってここに来る度にうざがられたりキモがられたりしてるけど、ここまでひどい仕打ちを受けたことはなかったはずだ。……なかったよな? まあ、いいや。後一色、お前こいつクリスマスイベントのときとか手伝ってくれてるからね? そんなナチュラルにゴミ見るような視線浴びせるのやめてあげて! こいつのメンタル豆腐通り越してゼリーだから!

 しかし、材木座をここに呼んだのは紛れもなく俺である。つまり、この空気の責任の一端が俺にはあると言える。ここはきっちりフォローしてやろう!

「小町、材木座と俺は友達じゃない。むしろ知り合いであるかも怪しい存在なんだぞ!」

「ぐふぅっ」

 俺が渾身のフォローをしていると、材木座が突然よろめいた。こいつ、まさかスタンド攻撃を受けているのか!

「ヒッキー、それフォローになってないし」

「え、マジで?」

 俺としては誤解を解く最高のフォローだったのだが……。まあ、今はそんなことどうでもいいか。

「材木座は俺が呼んだ。おそらく、こいつの情報が役に立つ」

「ぐふ、ふむ。我が相棒八幡が要求した情報は事前に我がまとめていたからな。この材木座義輝、ぬかりはないわ」

 あーうぜー……。まあ、おかげで情報が集まるのだが。

「比企谷君、材……君に頼んだ情報とはなんなのかしら?」

「おい、本人の前で名前忘れてやるなよ。まあいいや、こいつに頼んだのは俺の噂が立ち始めた初期の頃の噂の内容だ」

「ほむん! 我の耳にも八幡への悪しき戯言は入ってきていたからな。材木座義輝絶対許さないリスト番外編に記録していたのだ」

 材木座は俺と同じで悪意に敏感だ。俺との違いはその悪意を無視するかしないかで、こいつなら俺に対する噂もつぶさに記録していると予想していた。こいつ俺のこと好きすぎるからな。

「で、一色、小町、由比ヶ浜にはそれぞれ学年での噂の広まり方を調べてもらった。まあ、皆独自に調べていたみたいだから昨日の時点である程度情報は集まったんだが……」

 ほんとこいつら俺のこと好きすぎでしょ。正直情報収集に少なくとも一週間程度はかかるだろうと考えていたから、予定が繰り上がりすぎて困惑すらしている。まあ、うれしいんですけどね。

 机の上には小町達に調べてもらった内容をまとめた紙と材木座の「絶対許さないリスト番外編」が広げられている。まず、噂自体はどの学年も男子を中心に広がっているようだ。女子の方も認知はしているようだが、あまり気にされていない様子。むしろ好印象の事実と悪印象の噂が重なることで噂を都合よく解釈されているようだ。

 そして、噂の内容は三年生がほぼ去年の文化祭のことなのに対して、学年が下がるにつれて荒唐無稽な作り話が多くなっていっている。なんだよこの「実は暴走族の幹部」って噂。自転車で暴走族とかシュールすぎるだろ。

「これを見たところ、おそらく噂の大元は三年生が流してそうね。文化祭の内容自体にほとんど手が加えられていないし、定期的に上書きをかけられた結果作り話も上書きをかけられて消えてしまっているんでしょう」

「そうだね。三年生は同学年だから特にヒッキーの悪目立ちが目に入るみたいだし、女子で一番広がってるのも三年生だもんね」

「そうなると、犯人は三年生の男子でしょうか? 今回のことで女子がせんぱいを目の敵にする理由ってあんまりないと思いますし」

 議論が進んでいく中、俺は「絶対許さないリスト番外編」を見ていた。確かに三年生が主犯と考えるのが自然だろうし、おそらく正解だ。しかし、俺はそれとは別のことが気になっていた。

「お兄ちゃん、どうかしたの?」

「あぁ、ちょっと気になることがあってな」

 しかし、これはあくまで俺が違和感を感じているだけだ。これが何かの証拠になる確証も、そもそもこの違和感の成否を問う方法もな……いや、一つあるが……。

「……あいつに貸しを作るのは気が引けるが、そんなことも言ってられないか……一色」

「はい?」

「葉山はまだ部活中か?」

 時計を見てそうですねと返答してくる。

「じゃあ、ちょっと葉山に俺に電話をかけるように言ってきてくれないか?」

 サッカー中に携帯を持っているわけないし、今俺が葉山と接触するわけにはいかない。葉山に変な迷惑をかけるのは気が引けるし、そこを犯人に見つかったりしたら余計な警戒を生む可能性もある。一色は少し考えた後、わかりました、と駆けていった。

「ヒッキー、隼人君に何の用なの?」

「ちょっとした確認だよ。葉山がこのことに加担しているとは思えないから聞くには適任だ」

 少し待っているとスマホが震え始める。ディスプレイには葉山の文字。少し呼吸を整えて通話を始める。

「もしもし……」

『やあ、君から電話がしたいなんて珍しいね』

 まあ、番号交換自体必要に迫られたからしただけだったし、正直もう電話越しに話すことはないと思っていたんだがな。まあ、優秀な奴が知り合いに固まっていたおかげで今回は助かった。

『それで、俺に何か用かな?』

「……あぁ、単刀直入に聞きたい」

…………

……………………

………………………………

「なるほど、わかった。じゃあな」

『また何かあったら頼ってくれよ』

「ふんっ」

 やだよ、お前にこれ以上借りなんて作ったら俺の平穏な生活が危ないし、海老名さん的にもあぶないし、という思いを込めて少し強めに通話終了ボタンを押す。まあ、相手には分かんないですけどね。固定電話ってこういうとき優秀だと思う。葉山との通話を終えて顔を上げると、雪ノ下と由比ヶ浜は驚いた表情を俺に向けていた。

「これでほぼ確定した。後はあいつらの呼び出し方なわけだが……」

「それなら私がやりますよ~」

 声の方を見ると、サッカー部の方から戻ってきた一色がちょうど入ってきたところだった。

「できるなら頼みたいが、いいのか?」

「私なら自然に呼び出せますし、向こうも拒否は難しいでしょ? あ、けどこれは貸しですからね?」

 あざとく笑う一色についこちらも笑えてくる。今回は貸しを作りまくりだが、こいつが一番怖い。いままで以上にボロ雑巾のように生徒会の手伝いをさせられかねんな。

「その貸しはこええな。……けど、頼んだ」

 これで準備は整った。後はうまくことを運ぶだけ。

 決行は……明日だ。

 




次のキリのいいところまで載せるとたぶん7000~8000字になってしまうので短いけどこの辺で


個人的に長くても6000字くらいが読みやすいかなと思っているので短い時は短いんですよね


※お気に入り800件ありがとうございます!

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