ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――リザ・ホークアイ、本日を以て東方司令部に配属となりました。
――結局、この道を選んだのか。

――君に私の側近を任せる。もし私が信念に背くことがあれば、背後(うしろ)から撃ち殺せ!



第46話 かくして演者は出揃った

 

「ああ……ああっ、嗚呼! 見たぞ、このヘルメスが確と見たぞ! 貴方の孫を、貴方の置き土産を!」

 

 演者たちの顛末を見届け、唯一の観客は自身を抱き締め、歓喜する。とある方から自分の孫の様子を見てきて欲しいと頼まれ、使い走りを買って出た自分自身の幸運を。

 

 あの子には、意気地はある。根気もある。――だが、素質が圧倒的にない。およそ大成する器ではないと、彼の祖父はそう言っていた。

 

 そう評した祖父の言葉を、ヘルメスは鼻で笑った。

 

「馬鹿を言うな、貴方の目もとうとう腐ったか!?」

 

 もはや彼は声を潜めるなどと言うことはしていない。むしろ、声よ世界に響き渡れ、と言わんばかりに大仰に手を振り回した。

 

 

「喜べ、大神(ゼウス)、貴方の義孫(まご)は本物だ! 貴方のファミリアが遺した最後の英雄(ラスト・ヒーロー)だ!!」

 

 

 全ての顛末を見届け、神々の伝令使(ヘルメス)は告げる。新たな時代の到来と、英雄の誕生、その序章が始まったのだと。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ……時代の到来など関係なく、絶望と危難は、すぐそこに転がっているものである。

 現在、≪ミアハ・ファミリア≫本拠地(ホーム)『青の薬舗』。その内部は――――暗鬱な通夜のような空気に支配されていた。

 

「……どうしようか」

「…………やべえ」

「……夜逃げでもしますか?」

 

 こうなった原因は、極めて単純。先日の18階層での異常事態(イレギュラー)によるものである。あれのせいで、ギルドへも報告せざるを得ず、本来ダンジョン出入り禁止の神ヘルメス、ヘスティア、ミアハの三者が、無断でダンジョンに入っていたことがギルドにバレた。その違反行為により、三派閥全てに多大な罰則(ペナルティ)が科せられたのだ。

 

 その罰則(ペナルティ)の内容は、『各ファミリアの総資産の半分を罰金としてギルドに納めること』だった。まあ、既にナァーザの『銀の腕(アガートラム)』の負債の今月分支払や、エドとリリの新装備の購入後だったため、ファミリアにそんなにお金が残っていなかったのは、不幸中の幸いだったが…………問題は、エドの壊れた機械鎧(オートメイル)である。

 

 エドが壊した機械鎧(オートメイル)は、ゴブニュ・ファミリアに頼んだ特注品であり、当然高い。支払いに関しては、エドが一年半で築き上げた小遣いやら、店で出した売上やら、色々なものを使ったのだ。中でも大きかったのは、『ゴブニュ・ファミリアでの建築工事のアルバイト』だ。なにせ、地上限定とはいえ、使えなくなった廃木材だの石材だのが一発で元に戻るのだから、使わない手は無い。そうやって結構稼いでいた儲けで作った機械鎧(オートメイル)が、今回壊れた。

 

 事情を聞いたゴブニュ・ファミリアに頼み込んで、何とか芯材となるフレームの修理を請け負ってもらったものの、それだけでも結構な出費であり、半年のローン(途中一括支払可)を組むことになった。なお、細かい部分は、エドの錬成による自力修理である。

 

 つまり来月には、≪ディアンケヒト・ファミリア≫への負債の支払いと、≪ゴブニュ・ファミリア≫へのローンの支払いが迫っているのである。ちなみにこの世界、自己破産も民事再生も存在しない。負債は死ぬまで、というか、死んだ後も孫子の代まで払い続ける。

 

 そして、さらに恐ろしいことに…………実は現在、ミアハ・ファミリアでは、回復薬の在庫が完全なる0(ゼロ)となっていた。つまり売れる商品がないのだ。

 

 それと言うのも、エドとリリを探すに当たり、ナァーザとミアハ様は、持てるだけの回復薬(ポーション)を持って挑んだ。だが、全員地上に戻った段階で、エドとベル、それに桜花にはさらに治療が必要となり、店の在庫も全て使い切ってしまったのだ。

 

 絵に描いたような絶望だった。

 

「――いつまでも落ち込んでいても、仕方あるまい。ほれ、ハーブティーを入れたから飲んでみんか?」

 

 三人が落ち込んでいた調合室に顔を出したのは、ミアハ様。その手に持ったハーブティーは、そこらの道端で生えていたハーブ、つまり『雑草』である。もっともそれに慣れてしまった三人は、あえてそれを指摘しない。熱いハーブティーが喉を通り、ようやく人心地ついた。

 

「……とにかく、愚痴っても始まらない。エド、リリ。これからの迷宮(ダンジョン)探索の予定は?」

「ああ。とりあえず傷が癒え次第、13階層から改めて踏破しなおすってことになってる」

「前回の18階層踏破は、異常事態(イレギュラー)幸運(ラッキー)が重なって成し遂げたことですからね。実力以上の所に行くのは自殺行為ですし」

「なら……私も、それについて行っていい……?」

「「え!?」」

 

 この時の申し出により、後の世に語り継がれる、とある英雄を支えた三人の冒険者は、歴史の表舞台に現れることになる。すなわち、『癒し為す弓使い』、『勇猛貫徹なるサポーター』、そして、『循環の錬金術師』。この三人の冒険者は、ようやく一歩目を踏み出したのだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ……光あるところに、必ず影あり。後の英雄譚に語られる次なる物語は、既に動き始めている。

 

「――それは、確かか?」

 

 薄暗い部屋の中、向かい合った三者の中、神威を纏った神物(じんぶつ)が傍らの男から報告を受けていた。ヒュアキントス、という名のその男が語るのは、18階層の顛末。リトル・ルーキーに関しての報告だ。

 

「ベル・クラネル……やはり素晴らしい。彼はこのアポロンが頂く」

 

 その言葉に、同席していた最後の男が恭しく頭を垂れる。

 

「そちらは、アポロン様のご随意に……どうかお約束はお忘れなきようお願いします」

「アポロン様に、些か無礼ではないか? それとも貴公は、我が主神はその程度も守れぬと侮っているのか?」

「まあまあ、待つんだ、ヒュアキントス。もちろん約束は覚えているとも。しかし、あんな零細ファミリアの団員を、そんなにまでして『取り戻したい』のか?」

「ええ……是が非でも……」

 

 その言葉に、同席した二者は揃って肩を竦めた。取り繕ってはいても、目の前の男の『強欲』な様は言葉の端々ににじみ、どうにも好きになれない。

 

 

「そちらも手抜かりはないようにな。ザニス・ルストラ」

「分かっていますとも。ヒュアキントス殿」

 

 

 『酒守(ガンダルヴァ)』の二つ名を持つ≪ソーマ・ファミリア≫団長は、闇の中を蠢き、今再び一度手放した極上の美酒へと襲い掛かろうとしていた。

 




さあ、ザニスが暗躍し始めました!これにより、戦争遊戯は予想もつかない展開になります。

で、次の投稿は月曜24時予定、なんですが……なんとこの小説、次の章で『最終章』を予定してます。理由としては、7巻部分に関してはヘスティア・ファミリアのプライベートで、手出しすべきじゃないと思いました。そして、8巻部分行ったら、リリのところくらいしかやることが無いし、実はその決着まで次の最終章に盛り込む予定です。つまり、『8巻は書くことが無い』んです……

この6巻部分、リリとソーマ・ファミリアの因縁の決着も描いているので、『主人公とヒロインの過去との決着』を描くことで作品を終わりにしようと思っています。どうか最後までお付き合いください。

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