十一、四   作:なんじょ

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順位

「えーっと……」

 戸口からひょこっと、中を覗く。部屋の中には男達がたむろしていて、杯を傾けたり、話に興じたり、さいころを転がしたりと思い思いの時間を過ごしているようだ。

 黒々とした人波を見渡していると、戸口の近くで笑い声をあげた男が気がついた。げ、と顔が歪む。

「四番隊の暴力女じゃねぇか! 十一番隊に何の用だ!」

「四番隊?」

「アァ? 鑑原かよ」

 一斉に顔がこちらに向いて、雪音は思わず「うわ」と呻いてしまった。

「マキマキうるさい。あんた達客が来たくらいで、いちいちガンつけてんじゃないわよ」

「マキマキ言うな!」

「お前なんか客じゃねぇよ!」

「用がねぇなら帰れバカヤロー!」

 キーッと猿のように歯を剥く荒巻達に、雪音はしっ、しっ、と手を振って、もう一度部屋の中を見渡した。

 居ないなぁ、と口を曲げたところで、

「何だ、この騒ぎは? ……って、雪音じゃねぇか」

 後ろから、ぬっと一角が顔を出した。途端、静かになる隊員たち、ぱっと笑顔になる雪音。

「一角! 良かった、あんた探してたのよ。何処行ってもいないんだもん、ぐるっと歩き回っちゃった」

「……おう」

 一角はこころもち上体を後ろにそらした後、「そりゃ悪かったな」と呟いた。何かをごまかすように頭をかいて、

「俺に何の用だよ。お前、今日非番だろ。確か」

 ぶっきらぼうに問う。対して雪音は、腰をかがめて足元の荷物を取り、それを一角に差し出した。

「お礼渡そうと思って。遅くなっちゃったけど」

「礼?」

 雪音が差し出しているのは、手漉き和紙に包まれた日本酒だった。

 辛口のその酒は確かに一角の好みではあったが、雪音から貰う筋はない。何の事かと眉根をよせる一角に、雪音はにこにこ微笑んだまま言う。

「ほら、あたしが寝込んだ時、お見舞いに来てくれたじゃない? あの時お菓子も貰ったから、そのお礼」

「ばっ……」

 一角は一瞬言葉に詰まった後、ギロッと部屋の中をにらみ付けた。

 息を潜めて成り行きを見守っていた隊員たちが、射殺せそうなその眼光に怯え、慌てて目をそらす。

 一角はひとまず戸口から離れた廊下へ、雪音の腕を掴んで移動して、

「ばっかやろ。そんなの、わざわざ礼に来るほどの事でもねぇだろ。俺は何にもしてねぇ」

 語調強く言うが、雪音は首を振った。

「そんな事ないよ。一角のおかげで元気になったんだもの、感謝してるんだって。だから、お礼。

 好きよね? 地獄車。それとも雪原のほうが良かった?」

「だっ、から、そういう事じゃなくてだな……」

「あー! ゆっきーだぁ!」

 一角の焦りを吹き飛ばす甲高い声が響き渡る。と、雪音の背筋が弦のように伸びて、

「あぁ! やちる副隊長!」

 一角の手に酒瓶を押し付けたと思ったら、あっという間に目の前から消える。振り返ると、雪音は至極幸せそうな顔で、草鹿やちるを抱きしめていた。

「やーん、お会いしたかったです、やちる副隊長!」

「むぐむぐ……ぷは、苦しいよゆっきー。でもゆっきー、元気になったんだー! 良かったね」

「はい、おかげさまで! ご心配をおかけしました。でも、副隊長に気遣っていただけるなんて、雪音はソウル・ソサエティ一の幸せ者です!

 あっこれ、やちる副隊長に食べていただきたいと思って持ってきました。福田屋の金平糖ですよっ」

「わーい、ふくだやのこんぺーとー、おいしいよね。一緒に食べようよ、ゆっきー!」

「はい、ご相伴に預かります! きゃっ♪」

 雪音は、周囲に花を撒き散らすような勢いで恥じらいながら、やちると手をつないでとことこ去っていく。

 一人取り残された一角は、しばし硬直した後、手の中の日本酒を見下ろし、

「……ついでかよ。俺は。」

 憮然とした。それから、別にそれはかまわねぇんだけど、と言い訳をしたが、誰も聞いてないのでますますむなしい気分になった。


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