ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――おお、わりい。ぶっ壊れた!
――ぶっ壊れたって、あんた――!


第30話 新装備

 エド、リリ、ベルの三人の「二つ名」が確定した後、ベルの提案により、パーティーメンバーでの打ち上げを行うことになった。本当はホームに残っている団長のナァーザやミアハ様も誘いたかったが、パーティー内での打ち上げだからと、二名とも遠慮された。

 

 そう言うわけで打ち上げに行くのは二人のみ。会場となったのは、以前も打ち上げで使用した『豊穣の女主人』。そこへ向かう前に、二人で野暮用を一つ片付けておくことにした。

 

「しかし、いいのでしょうか……この間のドロップアイテムで新装備の発注なんて」

 

 二人が片付けようという野暮用とは、先日の中層モンスターからドロップしたアイテム、『ライガーファングの大腿骨』と『バグベアーの毛皮』から新しい装備を作ることだった。安く上げるのであれば、直接ドロップアイテムを装備へ錬成するという方法もある。しかし、鍛冶系ファミリアに所属する上級鍛冶師は、リリやナァーザが持っている『調合』と同じく作成物に補正効果が働く『鍛冶』という発展アビリティを持っている。今後も考え、専門の鍛冶師に頼むことにしたのだ。

 

「まあ、いいじゃねえか。あの二体は明らかに普通の奴じゃなかったからな」

 

 前回倒した二体の内、ライガーファングについては、『咆哮(ハウル)』で焔を消し飛ばすなんて通常の個体では出来ないことを為していた。その上バグベアーも、身体を取り巻く毛皮の色が鮮やかな真紅だった。そこまで考え、二人は答えを導き出した。

 

「『強化種』……だったのでしょうね」

「恐らくな。だからこそそのドロップも、貴重ってもんだ」

 

 他の個体の魔石を捕食し、通常以上の実力を身に着けた個体、『強化種』。当然そのモンスターから取れるドロップアイテムも通常以上の性能となるため、彼らはあえてそのアイテムを売らなかったのだ。

 

 そうして、二人が着いたのは、≪ゴブニュ・ファミリア≫。世界的ブランドである≪ヘファイストス・ファミリア≫と双璧を為す鍛冶系派閥だ。

 

「ん――――おう、ミアハのとこのエド坊主か。また、その義手の部品でも仕入れに来たか?」

 

 エドはここに来るのは初めてではない。彼の手足の機械鎧(オートメイル)は、元々ゴブニュ・ファミリアで仕入れた鉄くずから出来ており、部品への錬成こそ当初はエドが行ったものの、いずれは冒険者相手に売り出すことも考えているため、量産出来るかの相談や部品の細かな調整などは、ゴブニュ・ファミリアに一括依頼しているのだ。

 

「久しぶりっす、ゴブニュ様。まずは、これを見て貰えますか」

 

 作業台の上に広げたのは、件の大腿骨と毛皮。たちまち主神のゴブニュを始めとして、お抱えの職人ドワーフたちはつぶさに調べ始めた。

 

「ほお、こりゃ、ライガーファングの骨か――」

「いや、それにしては随分硬いのう」

「こっちのバグベアーの毛皮も、通常の色合いとは異なっとる」

「十中八九『強化種』だのう」

 

 ……流石は、有数の鍛冶師ファミリア。あっという間に素材の性質を看破してしまった。その事実に唇の端を上げ、リリの方から依頼内容を告げる。

 

「今回伺ったのは、この二つのドロップアイテムでの装備の作成です。お願いできますか?」

「ふむ。そりゃ構わんが、モノもモノだし、ちいと値が張るぞ。払いの方は、ツケは効かんが」

「それなら、問題ねえ。ミアハ様が直々に、オレ達の命に係わることだからって、オレの分の店での稼ぎを使っていいって言ってくれた。探索で稼いだ分も上乗せして、現金で一括払いするからよ」

「成程。確かに、問題ないのう」

 

 本当のところ、店の困窮を考えればあまり無駄遣いもしたくないのだが、これについては必要経費として、ちゃんとした装備をそろえるつもりだった。

 

「で、モノはどうする? 確かエド坊主は、槍を使っとったはずだが」

「あー……いや、大腿骨の方は、こっちのリリの装備に使ってくれ。ボウガンを使ってる」

 

 その言葉に、若干リリが咎めるような視線を向ける。今回、エドは槍を新調するつもりがない。発火布や手甲(ガントレット)が完成してから、槍は牽制や止めにしか使わないのだから、変える必要もないと思っていた。その上、いざとなれば地面から作るつもりなのだ。

 

「毛皮の方は、どうするんじゃ?」

「ああ。結構な面積があるみたいだし……オレのこのコートと、リリの戦闘衣(バトル・クロス)って作れるか?」

「そっちのお嬢ちゃんが纏っとるようなフードマントでなくて、インナーなら可能じゃろ」

「それで構いません……お願いできますか?」

 

 結局依頼したのは、リリの新たなボウガンと、インナー。そしてエドのフードコートとなった。注文も終わり、帰ろうとなった時、二人をゴブニュが呼び止めた。

 

「おう、ちいと待て、エド坊主。前から注文しとったアレ、出来とるぞ」

「本当か、ゴブニュ様!」

「? アレ?」

 

 ゴブニュが二人を案内したのは、出荷前の商品を収納する備え付けの倉庫。その中の作業台に、布にくるまれた三つの物体が置かれた。

 

「一体なにを注文してたんです? エド」

「へへ。まあ見てな」

 

 そう言ってエドが布包みを外す。丁寧に布をはいでいくと、やがて全貌が見えてきた。

 

「――――『機械鎧(オートメイル)』?」

 

 出てきたのは、一揃いの機械鎧(オートメイル)。右手用、両脚用と、エドが使用する三点すべてが揃っていた。

 

「ああ。ただコイツは、今まで使っていたような早期回復用の機械鎧(オートメイル)じゃねえ。そのせいでゴブニュ・ファミリアの協力が必要になったんだけどな」

「いや、ムチャクチャな注文に、儂らも面白い仕事をさせてもらったわい。コイツが量産されるようになれば、確かにミアハのところに目玉商品が出来るじゃろうな」

 

 一柱と一人がそう言い募る中、リリは今聞いた内容を反芻していた。本来機械鎧(オートメイル)の部品を全部作れるはずのエドが、ゴブニュ・ファミリアに注文した機械鎧(オートメイル)。少し考えると、自ずと答えは出た。

 

「もしかして、迷宮(ダンジョン)探索用の……?」

「ああ。これが、初の『完全戦闘用機械鎧(オートメイル)』だ」

 

 彼らは新たな力を得て、大きく羽ばたこうとしていた。

 




新装備発注です。正直持ってないと、中層でくたばりますからね……

完全戦闘用オートメイル。多分ハガレン読んだ人には分かる装備ですwwちなみに、流石にバッカニアの『クロコダイル』は出せなかった……

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