ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――神の鉄槌、喰らっとけ!!


第52話 戦争遊戯、開始

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)前日。攻城戦の舞台となる『シュリーム古城跡地』の近く。ここに集まった≪ヘスティア・ファミリア≫と≪ミアハ・ファミリア≫のメンバーは打ち合わせに余念が無かった。

 

「――これが、リリが入手してきた古城内部の見取り図……」

 

 ≪ミアハ・ファミリア≫団長、ナァーザ・エリスイス。彼女が示した絵図面を覗き込み、作戦を話し合う。

 

「やはり堅牢ではありますね……」

 

 ≪ヘスティア・ファミリア≫新入団員、ヤマト・(みこと)。≪タケミカヅチ・ファミリア≫の一員だった彼女だが、先日中層で親友である千草を救ってくれた恩義に報いるため、一年限定でヘスティア・ファミリアの一員となったのだ。

 

「こうなると、やはり『魔剣』が必要だったんじゃないのか? 本当にそれだけで充分なのかよ」

 

 同じく≪ヘスティア・ファミリア≫新入団員、ヴェルフ・クロッゾ。≪ヘファイストス・ファミリア≫に所属していた彼ではあるが、友であるベルの窮地に改宗(コンバージョン)してまで駆けつけた。そんな彼は、忌み嫌ったクロッゾの血で生み出せる『クロッゾの魔剣』を断られたことに訝しく思う。

 

「こんな衆人環視の中で、『クロッゾの魔剣』なんか使えば大騒ぎだろうが。オレの槍とナァーザ団長の長弓(ロングボウ)を新調してくれただけで充分だよ」

 

 ≪ミアハ・ファミリア≫団員、エド・エルリック。その手に掲げる槍には循環竜(ウロボロス)の紋様が刻まれ、シンプルな作りながら今まで使っていた間に合わせの槍とは一線を画するものであった。

 

「……でも、本当にいいの? 僕が全体の大将役なんて……」

 

 ≪ヘスティア・ファミリア≫新団長、ベル・クラネル。彼は今回『ヘスティア・ミアハ連合軍』の大将を務めることになった。相手方の大将は、≪アポロン・ファミリア≫団長ヒュアキントス・クリオ。アポロン・ファミリア唯一のLv.3であり、実力的にも妥当と言えた。

 

「……だいじょぶ。構わない」

「ウチのナァーザ団長はブランク長いし、オレも含めてここにいる全員の中で、近接戦で一番強いのはお前だからな」

「期待してるぜ、大将」

「ベル殿、くれぐれもお気を付けを」

 

 この戦争遊戯(ウォーゲーム)の形式は、『互いの軍の大将がやられたら負け』、というもの。もっとも近接戦闘能力が高い人間に任せるのが妥当だった。

 

「さて、それじゃあ……」

「ああ、明日中にあの城を落とすぞ」

「おっけー……」

「ええ……」

「……行こう」

 

 戦いが、始まる。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 その日迷宮都市オラリオは、ダンジョンにも入らず、昼間から開いた酒場で酒を飲む冒険者でにぎわっていた。そして、正午。都市の至るところで虚空に舞台となる『シュリーム古城跡地』を映し出す『神の鏡』と呼ばれる円形の『窓』が現れ、号令の時を迎えた。

 

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)――――開始です!!』

 

 

 号令を受け、街は喧騒に包まれる。とは言え、開始期間は三日とされており、初日の立ち上がりは落ち着いたものとなった。

 

「――さて、開始したようだが、ヘスティアもミアハも、眷族(こども)たちに別れは告げてきたかい?」

 

 アポロンの嘲りを含めた呼びかけに、両名は何も語らない。ただ『鏡』を見つめ、沈黙している。何の反応も返ってこないことに少しばかり不満を抱いたアポロンが追撃を加えようと口を開くと、『鏡』を面白そうに眺めていたロキが何かを見つけた。

 

「――なんや、あれ?」

 

 その言葉にアポロンが振り向き『鏡』を見ると、北側の城壁からおおよそ300(メドル)の位置で、地面が塔のようにせり上がっていくのだ。そうして、奇妙な変化が終わり、北側の防護に当たっていた冒険者が警戒を強めていると、コツ、と軽い音とともに、彼らのいたすぐ近くの城壁に、妙な包みのついた矢が突き立った。

 

 立て続けに起こる妙な状況に、思わずその矢を抜いてみようと手を伸ばした瞬間――――視界一杯が爆炎に染まった。

 

『――――――――!!』

 

 爆音とともに城壁にいた冒険者の一部が吹き飛び、地面へと墜落する。その様子をアポロンは呆然と見つめていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「……よーし」

 

 第一矢の戦果に口元を緩め、ナァーザは次いで同じ弓矢を次々発射する。その弓矢に取り付けてあるのは、彼女の特製『黒色火薬』に導火線を取り付けたもの。エドから教わった製法で、『調合』アビリティ持ちの彼女が作製することで、爆発力が上昇した危険物。それを撃つに当たり、エドに頼んで城壁の倍の高さに位置する、数十M規模の『矢倉』を錬成してもらった。弓使いにとって、高さと距離を押さえてしまえば、負けることなど有り得ない。

 

 城壁に押し寄せ、今もなお対抗して矢を放つ敵兵を爆破しながら、彼女はふと下へと意識を向ける。

 

「……あと、よろしく」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ナァーザ団長の『矢倉』から離れること200M程、城壁の手前100Mの位置にエドがいた。

 

「……それじゃあ、本気で見せてやるか。生と死の狭間で、自分(てめえ)理念(エゴ)をどこまでも貫こうとした、一人の錬金術師の錬成陣(ちから)を」

 

 その両方の手の平に描かれているのは、18階層でも描かれたもの。右手には『逆三角形に太陽』、左手には『三角形と三日月』を描く――『紅蓮』の錬成陣。

 

「そんで、コイツを上乗せする」

 

 口の中からベロリと出すのは、『紅い球体』。ここ一週間、就寝前に自分の精神力(マインド)をギリギリまでつぎ込むことで完成した、『賢者の石』の結晶体。

 

「あの錬金術師の代わりにオレが聞いておいてやる――――お前らは『いい音』を奏でるのかをな」

 

 パァン、と渇いた音と共に両手を合わせ、地面へと振り下ろす。その手が触れた瞬間、地面がボコボコとへこみ、そのへこみの波は城壁へと至った。

 

 最初は、ゆら、というわずかな変化だった。次には城壁全体がゆら、ゆら、と落ち着かなく揺れ始め、遂には冒険者たちが立っていられない程に揺れ始めた。そうして誰かが、自分たちの捕まる城壁の内部が赤く滾っているのを感じ――――最後に彼ら全員が、『城壁の爆弾』によって空中へと吹き飛ばされた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「うおおおおおおおおッ!?」

「オイ、詠唱しなかったぞ!」

「無詠唱で城壁消し飛ばすとかーー!!」

 

 神達が騒ぎ立てる中、『鏡』の中は信じられない惨状となっていた。『爆弾』に変えられた北側の城壁は四つ角の尖塔の辺りまで消し飛んでいるのだ。城壁の上にいた者たちは残らず地面に墜落しており、ピクリとも動かない。

 

「な、ななななな……?!」

 

 さすがのアポロンも、これには絶句。今のは明らかに、Lv.2程度の『恩恵』で成せる破壊ではない。城壁に半分は混ざっていたであろう自分の眷族たちの身を案じ、顔を青くする。

 

「安心せよ、アポロン」

「は? なに……?」

「ナァーザには予め、高等回復薬(ハイポーション)を大量に持たせてある。死んでいなければ(・・・・・・・・)、勝負が決した後で治療は我らが行おう。まあ、リヴィラ基準(ぼったくり)で料金を得るよう伝えてもあるが」

「待て、ちょっと待て! お前たちがもし万が一勝った場合、こちらの派閥の財産は差し押さえだったはずだ! その治療費は一体どこから出すのだ!」

「無論、各冒険者の貯え(ポケットマネー)だ」

 

 その言葉にアポロンはゾッとした。ミアハはもし勝った場合、自分の所とソーマの所の財産を本当に一ヴァリスも残さない気だ。この言動でよくわかった。

 

「あら、貴方の所の子、反撃に出るみたいよ?」

 

 『鏡』から視線を離さなかったヘファイストスの言葉に振り向き、にやりと笑う。視界の中では、100人を超える冒険者に遠巻きに囲まれ、絶体絶命の『循環竜(ウロボロス)』の姿があった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

『ヒュアキントスの命令だぁッ!!? 同盟軍100人で、一気に錬金術師と弓使いを潰せえ!!』

 

 城内に響き渡る小人族(パルゥム)の声。アポロンの小姓のような位置におり、先日酒場でベルに喧嘩を売る役までやらされたルアンという男の声だ。

 

 その命令内容にいささか眉を顰める者もいたが、明らかに攻城兵器のような能力を持つ敵二名を倒すのが先、と割り切って100人以上の冒険者が城壁から100Mの場所でエドと対峙した。

 

 明らかな、過剰戦力。とは言え城を守るため一刻も早く落とすと決意するが、エドが僅かに笑み、懐をまさぐり始めたことでにわかに緊張が高まった。取り出したのは、『紅い塗料』で何かの図形が描かれた金属板。そんなものをどうしようと言うのかと全員が疑問に思う中、地面に置かれたソレへとエドが合わせた両手を静かに置いた。

 

 バチバチ、と見たことも無い青い雷光が地面へと広がっていく。ぐちゃぐちゃにミックスされていたであろう地面を、あたかも吸い取るように金属板のあたりの地面がせり上がり、全体が『何か』を形作っていく。

 

「…………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 目の前で形作られていく物の全容を認識した時、迎撃を指揮していた中隊長リッソスは自分の眼を信じられなくなった。

 

 全長約50M。そんなバカげた大きさの巨大な『鎧』が屹立したのだから。そして、完成した『鎧』は、周りを囲む彼らではなく、都市で見続けているであろう者たちへとメッセージを告げた。

 

 

『オラリオに住むすべての漢達に告げるぜ。こいつの名前は『(ジャイアント)アルフォンス』。そして――――巨大人型兵器(ロボット)は、漢の浪漫(ロマン)だ』

 

 

 その言葉と共に、身の丈と同じ50Mの長さの槍を振り回し、リッソスを含め100人の冒険者は一様に意識を飛ばすこととなった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

巨大人型兵器(ロボット)キターーーーッ!!」

浪漫(ロマン)兵器ktkr!!」

「ミアハーーーーッ! あの眷族(こども)、≪ロキ・ファミリア(ウチ)≫にくれんか!?」

 

 超弩級の攻撃方法に、見ているだけだった神連中は、一瞬でエドのファンになった。特に騒ぎ立てているのは男神たちで、不変の好奇心を持つ彼らはもうすっかり巨大人型兵器(ロボット)の虜だった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

『うおおおおおおおッ!!』

 

 掛け声とともに、巨大な鎧が東側の城壁へと槍を突き入れた。ここでようやく周囲の冒険者が群がって来るが、そのすべてが槍での『薙ぎ払い』どころか、ただの足での『払いのけ』であえなく吹き飛んだ。

 

 そんな圧倒的な光景を、城壁の一角で見ていたザニスは、顎が落ちるほど驚愕していた。

 

「ば、化け物風情が……! 何と言う…………!」

 

 そして狼狽するザニスを、焦点が定まっていない瞳を以て、隣で静かに眺めている人物がいた。狸系統の犬人(シアンスロープ)。先日暗闇で死んだはずの人物。

 

 

 カヌゥ・ベルウェイという男がいた。

 

 




前半戦終了。ベルサイドの味方の動きはほとんど同じとなりますが、そもそもいなかったナァーザやエドはかなり独自に動いてます。そのせいで古城の城壁がくだけましたw

自作『玉薬』や『紅蓮』の錬金術もいいですが、巨大人型兵器(ロボット)もまた一つの浪漫です!

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