ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――成程、こんな鎧を着ているから、『鋼の錬金術師』か!



第33話 英雄願望(アルゴノゥト)

 

「――するとアンタは、ベルの装備一式を新調する代わりに、『鍛冶』のアビリティを取るまでの間パーティーに入れて欲しいって頼んだのか」

「ああ。ランクアップのためには、上層より中層で経験を積んだ方が断然いいからな」

「そういうことでしたか……」

 

 現在の階層は11階層。新たにパーティーに加わったヴェルフという男の詳しい経緯を聞いたところ、ベルが愛用していた軽鎧(ライトアーマー)を作製したのがヴェルフで、ランクアップしたいがために加入を迫ったらしい。

 

「まったくベル様は……ただモノで釣られて、買収されただけではありませんか」

「う……」

「いや、いいんじゃないか? この加入は」

「「え?」」

 

 そんなエドの発言に、リリだけでなく、ベルまで驚愕していた。少し失礼じゃねえか?

 

「どこがいいんですか! 『アビリティを獲得する間だけ』なんてっ、リリ達は都合良く利用されているだけです! しかも、完璧に臨時のパーティー要員じゃないですか! この鍛冶師の方が目的を終えてパーティーから離脱すれば、また元の状態に逆戻り! 一歩進んで、すぐ後退してどうするんですか!?」

「え、ええ?! リリ、少し言い過ぎじゃ――――」

「いや、問題ないだろ。今後を考えれば、パーティーメンバーは可能な限り同じ派閥の人間の方がいいんだし」

 

 つまり新たに必要となるパーティーメンバーは、種族特性や元々の資質で腕力が強かったり、魔法の資質に優れた人物で、かつミアハ・ファミリアかヘスティア・ファミリアに加入してくれる人物となる。Lv.2以上の上級冒険者は、よほどの事が無ければ派閥を離脱しない以上、探すのは駆け出しの冒険者志望が中心だろう。出来れば力の強いドワーフか、魔法適正が高いエルフだと尚良い。

 

「……そういうわけで、今は臨時のパーティー要員を雇って、中層の感覚に慣れておくほうがいいだろ。帰ったらナァーザ団長に、ベルみたいな冒険者志望が街に来てないか、情報を集めてもらうのがいいんじゃねえか?」

「……確かにそれなら、長期的に見れば派閥の強化にも繋がりますね。でも、時間がかかりますよ?」

「焦って変な派閥の、怪しいメンバーを雇うよりずっといいさ。ヴェルフさんだっけ? ≪ヘファイストス・ファミリア≫ってことは、基本的には顧客の情報は漏らさないよな?」

「おお、そりゃもちろんだ! 俺にとっちゃ、ベルは初めての専属契約だからな。大事な客を手放す真似はしない!」

「な?」

「……そうですね」

 

 商業系ファミリアは、このあたりシビアだ。契約関係や情報にルーズな探索系より、余程信用できる。

 

「えっと……つまり二人とも、ヴェルフさんを加えること認めてくれたってことでいいの……?」

「ああ」

「わかりました……」

「そっか、ありがとな、『チビスケコンビ』!」

 

 ――――ビキリ。

 

「誰が……チビスケだ、コラァッ!!」

「私だって、チビではありません!」

 

 11階層の入り口にいるというのに、ギャーギャー騒ぐ声が迷宮内に響き渡った。

 

「第一、リリにはリリルカ・アーデという名前があります!」

「オレだってエド・エルリックって名前があらァッ!」

「へー、やっぱりお前らが『リトル・ルーキー』とパーティー組んでるって聞く、『循環竜(ウロボロス)』と『勇貫(スティング)』か。モンスターを素手で解体して、その血を飲んで肉を丸かじりにする、身の丈5Mの巨人って聞いてたけどな」

「どこ情報だ、そりゃぁ! オレ達は小人族(パルゥム)だ!」

「5Mの身長持った小人族(パルゥム)が、いるわけないじゃないですか!」

「まあよろしくな、エドスケにリリスケ」

「「話、聞けェッ!!」」

 

 その後、叫び倒しても話半分に聞かれ、ぜーぜーと切れる息を整えるため、一度叫びを中断した。

 

「お、落ち着いて、二人とも……改めて、紹介するよ? この人はヴェルフ・クロッゾさん。≪へファイストス・ファミリア≫の鍛冶師なんだ」

「……クロッゾっ?」

「あん?」

 

 反射的に件のヴェルフ・クロッゾという名の鍛冶師を見る。確か、その名は……

 

「呪われた魔剣鍛冶師の家名? あの凋落した鍛冶貴族の?」

 

 そう、『クロッゾ』とは、かつて魔剣を作り、財を成した一族の家名。ラキアという名の王国に魔剣を売りつけ、貴族の地位を手に入れた一族。それが『クロッゾ』。もっとも現在、その地位からは追われ、没落しているとも聞く。

 

 ……で、それらを思い出した上での、感想は……。

 

「まぁ、どんな家の出だっていいだろ。気にしないでおこうぜ」

 

 そう言ったら、全員から驚きやら呆れやら戸惑いやらが入り混じった視線を向けられた。

 

「……はあ。エドなら何となく、そう言いそうな気もしましたが」

「い、いやエドの言う通りだよ。気にしないでおこう!」

 

 付き合いの長い二人はすぐに再起動して、同意してくれたが、そんな中変わらず驚愕を顔に貼りつけている人間が一人。

 

「……気にならないのか? 俺が、『クロッゾ』の人間だってことに」

 

 疑問を投げかけてくるヴェルフの言葉に、考えることは一言。全く気にならない。

 

「……そもそも、オレは『錬金術師』なんだよ」

「…………?」

「真理を読み解き、一定の法則の下で構築式を組み上げ、その計算の通りに現象を引き起こす。つまりは、きっちり理解できてさえいれば、『万人が使える』力の探究を目指してる訳だ。『一族限定』なんて特殊すぎる力は、ただの『個性』だ。研究も出来ねえし、わざわざ意識することでも無えんだよ」

 

 『個性』は、それこそ髪が赤いとか鼻が高いとか、そういうレベルの話でしかない。『クロッゾ』って名字があって、ちょっとすごい魔剣を作れたからって、気にするレベルじゃないだろう。そう告げたら、目の前で腹を抱えて笑い転げる鍛冶師が。

 

「くくっ……ははは! 個性、クロッゾの呪われた血が、『個性』か! ははははは……」

 

 ある程度笑って、起き上がったヴェルフは何やらスッキリした顔をしていた。

 

「――いやぁ、お前みたいな奴は初めて出会ったな。ま、よろしく頼むぜ、エドスケ」

「……そのエドスケ呼び、止めたらどうだ? 『ヴェルフさん』」

「何だ、固いなぁ。俺のことはヴェルフでいいぜ」

「なら、ヴェルフ。そろそろ武器出して構えてくれるか」

 

 そう言って背中の槍を構える。ちょうどヴェルフの背後の壁に亀裂が生まれ、大型級のオークやインプなどが這い出てきた。

 

 ヴェルフの武器は大剣。今回の目的は、彼のランクアップだったため、出来る限りモンスターを倒させるため、ベルは遊撃、ほか二人が援護と防御となった。ここで再び、初対面同士のあいさつの時間となる。

 

「よぉ、同居人が世話になったな! 俺はグリード! なんなら俺の手下にならねぇか?」

「なんでだよ! しかしお前、変わった身体してんな……」

 

 今回盾役を請け負ったグリードの登場に、一瞬ヴェルフが驚いたものの、それ以外は特に問題も起きず、ほどなく戦闘は終了した。リリが魔石を回収する間、全員が手持ち無沙汰となる。

 

「つまり、お前はさっきのエドじゃないんだな?」

「ああ。あいつはこの身体の同居人みたいなもんでな」

「いや、驚くよね。僕も詳細聞いたら驚いたもん……」

 

 雰囲気が明らかに変わり、腕が真っ黒く変わったグリードの簡単な紹介が進む。そんな中、ふと気づくと、ベルの右手にほのかに光が集まっていた。

 

「ベル……なんだ、そ――『グォォォォォォォォォ!!』――りゃ、ってなんだ?!」

 

 ヴェルフが振り向くと、そこには巨大な一頭の竜がいた。インファント・ドラゴン。小竜とも呼ばれる、上層では他のモンスターの追随を許さない階層主に近い存在。

 

 運悪く標的になったのは、魔石の回収でパーティーから比較的離れていたリリ。

 

「リリスケ! 逃げろ!」

 

 その言葉でリリが我に返りその場から離れようとするが、その間にドラゴンの口腔内に焔が溜まっていた。

 

(グリード! 替われ!)

 

 意識の表裏が切り替わると同時に、ポケットから発火布を取り出して付け替え、ドラゴンの顔周りの酸素濃度を変えてやった。

 

『グボォッ!?』

 

 たちまち口腔内の焔が爆発的に燃え盛り、ドラゴンが一瞬ひるむ。第二撃を喰らわせようと、再び指を打ち鳴らそうとした、その時だった。

 

「――――ファイアボルトォォ!!」

 

 自分の真横を、真っ赤に燃え盛る雷霆が通り過ぎ、ドラゴンの首を根こそぎ消滅させた。今までのベルの魔法では、考えられなかった攻撃力だった。

 

「なんだ、今の…………」

 

 その場にいた全員が、その魔法を放ったベルの方を見ていた。

 




インファント・ドラゴン戦、終了。普通に考えれば、臨時で機密漏らさないパーティーメンバーは最高です。特に敵対派閥が多くなってくるとね……レフィーヤみたいなエルフかドワーフが加入すると、ヘスティア・ファミリアは面白くなりそうなんですけどね。それが『女性』だと、主神が認めそうもないww

アルゴノゥト……これのエフェクトを見た時、アクションゲームとかの『チャージショット』しか浮かばなかったww

そして、風評被害はどんどん酷くなっていくw

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