ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
「ぎゃあああああああああ!?」
「こんなのどうしろってんだ!」
「待て待って待ってえええ?!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。まさにそんな光景が古城の東側の城壁で展開していた。
『オラ、どうしたぁ! オレを駆逐しようって奴はいないのか!!』
そんな地獄絵図を展開するのは、全長50
「――――エドが派手に暴れてるせいで、西側を気にしてる人員はいないぜ。今の内だ」
そんな時、西側の城門を開け、≪ヘスティア・ファミリア≫の三人を導き入れる存在がいた。≪アポロン・ファミリア≫所属、ルアン・エスペル。
「あれは、派手って規模じゃねえだろ……」
「むしろ、彼一人で大将も倒せたのでは?」
「エドってダンジョン外ならすごいね……」
全員が全員驚き疲れたような表情をしている。それにわずかに苦笑しつつ、『ルアン』は言う。
「200人もいれば、階層主と戦った経験がある奴も結構いるだろ。今は混乱してるから何とかなってるだけで、そのうち反撃に出てくる。その前に、アポロン・ファミリアの大将とベルとの一騎打ちの状況を作る。後は自力で何とかしてくれ」
「……分かった。場所は、図面の通りでいいんだよね」
「おう、こっちだ」
そうして彼が案内したのは、城壁から空中回廊のみで繋がった入口の無い尖塔。恐らくは城に後付けされたと考える、玉座の間を備える塔。
「この塔は外からは入れないが、中にはしっかり階段が付いていて、一階からも登れる仕組みだ。ベルは今回、下から登ってもらうぜ。他の奴は足止めだ」
「うん、皆も気を付けて」
「任せろ」
「ベル殿も」
そして塔にたどり着き、その壁に取り付いたところで、周囲の敵冒険者に見つかった。
「貴様ら、何をしている!!」
一人の男の声に反応し、周りにいた何人かがこちらへと走り寄って来る。それを見た『ルアン』は右手の手袋をはめ直すような仕草をし、塔の壁を叩いた。
『青い雷光』が奔り、壁に大穴が開いた。そして一拍遅れて、空中回廊に矢が突き刺さり、回廊そのものを爆発で崩し分断してしまった。
「な!?」
「行け、ベル。
「! あそこにいるのは、リトル・ルーキーだ! 何としても仕留めろ!!」
敵冒険者が慌てて止めに走るが、遅い。『ルアン』が右手を今度は地面に触れさせると、地面全体に縦横無尽に罅が入り、走っていた冒険者たちは足を取られた。
「どういうこと、ルアン!?」
そこに走って来たのは、空中回廊を守っていたアポロン・ファミリアの女性冒険者ダフネ・ラウロス。どうやら回廊が崩れたので、ロープか何かで降りてきたようだ。
「アポロン様の眷族の癖に、貴方裏切ったの?!」
「あっはっは、そんな方の眷族だった覚えはないなぁ――――【響く十二時のお告げ】」
魔法の解除式によって、『ルアン』だった人物の姿が変わる。現れたのは、両手にサポーターグローブを纏い、両脚に『ドラゴグラス』を履く一人の少女。
「お初にお目にかかります、アポロン・ファミリアの皆様。そして、お久しぶりです、ソーマ・ファミリアの皆様。≪ミアハ・ファミリア≫所属、見習い薬師、リリルカ・アーデと申します」
◇ ◇ ◇
「ヘスティア、ミアハ、貴様ら!!」
「落ち着くのだ、アポロンよ。本物のルアンなる者は、タケミカヅチが見張っておる。捕まえた時にコブが出来た程度で、怪我もしておらぬ」
「まあ、どの道、最初に奇襲なんて仕掛けてきた君が、文句を言う資格はないね」
「ドチビに賛成するのはシャクやけど、その通りやで。大体戦争前の奇襲は、よくある話やからな」
「そもそも警戒していない方が悪いわね?」
ミアハとヘスティアの言い分に、ロキとフレイヤと言う都市二大派閥が乗って来た。しかも正論であるので反論することも出来ない。
アポロンの『鏡』を見る視線は、徐々に鋭さを増してきていた。
◇ ◇ ◇
呆然としていた敵冒険者ははた、と我に返り、ダフネを中心に号令をかけ始めた。
「集団で囲んで潰せ! こちらの方が数は多いのよ!」
そんな風に号令を出しつつ、ダフネは内心毒づいていた。元≪ソーマ・ファミリア≫だという目の前の少女の情報は、アポロン・ファミリアに来てはいなかった。恐らくあのザニスという向こうの団長が、特異すぎる彼女の『魔法』をアポロンに取られることを恐れ、意図的に隠したのだろう。あの派閥と組んだこと自体、失敗だったと内心思い始めていた。
『うおおおおおおおっ!!』
咆哮を上げて突進してくるたくさんの冒険者。それに対して、かつてひ弱なサポーターだった少女は、ゆっくりと『左腕』のサポーターグローブに描かれた錬成陣を掲げ――――地面から大量のトゲを錬成した。
「ぎゃあああ!?」
「痛えええ!」
「なんだあ!」
勢い込んだ冒険者は全員が足を傷つけ、地面を転げまわった。その結果に、にこりと笑みを浮かべたリリが呟く。
「今日の日のために、死にもの狂いで会得した『再構築』の錬成陣です。さ、
「感謝します。【掛けまくも畏き――いかなるものも打ち破る我が
足止めされた冒険者の集団に向かって、走りながら詠唱を始める。あの18階層で目の当たりにした、リューという名のエルフには全く及ばない、走って詠うだけの詠唱。だけどいつかは、と彼女は望む。
「【フツノミタマ】!」
冒険者集団の中心にたどり着いたとき、彼女は自分を中心に重力魔法を展開。その場にいた冒険者のほとんどを足止めする。
「くっ、魔法よ、魔法で攻撃するのよ! 無事な魔導士から攻撃を――」
「【燃え尽きろ。外法の業】」
ヴェルフの声とともに、無事だった魔導士が爆炎に包まれた。
「それじゃ、ここはもういいですね。私はエドとグリードの方に合流して、城内の他の冒険者を掃討します」
「おう、任せとけ!」
ヴェルフの返事を背中に受け、東側の城壁を目指す。手筈通りなら、Gアルフォンスと一緒にグリードも突入して、取りこぼしを刈り取っているはずだ。自分に出来るのは援護くらいだろう、とその時はそう思っていた。
「アァァァァァァデェーーーッ!!」
「!?」
突然の叫び声に、咄嗟に飛び退くと、足元に片手剣が突き刺さった。飛んできた方角に振り向くと、ソーマ・ファミリア団長のザニスが口角泡を飛ばしながら、階段を駆け下りてくるところだった。
「よくもやってくれやがったな、この糞サポーターがぁ!」
もはや取り繕う余裕もないのか、口調がかなり崩れて素になっている。彼女自身、ザニスのこんな様子は初めて見た。
「だがなぁ! 結局無駄なんだよ! お前たちは逆立ちしたって、この方には勝てないんだ!!」
そう言って示した先にいるのはカヌゥ。だが、どうにもおかしい。目はうつろだし、顔にまるで生気が感じられないのだ。
「オイ、どうかしたか、リリルカ」
そんなところにグリードが走って来た。エドはまだ、Gアルフォンスの中。何となく彼が近くにいないことに心細さを感じつつ、目の前の敵を警戒する。
「さあ! どうか、そやつらを血祭りに――――」
言葉は、そこで途切れた。
「な――」
「おい……」
目の前で、カヌゥの腹から触手が生え、一瞬でザニスの首を胴体から弾き飛ばしたのだ。ゴロリと首が転がり、胴体も遅れて倒れた。
『な、何だこりゃあ!!』
エドの大きな声に振り向くと、Gアルフォンス全体に地面から植物のようなものが絡みつき、動きを封じていた。ギシギシと音をたて、『鎧』が軋みを上げる。
「ちっ、エド、戻ってこい! 何か変だ!!」
『分かった!!』
エドが自分自身に両手で触れ、鎧に生気が失くなる。そして、隣にいた本来の身体に戻って来た。
「何がどうなってんだよ?」
「カヌゥの様子が変なんです」
その言葉に、目の前の
「ふん、こんな屑冒険者と一緒にするな」
それはかつて聞いたカヌゥの声とは似ても似つかぬ声。そして、その声は、口ではなく、『腹』から聞こえてきた。
やがて、カヌゥだったその存在は、徐に衣服の前をはだける。そこにあったのは、信じられないものだった。
「なっ……!」
「ひッ?!」
その腹には、会ったことも無い男の『顔』が肉に根付くように貼り付いていた。そして、その額の部分に、『極彩色の魔石』が顔を出していたのだ。
「畏れよ、愚かな神の走狗ども。我が名は――――――」
◇ ◇ ◇
「あの男は!?」
ヘルメスのお付きとして、唯一
◇ ◇ ◇
『鏡』にかじりついて見ていた≪ロキ・ファミリア≫の中でも驚愕が伝播していた。
「う、嘘…………!」
「あンの野郎、灰になったはずだろォが!?」
横にいたベートも同様だった。確かに『鏡』の中の男は、目の前で『灰』になったのだ。見間違えるはずもない。
「…………!」
アイズもまた、その男は記憶していた。それはもう一月程前、あの
◇ ◇ ◇
「そんな……馬鹿な…………!」
≪ディオニュソス・ファミリア≫の執務室も同様だった。主神であるディオニュソスと共に映像を見ていた団長のフィルヴィス・シャリアにとって、その男は仇敵と言っても良い存在だったから。
「――――――オリヴァス・アクト!?」
かつて24階層の
ラスボス『白髪鬼』がログインしました。この人物は本来外伝の登場人物なんですが、色々ハガレンに似た要素を含む人なので、ラスボスに抜擢。何で生きてるかは次回です。