ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――ここに『賢者の石』があります――ただし!ただし、これを渡すには条件があります!
イシュヴァール閉鎖地区の解放、および各スラムにいるイシュヴァール人を聖地に帰すこと…そして……そこで私が…医者として暮らすことを認めてほしい!



第56話 戦後処理

 

「――どうやら、終わったようやな」

 

 摩天楼施設(バベル)の一室にて、巨大花が崩れ去り、その本体たるオリヴァスもまた『灰』になったのを確認し、ロキは一つ詰めていた息をほうっと吐き出した。

 

「にしても、ホンマに惜しいなぁ。ミアハの所の子供ら。団長はまだ常識的やったけど、無詠唱で爆発やら焔やら起こしたり、触れただけでモンスター破壊したり……挙句の果てには、巨大人型兵器(ロボット)て! 一人くらい、ウチにくれん?」

「すまぬな、ロキ」

「つれないなぁ……」

 

 そこで一度肩を落とすも、次に顔を上げた時、その表情は常に無く引き締められていた。

 

「向こうの決着も、今着いたみたいやな。アポロン、ウチが言いたいこと分かるか?」

 

 戦場を映し出した『鏡』の一つ、そこにはたった今ヒュアキントスを殴り飛ばし、勝利した白兎(ベル)の姿があった。彼らもまた、巨大な花のモンスターには気付いていたが、周囲を舞う土煙が晴れて気付いた時には一騎打ちの途中であり、結局巨大花の打倒の方が決着よりも早い結果となった。ベルは一騎打ちの機会を与えてくれた皆の想いに応えるため、ヒュアキントスは自身のLv.3としてのプライドと倒れた部下たちのため、双方激しい一戦であった。結局、ヒュアキントスが止めを刺そうと出した一撃に、ベルが渾身のカウンターを叩き込み、それが決着の一撃となった。

 

「あ。一応聞いとくけど、ミアハとドチビはあの顔だけの奴に心当たりとかあらんよな?」

「ない。そもそも昔から闇派閥(イヴィルス)の名前は聞いていても、施薬院では対抗することも出来ぬと、ダンジョンに行く子供たちに関わらぬよう言い含めるのが精一杯であったからな」

「ボクだってないよ! あんな危ない奴がいるって知ってたら、誰がベル君や他の子たちをあそこへやるもんか!」

「まあ、せやろなぁ……」

 

 ロキも『鏡』で見た限り、偶然あの場に居合わせたから彼らが撃退したとしか見えなかった。以前ベートから聞いた限り推定Lv.5相当のオリヴァス相手で、一歩間違えれば全員腹の中だったのだから、そこまで疑ってはいない。

 

「……何と言うても、闇派閥(イヴィルス)絡みや。アンタとソーマは、相応の取り調べは覚悟しておくんやな。ウチが言いたいのはそこまでや。ミアハ、ドチビ、もうええで」

「なんでロキに指図されなきゃいけないんだい?」

「まあ、良いではないか、ヘスティア。それより、今は……」

 

 ミアハの言葉に従い、ヘスティアもまたアポロンの方へと振り返る。その姿にアポロンがビクリと大げさに震え、その椅子の上で縮こまる。ここまで溜めに溜めた怒りのあまり、逆立ってビュンビュンと暴れ狂うツインテールをそのままに、彼女は般若の笑みを浮かべた。

 その横で、ミアハはあくまで笑顔。だがしかし、元々笑顔とは相手を威嚇する表情である。むしろいつもと変わらない笑顔を浮かべるミアハの方が、怖かった。

 

「それでは要求通り、≪アポロン・ファミリア≫の財産没収、解散、永久追放を」

「こちらは≪ソーマ・ファミリア≫の財産・酒類没収、一時解散を」

「「実行してもらおうか」」

「イヤァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 

 アポロンの絶叫により、『戦争遊戯(ウォーゲーム)』は幕を閉じた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)の後、≪ミアハ・ファミリア≫と≪ヘスティア・ファミリア≫の面々は、疲れをゆっくり癒すという訳にいかなかった。何せ闇派閥(イヴィルス)絡みのモンスター、それも深層域の強さを持った個体が、こともあろうにダンジョン外で街の衆目に晒されたのだ。ギルドとしても戦争遊戯(ウォーゲーム)の当事者に事実関係の確認、そして関与の捜査を行わなければならなかった。幸いミアハ・ヘスティア両陣営は敵陣営だったこともあり、すぐに解放されたが、≪アポロン・ファミリア≫は連日過酷な取り調べを受けることになり、主神であるアポロンもまた直接ギルドを運営するウラヌスから取り調べを受けることになった。厳しい取り調べで消沈したアポロンは、ギルドによって下された永久追放にも素直に従い、ヒュアキントスだけがその後を追うこととなった。

 

 そして、もっとも酷かったのは、≪ソーマ・ファミリア≫だった。闇派閥(イヴィルス)との深い関与は団長のザニスだけだったものの、その他の団員もザニスから与えられた過酷なノルマをこなすため、ほとんどが犯罪まがいか、犯罪行為そのものに手を染めていたのだ。その上、巨大花が出現した東側の城壁はザニス配下の団員が多く、そのほとんどが犠牲者となった。

 

 結局、ソーマ・ファミリアはその団員のほとんどが『恩恵』を封印の上、オラリオ外へ放逐。一部の犯罪行為を行わなかった団員については、厳重な取り調べの後、釈放。後の身の振り方は各自で考えることとなった。そして、情状酌量の余地があると認められたが、他の派閥からのスカウトなど見込めないサポーターについては…………。

 

「……………………なんで、こうなるんですか」

 

 リリの呟きが、虚しく響いた。場所は、もと『青の薬舗』が存在していた通り。そこに≪ゴブニュ・ファミリア≫から仕入れた材木と土嚢を積み上げる、元ソーマ・ファミリアのサポーターたちの姿があった。

 

 彼らは既に、神ソーマの眷族ではない。その背中に刻まれた『神の恩恵』はミアハのものであり、全員リリの後輩となった。それというのも、リリのソーマ・ファミリア時代の境遇を聞いていたミアハが、同じように苦しんだであろうサポーターたちを全員ギルドに頼んで引き受けたのだ。中には保釈金が必要になる者もいたが、それも全部払った。

 

「まあ、そこまで気にすることじゃないだろう。一気に後輩が増えたことを、喜べばいい」

「そういう問題じゃありませんよ、チャンドラさん! 『戦争遊戯(ウォーゲーム)』の賠償金でようやく≪ディアンケヒト・ファミリア≫や≪ゴブニュ・ファミリア≫への負債も完済し終えて、やっとこれからって時に、規模が増えたらギルドへの税金で圧迫されるじゃないですか! 大体貴方は元々ソーマ・ファミリアなのに、なんでいるんですか!!」

 

 目の前のドワーフの名前は、チャンドラ・イヒト。神酒を求めてソーマ・ファミリアに入り、犯罪には手を染めなかった朴訥な印象を受ける上級冒険者だ。

 

「あんな事件の後だ。俺達を迎え入れてくれるところなんて、そうそうないだろう。サポーター連中の監督と護衛役をこなすだけで、迎え入れてくれるというんだ。ミアハ様の慈悲を蹴る理由もなかろう」

「蹴った人もいますけどね……」

 

 アポロン・ファミリアの団員で、『戦争遊戯(ウォーゲーム)』終了まで捕まっていたルアン・エスペル。作戦とはいえ、参加すら出来なかった彼のこれからを考え、一応誘ってみたのだがムキになって断られていた。それからどうしたかは、こちらも知らない。

 

「団長もエドも、新人団員のこと、リリに丸投げって……。いや、再建で忙しいのは分かるんですけどね」

「よーし。これで仕入れてきた材料は全部だなー!」

「ふむ、ちょうど良いところに間に合ったようだな」

「……みんな、ご飯買ってきたから、休憩」

 

 そうこうするうちに、建築材料の運び込みが終了となり、未だに瓦礫の山のままである『青の薬舗』の手前や周りに材料が積まれた。それを監督していたエドがOKを出し、そこに専門の薬研や器材を購入に行っていたミアハとナァーザが戻って来る。漸く新旧≪ミアハ・ファミリア≫の全員が揃った。

 

「がはははは! 邪魔するぞぉ、ミアハぁ!」

 

 何故か、呼ばれてもいない神物(じんぶつ)が目の前に現れた。神ディアンケヒト。同じ施薬院の派閥ではあるが、負債を笠に着て散々嫌味を言ってきた相手なので、ミアハ・ファミリア全員から嫌われていた。

 

「ディアンか。一体、今日はどうしたのだ? おぬしのところへの負債は完済したはずだが」

「んー? 貧乏な癖に、生意気にも借金を返し、そのせいで本拠地(ホーム)の再建費用が足りないそうではないか! お前たちの間抜けさを笑いに来てやったのよ。がはははははは!」

 

 ……目の前の神は、どれだけ暇なのだ?ともあれ、一通り笑われた後、かなりイラっとしたナァーザが近くにいたエドへと指示を出した。

 

「……エド。ごー」

「あいよー」

 

 けだるげに両手を合わせ、地面へと降ろす。青い錬成光が瓦礫と建築材料へと奔り、地面から建物を生み出す。ほどなくして、目の前には清潔感溢れる白い漆喰で覆われた新たなる建築物が生じていた。

 

「…………は?」

「まあ、再建費用が足りないってのは、事実なんだよな。ほれ、新人団員ども。錬金術で建物建てると、あちこちに『錬成痕』っていう独特のムラ(・・)が出来るんだ。全体を滑らかにするため、手分けして漆喰で仕上げるぞ」

 

 エドの号令とともに、新人団員のサポーターたちが手分けして同じ色の白い漆喰を塗っていく。本職を雇うお金が無かったのは痛いが、何だかんだで人数も多いので、夕方までには終わるだろう。

 

「……それで、何を笑いに来たのだ? ディアンよ」

「ぐ、ぐぐ、ぐ……おぉのれぇえええええ!!」

 

 暇神な神ディアンケヒト様は、勝手にやって来て、勝手に怒って帰ってしまった。あそこの団員は苦労していそうだ。

 

「……まあ、あっちの神のことはいいです。問題は――――」

「あー、俺達の元主神様(・・・・)のことか」

 

 再建されていく『青の薬舗』のすぐ横の路地に、リリが目を向ける。そこにはまるで暗闇に溶け込むように蹲る一柱の神がいた。長く黒い前髪に覆われ、その瞳は見えない。

 

 元≪ソーマ・ファミリア≫主神、ソーマ本神(ほんにん)であった。

 




エピローグ前半終了。神ソーマとの決着、リリの告白の答え、ランクアップにパーティーのこれからと……まだ書いていないことが山積みなので、もしかすると後一話で終わらないかも。お盆が迫って来る……!

そして、大量に出来た後輩の世話で休む暇が無くなったリリwエドもナァーザも見捨てたくて見捨てたんじゃなくて、再建準備で忙しかったんです。錬金術で建築しましたが、あの錬成痕が気になるって人も出そうですよね。

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