やはり俺は間違っている(凍結)   作:毛利 綾斗

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自称説明回となっております


第6話

「お兄ちゃん..........。何時まで寝てるの........。小町的にポイント低いよぉ」

 

 

兄がトラックにはねられてから1週間経ちました。

まだ意識は戻ってきていません。

 

事故の原因は女の子を庇ったこと。運転手は、ながら運転で意識が散漫していて気付くのが遅れたらしいです。でも一応ブレーキは踏んだらしく、そのおかげで兄は生きています。

雪乃さんが迅速に電話してくれたおかげでなんとか一命を取り留めました。あと少し遅れたらこの場にいなかったかもしれない。そう考えると胸が締め付けられます。

 

 

朝一から雪乃さんと二人でお見舞いに来ています。雪乃さんは毎日お見舞いに来てくれています。結衣さんは.......。

 

1時間前、兄が庇った女の子とその親がお見舞いに来ました。その子は兄と一緒に轢かれたのにも関わらず軽い打撲で済んだそうです。その原因も吹き飛ばされた衝撃で出来たもの、だそうです。

 

 

この子が無事でよかった、そう思うと同時にこの子が居なければと思ってしまう小町は悪い子です。

 

 

 

「雪乃さん、聞いてもらってもいいですか?」

 

 

 

 

静かに雪乃さんが頷くのを見て、話し始めた。

 

 

 

 

「兄は小学校高学年から少しずつイジメに合っていました。原因は周りよりも大人びてなんでも一人で出来た兄への嫉妬です。最初はおふざけから始まったんだと思います。

次第に仲間はずれ、一部生徒による暴行、更にはクラス全員による無視。小町も兄が受けていた事の全てを知っているわけではないのです。

中学校でもその延長上でした。

中学校を卒業する頃には目が死んだ魚の様に濁ったものになり、性格も廃れてしまったのです。

 

小町はですね、一度だけ家出をした事があったんですよ。あれは兄が小学校でイジメに合ってるのを知った日でした。学校に居場所がなく、家でも小町の所為で両親からも蔑ろにされている兄。それを知ってしまった小町は小町の所為で兄が苦しんでいると思ってしまったのです。

小町は公園のトンネルに隠れて一人で泣いてました。寂しかった、辛かった。

辺りは茜色に染まっていましたが、まだ両親が帰ってくるには早い時間で迎えには来れない。兄はきっと私が居なくて清々しているだろう。そう思うとさらに悲しくなりました。そんな時不意に小町の名前を呼ぶ声が聞こえんです。見上げたら汗だくで息を切らしてた兄が其処に居ました。私は

 

 

 

『なんで!小町の所為でお兄ちゃんが蔑ろにされてるのに、どうしてお兄ちゃんが迎えに来たの!』

 

 

 

小町がそうやって兄は困ったような顔をしてこう言ってくれたんです。

 

 

 

『小町が俺の妹だからだよ。兄は妹が泣いてたら助けにいくものだろ』

 

 

 

そして抱きしめて頭を撫でてくれたんです。兄が誰にも理解されなくても、小町だけが兄の優しさを知っていればいい、そう思った小町は今の小町になったのです」

 

 

雪乃さんは一言も話す事なく話を聞いてくれている。今はこの静けさがありがたいです。

 

「高校の入学式の日、兄は一台の車に撥ねられ病院で入院を強いられました。

兄が目を覚ました時に小町は驚いたのです。兄の目がクリアになっていたのです。

その後、話してわかった事は一番辛かっただろう中学時代の記憶を綺麗さっぱり忘れてしまっていたということです。小町的には辛い記憶がなくなって良かったと喜びたいのに当の本人が喜んでいない。だから小町も喜びませんでした。

 

でも記憶を失っても嫌な過去は心には染みついているのかも知れません。兄は友達を作ろうとしませんでした。

そんな生活が一年続いて小町が諦めかけた時兄が部活に入ったと聞きました。しかも部員が他に1人、いくら兄でもコミュニケーションをとらざるを得ない状況になったのです。小町は嬉しかった、それと同時に兄と同じように一人でいる人に興味が湧き、奉仕部に訪れました。それがこの前のことです。

そして開口一番の雪乃さんの言葉、雪ノ下という苗字でタダでさえ印象は最悪なのに更に苛立ちました。そして兄を攻め続け、ボッチと言うことをネタに攻撃した瞬間小町の堪忍袋の緒はブチ切れました。未だにあのことは許せません。少なくとも責任の一端は当事者である雪乃さんにもあるのに謝罪にすら来なかった、そんな人が言ってもいい言葉じゃ無いはずです。

あ、兄から状況は聞いています。なので仕方ないっていうのはわかってるんです。それに兄が気にしていないのに小町がずっと恨むのも可笑しな話ですよね。

 

でも兄は昔から自分のことで怒ったことがないんです。だからついつい小町が怒っちゃうんです。

 

 

あの夜何があったのか詳しいことは知りません。ですが次の日の態度を見て雪乃さんはいい人ってわかっちゃったんです。その時は嬉しかったなぁ。小町だけでいいと思ってたけど他の人に兄をわかってくれる人が出来て、兄を自慢できる人が出来てうれしかった。

本当に感謝してます、雪乃さん」

 

 

 

「貴女も強いのね、比企谷君と同じで自分に厳しく他人に優しい。でも貴女自身にもう少し優しくしてもいいと思うわ」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間頬に温かく湿った感覚が。いつから泣いてないだろう。確か最後に泣いたのは家出した時だった。あの頃からずっと私の中に引っ掛かって溜まっていたものが溢れ出したみたい。

私は涙を我慢することも、泣くことを隠すこともせずただ、泣きじゃくった。

 

 

「小町.........辛かったんだな。......今は..思いっきり泣けばいい..........」

 

 

私が泣き続けて10分位たったのだろうか?

頭の上には大きな手が置かれている。兄の声、兄の温もり、兄の優しさに涙腺が再び崩壊してしまった。いつまで泣き続けたのか私は覚えていない。そのまま私は眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

「小町さん寝ちゃったみたいね」

 

 

「まああれだけ泣けばな」

 

 

「それもそうね。貴方いつから起きてたの?」

 

 

「ついさっきだよ。小町の泣き声で目が覚めた」

 

 

「ふふ、流石シスコンね。でも貴方みたいな兄さんがいる小町さんが羨ましい」

 

 

「へいへいそうかよ。あとありがとな」

 

 

「いきなりどうしたの?」

 

 

「俺じゃ小町の重荷を取る事は出来無いからな。本当に感謝する」

 

 

「いいのよ、それくらい。って貴方は一体何をしてるの?」

 

 

「ちょっとコッチに来てくれ。小町を起こしたくないから動けん」

 

 

「仕方ないわね」

 

 

そう言って立ち上がり彼の元へ歩いていく。

 

 

それで何かし........

 

 

「心配掛けただろうし、何かと迷惑もかけた、すまない。

本当にありがとう」

 

 

彼はそう言いながら私の頭を撫でている。

何故だろうか、彼の声に、彼に頭を撫でられて落ち着く私がいて、気が緩む。これじゃあ我慢していたものが出てしまう。

 

でも彼の手から逃げることはしなかった。

 

だって気持ちいいんですもの。溢れ出る涙、ただ彼が無事で良かったとそんな思いが胸いっぱいに広がっていた。

 

 

 

 

 

「ここは俺のベットなんだが....。まあいいか」

 

 

俺は病室に備え付けのパイプ椅子に座りながら雪ノ下の持っていた本を読んでいる。

あんな格好で寝られていたら気まず過ぎて俺がゆっくりしないと言うことで小町と雪ノ下にベットを譲った。

 

今の時間は17:00だ。目が覚めてからかれこれ3時間半になる。小町も雪ノ下も3時間は眠っている。俺を心配してくれた人がいる。それは本当に嬉しいことだ。でも俺は迷惑をかけてしまったという自責の念の方が強くどうやって感謝すればいいか悩んでいる。それと同時に今回の事故の衝撃で一部だが記憶を思い出した。後は中学3年の時の記憶だけが曖昧で何があったのかとさらなる深みに嵌ってしまう。

あとどうでも良いことだが目を腐らしたりクリアにしたりできるようになった。

 

さて本の続きに戻るか。

 

 

そのまま一人の少年は本に再び目を落とす。病室に響くのは彼がページをめくる音、椅子が軋む音、少女らの寝息だけになった。この状態は少女らが目を覚ます3時間後まで続いた。

 

 


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