ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――いーね、その重苦しい感じ!背負ってやろーじゃねーの!


五章
第29話 神会(デナトゥス)


 開店準備中の≪ミアハ・ファミリア≫本拠地(ホーム)、『青の薬舗』。その店内には、カチャカチャというガラスがこすれる音と、特殊な薬草や素材を乳鉢ですりつぶすゴリゴリという音だけが響いていた。

 

 『青の薬舗』の今現在の主要商品は回復薬(ポーション)。当然これらの仕込みを任されているのは、団長であるナァーザと、その技術を優先して教わっているリリだった。しかし、エドも何もしていない訳ではなく、怪物祭(モンスターフィリア)で一定の人気を得た、モンスター可動フィギュアを個数限定で販売しており、馬鹿に出来ない利益を上げていた。ちなみに新商品が出ると、必ず同じ商品を三個セットで買っていく、象の仮面をかぶった大ファンの男神がいたりする。

 

 ただ、普段は開店準備のため、忙しく動きつつも、それなりに和気藹々とした空気を醸し出している店内は、この日ばかりは違っていた。

 

「はぁ~~」

「…………」

「…………」

 

 主に、先程から溜息ばかりついている、錬金術師のせいで。

 

「はぁ~~~~……」

「「エドうざい」」

「ひでぇ!」

(ひどくねーよ)

 

 四面楚歌だった。

 

「はぁ……全くエドは、ミアハ様が神会(デナトゥス)に出かけてから、溜息ばっかりですね」

「大丈夫……ミアハ様なら、きっとカッコイイ二つ名を貰ってくる……」

「…………」

 

 エドがこんなに沈んでいる理由、それは他でもない「二つ名」にあった。冒険者は、一人前と認められるLv.2に到達すると、直近の神会(デナトゥス)で「二つ名」を得ることになる。一般的な冒険者にとって、それは誇らしい出来事であり、喜ぶべきことなのだが、現代人の感性を持つエドにとって、それは違った。

 

 …………なんというか、感性(センス)が酷いのだ。いわゆる「痛い二つ名」が神達のトレンドなのか、シンプルかつそこまで痛くないものもあれば、すさまじく痛いものもある。例として、≪ガネーシャ・ファミリア≫でよくイベントの司会をしているイブリ・アチャーという冒険者の二つ名は、『火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)』である。考えすぎて収拾つかなくなったような二つ名だ。

 

(どうか、あまり痛くない二つ名でありますように…………)

 

 人、それをフラグと言う。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 それから数時間後、所変わって、神会(デナトゥス)会場。現在その中では、神々の狂乱の宴が開催していた。

 

「それじゃー、≪セト・ファミリア≫のトコのセティ・セルティ君は、『暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティング・ファイター)』でー!」

「「「(イテ)ェェェェェェェェ!!」」」

「うわ、うわぁああああああああ!!」

 

 面白がって、他神のところの眷族に痛々しい二つ名をつけたり。

 

「タケミカヅチんとこのヤマト・(みこと)たんは、『絶✝影』に決定やー!」

「「「済まない、(みこと)たん。皆タケミカヅチが悪いのだ」」」

「て、手塩にかけて育てた(みこと)が……」

 

 むしろ主神への嫉妬全開で痛い二つ名を送ったり。

 

「んで、ドチビのとこのベル・クラネルは『未完の少年(リトル・ルーキー)』か……。オチが無いやん! こんな無難なんじゃなくて、本気ださんかい!?」

「「「だって、フレイヤのお願い聞いちゃったんだもん」」」

「だもん、やないわー!!」

「良かった、無難で良かった……」

 

 他の神からの介入で、一命を取り留めた者もいた。そして、最後のファミリアの番が来た。

 

「で、最後は――へえ、ミアハんとこやな。名前は「エド・エルリック」……って、コイツも早いなあ。半年でランクアップやないか」

「うむ。よろしく頼めるか、ロキ」

「……一応聞くけど、あんたの所、神の力(アルカナム)は」

「使うわけなかろう。もっとも歯がゆく思ったことは、一度ならずあるがな」

 

 その言葉に、流石にロキもこれ以上の追及は避けた。直前のヘスティアは、あまりにも短い一か月のランクアップゆえに、神の力(アルカナム)の使用を疑ったが、ミアハの場合、意味が違う。彼は『医神』。天界でも有数の医療技術は奇跡のごとき治療を可能にし、無限の富をも産み出す。彼が本気で神の力(アルカナム)を使用すれば、彼のファミリアがあそこまで困窮しているわけはないし、眷族に傷ひとつ、怪我ひとつ許すはずがない。数年前に眷族の一人が失った四肢を治すことが出来ず、真っ当な方法で手に入れた義手を使用させていることからも、彼が神の力(アルカナム)を封印していることはよくわかった。

 

「この子も資料あんまり多くないけど……大体半年間1~2階層で戦闘の要領をつかんで、その頃にベル・クラネルとパーティーを組む、ってまたドチビのとこかい」

「ああ、エド君はいい子だよ。時々じゃが丸君を買っていってくれるしね」

「うむ。俺のところにも来てくれるぞ」

「それはどうでもええわ、タケミカヅチ。んで、大体一か月前にミノタウロスに襲われ、怪物祭(モンスターフィリア)で謎のモンスターに襲われ、その後今回一緒にランクアップした()をパーティーに引き入れ……今回ランクアップしたんは、9階層でミノタウロス、ライガーファング、バグベアーに一度に襲われ、各個撃破した結果やと……とんでもなく、波乱万丈な冒険やなぁ」

 

 ちなみにこの場では、9階層に登場した件のモンスターの一件を追及するものは誰もいない。それと言うのも、つい先程中座したフレイヤに同じ美の女神であるイシュタルが突っかかった折、どうにもファミリア間のいざこざでああなったようだ、と出席者全員が察したからである。イシュタルは今も歯ぎしりしているが、それを聞いていたミアハも、どちらに原因があるにせよ、大切な眷族が死にかけたのだから、今回ばかりは助け舟を出す気もなかった。

 

「で、ちょっと話出たし、同じファミリアやから先に名前出しとくで。同じく今回Lv.2になった「リリルカ・アーデ」ちゃんや。元は≪ソーマ・ファミリア≫やったみたいやけど、ミアハのところに改宗(コンバージョン)。サポーターとして長年勤めとったけど、ファミリア移ってようやく芽が出たんやな……ライガーファングを一撃で倒したって書いてあるわ」

 

 この発言と、リリの容姿が美少女であることも手伝って、男神たちは沸きに沸いた。

 

「一撃必殺とか!」

「燃え系ヒロインキタコレ」

「しかも、素手だったらしい!」

「「「ニンジャナンデ」」」

「……頼むから、妙な二つ名だけはやめてくれるか」

 

 彼女ら二人の主神としては、それは誠実な願いだったのだろう。実際その言葉で若干頬を染めていた女神連中は味方に出来た。但し――――

 

 ――――その場の過半数以上を占める男神を、敵に回した。

 

「だが、断る!!」

「タケミカヅチもそうだが、ミアハ、テメーが駄目だ!」

「我らは涙を飲んでも……正義のために為さねばならぬ!」

 

 ここに、如何に痛い二つ名をつけるかの対抗戦が勃発した。

 

「順序変えてリリルカたんから行くか。『忍殺(クノイチ)』」

「おお、中々やるな、『爆熱の指先(ゴッドフィンガー)』」

「『一撃死(サツバツ)』」

「「「それだ」」」

「ミ、ミアハ? 大丈夫かい?」

「あ、ああ。大丈夫だ、ヘスティア……」

 

 次から次へと出てくるとんでもない「二つ名」に、ミアハは表面上澄ました顔だったが、手に持った紅茶のカップが痛ましい程に震えていた。今まさに、愛しい眷族()にとんでもない名前を付けられようとしているのだから、当たり前だが。

 

「エド君の方はそうだなぁ……『鉄腕(メタリカ)』」

「『錬鉄鋼成(ブレードワークス)』とか」

「『金瞳鋼腕の錬金術師(ゴールデンフルメタル)』ならばどうか?」

「「「はい決定」」」

「待たんか!!?」

 

 ところが、ここで物言いが入る。

 

「あー、そのコらなんやけどな……なんかウチんとこの団長が、贈りたい「二つ名」あるらしいねん」

 

 ロキのその言葉に、一同が驚愕の表情で固まった。

 

「……ロキ。どういう事だ? あの子らからは、おぬしのところのフィン・ディムナと面識があるなど聞いていないのだが……」

「ウチかて知らんわ。なんかギルドに報告出した時に、わざわざ伝言の形で残していきよったんやで? 遠征中やって言うのに……」

 

 もっともロキは実のところ、こんな事態になった理由に検討が付いている。この冒険者たちは、小人族(パルゥム)。そしてファミリア加入の時にフィンが出した、『一族の復興』という条件を考えれば、彼らがフィンの『お眼鏡に適った』のだろう。特に少女の方が。

 

「……ちなみに、どんなのなんだい? 君のところの団長も、酷いセンスだったりするのかい?」

「ざけんなや、ドチビ。いいか、耳かっぽじって聞けや。『――――』と『――――』や」

「ほう……」

 

 その「二つ名」は、ミアハからしてもそこまで酷くなく、充分に許容範囲内だった。

 

「なら、それにするか」

「そうだな。『勇者(ブレイバー)』の贈り物(プレゼント)じゃな」

「しかし…………少しばかり残念だったな。せっかくどこぞの天然ジゴロへの復讐の機会だったというのに」

「「「せやな」」」

「お、おぬしら、天然ジゴロとはなんのことなのだ……?」

 

 こんな感じで神会(デナトゥス)は、過ぎていった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 その日の晩、≪ミアハ・ファミリア≫本拠地(ホーム)、『青の薬舗』にて。少しばかり難しい顔をしたエドがいた。

 

「……うーん。これだとエドというより、グリードの「二つ名」のような……」

「……でもフィン・ディムナの推薦らしいし、無下に断れない」

「すまぬな、エド。他にまともなものもなかったのでな…………」

 

 ちなみにその「二つ名」を聞いた同居人は、心の中で高笑いしていた。

 

『がっはっはっは! 悪いな、ガキ! 俺の方が目立っちまってよぉ!!』

「うるせーぞ、グリード!!」

 

 エド・エルリック、二つ名『循環竜(ウロボロス)』。リリルカ・アーデ、二つ名『勇貫(スティング)』。のちに、ベル・クラネルの『未完の少年(リトル・ルーキー)』とともに知れ渡ることになる、二人の二つ名が決定した。

 




二つ名命名回、終了。エドはあの右手に着目するとどうしても本家エドと同じになるので、グリードの方に着目してみました。リリの二つ名は、指輪物語の武器名からです。

最初の方で何気なく普段の開店準備やりましたが、エドのフィギュアも売れ行き好調です。特にガネーシャガネーシャ言う人が買って行きますw

今回一番時間かかったのが二つ名だったり……ちなみに最初、エドの二つ名は、『金瞳鋼腕の錬金術師(ゴールデンフルメタル)』でしたw

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