ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
「ぜっ、ぜっ……………………」
「はぁ――――、はぁ――――」
フラフラと覚束ない足取りで歩くエドとリリ。呼吸は乱れ、装備の彼方此方に傷やほつれがあり、文字通りボロボロだ。それでも、決して歩みを止めることは出来ない。分かっているのだ。一度足を止めてしまうと、もう再び歩き出すことが出来ないと。
現在の階層は、17階層。二人はあれから先もあちこちでモンスターに襲われ、時には戦い、時には逃げ、そうしてあとたった一つ降りるだけで
ここまで来るのに、何度も死にかけた。ヘルハウンドやアルミラージだけではない。あのランクアップのきっかけにもなったミノタウロスやライガーファング、バグベアーとも戦った。錬金術も錬丹術も総動員して、ようやくこの階層までやって来た。しかしその代償に、彼らの持つ
……正直、諦めそうになったことは何度もあった。けど、その一方で、エドを動かしていたのは、絶対に捨てられない『焦燥感』だった。
(…………なんだよ、こりゃぁ……!)
ずっと、ずっと、胃がムカムカしていた。足を止めようとしても、苛むように胸が締め付けられた。止めるな、動け。それだけを身体が訴えていた。そうして、いつか、『求めたもの』へと辿り着け、と身体はまるで機械にでもなったかのように、歩みを止めない。
エドにも、もう分かっていた。自分を今立たせているもの、前へ進ませているものは、かつて失くした前世の想いなのだと。『魂の洗浄』を行われて、それでも染みついていた『妄執』なのだと。けれど、同時に疑問に思う。こんな『呪い』じみたものが、本当に今の自分に必要なのか?今の自分が前世の『妄執』を叶えるための機械なのだとしたら、それは果たして、『生きている』と言えるのか?そういうどうしようもない疑問に支配されていた。
(第一…………)
ちらり、と横を見る。そこには自分とほとんど変わらない背丈で、大きなバックパックを背負いながら、ひたすら歩き続ける少女。こちらの視線に気付いたのか、逆にこちらを元気づけるように淡く笑うリリルカ・アーデという少女。彼女だけじゃない。
そんなことをつらつらと考えていたから、エドは気付かなかった。リリは、体力が完全に限界を迎えていたから、気付かなかった。
17階層にたどり着いてから、
そうして、彼らはようやくそこへと至った。
「これが……」
「『嘆きの大壁』……」
ただ一種類のモンスターしか生み出さない、長大な壁。そして、その奥に、目指してきた18階層へと続く洞穴が見えた。そして、ここにもモンスターがいない。
「「…………」」
ゴールが見えたからこそ、今まで感じていた違和感が明確な不安となって這い寄ってきた。二人とも、まるで言葉にしたら現実になってしまうというかのように、何も言わず、ただ洞穴を目指した。広大な空間に響くのは、しばし二人の重い足音だけだった。
そして、大広間の後半に差し掛かった時、不意に後ろから声がかかった。
「――――エド!! リリ!!」
「お前ら、無事だったか!!」
その声に二人そろって振り返る。そこには、あちこちボロボロになってはいるものの、何とか二本の脚で立っているベルと、その手に持った大剣を、杖の代わりにしているヴェルフの姿があった。
「っ、お前らこそな!」
「早くこちらに! モンスターがいない内に――――」
まるで、その言葉を合図にしたかのようだった。
「「「「――――――――」」」」
その場にいた全員の背筋が凍った。そして、そんな彼らを嘲笑うように、罅は上下左右に広がり、やがて、ぎょろり、と巨人の瞳が覗いた。
『オォォオオオオオオォォォ!!』
『
「…………くッ!」
状況は見ての通り、最悪。そんな中でエドは、何とか打開策を見出そうとしていた。この巨人を、倒す必要などないのだ。ただ、ベルとヴェルフが通り抜ける間だけ、邪魔させなければいいのだ。周囲を観察し、最適解を探し――――ふと、ゴライアスが砕いて落ちた大壁の破片が目に入った。
「!!」
途端に駆け出し、大壁の破片に血印を施す。最後の一本の
「これが、『切り札』――――『
再び手を合わせ、魂を一時的に移し替える。ガクリと倒れかける身体を、即座に出てきたグリードが支えた。そうして、大広間の入り口側で、ベル達に迫っていたゴライアスを見据える。
『うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』
鎧が咆哮し、ゴライアスへと組み付く。そのまま『嘆きの大壁』へと戻そうとするかのように押さえ込んだ。
『っ、今のうちだ! 早く通れ!』
「オラッ! お前ら、こっちへ来い!!」
「ベル様、ヴェルフ様、急いで!!」
エド、グリード、リリの三人分の呼びかけに、少し呆然としていたベルとヴェルフが我を取り戻す。
「分かった、急いで、ヴェルフ!」
「ああ、くそ、後で説明しろよ!」
最後の力を振り絞っての全力疾走。二人とも身体中の痛みをこらえるように、今できる精一杯で走り続けた。
『オォォォォオオオオオオ!!』
ゴライアスは足元に見える小さな存在を害そうと、必死になって目の前の鎧を殴り、蹴りつけた。兜がひしゃげ、胴がへこみ、腕が取れても、その鎧は決して放そうとはしない。
『行かせるわけ…………ねぇだろぉぉぉぉぉっ!!』
どれだけ打たれても、離れない。とうとう入口の方にいた二人がもう一組にたどり着こうとした時、ゴライアスは煩わしくなったのか、思い切り両手を振り上げ――鎧の胴体へと打ち下ろした。
その衝撃は、鎧を突き抜け――――――内側の血印へ、僅かに『罅』を入れた。
『う――――――――? あぁあああああああああああああああ!!?』
瞬間、エドの中を、膨大な情報の荒波が駆け抜けた。自分がいた。女性がいた。男性がいた。青年がいた。多くの、多くの、今は知らない誰かがいた。
『ああああああああああああ――――――…………』
長く、長く続いた叫びが終わった時、今まで何ともなかった巨大な鎧は、ガラガラと音を立てて崩れた。
「エド?!」
「待て、ガキ! アイツなら、『中』に戻って来た! 戻らねえで、走り続けろ!!」
思わず振り返ろうとしたベルを引き戻したのは、グリード。ベルも一瞬躊躇したが、その言葉を信じ、再び走り続けた。
『オォォォオオオオ!』
後ろからは、ゴライアスの咆哮と重い足音が響き渡る。人間以上の歩幅を持つ巨人の指先が遂に触れようとした時、一行は前へと飛んだ。
「うおおっ!」
「うわあっ!」
「きゃあっ!」
「オラッ!!」
巨人の掌が洞穴の入り口を崩す中、彼ら四人は18階層への階段を転がり落ち、身体を何度も打ち付け、意識を失った。
エドの切り札、『Gアルフォンス』!!気分的には第一巻のときの『神の鉄槌』に、シャンバラのアルの錬金術の合わせ技……wまあ、見た目はどっかのG秋葉様ですけどね!持ちキャラのネコアルクカオスでも琥珀でも、たどり着いたことがないなw
そして、前回ナァーザさんのフラグを立てておきながら、エドの記憶フラグの回収に……洗浄されて記憶失ってるから、直接魂へのショックが入りましたwエドのアイデンティティの話なので、前書きはある意味強烈な自我のヒトですww