十一、四   作:なんじょ

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歓喜の日

 着物を胸に抱いて走る。目指すは、あの人のところ。

 

「み、や、こ、さーん!!!!」

 天にも届けとばかりに名を呼ぶと、彼女は足を止めて、こちらを振り返った。あぁ、と顔が柔らかくゆるむ。

「雪音。どうしたの、そんなに慌てて」

「あのっ……あの!」

 雪音は、ざ、と都の前で足を止めて、弾む息を整える。そして、ば、と着物を前につきだした。

「護廷十三隊、入隊試験受かりました! 明日から、都さんと同僚ですっ!」

「あら」

 都は雪音の勢いに目を丸くした後、

「そう、とうとう受かったのね。おめでとう、雪音」

ふわりと笑う。しかし、

「いつになったら通るのかと思っていたけれどね。鬼道実技、すれすれだったんですって?」

にこにこしながらつっこまれ、雪音は思わず、う、と言葉に詰まった。

「だ、だって苦手なんですもん、鬼道……。でも、ちゃーんと受かりましたよ!」

「そうね、良く頑張りました」

 そう言いながら、雪音の頭をよしよし、と撫でてくれる。雪音は喜びで胸がはち切れそうになって、真新しい死覇装を抱えてにやついていると、

「何だ、誰かと思えば雪音じゃねぇか」

ひょい、とぼさぼさ頭の男が話に入ってきた。

「志波さん。居たんですか」

「あぁ? 何だオメー、その言いぐさは」

 まるで目に入らなかったので率直に言ったら、相手は不機嫌そうに口を尖らせた。

「つーか、その志波さんってのやめろよ。俺とこいつ、どっち呼んでるんだか、わかりゃしねぇ。海燕でいい」

 そう言って都と自分を指さすので、今度は雪音が口を尖らせる。

「えー、そんな事ないですよ、都さんは都さん、って呼ぶし。

 っていうか都さん、何でこんなのと結婚したんですかー? 都さんなら、もっと素敵な人といたたたた!!!!」

 話をしている最中に頭を掴まれ、つい悲鳴をあげた。海燕は据わった目で睨み付けてきて、

「こんなのとは何だ、えぇこら?

 オメーな、うちの隊に配属されたら覚悟しやがれ。上官に対する口の利き方っつーもんを、徹底的に仕込んでやるからな」

 ぎりぎり、と締め上げられる。

「痛い痛い痛い! 都さんっ、助けて! 暴力男に殺される!」

 雪音が助けを求めると、都はくすくす笑って、海燕の手に触れた。

「それくらいにしてあげなさいな。悪気は無いんだから」

「お前な、都、こいつに甘すぎるんだよ。後輩なら、もっときっちりがっちり教育しとけよ」

 雪音は手が離れた頭を押さえて、べ、と舌を出す。

「ふーんだ、志波さんと違って、都さんは優しいんですー。

 それに私は十三番隊じゃなくて、四番隊に配属なんですー。志波さんなんかの下で働いたりしませーん」

「なっまいきな奴だな……」

 苦虫をかみつぶしたような顔の海燕。都はまた笑う。

「念願の四番隊に入れたのね」

 言われて、雪音は満面の笑みで大きく頷く。

「烈様って優しそうに見えて厳しいから、能力が無ければうちの隊には入れませんよ、って仰ってたんですよ。

 でも私、絶対四番隊いくって決めてたから、入隊出来てすっごく嬉しいです! 都さんと同じ隊になれないのは残念だけど」

「ふふ。希望が叶って、良かったわね」

 都は雪音の顔をのぞき込んできて、笑った。

「では、明日から頑張ってね、卯ノ花隊員。あなたの活躍を楽しみにしているわよ」

 海燕は雪音の頭をくしゃくしゃ、と撫でて、笑った。

「あんまりはしゃいで、ドジるんじゃねーぞ? 怪我したら診させてやるからよ」

 穏やかな笑みと、陽気な笑み。二人の性格は全く違うのに、どこか似通ったその微笑みが向けられている事が嬉しくて、

「はい!」

 雪音は死覇装を抱きしめて、笑った。


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