ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか 作:路地裏の作者
顔のない蛇のような姿をした、見たことも無いモンスター。
「オイ、コラァッ!」
咄嗟に
「オイ、アンタッ! 何かこのモンスターを惹きつけるエサか何か持ってんのか!?」
「も、持ってません……!」
「クソッ、コイツこっちを見向きもしねえ!」
「ぐあッ!?」
そのついでのような挙動で、地下水路が壊され、飛び散る石片に身体を打ち据えられた。土煙の向こうにエドが消えると、やがてそのモンスターは頭部をもたげ、正体を現した。
ぱくり、と開いた頭部は、『
『食人花』。その口の粘液と、牙を見て、ようやく捕まった少年は目の前に迫る運命を悟った。
「ヒッ――――」
悲鳴は喉に張り付いたように出てこなかった。これで終わりか。この花に食べられて終わりか。あの牙は、自分なんて簡単に貫くだろう。あの粘液は、自分を容易に溶かすだろう。ああ、ああ――――――
そこに思考が至ったとき、少年は力を抜いた。なぜなら、既に諦めていたから。この花に出会うよりずっとずっと前に、弱い自分が『生きること』をもう諦めていたから。
牙が、近づく。粘液の糸を引いて、口腔が大きく開く。これで、やっと――――
「――――待てよ、オイ」
そんな思考を断ち切ったのは、低く地の底から響くような金髪の少年の声だった。
「『錬金術師』に、
声とともに、バチバチという火花の音が鳴る。それは徐々に大きくなって……
「ただで済むと思ってんのか、コラァッ!!」
ゴゴゴ!という、土煙を引き裂く石柱の音へと変わった。
その光景は異様だった。四角い石の柱が地面を吸い上げるように林立し、食人花の長い茎を何度も打ち据えた。かと思えばその柱から、今度は石で出来た巨大な手が生まれ、拳を作って殴りつけるものもあれば、掌で茎を抑えつけようとするものまで現れる。
「うおおおおおおおおおッ!」
そんな石の嵐の中を、
「おらぁっ!!」
彼は階段を登り詰め、
「ちょっと待ってろ。今出して――」
「――何で助けようとするんですか?」
「――ああ?」
「……別に、ここで死んだっていいのに」
何もかも、諦めきった声音。もう、少年は疲れていた。疲れていたのだ。だから、いっそ、このまま……
「…………」
返事は、ない。返事は、胸の前で打ち合わせる手の音と、青い雷光を纏って、内側から食人花を押し広げる変形した槍だった。そのまま拘束が緩み、地面に転がったとき、後ろから件の少年が近づいてきて…………
『全力の拳骨』を、落とした。
「ひグゥッ!?」
「フザケんなーーーーーーッ!!」
怒られた。瞼の裏に星を見て、そう認識した途端、余りの理不尽と折檻に、沸々と怒りが湧いてきた。
「ふ、ふざけんな、って何ですか!? 私はちゃんと――」
「だから、フザケんなって言ってんだ!」
怒鳴り声を怒鳴り声でかき消され、告げられた。
「アンタ、まだ、ちゃんと生きてんだろぉが!」
その言葉に、僅かに空白が生まれた。
「手だってある! 足だってある! 自分でどこにだって行けて、何だって掴める奴が、生きることを諦めてんじゃねえ!!」
滅茶苦茶だ、この少年。本当に滅茶苦茶だ。それなのに…………何故か、反論することは出来なかった。
『――――――!』
再び、ガラスを引っ掻く叫び声。見ると先程の食人花が石の柱から抜け出したのか、花弁をこちらへ向けていた。それが、見えているはずなのに、この花の強さが分からないはずはないのに、何故か金髪の少年は退こうとしない。
「…………納得できねえなら、存分に見せてやるよ。生きることも、足掻くことも止めない、『錬金術師』のやり方ってやつを」
そう言って、錬金術師を名乗る少年は、両手の手袋を脱ぎ捨て、懐に入っていた、何かの紋様が刻まれた手袋を装着した。その、明らかに人工物だった――――鋼の
「この手に刻まれているのは、ある未来を見据えた錬金術師の錬成陣だ。国の、そこに暮らす民の未来を見据えようとした、熱い
彼もまた、見据える。眼前の敵と、その先に広がっている、未来を。
「――――お前みたいな、花のバケモンに消せるかよッ!!」
虚空で、指を打ち鳴らす。瞬間、青い火花が食人花まで駆け抜け、次に、
『――――――――――――!?』
「きゃあああああッ?!」
視界いっぱいに広がる、焔。ありとあらゆる赤に染まって、食人花が悲鳴を上げた。焔がやんだ時、中から花弁と茎のあちこちを焦げ付かせた食人花が出てきた。
「このくらいじゃ、死なねえか。だったらよ…………『死ぬまで、殺す』だけだ」
焔の、豪雨。そう表現するしかない光景だった。指を打ち鳴らすたび、焔が走り、花が叫ぶ。そのたびに花も茎も黒い焦げ目が広がっていった。
「終わりだ」
豪雨が止んだ時、出てきたのは全て余すところなく黒焦げとなった花の姿。そんな姿を前に金髪の『錬金術師』は手を一度合わせた後、両側に大きく広げていた。その格好と虚空に走る火花が、周囲の『空気』と『水分』を大量に『酸素』と『水素』に変えているなんてことは、猫人の少年はそのとき一切知らなかった。
「――オレの
爆炎。花はおろか、地下水路まで駆け抜けたその焔は、どこか遠くで戦っていた『枝』の根本まで焼き尽くし、地面から間欠泉のように噴き上がった。
『あっつーーーーッ?!』
『…………!?』
『ちょっと、何よコレ!?』
遠くの方で、その『枝』相手に奮戦していた第一級冒険者が、お気に入りの街着をあちこち焦がしたりしたが、『枝』の先の『花』は、根本が焼き切れたため、間もなく彼女らによって駆除された。
◇ ◇ ◇
「あー、疲れた、疲れた」
「…………」
あの花を倒した後、金髪の錬金術師と、
そこに行くまでに少年は、今、手の中にある金銭と『魔石』の出どころを問われて、元々サポーターとして所属したあるパーティーから貰うはずだった報酬で、実は相手が払おうとしなかったから、そのパーティーからちょろまかして逃げてきたものであること……などを話してしまっていた。
明らかに自分が煙に巻いたパーティーなど問題にならない実力に、あるいは観念し、早く楽になりたかったのかも知れない。
もっとも、それを聞いた少年錬金術師の反応は。
「そうか」
だけだった。
「軽蔑しないんですか!?」
「何をだよ」
「罪だとか、罰だとか、言わないんですか!!」
「んなモン、ただの『等価交換』だろうが」
路地の片隅で、しばらく罪を負おうとする
「もういいです!!」
結局最後には喧嘩別れのように、互いの帰路に着いた。
「何なんだ、アイツ…………」
遠ざかっていく
◇ ◇ ◇
「…………」
昼なお暗い、路地の裏の裏。そんなところで
「……ちょっとだけ、生まれ変われるのかなぁ、って思ったんですけどね」
そうして、つい、と両手を持ち上げ、その猫のような形の耳へと触れた。
「【響く十二時のお告げ】」
魔法が、解ける。
「貴方は、そんなに強いからそんな風にいられるんですよ――」
ドレスを脱ぎ捨てた『彼女』の姿は、灰と泥に塗れ、疲れ切った『
「――――冒険者なんて、大っ嫌い、です」
『彼女』の名は、『リリルカ・アーデ』といった。
錬金術、無双!終了です♪そして、リリ初登場!!
元々ハガレンの錬金術って、この作品みたいにエネルギーの制限とか、原作の『錬金術封じ』でも無ければ、何でも出来るチートなんですよねw地面からは無限に近い錬成が出来るし、それこそ単に酸素と水素を作るだけでとんでもない規模の焔を作れるくらいに……
ダンジョン外なら無双可能な主人公。さて、戦争遊戯はどうなるかww
昨日は、何と体調崩して午後一杯寝てました。皆さん体調管理はくれぐれもお気を付けください。
今回で1巻の内容はほとんど終了。次回2巻の内容、第三章に入ります。そろそろ『原作改変』と『キャラ魔改造』タグ入れないとな……