復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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ごめん、ここまでが序章だった(汗)


城からの脱出

 リーダー達の襲撃で重傷を負ったシュンは、近くにある城へと運ばれた。

 治療のために全身を包帯で巻いていたが、傷口を完全に防ぎ切れていないのか、白い包帯は血で赤くなっている。

 

「また出血してます!」

 

「この実験体は貴重な存在なんだ! 直ぐに治療室へ運んでオペの準備をしろ!!」

 

「はいドクター!」

 

 科学者は良い実験体であるシュンを死なせたくないためであるのか、彼の190㎝の巨体を担架に載せ、治療室があるとされる場所まで運ぶ。その時にシュンは少しばかり目覚めたが、口も体も動かせぬ状態であった。

 

「(いってぇ…ここは…? クソっ、何する気だ…? 実験体にするために生かすつもりだな、これ)」

 

 自分を治療室へと運ぶ白衣を着た男達を見たシュンは、自分が実験体として生かしていることを判断する。脱出しようにも首も体も動かせず、ぼやけた視界だけを動かせるだけであった。

 物の数秒で治療室へと到着し、直ぐに治療台へ移される。

 

「麻酔を投与しろ。まだ意識がある」

 

「はいドクター」

 

 まだ目が動いているのを見逃さなかった医師は、助手に麻酔を投与するよう指示を出した。それに応じて助手は麻酔が満載された注射器を取り出し、針をアルコールで消毒してからシュンの左腕に射し込み、容器の中にある麻酔を彼の体に投与する。麻酔を投与された際に、シュンは強い睡魔を感じ、目の前に映るライトが更にぼやけ、眠りの世界へと引きずり込まれ始める。

 

「(麻酔か…これが、夢だと良いな…)」

 

 先程のリーダー達との戦いが夢であることを願い、シュンは夢の世界へと身を任せた。

 

 

 

「クッ…みんな生きてるか…?」

 

 凄まじい砲撃の後、一人目覚めたシュンは部下たちに無事かどうかを問う。

 誰も返答してくれず、周囲には砲撃の衝撃で出来たクレーターと、原形を留めていない死体が多数転がっている。MSと呼ばれる18m台の機械の巨人の残骸も多数転がっていた。まるで自分だけをこの世界に残して皆死んでしまったような感覚だ。

 

「っ!?」

 

 その光景に呆然としていたシュンは、自分の身体に人間の内臓が纏わり付いていることに気付き、驚いてそれを振り払う。

 

「おい…誰か返事してくれよ…!」

 

 喪失感を感じ、周囲を見渡して誰か生きているかどうかを問うが、聞こえてくるのは風の音だけである。

 腕や肩に幾つもの砲弾の破片が突き刺さっていたが、今のシュンには痛覚を感じることより今まで同じ釜の飯を食い、共に戦ってきた戦友たちの方が優先であった。

 重い体を動かして何とか立ち上がり、まだ撃てるSCAR‐L突撃銃も忘れずに拾い上げ、まだ息のある戦友達を探し始める。

 

「た、助けて…くれ…」

 

 良く耳を澄ませてまだ生きている戦友達を探す中、砲撃で破壊されて黒煙を上げるMSの残骸の近くで、脱出したと思われる敵のパイロットの助けを求める声が耳に入った。敵のパイロットは脱出した際に負傷したらしく、腹に破片が刺さっている。直ぐに衛生兵の元へ連れていけば助かるかと思うが、ここに居る衛生兵は砲撃で粉々になったか、頭に破片が突き刺さった死体しかない。

 自分の戦友達を遊び半分で殺した敵のパイロットをシュンが許せるはずもなく、今持っている銃の安全装置が掛かっているかどうかを確認した後、その男の元へ向かう。近付いてくる敵兵に気付いたパイロットは死の恐怖に怯え、命乞いを始める。

 

「や、やめろ…やめてくれ…!」

 

 痛みに耐えながら必死で命乞いをするパイロットであったが、シュンは無抵抗な敵兵に対して何の躊躇いもなく銃口を向け、引き金を引いた。乾いた音が周囲に響き渡り、発射された7.62×51mmNATO弾がパイロットの眉間を撃ち抜く。眉間を撃ち抜かれたパイロットは、糸が切れたような人形のように大地に倒れ、動かなくなる。

 撃ち殺したパイロットをそのままにし、シュンはまだ生きている戦友達の捜索を再開する。衛生兵の遺体から医療品を回収するのも忘れずにすれば、良く耳を澄ませながら捜索を続行した。

 

「うっ…あぁ…」

 

「生きてたか!」

 

 根気よく探し続ける中、ようやく生きている戦友の声を聴くことができた。直ぐに声のした方向へ向かい、生きている戦友を確かめる。見付けた戦友は自分の指揮下の部下でもない兵士であったが、シュンに取ってはどうでも良いことだった。

 その兵士は両目が砲撃で潰れており、腹に幾つかの破片が突き刺さっている。直ぐに衛生兵か医者の元へ連れて行かないと視力を失ってしまう。それに大量出血している。

 

「おい、大丈夫か!」

 

「そ、その声は…B中隊の…」

 

「しっかりしろ! 直ぐに味方の陣地へ運んでやる!」

 

 出血している個所に止血剤を捲いてから強引に包帯を巻き、彼の身体を拾い上げて味方の陣地まで向かう。シュンも出血しているが、そのことを気にすることなく味方の陣地まで足を動かす。

 息を切らしながら歩いて数時間、味方の陣地が見える距離まで来た。

 

「もうすぐ味方の陣地だ…助かるぞ…!」

 

 背負っている兵士に呼び掛けたが、返事はなかった。気を失っているだけだと思って味方の陣地まで向かい、助けを呼ぶ。その前に歩哨から銃口を向けられ、何者かを問われる。

 

「止まれぇ! 誰か!?」

 

「第二レンジャー大隊のB中隊中隊長だ! 違い中隊の兵士だが負傷している! 直ぐに治療を願いたい!!」

 

 余りにも戦闘服がボロボロのため、信用されなかったが、下士官が来たところで信用され、それから担架を持った衛生兵達が駆け寄ってきた。

 担架に先程の兵士を寝かせ、女性衛生兵がまだ息があるかどうかを脈に指を添えて確認する。

 

「おい、助かるのか?」

 

 他の衛生兵から治療を受けているシュンは、自分がここまで運んできた兵士の無事を聞いたが、女性衛生兵は首を横に振った。

 

「死んでます…」

 

「なに…? どういうことだ…?」

 

「ですから、既にもう…」

 

 自分を治療している衛生兵を振り解き、女性衛生兵の胸倉を掴む。

 

「もう一度診断しろ! まだ生きてるってこともあんだろうが!」

 

「だって、もう…この傷じゃもう助かりませんって…」

 

「うるせぇ! もう一度やれぇ!!」

 

 折角見つけた戦友を助けられなかった怒りで我を忘れ、強く揺さぶって再度診断するよう脅迫するシュンであったが、歩哨が持つAK103突撃銃の銃床で殴られた。

 

「て、てめぇ…」

 

 薄れゆく意識の中で、自分を殴った歩哨に礼を言う女性衛生兵の姿をシュンは捉えていた。

 

「気絶させました」

 

「助かったわ。こう言うの多いから…」

 

 女性衛生兵が礼を言うところまで聞こえれば、シュンの意識はそこで潰えた。

 

 

 

「クソッ、またあの夢か…」

 

 悪夢から目覚めたシュンは頭を抱えながら体を起こした。

 彼が見ていた悪夢は、ワルキューレを除隊する理由となった過去の戦歴だ。

 あの戦いの後、シュンはワルキューレに除隊申請を出し、それが受理されれば、直ぐにワルキューレを去った。除隊後に出された金で小さな孤児院を開き、そこの院長となる。だが今となっては、財産も、孤児院も、子供たちも全て失い、ただモルモットにされる番を待つだけだ。

 

「おい、こっち向けよ」

 

 何もすることがないため、シュンは近くにいる看守に声を掛けた。看守は何も答えず、ただアダルト雑誌のページを数秒ごとに捲るだけである。もう一度声を掛けようとすると、看守は腰のホルスターから拳銃をチラつかせ、シュンを黙らせる。

 これに挑発を掛けるのは危険と判断したシュンは、大人しくベッドへ戻り、天井の染みを数えてチャンスを待つことにする。

 

「(そう言えば、俺は何日眠ってたんだ?)」

 

 染みを数個ほど数えたところで、シュンはどれくらい眠っていたのか気になった。

 直ぐに自分を見張っている看守に自分がどれだけ眠っているのかを問い掛ける。

 

「なぁ、俺ぁどんだけ眠ってたんだ?」

 

 気軽に問い掛けてみたが、看守は何も答えず、ただ雑誌のページを捲るだけだ。少々苛立って何か投げ込んでやろうかと思ったシュンであったが、拳銃で撃たれてお陀仏になるので、ここは怒りを抑えておく。

 再び染みを数えようと天井を見上げると、通気口の鉄格子に人影らしきものが見えた。これに少し驚いたが、看守のことに根に持っていたシュンは敢えて見て見ぬ振りをし、人影が何所へ向かうのか考えた。その直後、何か物音が鳴って看守が立ち上がり、腰のホルスターに手を添える。

 

「誰だ?」

 

 雑誌を横に置き、看守は物音がした方向へ向かう。

 それから数秒後、抑え込まれた銃声が鳴り響き、看守は糸が切れた人形のように床の上に倒れた。額には銃創の痕があり、そこから血が流れ出ている。頭部を撃たれているので即死だろう。死に顔からして、驚きの表情を浮かべる前に撃たれたようだ。

 この看守を殺した正体は、直ぐにもシュンの目の前に現れた。180㎝程の金髪の浅黒い肌を持つ男であり、ガッチリとした体格だ。手には看守を殺した消音器付き自動拳銃が握られている。

 今度は自分の出番だと思ったシュンであったが、男は看守の死体から牢屋の鍵の束を抜き取り、鍵穴に差し込んで牢の鍵を開けた。

 

「出ろ、お前さんには死なれては困る」

 

「あ、あぁ…」

 

 死なれては困る。

 その言葉が気になったシュンだが、ここでモルモットにされる出番を待つよりはマシなので、大人しく男の指示に従って屈んで牢を出た。

 落ちている看守の拳銃を拾い上げ、それをズボンに無理やり突っ込み、男の後へ続いた。

 通路を警戒しながら進む中、シュンは先陣を務める男に自分がどれくらい眠っていたのかを問い掛ける。

 

「なぁ、俺はどれくらい眠ってたか分かるか?」

 

 その問いに対し男は何も誤魔化すこともなく素直に答えた。

 

「三ヵ月ってところか…お前さんはそんくらい寝てた」

 

「そうかよ…そんなに…おっと!」

 

 男から出された答えに、シュンはそれくらい長く眠っていることが分かれば、こちらに向けて自動小銃の銃口を向ける敵兵に気付き、そこへ数発ほど撃ち込んだ。軽い音が通路内に響き渡り、撃たれた箇所である胸を押さえながら敵兵は倒れる。防弾チョッキを身に着けていたようだ。敵兵が起き上がる前に、シュンはとどめを刺しに行く。

 とどめを刺すのに使うのは、偶然にも近くにある消防斧だ。ケースを素手で壊して消防斧を手に取れば、痛みに耐えながら立ち上がろうとする兵士であったが、シュンが持つ斧に両断された。大量の血が噴き出し、シュンの身体に返り血が飛び散る。それを左手で拭うシュンの元へ駆け寄った男は、血を吹き出し続ける敵兵の亡骸を見て顔をしかめる。

 

「随分とエグイ殺し方をするな」

 

「あぁ、連中には今後こういう死に方をしてもらう。連中は“俺の全て”を奪った」

 

 何故このような殺し方をするのか問われたのに対し、シュンは憎しみのためにと答えれば、男はその真意を問い掛ける。

 

「お前自身の復讐、殺されたお前が預かっていた子供ら弔いのためか?」

 

「あんた、なんでそこまで知ってんだ? まぁあんたが誰であれ、俺にこのチャンスをくれたんだからどうでも良い。俺は連中を一人残らず殺すつもりだ、一人残らずな。もちろん、弔いも含めてだ」

 

 真意を答えれば、男は復讐が終わった後のことを問う。

 

「でっ、復讐が終わればどうする気だ? 戦場に戻るか、それともまた孤児院を開くのか?」

 

 続けて質問を投げ出してくる男に、シュンは不快感を覚える。

 

「質問の多い奴だな。答えは…前者だ。戦場に戻る、孤児院をまた開いて、また同じような事が起こったら洒落にならねぇ。だから…」

 

「戦場で死に場所を求めるってことか。逆に死ななくなりそうだ、神様はそういう奴には意地悪だからな」

 

「おい、てめぇ。さっきからなんだ? 散々問い掛けてきて先に言うとか。それからてめぇは何者だ? 助けてくれたのは良いけどよ」

 

 しつこく質問を投げ出してきた挙句、自分が言おうとしたことを先に言った男に腹を立てたシュンは、相手の首筋に斧の刃先を向けて名前を問い掛ける。

 これに男は臆することもなく、先程の非礼を詫びて自分の名を口にする。

 

「おっと、こいつは失礼した。俺は、ガイドルフ、ガイドルフ・マカッサーだ。本業は情報屋だ、よろしく頼む」

 

 刃先を首筋に突き付けられながらも握手を求めて来たため、少しシュンは驚いたが、斧を下げて差し出された手を掴む。それから何故自分を助けたのかを問う。

 

「なんで俺なんか助けたんだ? あんたには何の得も無いみたいだが…」

 

「いやあるさ、お前は選ばれた…って俺は思っている。俺の勘になっちまうが」

 

「選ばれた? それに勘って…確証はねぇのかよ」

 

 自分が“選ばれし者”だと勘で告げたガイドルフに対し、シュンは些か目の前にいる男を本当に信用できるかどうか怪しむ。ここで信用を失っては元も子もないガイドルフは、何故シュンを選んだ理由を述べた。

 

「お前を選んだ理由は、リガンの一撃で生き延びたからだ。いっちょ賭けに出てみることにした」

 

「リガン?」

 

「あぁ、そう言えばお前はまだ知らないんだな。敵の大将のことを」

 

 いきなり初めて自分の全てを奪った男の名を口にしたガイドルフに、シュンは首を傾げた。

 そんなシュンに対してガイドルフは彼が知らないところで起こっている出来事や、敵の事を簡単に纏めて語り始める。

 

「取り敢えずだ、お前が知らないところで起こっていることや敵の事を話そう。まずは、ここ以外の世界、つまり異世界のことだ。今は統合連邦と惑星同盟のワルキューレに匹敵するほどの二大勢力が次元戦争をおっぱじめて他の世界に迷惑を掛けまくっている。そのワルキューレも目下連邦と同盟と戦争中だ。更には過去に悪行を犯してくたばったはずの悪党ども蘇って各異世界で暴れまわっている。今俺たちが戦っている連中もその悪党共の一部だ。それに対し次元の平衡を保とうとする連中は英雄たちを蘇らせて対応してる。地獄の窯みたいでカオスな状況だ」

 

「おいおい、えらい状況じゃねぇか…」

 

「俺が見た感じでは、えらいって所じゃねぇがな。次は俺たちが今戦っている悪党共の事だ」

 

 話を聞いていたシュンは、自分が思ったことを口にすれば、経験したことのあるガイドルフは、それを遥かに凌駕するカオスな状況だったと付け加える。次に自分たちが戦っている敵の正体について語り始めた。

 

「俺たちが戦っているのは、ネオ・ムガルって言う古代帝国の復活を目論む連中だ。大将は俺がさっき言ったリガンって奴だ。通常の軍隊では太刀打ちできない常識を覆すほどの能力者中心の勢力で、かつての領土より更に広げようと異世界を侵略している。連邦と同盟のようにな。それと、その能力者って言うのは、お前さんが三カ月前に戦った連中のことだ。そいつ等だけでなく他にももっと居る、蘇った悪党共も含めてな。ネオ・ムガルについては、余裕がある時に説明してやる。簡単に言えば、弱肉強食を主義に掲げた悪の軍団って事だが」

 

 ガイドルフが語った敵の正体、ネオ・ムガルにシュンは戦慄を覚えた。自分が三カ月前に戦った能力者達が、もっと他にも居たことにだ。そんな連中に本当に勝てるかどうか分からない。

 そんなシュンの心情を察したガイドルフは、ある助言を掛ける。

 

「怖気付いたか? 怖くなって先程のデカい口を撤回したくなったか? そんなお前に助言しよう。“人間を辞める”ことだ」

 

「人間を辞める…!?」

 

「そうだ、やめちまうのさ。奴らと同じ化け物になんのさ。そうなるには、それ相応の覚悟が必要だがな」

 

「お、俺になれるのか…?」

 

「なれるさ。だから俺はお前に“選ばれし者”って言ったんだ。お前はリガンの一撃を生き延びた、例え選ばれし者で無くても、連中を殺せるほどの力を持つことが出来る」

 

 選ばれし者と言う確証はないが、それでもネオ・ムガルの能力者達を殺せる程の力を持てる。そう告げるガイドルフに、シュンは少し自信を付ける。

 

「例え、その選ばれし者って奴じゃなくても、連中を殺せる力があれば十分だ」

 

「その意気だ。その意気があれば、ネオ・ムガルを倒せる。連邦も同盟だって目じゃ無い筈だ。それじゃあ、行くとしよう」

 

「あぁ、ここに長居してたら敵が来るかもしれねぇからな」

 

 例え選ばれし者で無くても、シュンに取ってはネオ・ムガルさえ倒せればそれで十分だった。ガイドルフはシュンのその意気込みを褒めた。それから二人は脱出路を目指して移動を開始した。その道中、運悪く敵の集団と出くわしてしまう。

 

「言ってるそばから!」

 

「居たぞ!」

 

 敵は大人数で突撃銃や自動小銃、短機関銃、軽機関銃で武装しており、こちらは消音器付きの自動拳銃が一丁に敵から奪った拳銃が一丁、それに消防斧が一本。こんな装備で挑めば、たちまち挽き肉にされてしまうだろう。

 一瞬、死を覚悟したシュンとガイドルフであったが、運命は二人を生き延びさせた。

 

「な、なんだ!? アァァ!!」

 

「れ、例の侵入者ぎゃ!!」

 

 銃声や悲鳴が響き渡り、二人に銃口を向けていた敵兵達がバタバタと何者かに薙ぎ倒されていく。何が起こっているのか戸惑っていたシュンであったが、ガイドルフは分かっている様子であった。その正体がシュンの目の前に現れる。

 

「遅かったじゃないか」

 

 目の前に現れた頭に黒いバンダナを捲いて、潜入用に設計された動きやすい戦闘服を身に着けた髭面の男に、ガイドルフはそう投げ掛けた。

 

「待たせたな」

 

 男はガイドルフにそう返せば、手に持ったM4カービン突撃銃で二人を撃とうとする兵士を正確な射撃で射殺した。

 この男だけでなく、背中に二本の剣の鞘を背負い、軽装な鎧を身に着けた白髪の男も現れ、背中の内一本の剣を抜き、それで敵兵達を流れるように切り捨てている。動きはまさしく歴戦練磨の戦士であり、剣がなるべく壊れないような動きをしている。背後からの敵に対しての対処も手際が良かった。

 自分達を助けた相当な修羅場を潜り抜けた顔立ちをしている二人の男のことを、シュンは葉巻を口に銜えて先に火を点けようとしているガイドルフに問うた。

 

「誰なんだあいつらは?」

 

「あれは、この世に蘇った英雄達だ。バンダナの男は生前、伝説の傭兵と呼ばれていたソリッド・スネーク。伝説の英雄ビック・ボスのクローン、いや、息子って所だな。あの白髪の二本の剣の男はリヴィアのゲラルト。モンスタースレイヤー、ウィッチャーで尤も名の知れたウィッチャーだ。ちなみにリヴィアはファミリーネームじゃねぇぞ」

 

 ガイドルフが二人のことを話している間に、敵兵の集団は全滅していた。多数の敵兵の屍を跨ぐ様にシュンと同じくらいの身長を持つ両手に自動小銃を抱えた金髪で碧い目の大男が姿を現す。この男のことも、ガイドルフはシュンに説明する。

 

「この男は、ウィリアム・BJ・ブラスコヴィッチ。生前は世界を征服したナチス相手に勇敢に戦った男だ」

 

 ガイドルフがブラスコヴィッチの紹介を済ませれば、当の本人が彼に対してシュンのことを問う。

 

「ガイドルフ、そいつが例の選ばれし者か?」

 

「確証はないが、リガンの一撃を受けても生きている。選ばれし者で無くても戦力にはなるだろう」

 

「そうか。選ばれし者であれば良いがな」

 

 ガイドルフの答えに、ブラスコヴィッチはシュンの肩を叩き、脱出路があるであろう場所へと向かう。脱出してからのことが気になるシュンは、ブラスコヴィッチの後へ続きながらガイドルフにどうするのかを問う。

 

「なぁ、脱出してからの算段は?」

 

「お前の修行って所だな。何事もまずは修行だ、お前を能力者と戦えるようにしないとな」

 

 脱出してからの算段を聞けば、どんな修行をするのかを想像した。

 

「それもそうだな…と言うことは、なんかの薬でも使うってことか…」

 

「ウィッチャーの試練では、霊薬に耐えるための身体作りの修行があってな。その修行は恐ろしい激痛を伴う物だったよ」

 

「結構きつそうだな…」

 

 割って入ってきたゲラルトの経験に、シュンは嫌な表情を浮かべた。

 途中、スネークがシュンに渡す物があったのか、彼を呼び止めてそれを渡す。

 

「そうだ若いの、こいつをやろう」

 

「ありがとう」

 

 スネークが渡してきた物は自動小銃であり、日本の自衛隊全体で運用されている64式小銃だ。

 日本独自の計画思想で開発され、開発後にそのまま西暦1964年に自衛隊で採用された。当時の技術で大口径のライフル弾である7.62mm×51mm弾をフルオートで高い集団性を実現した画期的な自動小銃である。

 だが、幾つかの欠点を抱えており、部品が多かったり、部品の脱落があったりするなどの欠点もあるが、良くも悪くもそれらの問題を解決した89式小銃が採用されても尚、陸上自衛隊の後方部隊や海上自衛隊、航空自衛隊、海上保安庁では現役であり続けている。

 シュンが日本人であることから、スネークはこの小銃を渡してきたのだろう。

 他にもブラスコヴィッチが背中に背負っている大剣をシュンに渡してくる。

 

「確かお前は大剣を使っていたな。俺には扱いづらいからくれてやろう」

 

「お、おぅ…」

 

 渡された大剣をシュンが両手に抱えれば、ゲラルトがその大剣の説明を始めた。

 

「その大剣はウィッチャーが大型の魔物を倒すための魔法剣だ。まぁ、俺は使ったことがないがな。使わない理由は、ヴェセミルの言葉を借りれば些か大き過ぎたって所だな」

 

「そういうことだ。俺にはこいつが性に合っている」

 

 ゲラルトの大剣の説明を終えれば、ブラスコヴィッチは自分の得物であるパイプを見せる。

 

「あぁ、そうだな…俺も大剣が性に合っていそうだ…」

 

 ブラスコヴィッチが見せた得物に、シュンは厄介な物を渡されたと感じた。

 脱出路まで後少しとなる場所までもう少しであったが、ここで問題が発生したようだ。

 先に先行していると思われるスプリングフィールドM1904A4狙撃銃を持った男と、奇妙な機械仕掛けの仮面を着けたフード付きのコートの男が一同を止めた。

 

「どうした? 問題発生か?」

 

 ブラスコヴィッチが問えば、狙撃手の男が答える。

 

「その通りだ、脱出路までの道が敵の大群で埋め尽くされている。派手に暴れ過ぎたようだ」

 

「おいおいマジか…」

 

 壁越しから広場に居る敵の大群を探る狙撃手の答えに、シュンは頭を抱える。

 

「BJ、お前が派手に暴れ過ぎるからだ」

 

「お前が派手に目立ち過ぎだ、ゲラルト」

 

「よせ、喧嘩なんてしたって、何も変わりはしない」

 

 ゲラルトがブラスコヴィッチと口論になりそうになった為、スネークが割って入る。

 仲間割れは防がれたものの、この状況を打開策は無い。

 

「でっ、どうすんだ? 強行突破でもするか?」

 

「強行突破…良いね! ここは一気に派手に行こう!」

 

「おい、異世界を股にかける情報屋とは思えない台詞だな。それにあの人数を…無謀と思えるが」

 

「そうだ。こういうのは経験しているが、俺の時は、あんなに居なかった」

 

 シュンが強行突破を冗談交じりで提案すれば、ガイドルフは指を鳴らしながらそれを採用した。だが狙撃手の男は、強行突破は無謀であると告げる。スネークも反対の意見を述べる。

 

「しかしここに隠れていても、連中に八つ裂きにされるだけだ。やるなら今だが…迂回するか?」

 

「敵さんもまさかここを突っ切ってくるなんて思わないだろう。不意を突こう、俺達が突っ込んで来れば、連中は慌てふためくはずだ」

 

 ゲラルトがガイドルフに問えば、強行突破を実行すると答えた。

 余り乗る気はしないシュンとスネーク、狙撃手の三人であったが、ここでくすぶっていても、殺されるのは確実なので、強行突破に参加することにした。

 その前に、ガイドルフがシュンを呼び止め、着替えをシュンに渡す。

 

「おいおい、そんな恰好で敵陣に突っ込む気か?」

 

「あっ、そう言えば、そうだな…」

 

 ガイドルフが言った通り、シュンの恰好は青緑の入院着のままだった。彼が出した黒いシャツとカーキ色のズボンの着替えを手に取ったシュンは、物凄い速さでそれに着替える。

 

「凄い速さだな。装備も忘れずにな」

 

 シュンに凄い速さの着替えに舌を巻くガイドルフは、弾薬類を入れるポーチが着いたタクティカルベストや戦闘用のブーツも忘れ似ず手渡す。それを手早く身に着けたシュンは、64式小銃の弾倉をポーチに入れ込み、拳銃もちゃんとホルスターに入れ込めば、戦闘準備が整ったとガイドルフに告げる。

 

「準備OKだ」

 

「よし、では行こう!」

 

 シュンの戦闘準備が整えば、一同は多数の敵が待ち受ける広場へと突入した。

 流石の敵もここには突入しては来ないと思っていたらしく、突入してくるシュン達の対応が遅れ、数十人の敵兵が一気に屍となった。

 

「な、なんでこっちに来たんだ!?」

 

「迎撃しろ! 迎撃するんだ!!」

 

 指揮官が直ぐさま配下の兵士たちに指示を出したが、狙撃手の狙撃で頭部を撃たれる

 敵の指揮官をまず仕留めるという戦法は、少数が多数の敵と相対した時に用いられる基本的な戦術だ。指揮官を失った場合、その下の者が新たな指揮官となるが、それを何度も失えば、自ずと兵士たちは恐れ始める。

 

「撃て! 撃ち返せ! ぐわぁ!」

 

「くっ、クソ! また指揮官が!」

 

 また新たな指揮官が撃ち殺され、敵兵達は混乱し始める。そこを一気にシュン達が攻め立て、目の前にいる多数の敵兵らを蹴散らしていく。ゲラルトは回転しながら敵が良く敵兵を切り捨て、ブラスコヴィッチは手近に居る敵兵をパイプで思いっきり突き刺す。スネークはCQCと呼ばれる軍隊格闘術を駆使して多数の敵を素手で薙ぎ倒した。

 機械仕掛けの仮面の男は能力者であったらしく、その能力を駆使して多数の敵兵を片付ける。更に剣術も優れでおり、無謀に接近戦を挑んだ敵兵らを意図も容易く片付けて行く。

 狙撃手の男も正確に敵の指揮官のみを狙い、敵の指揮系統を混乱させていた。

 

「すげぇ奴らだな…狙撃手と変な仮面の男の名は?」

 

 凄まじい活躍ぶりをみせる五人の英雄に驚きを隠せないシュンは、まだ名前を聞いていない狙撃手と仮面の男についてガイドルフに問う。

 

「狙撃手はカール・フェアバーン。第二次世界大戦のアメリカの諜報組織、OSSの工作員兼狙撃手だ。北アフリカや末期のベルリン戦の裏で大いに活躍した。冷戦に突入してからも西側の狙撃手として活躍した。仮面の男はコルヴォ・アッターノ。かつては諸島帝国の優秀な王室護衛官だが、女王暗殺容疑を掛けられて復讐者に身を落とした。アウトサイダーって言う奴に能力を貰ってからは復讐を完遂させ、諸島帝国に繁栄を与えた」

 

「あの二人も陰ながらの英雄って事か!」

 

 遮蔽物に身を隠しながら二人の素性を聞いたシュンは、裏で活動する者達も英雄であることを知る。

 

「よし、大分片付いた! 行くぞ!!」

 

「おう!」

 

 五人の英雄の活躍によって多数の敵兵が片付いたのを確認すれば、ガイドルフが一気に畳み掛けるために遮蔽物から飛び出す。その後をシュンが続き、64式小銃で目の前にいる敵兵を撃ち殺していく。ガイドルフも散弾銃を巧みに使い、進路上にいる敵兵を片付けながら進む。

 

「よし、これで突破だ…と、言いたいところだが、そう甘くは無いな」

 

 見事、広場を突破したシュンとガイドルフ、五人の英雄達であったが、ことはそう簡単には運ぶはずがなく、広場を抜けた先にも多数の敵が待ち構えていた。

 

『降伏しろ! そうすれば楽に殺してやれるぞ!!』

 

「どっちにしろ殺すんじゃねぇかよ」

 

 降伏勧告を行っているにも関わらず、生命を保証しない敵の指揮官にシュンは突っ込みを入れる。

敵は先程よりも大多数であり、幾ら五人の英雄が一騎当千者でも、この数の敵と戦うのは流石に不可能であろう。万策尽きたかに見えたが、ガイドルフは未だに余裕の笑みを浮かべていた。その訳をシュンはガイドルフに問う。

 

「どうした、頭でもおかしくなったか? それとも策とかあんのか?」

 

「あぁ、あるさ。後五秒くらいで強力な助人たちが来る」

 

 ガイドルフが腕時計の針に目をやれば、その五秒ぴったりに強力な助人達が空から到来した。

 

「ほら来たぞ。英雄達のご登場だ」

 

 空を見上げているガイドルフが言えば、シュンは降りてくる英雄達に視線を奪われた。人が空を飛んでいる光景は、彼にとっては信じられない物だが、先程聞かされた自分が知らない場所で行われている戦いの話で感覚が麻痺していた。

 空から来訪した英雄達は、ネオ・ムガルの将兵等と能力者達、ムガルに付き従う蘇った悪党達と戦い始める。その戦いぶりは、北欧神話の神々の戦いと同等な物であった。先程自分を助けた五人の英雄達もその戦いに参加し、能力者や悪党達と激しい戦いを繰り広げている。

 目の前で繰り広げられている光景に視線を奪われているシュンに、ガイドルフは問い掛ける。

 

「凄い戦いだろう? これが各異世界で行われているんだ。信じられないだろう?」

 

「あぁ、信じられない…俺の知らないところでこんな事が起きてるなんてな…」

 

 ガイドルフからの問いにそう答えたシュンは、英雄と悪党達の戦いに目を奪われていた。

 そんな矢先、先程自分を実験体に使おうとした科学者が円盤型の戦闘兵器に乗って現れ、シュン達に襲い掛かる。

 

『実験体五十五号! 大人しく私の元へ戻ってくるのだ!!』

 

「実験体五十五号!? 俺はそんな名前じゃねぇ! それと撃ってくんな!!」

 

 戻れと言いながらもレーザー兵器などで攻撃してくる科学者に、シュンは突っ込みを入れつつガイドルフと共に逃げ始める。二人の背後では連続した爆発が起こり、味方も関係なしに巻き込まれる。逃げながらシュンは、ガイドルフに円盤型兵器に乗って追ってくる科学者のことを問う。

 

「無茶苦茶な奴だな! あいつの名前はなんて言うんだ!?」

 

「奴の名前はウリガル・ド・アパムズ! ネオ・ムガルで尤もイカれた科学者(マッドサイエンティスト)だ!!」

 

「そんなの見りゃぁ分かる!」

 

 逃げながら自分を実験体にしようとする科学者の名前が分かったシュンは、見た目通りのマッドサイエンティスト言うことを理解した。

 それから科学者の円盤型兵器の攻撃から逃げ続ける二人であったが、崖際まで追い詰められた挙句、シュンが爆発に巻き込まれて崖から落ちてしまう。

 

「掴まれ!!」

 

 落ちた彼を拾い上げようと、奇跡的に無事だったガイドルフは手を伸ばしたが、手は届くことなくシュンは崖へと落下していく。

 

「クソっ、こんなところで終わりかよ!!」

 

 落下していく中、シュンは折角助かった命が無駄になってしまったことを悔やむ。

 死を覚悟するシュンであったが、運命は死ぬことを許さず、彼が落ちていく場所に謎の空間が現れさせ、そこに入れさせる。その謎の空間にシュンが入った途端、完全に消え去る。これを目撃したガイドルフは、ホッと胸をなでおろした。

 

「ふぅ、首の皮一枚繋がったか…」

 

『待てぇ!!』

 

「こっちも不味い! はやいとこあいつを捲こう!」

 

 崖から覗いてシュンの無事を確かめれば、ガイドルフは立ち上がり、科学者の追撃を捲くべく、必死に逃げ回った。




取り敢えず、序章はこれで終了…
次回からは何処かの世界へシュンを介入させます。まだ決まってないけど…何所にしようか?

イメージEDは、スウェーデンのへヴィメタルバンド、ハンマーフォールの「Last Mann Standing」です。

https://www.youtube.com/watch?v=3SEaqDgUFZs

いや~、最近見つけたバンドですけど、かっけぇな…激ヤバですわ~

へヴィメタ最高!

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