ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――これからあんた達が元の身体取り戻すまで、私が全力でサポートするって決めたんだから!


第63話 彼と彼女の看病

 

 ラキアによる第六次オラリオ侵攻、その戦いは未だ都市郊外で行われているが、エドに関していえば、戦争参加は終了し本拠地(ホーム)に帰ることになった。それと言うのも、キング・ブラッドレイとの交戦の折り、左腕に穴を開けられ、右腕の機械鎧(オートメイル)は叩き斬られた。そのせいでパーツ交換と修理のため、都市に戻ることになったのだ。

 

 帰還が許されたもう一つの理由としては、元々エドの従軍は敵の士気を削ぐのが目的だったこともある。相手の士気がブラッドレイ将軍という個人に左右されている以上、巨大人型兵器(ロボット)で蹂躙されても大して士気も下がらないという判断もあった。

 

 かくして、エドは都市へと帰還し、晴れてダンジョンにも再び潜れることになったのだが……。

 

「なーんで、帰って早々寝込んでるんですかねぇ?」

「う゛~、う゛るぜえ……」

 

 現在エドは≪ミアハ・ファミリア≫の私室にて、高熱を出して寝込んでおり、リリが傍らの椅子に座って体温を確認していた。こうなった理由も実はブラッドレイとの戦いであり、グリードが限界近くまで『全身硬化』で戦ったせいである。身体に極度の負担がかかって、寝込む羽目になったのだ。

 

「……まあ、いいです。私は今日はダンジョンに潜る予定もありませんでしたし、少しついててあげます」

(わり)いな……」

 

 そう言って、リリは近くに置いた洗面器で濡らしたタオルを絞り、額へと乗せた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一方そのころ、ダンジョン内にて。

 

「――それにしても、エドの熱って大丈夫なんですか?」

 

 中層にて探索を続けるパーティーのリーダーを務める白兎の少年が、同じパーティー内の犬人(シアンスロープ)の弓使いの少女に聞いていた。弓使いの少女が、質問を受けて顔を上げる。

 

「……だいじょぶ。本人もしばらくすれば治ると言ってた」

「ん? しかし、ナァーザ殿。心配したリリ殿がわざわざ(・・・・)ダンジョン探索を(・・・・・・・・)休む(・・)ほどなのでは?」

「私たちも、お見舞いに行った方が良かったんじゃ……」

 

 弓使いの少女の言葉に、極東の女性剣士と狐人(ルナール)の少女が疑問を呈す。それに対して答えたのは、弓使いの少女と同じ派閥に改宗した二人の女性冒険者。

 

「大丈夫よ。むしろ、私たちが行ったら二人の邪魔ね」

本拠地(ホーム)の居残り組も、夕方お店閉めるまで絶対にエドの私室に近づかないように厳命してありますし……」

 

 二人の言動に、白兎と極東の女性剣士が首を傾げる。対して狐人(ルナール)の少女は意味が分かったのか、途端に赤面した。

 

「……つまり、エドの奴は色んな意味で『食われる』寸前ってことか?」

 

 直截的な表現をしたのは、鍛冶師の青年。もっともその表現にあまり差異はないのか、≪ミアハ・ファミリア≫の三人は神妙な顔で頷いた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 場面は戻ってエドの私室にて。一度席を外したリリがパン粥を持って入って来た。

 

「熱だけですから、本当は普通の食事でもいいんでしょうけど、たまにはこういうのも良いんじゃないですかね」

「あー……確かに胃に負担かけない物の方がいいか」

 

 そう言ってエドが粥の器を受け取ろうとしたが、リリは一向に器を手渡そうとしない。それどころか、実に不吉な感じの笑みを浮かべた。

 

「もー、なにやってるんですかー、エド」

「? え?? え、なに?」

「エドは病人なんですから、私が食べさせてあげます」

 

 そう言うとリリは器を乗せたお盆を寝台(ベッド)近くに置き、そのまま匙で掬った粥を息を吹きかけ冷まし始めた。

 

「ふ~、ふ~~」

「おい、ちょっと待て。何かお前、楽しんでやってないか」

「何言ってるんですかエド。後でからかうネタが大量に出来るなんて、思ってもいないですよ」

「自白してんじゃねぇか!?」

 

 そんなエドの突っ込みには答えもせず、リリはたった今覚ました粥を近づける。もはやエドにとって、これは食事ではなく、ひたすら赤っ恥をかくだけの理不尽な世界へと変わった。

 

「……………………あむ」

「ふふ、味はどうですか? 少しばかり自信があるのですが」

「…………美味い」

 

 たった一口でエドの顔は真っ赤に染まり、口からは溜息が漏れた。もっともリリが手に持っている粥の量を思うと、もはや死地に赴く兵士のような顔つきへと変化していった。

 

 それから数分、エドにとって永遠の責め苦のような食事が終わった。そこでリリがエドの体温を確認すべく、互いの額をくっつけた。

 

「んー、まだ熱がありますね……いっそ、すぐに熱が下がる≪ミアハ・ファミリア≫特製の解熱剤を使いますか」

「は? そんなのあったのか」

 

 リリが出したのは薬包紙にくるまった一揃いの薬。それも錠剤のようだった。

 

「この薬なら、すぐにも回復できますよ」

「………………なあ、リリ。俺もここ一年半『青の薬舗』で店番した経験があるんだが、こんな薬見たことないぞ」

「それはそうです。これは注文が無いと作らない特殊な薬らしいですから」

 

 そう言ってゆっくりと、リリが包みを開いていく。出てきたのは、真っ白な錠剤だった――――但し砲弾型の。

 

「『坐薬』になってますから、すぐに熱下がりますよ!」

「やめてくださいおねがいします」

 

 必死になって頼み込み、何とか坐薬の使用だけは取り止めてもらった。

 

「仕方ありませんね……それなら身体を拭いてあげます。寝汗かきましたよね」

「は? 待て、待て待て待てまてぇッ!!」

 

 寝間着の前を強制的に開けられ、脇や二の腕などを無理矢理に拭かれた。

 

「……今日はホントにどうしたんだよ。今日のお前、なんかおかしいぞ」

「…………」

 

 リリはそれには答えず、やがてエドの身体を拭き終わり、タオルを再び洗面器につけた所で振り返った。

 

「左腕に大怪我して、しかも高熱出るまで身体に無理して戦ってきた、馬鹿な恋人への罰です」

 

 その言葉で合点がいった。そして、それだけ心配させたという事も自覚した。

 

「……本当に、わりい……」

 

 エドにはそれしか言えなかった。

 

「皆は二人の時間作れとか言ってましたけど、今日はそんな気分でもありませんし、エドが寝付くまで付いててあげます。安心して眠って下さい」

「いや、リリにそこにいられると落ち着かないと言うか……」

「つべこべ言わない!」

 

 ぴしゃりと文句を両断され、エドも溜息を吐きながら布団を身体に纏った。その横で、リリはポン、ポンとリズム良く布団を叩いていた。

 

 夕方、ナァーザたちが帰って来てエドの私室を覗き込むと、ベッドの中で安らかに眠るエドの姿と、その布団に突っ伏すように眠る安心しきった顔のリリの姿が見られたという。

 




看病話、終了。後、イチャイチャのシチュとして何があったか……

次回なんですが、更新の間が一日空きます。そして目先を変えて、未来の話をやってみようかなと思っています。エドとリリの未来の話をやって、この番外投稿も一応の完結を考えています。次の巻読んで絡められそうなら、また番外で追加するかもしれませんが。

そう言うわけで番外投稿、次(明後日予定)で最終回です。

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