ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
新たに手に入れた
「いらっしゃいませニャ!」
店に着くと、従業員の格好をした
「エド、リリ、こっち!」
ベルのその声に、何故か一斉に店の視線が集中した。
『あいつらが『リトル・ルーキー』のパーティーか……』
『あいつらもLv.2になったらしいな? 確か『
『フィン・ディムナが、太鼓判を押したらしいぜ』
『『
『いや、神々にメッセージまで伝えたらしい。どんな媚を売ったんだろうな?』
『コバンザメってやつか……』
………………ふむ。
「待ちなさい、エド。何いきなり、発火布を手に付けてるんですか」
「いや、酒の肴に、冒険者の丸焼きをな?」
「食べられないから、やめてください。今は堪えてください」
その言葉に、渋々手袋をポケットへと仕舞う。すると少し店内がまたもざわついた。
『『
『そりゃそうだろ。あの女、ライガーファングの強化種を、素手で解体したらしいぜ』
『オイオイ、そりゃいくらなんでも嘘だろ』
『いや、マジだ。あの女はあんな見た目で、モンスター以上のパワーではらわたを引き千切ったそうだ』
『拳がハンマーより硬いらしいな。蹴りでメイスをへし折ったって聞いたぞ』
『手刀で斧を叩っ斬ったらしいな……マジか?』
「「………………」」
風評被害とは、こういうことか。あまりにもあまりな噂に、顔を真っ赤にしたリリを促し、ベルの待つテーブルへと向かう。するとそこには、周りの従業員と同じエプロンを纏った女性が二人座っていた。
「遅かったね二人とも。紹介するよ。こちら、この店の従業員さんで――」
「シル・フローヴァです。今日はじゃんじゃん飲んで下さいね!」
「リューと言います。以前来た時に少しお見かけしましたが、お話するのは初めてですね。良ければこれからも、店を贔屓にしてほしい」
そう言って紹介されたが……シルさんは、なんか既に酒が入っている感じの一般人なのはいい。問題は、もう片方のリューさん。コップを傾けながらも、まるで背中に一本真っ直ぐな鉄の棒が通っているように、姿勢にブレがない。隣のシルさんに比べ、なんかカタギじゃない空気を感じるのだが……?
「っと、そっちだけ紹介させても、失礼だな。エド・エルリックだ。ベルのパーティーメンバーで、錬金術師をしてる」
「リリルカ・アーデです。同じくエドとベル様のパーティーメンバーで、サポーターをしています。それと常備薬などでお困りでしたら、是非我が≪ミアハ・ファミリア≫へご一報ください」
一通りあいさつが終わり、とりあえず飲み物を注文する。テーブルに新たに持って来られたのは、二つの果実水。それと、後でグリードが出てきたときのために、一つ余計にエールも頼んでおいた。
「さあさあ、今日は皆さんのお祝いなんですから、どんどん飲んで下さい。ミア母さんもどんどん飲んで、お金を落としていけって言ってましたし!」
「それは、私たちに言っちゃ駄目じゃないですか……?」
「その通りです、シル。ですが、皆さんはお気になさらず。今日は祝い事なのですから」
「そ、そうですね! ほら、エドもリリも何か頼んだら? 偶には羽目を外してさ」
「まあ、多少は羽目を外すけどよ……」
そんなこんなで食事がある程度進み、ベルも酔いが回ってきた頃、何故かずっと水だけを飲んでいるリューさんがこんなことを聞いてきた。
「それで、クラネルさん。この後はどうするのですか?」
「?」
「今後の貴方達の動向が気になります」
その言葉に、ベルが少しだけ首を傾げ、答えを告げた。
「明日は、壊れてしまった装備品を買い直しに行こうかと思ってますけど……」
「いや、違うだろ、ベル。リューさんが聞きてえのは、今後のパーティーの方針のことだ」
「あ。す、すいません……」
「いえ、お気になさらず。それで、どうなんです? クラネルさん、アーデさん、それとエルリックさん。貴方達はダンジョン攻略を再開させる際、すぐに『中層』へ向かうつもりですか?」
……パーティー内の方針としては、11階層で新たにランクアップした自分たちの力量を確認した上、上層の最後と呼ばれる12階層を踏破。それから改めて中層へ向かう予定だった。その旨を伝えると、少しだけ安堵した様子を見せた後、一つの事実を告げた。
「貴方方は、基本的な隊形である
リューさん曰く、中層以降は今まで群れても一桁単位だったモンスターが文字通り『徒党』を組むことがザラであり、少人数のパーティーでは対処しきれないことも充分に起こり得るのだとか。
「それ聞くと、厳しいかもな。
「エドも、中衛ではありますが、魔力が切れれば殲滅能力が格段に落ちますからね」
「クラネルさんは、最前衛での
「……今言った三つ、現状で担っているのはエドですね」
「ご、ゴメンね、エド。負担かけて……」
「いや、それはいい。でも確かにコンスタントに動ける仲間が、もう一人くらい必要かもな……」
パーティー全体をフォローして、戦線を支えるのが中衛の役目なのだから、それは問題ない。問題なのは、現状完全にギリギリの人員でパーティーが成り立っているという点だ。余裕を持つのなら、確かに増員は必要だろう。
そんなことを思っていると、テーブルに不意に影が差した。
「お困りみたいじゃねえか、リトル・ルーキー! 俺達のパーティーにてめえらを入れてやろうか?」
……やたら酒臭いおっさんが、テーブルに近づいてきた。足取りもおぼつかないし、絡まれるだけ損だと思い、無視していると、下卑た視線を同席していたリューさんに向け、その肩を抱き寄せようとしてきた。
「触れるな」
絶対零度の宣告と、恐るべき早業。ベルが飲み終わった空のジョッキにおっさんの腕をはめると、そのまま捩じり上げてしまった。リューさんから放たれる底知れぬ寒気にようやく思い出した。これはリリの騒動の時、路地裏で感じ取った殺気だと。
男の仲間二人も近くの従業員から、後頭部に椅子を振り下ろされ、意識を手放していた。残りは一人だったが、何を思ったか、懐から短剣を取り出した。
「な、なんなんだよ、てめぇらぁっ?!」
振り上げた短剣は、あろうことかテーブルで若干舟を漕いでいたシルさんに向かっている。それを見た瞬間、心の中で声が響いた。
(替われ、ガキ!)
(わかった、任せる!)
表裏が入れ替わり、振り下ろされた短剣の切っ先を黒く染まった左手が受け止めた。
「女に手ぇ出してんじゃ――――」
「「「シルに何をする(ニャ)!!」」」
「あぼろばらら?!」
グリードが格好良く決めようとしたところ、周りのリューさんや、アーニャ、クロエというらしい
で、それら全てが終わった後。
「ん~~? 皆さん、どうしたんですか~? あー、ベルさん。遠慮しないでじゃんじゃん飲んでくださ~い」
「肝据わりすぎだろ、姉ちゃん」
ようやく起き出したシルさんに、グリードが突っ込んでいた。
宴会、終了。ミア母さんやリューさんは有数の実力派冒険者らしいですが、ハガレンで強い女性というと、オリヴィエ少将とか師匠のイズミさんとかしか浮かばない。両方共にらまれたらトラウマになりそうなくらい怖い……
リリは大変な風評被害にあっていますww