ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
キィエエエエエエエエエ!
――頭、大丈夫?
街の散策も一段落し、≪ロキ・ファミリア≫のキャンプ地に戻ってきたところ、女性陣が集まって何か相談をしていた。それに訝しげな顔を向けていると、フィンさんの隣にいたティオネさんが話しかける。
「なにやってるのよ、アンタ達」
「あ、ティオネ! 私たち、これから水浴びに行くんだよ!」
「……水浴び?」
ティオナさんの話によると、この近くに水源があるため、深層で埃っぽくなった身体を清めにいくのだとか。その話に、同じく女性であるリリとナァーザ団長が反応する。
「……それ、私たちもいい?」
「モンスターの返り血とか、思い切り浴びてまして……」
二人の申し出に、ロキ・ファミリア女性陣は快く頷く。その内訳たるや、ほとんど全員が上級冒険者。中には『剣姫』も混じっていることだし、これに危害を加えられる相手はいないだろう。
「そんなら、気を付けてな。オレは、毒で倒れてる人達の様子を見てくる」
「ならば、私もそれに同行しよう。天界と違い、病状を診ることしか出来ぬが、それでも出来ることはあろう」
そこで集団は別れ、フィンさんは首脳陣が詰めているテント。オレとミアハ様は毒を貰った下級団員のいるテント。ほか女性陣は水浴びに行くことになった。
寝床に横たわる患者を診るが、前日の様子からすれば充分落ち着いている。病状が酷くなる兆候もないようだった。全てのテントを周り、割り当てられた誰もいないテントに戻って来た時、ミアハ様が不意に口を開いた。
「――で? エド、一体何があったのだ?」
聞くと、この18階層に来た時から、様子がおかしいのは気付いていたのだとか。つくづく敵わないと思ってしまった。
「……記憶が、戻りました」
「……そうか」
「記憶の中で、オレは家族を取り戻そうとしました」
「……そうか」
「家族を失って……自分で『作ろう』とまでしました」
「……そうか」
「そのために狂って狂って……それでも家族を作ることなんて出来なくて」
「……そうか」
「そして………………死んでこの世界に来ました」
「…………」
ミアハ様はただじっとこちらを見据え、以前のオレの話を、ただただ聞き続けてくれた。そして話が終わったとき――――何も言わず、ただ抱き締めてくれた。そのまま互いに何も語らず、ただぽんぽん、と頭を撫で続けられていた。
「……おぬしの痛み、全て分かるなどとは口に出来ぬ。だがな、少しであっても分かち合いたいと思っておる」
「…………」
「我々神にとって――――血を分け与えた眷族は、『家族』であり、『自分の子供』なのだ。だからな、エド。以前おぬしを眷族にした時に、告げた言葉をもう一度贈るぞ。『エドよ。我が新たな
「…………!」
その言葉に、そのかつて告げられた言葉に、どうしようもない程胸を突かれて、ぽたりぽたりと床に滴が落ちた跡が出来た。ああ、くそ。本当にこの
◇ ◇ ◇
あの後しばらく、テントの中で目から零れた滴が止まるのを待っていると、いきなりナァーザ団長とリリがテントに駆け込んで来た。何かあったのかと思い、詳細を聞いたところ、とりあえず制裁が必要な人間がいることが判明した。
「……で? なにか言い訳はあるのか?」
女性陣の水浴びを覗いた
「ベル…………いったい何故こんなことをしたのか、理由を聞かせて貰おうか」
「は、はいぃぃっ! えっと、ヘルメス様が、『話がある』って僕を連れ出して、と、途中で覗きだとは分かったんですけど、『覗きは漢の
「……それで?」
「えっと、あの止め切れず……枝から落ちて、水浴び中の集団の中に……」
「…………」
よし、殺そう。
「今日の晩御飯は、兎の丸焼きだな……!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! その手袋は本気でマズイのでやめてくださいおねがいします!!」
「じゃあ、二度と見れないように、瞼を接着するように錬成するか?」
「猟奇的な制裁もやめてください!」
「じゃあ――」
その後出す提案出す提案、全部ベルに泣きつかれ、更には周囲にもドン引かれたため、当事者の女性陣からビンタのみの制裁となった。……少し甘いくらいだと思ったのは、秘密だ。
その日の午後には地上から解毒薬が届き、全員の病状は完全に回復へと向かった。ロキ・ファミリアは翌日朝早くに、隊を二つに分け地上に向けて出発するとのことだった。そのためその日の食事は残りの物資を綺麗に消費する意味も込めて、中々豪勢なものとなった。
そして、その日の晩、皆が寝静まった頃、オレは一人、テントから抜け出し、キャンプ地から離れるように歩いていった。
「――お、あった、あった」
目的地は、昼間リリたちが話していた水源。持ってきていたタオルを横に置き、早速川縁に立つ。
「よっと」
川辺を錬成し、流れの一部をせき止め、少し狭い池を作る。次に川辺の石をいくつか積み上げ、発火布から焔を奔らせ石を高温で焼く。そのままその石を池に落とせば、即席の露天風呂の出来上がりだ。
「ふぅ~~」
持ってきたタオルを腰に巻き、そのまま浸かる。魔石を使ったシャワー室しか存在しない、『青の薬舗』では出来なかった風呂。肩まで浸かり埃っぽい身体をもみほぐし、漸く人心地つく。
「やっぱ風呂は、魂の洗濯だなー」
「――――そうですか。夜中に随分といい趣味ですね」
「うえっ?!」
振り向くと、そこには鬼の形相を浮かべたリリがいた。……何故?
「全く、夜中にテントから抜け出すから、何事かと思えば! 心配させないでください!」
「う……わ、
「私だったから良かったものの、ロキ・ファミリアの誰かに見咎められてたら、最悪スパイかなにかと誤解されることだってあるんですよ。分かってるんですか!」
「…………」
まあ、キャンプ地から夜中に抜け出したら不審に思われるな。そこには全面的に同意し、深く俯く。
「……反省、しましたか?」
「はい……」
「それなら……………………回れ右をして、しばらくの間こっちを向かないでください」
「? ああ」
全面的に非があるため、言われた通りに回れ右をする。そのまましばらくは何の音もしなかったが、やがて、
「……………………おい、リリ?」
「いいから! 絶対にこっちを向かないでください!」
その内、衣擦れの音が収まり、続いてちゃぽ、と微かな水音が聞こえてきた。そして、何かが近づいてくるような水の流れを感じ、背中に熱い
「ななななな…………」
「いいですね、絶対こっち向いちゃ駄目ですよ!!」
もはや、間違いようがない。後ろでリリが、背中合わせで風呂に入ってきている……!
(よし。振り返って、押し倒しちまえ!!)
黙ってやがれ、グリード!!
「っ、な、何のマネだよ。お前やっぱり、このキャンプ地に来てからおかしいぞ!」
「…………おかしいのは、エドですよ」
静かに告げられたその言葉に、少しだけ時が止まった。
「何に悩んでるのか知らないですけど……相談に乗るって言ったのに、ずっと考え込んでるじゃないですか。全然頼ってくれないじゃないですか」
「…………」
「目の前でお道化て見せても、全然いつもの調子に戻りませんし……それとも、なんですか。私じゃ頼りになりませんか!?」
「そんな、ことは…………」
そこで、どうしても言い淀む。理由はどうあれ、リリに何も告げなかった。それはつまり相手を頼りにしていなかったのと、同じじゃないのか?そんな疑問が渦巻いた。
そして、それを糾弾する彼女の声は段々と熱を帯び、いつしか涙声へと変わっていた。
「私たち……ミアハ様の血を分け与えられた
その言葉が何よりも、胸を打った。ああ、本当に何を悩んでいたんだろうな、オレは。
「今のままだと……エドがどこかに行っちゃいそうで、怖くて……!」
「…………」
彼女の慟哭に、せめて応えるために、そっと彼女が湯の中に入れていた右手に、左手を添える。
「
「………………」
「そう……だよな。リリも、ナァーザ団長も、同じミアハ様の
後ろからすんすんと、鼻を啜る音が聞こえてくる。自分勝手に悩んで、女の子を泣かすとか、ホントに最低だ、オレ……。
「悩み、話すわ、オレ」
「……ホントですか?」
「あー。
「……そうですよ」
お湯の中で、リリがきゅっと強く、こっちの左手を握り返してきた。
「いなくなっちゃ、ダメですよ…………?」
「おう……」
空には満天の星空のように、水晶から漏れ出た光の粒が煌めき、二人の事をただただ静かに見つめていた。
迷宮の楽園(アンダーリゾート)終了。前回フラグ立てた酔っ払い冒険者にたどり着かなかった。なぜだ……
ちなみに前書きはウィンリィの事が好きだろうと指摘された時のエドの動揺っぷりwどんなメダパニかww
この話で困ったのは、エドの性格。覗きに行きそうもないんですよねぇ。悩みに悩んだ結果……リリの方から混浴させましたwwあからさまな表現は避けつつ、互いの絆を感じさせる。一つのテーマですが、やはり難しいです。
そして、驚きですね。まだこの二人、告白してもいないんですよ……
前半部分はミアハ様。後半部はリリと、ファミリア内の絆がテーマの今回……ナァーザさんが、絡められなかった……!