マリエを見付けることに成功したシュンは、直ぐに彼女の周りに居る敵兵等を排除すべく、目にも止まらぬ速さで次々と大剣で斬り捨てて行く。
敵の反応も幾度も戦闘を経験しているおかげで早かったが、バリアジャケットを身に付けているシュンには通常の銃弾は効かず、バラバラの物言わぬ肉塊へと変えられる。
マリエの近くに居る集団も一瞬のうちに惨殺死体へ変えれば、シュンは負傷した味方を抱えたまま固まっている彼女に、伏せるように告げる。
「伏せろ!」
久しぶりに聞いた男の声で我に戻ったマリエは、彼女を庇うように身を屈め、ただシュンが周囲に居る傭兵や連邦と同盟の脱走兵たちを全て殺し尽すのを待った。
遠くに居る敵兵に対してシュンが取った対応は、コアより出したMAC10短機関銃であり、それを適当に乱射し、数人の敵兵を射殺する。
流石に残った傭兵の一人に遮蔽物まで逃げられたが、シュンは逃すことなく、弾切れとなった短機関銃は捨て、大剣を持って遮蔽物まで飛んだ。
そこに待ち構えていた傭兵が突撃銃の銃身に銃剣を着け、それで突き刺そうとして来たが、シュンはそれを避けて銃身を掴み、大剣の刃を振り下ろして肉塊へと変えた。
それから大剣の刃を地面に突き刺し、周囲に敵影が居ないかAKS-74突撃銃の銃口を周囲に向けながら索敵を行った。
「クリア。もう顔を上げて良いぞ。マリエ」
「シュン君…生きてたの? てっきり、死んだと思っていたばかり…」
「あぁ、何とかな…どっちも積もる話があるようだが、この際は…」
「それよりもこの子! 死に掛けてるの! 手を貸してくれない!? 止血するわ!」
周囲に敵が居ないことを確認すれば、シュンはマリエに顔を上げても良いと告げた。
意外な人物に助けられたマリエは動揺していたが、出血多量で苦しんでいる味方の兵士の事を思い出し、彼女の治療に手を貸してくれないかとシュンに乞う。
どの傷の具合なのかを、シュンは女兵士の銃創の辺りを見ていたが、既に彼女は息絶えていた。それでも必死に彼女を救おうとするマリエを止めようと、もう死んでいることを伝える。
「残念だが、マリエ。その女はもう死んでいる…」
「そんな! 出血を抑えれば…」
「いや、もう駄目だ…俺は何度もその手の死を見て来た。冷たくなってるのを感じないか?」
「…確かに冷たい…この子の名前、まだ聞いてないけど、多分、新人の子だわ…ここの担当は、新兵の多い中隊が担当してたから…」
マリエは彼女の死を否定していたが、頬に触れてもう息絶えているのを確認した後、死んだことを認めて両目の瞼を閉じさせ、ゆっくりと降ろして死亡した彼女は新兵であるとシュンに告げた。
「可哀そうだが、それが戦争だ」
両瞼を閉じ、まるで眠っているかのように女兵士の亡骸を見ながら、シュンは人が死ぬのが日常茶飯事な戦争だから仕方がないと告げ、彼女の亡骸にコアより取り出した爆薬を、服の中に仕掛ける。
目に付くような物に仕掛ける
当然、この死者を冒涜するような行為を平然と行うシュンに、マリエは非難した。
「ちょっと! 何てことしてるの!?」
「何って、罠を仕掛けているのさ。最高の罠だ。数人はやれるぜ」
「だからって、女の子の死体に…!」
そんな彼女に対し、シュンは反論する。
「なんだ? 死んでるこの嬢ちゃんを獣共に犯させるつもりか? 全員を埋葬している暇はない。せめてもの情けだ、死姦される前に吹き飛ばす。可哀想だが、今の俺たちにやれる埋葬法はそれしかない」
「…」
非情なようだが、シュンの言う事は尤もだ。埋められる場所を探し、全員を埋葬している時間は二人には無い。
そんなことをしていては、銃声を聞き付けた敵がやって来て、また戦闘になるのが関の山だ。
ショックを受けているマリエに対し、シュンは心情を察してか、自分が全て仕掛けると告げる。
「あぁ、悪かった。こんなひでぇことは、あんたみたいな優しい人はしなくて良い。俺が全部やる。とにかく、周囲を警戒していてくれ」
「分かった…」
「済まないな。酷い物を見せて」
マリエに先ほどの事を謝罪しつつ、シュンは周囲の見張りを頼んでから、敵の目に付くような物に爆弾を仕掛けた。
「よし、これで良い」
「終わったの?」
「あぁ、とにかく目に付くような物に仕掛けておいた。さぁ、行こうか」
「えぇ…」
敵味方の死体に、ブービートラップを仕掛け終えた後、シュンはマリエに終わったと告げ、彼女と共にこの場を離れた。
それからバリアジャケットを解き、大剣を背中に背負ったままAKS-74突撃銃を持った。
シュンの服装が変わったことにマリエは驚き、一体どこでデバイスを手に入れたのかを問い質す。
「シュン君それ、バリアジャケットだったの!? 魔法が使えないのにどうして?」
「あぁ、これか? これは…何というか、黒目野郎から貰った」
「黒目野郎…?」
「後で話そう。とにかく、こっから出ないと」
「えぇ、そうね。安全な場所があるの。案内するわ」
デバイスの事を問われたシュンは、アウトサイダーの事を黒目野郎と表して答えれば、どんな人物なのかをマリエは問い始めた。
これも話すと長いので、後で話すと答えれば、マリエは理解して、安全な場所があると言って、先行して街を出るルートを進んだ。
「そいつは頼もしい。もう魔力が切れ掛けてたんだ。助かる」
探すためにデバイスの魔力を使い果たしたシュンもこれに賛成し、マリエの後へ続いた。
周囲を警戒しつつ、地上と空のパトロールをやり過ごしながら街へと出るルートを進む中、街の出入り口を固める検問が見えた。
「検問が…」
「俺に任せろ」
検問を見て少し動揺するマリエだが、シュンはコアから消音器付きのコルト・ガバメント自動拳銃とナイフを取り出し、落ちている石を拾い上げ、目に付く方へと投げ込んだ。
「何の音だ?」
「お前、見てこい!」
石が落ちた方向へ向け、一斉に敵兵の視線がそこへ向いた為、シュンはその隙を狙って背後へ回り、手近な敵兵の背後へ回り、首をナイフで掻き斬れば、無駄のない動きで目に付けた敵兵を全て早撃ちで射殺した。
一人生き残っていたが、シュンは逃すことなく左手に握られているナイフを投げて全滅させる。
「良いぞ。来い」
検問の敵を全滅させた後、シュンは銃の再装填を行い、マリエを呼んで先に街へと出た。
おそらく外にも敵のパトロールは居るので、二人は周囲を警戒しつつ、マリエが知っている安全な場所へと向かう。
数分以上、警戒しながら森林に入れば、もう敵の気配は無かったので、シュンとマリエは警戒を解除し、再会するまで何をしていたのかを話し始める。
「敵の警戒範囲外だな。さて、ここで思い出話と行くか」
「えぇ、シュン君の方が長そうだし。シュン君からお願い」
「あぁ、結構長いな」
誰が先にここまでの経緯を話すかとなった時、マリエが先に話してくれるように頼んだので、シュンは先に自分のここまでの経緯を話した。
最初はネオ・ムガルの首領、リガンに敗れ、ネオ・ムガルの実験体となっていたところを謎の情報屋、ガイドルフ・マッカサーと共に現れた屈強な英霊たちに助けられた。ここで得物であるスレイブを手に入れる。
それからネオ・ムガルの薬物に支配された街に転移し、次は第二次世界大戦時のモスクワ攻防戦、串刺し公が支配する惑星ワラキア、マリが探しているルリが居た銃にまみれた世界と、様々な世界を渡り歩いてきたことを語った。
「とにかく、色んな世界へ行った。過去の世界も二つばかり行ったよ」
次に今の英雄である高町なのはを救えと、自分を助けたアウトサイダーに命じられ、あのデバイスを与えられて過去の世界へ赴き、五人の英霊と共に高町なのは暗殺を企むネオ・ムガルの計画を阻止した。
一度、現在に戻って惑星型の要塞であるスターキラーでマリとの戦いに敗れたことも明かす。
その敗北後、更に力を蓄えるため、アウトサイダーの力を借りて能力探しを再開し、ワルキューレが戦術歩行戦闘機、通称、戦術機を手に入れた過去の世界へ向かい、新たな力を手にした。そこでもネオ・ムガルが暗躍していたので、ついで代わりにその計画を聞きつけてやって来た英霊たちと共に阻止した。
計画を阻止した後、アウトサイダーよりなのはと同じく今の英雄であるマスターチーフをネオ・ムガルの刺客から守るため、またも過去の世界、惑星リーチの元へ向かった。
ここで同僚とも言うべきギルアズやソウスキーと行動を共にし、見事にネオ・ムガルの間の手から今を守ることが出来た。
続けて過去の世界、それも第二次世界大戦で最大の市街戦であるスターリングラードの事も話した。
全て話すのに二十分も掛かったが、余りにも常識を逸脱した物ばかりだったので、マリエは理解に苦む。
「そ、そんなことが…」
「さぁ、そっちの番だ。また誰かと寝てたのか?」
「私の番ね。シュン君ほど冒険したわけじゃないけど…」
次はマリエの番だ。シュンが冗談を交えながら問えば、彼女はこの世界に来るまでの経緯を語り始める。
ネオ・ムガルの攻撃を受け、実家を破壊された挙句、身内全員を殺害され、遺産を相続した後、その遺産全て戦災孤児を支援する団体に寄付し、ワルキューレに再入隊した。
除隊当時は陸軍中尉だったが、兵員の増加と共にそれを指揮する士官の増強も検討していたワルキューレ陸軍は、マリエを直ぐに同じ中尉として復員させ、現代の戦法に馴染ませるために再訓練を受けさせた。
再訓練の間、幾人かの男女と身体を交わしていたが、シュンに比べて満足する物では無く、同性も同じだった。
それを終えれば、五十人編成の小隊の小隊長として再び前線へ戻り、対連邦戦線の戦場に三回ほど出兵した。
三度目の戦いであるサジタリウス戦で、自分が属していた中隊の中隊長が負傷して病院へと送られたからだ。それに功績も中々の物だったので、大尉に昇進し、代わりの中隊長となり、現代に至る。
「結構、忙しかったんだな。復員後の再訓練で戦場を三度も…」
「前は戦死する可能性が高いからって、殆ど激しくない戦闘地域の配置だったけど、今は前線部隊よ」
「このまま行くと、少佐に昇進しそうだな…」
マリエの話を聞いていたシュンは、除隊当時の階級を追い抜かれそうだと心配した。
「まぁ、佐官に昇進するのはそんなに簡単じゃないから…それより、シュン君を負かした女の人…」
「マリエ、敵だ…!」
次の話題へ移ろうとしたマリエであったが、シュンは周囲から伝わる尋常でない程の殺気を感じ、警戒態勢に入った。
犬にも分かるような殺気を放つその正体は、直ぐに二人の目の前に現れる。シュンを打倒したリガンと共にいた悪魔のような男だ。
いつぶりの再会であろうか、遂にネオ・ムガルの幹部とされる男と会い見えた。
「てめぇかよ…!」
「ほぅ…てっきり、何処かで死んでいると思っていたが、まさか生きてたとな。それにあの時より断然に強くなっている…! 守る者も新しくなったか…! 粒し甲斐があるよのぅ…!」
「シュン君…?」
「下がれ。こいつはヤバい…!」
悪魔のような男と再会したシュンは、不安がるマリエを下がらせ、大剣の柄に手を伸ばした。
大剣も新しくなり、更に強くなったシュンを見た悪魔のような男は、感心して自分の名を名乗り始める。
「得物も新しくしたようだな。俺はバビルス、かつては平和と弱き人々のためにこの身を犠牲にする志で戦っていたが、奴らは俺を悪魔だと罵って恩を仇で返した。理由は俺が怖くなったからそうだ。だから俺は奴らを嬲り殺し、その復讐を果たした」
「でっ、それから?」
名乗った後に自分の過去を聞いても居ないのに語り始めたので、シュンはその相手の慢心を利用して魔力を回復させるため、続きを聞いた。
そんなシュンに応えてか、バビルスと名乗った悪漢は話を続ける。
「不老と言う身体であったがため、快楽に身を任せた所為で私の世界の住民を絶滅させてしまった。一生、そこで人類を絶滅させた罰を受けて生きて行くと思ったが、あの御方が現れた。リガン様だ。私はかつての栄華を取り戻そうと、各世界で破壊と殺戮を行うネオ・ムガルの首領、リガン様に惚れ込み、その軍門に加わった。おかげで毎日が爽快だわ。かつて俺が、平和とやらと言う便所のクソにも匹敵するやらの為に殺して来た魔人や悪魔の気持ちが良く分かる。弱き者達を蹂躙する快感を…!」
話を聞いて分かったことは、バビルスは絶望の余り、自分が守っていた人類を絶滅させると言う神をも恐れぬ所業を行った悪魔に身を落とした勇者であると。
その罰で世界に一人ぼっちであったが、最悪なことにそこにネオ・ムガルが現れ、一戦交えた際、リガンに強さを認められて今に至る様子だ。
シュンは不完全な状態で、人類を絶滅させる男と、戦わねばならないのだ。
「良く分かったよ。あんたがクズにまで身を落としたことがな」
「俺をそこまでに落ちぶれさせたのは、奴らだ。いざ俺が苦労して脅威を消し去ってやれば、今度は俺に恐怖し、迫害を始めた。何人かは俺の事を救世主と受け入れたが、大多数の人間に寄って嬲り殺された。最初は怒りから来た殺戮であったが、徐々に快楽へと変わった。どうやら俺は悪魔であったようだ」
人類を絶滅させたことを咎められたバビルスは、自分を裏切った人類の所為であると言った。
確かに身を挺して戦ったのに、それに報いることなく、恩人の迫害を始めた人類に怒りを覚えたバビルスにシュンは同情を覚えたが、その後に彼が明かした本性で気が変わる。
「なんだ、根っこからの殺人狂だったか…安心したぜ、これで心置きなく殺せる」
「そう思って結構。俺を理解してくれるのは、強者のみが支配する世界を実現するために闘争を続けるリガン様のみ。最初から理解など求めておらんわ」
殺しても罪悪感が無い男で良かったと安堵するシュンに対し、バビルスは自分を理解して貰いたいとは思わないと告げる。
マリエを庇うように大剣を構えるシュンだが、バビルスは相手が完全な状態じゃないと気付いているのか、攻撃してこなかった。直ぐにシュンは攻撃してこない理由を問う。
「どうした、俺たちをやるなら今だぞ?」
「ふん、不完全な貴様と戦う気など無いわ。俺が満足する相手は完全な状態の相手! だが、それは別の話だ。なおさら見過ごしてくれるとでも思ったか? 格下共の餌となるが良い」
「ちっ、そこまで馬鹿じゃねぇのか! 俺の背中に着け! 何所から来るか分からんぞ!」
戦わない理由はシュンが不完全な状態だと見抜いての事だが、ここで後の脅威となる男を逃すほど、バビルスは馬鹿な男では無い。
バビルスは自分が連れて来た‟何か‟をシュンとマリエに差し向け、自分だけは何処かに姿を消す。
何が襲って来るか分からないので、シュンとマリエは直ぐに戦闘態勢を取り、不気味な笑い声を上げながら自分等の周囲を回る刺客たちに警戒した。
『キアァァァ!!』
「っ!」
物の数秒後で、バビルスが差し向けた刺客が姿を現す。シュンの利き手では無い左から襲って来たが、馬鹿の一つ覚えに叫んで両手のカギ爪を突き刺そうとして来たので、シュンは直ぐに反応して大剣の刃を叩き付けた。
奇声を上げて仕掛けて来た刺客は惨殺され、無残な死体を二人に晒した。その刺客の外見は、異形とも言える物であった。
「こ、これ…!」
「死体でも改造したか、クソッタレ!」
その姿を見たマリエが動揺する中、シュンは死体に気を取られている間に、背後より襲って来る刺客に気付き、即座にナイフを投げ付けた。
投げられたナイフは額に突き刺さり、地面に倒れる。シュンが惨殺した所為で元の姿は確認できなかったが、自分たちを襲って来る敵の正体は正確に分かった。
ネオ・ムガルが死体を魔術関連や化学関連の両方の技術で戦闘用に改造し、復活させた再生兵士だ。
継ぎ接ぎの部分が身体のあちらこちらに見え、筋力が異常に発達しており、それらのパワーを増大させるために、動力源である装置が背中に埋め込まれている。
「警戒しろ! 次が来るぞ!!」
再生兵士は二体だけではなく、何十体も影から襲って来る。相手を威嚇するかの如く、奇声を発しながら。
背後より出て来る再生兵士らを短機関銃や大剣で排除しつつ、マリエが言う安全地帯まで目指す。
道中に倒した数は十体を越えたが、バビルスは一個小隊規模を投入してきているのか、続々と不気味な奇声を発しながら出て来る。
「っ! 銃声が!?」
「鉄砲まで仕込んでやがるのか!」
再生兵士は基本的なカギ爪タイプだけでなく、銃を装備したタイプも居るようだ。
銃弾がマリエの頬を掠めれば、直ぐにシュンはコアよりPKM軽機関銃を取り出し、左手に持って片手で掃射して一掃する。
幾体も倒しながら進んでいれば、目的地である安全地帯に近い場所にある開けた場所に辿り着いた。
そこに十二体もの再生兵士が待ち受けていたが、シュンが前に飛び出し、手にしている大剣で次々と斬殺していく。
「いやぁ!」
最後の一体をマリエがステンMkⅤの木製ストックで顔面を強打し、地面に倒れたところで、腹を踏み付けて動かないようにすれば、頭部に銃弾を撃ち込んで完全に息の根を止める。 これで投入された再生兵士は全滅した。
「これで全滅したな。予備戦力を警戒…」
「居ないようだわ。さぁ、また来ないうちに行きましょう」
「あぁ、そうするか」
まだ敵が来ないかを警戒したが、マリエが周囲を見て敵は居ないと判断したので、シュンは彼女と共に安全地帯へ向かう。
この時、マリエはシュンの左腕にカギ爪に斬られ、出血しているのを見逃さなかった。
「シュン君、左腕が」
「これか。なんでもない。だが、毒とか塗り込んでねぇだろうな…」
マリエに言われたシュンは出血する傷口を抑えつつ、コアより取り出した解毒剤を傷口に塗って一応ながらの治療を施した。
それから止血剤を撒き、包帯を巻いて止血した後、目的地を目指す。
「ここが目的地よ」
「随分と殺風景な場所だな」
森林を歩くこと数分、ようやく安全地帯である目的地に着くことが出来た。
それはコンクリート製の四階建ての建物であり、倉庫として使われていたようだが、今は放置されていたようだ。
マリエ曰く、街の制圧を終えれば、掃討戦に移行してここを作戦司令部にする予定であったそうだが、思わぬ反撃で制圧は失敗したので、ワルキューレの歩兵連隊は来ないだろう。
そうとなれば、ワルキューレと揉め事を起こし、賞金首として狙われているシュンにとっては都合がいいので、早速、屋内へと入ろうとした。
だが、建物前に止められた車を見て、マリエが入るのを止めさせる。
「ちょっと待って。誰か入ってる」
「俺も鈍ったな。どれどれ、どんなクソッタレか見てやろう」
車は四輪で一般的な乗用車だ。おそらく二人ほどの武装した人間が乗っていたのだろう。
エンジンが止まっている様子から、既にあの建物内に入ったようだ。顔を確かめてやろうと思い、シュンは45口径の大型自動拳銃を出して屋内に入る。
暫く辺りを警戒しながら進めば、外の乗用車に乗っていた者と思われるAK系統の突撃銃で武装した二人の男が、女性を囲んで強姦しようと企んでいた。
無論、放っておくほど酷い二人では無い。直ぐにシュンは女性の衣服を引き千切り、下着姿となっている女性を襲おうとする男の胸倉を掴み、顔面を殴り付ける。
「なんだお前らは!? 俺たちに逆らおうってのか!?」
殴られて柱にもたれ掛かった男は、右手に握られている突撃銃を撃とうとしたが、シュンは男の顔面を掴んで柱に打ち付け、相手の股間に向けてナイフを突き刺す。
男の弱点である股間をナイフで抉られた男は絶叫したが、シュンは情け容赦なくトンファーを絶叫して大きく開いた口の中に突っ込み、窒息死させて殺害した。
「うっ、うわぁぁぁ!!」
相方が恐ろしいやり方で殺されたのを見て、もう一人の男は銃も撃たずに外へ逃げようとしたが、マリエに射殺される。
「あぁ…」
「東にワルキューレの陣地があるわ。そこに行って保護してもらいなさい」
わずかな時間で自分を強姦しようとしていた二人の男を殺害したシュンとマリエに、女性は茫然としていたが、マリエが言った言葉に従い、この場から逃走する。
邪魔者が消えたところで、二人は建物内をくまなく調べ尽し、敵が居ないと判断すれば、ベッドがあった二階の寝室に入り、そこで腰を下ろして一息つく。
マリエは装備を外し、上着まで脱いで銃弾が掠めた箇所の止血を行っていた。シュンもまたコアより出した医療キットで傷の応急処置を行い、それが終わればいつでも敵の襲撃に対応できるように、銃の整備を行う。
その銃の殆どが東側であり、西側は拳銃と散弾銃だけと言う始末で、珍しく思ったマリエは、自分の銃を整備しつつシュンにそんなにあって大丈夫なのかを聞いた。
「シュン君、そんなに銃を持ってて大丈夫なの?」
「あぁ、これくらいないとな。一応、整備が簡単な東側だけでかためてる。狙って撃てば当たる高性能な銃は、俺には割に合わないんでな」
「そうなんだ。シュン君はAKなんかが好きなんだ」
「そうだとも。AKは信頼できる。それとマリエ。お前、そんな銃じゃ突撃銃とか持ってる連中と戦うのは厳しいぞ。こいつをやろう。使えるだろう」
マリエからの問いに、シュンはこれくらい武器が無いと困ると答え、東側の銃が一番信用できると答えた。
そんな感心するマリエに、シュンはいささか性能が低いステン・ガンを使う彼女を心配してか、M1A1トンプソン短機関銃をコアから出して渡した。
「これ、他の中隊長が使ってる…」
「残念ながら、マフィアのドラムマガジンじゃないがな。まぁ、それでも鉄パイプみたいなマシンガンよりは使える」
「へぇ…」
その銃を渡されたマリエは、別の中隊長が持っていたことを思い出す。
トンプソン機関銃と言えば、ドラムマガジンがセオリーであるが、生憎とシュンの手元には軍用モデルである箱型弾倉のM1A1しか無かった。
ステン・ガンよりは使えると力説するシュンに、マリエはポーチに残っている短機関銃の弾倉を捨てながら感心しつつ、代わりに渡された六個の弾倉を受け取り、ポーチに仕舞う。
無用となったステン・ガンを捨て、アメリカ製の軍用短機関銃を持ち変える。
水も通っていて更にシャワー室もあったので、シュンはマリエに配慮してか、水を浴びるように告げる。
「戦闘で汗だらけだろう。シャワーでも浴びたらどうだ? 俺はその間に、周囲に罠を仕掛ける」
「シュン君の方が臭そうだけど…ここは貴方のお言葉に甘えて浴びさせてもらうわ。本当は一緒に…」
「ん、なんか言ったか?」
「なんでも…」
その配慮に甘え、マリエは先にシャワーを浴びに行くことにして、シュンと一緒に入りたいと小声で言ったが、当の本人には聞こえていなかった。
一方でそのシュンは、コアより出したSマインやクレイモアと言った対人地雷を建物のありとあらゆる入り口に仕掛け、喉を潤すためにスキットルに入っているウォッカを飲んだ。
酒を一杯飲みつつシュンは、電気や水も通っているこのコンクリート製の建物の事が気になる。誰が料金を払っているのだろうか?
「なんで水も電気も通ってんだ? 維持費は誰が払ってるか気になるな」
いつ敵が来るか分からないが、そんなどうでも良い事が来なる。
探している暇はないので、怪しげな地下の方を探ってみると、そこには多数の壁に掛けられた武器があった。
「俺が殺した武器商人のセーフハウスっぽいな」
壁に掛けられた様々な銃と武器を見て、シュンは数時間前に殺した武器商人の物と判断する。ここは彼のセーフハウスで、先の電気と水が通っていることに合点が行く。
もっとも、シュンがその主を殺したので、今は自分達で好き勝手に使わせて貰っているが。
目に付いて気に入った武器をコアの中に入れつつ、奥まで行けば、一番この中で強そうな武器を発見した。
「これは…」
シュンが見付けた物は、持ち運びが出来るサイズまで縮小されたレーザー砲であった。直ぐに手に取って重さを測る。
持てるようになったと言っても、その重量は対物武器のように重く、大柄な男ではないと持てない代物であるが、シュンは身長190㎝の大男なので、問題なく持ち運びが出来るだろう。
「説明書とか無いのか?」
近くに説明書が無いか探してみれば、隣にあったので、それを手に取って、置かれている的に向けてレーザーを撃ってみる。
発射口より放たれたレーザーは的に命中し、数cmほどの穴を開けた。命中率はレーザーだけであって、かなり高い。
「もっと出力を上げてみるか」
小出力だったので、シュンは思い切って出力を最大限にして発射すれば、壁に穴が開いた。
反動が来たが、シュンの握力ならそれを抑えられた。レーザーが当たった部分は、物の見事に抉られている。
「こいつは強力過ぎる…」
かなり強力な武器だが、強力過ぎるので、それをコアに仕舞ってマリエが居る場所まで戻る。
「そろそろ上がっている頃だが、まだ入ってるのか?」
二階に戻ったシュンだが、マリエは未だにシャワーを浴びていた。
「おい、まだ入って…!?」
少し長過ぎると思って、シャワー室の前に立ち、早く出るように戸を叩こうとした瞬間に戸が開き、マリエに右腕を掴まれてシャワー室へと引きずり込まれた。
直ぐに腕を振り払い、何を理由にこんなことをするのかを裸のマリエに問うたが、彼女の唇に防がれてしまう。更にマリエは舌まで入れて来る。熱心な熱いキスだ。
「おいおい、大胆にも程があるぞ」
「だって、言いそびれたから…」
互いの唇を離した後、シュンは最初から行ってくれと言えば、マリエは赤面しながら言いそびれたからしたと答える。
「待てよ。俺は服を着ていれば、まだ汗も流してちゃいない。それらを終えれば…いつでも…」
「そうなの…じゃあ」
シュンがまだ服を着ていて汗も流してないと言えば、マリエは彼のズボンとパンツだけを脱がし、露わとなった男根を撫でるように触りながら一緒に浴びないかと誘う。
「一緒に浴びよ」
「あぁ、一緒に浴びるよ」
このマリエの誘いをシュンは断ることなく、上着を脱ぎ、彼女が脱がしたパンツとズボンを更衣室へと投げ込めば、彼女を壁に押し付け、男の妄想を全て叶えたかのような妖艶な笑みを浮かべる美女の唇を、自分の唇で塞ぎ、再び熱いキスを交わした。
「はぁ、はぁ…久しぶりに気持ち良かった…」
「あれからの後も、色んな女とやってきたが、お前が一番だよ」
数時間ほど経って、シュンとマリエの姿は寝室のベッドの方にあった。
二人とも身体が汗ばんでおり、息を切らしている。かなり激しい行為であったようで、ベッドのシーツが汗や体液を吸って濡れていた。一日掛けて良く洗わないと、臭いや汚れは落ちないだろう。
自分の裸体をシーツで隠すマリエに、シュンは十分に満足したと答え、乱雑に置いてあるタオルを取って汗を拭き取る。
再び身体を交合わせるまで、幾人かの女性と
当の彼女も女性も含め、数十人もの性交渉をしていたようだが、シュン程に自分を肉体的にも精神的にも満足するほどでは無かった。
「そうなの。私も十人かな? 女の子も含めてしたけど、貴方ほど満足できなかったわ」
「やれやれ困ったな。ほれ、出来たら危ない。飲んどけ」
タオルで汗と体液を噴き終えた後、彼女に避妊薬を投げ渡す。二人は避妊具を着けず、そのまま性交渉に及んだようだ。
受け取った避妊薬を見て、マリエは呑むかどうか迷っていたが、シュンが無言で飲むように視線で伝えて来たので、仕方なく呑み込んだ。
「本当に出来ちまうぞ。生で十回はやったからな。ほれ」
呑まないと見抜いたシュンは、近くに置いてある水を口に含み、ベッドの上に居るマリエの口を塞いで口移しで水を飲まし、避妊薬を飲ませた。
完全に呑み込んだのを確認すれば、シュンは唇から口を離して、左手で零れ出た水と唾液を口で拭う。
「もう…」
「俺の子を産むのはちょっとな…」
マリエはシュンの事を束縛したかったようだが、避妊薬を飲まされて、その思惑は阻止された。
彼女に呑ませた避妊薬は未来の、それも連邦軍の物であり、男女兼用だ。ワラキアで連邦兵の死体や兵器の残骸からくすねた。
かくいうシュンも復讐を終えるまで、否、マリエと共に暮らすつもりは毛頭ないので、外したコアから出した動き易い未来の野戦服を着て、いつでも戦闘できるように準備する。
戦闘準備を行うシュンを見ながら、マリエもベッドを出て、身体に着いた汗や体液を洗い流すためにシャワー室へと向かう。
「さて、敵さんが来ないか見張るか」
彼女がシャワーを浴びている間、シュンは屋上に上がって見張りを行った。