ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――そりゃパニーニャだな。
――パニーニャ?
――観光客狙いのケチなコソ泥だよ


第14話 そして、新たな――

「――結局、まともに鎧買ったのはベルだけか」

「いや、エドがおかしいんだからね?」

「『ぬののふく』は立派な冒険者の正式装備だぞ? とある竜を退治するお話では、『ひのきのぼう』と『おなべのふた』を持たせて、王様が強制的に冒険に旅立たせるのは常識だ」

「なに、その王様?! それ冒険者じゃないよ! 厄介払いだよ!」

 

 何を言う。世の中には『パンツ一丁』が正式装備な人達もいるんだぞ?前世のゲーム限定だが。

 

「まあ、それはともかく。正直盾も鎧も、地面で作るからいらないんだよ。むしろ動きが遅くなるからデメリットだ」

「……無駄だよベル君。エド君は私が担当してる時に、何度口を酸っぱくして言っても鎧を買わなかったから」

「エイナさん、苦労したんですね……」

 

 そんなことを言って、ベルがエイナさんに同情していた。そこまで非常識じゃないはずである。……それはともかく、エイナさんが後ろ手で隠しているプロテクターのこともあるし、お邪魔虫は退散するか。

 

「さて、それじゃオレは寄る所があるから」

「「へ?」」

「これからゴブニュ・ファミリアまで、機械鎧(オートメイル)の金具を取りに行こうと思っててな」

「ちょ、ちょっと!?」

 

 そこまで言ったところで、エイナさんに腕を引っ張られ、ヒソヒソ声で詰問される。

 

「(どういうつもり!?)」

「(いや、エイナさん、これからベルにプロテクター渡すんだろ? 邪魔者はいなくなるから、後はごゆっくり――)」

「(違う! 何か勘違いしてるでしょ、エド君! 別にベル君とはそんな関係じゃないよ!)」

 

 真っ赤になった顔で言われても、説得力皆無だった。

 

「(大丈夫、大丈夫。ベルはそのあたり耐性が無さそうだし、プレゼントと上手い言葉でもかければ案外コロッと)」

「(だから違うって! じゃなくて、さっきから楽しんでるでしょ、エド君!)」

 

 もちろん、楽しんでいる。

 

「まあ、そういうわけだー、ベル。ちゃんとエイナさんの家までエスコートしてやれよー」

「あ、うん。それはわかってるけど」

「気付いてベル君! 明らかに棒読みだから!」

 

 そんなエイナさんの絶叫はきっちり聞こえないふりをして、その場から離脱した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 その後、「一週間以内に取りに来い」と言われていたネジやナットの詰まった袋を受け取って、帰路に着いた時のことである。

 

「ふー、ネジとかでもこんだけ詰まると案外重いもんだな……」

 

 手足が機械鎧(オートメイル)だと、こういう時に不便だった。基本的にステイタスの恩恵があるのは生身の部分なので、機械鎧(オートメイル)は付け替えないとパワーアップしたりはしない。

 

 結構な負担がかかる金属の詰まった袋を持って、先日の飲食街の近くまでたどり着いた時、それは起こった。

 

「う――!?」

 

 背筋に、寒気が走る。震えが、止まらなくなる。これは恐らく、『殺気』。放たれているのは、多分この道の先、角を曲がった方からだ。そんなことを考えていると、そちら側から急に小柄な人影が現れた。

 

「ハァ、ハァ……げ」

 

 その現れた人影は、どうやら同族の小人族(パルゥム)の少女だったようだが、こちらを見た途端、思い切り顔をしかめて足を止めた。しかし、何故顔をしかめられたのか、少し不思議に思う。どこかで会ったような感じはするのだが。

 

「…………えっと、退いてもらえると助かるのですが」

「? ああ、どうぞ」

 

 道を空けたというのに、なお警戒している。なんなんだ、一体。

 

「見つけたぞ、糞パルゥム!」

 

 そんな中で、後ろの方から目つきがあまり良くない冒険者が一人現れた。街中なのに、背中に剣を背負って、今にも抜き放ちそうだ。

 

 そう思ったのがいけなかったのか、その男は徐に剣を抜いて、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。

 

「まさか仲間がいるとはなあ……一緒に落とし前つけてもらおうか!」

「ん……?」

 

 抜き放たれた剣の切っ先はエドの方にも向けられた。そこでエドは自分の姿を整理してみる。ゴブニュ・ファミリアから受け取った金具類は、ばらけないように麻の袋に入れられ、背中に背負っている。傍から見ると、泥棒か何かに見えるかも知れない。その上、目の前の小人族(パルゥム)の少女は、冒険者の男とトラブルがあった様子。もしかしたら金銭トラブルかも知れない。

 

 ――どうやら、厄介ごとに巻き込まれたらしかった。

 

「逃げるぞ、アンタ!」

「え?!」

 

 少女の手を掴んで男が来た方とは逆に走り出し、すぐに角を曲がる。一瞬、二人の姿を男が見失った。

 

「逃がすか!」

 

 すぐさま抜き身の剣を持ったまま男が追いかけ、角を曲がって全速力で直進する。足音が遠ざかった後、しばらくして、地面の一角に青い雷光が走った。

 

「とっさに地下水路に逃げ込んで正解だったな」

 

 地面に生じた石造りの蓋を押し上げ、エドが姿を現した。逃げ込んだ後、地面を錬成しなおして、入口を隠していたのだ。

 

「しっかし、庇うんじゃなかったかな……?」

 

 今この場に、先程の少女の姿は無い。地下に隠れた後、彼女はそのまま水路を走り去って、どこかへ行ってしまった。まるで後ろめたいことでもあるかのように。

 

「ファミリアまでトラブルに巻き込まれなきゃいいんだが……」

 

 そんなことを言いながら、エドは憂鬱そうに空を見上げた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そうして、明くる日。

 

「今日は時間かかるかもな。使った分、稼がねえといけねえし」

「うむ。身体に気を付けるのだぞ、エド」

「……この間の人形で少し余裕もあるし、怪我しないようにね」

 

 ホームで見送ってくれたミアハ様とナァーザ先輩に一言断りを入れ、ベルとの待ち合わせの場所に向かう。ちなみに背中に背負った槍は昨日購入した新品で、右腕の外板も購入した籠手に差し替えてあった。

 

「ん……?」

 

 果たして、待ち合わせ場所にいたのは、一人ではなかった。片方は確かにベルだが、もう一人いる。その人物はクリーム色のローブを纏い、自分の身の丈を超えるバックパックを背負っていた。ローブの後ろからは、どこか犬っぽいふさふさの尻尾が見えていた。だけど……コイツ……。

 

「昨日の小人族(パルゥム)じゃねえか。何でここにいるんだ?」

「貴方がエド様ですね! 『初めまして』! ベル様に雇っていただいたサポーターの犬人(シアンスロープ)、『リリルカ・アーデ』と言います!」

 

 そんな感じで、少女との都合『三度目』の邂逅は訪れた。

 




都合三度目のリリとの『初対面』でしたw耳と尻尾があるから別人……?現代社会に生きて、アキバを知ってる人達には、そんなもの通用するわけがないww

リリの正体がほとんどバレていることからも分かるように、この2巻部分、思い切り原作改変が入ります。そして、リリも……

投稿時にふとランクを見たら日間11位にこの作品が……これは、『マスタング大佐効果』か!?皆さん読んでいただきありがとうございます!

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