ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
――結局、この道を選んだのか。
――君に私の側近を任せる。もし私が信念に背くことがあれば、
「ああ……ああっ、嗚呼! 見たぞ、このヘルメスが確と見たぞ! 貴方の孫を、貴方の置き土産を!」
演者たちの顛末を見届け、唯一の観客は自身を抱き締め、歓喜する。とある方から自分の孫の様子を見てきて欲しいと頼まれ、使い走りを買って出た自分自身の幸運を。
あの子には、意気地はある。根気もある。――だが、素質が圧倒的にない。およそ大成する器ではないと、彼の祖父はそう言っていた。
そう評した祖父の言葉を、ヘルメスは鼻で笑った。
「馬鹿を言うな、貴方の目もとうとう腐ったか!?」
もはや彼は声を潜めるなどと言うことはしていない。むしろ、声よ世界に響き渡れ、と言わんばかりに大仰に手を振り回した。
「喜べ、
全ての顛末を見届け、
◇ ◇ ◇
……時代の到来など関係なく、絶望と危難は、すぐそこに転がっているものである。
現在、≪ミアハ・ファミリア≫
「……どうしようか」
「…………やべえ」
「……夜逃げでもしますか?」
こうなった原因は、極めて単純。先日の18階層での
その
エドが壊した
事情を聞いたゴブニュ・ファミリアに頼み込んで、何とか芯材となるフレームの修理を請け負ってもらったものの、それだけでも結構な出費であり、半年のローン(途中一括支払可)を組むことになった。なお、細かい部分は、エドの錬成による自力修理である。
つまり来月には、≪ディアンケヒト・ファミリア≫への負債の支払いと、≪ゴブニュ・ファミリア≫へのローンの支払いが迫っているのである。ちなみにこの世界、自己破産も民事再生も存在しない。負債は死ぬまで、というか、死んだ後も孫子の代まで払い続ける。
そして、さらに恐ろしいことに…………実は現在、ミアハ・ファミリアでは、回復薬の在庫が完全なる0(ゼロ)となっていた。つまり売れる商品がないのだ。
それと言うのも、エドとリリを探すに当たり、ナァーザとミアハ様は、持てるだけの
絵に描いたような絶望だった。
「――いつまでも落ち込んでいても、仕方あるまい。ほれ、ハーブティーを入れたから飲んでみんか?」
三人が落ち込んでいた調合室に顔を出したのは、ミアハ様。その手に持ったハーブティーは、そこらの道端で生えていたハーブ、つまり『雑草』である。もっともそれに慣れてしまった三人は、あえてそれを指摘しない。熱いハーブティーが喉を通り、ようやく人心地ついた。
「……とにかく、愚痴っても始まらない。エド、リリ。これからの
「ああ。とりあえず傷が癒え次第、13階層から改めて踏破しなおすってことになってる」
「前回の18階層踏破は、
「なら……私も、それについて行っていい……?」
「「え!?」」
この時の申し出により、後の世に語り継がれる、とある英雄を支えた三人の冒険者は、歴史の表舞台に現れることになる。すなわち、『癒し為す弓使い』、『勇猛貫徹なるサポーター』、そして、『循環の錬金術師』。この三人の冒険者は、ようやく一歩目を踏み出したのだ。
◇ ◇ ◇
……光あるところに、必ず影あり。後の英雄譚に語られる次なる物語は、既に動き始めている。
「――それは、確かか?」
薄暗い部屋の中、向かい合った三者の中、神威を纏った
「ベル・クラネル……やはり素晴らしい。彼はこのアポロンが頂く」
その言葉に、同席していた最後の男が恭しく頭を垂れる。
「そちらは、アポロン様のご随意に……どうかお約束はお忘れなきようお願いします」
「アポロン様に、些か無礼ではないか? それとも貴公は、我が主神はその程度も守れぬと侮っているのか?」
「まあまあ、待つんだ、ヒュアキントス。もちろん約束は覚えているとも。しかし、あんな零細ファミリアの団員を、そんなにまでして『取り戻したい』のか?」
「ええ……是が非でも……」
その言葉に、同席した二者は揃って肩を竦めた。取り繕ってはいても、目の前の男の『強欲』な様は言葉の端々ににじみ、どうにも好きになれない。
「そちらも手抜かりはないようにな。ザニス・ルストラ」
「分かっていますとも。ヒュアキントス殿」
『
さあ、ザニスが暗躍し始めました!これにより、戦争遊戯は予想もつかない展開になります。
で、次の投稿は月曜24時予定、なんですが……なんとこの小説、次の章で『最終章』を予定してます。理由としては、7巻部分に関してはヘスティア・ファミリアのプライベートで、手出しすべきじゃないと思いました。そして、8巻部分行ったら、リリのところくらいしかやることが無いし、実はその決着まで次の最終章に盛り込む予定です。つまり、『8巻は書くことが無い』んです……
この6巻部分、リリとソーマ・ファミリアの因縁の決着も描いているので、『主人公とヒロインの過去との決着』を描くことで作品を終わりにしようと思っています。どうか最後までお付き合いください。