ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

39 / 64
――守ってあげてね、ウィンリィちゃんのこと。好きなんでしょ?
――ブフォッ?!いいいいいいいや、ああアイツは子供の頃からの幼馴染みってだけで!むむむしろアイツを守るのは当たり前っていうか!



第39話 休憩は修羅場の後で

「――まいったね、こりゃ」

 

 旅装を身に纏った男神が、目の前の光景に愚痴をこぼす。

 

『オォォオオオオオ!』

「ぎゃー! ボ、ボクは美味しくないぞー!」

「――ハッ!」

「下がってください、ヘスティア様!」

 

 神ヘルメスの視界に映るのは、ここまで意地で着いてきた天界時代の神友(しんゆう)ヘスティアと、それを追い掛け回す階層主ゴライアス。そして、その狙いを逸らそうと奮戦する『疾風』リオンと自分の眷族であるアスフィ。

 

 インターバルを読み間違えたのか、予想に反して17階層の最後の大広間には階層主が出現しており、目の前で戦う二人は、懸命に足手纏い三柱を次の階層へ通過させようとしている。自分で頼んでおきながら、頭の下がる思いだ。

 

(それにしても……)

 

 同じくここまで着いてきたミアハは、崩れてダンジョンの一部に戻りかけていた巨大な鎧を見つけて、眷族とともに走っていってしまった。こんなところで一体誰が鎧なんか持ち込んだのか、興味が尽きない。

 

「ミアハのところも、何かと大変みたいだね?」

 

 視線の先には、ミアハの横で鎧の残骸を見つめている弓使いの犬人(シアンスロープ)。彼女もぜひ連れて行けということだったので連れてはきたが、モンスターに心的外傷(トラウマ)でもあるのか、蒼白な顔で必死になって弓を引いていた。特にモンスターが近づこうとした時は、その反応が顕著だった。

 

(……ま、今の俺の興味は、ベル・クラネルだけどね)

 

 彼が本当に、『次代の英雄』足るのか。ある神からの使いを頼まれた神は、あくまでも自身の目的のために動くのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 場所は変わって、こちらは≪ロキ・ファミリア≫のベースキャンプ。毒に倒れたという団員へ、薬湯を振る舞った後、未だ意識を覚まさないヴェルフの待つテントへと戻ってきていた。パーティー内で唯一Lv.1だった彼にとって、昨日の強行軍がかなり堪えたのだろう。結局彼が目を覚ましたのは夕食直前だった。

 

「……足を引っ張ったな。すまん!」

「そ、そんなことないよ。ヴェルフの魔法にも随分助けられたし、リリが渡してくれた地図や『強臭袋(モルブル)』が無かったら途中でやられちゃったし、最後に道を作ってくれたのはエドの『錬金術』でしょ? ……皆がいなかったら、ここまで来れなかった」

 

 起きるなり謝るヴェルフとそれを押しとどめるベルの姿があった。

 

「……ま、気にする必要ねえんじゃねえか」

「そうですね。それを言うなら、私たちは無茶したせいで、回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジック・ポーション)も使い切りましたから、錬金術も錬丹術も数回しか使えない、役立たず誕生です。帰り道はお二人に多大な負担を強いることになりますし」

 

 ……まあ、術が使えるうちは何とかなるが、使えなくなったら戦闘能力が格段に落ちるのが弱点だよな。この際ロキ・ファミリアの帰還にくっ付いていくしかないだろう。

 

「……食事の用意が出来たけど、大丈夫?」

 

 テントに呼びに来た『剣姫』にヴェルフが驚いていたが、呼びに来てもらってついていかないのも失礼なので、足元がふらついたヴェルフにベルが少し肩を貸し、全員でロキ・ファミリアが円陣を組んで食事を摂っている場所へと赴いた。

 

 そうして、円陣の一角に腰を下ろしたが、ベルの隣に『剣姫』が腰を下ろした途端、周囲の団員から殺気とも敵意とも取れる視線が注がれた。

 

(……おい、コレ、ベルの巻き添えでボコられる恐れもあるんじゃねえか)

(そんなことはないと思いますが……エドもグリードは外に出さないでくださいね)

(ああ。アイツなら、登場から5秒でロキ・ファミリアの団員をナンパして、ボコボコにされそうだしな)

 

 ナンパの巻き添えで殴殺とか勘弁だ。やがて、食事の前にフィン・ディムナの演説が始まった。

 

「うまいもんですねぇ……」

 

 リリが思わず感心する演説の内容は、都市最強派閥の冒険者であるという、彼ら全員の自負をうまいこと持ち上げる内容だった。流石にあの演説の後に、表立ってちょっかいをかけてくる奴はいないだろう。彼の言葉は、続く。

 

「――また、客人である彼ら、特に彼女は優秀な薬師であり、毒に倒れる我らの仲間を救ってくれた。未だ完全に解毒出来たわけではないが、専門の解毒薬で後遺症も残らず解毒出来るそうだ。皆、敬意と感謝を持って接してくれ!」

「ふえ!?」

 

 演説の最後の最後に爆弾を落とされて、リリから妙な声が出た。顔を真っ赤にして慌てる様は、ほんの少し嗜虐心がくすぐられる。

 

「くくく……良かったな、リリ。お前の功績が、あの都市最強派閥に認められたじゃねえか」

「え、いや、あの、そのう。私なんてまだ見習いですし、そもそも完全に解毒出来たわけじゃないですしぃ……」

 

 手をせかせかと動かして、大したことないと言っているが、団長の演説が終わるなり、何人かロキ・ファミリアの団員から、リリに飲み物を勧めてきた。断り切れず、リリは何とかそれを受けている。それを横目で見ながら、食事に手を付ける。

 

 食事に出されていたのは瓢箪のような妙な形をした、雲菓子(ハニークラウド)なる珍妙な果実。一口かじりついてみるが――。

 

(…………甘ッ!?)

 

 口いっぱいに広がる甘さに思わず閉口する。錬成し過ぎて脳が疲れていたから、糖分は有り難いが、それでもかなりの甘さだった。そんなこちらの様子に、隣のリリが話しかけてくる。

 

「エド? 甘いの苦手でしたっけ?」

「そこまでじゃないけど、甘すぎてな、この果実」

「ふーん…………エド。果実を持った方の手、もう少し右にずらせませんか?」

「? こうか?」

「さっきの仕返しです。あむ」

「!?」

 

 食べかけでつまんでいた果実を、目の前で食べられた。そのままもぐもぐと咀嚼し、嚥下した後、チロリと舌を見せる。

 

「……確かに甘いですね、コレ」

「――――」

 

 何故かその顔を見ていられなくなり、沈黙したまま、次の食べ物にはぐはぐと齧り付く。黙々と食べていると、目の前に何故かフィン・ディムナがやって来た。

 

「寛いでくれているかな?」

「あ、はい。どうもありがとうございます」

「食事まで分けていただいて……本当に感謝しています」

「ふふ、そうか」

 

 そう言って、フィンさんは、ドリンクのコップを持ったまま、何故かオレとリリの間に座った。…………ん?

 

「明日一日は、僕たちも動けなくてね。仕事の無い団員には、観光でもして暇をつぶすように言ってあるんだ。アイズもベル・クラネルをリヴィラの街まで案内するようだし、良ければ君たちは僕が案内しようかと思っているんだ。どうかな?」

「え? えっと……」

 

 ……言ってる内容は、別に問題ない。問題など無いんだが、何故、その内容を終始リリの方を向いて、語り掛けるように話すのか。その語り掛けの様子を見て、何故か胃の辺りがムカムカし始めた辺りで、その声は響いた。

 

『ぐぬあぁっ!?』

 

 やたら聞き覚えのある女神の声に、ベルが立ち上がった。たちまち駆け出したベルの後を、急いで追う。さらに後ろにリリとヴェルフも続いた。

 

「ベル君、ベル君! 怪我は無いかい?!」

「か、神様……?」

 

 たどり着いてみると、ダンジョンには入れないはずのヘスティア様が、ベルを押し倒していた。そして、それを微笑ましそうに見ているのが、旅装を纏った男神と、見慣れた灰色のローブを纏った男神で…………って。

 

「ミアハ様……?」

「それに、ナァーザ団長も?」

 

 ダンジョンに入れないはずの二人が来ているのに驚いていると、こちらを確認した二者は、たちまち走り寄ってきて、二人そろって抱き締められた。

 

「良かった……良かった…………!」

「よくぞ、無事だった…………!」

 

 涙ながらに抱き締められ、心の底から心配させていたと分かると、鼻の奥がツンとなった。リリも同様なのか、おずおずとナァーザ団長を抱き締め返している。

 

 こうして、≪ミアハ・ファミリア≫は、全員揃って再会することが出来たのだった。

 

「ご無事で何よりです、クラネルさん。アーデさんに、エルリックさんも」

「済まなかったな、エド……!」

 

 その後、たった一人で捜索隊の前衛を務め上げたと聞いた、戦闘衣(バトル・クロス)姿のリューさんと、モンスターの集団を押し付けてしまった責任を感じて、捜索隊に志願してくれた≪タケミカヅチ・ファミリア≫の面々に無事を喜ばれ、互いに礼を言い合った。その際、桜花や(みこと)が、どうにもまだ恩義に報いていないと退かなかったので、『貸し一つ』としておいた。

 

 そして翌日、せっかく来たので、全員で18階層に存在する冒険者の街、『リヴィラ』を訪れることになった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 翌日。リヴィラの街の入り口にて。

 

(どうして、こうなった…………)

 

 内心頭を抱えるエドの姿と。

 

「どうかしましたか、エド?」

 

 素知らぬ顔で話しかけてくるリリと。

 

「ふむ。これがリヴィラか……ナァーザよ。あれはなんだ?」

「あれは、切り出した水晶……地上に持って行っても高く売れる……」

 

 何故か一歩下がって、一柱と一人で観光を楽しんでいるウチの主神と団長と。

 

「ふふ。リヴィラの街は雑多だが、面白いところだ。皆も楽しんでくれ」

「その通りですね、団長!」

 

 どういうわけか雑務を副団長のリヴェリアに任せて、くっついてきたロキ・ファミリアの団長と、その横をスキップしながら歩いてるアマゾネスの姿があった……。

 

 どうして、こうなった。

 




前回シリアスだったので、甘々回……あれ?やりすぎた?次回は、ギャグに出来るか?こうやって考えると、ハガレンはシリアスとギャグのバランスが絶妙だったな……

そして、横のティオネをスルーして、本気を出すフィン……!このあたり、実はエドがいる弊害だったりw狙ってる娘の隣に他の誰かがいたら、そりゃ本腰入れますよww原作ベルは、明らかに親分子分というか、兄貴分妹分って感じでしたし。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。