ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――なめたマネしてると、その頭の上のアンテナむしり取るぞ!!



第31話 豊穣の女主人

 

 新たに手に入れた機械鎧(オートメイル)を一度本拠地(ホーム)へ置いてきた後、二人は改めてランクアップのお祝いへと出かけた。場所は『豊穣の女主人』。ベルが懇意にしている酒場だが、実は二人はこれまで一・二回しか入ったことがない。料理はかなり美味しかったのが印象深い店だ。

 

「いらっしゃいませニャ!」

 

 店に着くと、従業員の格好をした猫人(キャットピープル)が出迎えた。ベルの連れであることを告げると、店の奥から声がかかった。

 

「エド、リリ、こっち!」

 

 ベルのその声に、何故か一斉に店の視線が集中した。

 

『あいつらが『リトル・ルーキー』のパーティーか……』

『あいつらもLv.2になったらしいな? 確か『循環竜(ウロボロス)』と『勇貫(スティング)』だったか』

『フィン・ディムナが、太鼓判を押したらしいぜ』

『『勇者(ブレイバー)』がか? 吹いてるだけだろ』

『いや、神々にメッセージまで伝えたらしい。どんな媚を売ったんだろうな?』

『コバンザメってやつか……』

 

 ………………ふむ。

 

「待ちなさい、エド。何いきなり、発火布を手に付けてるんですか」

「いや、酒の肴に、冒険者の丸焼きをな?」

「食べられないから、やめてください。今は堪えてください」

 

 その言葉に、渋々手袋をポケットへと仕舞う。すると少し店内がまたもざわついた。

 

『『循環竜(ウロボロス)』のやつ、『勇貫(スティング)』の尻に敷かれてんじゃねぇか』

『そりゃそうだろ。あの女、ライガーファングの強化種を、素手で解体したらしいぜ』

『オイオイ、そりゃいくらなんでも嘘だろ』

『いや、マジだ。あの女はあんな見た目で、モンスター以上のパワーではらわたを引き千切ったそうだ』

『拳がハンマーより硬いらしいな。蹴りでメイスをへし折ったって聞いたぞ』

『手刀で斧を叩っ斬ったらしいな……マジか?』

「「………………」」

 

 風評被害とは、こういうことか。あまりにもあまりな噂に、顔を真っ赤にしたリリを促し、ベルの待つテーブルへと向かう。するとそこには、周りの従業員と同じエプロンを纏った女性が二人座っていた。

 

「遅かったね二人とも。紹介するよ。こちら、この店の従業員さんで――」

「シル・フローヴァです。今日はじゃんじゃん飲んで下さいね!」

「リューと言います。以前来た時に少しお見かけしましたが、お話するのは初めてですね。良ければこれからも、店を贔屓にしてほしい」

 

 そう言って紹介されたが……シルさんは、なんか既に酒が入っている感じの一般人なのはいい。問題は、もう片方のリューさん。コップを傾けながらも、まるで背中に一本真っ直ぐな鉄の棒が通っているように、姿勢にブレがない。隣のシルさんに比べ、なんかカタギじゃない空気を感じるのだが……?

 

「っと、そっちだけ紹介させても、失礼だな。エド・エルリックだ。ベルのパーティーメンバーで、錬金術師をしてる」

「リリルカ・アーデです。同じくエドとベル様のパーティーメンバーで、サポーターをしています。それと常備薬などでお困りでしたら、是非我が≪ミアハ・ファミリア≫へご一報ください」

 

 一通りあいさつが終わり、とりあえず飲み物を注文する。テーブルに新たに持って来られたのは、二つの果実水。それと、後でグリードが出てきたときのために、一つ余計にエールも頼んでおいた。

 

「さあさあ、今日は皆さんのお祝いなんですから、どんどん飲んで下さい。ミア母さんもどんどん飲んで、お金を落としていけって言ってましたし!」

「それは、私たちに言っちゃ駄目じゃないですか……?」

「その通りです、シル。ですが、皆さんはお気になさらず。今日は祝い事なのですから」

「そ、そうですね! ほら、エドもリリも何か頼んだら? 偶には羽目を外してさ」

「まあ、多少は羽目を外すけどよ……」

 

 そんなこんなで食事がある程度進み、ベルも酔いが回ってきた頃、何故かずっと水だけを飲んでいるリューさんがこんなことを聞いてきた。

 

「それで、クラネルさん。この後はどうするのですか?」

「?」

「今後の貴方達の動向が気になります」

 

 その言葉に、ベルが少しだけ首を傾げ、答えを告げた。

 

「明日は、壊れてしまった装備品を買い直しに行こうかと思ってますけど……」

「いや、違うだろ、ベル。リューさんが聞きてえのは、今後のパーティーの方針のことだ」

「あ。す、すいません……」

「いえ、お気になさらず。それで、どうなんです? クラネルさん、アーデさん、それとエルリックさん。貴方達はダンジョン攻略を再開させる際、すぐに『中層』へ向かうつもりですか?」

 

 ……パーティー内の方針としては、11階層で新たにランクアップした自分たちの力量を確認した上、上層の最後と呼ばれる12階層を踏破。それから改めて中層へ向かう予定だった。その旨を伝えると、少しだけ安堵した様子を見せた後、一つの事実を告げた。

 

「貴方方は、基本的な隊形である三人一組(スリーマンセル)に既に達しています。その三人全員が、一気にランクアップしたことも驚異的です。ですが上層と比べると――――『中層』は、違う」

 

 リューさん曰く、中層以降は今まで群れても一桁単位だったモンスターが文字通り『徒党』を組むことがザラであり、少人数のパーティーでは対処しきれないことも充分に起こり得るのだとか。

 

「それ聞くと、厳しいかもな。三人一組(スリーマンセル)って言っても、リリはサポーターだし」

「エドも、中衛ではありますが、魔力が切れれば殲滅能力が格段に落ちますからね」

「クラネルさんは、最前衛での敏捷型攻撃役(スピードアタッカー)と聞いています。そうなると必要となるのは、強い一撃を持ち前衛を任せられる筋力型攻撃役(パワーファイター)か、厚い装甲で前衛を維持する盾型防御役(タンク)か、あるいは一撃必殺の威力を秘めた魔法攻撃役(スペルユーザー)を加えるだけでも、パーティー全体の連携に余裕が生まれるはずです」

「……今言った三つ、現状で担っているのはエドですね」

「ご、ゴメンね、エド。負担かけて……」

「いや、それはいい。でも確かにコンスタントに動ける仲間が、もう一人くらい必要かもな……」

 

 パーティー全体をフォローして、戦線を支えるのが中衛の役目なのだから、それは問題ない。問題なのは、現状完全にギリギリの人員でパーティーが成り立っているという点だ。余裕を持つのなら、確かに増員は必要だろう。

 そんなことを思っていると、テーブルに不意に影が差した。

 

「お困りみたいじゃねえか、リトル・ルーキー! 俺達のパーティーにてめえらを入れてやろうか?」

 

 ……やたら酒臭いおっさんが、テーブルに近づいてきた。足取りもおぼつかないし、絡まれるだけ損だと思い、無視していると、下卑た視線を同席していたリューさんに向け、その肩を抱き寄せようとしてきた。

 

「触れるな」

 

 絶対零度の宣告と、恐るべき早業。ベルが飲み終わった空のジョッキにおっさんの腕をはめると、そのまま捩じり上げてしまった。リューさんから放たれる底知れぬ寒気にようやく思い出した。これはリリの騒動の時、路地裏で感じ取った殺気だと。

 

 男の仲間二人も近くの従業員から、後頭部に椅子を振り下ろされ、意識を手放していた。残りは一人だったが、何を思ったか、懐から短剣を取り出した。

 

「な、なんなんだよ、てめぇらぁっ?!」

 

 振り上げた短剣は、あろうことかテーブルで若干舟を漕いでいたシルさんに向かっている。それを見た瞬間、心の中で声が響いた。

 

(替われ、ガキ!)

(わかった、任せる!)

 

 表裏が入れ替わり、振り下ろされた短剣の切っ先を黒く染まった左手が受け止めた。

 

「女に手ぇ出してんじゃ――――」

「「「シルに何をする(ニャ)!!」」」

「あぼろばらら?!」

 

 グリードが格好良く決めようとしたところ、周りのリューさんや、アーニャ、クロエというらしい猫人(キャットピープル)二人が、そこらの椅子やジョッキをその男の頭部に何度も振り下ろした。男が完全に気を失ったところで、食事代と椅子・食器の修理代として腰に下がっていた金貨入りの巾着を取り上げ、そいつら全員店の前に叩き出されることになった。

 

 で、それら全てが終わった後。

 

「ん~~? 皆さん、どうしたんですか~? あー、ベルさん。遠慮しないでじゃんじゃん飲んでくださ~い」

「肝据わりすぎだろ、姉ちゃん」

 

 ようやく起き出したシルさんに、グリードが突っ込んでいた。

 




宴会、終了。ミア母さんやリューさんは有数の実力派冒険者らしいですが、ハガレンで強い女性というと、オリヴィエ少将とか師匠のイズミさんとかしか浮かばない。両方共にらまれたらトラウマになりそうなくらい怖い……

リリは大変な風評被害にあっていますww

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