ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――なあに、バレなきゃいいのさ、バレなきゃ
――やれやれ。悪い兄を持つと苦労する……


第15話 三度目の邂逅

 

「あの後、どうしたんだ? あの、酒でも飲んでそうな冒険者からは逃げられたのか?」

「いえ、ですから、リリはエド様とは『初対面』ですよ?」

「いや、そんなわけないだろ。どっからどう見ても、昨日の小人族(パルゥム)だ」

「ですから、『人違い』です」

「あの後気が付いたんだが、怪物祭(モンスターフィリア)の時の猫人(キャットピープル)もお前と似たような女顔だったな。アレもお前だろ」

「違います! 『は・じ・め・ま・し・て』!」

 

 冒険者用の安食堂。そこの一角で、エドとサポーターを名乗る少女、『リリルカ・アーデ』との間で、延々とこんな会話が繰り広げられていた。何度も会ったというエドと初対面を主張するリリ。どちらも譲らない格好だ。

 

「……ねえ、エド。その、リリルカさんもこう言ってるんだし、人違いじゃないの?」

「それはねえよ。まあ、初対面の時は猫人(キャットピープル)、次は小人族(パルゥム)。で、今は犬人(シアンスロープ)、と種族は異なってるけどな」

「種族違うんなら別人でしょ? ホラ、世の中には似た人が三人いるって言うし」

 

 確かに言うが、兄弟姉妹ならともかく、種族が違って赤の他人は有り得ない。その上、オラリオに出てきて1か月経ってないベルは知らない情報もある。

 

「このオラリオの中にな、≪ヘルメス・ファミリア≫って派閥があるんだが。そこには『万能者(ペルセウス)』アスフィ・アル・アンドロメダ、っていう冒険者が存在する。何でもその人は、魔道具(マジックアイテム)作りなら都市で一番の魔道具作製者(アイテムメイカー)らしいぜ」

「へ、へー。それがどうしたの?」

「姿を変える変装用のアイテムだってあるかも知れないだろ? それに『魔法』や『スキル』の可能性もあるし」

「あ……」

 

 その言葉に改めて、二人そろってリリの顔を見る。改めて見ても耳と尻尾以外は、昨日の小人族(パルゥム)そっくりだ。どうやらベルの方も、どこかで彼女に会ったような気がしたらしいしな。

 

「い、いえ、あの、リリは――――」

「まあ、それはどうでもいいんだけどな」

「――――はい?」

 

 しどろもどろに告げようとした弁明を断ち切った。

 

「だって、そうだろ? 姿を変えたのは、昨日のトラブルをこっちに持ってこないための配慮かも知れねえんだ。別にとやかく詮索しねえさ」

「は? え、え、え?」

「昨日の奴はしつこそうだったからな。こっちも面倒事はゴメンだ」

「……だったら、エドもあんなにしつこく言う必要なかったよね? なんであんなにしつこく聞いたの?」

「ん?」

 

 理由なんか、決まってるだろ。

 

「反応が面白かったから」

「「最悪だよ(です)!!」」

 

 からかうと、即座に反応を示す。ベルと同じく非常に良い仲間になれそうな予感がした。

 

「まあ、そう言うなよ。リリっつったか? お前だって昨日の冒険者は、ホラ、あの前髪とか、スカしててしつこそうな感じはしただろ?」

「……あの、片目隠れる髪型ですか。確かに、実際格好つけた髪型ですが」

 

 ふむ、素直でよろしい。

 

「よく髪型を知ってるなぁ?」

「へ? ………………あ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ……本人の自白によれば、昨日の冒険者の男は、前にサポーターとして雇われていた冒険者なのだが、報酬をまともに支払わず、金品を全て独り占めしたため、やむなく(・・・・)あの男の一番大事にしていた剣を盗んで売り払って金に換えた、と……。

 

「問題ないな」

「いえ、ですから、エド様はなんでそうなんですか? 初対面の時も同じこと言ってましたよね?」

「そ、そうだよ、エド。やっぱり、人様のものを盗むのは、マズイんじゃ……」

「バレなきゃ、犯罪じゃないんだよ」

「「いやいやいや」」

「それに、『話の通りなら』元々報酬払わなかったそいつが悪い。『等価交換』だ」

「エド様は、そればっかりですねえ……」

 

 結局、リリの話の通りなら(・・・・・・・・・)、とりあえず問題は無いと、リリも含めてダンジョンに行くことにした。変装のタネは詮索しない、という取り決めつきだ。契約金はいらないのか、と聞いてもリリは首を横に振るだけで、「お試し期間だ」としか言わなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ふわあ……」

 

 彼女、リリルカ・アーデの目の前で、信じられない光景が展開されていた。

 

「うっしゃあ! キラー・アント三匹目ぇ!」

「なんの! こっちはパープル・モス四匹目!」

 

 一人の小人族(パルゥム)と一人の人間(ヒューマン)が、まるで競うように7階層の敵を平らげていく。7階層は、決して敵が弱い訳ではない。むしろ瀕死になると仲間を呼ぶキラー・アントや、毒を発生させるパープル・モスなど、上の階層にはないいやらしさを持った敵が大量に発生する厄介な階層だ。そんな中、冒険者歴半年のパルゥムと一か月にも満たないヒューマンが、文字通り鎧袖一触に敵を粉砕するのは、およそ有り得ない光景だった。

 

 エドの攻撃は主に槍。その位置から堅実な攻撃を繰り出した、かと思えば次の瞬間には懐に入って、刃に代えた右腕の義手の一撃や、同じく金属製の義足の攻撃を打ち込んでいる。その上、本人が『錬金術』と呼んでいた魔法の類が優秀。周囲の地面を変化させたり、焔を発生させて、攻撃・防御・拘束を的確にこなしている。技自体はあまり洗練されておらず、泥臭くはあるものの、遠距離から近距離まで間合いを上手く変えて翻弄する戦い方だ。

 ベルの攻撃はナイフと短刀。その二振りによって息を吐かせぬ連撃で、相手を一気に仕留めていた。スピードが段違いに早く、恐らくLv.1の中では上位に食い込むのではないかと思わせる速度だった。

 

「ふ、二人とも、お強ーい!」

 

 普段なら、冒険者をおだてて、『この後の仕事』をやりやすくするのだが、目の前の光景は、明らかに異常だった。それでもモンスターが出す魔石などを逃すまいと、戦闘の間を駆け抜け、せっせと収入へと変えた。

 

(……もしかして、普通にサポーターするだけでも結構な収入に?)

 

 そんな考えが頭を(よぎ)るが、すぐに首を振る。なにを馬鹿な。自分はもう、手遅れ(・・・)だ。何としても目を付けたアレ(・・)を手に入れてお金に代えなければ……。

 

 そんな時、解体作業場のすぐ近くの壁から、新たにキラー・アントが発生した。

 

「お、お二人とも! 新しいのが生まれました!」

「「よぉし!!」」

 

 ベルは飛び蹴り、エドはジャンプして両手を組んだハンマーを、壁から生まれたキラー・アントに叩き込み、首をへし折って退治した。

 

「……お二人とも、どうするんですか。コレ、壁に埋まっちゃってますよ?」

「あ、あはははは……ゴメンネ」

「ベルが取るしかないだろ。こんな高いところは、助走なしじゃ届かねえよ」

 

 敵の湧出(ポップ)が一段落してから、壁に埋まったまま息絶えたキラー・アントの解体の機会が来た。取れる背丈があるのはベルだけだ。自分の解体用ナイフを渡せば、腰にさしたままの≪ヘファイストス・ファミリア≫のナイフを奪う機会が――

 

「ベル。解体にはその神様のナイフ使って、さっさとな。下手に解体の途中でキラー・アントがまた湧くと厄介だ」

 

 ――そう思っていたら、横のエドに邪魔された。……本当に、腹が立つ。最初に出会ったときから、この目の前の少年は、リリが今まで犯してきた罪に対しての嫌悪感が一切ない。それどころか『等価交換』という独自の理論を展開して、『そんなもの問題にならない』と言い続けている。そんなわけない。リリは、冒険者たちの財産を奪う『犯罪者』だ。あの、自分から全てを奪っていく大嫌いな冒険者と同じ、薄汚い犯罪者だ。そこまで、落ちてやるんだ。

 

 ……どうせ、この人たちも、今までの冒険者と同じなんだ。

 

「ベル。その蟻の解体終わったら、一度地上に戻るぞ。それから道中で、この解毒回復薬(ポーション)飲んでおけ」

「へ? まだ時間あるでしょ? それに解毒って?」

「お前、さっきパープル・モスまで盛大に斬り裂いただろ。アレ、毒鱗粉持ってるから、基本は遠距離攻撃か槍で倒すのがベストだ」

「ぶっ! エド、何で黙ってたの!?」

「そりゃ、お前……あー、一度痛い目見ないと覚えないだろ? ああ、解毒回復薬(ポーション)代は、後で請求するから」

「絶対、適当な理由だよね? 絶対後者が目的だよね?」

 

 ……ほら、仲間からもお金を奪おうとしてるし、絶対今回の報酬だって……

 

「今日の冒険は、このまま帰ってベルに一応治療受けさせて終了となるわけだが……今回の各自の取り分は3割ずつの山分けでいいな?」

「うん。いいよ」

「………………はい?」

 

 一瞬、何を言われたか分からなかった。

 

「あ、あの、3割ってリリもですか?」

「ああ。ちなみに残り1割はベルの治療費と、余りは解毒回復薬(ポーション)代な」

「エド一人だけ4割近いよね。絶対狙ってたでしょ」

「そうじゃなくて! サポーターに冒険者と同額の報酬を出すなんて前代未聞ですよ!」

 

 そう言ったら、逆に驚いた顔をされた。何でだ。やっぱり、この二人はおかしい。

 

「いや、でもリリがいたおかげで戦いやすかったし……」

「それに仮にも商業系ファミリアの一員が、雇ったサポーターに報酬支払わなかったり、不当に安くしたらそっちの方が問題なんだよ。払うっつってんだから、貰っとけ」

「だからぁっ……!」

 

 やめて欲しい。今更正当な評価だとか、正当な報酬だとか、そんなことされたらこっちが揺らいでしまうじゃないか。そんなものいらない。冒険者は、軽蔑の対象なんだ。憎むべき敵なんだ!

 

「いいから受け取れよ。――――『等価交換』だ」

「…………っ!」

 

 そんなの、ただの理想じゃないか。世界はそんなものすら認められないくらい非情で、全てはリリみたいな弱者から奪うために出来てるんだ。そんなの、嘘っぱちなんだ。

 

 だから、リリは、そんな言葉、大嫌いだ。

 




リリ合流、そして最初のダンジョン探索終了です。リリが最初ナイフ盗めたのは、ベルとの身長の違いとか、警戒度の違いがあるので、この作品では盗めませんでした。

原作エドもここのエドも、『正義の味方』ではありません。むしろ独自の理論を展開する『独善』か『悪』でしょう。だからリリも裁こうとはしないわけでw

ミアハ・ファミリアは、基本的に商業系。当然、契約はきっちりかっちり遵守します。おまけに錬金術師だから、『等価交換』にうるさい……探索系の冒険者に不当に強いられて来たら、さぞや癇に障る存在でしょうwさて、最初の好感度は最低だ……

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