十一、四   作:なんじょ

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※短い小話をひとまとめにしました。


四番隊の日常

■強制

「斑目さん!」

「あ?」

 後ろから声をかけられて振り返る。と、廊下の向こうから、四番隊の鑑原がこちらへ歩いてくるところだった。

 一角のそばまで来た鑑原は、

「この間あんたが詰所に来た時、明細を渡し忘れたの。ちょうど十一番隊に行くところだったんだけど、今渡してもいい?」

 紙切れを差し出してくる。おう、とそれを受け取った一角は、しかし顔をしかめた。

「お前、何ださっきの」

「は? 何か?」

「さっきの、斑目サンっての、気持ち悪ぃ呼び方」

「気持ち悪いって……普通の呼び方でしょうが」

 何でそんな言われ方しなきゃならないのか、と言いたげに鑑原もしかめ面になる。その鼻先に指を突きつけ、

「人の事あんた呼ばわりのくせに、さん付けなんておかしいだろうが。俺を呼ぶなら、一角でいい。その代わり、俺もお前を名前で呼ぶからな」

 宣言してから、はたと止まる。

「なんだっけ、お前の名前って」

「……知らないくせに、何でそう偉そうなのよ」

 指を脇に避けて、鑑原は肩をすくめた。

「雪音よ。鑑原、雪音」

 

■つれないキミ

「……え、じゃあ一角さんも鑑原さんの手当、受けた事あるんですか」

「おお、初めて四番隊に世話になった時から、ちょこちょこな」

「あぁ……あの時は大変だったね。一角は暴れるし、雪音ちゃんはほとんど暴力で一角押さえてたし」

「む、昔っからなんすか、鑑原さんが乱暴……いやその、強気なのって」

「おうよ、ほんっと最悪だったぜ、昔っから。何度斬ろうと思ったか知れねぇよ」

「でもあの頃に比べれば、最近は穏やかになったよね」

「えっ、そうなんすか?!」

「そうだぜ恋次。俺なんか、全身包帯まみれの重傷なのに、寝台にたたきつけられたからな。一瞬お花畑が見えたぜ、あの時は」

「…………そ、そっすか……(何かすげぇ、鑑原さん……!)」

 

*被害者達。年を取ると、穏やかになるものです(笑)

 

 

■日常茶飯事

「ぎゃははは! 一角さんサイコーっすよ!」

「酒持ってこいおらぁ!」

「ひいっ、や、やめてくださ……」

「何してんだあんた達はー!」

 スカーン!

「ああっ! 一角さん!」

「ってぇな! てめぇ雪音、何しやがる!」

「何しやがるじゃない! 救護室で酒盛りすんな!」

「うるせぇ! こんなつまらねぇところでじっとしてられるか!」

「一応怪我人なんだから、じっとしてなさいよこのハゲ!」

「ハゲじゃねぇっつってんだろうが! 殺すぞ!」

「やれるもんならやってみなさいよ、こっちだって黙ってやられないからね」

「鑑原、薬を持ち出すんじゃない! 怪我人にはもっと穏和にだな」

「黙ってて下さい、伊江村三席! つーかそういう弱腰だから、こいつらに舐められるんですよ!」

「そうですよ、三席は黙ってたほうがいいですよ。どうせ弱いんだから」

「鑑原、荻堂、貴様ら誰に向かって、そんな口を……!」

「ああああ、収拾つかなくなってきた……」

 

*アニメの週替わりEDで、詰所で酒盛りしてるシーンがあったので書いてみました。雪音は薬を良く持ち出します。

 

■酔っぱらいの世話

「わ、ちょっと雪音さん、寝るなこら!」

 必死で声をかけるも、遅かった。すっかり酔っ払った雪音は、あぐらをかいた修兵の足に強制膝枕をしたまま、

「うにゃー、かんぱーい」

 ふらふら、と頼りない手つきで盃を掲げた後、ぱたっと寝入ってしまった。同時にばたーんと手が落ちて、盃がごろごろ転がっていく。

「あああああ、ちょっと、起きてくださいって!」

 揺り動かしても、軽くひっぱたいてみても、全く起きる気配がない。動くに動けず、おいおい、と肩を落とす修兵に、乱菊が笑い声をあげた。

「修兵、そのまま寝かせておいてあげなさいよ。昨日徹夜して、疲れてたみたいだから」

「でもこれじゃ俺、動けないっすよ」

「いいじゃない、役得役得。どうせなら、添い寝してあげたら?」

「何で俺が……」

 ぶつぶつ言いながらも、修兵は尻を動かして座りなおして、雪音の頭を支えてやる。

 普段は見ることの出来ない、心底嬉しそうな笑みを浮かべた雪音の寝顔は、どことなく子供っぽい。眺めていると「まぁ、いいか」と思えてきてしまうから、たちが悪いと思う。

「しょうがねぇなぁ」

 修兵は仕方なくそのまま、近くにあったつまみの皿を引き寄せて、食べ始める。

 

■毒

「うっわ、くさ! 酒臭!」

「うっ……!」

「ゆ、雪音さん、大声は、ちょっと……」

「何よ、二日酔い? あんたらねー、どんだけ飲んできたのよ。この部屋すんごい匂いよ。今にも酒粕出来そう」

「う、うるせ……」

「あー何? 聞こえないし邪魔よ。つーかそっちの棚の書類いるんだから、踏むわよ。えい」

「ぐえっ!」

「ひいっ」

「おー踏み台があると、上のものが取れていいわねー」

「お、おも……」

「人が必死こいて働いてる時に浴びるほど酒飲んできて仕事出来ないくらい二日酔いになって、この上人の体重に文句つけるんじゃないわよ」

「ぐわ、あ、足踏みすんな!!」

 

*腹いせ。ちなみに倒れてるのは恋次と一角、踏まれてるのは勿論一角(笑)

*あたしだって飲みにいきたいのにー! という腹いせ。

 

■眠りのうちに

「あれ、寝ちゃったんだ、雪音ちゃん」

「おう。ったく、いくら五席に昇進したからって、飲み過ぎだろ、こいつは。松本の上をいったぞ」

「べろべろだったよね」

「しかも重てぇよ、人の足を枕代わりにしやがって」

「一角に膝枕強要するなんて、雪音ちゃんくらいだね。あーぁ、幸せそうな顔で寝ちゃって」

「ま、こうして静かにしてりゃ、こいつもちったぁ可愛く見えるんだがな」

「一角」

「あん?」

「……いや、何でもないよ。じゃ、そろそろお開きにしようか。ここは立て替えてあげるから、一角は雪音ちゃん送っていきなよ」

「あぁ?! 何で俺が」

「このか弱く美しい僕が、雪音ちゃんを担いでいけるわけないじゃないか。それとも、君が勘定払う?」

「そんな金ねぇよ。ちっ……しょうがねぇな。おら起きろ、雪音。帰ンぞ」

「……うー……おかわり~」

「まだ飲む気かよ……」

「宴会の夢でも見てるんじゃない?」

 

 

■知っていた

 

 知っていたはずだった。

 手の冷たさを。

 青ざめた肌の色を。

 固い、感触を。

 

 雨が止まない。寒い夜だ。横臥したまま目を閉じると、雨音だけが耳に満ちて、ひどく心が騒ぐ。こんなに静かだと、あの日の事を思い出してしまう。

 

『都さん!』

 扉をはじき飛ばすようにして入った部屋の中に、あの人はいた。いや、在った。胸から下を、無惨に食い散らかされて。

『みや……こ、さ』

 名を呼ぶ。けれども答えはない。あの穏やかな表情で、優しい声で、返事を返してくれた人は、もういない。

『み、や』

 震える手を伸ばして、指先が彼女の頬に触れそうになって、しかしじわりと伝わってきた冷気にぱっと手を引っ込めた。

 己がそれに侵されたように、指先から死の感触がじわりじわりと広がっていく。

『み』

 名を、それ以上口にする事が出来なかった。口をおさえて部屋を飛び出す。腹からせり上がってくる吐き気にきつく目を閉じるも、闇の中には半身を失った彼女の姿が浮かび上がる。

 ……都さん!

 

 知っていたはずだった。

 あの手の冷たさを。

 あの青ざめた肌の色を。

 あの固い、感触を。

 全部、知っていたはず、なのに。


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