十一、四   作:なんじょ

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シャル ウィ ドリンク

「雪音、まだ終わんねぇのか」

「んー……」

 はしごの上で大判の本をめくっていた雪音は、後ろからの声に曖昧な返事を返した。それから、ん? と顔をあげ、振り返る。

「なっ……一角! どっから入ってきたの!?」

「そこの戸口からに決まってるだろ」

「あ、あほかあんたは!」

 雪音は本を抱えて梯子を下りると、棚の上に座って足を組んでいる一角に詰め寄った。

「ここは関係者以外、立ち入り禁止! 今すぐ出ていけ!」

「あぁん? いいじゃねぇか、別に。お前今まで気づかなかったんだし」

「いいわけあるか! ここは機密情報満載なの! あんたが勝手に入ってきたりしたら、あたしの責任問題になるの! あんたも懲罰対象になりかねないの!」

「何だよ、そんなヤバイ情報保管してんのか、四番隊は」

 興味を持ったのか、近くの棚に手を伸ばす一角。雪音はその腕をバシッとたたき落とした。

「いてっ!」

「言った傍から手ぇ出すんじゃない! 患者の個人情報とか、劇薬の調合方法とか、外に漏れたらまずいものが山のようにあるんだから!」

「ンなら口で言やいいだろ! 叩くな!」

「口で言っても聞かないからでしょ!? つーかあんた、何しにきたのよマジで!」

 指を突きつけると、棚を降りた一角はけっ、と歯をむいた。

「これから飲み会やるから、わざわざ誘いに来てやったんじゃねぇか!」

「飲み会? 行けないわよ」

 即答され、カク、とこける一角。

「何だよ、行けるのか考えもしねぇのかよ。あんだけ酒好きのくせに」

「しょうがないでしょ。こっちにまだ時間かかりそうなんだもん」

「ンなの、適当に終わらせとけよ。明日でもいいじゃねぇか」

 ひょい、と本を取り上げられ、雪音はちょっと、と眉間にしわを寄せた。

 すぐに取り返そうとするも、頭上遙か高くに持ち上げられてしまい、跳ねても届かない。

「何してんのよ、返せっ」

「ばーか、取れるもんなら取ってみな」

 必死の様子がおかしいのか、一角は鼻で笑った。びき、と青筋を浮かべた雪音は、迷いもなく一角の股間を蹴り上げる。

 ガギッ!

「…!!!!」

 鈍い音がして、硬直した一角がその場に崩れ落ち、無言で悶絶した。雪音は落ちてきた本を受け止めると、

「まだ調べ物するんだから、邪魔すんならさっさと帰んなさいよ、このハゲ」

 ふん、と鼻を鳴らして、再びはしごをのぼる。

 床に座り込んだ一角は、涙目で顔をあげ、数分間にわたって聞くに堪えない罵詈雑言を吐き捨てた後、

「て、てめぇ、なんか、もう二度と、さそわねー、からな! このクソ女! 死ね!」

 よろよろ立ち上がり、外に出て行った。

「別に誘ってなんて言ってないでしょうが」

 雪音はそれを見送った後、すぐ手元の本に目を落とした。すぐに意識がそちらへ集中し、すうっと周囲の音が遠くなる。

 

 それから後。

 ふ、と視線を上げた雪音は、壁にかかった時計を見て、夜の十時をすぎている事に気づいた。

「あ、やば……やりすぎた」

 身体を動かすと、あちこち固まっていたらしく、ばきばき、と派手な音が鳴って痛みが走る。

「う……うーいたたた……。今日は、この辺にしとくか……」

 本を閉じて棚に戻し、こわばる身体で慎重に降りていく。

 部屋の片づけをして、伸びをしながら戸口に向かったところで、ふと棚の上の紙切れに気づいた。

「ん?」

 何気なく手に取って見る。飲み屋の名刺だ。

 この間新しく出来た店で、古今東西の酒がそろっていて、食事も旨いと評判になっていたところだった気がする。

 ひっくり返して裏を見てみると、店の地図の上に、汚い字で、

『来ねぇと 店中の酒 先に飲み干す 仕事ばっかしてんじゃねーよ バカ』

などと書いてある。

「……一角?」

 こんな事を言いそうな奴は、他に思い至らない。

 雪音はまじまじと紙片を見つめた。それから、不意にくすり、と笑う。

「分かったわよ。そんなに来て欲しいなら、行ったげるわよ」

 さっきの謝罪に、酒の一杯もおごってやりたいし。

 雪音はそう思いながら名刺を懐にしまうと、火を消し、外へ出て行ったのだった。




大体こんな感じの力関係w

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