ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
――パニーニャ?
――観光客狙いのケチなコソ泥だよ
「――結局、まともに鎧買ったのはベルだけか」
「いや、エドがおかしいんだからね?」
「『ぬののふく』は立派な冒険者の正式装備だぞ? とある竜を退治するお話では、『ひのきのぼう』と『おなべのふた』を持たせて、王様が強制的に冒険に旅立たせるのは常識だ」
「なに、その王様?! それ冒険者じゃないよ! 厄介払いだよ!」
何を言う。世の中には『パンツ一丁』が正式装備な人達もいるんだぞ?前世のゲーム限定だが。
「まあ、それはともかく。正直盾も鎧も、地面で作るからいらないんだよ。むしろ動きが遅くなるからデメリットだ」
「……無駄だよベル君。エド君は私が担当してる時に、何度口を酸っぱくして言っても鎧を買わなかったから」
「エイナさん、苦労したんですね……」
そんなことを言って、ベルがエイナさんに同情していた。そこまで非常識じゃないはずである。……それはともかく、エイナさんが後ろ手で隠しているプロテクターのこともあるし、お邪魔虫は退散するか。
「さて、それじゃオレは寄る所があるから」
「「へ?」」
「これからゴブニュ・ファミリアまで、
「ちょ、ちょっと!?」
そこまで言ったところで、エイナさんに腕を引っ張られ、ヒソヒソ声で詰問される。
「(どういうつもり!?)」
「(いや、エイナさん、これからベルにプロテクター渡すんだろ? 邪魔者はいなくなるから、後はごゆっくり――)」
「(違う! 何か勘違いしてるでしょ、エド君! 別にベル君とはそんな関係じゃないよ!)」
真っ赤になった顔で言われても、説得力皆無だった。
「(大丈夫、大丈夫。ベルはそのあたり耐性が無さそうだし、プレゼントと上手い言葉でもかければ案外コロッと)」
「(だから違うって! じゃなくて、さっきから楽しんでるでしょ、エド君!)」
もちろん、楽しんでいる。
「まあ、そういうわけだー、ベル。ちゃんとエイナさんの家までエスコートしてやれよー」
「あ、うん。それはわかってるけど」
「気付いてベル君! 明らかに棒読みだから!」
そんなエイナさんの絶叫はきっちり聞こえないふりをして、その場から離脱した。
◇ ◇ ◇
その後、「一週間以内に取りに来い」と言われていたネジやナットの詰まった袋を受け取って、帰路に着いた時のことである。
「ふー、ネジとかでもこんだけ詰まると案外重いもんだな……」
手足が
結構な負担がかかる金属の詰まった袋を持って、先日の飲食街の近くまでたどり着いた時、それは起こった。
「う――!?」
背筋に、寒気が走る。震えが、止まらなくなる。これは恐らく、『殺気』。放たれているのは、多分この道の先、角を曲がった方からだ。そんなことを考えていると、そちら側から急に小柄な人影が現れた。
「ハァ、ハァ……げ」
その現れた人影は、どうやら同族の
「…………えっと、退いてもらえると助かるのですが」
「? ああ、どうぞ」
道を空けたというのに、なお警戒している。なんなんだ、一体。
「見つけたぞ、糞パルゥム!」
そんな中で、後ろの方から目つきがあまり良くない冒険者が一人現れた。街中なのに、背中に剣を背負って、今にも抜き放ちそうだ。
そう思ったのがいけなかったのか、その男は徐に剣を抜いて、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「まさか仲間がいるとはなあ……一緒に落とし前つけてもらおうか!」
「ん……?」
抜き放たれた剣の切っ先はエドの方にも向けられた。そこでエドは自分の姿を整理してみる。ゴブニュ・ファミリアから受け取った金具類は、ばらけないように麻の袋に入れられ、背中に背負っている。傍から見ると、泥棒か何かに見えるかも知れない。その上、目の前の
――どうやら、厄介ごとに巻き込まれたらしかった。
「逃げるぞ、アンタ!」
「え?!」
少女の手を掴んで男が来た方とは逆に走り出し、すぐに角を曲がる。一瞬、二人の姿を男が見失った。
「逃がすか!」
すぐさま抜き身の剣を持ったまま男が追いかけ、角を曲がって全速力で直進する。足音が遠ざかった後、しばらくして、地面の一角に青い雷光が走った。
「とっさに地下水路に逃げ込んで正解だったな」
地面に生じた石造りの蓋を押し上げ、エドが姿を現した。逃げ込んだ後、地面を錬成しなおして、入口を隠していたのだ。
「しっかし、庇うんじゃなかったかな……?」
今この場に、先程の少女の姿は無い。地下に隠れた後、彼女はそのまま水路を走り去って、どこかへ行ってしまった。まるで後ろめたいことでもあるかのように。
「ファミリアまでトラブルに巻き込まれなきゃいいんだが……」
そんなことを言いながら、エドは憂鬱そうに空を見上げた。
◇ ◇ ◇
そうして、明くる日。
「今日は時間かかるかもな。使った分、稼がねえといけねえし」
「うむ。身体に気を付けるのだぞ、エド」
「……この間の人形で少し余裕もあるし、怪我しないようにね」
ホームで見送ってくれたミアハ様とナァーザ先輩に一言断りを入れ、ベルとの待ち合わせの場所に向かう。ちなみに背中に背負った槍は昨日購入した新品で、右腕の外板も購入した籠手に差し替えてあった。
「ん……?」
果たして、待ち合わせ場所にいたのは、一人ではなかった。片方は確かにベルだが、もう一人いる。その人物はクリーム色のローブを纏い、自分の身の丈を超えるバックパックを背負っていた。ローブの後ろからは、どこか犬っぽいふさふさの尻尾が見えていた。だけど……コイツ……。
「昨日の
「貴方がエド様ですね! 『初めまして』! ベル様に雇っていただいたサポーターの
そんな感じで、少女との都合『三度目』の邂逅は訪れた。
都合三度目のリリとの『初対面』でしたw耳と尻尾があるから別人……?現代社会に生きて、アキバを知ってる人達には、そんなもの通用するわけがないww
リリの正体がほとんどバレていることからも分かるように、この2巻部分、思い切り原作改変が入ります。そして、リリも……
投稿時にふとランクを見たら日間11位にこの作品が……これは、『マスタング大佐効果』か!?皆さん読んでいただきありがとうございます!