ダンジョンに錬金術師がいるのは間違っているだろうか   作:路地裏の作者

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――エド!戻ってくるときは、連絡入れなさいっていつも言ってるでしょ!


第11話 怪物祭

 地下迷宮(ダンジョン)6階層の一角に、ここ数日恒例となった景色が広がっていた。

 

「「うおおおおおっ!!」」

 

 白髪赤眼の人間(ヒューマン)と、金髪金眼の小人族(パルゥム)が、競い合うかのように周囲のモンスターを一掃していた。

 

「よっしゃ! これで31匹目!」

 

 金髪金眼の小人族(パルゥム)は右手の鋼の義手を刃に変形させ、左手の槍とともに薙ぎ払うように敵を屠り。

 

「まだまだ! 僕だってこれで28匹目!」

 

 白髪赤眼の人間(ヒューマン)は、その手にナイフを持って、周囲の敵を斬り裂いた。

 

「へっ! そろそろ財布の心配をした方がいいんじゃねえか?」

「そっちこそ! 今日は負けないよ!」

 

 そうして互いに崩れていた体勢を整え、再びそれぞれの正面の敵へと向き直る。

 

「「今日は、オレ(僕)の勝ちだ!!」」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ……どうして、こんな状況になっているかと言うと、それは二人が本当の冒険を始めたあの夜までさかのぼる。あの後の二人の会話として、

 

『結局、倒した数は、オレの勝ちだったな』

『は? 最初にフライングした分だけでしょ? あんなの無効だよ』

『いやそんなことも無えよ。もう一回やってもオレの勝ちだ』

『――なら確かめてみる?』

 

 まさに売り言葉に買い言葉。同い年ということもあって、対抗意識を燃やしてしまい、その次の日から賭けまで始まってしまい、互いに退けなくなっていた。ちなみに賭けの内容は、「負けた方が、翌日の昼用の弁当を自腹で用意する」というものだ。

 

 昨日負けたベルが用意した弁当を食べながら、ふと思いついたことを呟く。

 

「そういやヘスティア様は、ホームに戻ってきたか?」

「え、いや……何日か前の神様の会合に行ってから、ずっと不在なんだよ……」

 

 エドもその会合、神の宴については知っている。神ガネーシャが、明日執り行われる『怪物祭(モンスター・フィリア)』に向けて、前祝いとして開いたとか。ミアハ様は行くための衣装が無いのでお休みだった。

 

「まあ、神様も子供じゃないし、どっか神友の方のところに遊びに行ってるんじゃないか?」

「それならいいんだけど……」

 

 それでも心配は尽きないようだ。眷族(ファミリア)を家族として捉えているベルらしい悩みと言えた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そんな会話があってから翌日。お互いに『怪物祭(モンスター・フィリア)』という街を挙げての催しに期待していたこともあって、その日の迷宮(ダンジョン)探索は休みとなった。もっともそれでエドが何もしなくて良いというわけではない。

 

「へい! らっしゃい! 活きの良い回復薬(ポーション)が揃ってるよ!」

「……エド。それじゃ、魚屋」

 

 商業系派閥(ファミリア)は、こういうときこそ書き入れ時とメイン会場の闘技場周りに出店を出していた。当然≪ミアハ・ファミリア≫も稼ごうと出店を通りの隅に設置した。

 しかも今回、『怪物祭(モンスター・フィリア)』の内容・演目を知ったエドは、新商品を出品していた。

 

「お、そこの坊ちゃん! こっちの『24分の1シルバーバック』買わないか!? 翼が動く『24分の1ワイバーン』なんてのもあるぞ!」

「施薬院のファミリアなのに……エドが錬金術で作った人形の方が、飛ぶように売れる不思議……」

 

 そう、出品したのは、数分の1スケールのモンスター人形。しかも手足やアゴなど、細かい部分にわざわざ球体関節までつけて可動域を広げ、男の子のマニア心をくすぐる憎い仕様。ある意味現代社会出身ゆえの商売と言えた。

 

「……エド。午後から2時間くらい休憩に入ってもいいよ。エドも『怪物祭(モンスター・フィリア)』見てきたいでしょ」

「んー、『怪物祭(モンスター・フィリア)』自体は興味あんま無いんだよな。モンスターならダンジョンで見れるし。あ、でもメシの買い出しには出たいか」

「……だったら買い食いついでにあちこち見てくるといいよ。帰りに私にも何か買ってきてくれれば」

「わかった」

 

 客も落ち着き、出店の食べ物を物色しに出てしばらく。それは起こった。

 

「モンスターが逃げた!?」

「――――ん?」

 

 出店の林檎アメもどきを冷やかしていると、近くの闘技場入口でベルのギルドアドバイザーであるエイナ・チュールが同僚と話しているのが見えた。

 

「うん。今≪ガネーシャ・ファミリア≫の人達が話してて。どうしよう、エイナ」

「っ、すぐに他のファミリアに連絡を――」

 

 会話の途中で大方の事情を悟り、急ぎ自分たちの出店へと戻る。

 

「……モンスターが?」

「ああ。もしかしたらこっちに来るかも知れねえ。オレの人形もあらかた売れたし、早めに店じまいした方がいいかもな」

「……回復薬(ポーション)は、全く売れてないけど」

「それでも結構な売り上げ出たんだ。とりあえずナァーザ先輩は売り上げと売れ残りの商品持って、先に戻っててくれねえか? 出店はオレが見張っとくし、店自体の片付けは事態が落ち着いてからゆっくりやればいいだろ」

 

 ナァーザ先輩を先に帰そうとするのには、理由がある。彼女はダンジョン内でその右腕を喪っており、モンスターに対し心的外傷(トラウマ)がある。正面から向き合ったりすれば、恐怖で硬直する恐れだってあるのだ。

 

「……わかった。先に戻ってる。その代わり、モンスターが来ても、出店は放り出して、必ず逃げて。店は後で修理すればいいんだから」

「ああ。ミアハ様戻ってきてたら、今日は外を出歩かないように伝えてくれ」

 

 そうして売上を持ったナァーザ先輩と別れ、机と看板だけになった出店の中で周りを探る。モンスターと思しき喧噪は、どうやら違う通りのようで、徐々に闘技場からダイダロス通りの方へと離れていくのが聞こえた。

 

「どうやら大丈夫そう――――――ん?」

 

 安心して、独り言ちると、目の前を奇妙な人影が通った。目立たないブラウンのローブを目深にかぶり、何故か周囲をきょろきょろと落ち着かない様子で窺い、近くの裏路地へと入っていった。

 

「…………」

 

 その様子が、まるで盗みか置き引きでもしてきた後のように見え、出店の机の上に『休憩中』の札を立て、思わず後を追ってしまった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「……ひい、ふう、み……結構な金額になりそうですね……」

 

 裏路地からいくつも隘路を通り抜けた先、地下水路の入り口近くの縁でローブの人物は懐の袋の中身を物色していた。

 

「――やっぱり、コソ泥か」

「ッ!!」

 

 物陰から飛び出し、その人物に声を掛ける。慌てて身を翻そうとしていたが、『恩恵(ファルナ)』が低いのか、すぐさま距離を詰め、ローブをめくる。

 

「――猫人(キャットピープル)?」

 

 中から出てきたのは、『猫人(キャットピープル)』の『少年』。背丈も小人族(パルゥム)の自分と同じくらいだし、恐らく実年齢は自分より低いだろう。

 

「わ、私はコソ泥なんかじゃありません!!」

 

 ローブを掴んでいた手を払いのけられ、距離を取られる。……どう見ても逃げる算段に見える。

 

「……潔白だって言うんなら、何でこんなところでお金を検分してんだよ。普通に自宅なり、ファミリアのホームなりでやればいいだろ」

「こっちにも事情があるんです! いいですか――――」

 

 だが、その理由をすぐに聞くことは出来なかった。

 

 近くに流れ落ちていた地下水路の水音、上から聞こえる喧噪、怒鳴り声にも似た話し声など悪条件が重なったせいか、二人ともすぐ足元に忍び寄っていた『奇妙な触手(・・・・・)』に気付かなかったのだ。

 

「え? きゃあああああ?!」

 

 まるで女の子のような悲鳴を上げた少年を空中に吊り上げた見たことも無いモンスターは、顔のない蛇のような姿をしていた。

 




ようやく、メインヒロイン出せた……!まあ、正体隠せてないですよねwタグ増やすのは彼女の正体がちゃんと明るみになってからにします。三章の終わりくらいでしょうか。

しかし何で私の作品は、ヒロイン出すのに時間かかるんだ。SAOの時もそうだったしwちなみに前書きの台詞は、ウィンリィ初登場のシーン……のはずw

次回――錬金術師が無双しますwテンプレだろうと、やっぱヒロインは主人公が助けないと!

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