ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
――鋼の!
――大佐の管轄なら、無視するんだったぜ
(なんだよ、この気の休まらない空間は……!)
本来は前日の強行軍の疲れを取るため、ダンジョン内にあるという変わった街を観光し、そこらの露店を冷かすつもりだった。道具を買い足すにしても、足りないのは
「ふふ……」
同行してきたフィン・ディムナのせいで、一切気が休まらなくなった。何だか分からないが、昨日から目の前のフィンさんは、こっちに過剰に接触している。特に、リリに。
「では、及ばずながら、君たちのエスコート役は僕が務めさせて貰おう。さあ、こちらへ」
「って、団長!? 何してるんですか! 手なら私と!」
「いや、ティオネ? 今日は僕が彼らのエスコート役なんだよ? 君と手をつなぐのもおかしな話だろう?」
「だからって――!」
「さあ」
……エスコート役を申し出ている人間が、さっきからリリ一人に手を差し出している現状。おずおずとそこへ手を伸ばすリリ。どちらにも腹が立った。
「――さ! 行くぞ、リリ!」
「え?! エド!?」
横からリリの手を掴み取り、そのまま街へと早足で進む。何でイライラしているのかよくわからない。
「……ほほう。では、ナァーザよ。私たちも、参ろうか」
「……………………はい」
後ろの方でこっちを見て、さりげなく肘を突き出している主神と、そこに腕を絡める団長は、この現状の打破には役立たない。ちらりと周りを見回す。
「ベル君、ベル君! どうだい、この香水! 君だって汗臭い女の子なんて、嫌だろう?!」
「あ、あの、神様……?」
何故か、同行している『剣姫』に対抗意識を燃やしている女神がいた。駄目だ。却下だ。むしろ現状を
「団長! 彼らはそれぞれで手をつないでいますし、私たちも!」
「いや、あのね、ティオネ?」
……このアマゾネスも、カオス側だしなぁ。
その後、結局打開策は思い浮かばず、そのまま街の中を歩くが、フィンさんは完璧な案内役に徹していた。
「この『リヴィラ』という街は、知っているかもしれないがダンジョン内に冒険者が作り上げた街でね。物資が届かないこともあるから、全体的に物価がかなり高く設定されている」
「はあ……聞いてはいましたが、
「それでも、ここにたどり着いて装備に破損が生じたりしていると有り難い話でね。かなりの数の冒険者が利用するんだよ」
「武器屋、雑貨屋、宿屋……あそこにあるのは買取商かよ?」
「そうだね。もちろん地上とは比べ物にならないほどの低価格だが、それでもかさばる荷物をここで減らせる利点はあるのさ」
街の店舗の価格帯や、さまざまな慣習。冒険者運営による弊害なども教えてくれた。
「ここには様々な店があるが、施薬院は極めて少ない。ここに店を出すにも、上と往復して物資をやり取りする必要があるからね。ある程度実力がついてから出店するなら、狙い目だよ」
「……ちなみに、治療施設とかもないんですか?」
「うん? 地上の
「……狙うしかない……!」
「そうですね。誰もいないと言うなら、施薬院を兼ねた錬丹術での治療施設を作れば……!」
「中層で初の本格治療施設か。金になりそうだな」
現在、リヴィラの街で治療施設が存在しないことを教えてくれたのは、非常に有り難かった。ここに『青の薬舗』二号店を出せれば、一気に派閥の負債返済も夢じゃない……!
「…………おぬしら、余り傷ついた者から金を奪うのは、感心せぬのだが……?」
「……ミアハ様は、甘い」
「そうですよ。本来は都市でも稀少な『
「別にぼったくりの店を始めようとは思ってねえさ。適正な治療費に、ここに滞在するための滞在費を上乗せしようってだけだ。適正価格だよ、適正価格」
「…………それなら、現在のこの街の顔役に引き合わせようか? ランクアップして、店を出せるようになったら役に立つと思うけど」
「「「ぜひ!」」」
その上、街の顔役だというボールスという眼帯の男と繋ぎを作ってくれたりと、こちらに利益になることばかりだった。…………ここまで来れば、流石に気付く。
「――――なあ、フィンさん」
「ん? 何だい?」
「アンタの目的は、なんだ?」
目の前の人物に視線を合わせ、鋭く見据える。けれどさすがは第一級冒険者と言うべきか、飄々と受け流して軽く答えた。
「有望な後輩を、応援したい。じゃ、駄目かな?」
「…………」
「……確かに目的、というか要望はあるよ。君たちと言うより、神ミアハにね」
そう言って、先程までの雰囲気を消し、真剣な表情でその願いを告げた。
「『
その願いに、普段優しげな笑みを絶やさないミアハ様が、険しい顔をした。
「…………理由を、聞いても良いか」
「……一番の理由は、彼らが
そもそも『
「団長! 私、知りませんでした……! 団長がそんな大きなことを考えておられたなんて!」
「このことを知っているのは、ロキも含めて初期の幹部メンバーだけだ。ティオネもこのことは秘密にしておいてくれないかな? 団長の座にある者が、私情で動いていると思われるのもね」
横にいたティオネ・ヒリュテは感激しているが、それとこのスカウトにどう関係があるのか。こちらの疑問を読み取ったのか、フィンさんはより笑みを深めると更に続ける。
「先日の君たちの戦いを見てね。君たち二人の戦いは、これまでの冒険者の戦いには無い異質な物だった。君たちの年齢から言ってもまだまだ伸びしろはある。新たな一族の『希望』になり得る人材だと思っているんだよ」
フィンさんの今の言葉を受けて、これまでの相手の対応を考える。リリの方へ熱心に声を掛けていたのは、この間の『分解』の錬成陣が原因か?いや、それだけじゃないような気がする。今もなお熱心にリリへ視線を向けるフィンさんを見て、苛立ちつつもそう思った。
(だが――――)
この申し出に対し、この場で取れる選択肢は非常に少ない。何故なら翌日には、ロキ・ファミリアの帰還に便乗しなければならないのだから。この場で相手の機嫌を損ねる回答は出来ない。となると……
「…………考える時間をくれますか」
「そう、ですね。考えないことには」
オレもリリも、無難に答えると、そうなるだろう。だが、相手はお気に召さなかったようだ。
「悪いが、そうそう待つことは出来ない。ウチの派閥には、年中冒険者を夢見る若者や、他の派閥から是が非でも移籍したい者たちが集まって来るからね。それに時間を稼ごうとしているみたいだが、答えは決まっているんだろう? 心が決まっているのなら、正直に言うといい」
……………………ああ、くそ。
「だったら、断らせてもらう」
「私も、です」
これで相手が怒れば、最悪帰りは他の方法を見つけようと考え、半ばやけっぱちに答えを告げた。
「なッ――――ちょっと、団長自らのスカウトを断るなんて」
「待つんだ、ティオネ。一応理由を聞かせて貰えるかな?」
こちらの答えに激昂しようとしたティオネ・ヒリュテを抑え、相変わらず飄々とした笑みを浮かべている。見た目はこっちとあまり変わらない年齢なのに、目の前の相手は相当のタヌキだ。それを改めて認識しつつ、右手の手袋を外し、
「へえ……鋼の義手か」
「ああ。この街に来る前に右手と両脚を失って、死にかけていたのを拾ってくれたのが、ミアハ様だった。だからオレは、このファミリアを裏切るわけにはいかねえ」
「リリも以前のファミリアで死にかける目にあって……手を差し伸べてくださったのが、このミアハ・ファミリアでした。私もこのファミリアにずっといたいと思います」
こちらの答えを聞いても、フィンさんは一度肩を竦めただけだった。
「――フラれたか。だけどまあ、折を見てまた誘わせてもらうよ」
「…………」
答えは多分変わらないと告げようとした時、ベルのいた辺りから声が上がった。
「リトル・ルーキー?! てめえ、何でここに……!?」
「ん?」
視線を向けると、そこには『豊穣の女主人』で酔っ払ったあげく、リューさんに絡んだ冒険者たちがいた。そいつらは、こちらにも視線を向けたが、フィンさんの存在を認め、慌てて酒場に逃げるように入っていった。
(なんなんだ……?)
そいつらが最後に向けた敵意の視線に、どうにも嫌な予感がしていた。
とりあえず第1ラウンドはミアハ・ファミリア優勢!隣にティオネがいたせいで、縁談話は持ち込めてませんがw
将来『青の薬舗』二号店が誕生した時は、リヴィラの街から大量の金貨が生まれますww
それと、来週なんですが、少し田舎に帰省するかも知れませんので、お知らせなしに、更新が不定期になるかも知れません。向こうにネット環境がありませんのでw再来週になれば落ち着くと思います。