ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタインによるベルの戦闘訓練と、リリの『錬丹術』講座が始まってからしばらく。午前中はそれぞれの訓練と勉強に費やし、午後はダンジョンにこもる生活が続いた。そんなある日の事。
「え? 明後日、ダンジョンに行けないの?」
錬丹術の鍛錬を進めるリリと、それを教えるエドから、そんな話が出たのだ。
「ああ。明後日については、リリに訓練させてる『ある錬成』を実践する予定なんだが……その鍛錬は、どうしてもダンジョン内で行う必要があってな。どうせなら一日ダンジョンに籠って訓練したいんだ」
「エドが、『どうせなら実戦の中で、一日かけて学ぶべきだ』とか言い出して……申し訳ありません、ベル様。ウチのファミリアの都合で、ダンジョン探索を潰してしまって」
「え、いや! 全然いいよ。全然大丈夫!」
対するベルは、どこか挙動不審。若干だが顔も赤くなっているようにも感じられた。それを見て、エドとリリはさりげなく後ろを向き、顔を寄せ合った。
「……『剣姫』と、一日一緒にいられる!とか思ってんだろうな」
「少々、分かりやす過ぎですね。どこかで矯正しないと、将来女性で苦労しますよ」
「色街にでも放り込むか?」
「あそこは、『超』肉食系な女性の溜まり場ですよ? 文字通り、『虎の穴』にかよわい『兎』を投げ込むようなものです」
「二人とも、聞こえてる! 聞こえてるから!」
そんなじゃれ合いをしながらも、探索は順調。10階層の中では霧の薄い地域を選び、周囲の敵を一掃し、リリに魔石集めを任せている時だった。
「あのさ、エド。リリの勉強は順調?」
「んー? 正直言うと、錬成はまだ今一つだな。錬成終了時のイメージがまだ弱いのか、完成形が少し歪む時がある」
それでも、半月もせずに錬成反応を起こせるだけリリは優秀な生徒だ、とエドの横顔には笑みが漏れていた。
「多分、≪ソーマ・ファミリア≫でのサポーター生活が下地にあったんだろうな。治療のための人体知識とか、薬や毒となる物質の成分分析とかは、既にある程度身についていた。その上、モンスターの構造や構成材質なんかは、半年研究したオレよりも、さらに深い『理解』がある」
「へえ……そうなると、どうなるの?」
ベルの質問に、エドはただ不敵な笑みで返す。
「明後日の訓練次第だが…………リリの奴に、対モンスターの『切り札』を持たせられそうだ」
◇ ◇ ◇
それより数日、彼らがいた場所よりもさらに深い中層、17階層。中層で活動する冒険者が立ち寄らない階層の片隅で、重い金属の打ちあう音と、走る火花の光が絶えず瞬いていた。
『ヴモォォォォォォォッ!!』
「…………」
片方は、猛牛の怪物。神話にも語られる迷宮の住人、半人半牛の怪物、『ミノタウロス』。そして、もう片方は、屈強なる武人。装備を最低限しかまとわぬ骨太の肉体で、ミノタウロスの苛烈な攻撃を容易くいなす
傍から見るとミノタウロスがオッタルを襲っているようにも見える。しかしその実、戦局は一方的。オッタルは、ミノタウロスの猛攻をものともせず、やがてその手に与えた無骨な大剣の扱いがある領域に届いたところで、角を断って終わりとした。
「――完成だ」
これならば、少年の試練として申し分ない。角を押さえ蹲った猛牛に鎖をかけてカーゴに閉じ込め、踵を返そうとしたところ。
「オッタル」
その空間で聞くはずのない、有り得ぬ声が響いた。
「ヘグニと、ヘディン……?」
≪フレイヤ・ファミリア≫が誇るLv.6冒険者。
「何故、お前たちが?」
オッタルにしてみれば、今回のベル・クラネルへの働きかけは、自分に一任されたもの。いくら気ままなあの方とはいえ、そう簡単にその言を翻すとは思えない。となると、目の前の二人の独断か、とも思ったが。
「あの方のご命令だ」
「ベル・クラネルへの働きかけはオッタルに任せる。それとは別に、
そう嘯く二人の後ろ、暗闇の中にはその身に鉄鎖を巻き付けた怪物が、
◇ ◇ ◇
「――あの子の輝きは、間違いなくオッタルのもたらす試練で、より一層輝きを増すわ。ええ、それは間違いない」
やはり忠実なるあの武人に任せたのは正解だった、と近く訪れる試練に心躍らせてもいた。
(……けれど、あの『色』は気になる)
美の女神たる彼女は、魂の持つ本質を、『色』という形で視ることが出来る。勿論彼女にしか分からぬ感覚であり、他者に伝えることは出来ない感覚だった。
その美の女神の瞳は、今もっとも気にかかる『透明』な魂を持つ白兎の少年と、その周りの人物の色を深く理解していた。
「あの少女は、いいわ。ようやく泥から這いだした『若葉』の色。いずれはどんな花をつけるのか、どんな実を結ぶのか。待ち遠しさを感じさせる、今はまだ青い緑」
あの少年ほどではないが、遠い未来の可能性を感じさせる色は自分にとっても好ましい。サポーターの少女は、女神にとっては微笑ましく映る色ではあった。
「………………」
気になっていたのは、もう一人の少年だ。女神の瞳を以てしても、未だ
「あえて言うなら――――――――『
その本質を見極めるために。奔放たる美の女神は、彼らに最大の試練を課そうとしていた。
訓練風景終了。次回からはミノ戦ですが、某女神のせいで、とんでもなく不穏な空気が……『人為的な混沌』とは何なのか?これがキーとなりますw
リリの『切り札』。サポーターとしてモンスターを深く『理解』したからこそ、対モンスター最強の手札が彼女に加わります。半年と10年以上じゃねw
で、次の更新なんですが……他二つの投稿作品には書いたんですが、土日出勤予定がありまして、しかも残業が見込まれます。なので、申し訳ありませんが、土日深夜の投稿はお休みさせていただきます。次の投稿は、月曜の24時を予定しています。いいところで切って、申し訳ないです!