ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
――ブフォッ?!いいいいいいいや、ああアイツは子供の頃からの幼馴染みってだけで!むむむしろアイツを守るのは当たり前っていうか!
「――まいったね、こりゃ」
旅装を身に纏った男神が、目の前の光景に愚痴をこぼす。
『オォォオオオオオ!』
「ぎゃー! ボ、ボクは美味しくないぞー!」
「――ハッ!」
「下がってください、ヘスティア様!」
神ヘルメスの視界に映るのは、ここまで意地で着いてきた天界時代の
インターバルを読み間違えたのか、予想に反して17階層の最後の大広間には階層主が出現しており、目の前で戦う二人は、懸命に足手纏い三柱を次の階層へ通過させようとしている。自分で頼んでおきながら、頭の下がる思いだ。
(それにしても……)
同じくここまで着いてきたミアハは、崩れてダンジョンの一部に戻りかけていた巨大な鎧を見つけて、眷族とともに走っていってしまった。こんなところで一体誰が鎧なんか持ち込んだのか、興味が尽きない。
「ミアハのところも、何かと大変みたいだね?」
視線の先には、ミアハの横で鎧の残骸を見つめている弓使いの
(……ま、今の俺の興味は、ベル・クラネルだけどね)
彼が本当に、『次代の英雄』足るのか。ある神からの使いを頼まれた神は、あくまでも自身の目的のために動くのだった。
◇ ◇ ◇
場所は変わって、こちらは≪ロキ・ファミリア≫のベースキャンプ。毒に倒れたという団員へ、薬湯を振る舞った後、未だ意識を覚まさないヴェルフの待つテントへと戻ってきていた。パーティー内で唯一Lv.1だった彼にとって、昨日の強行軍がかなり堪えたのだろう。結局彼が目を覚ましたのは夕食直前だった。
「……足を引っ張ったな。すまん!」
「そ、そんなことないよ。ヴェルフの魔法にも随分助けられたし、リリが渡してくれた地図や『
起きるなり謝るヴェルフとそれを押しとどめるベルの姿があった。
「……ま、気にする必要ねえんじゃねえか」
「そうですね。それを言うなら、私たちは無茶したせいで、
……まあ、術が使えるうちは何とかなるが、使えなくなったら戦闘能力が格段に落ちるのが弱点だよな。この際ロキ・ファミリアの帰還にくっ付いていくしかないだろう。
「……食事の用意が出来たけど、大丈夫?」
テントに呼びに来た『剣姫』にヴェルフが驚いていたが、呼びに来てもらってついていかないのも失礼なので、足元がふらついたヴェルフにベルが少し肩を貸し、全員でロキ・ファミリアが円陣を組んで食事を摂っている場所へと赴いた。
そうして、円陣の一角に腰を下ろしたが、ベルの隣に『剣姫』が腰を下ろした途端、周囲の団員から殺気とも敵意とも取れる視線が注がれた。
(……おい、コレ、ベルの巻き添えでボコられる恐れもあるんじゃねえか)
(そんなことはないと思いますが……エドもグリードは外に出さないでくださいね)
(ああ。アイツなら、登場から5秒でロキ・ファミリアの団員をナンパして、ボコボコにされそうだしな)
ナンパの巻き添えで殴殺とか勘弁だ。やがて、食事の前にフィン・ディムナの演説が始まった。
「うまいもんですねぇ……」
リリが思わず感心する演説の内容は、都市最強派閥の冒険者であるという、彼ら全員の自負をうまいこと持ち上げる内容だった。流石にあの演説の後に、表立ってちょっかいをかけてくる奴はいないだろう。彼の言葉は、続く。
「――また、客人である彼ら、特に彼女は優秀な薬師であり、毒に倒れる我らの仲間を救ってくれた。未だ完全に解毒出来たわけではないが、専門の解毒薬で後遺症も残らず解毒出来るそうだ。皆、敬意と感謝を持って接してくれ!」
「ふえ!?」
演説の最後の最後に爆弾を落とされて、リリから妙な声が出た。顔を真っ赤にして慌てる様は、ほんの少し嗜虐心がくすぐられる。
「くくく……良かったな、リリ。お前の功績が、あの都市最強派閥に認められたじゃねえか」
「え、いや、あの、そのう。私なんてまだ見習いですし、そもそも完全に解毒出来たわけじゃないですしぃ……」
手をせかせかと動かして、大したことないと言っているが、団長の演説が終わるなり、何人かロキ・ファミリアの団員から、リリに飲み物を勧めてきた。断り切れず、リリは何とかそれを受けている。それを横目で見ながら、食事に手を付ける。
食事に出されていたのは瓢箪のような妙な形をした、
(…………甘ッ!?)
口いっぱいに広がる甘さに思わず閉口する。錬成し過ぎて脳が疲れていたから、糖分は有り難いが、それでもかなりの甘さだった。そんなこちらの様子に、隣のリリが話しかけてくる。
「エド? 甘いの苦手でしたっけ?」
「そこまでじゃないけど、甘すぎてな、この果実」
「ふーん…………エド。果実を持った方の手、もう少し右にずらせませんか?」
「? こうか?」
「さっきの仕返しです。あむ」
「!?」
食べかけでつまんでいた果実を、目の前で食べられた。そのままもぐもぐと咀嚼し、嚥下した後、チロリと舌を見せる。
「……確かに甘いですね、コレ」
「――――」
何故かその顔を見ていられなくなり、沈黙したまま、次の食べ物にはぐはぐと齧り付く。黙々と食べていると、目の前に何故かフィン・ディムナがやって来た。
「寛いでくれているかな?」
「あ、はい。どうもありがとうございます」
「食事まで分けていただいて……本当に感謝しています」
「ふふ、そうか」
そう言って、フィンさんは、ドリンクのコップを持ったまま、何故かオレとリリの間に座った。…………ん?
「明日一日は、僕たちも動けなくてね。仕事の無い団員には、観光でもして暇をつぶすように言ってあるんだ。アイズもベル・クラネルをリヴィラの街まで案内するようだし、良ければ君たちは僕が案内しようかと思っているんだ。どうかな?」
「え? えっと……」
……言ってる内容は、別に問題ない。問題など無いんだが、何故、その内容を終始リリの方を向いて、語り掛けるように話すのか。その語り掛けの様子を見て、何故か胃の辺りがムカムカし始めた辺りで、その声は響いた。
『ぐぬあぁっ!?』
やたら聞き覚えのある女神の声に、ベルが立ち上がった。たちまち駆け出したベルの後を、急いで追う。さらに後ろにリリとヴェルフも続いた。
「ベル君、ベル君! 怪我は無いかい?!」
「か、神様……?」
たどり着いてみると、ダンジョンには入れないはずのヘスティア様が、ベルを押し倒していた。そして、それを微笑ましそうに見ているのが、旅装を纏った男神と、見慣れた灰色のローブを纏った男神で…………って。
「ミアハ様……?」
「それに、ナァーザ団長も?」
ダンジョンに入れないはずの二人が来ているのに驚いていると、こちらを確認した二者は、たちまち走り寄ってきて、二人そろって抱き締められた。
「良かった……良かった…………!」
「よくぞ、無事だった…………!」
涙ながらに抱き締められ、心の底から心配させていたと分かると、鼻の奥がツンとなった。リリも同様なのか、おずおずとナァーザ団長を抱き締め返している。
こうして、≪ミアハ・ファミリア≫は、全員揃って再会することが出来たのだった。
「ご無事で何よりです、クラネルさん。アーデさんに、エルリックさんも」
「済まなかったな、エド……!」
その後、たった一人で捜索隊の前衛を務め上げたと聞いた、
そして翌日、せっかく来たので、全員で18階層に存在する冒険者の街、『リヴィラ』を訪れることになった。
◇ ◇ ◇
翌日。リヴィラの街の入り口にて。
(どうして、こうなった…………)
内心頭を抱えるエドの姿と。
「どうかしましたか、エド?」
素知らぬ顔で話しかけてくるリリと。
「ふむ。これがリヴィラか……ナァーザよ。あれはなんだ?」
「あれは、切り出した水晶……地上に持って行っても高く売れる……」
何故か一歩下がって、一柱と一人で観光を楽しんでいるウチの主神と団長と。
「ふふ。リヴィラの街は雑多だが、面白いところだ。皆も楽しんでくれ」
「その通りですね、団長!」
どういうわけか雑務を副団長のリヴェリアに任せて、くっついてきたロキ・ファミリアの団長と、その横をスキップしながら歩いてるアマゾネスの姿があった……。
どうして、こうなった。
前回シリアスだったので、甘々回……あれ?やりすぎた?次回は、ギャグに出来るか?こうやって考えると、ハガレンはシリアスとギャグのバランスが絶妙だったな……
そして、横のティオネをスルーして、本気を出すフィン……!このあたり、実はエドがいる弊害だったりw狙ってる娘の隣に他の誰かがいたら、そりゃ本腰入れますよww原作ベルは、明らかに親分子分というか、兄貴分妹分って感じでしたし。