やはり妹の高校生活はまちがっている。   作:暁英琉

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当然、比企谷小町は総武高校に入学する

 春、それは出会いと別れの季節である。小学校中学校ならものの2週間程度、高校から大学でも1月程度で誰もが出会いと別れを味わう。

つまりこれは、出会い=別れという方程式が適用されると言っても過言ではない。別れるからこそ出会うのであり、出会うから別れるのだ。……まあ、俺の場合その方程式当てはまらなかったけどな。別に先輩や後輩に知り合いができなかったとかじゃない。意図的に作らなかっただけだ。ほんとだよ? 八幡受動的ぼっちじゃないよ?

 

 しかし、今回ばかりは少々勝手が違った。

 

 年度末に見たときには開花したかどうかだった桜も無事に満開になる頃、総武高校の入学式は快晴の元取り行われている。本来は生徒側は生徒会ぐらいしか参加しないので、俺には関係のないはずなのだが、我らが一年……いや、新二年生徒会長殿のありがたい命令のおかげで雑用として参加させられていた。つーか、必要なさそうな時まで頼らないで欲しい。今回俺いなくても問題なかっただろ。

(ま、そのおかげで小町の晴れ姿が見られたから良しとするか……)

 まあ、制服自体は家でも何度も見たし、そもそも今日は自転車で送らされたのだが、それでも入学式という独特の雰囲気の中で見る小町は一段と輝いて見える。さすが天使。

 おバカな妹が無事に総武高校に合格が決まった時は小町以上に歓喜したものだ。キモがられたけど……キモがられたけど!! 悲しい……。お兄ちゃん心配だったんですよ?

 背筋をしっかりと伸ばしている小町はいかにも初々しく、希望とかそういうものに満ち溢れている感じだ。社交性もあり、要領もいい次世代型ハイブリットぼっちの小町ならすぐに友達も作れるだろう。そこは俺が心配することではない。

(心配するべきなのは高校デビューして舞い上がってしまった悪い虫がつかない様子にすることだな)

 というか、小町の隣りにいるの大志か。あいつ何我が物顔で小町の隣り陣取ってるわけ? 川……川……川端? に見つかる前に可愛がってやらねば(相撲部屋的な意味で)。

 そんなことを考えている間に式はつつがなく終わった。新入生は各々の教室に向かい、体育館は急に静かになる。そうなると今度は裏方の仕事だ。舞台裏から出ていくと我らがあざと会長一色いろはが駆け寄ってきた。

「せーんぱい! 片づけ頑張ってくださいね!」

「部外者にばっか押しつけんな。お前もやれよ一色……」

 こいつの生徒会長っぷりもだいぶ板についてきたが、こういう目立たないところは全部俺に押し付けようとするあたり強かというかなんというか……。いやまあ、お願い聞いちゃう俺も俺なんだけどね? けどね? 仕方ないんですよ……。

「本物……」

 うつむいてぼそっと呟くのやめてくれない? そのネタいつまで引きずるんだよ、俺も引きずってるんだよ。やめてくれよ、やめてください、YA☆ME☆TE? まあ、それはなくとも一色を生徒会長に仕立て上げた責任と言うものもあるから、少なくとも今年の任期終了までは多少のわがままは甘んじて付き合うことにしよう。

「そういえば先輩。妹さんも奉仕部に入るんですか?」

「あん? さあなあ……別に強制させるようなもんでもないし、あいつが入りたいって言えば特に異論はない……程度か」

 実際、小町に奉仕部の仕事を強制させるつもりはない。せっかくの高校生活なのだから好きなことをやらせるのが一番なのだ。運動部に入るもよし、文化部に入るもよし、帰宅部で特定の友達と放課後遊ぶもよし、全て小町の自由だ。

「けどー、妹さんが運動部の女子マネとかになったらかわいいですしすぐに彼氏とかできちゃうんじゃないですかー? そうでなくても結構すぐ告られちゃって放課後遅くまで遊んでたり……先輩見捨てられちゃいますねー」

「なん……だと……!?」

 なにそれまじで!? 高校生ってそんなもんなの!? もし本当なら小町の半径10m以内に近づいた男を片っ端からDEATHしなければならないじゃないか……。

「小町が心配だ。すぐに奉仕部の入部届けを書かせなければ」

「うわ……」

 ちょっと一色ちゃん? ドン引きするのやめてくれない? 

「いやぁ……さすがのシスコンっぷりですねー」

「千葉のお兄ちゃんとしては普通だろ。普通すぎてむしろ目立つまである」

「いや、明らかに異常ですからね?」

「ほら、んなこたどうでもいいからさっさと撤収作業終わらせるぞ。また今度改めて紹介してやる」

「あ~、先輩待ってくださいよ~」

 撤収をさっさと済ませなければ小町を待たせることになりかねない。手早く済ませるとしよう。

 

 

撤収作業も粗方終わり、一色たちに軽く挨拶をすませると駐輪場の方へ向かう。少し離れて聞こえてくる声を聞く限り、一年のレクリエーションなどもある程度終わっているようだった。まあ、当分は今後一年のクラスメイト、もといクラスカーストを共にし、蹴落としあう人間たちとの探り合いをするはずだ。校門で待っていることにしよう。

そう思い、駐輪場から自転車を引き出していると――

「おにいちゃーん」

 後ろから天使の声がした。振り返ると小町が大手を振って駆けてくる。

「おう、早かったな。クラスメイトとかとの交流はもういいのか?」

「今日はもう十分したよ。あんまり長話しちゃうとお兄ちゃんがかわいそうだと思って。今の小町的にポイント高い!」

「まあ、お前は普通に友達作れるだろうから問題ないだろうけど」

 言いつつ、自転車にまたがる。「お兄ちゃんじゃないんだから大丈夫だよ」とかなんとか言いながら小町が荷台腰を下ろす。しっかりとバランスをとったことを確認するとゆっくりとペダルをこぎ出した。

「あーそうだ小町、夕飯どっかで食べていくか。お兄ちゃんからのささやかな入学祝だ」

「おー、お兄ちゃんが太っ腹だ! 小町的にポイント高いよー」

「はいはい。じゃあどこに行きたいよ?」

「サイゼ!」

 ……はい? 思わずペダルをこぐ足が止まる。推進力の低下によってバランスが崩れ、後方から非難の声が上がった。

「サイゼでいいのか? 今多少余裕あるから遠慮しなくていいぞ」

「いいんだよー。お兄ちゃんと一緒にご飯食べられるだけで小町は幸せなのですよ」

 ……うれしいこと言ってくれるじゃないのこの子は!! 八幡心の中で号泣。もう絶対お嫁に出さない。小町はだれにも渡さんぜよ!

「まあ、お兄ちゃんにおしゃれなお店とか似合わないしね」

 超号泣した。

 

 

 近場のサイゼに入ると二人してミラノ風ドリアとドリンクバーを頼む。小町ちゃん? お兄ちゃんちょっとはお金持ってるからほんとそんなに遠慮しなくていいのよ?

「まあ、なんだ。無事入学おめでとう、小町」

「ありがと! お兄ちゃん!」

 かんぱーいとグラスを軽く当てる。まあ、実際特別なのはそれくらいで後は適当な雑談をしながら食事をとる、いつもの風景だ。いいだろ? 家族なんだから。

 クラスメイトの話や担任の先生の話などに短く相槌を打つ。ぼっちは聞き上手なのである。しかし、あまり短すぎると「話聞いてない! 陰鬱!」と思われるし、長すぎると「え? そんなに張り切ってどうしたの? きも……」と思われる。ぼっちつら……。

 ちなみに川なんとかさんの弟川崎大志は別のクラスらしい。プークスクス。

 そんな中、ふと一色の言葉が頭に浮かんだ。

「あー、小町。お前部活とかはどうするんだ?」

「もちろん奉仕部に入るに決まってるじゃん!」

 決まっていたらしい。まあ、これで男が言いよってくる可能性が多少下がるわけだ。命拾いしたな男ども。

 奉仕部の雪ノ下や由比ヶ浜は小町と仲もいいし、最近なぜか来る一色とも仲良くできるだろう。人間関係の点は問題ない。ないのだが……。

「お前いいのか? ぶっちゃけあの部基本なんもしないぞ? いや、むしろ最近は生徒会の下請け機関になって忙しいまであるが……」

 実際最近はほとんど奉仕部への相談はなく(相談メールに爆撃してくる中二はいるが)、活動と言えば一色からくる生徒会の手伝いをやる程度だ。まあ、相談がないというのは事件がないということで、警察が動かないことを給料泥棒だなどと言いつつ平和を享受するようなものだ。しかし、そんな部活に小町を入れて小町が高校生活を満喫できるだろうか。

「いいんだよ、お兄ちゃん。小町は結衣さんや雪乃さんと一緒に入れるだけで楽しいから。あ、もちろんお兄ちゃんともね。それに、将来のお義姉ちゃん候補と親睦を深めておくのも妹の務めだよ。今の小町的にポイント高い!」

「いや、お義姉ちゃんとかないから」

 そもそも、お兄ちゃんが後付けな時点で八幡的にポイント低い。

「ま、お前がいいなら俺は止めないが」

「小町は小町のやり方で高校生活を楽しむんだよ。ごみいちゃんと同じ轍は踏まないから安心して」

 失敗は成功の元。俺の失敗を先人の知恵としてこいつはちゃんと処世術を作り出しているし、まあ、大抵のことは心配ないだろう。いざとなったら俺を使えばいい。

だからごみいちゃんはやめて。

 

 

 次の日は始業式があり、俺の高校三年生が本格的に幕を開けた。と言っても、俺の生活はこの二年と大して変わらない。変わったことといえば、学校まで小町と一緒に来るようになったことくらいか。

クラスが決まったら風景と同化するように存在感を消し、目立たない席で狸寝入りだ。新三年生の大半は去年の俺の悪評を知っているはずで、わざわざ悪目立ちしている俺と関わろうとする者もいない。能動的ぼっちは自ら他者への干渉を避け、且つ他者からの干渉も避けるのだ。ぼっちのATフィールドの前には使徒も無力なのである。

 寝たふりをしながら、周囲に耳をすませる。関わると厄介そうな奴がいないかの確認は重要だ。静かな空間を好む俺にとって騒がしい連中は面倒くさいを通り越して危険とも言える。戸部とか戸部とか戸部とか……あ、あいつ理系なんだっけ。

 まあ、関わらなきゃどうということはないし、あくまで状況把握くらいの気持ちで周囲の喧騒を聞き流していると、ふいに肩を叩かれた。

 ……ほーん? 俺にちょっかいかけてくるのがいるのか。こういうときの可能性は大体三つ。一.去年からの知り合い。二.嫌われ者にちょっかい出す俺かっこいいとか思っているお調子者。三.クラス皆仲良くな委員長タイプだ。去年からの知り合いなら、自分のためにも相手のためにもあまり関わるべきではあるまい。まだクラスカーストがおぼろげな状態で最底辺確定の俺と関わってもいいことなどない。ここは無視を選択。

 次にお調子者ならなおのこと関わる必要なぞあるまい。無視。

 皆仲良くとか無理なんで、いくら猫になっちゃう委員長でも僕関われません。無視。

 そもそも、肩を叩かれたのではなく、なんかの拍子に当たってしまった可能性も十二分にある。勘違いして顔をあげたら「ん? なにこいつ?」みたいな反応をされるかもしれない。無視。

最終決定:無視。

 というわけで無視していると、今度は少し強めに叩かれた。そして、耳元で「八幡」と囁かれた途端、反射的に身体を起こした。もう脊髄反射どころか声が外耳に振れた瞬間反応するレベル。俺、人類超越してた。

 顔をあげると大天使トツカエルがいた。一瞬ルーベンスの絵画の前にいるのかと思っちゃったよ。

「おお、戸塚。おっす」

「うん。おっす、八幡」

 戸塚はいつも通りジャージ姿でその肌はうっすらと汗ばんでいる。やめろよドキドキしちゃうだろ。

「テニス部はもう朝連やってるのか」

「うん。新年度が始まって皆特にやる気だからね」

 たぶんいつも頑張っている戸塚に皆触発されたのだろう。現部員のやる気があれば新入生も興味を魅かれるだろう。戸塚らしい良い部になってきているんだな。

 というか、戸塚がここにいるということは同じクラスか! ありがとう、先生方! 俺、先生方超リスペクトっす! あ、平塚先生の婚期はリスペクトしたくないっす! マジで誰かもらってやれよ……。

「新入生たくさん入ってくれるといいな」

「うん! 今日から勧誘頑張らないとね」

 胸の前で小さく拳を握る戸塚。……なんで戸塚はしぐさの一つ一つがこんなにもかわいらしいのか。全校生徒一かわいいまであ……いや、一番かわいいのは小町だな、うん。

 戸塚と話していると、また肩を叩かれた。誰だよ、今天使に浄化されてる最中なんだから邪魔すんじゃねえよ! 

「ヒッキーおはよー!」

「……由比ヶ浜……教室間違えてるんじゃないか?」

「新年度そうそう酷くない!?」

 まあ、いくらガハマさんがお馬鹿だからと言ってさすがにクラスを間違うなんてこと……そんなこと……。

「いや、なんかほんとに不安になってきた。ほんとにガハマさんこのクラスで合ってるか?」

「合ってるよ! 優美子達と一緒に探したもん!」

「なら大丈夫だな」

「だから私バカにされすぎじゃない!?」

 ギャーギャー騒いでいる由比ヶ浜を無視してざっとクラス内を見回すと葉山を見つけた。近くにやけにテンションが上がっている三浦や海老名さんもいる。童貞風見鶏と山なんとかいないのか。どうでもいいけど。

 窓際には川島もいるし、クラスの雰囲気が二年の時とあまり変わらない気もする。……まあ、ぼっちにはクラスの雰囲気とかどうでもいいけどね!

「えへへ。結構皆一緒のクラスになったね! 今日から一年がまた楽しみ!」

 まあ、二年トップカーストの女子は全員同じクラスになれたみたいだものな。戸部なんて文理からして一人だけ別でかわいそう。まあ、戸部がいなくてもクラスのトップカーストは葉山グループで決まりだろうな。カースト順位に関わらない戸部かわいそう。いい奴なのに。

 そんなこんなで俺達の高校最後の一年は幕を開けたわけだ。

 




最近、俺ガイル(アニメ)見るか、俺ガイル(原作)読むか、俺ガイル(SS)探すかしていたら一日が終わります。俺ガイルマジ時間泥棒。

今回は導入なのであまり小町は出てきませんが、次からはバンバン出したいなーと
一色小町の絡みを早く書きたいですね

目標はあまあまなお話なので頑張ってMAXコーヒー級のあまあまを目指します! 飲んだことないけど!

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