序章に行った世界へ行きます。
神が捨てた星
アウトサイダーが守れと命じた英霊の一人、キリコ・キュービィーを守ったと言うか、共に戦い、またもネオ・ムガルの暗殺計画を阻止した瀬戸シュンは虚無の世界へ戻り、暫しの休息を取ってから次なるデバイスの強化と、惑星モナドで手に入れた能力についてこの混沌とした世界の主であるアウトサイダーに問う。
「モナドで手に入れた能力についてだが、知ってるか?」
「試さなかったのか?」
「あぁ、試すと、何か変な予感がしてな」
「ふむ、良いだろう」
惑星モナドで手に入れた能力について問われたアウトサイダーは、その能力について答えた。
能力は敵の精神に働きかけ、幻惑を掛けて操る能力である。
これで自分の意のままに相手を操れるが、操れる時間は十秒足らずであり、同じ相手に掛けた場合、二度目は五秒になり、三度目は全く効かなくなる。
良く考えて使わないとならない術であるが、有効に使えば、会話や交渉を自分に有利に運べる。
「幻術ってことか。無類の女好きが、喉から手が出るほど欲しがりそうな術だな。まぁ俺は、自分の力だけで女を物にするが」
「そのような願望を抱く者の気持ちは分からんが、有効に使えば交渉を有利に出来るだろう」
そのシュンが出した例えはアウトサイダーが分からなかったが、彼はモナドで死に掛けた思いで手に入れた能力が使える物だと分かった。
バリアジャケットを身に着けていなくても、デバイスさえ着けていれば使える。
それが分かった所で、シュンはデバイスを強化する次なる水晶が何所にあるのかをアウトサイダーに問う。
「で、次の能力がある場所は?」
「神々捨てた星だ」
「あぁ、大体察しがつくんだが…どんな場所だ?」
「見ての通りだ」
水晶がある所は危険な大抵の場合は場所だと分かっていたいながら問うシュンであったが、アウトサイダーが意味深な答えを出したので、何所だか詳しく再度問えば、混沌の存在である青年は、この世の終わりのような光景を見せた。
例えるなら地獄であろうか、死が満ち溢れ、草木どころか雑草の一本すら生えていない地だ。
「スターリングラードの比じゃねぇな…」
「星の名はカリオペ。入植者たちのリーダーの名から取られている。戦争が始まる前は緑豊かな星であったが、戦争が始まってからは統合連邦と惑星同盟に攻め込まれ、あえなく陥落した。だが、それでも両者との星を巡る戦闘が続けられ、その所為でもはや死に体だ。お前が求める物は、そこにある」
「やれやれ、上がっている気がする。このまま行けば、本当の地獄にでも行っちまいそうだ」
アウトサイダーより知らされた水晶がある地、カリオペの状況を知らされ、スターリングラードの比では無い地獄であると知れば、顔を引き付かせたが、ネオ・ムガルに勝つためには行く他ない。
尚、シュンはカリオペの事は知っている。ワルキューレの所属時代に、有名な観光地とだけ小耳にはさんだ程度あるが。
「よし、直ぐに行こう。転送してくれ」
覚悟を決めたシュンは、早速そこへ行こうとしたが、アウトサイダーは首を横に振った。
「駄目だ。星を破壊する兵器と同じく、そこへお前を送れない。だが、その星に行ける船がある別の星にお前を送ろう」
「船は自分で調達か。分かった。そうしてくれ」
スターキラー要塞と同じく、現地へは直接いけないので、シュンはそこへ向かうための船、宇宙船がある惑星への転移を頼めば、アウトサイダーは自らの力を持って、そこへシュンを転移させた。
「さて、地獄へ向かってくれる船は…? 無いよな」
アウトサイダーの力でカリオペに近い位置にある惑星に転移したシュンは、双眼鏡で宇宙港を見付け、そこへ足を運んだ。
この惑星は自由都市として中立を保っているのか、連邦軍や同盟軍の駐留部隊は居る物の、戦闘は行われていない。
宇宙船を持っている自由商人が腐るほど居るのだが、激戦地であるカリオペに連れて行く商人はまずいないだろう。
「早速、モナドで手に入れた催眠術が役に立ちそうだな」
モナドで手に入れた能力がこの場で発揮できるので、シュンは取り敢えず頑丈そうな船を持つ自由商人を探す。
酒場が一番なので、早速そこへ行き、カリオペに行ける程の防御力を持つ船の持ち主を捜し回る。
「さて、誰が持ってる…?」
酒場には大勢の自由商人が居た。
年齢は三十代から七十代ほどとバラバラで殆どが男性であり、中には女性の姿あるが、かなり修羅場を潜り抜けて来た者で占められ、催眠術の能力が効きそうも無い。
「女の自由商人は気が強そうな連中ばかりだ。やるのは、強欲な奴だ」
女性の自由商人を操るのは止め、他の商人にターゲットを定めた。
「失礼する。あんたの船は頑丈か?」
目に付けた商人が座る席へ無理やりにでも座り、船が頑丈かどうかを問う。
「なんだ? なんか運んでほしいのか?」
「あぁ、俺をカリオペまで運んでほしい」
「あの地獄へ? すまんが、あそこを通るだけでも連邦か同盟に撃たれる。俺は絶対に行かない。例え、頑丈な船を持っていてもだ。行くとすれば、この武器商人くらいなもんだ」
カリオペと言うだけで、自由商人らは難色どころか、拒否し始めた。
これでこの酒場に居る全自由商人らが聞く前に拒否するか、無視を決め込むかにしたが、一人の髭面の商人がそこで商品を調達している武器商人のことを紹介する。
「そう言えば、カリオペで商品を調達している武器商人が居たな。そいつがアルバイトを紹介している。連れてってもらえると思うぜ」
「親切だな。で、どんな風貌だ?」
「下衆な野郎だ。あいつのおかげでどれくらいの人が死んでいるか。まぁ、カリオペで死んでくれれば良いもんだ」
髭面の商人からの紹介をありがたく受け入れ、シュンはその武器商人の居場所を記したメモを受け取り、早速そこへ向かう。
歩いて数十分、武器商人の船がある宇宙港へ辿り着いた。退役した軍用の宇宙船を買い取って改造したのか、かなり分厚い装甲である。
宇宙船の前には件の武器商人が集めたアルバイト、いかにもごろつきや悪党などと言った面構えの男達が集まっている。
「ん、お前もか? 来い!!」
シュンも募集したアルバイトの一人と思ったのか、武器商人の手下の一人が呼び掛けて来る。
それにシュンは反応してか、大剣を抜いてモナドで手に入れた能力を試してみる。
「そうだ。履歴書を送った」
「そうか。こっちだ」
術を掛ければ、手下はシュンを武器商人の元へ連れて行った。集まっているアルバイト達の集団に混じれば、並ぶように言われ、大人しく並ぶ。
自分の番が来るまで待っていたが、順番を守れない者が何人も居てか、自分の出番が来るまで大分時間が掛かった。
「おい、お前の履歴書は何所だ?」
「履歴書? あぁ…これだ」
ガラの悪い面接官に履歴書は何所だと問われたシュンは苛立っていたのか、手っ取り早く済ませようと思って先の術を掛けて乗り切ろうとした。
だが、使い方を間違ったのか、近くに居る男が魔法を使ったと騒ぎ始める。
「こいつ! 魔法を使ってるぞ!!」
「てめぇ! ワイルドキャットの回し者か!?」
「あぁクソ…しくじった」
使い方を誤ったシュンの周りに、武器商人の手下やアルバイト達が集まり、今にも八つ裂きにしようと構えている。
そんな四方八方を囲まれたシュンは、全員を皆殺しにして宇宙船を奪うべく、コアより取り出した煙球で姿を晦まし、その間にデバイスを起動させてバリアジャケットを纏った。
「こいつ! 時空帝国の魔導士だ!!」
「ぶっ殺せ! 連邦か同盟に首だけでも差し出せば、大金を貰えるぞ!!」
煙が晴れた頃にはシュンはバリアジャケットを纏っており、待機状態の大剣も元のサイズとなって、右手に柄が握られている。
周りの男達は時空管理局の事を連邦軍や同盟軍がプロパガンダで使われている「時空帝国」と呼んで、殺して賞金を得ようと、様々な凶器で襲い掛かって来る。
四方八方から襲って来る男達に対しシュンは、衝撃波で数十名を吹き飛ばしてから、大剣を振るって衝撃波で怯んだ男達を纏めて斬り殺す。
凄まじい血が噴き出し、肉片が宙を舞う中、シュンは無我夢中で襲い掛かって来る男達を殺し続ける。
「クソッタレが!!」
募集したアルバイト達が次々と惨殺されるのが我慢できなくなったのか、武器商人らは自動小銃や拳銃等を持って発砲を始めた。
射線上にはまだアルバイト達が居たようだが、前金を払ってない事を良い事に、大剣を持って殺し回っているシュンを殺そうとする。
また集めれば良いだろうと言う考えで撃ったようだが、彼らが使う銃弾ではバリアジャケットを撃ち抜くことは出来ない。
「き、効かねぇ!」
「馬鹿! 連中に銃は…!」
銃が効かないことを知らなかったのか、驚きの声を上げる。
局員に銃が効かないことを知っている男は多少のダメージは与えられる対物兵器を持って来ようとしたが、シュンはあのプラズマ式ボウガンを左腕のガントレットに付け、それを掃射して銃を持って居る連中を一掃する。
「適う訳がねぇ! 逃げろぉ!!」
一瞬で武器商人の手下たちが挽き肉と化していく中、周りの男達は自分たちでは適わないと判断して、我先にと逃げ出し始める。
「ふぅ、無駄に疲れなくて助かる」
逃げて行くごろつきや悪党達を見て、シュンは大剣の刃の部分を肩に担ぎ、武器商人が居そうな場所へ向かった。
「死ねぇ!」
そんなシュンを殺そうと、背後からナイフを持った男が突き刺そうと向かって来たが、既に気付いていたのか、その男の顔面を左手の甲で殴りつける。
「ごべっ!」
殴られた衝撃で鼻が潰れ、前歯を何本も折った男は地面に倒れ込む。
幸い気を失わずに居たので、シュンはその男の胸倉を掴んで無理やり立たせ、武器商人が何所に居るのかを問い詰める。
「丁度いい、お前の親分は何所だ?」
「ぶべぇ…! しょ、娼館に居ます…!」
「何所だ?」
「多分、一番高い所」
「よし、除隊を許可する」
武器商人の居場所が分かれば、シュンはその男の首を折って殺した。
まだ数名が諦めずに襲って来たが、全員がシュンに適うはずが無く、殺されるか、宇宙船の操縦の為に気絶させられて生かされる。
これでまた人探しをしなくてはならなかったが、生かしておいた手下の一人に問えば、直ぐに居場所を教えてくれたので、そこへ空を飛んで直行する。
無論、騒ぎになるだろうが、今のシュンには関係ない。娼館に辿り着けば、空を飛んだまま壁を引き剥がし、武器商人が何所に居るのかを問う。
「武器商人は何所だ? ハイフラーとか言う名前のだ」
「あ、あっち!」
壁を引き剥がして空飛ぶ大男に対し、問われた男は直ぐにハイフラーなる人物の居場所を吐いた。
指差した方向へ向かい、シュンは壁を破壊して娼婦と言うか、少女娼婦と行為に至ろうとするハイフラーの首根っこを掴む。もちろん相手は抵抗する。
「お前がハイフラーか。このロリコンが。早く来い!」
「な、なんだお前は!? は、離せ!!」
「黙れ、ロリコン」
「助けてくれぇぇぇ!!」
件の人物を見付ければ、シュンは裸のままの武器商人を確保した宇宙船まで運んだ。
宇宙船の往復まで数十分、街はえらく大騒ぎになり、連邦か同盟の治安部隊が出動する騒ぎにまで発展していたが、これから最前線であるカリオペに向かうシュンにとっては関係ない。
「こべっ!」
「さて、地獄への片道切符。操縦頼むぜ」
乱雑に武器商人を放り投げ、まだ息のある手下たちに、自分をカリオペに向かうように命令した。
大勢を息一つ乱さずに殺したシュンに対し、武器商人たちはここで死ぬか、大人しく従う他なかった。逆らえば、周囲に転がる死体の仲間入りを果たすので、後者の方を選ぶ。
こうして、シュンは目的の物がある地獄の最前線であるカリオペへと向かった。
「あ、あれがカリオペでしゅ…! 惑星の左一帯が連邦側の警戒ラインで、右側が同盟軍の…」
「んなもん、見れば分かる。アホみたいな数の軍艦が真正面から撃ち合ってる。大艦巨砲主義者や艦隊決戦主義者が涎垂らす程の光景だ」
カリオペに近付いたことを、武器商人は恐怖で口を震わせながら、重すぎる鉄塊で素振りをしているシュンに知らせた。
素振りを中断して目前で行われている連邦や同盟の宇宙艦隊による艦隊戦を見て、大艦巨砲主義や艦隊決戦主義者等が好む光景と口にする。
「あ、あの中に突っ込む…んじゃ…ないですよね…?」
「もちろんだ。取り敢えず、このコンパスの針が指してる方向に行け」
「は、はい…!」
鉄塊による素振りで出た汗をタオルで拭きつつ、コンパスの針が指す方向へ進むように指示した。
双方の宇宙艦隊は、目前の敵に集中し過ぎているのか、こちらに警戒は余りないようだが、双方の警戒ラインに入るや否や、直ぐにビームなどが飛んでくる。
警告も無しの発砲だ。どうやらカリオペに近付く全ての宇宙船は、友軍で無ければ容赦なく撃破されるようだ。
「ヒィィィ! う、撃ってきましたよぉ!!」
「武器を売ってる商売してて狼狽えるんじゃねぇよ」
「だってぇ! ここの航路は絶対に撃たれないのにぃ!!」
「誰かチクったんだろ? このまま進め。暫くは持つだろう」
絶対に見付からない航路なのに、攻撃されたことに動揺する武器商人に対し、シュンは誰かが通報したと答え、そのまま進むように指示する。
だが、余りにも無茶苦茶なのか、一人の手下が逃げようとした。
「やってられるか! 俺は逃げ…」
「逃げたら殺すぞ。分かったか?」
『はいぃ!!』
「よし、惑星に降下しろ。大気圏に入ったら、俺は降りる」
逃げようとした手下を見せしめのために投げナイフで殺したシュンは、武器商人と手下の面々に惑星に降下するように指示した。
次は自分が殺されると思った武器商人と手下たちは、シュンの指示通りに従い、撃たれ過ぎて被弾している宇宙船で大気圏再突入を行う。
凄まじい振動が来て、機内の温度が上昇する中、シュンは動じることなく掴まり、大気圏に入るまで我慢強く待つ。
暫くすると、大気圏の再突入が終わったのか、人工の重力では無い自然の重力を感じた。
「慣れ親しんだ重力…来たな。んじゃ、ありがとな」
「あっ、はい…」
大気圏内に入れば、自由に動けるので、シュンは床を元の大きさに戻した大剣で破壊し、そこから空いた穴に飛び降りた。
遥か下の地面へ落下していく中、シュンはバリアジャケットを纏い、両手と両足を広げて自由落下を行う。
自分が乗って来た宇宙船は、連邦か同盟のどちらかの対空ミサイルで撃墜され、空中爆発を起こしながら地面へと落下していく。
その残骸がシュンの方へと飛んできたが、彼が地上まであと半分の距離で体勢を立て直して空を飛び、自分に向かって飛んでくる残骸を、手に持っていた大剣で破壊する。
残骸を破壊し尽せば、シュンは惑星へとゆっくり降り立ち、周囲に転がる白骨化した物や腐敗した夥しい死体と赤錆びた兵器群の残骸を見て、昔は観光地だったと信じられなくなる。
「さて、ここが惑星カリオペか…昔は観光地だったらしいが、今じゃ、死臭が漂う戦場か」
過去の噂話は捨て、シュンは周囲の地獄のような光景を目にしながら、コンパスが指す針の方向へと足を進める。
未だに銃声や砲声、爆発音が辺りから聞こえ、年がら年中に掛けて戦闘、それも大規模な戦闘が惑星各地で行われているようだ。地上のみならず、空でも空中戦が繰り広げられ、連邦と同盟の双方の航空機が殺虫剤を掛けられた蠅のように落ちて行くのが分かる。
おかげでカリオペの環境と生態系は悪化の一歩を辿り続けていて、それに大規模な戦闘が一日に何度も起きているとすれば、恐ろしい数の死傷者が出ていることだろう。
それを証明するかの如く、足の踏み場が無いほどの死体と残骸で溢れている。何度も繰り返す通り、まるで地獄だ。アウトサイダーの言う通り、神も見捨てた土地だ。
「あいつ等、ここが人様の土地だからって、やり過ぎだろ」
草木一本も生えず、尚且つ街も更地になっているスターリングラードの比では無いこの世の終わりのような光景を見て、シュンは連邦と同盟の戦争が酷く無意味な物と見えた。
だが、そんな地獄のような場所に水晶があるので、シュンは連邦や同盟を相手にそれを探さなければならない。
周囲を警戒しつつ、シュンは大剣を背中のラックに着け、銃を出しながらコンパスの針が指す方向へと進んだ。
次話で百話か…