ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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え?あっちが鋼の錬金術師?え?あの小――――



二章
第7話 出会い


 

 ヘスティア・ファミリア初のメンバー、ベル・クラネルとの出会いから半月。2階層までしか知らなかったダンジョンの攻略も、ベルが来てからは余裕が生まれ、お互いの連携も取れ、パーティーとしての一体感もますます高まってきていた。

 

「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

 …………息ピッタリで、強敵から逃げ出すくらいに。

 

「ねねねねねねねえ、エド! ここここ、あんなの出ることって、よよよくあるの?!」

「知るか! オレだって、5階層来たのは初めてだぞ! あー、くそ! こんなことなら『ちょっと冒険してみよう』なんて言われて頷くんじゃなかったー!!」

「いや、エドだって賛成したでしょ!? 稼ぎを増やすのもありか、とか言って!」

「こっちは閑古鳥泣いてる店で店番してる姉貴分と、近所に無料(タダ)回復薬(ポーション)配りまくる保護者抱えてんだよ!! 生活かかってんだ、生活!」

「だったら、後ろの奴、ぜひ倒して! 一攫千金だよ、アレ!!」

「無理!!!」

 

 醜い口喧嘩をしながらも、足を一向に休めることをしない二人を追いかけるのは、ミノタウロス。Lv.2にカテゴライズされる魔物で、本来なら15階層以下に出現する魔物だ。

 

『ヴモォオオオオオオオッ!』

「いいいいいいつもの錬金術でパッとやって、パッと片付けてよ!?」

「ああ?! やりゃいいんだろ、やりゃ!!」

 

 まるで殴りつけるように言い放って、手を胸の前で合わせながら、勢いよく振り向いた。

 

「【一は全、全は一】!」

 

 詠唱しながら地面に手を付ける。手を中心に、青い電光が奔りぬけた。

 

「【ホーエンハイム】!!」

 

 電光が奔った地面が爆発的に変化し、たちまちおびただしい数のトゲが突き立った。

 

 今まさに獲物に襲い掛かろうとしていたミノタウロスは、勢いを殺し切ることが出来ず、正面からトゲに衝突した。

 

「…………」

「やった?! 倒した?」

(オイ、フラグ立てんじゃねえよ)

 

 内心でそう思い、目を逸らさないようじりじりと後退する。そうして大体五歩分離れたところで、ミノタウロスの指がピクリと動いた。

 

 ミチリ、ミチリ、と牛面人身の怪物の筋肉が収縮し、突き刺さったはずのトゲは、砂糖細工のように砕けた。それを合図に180度反転、全速力で離脱する。

 

「無理だな」

「諦めないで!? もう少し頑張ろうよ!」

「うるせえ! 半分はフラグ立てたお前のせいだろうが!」

「『ふらぐ』ってなにさあああああっ?!」

 

 この世界の住人の感性はどうにも古いのか、それともエドと神様が先に行き過ぎているのか、こうしたちょっとしたことで齟齬が生まれた。もっとも二人ともノリで口論しているだけなのでさして問題もなかったが。

 

「! おい、見ろ! この道の先、行き止まりじゃねえか!」

「! ホントだ!?」

 

 全力で逃走してきた二人だが、とうとう追い詰められてしまった。壁に両手をつき、恐怖で身を硬くするベルと、ぎり、と歯ぎしりをして、壁に片手をつき、ミノタウロスを見据えるエド。

 

『ヴォオオオオ――――』

 

 とうとう最期をつげるため、ミノタウロスが手に持った石斧を振り上げる。それに対し、ベルはギュッと目を瞑り、エドは――――ボソボソ、と小声でつぶやいていた言葉(・・・・・・・・・・・・)を切り、『不敵に笑った』。

 

「かかったァッ!!」

 

 両手を合わせ、袋小路の壁を勢いよく叩く。青い雷光は、その壁の中心に極太の柱を生じさせた。

 

「うおおおおお!!」

 

 柱は一気に伸び、ミノタウロスのがら空きになった胴体を捉え、勢いよく吹き飛ばす。土埃が舞い、その姿は見えなくなった。

 

「や、やったの……?」

「だから、そういうのがフラグだって……あー、もういいや」

 

 再び言い合いになる直前、土埃を払い、近づいてくる巨大な影があった。

 

「ひっ…………」

「……ベル。こうなったら、もう一回錬金術で不意をつくから、その隙に一気に脇を駆け抜けるぞ」

 

 自分では、目の前の相手にダメージは与えられないと判断。すぐさま逃走のための策を練る。少しでも合理的に、計算高く。半年のダンジョン探索は、この辺りを鍛え上げてくれた。

 

「むむ、無理だよ。僕、もう足がすくんで――」

「無理でもなんでもやるぞ。生き延びたかったらな。いいか、いくぞ。いっせーの…………」

 

 そうして合図を出そうとした、その時――――

 

 

 目の前のミノタウロスが、バラバラの肉塊へと変わった。

 

 

「なッ………………!?」

「ッ、………………!!」

 

 二人分の息をのむ声がする中、その少女は、血煙の向こうに立っていた。

 

 まるで、金砂をちりばめたような眩い髪、髪とはまた違った金の輝きを秘めた瞳、そして、その手に握られた細身の剣。

 

 『剣姫(けんき)』アイズ・ヴァレンシュタイン。オラリオが誇る、トップクラスの冒険者の一人。この迷宮都市(まち)では、知らぬ者などいない有名人だ。

 

「……あの、大丈夫?」

 

 数秒呆けていたが、聞こえてきた言葉に、はっと我に返る。見ると、腰が抜けたのか、ミノタウロスの血で真っ赤になったベルが地面に尻餅をついており、『剣姫』はそれに手を貸そうとしている。このあたり、とてもさっきミノタウロスを瞬殺した剣士と同一人物とは思えない。

 

 手を差し出されたベルは、目の前の少女の可憐な顔を見つめ、やがて顔を徐々に紅潮させ――

 

「ほぁああああああああああああああああ!?」

 

 ――――奇声を上げて、逃げていった。

 

「………………」

「……っ! くっ、くく……!」

 

 手を貸そうとして逃げられ、呆然とする少女と、それを後ろから見ていて、腹を抱える狼人(ウェアウルフ)の男。とてつもなくいたたまれない光景に嘆息しつつ、とりあえず助けられた礼を言うことにした。

 

「あー、連れが失礼しました。助けてくれて、アリガトウ……」

「……ん。気にしなくていい。元々、原因は私たち」

「……なに?」

 

 少女の言葉に疑問を抱き、詳しく聞いてみると、彼女らが遠征帰りに出会ったミノタウロスの集団が、階段を一目散に逃げまどいここまで来た、と……。10階層も逃げたのか。

 

「……それだったら、こっちは大丈夫なんで、他の奴らを倒してくれないか? 流石にここで足止めさせて、他のパーティーに被害が出たら寝覚めが悪い」

「……大丈夫。皆で手分けしてる。私たちの分は、さっきのが最後……」

 

 ……会話が、続かない。噂で聞いた程度だったが、暇さえあればダンジョンこもるか、剣の鍛錬してる剣の申し子という話は、ほんとうだったらしい。完全にコミュ障だろ、この人。

 

「――オイ、アイズ。雑魚と何時まで喋ってんだ。もう用もねえんだし、戻んぞ」

 

 ……成程、コイツが凶狼(ヴァナルガンド)か。誰彼かまわず喧嘩売る奴だっけ。

 

「……わかった」

「じゃーな、『チビ』。雑魚は雑魚らしく、とっとと帰ンだな」

「あ゛?」

 

 ビキリ、と血管が浮き出る音がした。……成程、そうか。前世は極々一般的な身長だった気がしないでもなかったから、理解できなかった。そーか、そーか。ははは。成程、成程。今ならエドワード・エルリックの気持ちが、よく分かる……!

 

 俯き、小声でボソボソと呟きながら近づいてきた少年に、ベートが怪訝な表情を浮かべる。自分はLv.5。目の前の相手との実力差は明らか。だがその異様な様子に、文句でもあるのか、と手を伸ばそうとした、次の瞬間。

 

「だ・れ・が――――」

 

 青い雷光を身に纏いながら、目の前の小人族(パルゥム)が、胸の前で両手を打ち合わせた。

 

「ミジンコドチビだ、クラァッ!!」

 

 地面を打ち鳴らした瞬間。ベートの周り、数(メドル)が、『穴』へと変わった。

 

「は……?」

 

 状況を一瞬理解できず、また掴まる場所もなかったので、そのまま彼は下へと姿を消した。それを見届け、ふーっと息を吐くと、ご丁寧に穴の跡をキッチリと塞いでしまった。

 

「………………あの」

 

 そこまで一連の犯行を、『剣姫』は見ていた。本来なら、仲間に危害を加えた相手に怒らなければならないところだろうが、彼女自身、状況の著しい変化についていけていなかった。

 

「……あー、悪かったな。アンタの仲間、下に落としちまって……」

「……うん、大丈夫。ベートなら、あれくらいじゃ死なない」

 

 死ななければいい、という問題でもないだろうが。

 

「……もう行ったほうがいいよ。戻ってきたら、多分殴りかかってくるだろうし」

「あ、そうだな。いい加減、装備も洗わなきゃいけないしな」

 

 咄嗟に返り血から飛びのいたが、それでもミノタウロスの血は装備に飛び散っていた。すぐに洗い落とさないと、においが残るだろう。

 

「そいじゃ、な。助けてくれてサンキューな」

「ん……」

 

 『剣姫』と別れ、相棒を探すためにも、地上へと足を向けた。

 




ついに禁句が発動。やっぱりベートはトラブルメーカーw
いくらレベルが高くても足場が無ければ重力に従うしかないわけで。

アイズと話し込んでますが、別に彼女をヒロインにする予定はありません。あしからず。

次回更新も明日の予定です。

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