ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
朝靄がほのかに漂う空き地。そこに、一人の少年がいた。
「す――――っ……」
静かに息を整える少年の服装は、極めてラフなもの。黒のズボンとランニング、そして右肩から覗く鋼の色合いが印象深かった。
パアンッ、と音高く両手を打ち鳴らし、地面へとたたきつける。すると前方5メートルほどのところに、地面から土人形がせりあがってきた。
土人形の錬成が終わると、金髪金眼の少年は、目線を人形に合わせ、構える。
「――ふっ!」
腰だめに構えていた右腕を、勢いよく叩き込む。正拳突き。そのまま左手を天に向けて跳ね上げ、仮想の敵の攻撃を上へと捌く。そのまま身体を半回転。その場で飛び上がり、後ろ回し蹴りを叩き込み、人形を粉々に砕く!
「――っし!!」
あのミアハ・ファミリアに拾われた日から約一年。自身で材料を集め、自作した
「おー…………」
不意に、後ろからパチパチ、と拍手が響いた。視線だけをそちらに向けると、この一年で大分見慣れてきた犬耳。朝食の支度をしていた、ナァーザ先輩がいた。
「エド、新しい
「いや、
本当に、大変だった。
「最初にあり合わせの手足を作ったと思ったら、そこから改良を重ねて、最後には私の『
「んー? コイツは、とにかく早期の戦線復帰を目的としたモンだからな。装着部の癒着や拒否反応を抑制する
「お~~…………」
この世界に来て一年、社会情勢や文化についても学んできたが、歴史背景としては中世ヨーロッパが一番近く、当然社会保障など存在しなかった。その上で、手足を失くす大怪我を負った場合に、この世界で何より望まれるのは、『早期の社会復帰』だった。
そのためエドは、『真理の扉』で得た
「『
「いや、ナァーザ先輩のソレは、『ディアンケヒト・ファミリア』の最高級品なんだろ? つなげた途端に、普通の腕と変わらず動くとか言うとんでもない代物だし。そっちの方がはるかに復帰も早いから、冒険者にどこまで売れるかはまだ未知数だな」
こうまで
「……もう少し早くエドが来てくれたら、
「う……」
この話題に入ると、必ずナァーザ先輩は落ち込む。それと言うのも、この『ミアハ・ファミリア』、先輩の『
「ま、まあ、いいだろ! 今日からは、オレも少しずつ稼いでくるからよ!」
「エド、やっぱり本気で
そう、今日は何とエドの冒険者登録が終了し、初のダンジョンへと挑む日なのである。先程言った
「大丈夫だって。オレには錬金術もあるし、そう簡単にやられねーよ」
「…………分かった。でも昨日言ったように、半年は1階層から2階層までしか行っちゃ駄目だから」
「リハビリと修行込みだからな。分かった。オレも無茶はしねーさ」
◇ ◇ ◇
あの朝の出来事のあと、朝食を食べ、エドをダンジョンへと送り出した後、ナァーザはいつものように閑古鳥が鳴く店内で物思いに耽っていた。
(……エドは、大丈夫かな?)
思い浮かべるのは、一年前の邂逅のすぐ後、治療費返済と、この都市での社会基盤構築のため、自ら
当時は主神の一方的な容認と、単純に食費が増えたことで面白くなかったが、ひたむきに
その上、今日からはダンジョンで少しでも稼いで、ファミリアの財政を支えようとしてくれているのだ。そこまでされて嫌うほどナァーザは根性が曲がっていない。
(稼ぎも大事だけど……やっぱり自分みたいにならないで欲しい)
自分はかつて、中層で手足をモンスターに
◇ ◇ ◇
「……ここがダンジョンか」
そんな心配を抱かせているとは露知らず。エドは、遂にダンジョンへと足を向けた。その服装は、黒の上下に赤色のコート。背中には「フラメルの十字架」を背負い、手にはギルド支給品の一つである槍を持っていた。
「…………」
一度槍を脇にはさみ、両手を見る。
「――よし! 行くか!」
異世界の錬金術師は、ダンジョンへの一歩を踏み出した。
一年間のリハビリ・機械鎧(オートメイル)開発回でした。
原作中ではオートメイルのリハビリは3年かかると言われてますが、正直それだけの期間が空いたら、間違いなくダンまち1巻で18歳のナァーザさんの怪我の時期にぶつかるんですよ。(彼女は、冒険者になって6年後にLv.2になってるので)
そのため、現在の主要な義肢のリハビリ期間がおおむね数か月前後だったので、期間を短縮。開発・リハビリ含め、1年でのダンジョン挑戦となりました。(原作エドほどの根性があるわけでもないので、純粋に技術開発です)
ちなみに『銀の腕(アガートラム)』の元ネタの方は、四日間の戦争中で腕を失くした人物に装着され、結局その装着者が義手に剣持って、敵を倒しまくって戦争に勝利してます……
予定としては次回で第一章終了の予定。そこまでは毎日更新を続けたい……