ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
「――よし、行くか」
「だ、大丈夫なのかな?」
「まあ、いきなり取って食われたりはしないでしょう」
目の前にそびえるのは≪ロキ・ファミリア≫
「止まれ!」
「一体何の用だ!」
入口近くで門番に留められ、『剣姫』を
「よく来てくれたね、三人とも」
「……先日ぶりだね」
「やっほー、アルゴノゥトくーん!」
会議室の中にいたのは、フィンさんと『剣姫』。他に何故か『
「今日来た用件は、先程君たちを助けたことの真意だね?」
「ああ……」
「団長、アイズに勝手に動くなって言っといて、自分だけ助けに行ってたんだよね? それってズルイよー!」
「それについては仕方ない。アイズと来たら、堂々と顔を晒したまま行こうとしていたからね」
「……」
フィンさんの指摘に顔を背ける『剣姫』。本当はベルの方を助けに行こうとして、止められてたのか。
「まあ、君たちを助けた理由としては、先日と同様さ。但し、今回誘おうと考えているのは一人だけだ」
「……どういうことだ?」
こちらの質問に答えず、視線だけをリリの方に向けた。
「リリルカ・アーデ――君を改めて、≪ロキ・ファミリア≫に迎え入れたい」
こちらは愚か、同席していた『剣姫』やティオナさんまで絶句した。つまり少女一人を派閥に獲得するために、中堅クラスの派閥との抗争に介入したのか?
「あの……先日もお話しした通り、今の派閥を離れるつもりは……」
「確かにあの時はそうだった。でも今は、状況が違うだろう?」
「っ、……」
その指摘にリリが歯噛みする。確かに状況は変化した。自分たちはこれから
「今回のこと、ソーマ・ファミリアが動いたのは、元団員だった君を取り戻すためだと見ている。異常に金策に走るあの派閥が君を取り戻そうとするということは、君の『スキル』か『魔法』か、はたまた『技術』がネックだろう。恐らく何か大きな取引か儲け話に、君の力が必要になったんじゃないかな」
「…………」
「彼らは、相手がミアハ・ファミリアという零細ファミリアだから
フィンの申し出に、リリは迷う。彼の指摘通り、今回の事件の原因は自分だろう。そのせいでミアハ様もナァーザ団長も、そしてエドも帰る家を失った。自分は彼らの足手纏いではないかと思い悩む。
「どうして……リリにそこまでして下さるんですか?」
「ふふ…………」
そこでフィンさんが一度言葉を切り、真意を告げた。
「出来るなら将来君に、僕の『伴侶』になって貰いたいからかな?」
…………空気が、死んだ。
「………………………………………………………………………………………………は?」
「おや、伝わらなかったかな? 僕の
「いや、意味は伝わってます! そうじゃなくて、どうして私なんかを!?」
リリは、顔を真っ赤にして問い詰めている。対して、エドはやけに静かだった。静かにその手に、発火布を着け始めた。ベルや『剣姫』はその横で、ハニワみたいに目と口を丸くしていた。
「先日話した通り、僕は『一族の復興』のためにこのオラリオに来た。そしてある程度名声と実力を手に入れることは出来た。だけど、足りない。将来僕が死亡すれば、この名声は一過性のものに終わってしまう」
「…………つまり」
「そう。『後継者』が必要なんだよ。それも出来るなら僕の血を受け継ぐ純粋な
「……だとしても、リリである必要はないはずです。≪ロキ・ファミリア≫のフィン・ディムナと言えば、言い寄って来る女性だって、それこそ
「確かにね。だけど僕は自身の伴侶には、一つの資質を条件として考えている」
「資質……?」
「
「………………」
「もう一度言うよ、リリルカ・アーデ。ロキ・ファミリアに入り、僕の将来の伴侶になってくれないか?」
リリは、何も答えなかった。『伴侶』云々はとりあえず置いておくとしても、このまま自分がミアハ・ファミリアにいることは、全員の不利益になるのではないか?そんな考えが頭から離れないからだ。ならばいっそ、この話に乗ってしまった方が――――……
そう考えていたリリの前で、エドが動いた。横合いからエドの腕が守るように伸び、もう片方の発火布でフィン・ディムナの眉間に照準を合わせたのだ。
「…………って、何やってんですか、エド?!」
「うるせえ! リリは、ソーマ・ファミリアにも、ロキ・ファミリアにもやらねー! これは決定事項だ!!」
「おやおや。同じファミリアの同僚に過ぎない君が、彼女の意思を阻む権利があるのかな?」
「オレ達はミアハ様の血を分け与えられた
「可愛い家族の門出を祝うのも、家族の義務だと思うけどね?」
「それだけじゃねえ…………!」
そこでエドの顔が真っ赤に染まり、言葉が途切れる。何かを言おうとし、言葉を飲み込み、再度口を開け、深呼吸をし、やがて告げた。
「惚れた女守るのは、男の義務だろうがッ!!」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
周囲の五人分の沈黙の後、言葉の意味がようやく脳に伝わったリリが、一気に顔色を赤く変え叫んだ。
「えぇええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!?」
◇ ◇ ◇
部屋に響き渡った叫び声に、廊下で見張りをしていた二人が駆け込んできたが、何でも無い旨を伝え、一段落ついた現状。
テーブルに耳まで赤く染めて突っ伏すエドと、同じくらい真っ赤な顔で俯くリリが出来上がった。
「いや、あそこまではっきり宣言されるとは、僕も正直予想外だったかな」
「えっと、あの、フィンさんは、断られるかもとは思ってたんですか?」
「先日の酒場での一件は聞いているよ、ベル・クラネル。それに付随して街中に流れている噂もね。本人たちも特に否定していない様子だったし、もしかしたらと思ってはいたんだ。まあ、二人の仲に割り込むとしたら、このタイミングしか無かったのも事実だけどね」
……つまりは、ロキ・ファミリアへの移籍話も、このタイミングで了承しなければ無理な話だろうと予想して、話を持ってきたという事だ。ズルズル話を引っ張らず、絶妙のタイミングで仕掛けてきた。そして、気持ちをはっきり告げなかったら、恐らく多少強引にでもリリを移籍させるつもりでもあったのだろう。
「まあ、僕の話はこれで終わりだ。君たちに移籍のつもりがない以上、これ以上君たちに声を掛けるのは迷惑になるからね。ただ、君たちは敵対派閥というわけでもないし、同じ
そう言って話を締めくくり、お茶を一口。その所作からは、内心が一切うかがえない。やはり目の前の人物は相当のタヌキだ。
「ところで、告白をされた君は、返事をしなくていいのかな? なに、この場では言い辛いという事であれば、30分ほど席を外すが?」
「いいいいいいい今は、それどころではありません!! 今必要なのは、
これを聞いてフィンさんは肩を竦めた後、今度はベルに向き直った。
「ベル・クラネルの用件は、
「あ、はい! というか、知ってらっしゃるんですね。あの、大変迷惑だとは思うんですけど……」
「……ううん、大丈夫だよ」
『剣姫』はすっかりやる気のようで、何か瞳に焔が見える気がする。その様子にフィンさんは少し苦笑していた。
「まあ、直接手を貸すわけでもないしね。特訓くらいは許可しよう。但しアイズ、ロキにはばれないようにすること。出来る限り人目を避けること。そして、絶対に彼の戦いに直接手を貸さないこと。この三点を絶対に守ってくれ」
「……ん。分かった」
「あ、アイズ! 今回は私もアルゴノゥト君に戦い方教えるよ!」
「え、ティオナさんもですか?!」
ここに、ベルの特訓がさらにハードになることが決定した。
「ああ、そうだ。アイズ、君たちの特訓場所だけど、僕も少し貸してもらうよ」
「……? 新人の特訓でもするの?」
『剣姫』のその質問に、フィンさんは笑みを深め、こちらへと向き直った。
「エド・エルリックとリリルカ・アーデを、僕が少し鍛えてあげようと思ってね」
師匠就任回、終了。これによって、フィン、アイズ、ティオナ監修のブートキャンプが開始します。次回は神会と特訓風景になるかと。
感想読むと、皆さん錬金術無双と予想されてますね……まあ、それでもいいんですけど、つり合いは取らないといけません。敵にも強敵が出てきます。