ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――自分の城に入るのに、裏口から入らねばならぬ理由があるのかね?



第60話 めぐりあう因縁

 これは今より二十年ほど昔の天界で起こった事件。

 

『何故だ!? 何故こんなことが!!』

 

 頭を掻き毟り狼狽を露わにするのは、この天界において、死を司る神。人間など及びもつかない絶対なる超越存在(デウスデア)

 

『有り得ない、有り得てはいけない……!』

 

 その神が、狼狽し普段からは考えられない醜態をさらしている。目の前に佇む一介の魂は、それを見て薄く笑んだ。

 

――ふむ、そこまで有り得んことかね?

 

『当たり前だ! 何故、何故お前は……!』

 

 隔絶した存在であるはずの神が質問に答える。これもまた有り得ないことだが、構わずその死の神は言葉を続けた。

 

 

『何故お前の魂は、『魂の洗浄』が行われても記憶が消えない?!』

 

 

 それはあってはならない異常事態(イレギュラー)。だというのに、その当事者たる目の前の魂は嘆息しながらこう答えた。

 

――何も不思議ではなかろう。神を名乗る君らの『魂の洗浄』では、私が内包する魂を洗い落とし切れなかった。それだけのことではないのかね?

 

『ぐっ、こうなればもう一度『洗浄』を――』

 

――それは御免こうむる。確かこうなる前に、『魂の洗浄』は一度きりで、終われば次の生を与えられると言っていたな。それが天界の掟だ、とも。まさか神自らが、掟を破るつもりかね?

 

『ぐ、ぐぐぐ……』

 

 反論を封じられ、ぐうの音も出なくなった。神といえどもこの程度かと再度嘆息し、そのまま最初に教えられた転生へと至る出口へと向かった。

 

――さて、まさかこうなるとは。この先の生涯では、私を湧き立たせる戦場には果たして出会えるのか?全く、人間と関わると退屈することがない。

 

 『洗浄』されようとも、決して消えることなき一つの『感情』。それを抱えたある『魂』は、こうしてある世界へと降り立った。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 迷宮都市オラリオ。そのダンジョンの一角にて、今日も今日とてモンスターと冒険者の戦闘が起こっていた。

 

「ハアッ!!」

 

 暗闇を切り裂く、一筋の白光。深紅(ルベライト)の瞳持つその光は、今やオラリオの注目の的となった冒険者、ベル・クラネル。彼が縦横無尽に振るう二本の短刀が、たちまちアルミラージの群れを切り裂いた。

 

「おうらっ!」

 

 野太い声を上げ、ヘルハウンドの一角を引き付けるのはヴェルフ・クロッゾ。魔剣鍛冶師クロッゾの末裔。

 

「後方より敵増援来ます! アルミラージ十二!」

 

 スキル『八咫黒烏(ヤタノクロガラス)』で周辺の警戒を進めるのはヤマト・(みこと)。≪タケミカヅチ・ファミリア≫から一年限定で改宗している上級冒険者だ。

 

「ナァーザ団長! 狙撃で数を減らしてください!」

 

 言いながら『ファング・バリスタ』でヘルハウンド二匹をハリネズミにしていくのは、リリルカ・アーデ。純粋なサポーター職から、最近では後衛よりの冒険者へと変化していた。

 

「……了解」

 

 短い返答とともに、増援が現れた通路の入り口に矢の雨が襲う。犬耳と尻尾が生えた彼女の名前は、ナァーザ・エリスイス。冒険者に復帰したばかりとは思えない腕前だった。

 

「わ、私も参ります!」

 

 若干慌てたような声に、全員が振り返る。彼女の名前はサンジョウノ・春姫。Lv.1のサポーター兼妖術師で、そして、彼女が引き抜いたのは、海を干上がらせたり砦をふっ飛ばしたりすることもある『クロッゾの魔剣』。

 

「え」

「あ」

「ちょ」

「……うわー」

「オイ、それは非常用――」

 

「えーい!!」

 

 非常に可愛らしい掛け声とともに、魔物の群れは消し飛んだ。

 

 ……戦闘終了後、ヴェルフは正座する春姫の前で仁王立ちしていた。

 

「……俺は、非常用だって言ったよな」

「……はい」

「……しかも、周囲の安全確認も怠ったよな」

「…………はい」

 

 二人の視線の先には、毛先が微妙に焦げてカールしているベルの姿。他の人員は全員避けたが、一番魔物に近かったベルは、魔剣の焔にモロに巻き込まれた。『サラマンダー・ウール』を纏っていて、しかも回避能力がパーティーでもっとも高いベルでなければ死んでいただろう。

 

 その後しばらくヴェルフの説教が続くのを横目に見ながら、リリはふとダンジョンの天井を見上げた。

 

(エドは……今、どうしているんでしょうかねぇ……)

 

 そんな彼女の様子を目ざとく感じ取り、非常にウザイ感じになった団長にからかわれるまで後十秒。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして、こちらは王国(ラキア)との戦場にて。

 

『おうらぁあああああああっ!!』

「「「ぎゃああああああ!!」」」

 

 その腕が振るわれるたび、人が、兵士が飛んだ。

 

『どっせぇえええええええっ!!』

「「「ひぃいいいいいい!!」」」

 

 その足が動くたび、人が、兵士が地面にへばりついた。

 

『ふんぬらぁああああああっ!!』

「「「もうやだぁあああ!!」」」

 

 余りにも、余りにも分かりやすい戦力差を見せつけられて、戦場の兵士たちの戦意はへし折れる寸前だった。

 

「ぬうっ、おのれえっ……!!」

 

 忌々しげに吐き出すのは、王国(ラキア)の全兵士を眷族とする世界最大規模の主神、『軍神』アレス。彼が率いるラキア軍は、いまや壊滅状態。そして軍の兵士のほとんどが、前線に出るのを嫌がっている。その原因は、今も日光を巨大なる全身に浴びて、雄々しく進撃していた。

 

 その様相は、普段の『Gアルフォンス』に比べても一際際立っていた。全身は黒鉄の肌で覆われ、関節はフィギュアにも使用された球体関節。更には腰巻じみた衣服は皺の一つ一つまで忠実に再現され、その特徴的な『仮面』の長い鼻も、大きな耳も、細部に至るまでくっきりと。

 

 つまり、何が言いたいかと言うと。

 

「そんなに目立ちたかったのか、ガネーシャァアアアアアアアア!!」

 

 試作型オラリオ防衛用特別仕様機、『(ジャイアント)ガネーシャ』は今日も絶好調ということだ。

 

 ……今回、エドの戦争参加を要請したのは、よくフィギュアを購入してくれる≪ガネーシャ・ファミリア≫だったわけだが、戦闘に参加するにあたり、エドの巨大人型兵器(ロボット)の形が比較的自由に決められると知ると、途端に形状の変更を求めてきた。主にお祭り好きで目立ちたがりな神ガネーシャのリクエストに応える形で。

 

「ハーッハッハッハッハ!! アレスよ、俺がガネーシャだ!!」

「聞こえてねえんじゃねえか? ここからじゃ」

 

 Gガネーシャの進撃を眺め、有頂天になるガネーシャに呆れているのはグリード。Gガネーシャはエドが操っているため、必然的に今この身体にいるのはグリードだけだ。しかし、さすがに巨大人型兵器(ロボット)を突破するような戦力は王国(ラキア)にも将軍級くらいしかいないため、かなり暇である。

 

「なんか、強敵でも出てこねえかねえ……」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――フム、味方は総崩れと言ったところかね?」

 

 戦場を俯瞰できる丘で、一人の兵士が馬上から戦況を眺めていた。とはいえ、さすがにこんな丘に登らなくとも、あの巨大な人形は一目で分かったが。

 

「ハッ、将軍。先行した軍勢のほとんどがあの巨大兵器と、高レベルの冒険者に蹂躙され、戦線の維持もままならない状態のようです」

「そうか。私も貴族連中に『他国の侵略に備え、王国の守護を行え』などと言う閑職じみた命令さえ出されなければ、すぐにも駆けつけたのだが」

「何を仰せですか。今回のこと、貴族出身の将軍のやっかみによるものであることは明白。だからこそ、戦況が危うくなったらすぐに命令を撤回され、最前線へ急行せよとの命令が下ったのではないですか」

「まあ、そうだな。どれ、これからの事を考えようか」

 

 そうして将軍と呼ばれた人物は、戦場を冷静に観察する。彼から見てもっとも近い戦場は、大戦斧(だいせんぶ)を振るうドワーフの冒険者が騎兵をなぎ倒す辺りと、そのすぐ後ろの巨大人形。

 

「あのドワーフは、恐らく≪ロキ・ファミリア≫のガレス・ランドロックだな……私が単騎で先行する。君らは後から来たまえ」

 

 そう短く告げ、その男は自身の愛馬をドワーフの元へと走らせた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――なんじゃあ?」

 

 ガレスが異変を感じたのは、突然だった。小高い丘から一騎の将兵が駆け下りてくると、周囲の兵士が次々と道を空け、希望を見出したかのように叫びを上げるのだ。

 

「『蛇眼将軍』だ……!」

「本当か!?」

「あれが『万夫不当』?!」

「『無双将軍』!!」

「将軍!」「将軍!!」「将軍!!!」「将軍!!!!」

 

 今の今まで死に体だった兵士たちが、たった一人の将兵の登場で息を吹き返した。

 

(まずいのう……)

 

 明らかに、兵士たちから絶大な信頼を集めている将兵の登場。ここで自分が叩かねば、戦況へ影響を与えることも考えられた。

 

 大戦斧(だいせんぶ)を横に構え、その将兵の前へと立ちはだかる。

 

「悪いが、ここは通せ――――」

退()きたまえ」

「?!!」

 

 馬上に視線を移した刹那、すでにその男は空っぽの鞍を残し、懐にいた。その両手に持ったサーベルが、宙に閃く。

 

「ぐがぁあああああああああああああああああああ!?」

 

 瞬殺。第一級冒険者の中でも類まれな耐久と膂力を持つガレスが誇る重鎧が、まるで役に立たない。その装甲の薄い部分や関節を、まるで狙い澄ましたかのように斬り裂かれ、ガレスは血の海へと崩れ落ちた。

 

『な――――?!』

 

 次に気が付いたのは、Gガネーシャ。崩れ落ちたガレスを一顧だにせず突っ込んでくる人影に目を瞠った。

 

『コ、コイツは!?』

 

 何かに驚きながらも、迎撃のためその巨大な足で蹴りを放った。

 

「無駄だ、若い冒険者よ」

 

 その巨大な足が、丸太のように斬り飛ばされた。バランスを崩したGガネーシャが倒れる中、ついに将兵はその後ろの天幕へと至った。

 

「誰かは知らんが、捕虜になってもらおう――!」

 

 特徴的な象の仮面をつけた神に対し、将兵は容赦なくサーベルを振るった。天幕に響き渡る、硬質な衝突音。

 

 サーベルは、横から滑り込んで来た『黒い炭素の色に染まった腕』が受け止めていた。

 

「これは………!」

「テメエは……!」

 

 攻撃した側と、防いだ側。双方が申し合せたように同時に飛び退いた。

 

「――ほお。まさかこんな隔たった世界で、こんな出会いがあるとは。つくづくこの世界は、面白い」

「なんで、テメエがここにいやがる……!」

 

 顔はあまり似ていない。そもそも年恰好が違いすぎる。だが、分かる。以前の年齢が60歳でも。今の年齢が二十代前半でも。『黒髪』に『四本のサーベル』くらいしか共通点がなくても。

 

 その『循環竜(ウロボロス)の紋章が刻まれた眼球』だけは、忘れない――――!

 

 

「『憤怒』のラース!!」

 

 

 人造人間(ホムンクルス)『憤怒』のラース。人間の名前を、『キング・ブラッドレイ』。

 魂洗われても決して消えぬ『憤怒』を抱えた『最強の眼』の男は、こうしてかつての因縁持つ『最強の盾』と再会したのだった。

 




というわけで、大総統復活!最初の様子のとおり、転生でダンまち世界の一般人になるはずが、『魂の洗浄』のバグでハガレン世界そのまんまでこっちに来ています。バグった理由は次回ですね。

ハガレン原作では60歳だったというのに、全てのキャラ相手に無双していた近接チートキャラ。戦車に勝利した時点で人外認定。二十代の全盛期な彼に、果たしてダンまち勢でどこまで戦えるのか。
ちなみにガレスはまだ生きてますよ?耐久高くて、オマケにレベル差があったため助かりました。

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