復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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年内に投稿することが出来た…!

一足先に、自由になった戦友達へ…!

自分は劇場版しか見てないので、指摘よろしく。

イメージ戦闘BGM 鉄のララバイ


バーコフ分隊

 床の穴に落ち、空気がある区画へと偶然の如く落ちたバーコフ分隊は直ぐに別の部屋へ移動し、そこで小休憩を取った。

 錯乱していたバーコフは、落ち着きを取り戻したのか、自機から降りて先ほどの事をどう謝罪すべきか悩み、うつむいている。

 ゴダン、ザキ、コチャックは苛立ち、今にも一色触発状態であったが、キリコはこんな時でも、異常なまでに冷静であった。

 シュンは自分を睨み付ける三名に、ネオ・ムガルの事をどう説明するか悩んでいる。

 最初にシュンに問い掛けて来たのは、粗暴で大柄なゴダンであった。

 

「小隊長! なんなんだあいつ等は!?」

 

「俺たちの事を殺そうとして来たぞ! 何なのか説明しろよ!!」

 

「そうだ! また俺たちを試そうとしてるのか!?」

 

 これまでバーコフ分隊は、異能生存体と言う可能性があると判断されて集められており、生存率を調べるために数々の地獄へ送られた。

 経験からか、あの見知らぬ機動兵器に乗る襲撃者たちは、自分たちを試すために友軍か何処かの組織が送り込んできた物と、バーコフ分隊は判断しているようだ。

 そんな古代クメント文明の瞬間転移のみならず、正体不明の敵に襲撃され、身の危険を感じているバーコフ分隊の面々に、シュンは後頭部を搔きながら、襲撃者であるネオ・ムガルについて説明する。

 

「あれは、異世界から来た連中だ。キリコを殺しに、遥々ここへ来た。SPTだのMFだの、戦車に脚を生やした奴や、ヘリのキャノピーみたいな頭を付けたロボットを持ってな」

 

 彼らの問いに正直に答えたシュンであるが、いきなり真実を言われても、信じられるはずが無い。

直ぐにゴダンからの拳がシュンの顔面に飛んできた。予想外に頬を殴られたシュンは床へ転がり、切れた口から血を吐き、立ち上がる。

 

「SPTにMF、それに異世界だぁ? 訳の分からねぇことを言ってんじゃねぇぞ!!」

 

「頭でもぶつけたか! 木偶の棒! それになんでキリコなんだよ!?」

 

「きっと、バララント軍の新兵器だ! それか、モナドの古代クメント文明の何かの兵器だ!」

 

 信じられないのも当然である。コチャックはネオ・ムガルが投入してきている機動兵器群を、バララントの新型や古代クメント文明の物だと言い始める。

 確かにネオ・ムガルの部隊はバララントのATを攻撃したが、彼らは古代クメント文明の遺跡を守るために作られたロボットでは無い。キリコは撃墜した敵機の頭部のコックピットから、パイロットスーツに身を包んだ人の死体を見ていたので、コチャックの説を否定した。

 

「いや、人間の死体が見えた。赤い血が流れていた。奴らは小隊長の言う通り、異世界から俺を殺しに来た連中だろう」

 

 シュンの言うことを信じるキリコに対し、疑いの目を向けるゴダンやザキは庇うのかを問い詰める。

 

「キリコ! こんな訳の分からねぇことをほざく奴を信じるのか!?」

 

「俺はごめんだぜ! 分隊長もあの様だしよ!」

 

「まぁ、もっとも意見だな。初めから信じて欲しいだなんて思ってない」

 

 初めから信じて貰おうとは思ってないと答えるシュンに対し、キリコはなぜ自分が狙われるのかを問う。

 

「では、なぜ俺が狙われる? 未来の俺は、奴らに何をした?」

 

「お前の性格からして、信じられないと思うが、英霊となって俺の時代に蘇り、連中が甦らした悪党共と戦っている。どうにもあんたが強過ぎて、存在そのものを消すためにこの時代に刺客を送り込んだ」

 

「英霊か。俺はヒーローと言われるほど、善人じゃないんだが」

 

「周りが勝手に持ち上げたんだろう」

 

 護衛対象からの問いにシュンは嘘偽りなく答えれば、キリコは自分が英霊となってシュンの時代に蘇り、咎人を率いるネオ・ムガルと戦っていることを信じられないようだ。

 これにシュンは、キリコの事を周りが勝手に英雄として持ち上げたと告げる。

 キリコが英雄となったと聞いてか、バーコフ分隊の面々は自分等も英霊となって蘇っているのかを問い詰めて来る。

 

「キリコが英雄か…俺たちだってこの戦いを生き延びれば…!」

 

「なぁ、俺、じゃなくて俺たちも…その、英霊とかになって、さっきの悪党共と戦ってんのか?」

 

「さぁ、英霊と言っても凄い数が居るからな。分からねぇよ」

 

 キリコが英雄となったと聞いて、ゴダンは自分等のようなAT乗りでも、英雄になれると自信をつける中、ザキは自分等バーコフ分隊も英霊となって蘇り、ネオ・ムガルと戦っているのかを聞けば、キリコ以外のAT乗りを見たことが無いシュンは、知らないと答える。

 しかしコチャックは、自分たちのようなAT乗りが英雄となっているはずが無いと言い始める。

 

「けっ、みんなして夢見やがってよ。俺たち見てぇな人間が、英雄になれるはずがねぇんだ。特にお前だ、ゴダン。お前、自分が生き残るために仲間を犠牲にしてきたんだろ? そこの真先に自分だけ逃げようとした分隊長のようにな!」

 

「このデブ! 今度ふざけたこと抜かしたら、ぶっ殺すぞ!」

 

 場の空気を壊す発言をしたコチャックに対し、ゴダンは苛立って脅し付ける。更に追い打ちをかけるように、ザキがコチャックの隠していることを口にする。

 

「けっ、臆病だから妬んでんのか? 俺は知ってんだぜ。お前が情報部の連中に俺たちの動きをチクってることをな! このスパイ!」

 

「なに、このデブ…情報部のスパイだったのか!? 通りで除隊申請なんて出す訳だぜ!」

 

「仕方なかったんだ。それが俺の任務だったんだ! それに俺は仲間を後ろから撃つようなことはしてない!」

 

「や、止めろ、お前たち…ここは敵地だぞ…!」

 

 ザキがコチャックは分隊内での情報部からのスパイであると明かせば、口論が始まり、仲間同士での殺し合いに発展し掛けていた。

 それを宥めようとした分隊長であるバーコフであったが、逆に火に油を注いでしまったようだ。

 シュンとキリコは、それを止めることなくただ眺めている。

 

「うるせぇぞ臆病者! そこで黙って見てろ!」

 

「任務でやっただと? けっ、通りで臆病なわけだぜ!」

 

「仲間を売ってまで生き延びようとする犬野郎がよ!」

 

 ゴダンがバーコフを黙らせる中、彼はザキと共にコチャックに向けて犬と蔑んだ。犬と蔑まれて逆上したコチャックは、ゴダンに噛み付き始める。

 

「犬? 犬だと…? 言わせておけば!!」

 

「ぐぁ!? 離れろ! この犬が!!」

 

「犬って言うな!!」

 

 噛み付かれたゴダンは、何度もコチャックの顔面に拳を打ち込むが、それでもコチャックは体格に勝るゴダンに蛮勇にも立ち向かう。

 そんな状況を少しでも変えようと思ってか、バーコフは自分が下士官まで降格した理由を語り始めた。

 

「もう止せ、三人とも。ここで俺たちが殴り合ったってなにも変わりやしない。それと分隊長命令だ、俺の昔話を聞け」

 

「こんな時になに言ってんだ?」

 

「良いから聞け! みんなも知っている通りだが、俺はいつも肝心な時に逃げ出しちまう。自慢じゃないが、危機察知能力が高くてな。でも、自分が助かりたいがためにみんなに知らせず、自分だけ逃げ出しちまう。臆病者さ」

 

 殴り合いを止めたゴダンとコチャック、問い詰めるザキの視線が集中する中、バーコフは無理にでも彼らに自分の過去を聞かせる。

 主席に近い成績で士官学校を卒業し、指揮能力やATの操縦技術に優れ、一時期は中尉にまで昇進した。

 だが、本性である保身に拘泥し、危機を感じると逃亡する悪癖の所為で敵前逃亡を繰り返し、曹長にまで降格させられる。

 バーコフ分隊に入ってからも、一癖も二癖もある面々をまとめ上げてきたが、いつも厄介な時や重要な局面の時に姿を消すのはその所為だと語った。

 

「それがどうしたんだよ? 仕方が無いから認めろとでも?」

 

 臆病な自分のことを曝け出した所で、事態は変わらなかったが、ここに来てキリコが助け舟を出した。

 

「そんな俺たちが、どうしてここまで生き延びて来たと思う? 単なる偶然か? 違う、俺たちが、高い生存能力を持つ異能生存体だからだ」

 

「異能生存体…?」

 

「信じられないと思うが、聞いてくれ」

 

 それは、自分たちが異能生存体である可能性があるという事だった。事実、彼らはここに至るまで様々な苦難や危機を脱して来た。ならば彼らも異能生存体であると、キリコは自分以外の異能生存体の存在を信じた。

 疑問に思う面々に対し、キリコは異能生存体について自らの経験を交えて語り始める。

 例えば、至近距離で拳銃を向けられていたとしても、自分に当たる瞬間に物理法則が乱れ、弾丸が逸れる。

 次にどれほど死に至る程の傷を負おうとも、翌日にはまるで生き返ったかのように傷口が治まる。それか病には罹らない。全くの健康体である。

 他には自分を撃とうとした敵機が爆発したり、全滅確定の上陸作戦で自分一人だけ何故か生き残ったり、モナドに至る経緯まで話す。

 

「信じられねぇな。俺でもそこまでの経験はねぇぞ。まぁ、お前の目を見れば分かるか」

 

「普通なら信じられないが、これが異能生存体だ。死なない者、いや、死ねないと言った方が良いだろう。寿命に関しては分からないが」

 

 あり得ない話であるが、シュンはそれを語るキリコの目付きを見て、真実であると確信した。

 異能生存体は、キリコの言う通り死ねない生命体であると言う事だろう。

 キリコの話を聞いたバーコフ分隊の面々は、自分たちの生存率の高さは、もしかすれば自分が異能生存体の所為であると考え始める。

 

「じゃあ、俺たちは…!」

 

「そうか、俺たちは異能生存体なんだ!」

 

「通りで極寒の中でも生きている訳だぜ!」

 

 バーコフ、ゴダン、コチャックは、これまでの過去や地獄のような経緯で生き延びて来たのは、自分たちが異能生存体であると分かった面々は歓喜し始める。

 だが、自分だけその経験が無いザキは、自分は異能生存体でないと分かり、落胆する。

 

「それじゃあ、俺は異能生存体じゃないのか…」

 

「待て、ザキ。ここまで生き延びて来たのは何故だ? それにバーコフ分隊に集められた以上、お前も異能生存体であるからだ」

 

「お、俺も…異能生存体なんだ…!」

 

 そんなザキに対し、キリコはここまで生き延びて来たのは、異能生存体だからだと勇気づけた。

 考えて自分がここまで生き延びたのは、自身も異能生存体であることだと分かったザキは、先ほどの落胆ぶりは何所へいったのか、バーコフ分隊と同じく喚起し始める。

 

「この広い宇宙に俺一人のはずは無いと信じている」

 

 自分等が死なない生命体と分かり、喚起するバーコフ分隊を見ていたキリコは、この広い宇宙で自分以外の異能生存体が居ることに安堵した。

 確かに、自分のような特別な存在が自分だけでなく、数人以上も居れば安心するだろう。

 自分以外の異能生存体に出会えたキリコが、少し笑みを浮かべていることを見逃さなかったシュンは、自分の目的である水晶探しを手伝ってくれるかどうかをバーコフ分隊の面々に問う。

 

「少し水を差すようだが、俺の水晶探しを手伝ってもらえるか? 不死身の分隊」

 

「物探しか? あぁ、手伝ってやるとも。なんたって俺たちは異能生存体だからな! そうだろ、みんな?」

 

「応よ! 小隊長は安心して俺たちの背中に居な!」

 

 自分たちが異能生存体であると分かり、奮い立ったバーコフは、シュンの水晶探しの手伝いを意気揚々と受け入れた。

 

「そいつはありがたい。じゃあ、行くか」

 

 奮い立つバーコフ分隊が断ることなく受け入れてくれたので、シュンは一同と共に自分のデバイスの強化アイテムである水晶を探しに行くため、ATに乗り込み、ここを後にした。

 

 

 

「目の前にはバララント軍、連中は俺たちのさっきまで居た場所に向いているようだな」

 

 水晶を探しに先ほどの区画を出て、通路へと入ったシュンとバーコフ分隊の面々は、バララント軍のATが行き来しているのが見えた。

 凄まじい数の本隊が惑星表面を埋め尽くしており、その対応に追われているようだ。

 一個大隊は居るだろうが、自分たちが異能生存体と分かって奮起しているバーコフ分隊には、物の数では無いようだ。

 

『一個大隊は居るな』

 

『一個大隊が何だ、俺たちは死なない身体だ!』

 

『遺伝子のお墨付きだぜ!』

 

『そうだ! 俺たちは死なねぇんだ!』

 

『俺たちは死なねぇ!!』

 

「狂ってるぜ」

 

 物陰より敵の数を確認したキリコが言えば、彼を除くバーコフ分隊の面々は、正面から敵のAT集団に火器を撃ちながら突っ込んだ。シュンも異常なまでに冷静なキリコも、先に突っ込んだ四機に続く。

 たかがAT一個分隊の奇襲であるが、これが思わぬ効果を生み、バララント軍のAT大隊は混乱して次々と撃破されていった。

 一個小隊を掃討したところで、シュンは逃げようとしたチャビィーの背中を機体右腕のパイルバンカーで突き刺して撃破してから先頭に立ち、コンパスの針が指す方向を頼りに水晶がある場所へと向かう。

 

「こっちだ!」

 

『了解!』

 

 再びヘビィマシンガンを持って、目の前の敵を倒しながら進めば、バーコフ分隊もその後へ続き、同じく敵を倒しながらついてくる。

 流石に分隊で中隊相当のATを撃破すれば、敵大隊は戦意を喪失したのか、または立て直す為なのか、後退し始めた。

 

『へっへっ、どんなもんだい!』

 

『連中、おそらく立て直して再び仕掛けて来るな! 小隊長、今のうちに水晶の所へ行こう!』

 

「そのつもりだ! 背中を頼むぜ、不死身共!」

 

 コチャックが退いて行く敵機を見ながら言えば、バーコフはそれを立て直しと見抜き、この隙に水晶の所まで行こうとシュンに提案した。

 彼とは短い付き合いだが、この一癖も二癖もあり、自己中心的な連中をまとめ上げることが出来る指揮官であるので、従って水晶の元へ急ぐ。

 道中、またも数機のバララント軍のATと遭遇したが、分隊の敵では無く、見付け次第にヘビィマシンガンの弾丸を浴びせて撃破した。

 

「うぉ!?」

 

『レーザー! それに実弾! 奴らだ!』

 

『タイムスリップしてきたことを後悔させてやるぜ!』

 

 遭遇する敵を撃破しつつ水晶へと続く道を進む中、遂にネオ・ムガルのスカルガンナーがこちらを捉えたのか、レーザーによる攻撃を仕掛けて来た。後続に戦車に四本の足を生やした兵器も居り、それが実弾を放っている。

 シュンが怯んで近くの壁に機体を隠す中、戦意が向上しているバーコフ分隊は変則的な機動を取りながら接近して来る複数のスカルガンナーに向けて反撃する。

 分隊が放った弾幕は避けられたが、キリコはスカルガンナーの行動を予測していたのか、そこへ向けて単発を撃ち込めば、スカルガンナーは火を噴いて爆散した。

 元々、この無人機動兵器は対人用であり、装甲が気休め程度のATを撃破できるのだが、訓練を受けたシュンと、高い生存力と戦闘力を誇るキリコ、奮起しているバーコフ分隊の前では物の数では無いようだ。

 突っ込ませた全てのスカルガンナーが撃破されれば、後方に控えて戦車砲を撃っていた四本足は、機銃を撃ちながら後退を始めた。

 

『無駄に抵抗しやがって!』

 

『足だ! 足を撃て!!』

 

 遮蔽物に身を隠し、抵抗を見せる敵機にザキがイラつく中、バーコフは四本足の弱点と見抜いて攻撃するように命じる。

 

『見たとおりに足が弱そうだな!』

 

 四本足の戦車の弱点が重い車体を支える足であることが分かったゴダンは、自機が担いである無反動砲で右前足を攻撃すれば、四本足はバランスを崩して倒れ込み、その衝撃で弾薬庫に火でも回ったのか、爆散した。

 

「随分と脆いこって」

 

 足を撃たれて倒れただけで、爆散する四本足を見たシュンは、戦車とは思えない脆さを笑いつつ、二機目の足をヘビィマシンガンで撃ち抜き、撃破していく。

 今度は飛行機能を持たないSPTのような外見を持つ機動兵器が現れたが、先ほどの四本足と同様に、足を撃たれて転倒すれば、爆発する。

 その調子で敵機を撃破し続けながら進めば、今度は重装甲で出迎えて来たのか、頭の無い10m級の機動兵器が出て来た。

 

『くそっ、貫通しない!』

 

『あの頭無し、重装甲だ!』

 

『ソリッドシューターを弾きやがった!』

 

『今度は重装甲か! なら脚に集中砲火だ!』

 

 こちらの火力を受け付けない重装甲の頭の無い機動兵器に対し、バーコフは今まで弱点がやはり足であると予想し、そこへ分隊の火力を集中するように指示を出す。

 予想は的中し、足に集中砲火を受けた重装甲の頭無しは倒れ込んだが、余り火器を詰んでいないのか、爆発はしなかった。

 

「こいつなら!」

 

 だが、ローラーダッシュで一気に頭無しに近付いたシュンが、自機の右腕のパイルバンカーを頭部の辺りに突き刺せば、そこがコックピットだったのか、糸が切れた人形のように動けなくなった。

 

『他にも弱点があるはずだ。分隊長、援護を』

 

『よし、背中だな! みんな、キリコを援護しろ!』

 

『了解!』

 

 キリコは重装甲の敵機に他の弱点があると思い、そこを探すために分隊の援護を頼んでから弱点を探した。

 援護射撃で動けない敵機の背後へ回り、そこに向けてヘビィマシンガンを数発ほど撃ち込めば、敵機は火を噴いて倒れ込む。どうやら戦車と同じく背面が弱点の様だ。直ぐにキリコは分隊全員に重装甲の機動兵器の弱点を無線機で知らせる。

 

『弱点は背中だ! それにこいつ等の動きは鈍い!』

 

『俺もそう思ってた所だぜ!』

 

『嘘つくな!』

 

 それが分かれば、分隊の面々は重装甲の敵機を次々と撃破し始めた。

 ここぞとばかりに投入した重装甲機が、たかだか安価な生産品であるATに次々と撃破されていく様を見た刺客たちは、一目散に逃げ始める。

 

『逃がすかよ!』

 

『待て! これ以上は弾の無駄だ! 小隊長、この辺りだな!?』

 

「あぁ、この辺りだ。俺は探しに行くから援護を頼むぜ!」

 

『了解した! みんな、小隊長を援護しろ!!』

 

 敵が退いた所で、シュンとバーコフ分隊は物置の倉庫で水晶探しを始める、また敵が仕掛けてくるかもしれないので、シュンはバーコフ分隊に自分が水晶を見付けるまで護衛するように命じ、コンパスの針を頼りに探す。

 

『お次はバララント軍だ!』

 

『早く見つけてくれよ! 弾が無くなる前にな!』

 

 ATに乗りながらそれらしい水晶を探す中、態勢を整えたバララント軍のAT部隊が分隊を見付けて攻撃して来た。

 先に攻撃を受けたゴダンが知らせれば、バーコフは早く水晶を見付けるようにシュンを急かす。

 

「そんなに簡単に見付かるもんじゃねぇんだ!」

 

 それにシュンは文句で返し、必死に水晶を探し回るが、焦れば見付からない。

 

『遅いな! キリコ、小隊長を手伝ってやれ!』

 

『了解した』

 

 どんどんバララント軍のATが集まって来るので、早くこの場を離れる為、バーコフはキリコにシュンの手伝いをさせるように命じ、水晶の探索を素早く終わらせようとする。

 数機の敵機を撃破してから、キリコは機体を降りて、シュンと共に水晶を探す。

 

「これか?」

 

「それだ!」

 

 水晶を探すこと一分余り、コンパスを持っているシュンよりも先にキリコが水晶を見付けた。

 目当ての水晶であると分かれば、キリコはシュンに向けて水晶を投げ、それを手に取った彼は左手で握り潰す。

 水晶を握り潰せば、中にある紫色の煙がシュンの身体を包み、新しいデバイスの能力が解放される。

 

「よし、目的は果たした」

 

 どんな能力かは分からないが、とにかく能力を手に入れる目標は果たしたので、後はキリコを刺客たちから守るだけだ。だが、キリコとバーコフ分隊の強さからしてシュンが必要かどうか分からないが。とにかく、用心に越したことは無い。

 水晶を発見して割って戦線へ復帰したシュンとキリコは、バララント軍のAT部隊を攻撃するバーコフ分隊と共に攻撃を再開し、次々と敵機を破壊する。

 やがて敵は敵わないと判断してか、退き際になって行く。

 自分たちが死なない生命体だと思っているバーコフ分隊の面々は、退き始めたバララント軍の追撃を始め、徐々に敵部隊の戦力を削る。

 その調子で追撃し、敵を全滅させれば、いつの間にかワープした先へと来ていた。

 

『あいつ等、まだここに居たのか!』

 

『全員ぶっ殺してやるぜ!!』

 

 そこにはまだネオ・ムガルの刺客たちが乗るSPTやMF、それに10m級の機動兵器も居た。

 刺客たちを見付けたバーコフ分隊は、最初に襲撃した時の借りを返すために、猛攻撃を仕掛けた。

 地上に居るMFのガンステイドや四本足、10m級の機動兵器部隊は瞬く間に弾幕で壊滅していく。地上戦用のSPTであるドトールは回避するが、それを待っていたのかの如くキリコやシュンのATの携帯火器から放たれる弾幕でハチの巣となる。

 空中に居るブレイバーやソロムコも、頭上より攻撃を仕掛けようとするが、バーコフ分隊の猛威は空にも向けられ、一瞬にして地上の味方の後を追う。

 

『俺たちは死なねぇ!』

 

『うぉぉぉ!!』

 

 無線機でキリコ以外のバーコフ分隊の面々の叫び声が響き渡る中、ネオ・ムガルがこの世界に送り込んだ機動兵器は次々と鉄屑へ変わって行く。

 敵は成す術もなく撃たれるばかりで、反撃も出来ない。これではまるで虐殺だ。

 シュンは少しこの世界に送られて次々と殺されていく彼らに、少しの哀れみを抱いたが、自分の全てを奪った者達の配下と言う事で割り切り、バーコフ分隊と共に敵を殲滅する。

 三十機以上は撃破したところで、敵は戦意を失ったのか、飛べる機体は地上の敵を残して自分等だけで逃げ始める。

 地上に居る敵は、容赦なくバーコフ分隊の追撃を受けて全滅させられる。

 

「すげぇな、たったの一個分隊で一個大隊を壊滅させちまった」

 

 携帯火器を撃ち終える頃には、一個大隊は居たネオ・ムガルの刺客たちの機動兵器は全て鉄屑となっていた。

 辺り一面に黒煙が立ち込め、兵器のスクラップ場となっている。中には人間の死体が見えるが、黒焦げで性別は判明不可能である。

 

『こ、これ…俺たちがやったのか…!?』

 

『どうやらそのようだぜ…!』

 

『ははは、俺たちは本当に異能生存体らしい!』

 

『そうだ、俺たちは異能生存体だ…!』

 

 目の前のスクラップ場を見て、バーコフ分隊の面々は本当に自分たちが壊滅させたのかにわかに疑い始める。

 自分たちを異能生存体だと過信する中、興奮したコチャックは、単独で前に出てワザと目立つような行動を取る。

 

『コチャック! 一人で前に出るな!!』

 

『俺様に続けぇーっ!!』

 

『待てコチャック!!』

 

 バーコフや仲間からの静止の声を聴かず、コチャックは滅茶苦茶に機体の携帯火器を乱射する。

 コチャックが派手に撃つおかげか、体勢を立て直したネオ・ムガルのSPT部隊が頭上より現れた。

 

『何所だ!? かかって来い!!』

 

 だが、当のコチャックは気付かず、三機の士官用のSPTであるディマージュのレーザー攻撃でハチの巣にされる。

 

『うわっ!? うわっ! ギャァァァァァ!!』

 

『コチャッーク!!』

 

 連続のレーザー攻撃に耐えられず、コチャック機は自分を不死身だと思っていたバーコフ分隊の目の前で爆散した。

 当然、その機に乗っていたコチャックは死亡する。その証拠に彼の腕らしき物が見えていた。それを見ていたバーコフ分隊の面々、特に犬猿の中のゴダンは取り乱す。

 

『お、俺たちは不死身じゃ無かったのか…? 異能生存体じゃ無かったのか…!?』

 

『ゴダン、ザキ、キリコ! 直ちに迎撃態勢だ! あの白い奴を撃ち落とせ!!』

 

 ゴダンが取り乱し、錯乱する中、シュンとキリコ、ゴダンを除くバーコフとザキは降りて来るSPT部隊にミサイルによる攻撃を加え、一時は退かせることに成功する。

 だが、錯乱しているゴダンは、自機の火器をバーコフやザキに向けた。

 どうやら、彼らの魔法は解けてしまったようだ。

 

「おい、こんな時に何をやっている?」

 

『異能生存体じゃねぇあんたは黙ってな! コチャックの野郎は異能生存体じゃ無かった! なら俺も異能生存体じゃねぇ可能性がある! お前らが異能生存体であるかどうか確かめてやる! 前に出ろ!!』

 

『ご、ゴダン! 落ち着け!!』

 

 仲間に銃口を向けるゴダンを注意するシュンであるが、錯乱していて聞く耳を持たなかった。

 周囲を警戒しているキリコは、ゴダンの説得を試みる。

 

『ある程度の環境と物理法則なら…変えられたはずだ…』

 

『コチャックは死んだぞ! 何故だキリコ!?』

 

 経験があるキリコの言葉ですら、ゴダンは聞く耳を持たない。

 そんなゴダンを落ち着かせようと、バーコフらも説得を試みる。

 

『止せゴダン! マシンごと吹き飛んだんだ!』

 

『あれでどうやって生き残れるんだよ!?』

 

 最後にザキがもっともなことを言ったが、ゴダンはそれでも納得せず、ソリッドシューターをキリコ機へ向けて発射し、奥まで吹き飛ばした。

 

『ゴダン!』

 

『テメェら前に出ろ! そして敵に姿を晒すんだ!! お前らが死ぬかどうか、俺が見定めてやる!!』

 

『正気か!?』

 

 キリコ機を吹き飛ばし、二人に前に出るように脅すゴダンに対し、シュンは自機のヘビィマシンガンを向けようとする。

 そんなゴダンを恐れ、バーコフとザキは敵に姿を晒す位置まで下がる。

 敵に姿を晒す位置まで来れば、ネオ・ムガルのSPT部隊による一斉射撃が来た。その中にはミサイルが含まれており、幸いミサイルは近くに着弾して爆炎を上げただけだった。

 この隙に、バーコフとザキは銃口を向けるゴダンに構わず奥まで逃げる。

 

『逃げるなぁ!!』

 

 ゴダンが背後から迫る敵に構わず、逃げるバーコフとザキのATを撃とうとしたが、こちらに背後を見せるゴダン機を、ネオ・ムガルのSPTのパイロット達が見逃すはずが無く、レーザーを何発も撃ち込まれる。

 バックパックの予備弾倉と右手が持っているソリッドシューターにも命中して爆発を起こし、ゴダン機は見るも無残な姿に変貌した。

 装備の爆発の影響で攻撃した三機は見えなくなったが、機体を起こしたキリコは、敵機の位置を掴んでいたのか、ヘビィマシンガンを単発で三発ほど撃ち込み、二機のブレイバーの頭部にあるコックピットを破壊する。

 残りの一機は全速力で逃げようとしたが、キリコに続いた三機のATの追撃を受けて晩餐した。

 直ぐにバーコフは大破したゴダン機に近付き、開かないハッチを機体の左手で抉じ開け、瀕死の重傷を負った彼を引き摺り出す。

 

「ゴダン! クソッ…!」

 

 彼を引き摺り出し、床に寝かせたバーコフは、ゴダンの傷の具合を見たが、既に助からない状況であった。

 そんな彼の痛みを和らげようとしてか、バーコフはゴダンに大量の鎮痛剤を投与する。

 

「分隊長…! 俺は…生存本能に従っていただけ…だが、死神の名は返上できたぜ…!」

 

「もう喋るなゴダン! 俺たちに銃を向けたことは…」

 

「俺が裏切り者だと…? 笑わせるぜ…!」

 

 ゴダンは最後まで自分が異能生存体であると思っていたが、それを否定するかの如く、彼は眠るように息を引き取った。

 彼の最期を見たバーコフは、自分も異能生存体では無いのかと思い始める。

 だが、敵はそんな彼らにお構いなしに襲い掛かって来る。今度はネオ・ムガルの残りのSPTとバララント軍のAT部隊だ。

 息を引き取ったゴダンの死体をその場に残し、バーコフは機体へ飛び乗り、シュンやキリコ、ザキと共に襲い掛かる敵機の迎撃に当たる。

SPTはブレイバーが五機、ディマージュが一機を合わせて残り六機だ。これらの排除をシュンとキリコが行い、バララント軍はバーコフとザキが行う。

 掃討が滞りなく行われ、味方が全滅して逃げようとしたディマージュをシュンが追撃し、ジャンプしてパイルバンカーを胴体に打ち込めば、ディマージュは大破してスクラップとなった。

 

「よし! ネオ・ムガルの奴らは全滅だ!!」

 

『危ない!』

 

 これでネオ・ムガルが送り込んだ刺客は全滅した。

 そんな油断したシュンの元へ、バララント軍のATが急接近し、彼の機体の左腕を携帯火器で破壊する。

 

「くそっ、油断した!!」

 

 シュンのATの左腕を破壊した敵機は、僚機を反撃で失いながらも、そのまま近くに居たキリコ機に飛び掛かり、彼を殺そうとしたが、頭部にアームパンチを受けて乗っているパイロットは死亡し、衝撃で空いたハッチからその死体が外へ転げ落ちる。

 これで敵は全滅したと思ったが、排出された空薬莢が揺れ始める。薬莢の揺れ具合から、下から突き上げられている感じの揺れだ。

 

「なんだこの揺れは!?」

 

『下から突き上げる感じだぜ!』

 

『敵が来ない! 俺は向こうを調べる! ザキはあっちを調べろ!』

 

 揺れが収まった所で、バーコフは敵の襲撃に備えるため、敵が来そうな場所を調べるように指示を出した。

 二機のATが敵機の来そうな場所を調べる中、シュンとキリコはこの場で警戒態勢を取る。

 

「なんだってんだ…? まさか自爆でもすんのか…?」

 

 敵機が来ないことに、シュンはバララント軍がモナドを放棄して自爆でもさせるんじゃないかと不安がる中、機体から降りたキリコは、先ほど倒した敵機の無線機に繋ぎ、どうなっているのか調べ始める。

 そんな時に、偵察に出ていたバーコフとザキからの報告が出る。

 

『なんだこれは!? 敵機が何所にも居ないぞ!』

 

『こっちもだ! 投降したのか!?』

 

「やっぱり自爆か」

 

 敵機が来ないことに、シュンはバララント軍がモナドを自爆させるつもりだと判断すれば、先ほどの同じ下から突き上げる揺れがまた起こった。

 

『またさっきの揺れだ!』

 

『どうやら小隊長の言う通り、敵はこの惑星を自爆させるつもりのようだ』

 

『なんだと!? じゃあ、急がないと!』

 

「ちっ、マジか。脱出装置を確保しねぇとな」

 

 キリコが敵からの無線を傍受した内容を伝えれば、一同は脱出艇を奪うべく、それがある区画へと急いだ。

 

 

 

『敵で溢れているな』

 

 脱出艇がある区画へと辿り着いたシュンとバーコフ分隊であったが、そこは脱出しようとする敵で溢れていた。

 おそらくこのモナド全ての戦力が集まっていると思われる。更に脱出艇の数が足りないのか、味方同士で撃ち合って争奪戦を繰り広げている。

 

『見ろよ、脱出艇の争奪戦だぜ。こうなれば、敵も味方もあったもんじゃないな』

 

 敵から見えない位置でそれを見ていたザキは、目の前に広がる光景を皆に伝える。

 

『どうする? 脱出艇を貸してくれとでも頼むか? 分隊長?』

 

「消えたか?」

 

 ザキがどうすべきか判断をバーコフに請うが、当の彼は何所にも居ない。

 自分が異能生存体じゃないと分かって、逃げ腰に戻ったのかとシュンは思ったが、彼はAT用のキャリアーを持ってここへ戻って来た。

 

『なんだ? 俺が逃げたと思ったか! さぁ、脱出艇を分捕ろう! それしか俺たちが生き残る術はない!』

 

『それでこそだぜ!』

 

『小隊長、乗ってくれ。左腕が無い機体じゃ、こいつがなきゃ無理だ』

 

「まぁ、そうだしな」

 

 バーコフは逃げず、脱出艇を確保するためのAT二機が乗れるキャリアーを持ってくるために離れたと答えれば、ザキは信用を取り戻した。

 そんなバーコフは、損傷を負っているATに乗るシュンに、キャリアーに乗るように指示すれば、彼はそれに従って乗り込み、ヘビィマシンガンを構えた。

 キリコ機はヘビィマシンガンの予備の弾倉を取り出し、それを古い物と取り換えれば、準備が出来たことをバーコフに無線で伝える。

 

『準備は出来た。急ごう』

 

『よーし、行くぞ!!』

 

 全員がキャリアーに乗れば、バーコフ分隊は敵の大軍に突っ込んだ。

 突然の敵の攻撃に、バララント軍のATの大群は混乱し、何もすることなくただ撃たれて倒れて行く。乱射しながら仕留める中、脱出艇がある場所まで一気に辿り着くことに成功する。

 シュン機とザキ機がキャリアーから降りて、脱出艇を確保するためにハッチを開けようとすれば、先に入っていたバララント軍のフロッガーがハッチを開けたザキ機に向けて機関砲を浴びせて大破させる。

 

「うわっ! やべぇ!」

 

 ザキ機に続いてシュンの機体のバックパックに流れ弾が命中し、機体は爆発寸前であり、直ぐにシュンはハッチを蹴りで抉じ開け、コックピットから飛び出して爆発する機体より脱出した。

 先に撃たれて大破したザキ機であるが、幸いなことにパイロットは無事であった。待ち伏せていたフロッガーは、肩のミサイルでとどめを刺そうとしたが、庇う形で現れたバーコフ機のヘビィマシンガンの乱射を受けた。

 

『ぐわっ!』

 

 だが、ただではやられないのか、ミサイルを撃ってから大破し、そのミサイルはバーコフ機に当たる。

 

『バーコフ!?』

 

「大丈夫かバーコフ!?」

 

『煩い! 動けるんだったら、脱出艇(LCS)の確保だ! 小隊長も、急げ!』

 

 後方の警戒に当たっていたキリコとザキが問えば、バーコフは激痛で苛立っているのか、シュンを含めて怒鳴りながら指示を出す。

 それを聞けば、機体を失ったシュンとザキは脱出艇の確保に向かうため、そこへ急ぐ。シュンは右脇腹に破片が刺さっていたが、何度も負傷して来たので問題は無いようだ。

 同じく機体を失っているバーコフに、キリコは急ぐように告げる。

 

『バーコフ、お前も急げ。バーコフ!?』

 

 重傷を負っていると思われるバーコフに告げるキリコであるが、当の本人はここに残り、死守するつもりであった。

 

『俺は、ここを死守する! キリコ、機体を貸せ! ここが病院で…医者が沢山いて、薬がタンマリあっても無理だ…! 俺も違うってことだな…!』

 

 重傷を負っているバーコフであるが、鎮痛剤を投与して激痛を抑え、自分の機体を降りてまだ動けるキリコのスコープドックに近付いた。

 キリコも彼の要望に応じ、ハッチを開けて近付いてくる彼の目を見て、おそらく最後になる言葉を聞く。

 

「ちょっとその気になっちまったからバタバタしたが…兵士になった時に、命なんて捨てたような物だったぜ…!」

 

 軍に入隊した当初の気持ちをキリコに告げた後、彼が降りた機体へ乗り込み、死守するために、まだ残弾があるヘビィマシンガンを左手に持って脱出艇がある部屋のハッチを閉めた。

 脱出艇の確保に入ったシュンとザキであるが、機械系が苦手なシュンは、どうにも分からない。

 

「応急処置しろ、操作は俺がやった方が早い」

 

「済まねぇ。つっ…!」

 

 そんなシュンを見かねてか、キリコが変わって装置の操作に入る。

 

「大丈夫かよ、小隊長? 脇腹に破片がぶっ刺さってんぞ」

 

「これくらい平気だ。それより確保したか?」

 

「一台確保した。四人は乗れそうだ」

 

 ザキに負傷したことを指摘される中、シュンは無事だと答える。

 そんなシュンがキリコに問えば、確保したと答え、その言葉通りに脱出艇の一台が乗り場に現れる。それと同時に、ハッチの外でバーコフが押し寄せて来た敵と交戦している発砲音が聞こえて来る。

 

「分隊長!」

 

「よせ、ザキ!」

 

「離せ! 俺も戦う!!」

 

 自分等の為にここに戻ったバーコフに申し訳ないと思い、ザキはそこへ行こうとするが、キリコに止められる。

 キリコはバーコフと共に死ににいこうとするザキの腹を強打して気絶させる。ザキを気絶させたキリコに、シュンは応急処置しながら問い詰める。

 

「なんで気絶させた?」

 

「バーコフの思いを無駄にしないためだ。運べるか?」

 

「あぁ」

 

 残って戦うバーコフの思いを無駄にしないためと答えれば、シュンは納得して気絶したザキを抱え、脱出艇へと乗り込んだ。

 先に脱出艇へと乗り込み、ザキをシートに寝かせたシュンに対し、爆発音が聞こえたバーコフが居る方向に向けて敬礼してからキリコは乗って来た。

 脱出艇を作動させる前に、キリコは先に乗り込んだ大男に向けて名前を問う。

 

「そう言えば、小隊長。名前は何だ?」

 

「名前か…バートル、いや、本名の方が良いな。瀬戸シュンだ」

 

 名を問われたシュンは、正直に自分の本名を答えた。

 

「そうか、瀬戸シュンか。済まないが、脱出艇の空気は薄い。寝て貰えるか?」

 

「あぁ、いいとも」

 

「何処かの星に着くまで寝ていてくれ」

 

 自分を守るために未来と異世界からやって来た男の名前が分かった所で、キリコはシュンの腹を強打して気絶させた。

 二人の男を気絶させたところで、キリコは脱出艇を作動させ、爆発し始める惑星モナドより脱出した。

 

 

 

「ここは…?」

 

「目が覚めたか? 近くの惑星に不時着した。まもなく、救援が駆け付けるだろう」

 

 目を覚ましたシュンは、キリコに何所に着いたのかを問う。

 これにシュンは頭を抱え、周りを見渡せば、自分の腹に拳銃を向けて何発も撃ち込み、息絶えているザキの姿を目撃する。

 

「小僧はどうした?」

 

「自殺した。自分を操っていた者の始末を俺に頼んでな。ザキの為に、俺はそいつと決着を付けねばならない」

 

「そうか…」

 

 ザキの死因を問えば、キリコは自分を操って居る者の始末を頼んでから自害したと答える。

 涙しながら息絶えたザキの亡骸を見て、シュンは亡骸が手に持っている拳銃を離し、遺体を脱出艇の外へ持っていき、地面にキリコと共に穴を掘って遺体を埋めた。

 同時にそこへ墓を建てる。先に散ったコチャック、次にゴダン、自分等を脱出させるために死んだバーコフ等を含めて。

 

「シュン、これからどうする? 俺は軍に戻る。それとザキを操り、俺を殺そうとする何者かの正体を探る」

 

 墓を見ているキリコは自分のこれから行うことを言ってから、シュンにどうするのかを問う。

 

「今に戻って奴らと戦う。まぁ、あんたが覚えているかどうか分からねぇが…」

 

「覚えておこう。最後まで人間らしかった彼らと共に…」

 

 この問いにシュンは、元の時代に戻ってネオ・ムガルと戦い続けると答えた。

 元の世界に戻れば、キリコは自分の事を覚えてはいないだろうが、彼は共に戦ったバーコフ分隊の面々と共に忘れないことを誓ってから、信号弾を撃ち、何処かへと去って行った。

 これから始まる自分の物語の為に…。

 

「クールな奴だぜ」

 

 去って行くキリコの背中を見て、シュンはコアから出したラム酒の酒瓶を持ちながら呟けば、先に散ったバーコフ分隊の面々に向けて献杯した。




次回からは女性が登場するので、お楽しみに。つか、登場するかどうか分からないけど。

イメージEDは炎のさだめ2009です。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm13371795

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