夜を染める黒(旧題 : 俺ガイル×ブラック・ブレット) 作:つばゆき
序章
向かってくるステージⅡのガストレアの頭をグロック18Sで射撃する。
飛翔した弾丸は狙い過たずガストレアの脳天に直撃。脳を破壊されたステージⅡガストレアは沈黙する。
右手からステージⅠガストレアの集団。グロック18Sをセミオートからフルオートに変え、途中にリロードを加えながら連続で射撃。数体のガストレアの脳や心臓を撃ち抜き、絶命させる。
傷を負いながらも未だ息のあるガストレア2体に接近すると、掌打で1体の脳を粉砕、もう1体には振り向きざまに後ろ回し蹴りを繰り出す。風を切りながら突き出される脚はガストレアの胸部に直撃し、心臓を潰す。
八幡の両腕には黒手袋と肘当てがしてある。黒手袋は一見するとただの手袋だが、バラニウムが動きを阻害しない程度に薄くコーティングされており、手の保護とガストレアに対する攻撃力の上昇を図る事ができる。
基本的に八幡は装備の重量の増加を嫌っており、防具をほとんど着用しない。所持しているのはホルスターとスリング、予備マガジンと手榴弾用のポーチ、ナイフシースくらいである。
『グギャァアアアアアァァッ!!』
ステージⅠガストレアを葬った八幡にステージⅢガストレアが迫る。
ガストレアには爬虫類と昆虫が混じったような外見で、身体の節々に外骨格のようなものがついている。
グロック18Sの牽制射撃。頭部を狙った射撃は外骨格に阻まれ甲高い音を上げながら明後日の方向に弾き飛ばされる。
「……硬いな」
グロック18Sが効かないとなるとおそらくサブマシンガンのKRISS vecterの射撃も効かない。そう悟った八幡はタクティカルナイフを抜く。繰り出される前脚の攻撃を紙一重で躱すと、頭部に接近、露出している眼球に突き刺した。
悲鳴を上げ、 怒り狂うガストレア。鋭い鉤爪の付いた前足を振り回すが、八幡はそれらを全て見切り、ステップで躱していく。掻い潜る。
ガストレアが一際大きい雄叫びを上げる。前足を大きく振り上げると、そのまま横に一閃。今までより速度も威力もある一撃。だが、怒り狂っているあまり攻撃の筋が甘い。
八幡はその攻撃を身を屈めて躱すと、その状態から地面を蹴り、懐に潜り込んだ。
グロック18Sをクイックドロウ。そしてそれをガストレアの皮膚に押し付け、零距離でフルオート射撃。さすがに骨格が硬くとも、零距離でのフルオート射撃には耐えられなかったらしい。ガストレアは苦悶の声を上げながら後退する。
しかし、八幡はそれを見逃さない。後退するガストレアに一瞬のうちに追いすがると、ガストレアの顔面部分に蹴りを叩き込んだ。
勢いをつけた、突風のような一撃。中距離から一気に間合いを詰め放たれた一撃は、ガストレアの骨格と牙ごと粉砕し、顔面を大きく陥没させた。
しかし、ガストレアを倒すにはまだ一歩足りない。ステージⅢだけあって他のガストレアよりも耐久力がある。
八幡は破砕手榴弾を取り出すと、ガストレアの口に放り込み、下顎を蹴り上げて蓋をした。八幡が爆発の余波を受けないようにバックステップで後退すると、数秒後ガストレアの頭部が破片や体液を撒き散らしながら吹き飛んだ。
今ので確実にガストレアは絶命しただろう。ガストレアの討伐の方法は、バラニウム製の武器で脳か心臓を破壊するしかない。
バラニウムの粉末を混ぜた手榴弾で頭部を吹き飛ばしたガストレアは、ゆっくりと倒れ込んだあと一度大きく痙攣し、そのまま動かなくなった。
恐らく今倒したステージⅢのガストレアが集団を統率していたのだろう、残り数体となったステージⅠのガストレアは、主が撃破された事を認めると逃走を開始した。
もう追う必要もない。タクティカルナイフをナイフシースに収納すると、携帯端末を取り出し「任務完了」とだけ告げる。
端末の電源を切ると、大きく息を吐き、空を仰いだ。
比企谷八幡は、ここ最近比較的平穏な日常を過ごしていた。
朝目が覚めたら顔を洗い歯磨きをし、体力を落とさない為外でランニングをする。一人で住むにはやや広い家に戻ると簡単に朝食をすませ、録り溜めたアニメを消化し、読書をして、大体それで一日が終わる。
学校のある日は朝ギリギリまで家で粘り、帰りのホームルームが終わるや否やすぐ家に帰ってくる。
数ヶ月前までは狂ったように序列向上の為戦闘を繰り返していたが、IP序列が千番越えを果たしてからは、所属していた会社を離れ、フリーランスの民警として活動している。イニシエーターは居ない。
生活費を稼ぐ為に民警の仕事はやるにはやるが、千番越えをしているだけあって比較的報酬の高い依頼が多いので、受ける頻度はそこまで多くない。
命こそ懸けるが、そこそこ実力さえあれば民警って結構安定している職業なんじゃないか、とまで思ってきてしまっている今日この頃である。
いや、最終的な目標はやはり専業主夫だが。
そんな比企谷八幡にも最近悩みの種が出来ていた。
里見蓮太郎(他数名)によく巻き込まれる。
なかなかに切実な問題である。
同じ高校生の同じ民警として感じるものがあるのか、タイムセールに付き合わされたり本当に金欠の時は飯を食わせろと家に押しかけて来たり。
八幡ほどではないがやさぐれている所や若干捻くれている所、高校でもぼっちだという事実もあいまって、意外と気があってしまうから質が悪い。あとなんだかんだ言って2人とも主夫っぽいのである。
こんな関係もまぁ悪くないと思ってしまっている自分がいるのも確かだった。
「あー……疲れた」
疲れた。超疲れた。
家に帰るなり怠そうな声をあげると、リビングのソファに身体を預ける。
最近は義足をなるべく使わないようにしている為か、ステージⅢ以上のガストレアとなると若干時間がかかってしまう。それも3体だ。
3体だよ?3体。身の丈の何倍もありそうな地味にグロい生物が3体ヨダレ垂らしながら向かってくんの。超怖い。こっち一人だし。報酬は良かったからまぁいいんだけどね。
義足を使わない理由は人工皮膚が剥離すると周りにビビられるってのもあるけど。
シャワーを浴びて再びリビングに戻りぼーっとしていると、インターホンがなる。
宅配便かなーっと思って「はーい」と返事をし、玄関に向かう。
ドアを開けるとそこにはよく見知った顔ぶれがあった。
「比企谷……飯……飯を……」
「蓮太郎……妾もう限界なのだ……餓死しそう」
民警の里見蓮太郎とそのイニシエーターの藍原延珠である。
こいつらは天童民間警備会社なる超ブラック企業で働いており最近事あるごとに飯をたかってくる。たまに社長もくる。迷惑ここに極まれりである。
「……何やってんだお前ら」
流石にさっきのは演技だったようで普段と同じ状態に戻ると、若干申し訳無さそうに言った。
「……飯、食べさせてくれませんか」
「うむ、やっぱり八幡の料理は美味しいのだ!」
「おーサンキュな。世辞でも嬉しいぞ延珠」
「お世辞じゃないぞ!」
「はいはい」
あれから小一時間。蓮太郎と延珠に残り物で適当に料理を振舞っていた。
「にしても本当に美味いよな。お前の料理。それに加えて家事も完璧なんだからなんか敗北感覚えるわ」
「専業主夫志望だからな。一家に一台欲しいくらいだろ」
「揺るぎねぇな」
里見に呆れられる。こっちは真面目なんだが。
MAXコーヒーを嚥下し、料理にがっつく延珠を眺めながら里見が話を続ける。
「タイムセールの事で頭いっぱいになっちまってさ、報酬貰い忘れて木更さんにめっちゃ怒られた」
「そりゃお前が悪い」
報酬貰い忘れるってとんでもねぇな。命懸けのボランティアかよ。割りに合わないにも程がある。
「市民をガストレアから無償で守るのか。とんだ慈善活動だな」
「もうやめてくれ。俺のHPはもう0だ」
弄りすぎたか。普段迷惑かけられてるこっちに比べればまぁ安いもんだろう。おかげさまで最近依頼を受ける回数が若干増えた。
「……なぁ比企谷。うちで働かねぇか?」
「ん?」
うちで?って天童民間警備会社でって事か?
食べ終わったらしい延珠が里見の言葉に敏感に反応する。
「なんだ八幡、会社に入るのか?妾は大歓迎だぞ!いつでも八幡の料理が食べられるようになりそうだからな!」
「飯目当てか……」
延珠は良くも悪くも素直である。そこらのやたら本音を隠したがる奴らよりはよっぽどマシだが。
俺は専業主夫志望なだけあって家事は大体こなせる。炊事洗濯買い物掃除、一人暮らしを続けていると自然にこれらのスキルは上がるものだ。
「悪いが俺は今の暮らしを気に入っているんでな。スカウトなら他を当たってくれ」
「だよな」
予想通りの回答だったらしく、里見が苦笑を浮かべる。
「悪い、御馳走になった。あとで仕事の話があったら言ってくれ」
里見が席を立つ。それほど重要な案件でも無いらしい。
「ああ。この件は他の事で請求させてもらうからな」
「出来ればなるべく金のかからない方法で頼めるか?」
「ちゃんと返すならそれで構わん」
延珠にも声をかけようとして振り向くと、延珠は本棚の前で数冊を手に難しい顔をしていた。
「ほら、延珠。もう帰る時間だぞ」
「八幡、難しい本ばっかり読んでいるんだな。妾にはまだわかんないものばっかりだ。天誅ガールズの漫画とかは無いのか?」
そんな延珠の姿を見て俺は複雑な気分になってしまった。里見から聞いている。延珠のガストレアウィルスによる体内侵食率は40%強。果たして彼女がこれらの本を読んだり高校生活を謳歌出来るような歳までガストレア化せずに生きていられるだろうか。
里見が俺の顔の様子から心情を敏感に察知したのだろう。ゆっくり首を振ると、悲しげに目を伏せた。
「生憎天誅ガールズの漫画はねぇんだよな。アニメは欠かさず観てるから後で語ろうな」
「おお!ほんとか!八幡天誅ガールズ観てるのか」
延珠がキラキラした目でこちらを見る。その屈託の無い笑顔に心を痛めながらも首肯する。
「ああ。結構面白いよな、あれ。 クオリティ高いからちゃんと一期も見直したぞ」
「ど、同志だ!妾の同志がいるぞ!蓮太郎!」
延珠の興奮の度合いとは裏腹に里見は悲しいものを見るような目でこちらを見る。
「比企谷……その年齢で天誅ガールズはちょっと気持ちわりーぞ」
「なんだよ面白いじゃねぇか。つーかもうちょっと歯に衣着せろよ。泣きたくなるだろ」
「なー八幡!また来ても良いか!?」
「おう、来い来い。なんならまた飯食わせてやる」
「八幡いい奴だな!イケメンに見えるぞ!なぁ蓮太郎!」
「アホか俺はもともとイケメンだ」
三人での会話の応酬。意外とこういう関係も悪くないかもしれないなどと柄にも無い事を考えながら、里見達を見送る。
「じゃあな。また飯よろしく」
「タダ飯じゃねぇ事をちゃんと頭に入れとけよ。……じゃあ、今度は義足のメンテナンスで博士のとこ行くから、そんときにな」
「あいよ」
里見たちが帰るのを見送り、ようやく俺は食事の後片付けをし始めた。
八幡のスペック
高校2年生。
幼少の頃に父親が病死、中学校で母親をガストレアによって殺害されており、中学校卒業と同時に民警となる。民警ライセンス取得後数ヶ月でステージⅣガストレアに遭遇、イニシエーターと両脚を失う。出血多量で瀕死状態に陥っている所で室戸菫医師により、死を待つか『新人類創造計画』のモルモットになるかの判断を委ねられ、機械化歩兵となる事を選択する。
所属はセクション27。発想コンセプトはステージⅣガストレアを含む複数のガストレアと長時間戦闘を継続する機動力。
両脚をバラニウムの義肢に置き換え、跳躍ジャンプユニットを搭載する事で機動力を確保している。
手術終了後は室戸菫医師のツテでガストレアについての座学、破壊工作、諜報、暗殺術、追跡術、近接格闘術、他多数兵器の扱いを学ぶ。
以降イニシエーターを失った状態で各エリアを放浪しながら戦闘を重ねるが、IP序列が千番を切った辺りで無理に依頼を受ける事も無くなり、東京エリアに腰を落ち着かせる。
千番越えをする以前は質素と言うより貧相とも言える生活を続けていた為資金には余裕があり、東京エリアに腰を落ち着かせたあとは読書などの趣味や、『呪われた子供たち』の資金援助に使っている。
現在もフリーランスの民警を続けており、同時に高校生として生活している。イニシエーターは未だ居ない。
里見蓮太郎とは義肢のメンテナンスなどから面識がある。司馬未織とは里見蓮太郎を通じて個人的な知り合いであり、またビジネスパートナーである。
装備
・グロッグ18S……グロッグ17にフルオート機構を搭載したグロッグ18の司馬重工の改良型。主に集弾性の向上と反動の減少、カスタムパーツの取り付けを可能としている。カスタムパーツは専用のフラッシュサイト、レーザーサイト、サプレッサーを取り付けられる。場合によっては二丁携行する。グロック18SのSは司馬重工のS。
・KRISS Vector……アメリカのTDI社が製作した最新鋭のサブマシンガン。こちらは八幡の注文で未織が個人的な改造とチューニングを施しており、サプレッサーとレーザーサイトを内蔵させてある。近接戦闘に多少なれども影響が出るので基本装備しない。
・H&K MSG90A1……1987年にドイツのH&K社が開発した半自動式狙撃銃。H&K MSG90にマズルフラッシュを低減させるフラッシュハイダーを装備させたもの。司馬重工によりサプレッサーの着脱とスケルトンストック装備を可能とする改良を加え全体的な重量の軽減を実現している。
・グローブ……八幡が個人的に未織に依頼して作らせた専用グローブ。表面に動きを阻害しない程度に薄くバラニウムがコーティングされており、手の保護の他ガストレア専用に製作されている。銃火器の使用の為右手のグローブは親指と人差し指を露出させている。
・軍用ナイフ
・手榴弾
はいはい作者初のSSです。かなり貧相な文章力ですが生暖かい目で見て頂けると幸いです。