海を渡りし者たち   作:たくみん2(ia・kazu)

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こんにちは、匠先生です。今回から前作の矛盾点などを調整して新しく始めることになりました。今回は前作の1話を手直ししたものになっていて話が分かってしまうかもしれませんが、見ていただければ幸いです。



匠先生


第一話 ~匠、着任ス~

「合格」という文字を見て俺は歓喜した。学校生活ではありえないくらいの勉強をした。自分の力が残らないくらいの力を注いだ結果だと思う。そんでもって、合格した結果どうなるのかと言うと…

 

俺が鎮守府に着任する(予定)

 

着任するのは“横須賀鎮守府”。あのさぞかし有名な鎮守府である。俺はこの日を待っていた。実際に提督になるまでどれだけの苦労をしてきたか。提督になると言うことは、過酷であり大変な道のりであった。

そもそも俺がなぜ提督の試験を受けたかと言うと、親父が軍事関係の職種に着いており、度々書類を読書代わりに俺が読んでいたので、親父に勧められたのがきっかけだ。

しかし、勧められたとはいうもの、試験などで撥ねられ心が折れそうになっていた。それを何とか耐え抜き俺は昨日、やっとの思いで試験に合格することに成功した。もう規約にとらわれたこんな生活はおさらば。あんな鬼教官とも、おさらばだ。そう、まさに完全勝利Sであろう。(まぁ、何回か試験で滑った時点で完全勝利Sではないんだが…)着任決定後、とても浮かれている俺の元に封筒が届いた。その中にあった電文を読む。

 

(明日ニ横須賀鎮守府ノ正門ニ集結セヨ、時間ハ1000)

 

これを見ると、俺は準備を始めた。明日には新しい生活が待っている。俺は支度を整え、疲労がたまっていた事あり、すぐに眠ることができた。

そして次の日、天候はまるで笑顔のように快晴で、俺を快く見送ってくれるようである。今日は何かすがすがしい気分であった。そこで今日は朝食しっかりと食べ、身支度を整えてさっそく横須賀へ向かった。

鎮守府までの最寄り駅までは鉄道で向かった。その道中、俺は心の底で遠足の日によくいる小学生のように、とてもそわそわと心がうずいていた。

駅に着くとそこには海…が広がっていなかった。海はここから歩いて10分以上かかるらしい…。俺は少し落胆した気持ちになったが、とりあえず鎮守府に向かうことにした。

俺は調子に乗って近くに止まっている個人タクシーに飛び乗った。そして鎮守府の正門まで送ってもらう。持ち金は十分あったので、これくらいの贅沢は許されるだろう。

しかし、この正門というのが山奥にあるために運賃が一万円近くかかった。財布には痛かったが、これもしょうがないだろう。まぁ、バスも通っていなければヒッチハイクできるわけでもないしな。また、歩くととんでもない長い時間を使ってしまうの、でしょうがないだろう。こんな言い訳をしている俺だが、鎮守府へ到着したのが9時40分。丁度良い時間だった。

とりあえず俺は電文に同封されていたIDカードを正門にある機械へとかざしてみる。すると、重くらしく門が開き、俺は若干感心しつつ敷地の中に入った。

しかし、いざ正面門をくぐっても、そこには誰もいなかった。新人提督の着任ゆえにいまかいまかと正目門の前で歓迎してくれるのか思っていたが、正直がっかりである。

俺は長い移動で若干疲労したため、ちょうど近くにあったベンチで休むことにした。そしてリュックサックから<提督のすゝめ>という教科書のようなものをしばらく読んで、時間をつぶした。

20分後、なんと誰も来ない。俺は何回も日付と時間を確認したが、間違ってはいない。忘れられているのだろうかと頭によぎると、唐突に人の気配があることに気が付いた。気配のする背後を振り返ると、木陰で俺と同級生か俺より1,2歳年上のような女性が幹にもたれ掛り、寝ていた。彼女は蒼髪のツインテールであり、服の上半身は着物のようなもの、下半身はスカートと言う初めて見るスタイルの服である。俺は最近の流行など知らないので、最新のコーディネートなのだろうかと錯覚した。

「あのー、すいません」

俺はベンチから立ち上がり、彼女まで向かうと肩を揺らした。寝ている彼女には悪いが、此処の事が聞かせてもらいたかった。

しばらくすると彼女はゆっくりと目を開けた。まだ意識が薄いようではあるが、それでも俺は尋ねた。

「あなたは鎮守府の方で」

「…今何時ですか?」

逆にこっちに尋ねられた。俺は母のお下がりである高そうな時計を見せた。すると彼女はあわてて立ち上がった。

「あー、どうしよう。新人提督を迎えに行かなければいけないのに…どうしよう…」

急に困りだした。正直俺の方が困っている。

「あ、あのー」

声をかけた途端、二人はすべてを察した。

 

 

 

「あなたが新しく配属された提督さんですか?」

彼女の声は、まるで鈴が転がるようにとても愛らしかった。俺は一瞬聞き惚れたが、すぐに返事を返す。

「あっ、はい。ここに配属された橋本匠です」

「あーそうでしたか。では匠提督、案内しますね?私についてきてください」

こうして、俺の鎮守府を歩いて行った。しかし、建物があるところまでは10分くらい掛かった。しかしこの鎮守府は3方向を囲まれ、正面が海。まさに鎮守府として絵にかいたような立地である。中心部分では、思っていた以上にたくさんの建物があった。

これが俺の鎮守府か…とても広いじゃねえか。

言葉がでないくらい素晴らしいと俺は関心をしていると、少女は唐突に止まった。

「到着しましたー。ここがあなたの第一宿舎です」

え?第一宿舎?他の建物は?

「えっと、あのー」

「どうかされましたか?」

俺はこのことを、聞こうか悩んだ。いや、聞いた方がいいのだろうか…。

すると少女はあわてて

「あ!すいません!私、名前言っていませんでしたね。私は南郷空母隊で旗艦を務めています蒼龍です」

いや、そういうことを聞きたいのではない。というか、南郷空母隊とは何なのかもよくわからない。

「名前じゃなくてあの…ここは俺の鎮守府なんですよね?」

「そっ、そうですけど?」

「今までの建物は?」

「すべて共用の施設ですけど?」

何を言っているか俺は一瞬わからなかった。

「あっ、匠提督には言ってませんでしたね。ここの鎮守府には、提督が数人いるんです」

・・・。え?まじかよ、俺だけじゃないの?ファ!?

俺はショックのあまりしばらく黙り込んでいると、蒼龍はさらに申し訳なさそうな表情をした。

「それと…鎮守府内の執務室はあいにくすべて埋まっておりまして、仮設鎮守府として、匠提督は宿舎兼執務室となりますよろしいですか?」

俺はいろいろショックでいっぱいだった。すると、蒼龍は道沿いにある時計を見て何あわて始めた。

「す、すいません。私、そろそろ南郷提督の所へ行かなくてはならないので…これで失礼します!」

彼女はこういうと、走りはじめた。

まだ気持ちの整理はついていないが、ともかく礼を言わねばと俺は大声で

「ありがとうな!」

というと、蒼龍も笑顔で会釈をしてくれた。

蒼龍が見えなくなると、俺はとりあえず宿舎へ歩き出した。第一宿舎は森の奥にある。さらにそこに行くにはひたすら石の階段を登らなければならず、俺は重いリュック加え通常の1.5倍入るというキャリーバックを抱え込むと、ひたすら階段を上った。そして最上階にたどり着くと、鎮守府内で見てきた中でもとりわけ小奇麗な建物が俺を待っていた。

「これからよろしくな」

なにをトチ狂ったのか、俺は宿舎に向かって話しかけてしまった。やばい、重症かもしれない。

さて、気分も落ち着いた俺は、中へと入っていった。第一宿舎は3階建て。構造で行くと1階と2階に個室と各提督の部屋があるようだ。そして俺の部屋は3階の左端にあった。階段からの景色は最高なのだが、移動が大変なのが難だろう。

この宿舎にはあいにくエレベーターやエスカレーターなども便利なものはない。俺は死にかけ寸前の腰で自分の荷物を3階まで運んだ。しかしこれは手荷物にすぎない。送られてくる荷物はどうなるのやら…。少し絶望を感じつつ、自分の部屋へと向かった。正面に“橋本”と書いてあることから、ここが俺の部屋であろう。

ここが、新しい生活への入り口である。俺は右手でドアノブをつかんだ。このドアを開けるともう後戻りはできない。今までの努力、疲労、望みがすべてこの右手にのしかかった。思い返すと思わずためらってしまったが、もう振り返らない。俺は力を振り絞り、疲れ切った右手でドアノブをひねり、扉を開いた。

そこに広がっていたのは、ふかふかのソファ、きれいな本棚、美しい絶景が見れる窓、アンティークな机、そして…

「しれぇぇぇぇぇ!!」

勢いよく何かがつっこんできた。そして腹にとんでもない衝撃が走り、まさに「critical hit」であろうか。

俺は勢いよく倒れこみ、そこから少し意識が遠のいて行った。

 

 

「しれぇ!しれぇ!」

意識が戻ると、初めて聞こえた声がこれである。あきらか呼ばれている。そして聞く。

「お前は?」

「私は、陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です」

「で、なんでここにいるの?」

「ここに配属されたんですよ」

雪風かぁ…。そっか、艦娘というのが昔の日本の軍艦からとった名前が付いているんだったなぁ。そんでもって雪風って戦争を最後まで生き残った艦だったよな…。この子が俺の最初の艦娘って幸運なのか不幸なのか…。

「で、俺はどうしたらいいの?」

そう、俺はここですることについて何も聞かされていない。聞きたいことだらけである。

「しれぇはねぇ。12時から提督の歓迎会を兼ねた会議があって、その後に私以外の艦娘が来て」

なるほど…。とりあえず、会議に出席して…ってええ!?

「ちょっと待った。今の時間わかってる?」

「現在時間11時55分ですけど?」

・・・これはまずい。着任早々遅刻とか論外である。

「ダッシュだ!」「ダッシュです!」

俺たちは風のように、自室から飛び出していった。

 

 

鎮守府の玄関に、俺たちは時間ぎりぎりに到着した。いきなり遅刻にならなくてよかったよ…。

「これも雪風のおかげですね」

「うるさいわ」

思わず俺は、つっこんだ。なんだか若手の漫才師のようだ。

俺たちがじゃれていると、カチャ、カチャと鉄の擦れるような音がした。何事かと俺は振り返ると、建物の中から明らか何かしらの武術をやっていそうな体つきの男性が現れた。しかし、その癖に杖を片手に持っていることから、足が悪いのだろうと俺は同時に理解をする。

「お前が…」

「はい、新しく着任した橋本匠です」

一体彼が誰なのか全くわからないが、とりあえず挨拶をしておいた。挨拶は基本である。

「そうか…。とりあえずご苦労。あと、迎えの蒼龍が迷惑かけてすまない」

「いえいえ、迎えに来ていただけただけで十分ですよ」

「うむ、そうか。おっと紹介が遅れたな。俺は南郷譲治という。一応、この鎮守府の代表を務めている」

初見の彼はとても怖い人に見えたが、まじめで頼りがいのありそうな先輩だということを、俺は話していてわかった。

「さて、もうこんな時間だ。二階で他の連中も待っている。さっさと行くぞ」

南郷提督に従い、俺は建物の中に入っていった。

 

 

「では会議を始める。まず、新人の紹介からだ。おい、入ってきてくれ」

俺は雪風と一緒に、会議室へと入った。それと同時に、緊張感が体を締め付けてくる。

「あ、新しく着任しました。橋本匠です!今後ともよろしくお願いします!」

「よろしく頼むぞ。橋本提督」

南郷提督がそういうと、同時に拍手が起きた。

「先ほど自己紹介をしたが、改めて言わせてもらう。南郷譲治だ。そしてこいつが」

「南郷提督の秘書艦。航空母艦蒼龍です。さっきはごめんなさいね?」

「あ、僕は北斗羽隆。羽隆でいいぞ」

「えーっと…羽隆提督の秘書艦。戦艦扶桑です」

「浅葱煉嗣です。よろしくね」

「秘書艦の古鷹です…」

「そして最後に、僕が鉄白亜です。今のところ一番年が上だけど、かしこまらなくていいからね?」

「響だ。いつも白亜提督の近くにいます」

みんな次々と自己紹介をしてくれた。

「み、みなさん!改めてよろしくお願いします!」

それぞれの挨拶が終わると、今回は俺が新人ということもあり、いろいろな基礎知識について教えてもらった。ちなみに本来は、ここで横須賀鎮守府会議というたまに行われる提督同士の会議をするのだという。やることは海域でのことや、艦娘の心配事などいろいろな情報を共有する場でもあった。しかし今回は、着任したばかりの俺を中心に歓迎を行ってくれたようだ。皆とても頼もしく、面白い方々であり、安心感を持てたことが一番うれしかった。

 

 

解散後、俺は自分の宿舎兼執務室へと戻っていった。会議に行く前に雪風に知らされた、俺の隊に配属される艦娘を迎えるためである。その間それなりに時間があったので、俺は雪風に邪魔をされながらも自分が持ってきた荷物を片づけていた。

その間、俺は雪風にわからないことをいろいろ尋ねてみた。

「雪風。お前、着任するやつら知ってるの?」

「いや、知りませんよ」

「当日まで極秘なのか…」

戦艦が着任するのかな?それとも空母かな?そんな感じでドキドキしていた。次に雪風が口を開く前は…。

「いや、違いますよ」

「え?どういうこと?」

「私がその紙をなくしたんですよぉ。どこやったんでしょうねぇ」

雪風が言い切る前に、俺はこいつを押入れの中にしまってやった。さらに空かないように本棚を動かし押入れの前に置き、開かないようにしてやった。

『助けてしれぇ!』とかすかに声が聞こえるが、まぁ聞こえなかったことにしておこう。

そしてあっという間に時間が過ぎ、着任予定時間ピッタリにコンコンとノックが聞こえた。

俺は段ボールに座ったまま「どうぞ」と声をかけた。すると、4人の艦娘が順番に中へと入ってきた。

見た目で行くと大きい、小さい、小さい、小さい…げふんげふん。軽巡が2人に駆逐艦が2人のようだ。すると、軽巡らしき艦娘が話してきた。

「本日付でこの鎮守府に配属されました。阿賀野型2番艦能代。同型4番艦酒匂。島風型駆逐艦島風。白露型2番艦時雨です。よろしくお願いします」

皆は一斉に、敬礼をそろえた。頼りなさそうな奴もいるが、けっこうしっかりしている奴もいる。良いスタートが切れそうだ。

「みんな、よろしくね。俺も今日就任したばかりだから、わからないこともあるけど頼りにしてくれるとうれしい。今後ともがんばろうな」

すると急に部屋が静まり返った。なんで!?すると酒匂がくすくすと笑いだした。

「なにかおかしい?」

酒匂はみんなの様子をうかがいつつ、話し始めた。

「前の司令と全然違ったから…」

「前の司令というのは厳しかったの?」

すると能代は。

「前の司令はとても厳しいお方でした。みんな遠征に回され、帰ってくると休憩もなく次の遠征に…」

と、苦い顔をしてつぶやいた。みんな大変な思いをしてきたらしい。

「そんなことが…」

すごく悲惨である。これを聞いて、ひとつ心に決めたことができた。それは、

「みんな、俺の指揮下の間はゆっくりくつろいでくれ。新人なだけあって出撃は少な目だろうし、それに備えて休んでいてほしい。そして、君たちの体調もしっかり管理していけるようないい提督を目指している俺の考えを理解してほしい。頼む!」

するとみんなは互いの顔色を確かめ、みんながこっちを見た。今回はみんな笑顔であった。

「「「「「了解!!」」」」」

最高の返事であった。

「提督って***提督に似ているね」

「そうだね」

ん?聞いたことのある単語が聞こえた。

「時雨、島風。何か言ったか?」

「いいえ、何もないです。すみません…」

「まぁいいか…よし、初めての出撃は明後日だ!みんなしっかり準備して勝ちに行くぞ!」

 

おーーーーー

 

会ってちょっとしかたっていないのにとんでもない団結力である。

 

 

こんなゆとり鎮守府の物語がここから始まった。

 

 

 

誰か忘れているような…『いつ出してくるのー!しれぇ。おーーーい』

 


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