復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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気が付けば、もうあと一か月か…

大分前に投稿したハードコア風味の短編を、やや変えて入れ込みました。


ポロンスキー戦闘団

 屋上で敵に見付からぬように建物周辺を見張る中、この建物に接近して来る車両の一団を、シュンは双眼鏡で目撃した。

 車両の車種はバンであり、おそらく二個小隊分の人数が来ているだろう。そんなシュンの元へ、WWⅡのイギリス軍の野戦服を着たマリエが来る。

 

「どうしたの?」

 

「敵だ、バンが十台くらい。二個小隊だ」

 

 状況を問うマリエに対し、シュンは敵が来たと伝え、双眼鏡を渡す。

 

「あの数を私たちだけで相手にするのは無理だわ。逃げる準備をしなくちゃ…」

 

 流石に二個小隊の相手は無理だと判断してか、マリエは逃げることを提案したが、シュンは車の速度から間に合わないと答える。

 

「いや、間に合わないな。だが、突破することは出来る」

 

 そう言ってシュンは、コアから狙撃銃であるSVDとL96A1狙撃銃を出して、どちらが良いかマリエに問う。

 

「どっちで狙撃する? 好きなのを選んでくれ」

 

「えっと、そのイングランド製のを…」

 

「こいつか。良かったぜ、俺は東側ので」

 

 マリエはイギリスのボルトアクションの狙撃銃であるL96A1を選んだので、シュンはSVDを持って敵の到着を屋上から待った。

 最初の三両が建物前に止まれば、そこからヘルメットを被り、マガジンベストを纏った如何にもプロな傭兵たちがAK系統の突撃銃を手に降りて来る。

 彼らはまだシュンとマリエの存在に気付いておらず、何の警戒もせずに入って来た。

 シュンはこの隙を逃さず、指示を出している傭兵の頭を撃ち抜いた。

 

『敵襲だ!』

 

 流石は傭兵と言う事か、指示を出している傭兵を撃ち抜いても、周りの傭兵たちは迅速に遮蔽物へと避難しようとした。

 そんな傭兵らに対し、マリエは容赦なく銃弾を浴びせ、幾人かを殺していく。

 一人の脚を撃ち抜き、それを仲間が救出しようと向かう中、シュンはその仲間を撃ち抜いた。

 非情な行動に見えた為、マリエはシュンに正気を問う。

 

「シュン君…?」

 

「敵は減らして置け。あいつ等を生かした所で、また俺たちを殺しに来るぞ」

 

 狙撃兵になったことは無いマリエであるが、歴戦練磨のシュンの表情からして、彼の言う通りに殺しに来るかもしれないと思い、敵が反撃に出るまで地上の敵を狙撃し続ける。

 数名ほどを撃ち殺した所で位置を掴まれ、無数の銃弾が飛んできた。さらに纏めて吹き飛ばそうと、RPG-7を持った傭兵が出て来る。

 その紛争地帯で良く見られる対戦車火器を見付けたシュンは、直ぐに射手を狙撃して排除した。マリエに肩を叩き、この場を離れると無言で告げる。

 これに従ってマリエもシュンの後に続いて屋上から離れ、壁の近くに立て掛けてある短機関銃を取り、安全装置を外す。

 下の階に降り、シュンが壁に掛けてあった室内戦で有効なAKS-74突撃銃のカービンモデルAKS-74uを手に取ってマリエの方を振り向き、準備は出来ているかどうかを問う。

 

『罠に注意しろ!』

 

「準備は出来てるか?」

 

「もちろんよ。退役大尉さん」

 

 この間に仕掛けた罠に掛かり、敵兵の悲鳴が聞こえて来る。

 マリエが初弾を薬室に装填して答えれば、シュンはウェンチェスターM1912散弾銃を持って先行する。

 段差を二回ほど飛び降り、階段近くまで来れば、この階に上がって来ようとする敵兵の足音が聞こえて来た。

 現れた二名の敵兵等を見れば、直ぐに銃弾の雨を浴びせて先行して来た二名を殺害した。

 

「まだ居る!」

 

 この言葉に従い、シュンは手榴弾の安全ピンを外し、レバーまで外せば、少し合間を縫ってから投げ込み、敵が退避する前に爆発させた。

 悲鳴が聞こえ、壁に血が飛び散り、裂かれた足が飛んでくる。

 粉塵も起こり、辺りが見え辛くなる中、二人は進んで三階へと出た。

 短機関銃を持って居るマリエが先行しようとすれば、敵は待ち伏せていたのか、直ぐに弾が飛んできた。即座にマリエは下がって頭のベレー帽が吹き飛ばされた程度で済む。下がった際に、マリエは階段からがって来る敵に気付いたのか、シュンに知らせた。

 

「敵!」

 

 彼女の知らせに従い、背後より来た二名の敵兵に向けて散弾銃を浴びせた。

 数十発の拳銃弾と散弾を浴びた二名の敵兵は一瞬にしてハチの巣となり、先行した仲間の後を追う。

 それが済めば、マリエは弾を撃ちながら向こう側へ進み、短機関銃の再装填を行った。

 

「援護するから、敵の背後へ回って!」

 

「了解した!」

 

 銃の再装填を終えたマリエは、敵の背後へ回る様に指示を出した。

 この指示に従い、シュンはマリエの援護を受けつつ、敵の背後へ回るために外へ通じる部屋へと入る。

 鉄板で防いだ窓から敵兵が入り込もうとしていたが、シュンは散弾を撃ち込んで排除し、窓を出て残り二名の敵兵に散弾を浴びせて排除する。

 弾切れとなった散弾銃を捨て、銃紐で肩に掛けてあるAKS-74uを取り、右側のコッキングレバーを引いて初弾を薬室に送り込み、安全装置を外せば、走りながらマリエに向けて銃撃を続けていた三名の背後へ回り込み、全員を走りながら撃ち殺した。

 何も考えずに乱射した所為か、弾切れとなったので、直ぐに捨てる。それからハンドサインで敵が居なくなったと合図を送れば、マリエは下の階へと降りる。

 彼女に続くために、シュンは近くのリフトに飛び乗り、下の階の梁に飛び移って、周囲警戒しながら進む敵兵等の頭上まで向かう。

 敵兵等が自分の真下まで来れば、ナイフを抜いてロシア製のポンプアクション式散弾銃を持っている先頭の敵兵の喉を突き刺して殺害し、一人を殺害して、続け様に二名を奪った散弾銃で殺害した。

 

「このゴリラ!」

 

 近くに居た敵兵は、AKM突撃銃を撃とうとしたが、シュンは銃身を掴んで引っ張り、敵兵が引っ張られた勢いでバランスを崩した所で、突撃銃の弾倉を抜き取り、それを敵兵の頭へ叩き込む。

 頭に弾倉を叩き込まれた相手は脳震盪を起こすが、シュンは空かさずナイフを喉に突き刺し、敵を無力化した。

 三名の敵兵を殺せば、直ぐに散弾銃を手に取り、マリエが居る階へと増援として上がろうとする分隊程の集団に向けて弾切れになるまで撃ち込む。

 流石に一人くらいしか殺せず、そのまま倍返しの反撃を受けた。シュンは手榴弾を一つほど投げ返そうとしたが、下の階へ続く階段から声が聞こえた。

 

「マリエじゃないな」

 

 確実に男の声だったので、シュンは直ぐに投げ込めば、爆発で吹き飛んだ敵兵の死体が見えた。

 

「来てるな!」

 

 先ほどの手榴弾で全滅したとは限らないので、シュンはAKMを拾い上げ、敵兵より奪った弾倉を装填すれば、そこへ飛び降り、周囲に居る敵兵に手当たり次第に銃弾を撃ち込む。

 一人、また一人と、続けて四名の敵を撃ち殺し、柱に隠れた敵兵に全て撃ち込んで殺害した。

 敵から回収した弾倉で再装填を行う前に、一人の敵兵が出て来たが、この階に来ていたマリエが撃ち殺してくれたので、直ぐにシュンはハンドサインで礼を言う。

 それから空の弾倉を満タンの弾倉で弾き、突撃銃の再装填を行えば、マリエが階段を上がった一人を蹴飛ばした。

 その瞬間にシュンは、蹴飛ばされた敵兵に向けて三発の銃弾を撃ち込んで射殺する。

 一階へ降りれば、何名かの敵兵が居たが、不思議と二人の感覚は冴えており、敵兵は次々と二人に射殺され、最後の上階に居た一人がマリエに撃ち殺され、一階へと落ちて来れば、突入して来た敵兵は全滅したと思った。

 

「そこに!」

 

 マリエは柱に隠れた敵兵の存在を見抜き、シュンに知らせれば、彼は彼女が指差した柱に隠れる敵兵に向けて突撃銃を連発で撃ち込み、隠れていた敵兵を撃ち殺した。

 

「よし、終わりだな」

 

「えぇ、終わりね」

 

 そう思っていた二人であり、この場から立ち去ろうとしたが、突入して来た敵は二個小隊分の人数だった。先ほど突入して来たのは恐らく一個小隊。まだ一個小隊が残っており、シュンとマリエの背後にその残った正体が現れる。

 

「動くな! 武器を捨てて両手を挙げ、こっちを向けぃ!」

 

 攻撃部隊の隊長である人物が、二人に武器を捨て両手を挙げて背後へ振り向くように告げる。

 シュンが何かをワザと足元に落として後ろに振り向けば、一個小隊分の人数と、隊長である男が二人に向けて持っている銃を向けていた。下手に動けば、確実にハチの巣になること間違いなしだ。

 振り返った先にいる隊長の外見は、ロシア系であった。背丈はシュンよりも5cmは劣るが、戦歴は彼以上にありそうだ。

 そんな男は、マリエの身体を舐め回すように見た後、下衆な笑みを浮かべ、更に自分等のスポンサーであるネオ・ムガルの賞金首であるシュンも居るので、かなりの報酬になると大いに喜ぶ。

 

「お前がスポンサーの言っていた賞金首だな? まさかこんな所に出会えるとは。もう一人はワルキューレの将校か。良い身体つきで、しかも美人だ。じっくりと全員で楽しんでから奴隷市場に売ろう。ワルキューレの女兵士共は生きているイブ人の半額だが、死体でも高く売れる」

 

「なんだ、戦争屋じゃ無く、卑劣な人攫いで強姦魔のクズ集団か」

 

「なんだと…? まぁ良い。生かしても、殺しても、金は貰えるからな」

 

 この下賎な傭兵集団の隊長である男に対し、挑発を掛けたシュンであるが、その安い長髪には乗らず、自分が持って居るAK-103突撃銃の安全装置を外し、引き金に指を掛けた。

 他の者達も銃を撃とうと引き金に指を掛けたが、シュンは足元に落ちてある物を踏んだ。

 

「どうやら死にたいみたいだな!」

 

「さぁ、どっちやら」

 

 シュンが落ちている物を踏んだので、直ぐに傭兵の隊長は銃を撃とうとしたが、その落ちている物はここに仕掛けられた爆弾の発動装置であった。どうやらあの武器商人がここを爆破するために仕掛けていたようだ。

 天井に仕掛けられた爆弾が爆発すれば、傭兵たちの視線が一斉に上に向いた。この隙に乗じてシュンはマリエの腕を掴んで建物の外まで走る。

 爆発の影響で天井が崩落し、瓦礫で傭兵たちは下敷きとなる。

 

「あの爆発は?」

 

「あれか。ここの家主が仕掛けていたもんだ」

 

 何とか全力疾走で逃げ切れば、マリエに先の爆発はここを根城にしていた武器商人が仕掛けた物であると答えれば、傭兵たちが乗って来たバンに近付いた。

 車を調べて罠がない事を確認すれば、死体を退けて運転席に座る。それから車の鍵を見付け、それを入れ込んでエンジンを掛け、マリエに助手席に座るように告げた。

 

「乗れ!」

 

 彼女が指示に従って助手席に座り、ドアを閉めれば、アクセルを踏んでこの建物の一帯から離れた。

 

「何所へ行けば良いか分からねぇな」

 

「それなら、こっちに。ここに味方の部隊が…」

 

 何所へ向かうか分からなかったので、シュンがマリエに問えば、彼女はマップケースから地図を取り出し、自分の属する連隊とは違う別の歩兵連隊、と、言っても保安師団傘下の連隊がいる場所に指差し、そこに向かうように指示を出した。

 それに従い、シュンは現在地をマリエに確認して貰った後、ワルキューレの別の保安連隊の本部がある方向へとハンドルを切る。

 車道に入り、放置車の多い道路を走る中、マリエはシュンに自分を送った後、どうするのかを問う。

 

「シュン君、私を送った後…どうするの? あいつと戦うの?」

 

「戦うに決まってるだろ。奴はリガンの側近で、餓鬼どもを殺した奴らの一人だ。必ず殺さなくちゃならねぇ…!」

 

 あのバビルスとも戦うのかと、運転するシュンに続け様に問えば、彼は戦うと答えた。

 バビルスは自分が引き取って大切に育てていた子供たちを、リガンと共に殺した一人だ。

 どちらにせよ、シュンは復讐のためにネオ・ムガルを皆殺しにするつもりである。答えるシュンの表情と目付きで、マリエは直ぐにバビルスが彼の孤児院の子供たちを殺した人物の一人で、復讐へと駆り立てた原因だと分かった。

 

「その顔からして、私が何を言っても…聞かないよね…? 良いわ。でも、死なないでね」

 

「当たり前だ。連中の大将のリガンを殺すまで死ねるか」

 

 止められそうにないと判断したマリエは、せめて死なないようにと不安な声色で言えば、シュンはリガンを殺して復讐を成し遂げるまでは死なないと答え、ハンドルを切ってカーブを曲がった。

 連隊本部まで半分と言った所で、先の傭兵部隊のマークを付けたバンと遭遇した。他に機関銃を付けたテクニカルが二台も随伴している。

 このバンに発信機にでも付けられていたのか、どうやら場所は筒抜けのようだ。

 

「敵よ!」

 

 直ぐにマリエはM1A1トンプソンの安全装置を外し、窓から身を曝け出して、後方から機関銃を撃ちながら近付いてくるテクニカルの運転席に向けて何発も撃ち込む。

 テクニカルは防弾仕様のガラスでは無いのか、何発の大口径拳銃弾が容易く貫通し、乗っている運転手は死亡して、バランスを失ったテクニカルは横転する。

 一両目を破壊したマリエだが、まだバンとテクニカル一台が残って居る。油断ならない状況だ。

 

「こいつを使え!」

 

 そんなマリエに、シュンはコルトC8カービンを渡す。

 コルトC8カービンは、カナダ製M4カービンだ。英連邦の首長国であるイギリス軍の特殊部隊が採用している。ワルキューレでもM4カービンの代わりに採用されており、マリエも扱ったことのある銃だ。

 直ぐにそれを手に取って安全装置を外し、今度は後部に移って追って来るバンやテクニカルのタイヤに向けて撃ち込む。

 流石は特殊部隊御用達のカービンライフルなのか、命中率は高く、単発での数発の射撃でバンとテクニカルのタイヤを撃ち抜き、スリップさせて横転させた。

 これで追手は無いと思ったが、増援のバン二台が追撃を続行して来る。

 

「たくっ、保安師団ならこの辺の治安を維持しろ!」

 

 追跡しながら銃撃を食らわしてくる二台のバンに、シュンは待ち伏せに適した市街地の路地裏へと回り込み、そこで車を止めて降りた。

 

「いっちょ吹っ飛ばしてやるか。タイミングを合わせてくれ」

 

「分かったわ」

 

 それから爆弾の起爆装置をマリエに渡し、それでバンが来れば自爆させるように指示を出す。

 これにマリエが応じれば、シュンは爆弾を投げてから、耳を塞いで口を開ける。

 バンの走行音が聞こえ、爆弾の上を通過しようとしたところで起爆装置のボタンを押せば、バンは吹き飛び、火を噴きながら壁に激突する。乗っている人間の悲鳴が聞こえたが、あれほどの火災ではもう持たないだろう。

 後続のバンが来たが、シュンがいつの間にか出していた使い捨てのロケット砲であるRPG-18を、後続のバンに向けて発射して撃破した。

 これで敵は片付き、後は保安師団傘下の連隊本部へと向かうだけだ。

 

「さぁ、行くか」

 

「えぇ」

 

 ロケット弾の発射器を捨てて先に向かうシュンが言えば、マリエはそれに従って共にバンに向かった。

 目的の連隊本部があるのは、廃墟では無いれっきとした都市であり、そこにこの鹵獲したバンで向かえば、事情を知らない保安師団の将兵に撃たれる可能性が高い。その為、検問が見える場所でバンを放棄し、そこから街に入ることにした。

 

 

 

「検問だわ。でも…誰も居ない…?」

 

「どうなってんだ?」

 

 検問が見えたので、脇に入ろうとしたシュンであったが、検問には誰も立っていなかった。

 何かの待ち伏せかもしれないので、シュンは当初の予定通りにバンを茂みの方に止め、そこからマリエと共に徒歩で検問の確認へと向かう。

 途中、道路の上に多数の空薬莢が転がっており、その全てがライフル弾だ。敵がまだ近くに居る可能性が高い。

 警戒しながら進めば、保安員の遺体が見えた。誰もが銃で撃たれているので、あの傭兵部隊の襲撃を受けたようだ。

 

「誰が襲撃を…?」

 

「あっと言う間だったろう。少しは抵抗したようだが、皆殺しにされたようだ」

 

 マリエが遺体の目を閉じさせながら口を開けば、シュンはワルキューレの保安員が発砲した弾の少なさからして、奇襲を受けたと判断する。

 抵抗はしたが、カールグスタフm/45のような古い短機関銃ではどうしようもなく、皆殺しにされたようだ。

 急所に弾が当たっている所から、あの傭兵部隊の仕業と思えるので、シュンはマリエに警戒するように告げる。

 

「警戒しろ。こいつはプロの仕業だ」

 

「なんでこんな場所まで…? 第329歩兵師団が包囲している筈で、ここは安全地帯なのに…」

 

「おそらく、包囲網を突破したんだろう。治安維持の保安部隊じゃ、傭兵部隊に襲われたら一溜りもねぇ」

 

 どうして傭兵部隊が保安部隊に襲い掛かったのかを疑問に思うマリエに対し、シュンは包囲下を突破して襲撃したと答え、周囲を警戒しながら街へと入る。

 街は既に人っ子一人どころか、死体だけしかなかった。死体の大半は、この街をテロリスト類から守っていた保安師団の保安員だ。残りは民間人と、銃撃戦で倒れた傭兵である。

 

「一体どこの傭兵部隊だ? 調べるから見張ってくれ」

 

 シュンは死んでいる傭兵が何所の所属か気になったのか、マリエに周囲を警戒するように言ってから、傭兵の死体を調べ始める。

 衣服の中から部隊章を剥ぎ取れば、その部隊章を知っていそうな掃討作戦に参加しているマリエに渡し、これが何所の傭兵部隊なのかを問う。

 

「この部隊章、何所の所属か分かるか?」

 

「これは…ポロンスキー戦闘団ね。リーダーはその名の通りポロンスキー、ネストル・ポロンスキー退役中佐。前はうちの対同盟戦線の傭兵軍の一つとして参加してたけど、所属していた第五傭兵師団が壊滅したらこの部隊だけ逃げたわ。まさか、武装商人や武器商人に雇われてたのが、この傭兵部隊だったなんて…」

 

「ポロンスキー戦闘団ね…兵隊の動きからして、脱走兵や軍隊経験者だな。だが、連中は別の雇用主に雇われているようだ」

 

 敵の正体は、ポロンスキー戦闘団と言う傭兵集団であると分かったが、シュンは自分が殺して来た武器商人や武装商人が雇用主では無く、ネオ・ムガルであると判断する。

 事実、バビルスが自分の目の前に姿を現し、再生兵士を差し向けて来たので、確実に裏にネオ・ムガルが居ることは確実だろう。

 

「別の雇用主?」

 

「あいつだ。バビルスが居ただろう。あいつが居れば…ここに居た保安連隊は全滅だな。気を付けろ、何所からか化け物が出て来てもおかしくないぞ」

 

 マリエが別の雇用主について問えば、名前は言わずとも、シュンはバビルスの引き合いに出し、ネオ・ムガルが雇用主であると答えた。

 バビルスが居れば、おそらく再生兵士も出て来るので、シュンは警戒するように言ってから、AKS-74突撃銃をコアから出して構え、周囲を警戒しながら連隊本部がある方向へ進む。マリエも先ほどシュンに貰ったC8カービンを握りながら、シュンの後へと続く。

 

「保安員はちゃんと仕事を果たしたようだ」

 

「私たちがもう少し早ければ…」

 

「過ぎたことだ。仕方がねぇ。忘れろ」

 

 時折シュンは、周囲に倒れている民間人の少なさを見て、圧倒的な火力と装備を持つ傭兵部隊から民間人を守るために奮闘した保安員たちに敬意を表した。

 マリエは自分等が早ければ、予備として控えている部隊に連絡して、襲撃に備えられたと言ったが、シュンに忘れるように言われる。

 市街地なので、狙撃手が何所からともなく自分等を狙っていると思っていたが、不思議と狙ってこず、しかも街のパトロールを行う人員も居なかった。罠はあったが、シュンはこの手の罠の対策は自分も散々やってきたことなので直ぐに見付け、荒っぽい方法で解除しながら進んだ。

 そんなシュンは「既に居ないのでは?」と思ったが、連隊本部があるビルへと近付けば、その考えは否定される。

 何故なら、自分等の到着をポロンスキー戦闘団が総出で待ち受けていたからだ。

 

「やれやれ、ドッキリにしては豪勢過ぎるな」

 

「たった一人にこの数を…!?」

 

 自分等を待っていたポロンスキー戦闘団は、ほぼ全ての装備を動員していた。

 所有している全てのT-72主力戦車四両に加え、ロシアの戦闘ヘリであるMi-24のV型が三機、ASであるサページが九機、ATのスコープドックが二十機、MSのドム・トローペンとリーオーにジン、ヘリオン陸戦型がそれぞれ四機ずつ、ゾイドのコマンドウルフとレッドホーンがそれぞれ三機ずつと揃っていて、更に一個大隊ほどの歩兵が居る。

 もはや、たった二人に投入する戦力では無い。過剰投入とも言うべき物だ。

 そんな戦力を投入し、自らもMi-28戦闘ヘリに乗って出ているポロンスキーに、何故これほどの戦力を投入するのかを問う。

 

「おい! 観兵式に来たんじゃねぇぞ! どういう集まりだ!?」

 

 ヘリのローター音で全く聞こえないので、シュンは大声で問い詰める。相手は集音性が高いマイクでも持って居るのか、この質問に律儀にスピーカーで答えた。

 

『お前が一個機甲大隊に相当する戦闘力を持って居るからだ! 連邦軍や同盟軍なら一個師団相当だな! 我が戦闘団の総力を持ってお前を殺す! お前を殺せば、損害を容易く回復できるほどの金額どころか、一個師団を編成できる位の金額を出してくれるからな!!』

 

「そうか。くだらねぇな!」

 

 どうやら自分を殺し、その報酬で損害の補填も含め、傭兵団の拡大を狙っているようだ。

 だが、わざわざ殺されてやるほどシュンは甘くはない。直ぐに自分を殺すために全戦力を投入して来たポロンスキーを挑発する。

 無論、シュンよりも場数を踏んで来た傭兵団の隊長はその手の挑発には乗らず、鼻で笑って受け流す。

 

『ふん、減らず口を。まぁ良い、どうせこれ程の過剰なまでの火力を受ければ、塵一つ残さずに消える。好きに喚くがいいさ。三分やろう、その間に無様に頭でも下げて許してくれと懇願するんだな!』

 

「(ちっ、連邦やら同盟のアホならどうこうなるんだが、そいつ等とは違って逃げ場がねぇ。俺が出来ることは、マリエを無事に逃がすことだけだ。クソッタレめ)」

 

 過剰とも言える戦力を投入しているので、ポロンスキーは勝利を確信しきっており、油断してシュンに三分の有余を与えた。

 一方のシュンも、バリアジャケットを纏って、自分が敵の注意を引き付け、マリエだけを逃がすしか思い付かない。その場合、復讐を果たす前に死ぬことになるが、世話になった女を守れるなら本望だろう。

 他の方法も考えたが、敵は確実に勝利をもぎ取る為、自分がバリアジャケットを身に纏う前に相手は恐らく一斉射を浴びせて来る。

 マリエに何か打開策は無いかと聞こうとしたが、目前の一個戦闘団以上の戦力を見て、絶望しきっていて、シュンと同じく何も思い浮かばない様子だ。

 

『さぁ、時間は無いぞ! あと三十秒だ! 二十九、二十八! さぁ、慌てろ、慌てろ!』

 

 この状況をどう切り抜けるかを苦悩するシュンに対し、ポロンスキーは拡声器で残り時間を告げて嘲笑う。

 もうマリエをここから逃がす他ない。その選択しか思い付かなかったシュンは、彼女の両肩を掴み、自分の覚悟を伝えようとした。

 

「マリエ、お前にまた会えてよかった…」

 

「えっ、シュン君…? 一体どういう…まさか…!?」

 

『時間だ! さぁ、どうする!?』

 

 マリエは表情を見てシュンの考えを見抜いた。止めようとしたが、シュンは彼女を突き飛ばし、傭兵部隊からの一斉射を好みに受けるつもりだ。

 それと同時にポロンスキーが与えた三分の有余が過ぎており、答えを聞いて来た。

 拡声器で喧しく問うてくるポロンスキーに対し、シュンはマリエを安全な場所まで突き飛ばす準備をした。

 

「どうするって? それは…」

 

 シュンが答えてマリエを突き飛ばそうとした瞬間、何所からともなく銃声が聞こえ、答えが中断させられた。

 その銃声はポロンスキーも予想していなかったらしく、それも自分の配下の誰かが撃ったと勘違いして、拡声器でまだ発砲命令は出てないと叫ぶ。

 

『誰だ!? まだ発砲許可は出て…なんだ!?』

 

 言い終える前に、サページが突然爆発した。

 

『な、何故サページが!? 対戦車ミサイルの反応は何所にもないぞ!』

 

 突然、ASのサページが爆発したので、集結していたポロンスキー戦闘団は混乱した。機動兵器の有効打である対戦車ミサイルの反応がレーダーに無いので、尚の事に混乱する。

 流石のシュンも銃弾一つで機動兵器であるASを破壊できる者など、聞いたことが無く、マリエと共に茫然としていた。

 能力者か超人なら出来る芸当であろうが、彼らが銃と言う物を使わずとも素手か能力で破壊できる。

 そんな芸当を披露した彼に続き、動き易い鎧を身に纏った二振りの剣を収めた二つの鞘を背負う白髪で髭面の男が、シュンやマリエの背後から現れ、左側の剣を抜いてシュンに戦闘準備が出来ているのかを問うた。

 この白髪で髭面の二振りの剣を背負った男をシュンは知っている。

 モンスタースレイヤーで知られるウィッチャーの一人で、過去の英霊を守るために共に戦ったヴェセミルの弟子の一人、リヴィアのゲラルトだ。

 

「取り込み中の所、失礼するが、戦う準備は出来ているか?」

 

「あぁ、あぁ出来てる…」

 

「誰…?」

 

 ゲラルトの問いに、シュンはマリエの肩から慌てて手を離し、バリアジャケットを纏って待機状態の大剣を元の大きさに戻してから出来ていると答えた。

 一方でマリエは、ゲラルトの事を知らないらしく、シュンに誰なのかを問う。これにシュンは、ゲラルトが自己紹介を始める前に答えた。

 

「俺はリヴィアの…」

 

「リヴィアのゲラルト、ウィッチャーだ。俺よりも強い剣士だ」

 

「その大男の言う通りだ。詳しい話は、目の前のごろつき共を皆殺しにしてからしようか」

 

 シュンが代わりに紹介すれば、ゲラルトは目前に見えるポロンスキー戦闘団の全戦力を見てから詳しい事を離すと言って、大剣を持った大男と共に大軍勢に立ち向かった。




ゲラルトさんとカール大先生が参戦しました。

次回はナチス絶対殺すマンや、洋ゲー最強勢も参加予定です。楽しみにしてください。

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