復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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ちょうどいいので、投稿します


地下水路へ。

 周囲のドイツ兵を警戒しつつ、マンホールを開け、地下水路に入ったシュンは、レーダーを取り出してタイムピースを盗んだ少年を探した。

 レーダーには地下水路に逃げ込んだソ連兵の反応が幾つかあり、遭遇すれば、撃たれる可能性がある。

 ここは狭くて隠れる場所が余りない。シュンはいつでも交戦できるように消音器付きのコルト・ガバメント自動拳銃を引き抜き、周囲を警戒しながら進む。

 

「反応が近い」

 

 水路を警戒しながら進む中、四人一組となって行動するソ連兵の反応があった。

 仕掛けるかどうか迷ったが、銃声が響けば上に居るドイツ兵や、周辺のソ連兵が集まって来るかもしれないので、何処か隠れられる場所を見付けて必死に身を隠した。

 やって来た四人一組のソ連兵は、男三人に女一人の編成であった。ドイツ軍の将校や下士官を狙撃して指揮系統に混乱を引き起こす狙撃チームのようだ。全員が狙撃型のモシン・ナガン小銃を持ち、狭い通路での戦闘に備えてPPSh-41短機関銃かトカレフ自動拳銃を持っている。

 奇襲すれば、四人とも片付けられるが、相手はプロだ。シュンもプロだが、あの四人のプロに奇襲を仕掛けるのは愚策なので、気付かれないように息を潜め、通り過ぎるのを待った。

 

「…行ったか」

 

 物陰から飛び出し、四人が通り過ぎたのを確認すれば、そこから出て、レーダーを片手に子供の反応を探す。

 

「上で戦闘が再開されたようだな」

 

 振動して天井から塵が落ちて来るのを見たシュンは、地上で戦闘が再開されたのを知り、レーダーを見ながら通路を歩いた。

 近くの水路にはドイツ兵やソ連兵の死体が浮いており、中には水死体となって不気味な姿をさらしている遺体もある。地下水路特有の悪臭と腐敗した死体からの匂いも混ざり合って、鼻が曲がりそうだ。

 

「後で臭いを消さないと、臭いで居場所がばれちまう」

 

 外へ出れば、この悪臭を消さなくてはならないと思い、シュンは子供の反応を探した。

 水路を進んで数十分余り、ここまでソ連の攪乱部隊やドイツ軍の探索部隊の反応を見付け、その全てを避けて来た。途中、双方が銃撃戦を行っていたが、面倒なのでこれも避けた。

 地図も無しに闇雲に入り組んだ水路を歩き回っているので、迷ってしまっているのではないかと、シュンは思ってしまう。

 数分間、勘を頼りに進んでいると、レーダーに子供の反応が映った。

 

「おっ、居た」

 

 反応がする方へと、シュンは駆けた。

 子供の反応、タイムピースを盗んだ少年と思われる反応は、地下水路の不気味に広い場所にあった。

 移動しないうちにそこへ急いで向かえば、タイムピースを盗んだ少年が、尻餅を付いて何かに怯えていた。

確かにあのタイムピースを盗んだ少年だ、何に怯えているのだろうか?

 少年は自分が来る方向では無く、こちら側から見えない方向から来る何かに怯えているようで、シュンは急いでその少年の元へ向かい、少年を襲おうとしている何かに手にしている拳銃を向ける。

 

「おいおい、ここは第二次世界大戦の世界だぞ…!?」

 

 少年を襲おうとしている正体を見て、シュンは驚愕した。

 その正体は、バルディッシュと呼ばれる大振りの斧を持ち、全身を甲冑で身に纏ったロシアの騎士であった。体格は190㎝のシュンを越える235㎝であり、存在したのかどうか怪しい巨漢の騎士だ。

 巨漢の騎士は少年を殺そうと巨大な斧を振り下ろそうとしたが、シュンが咄嗟に撃った拳銃弾を受け、標的を少年からアジア系の大男に変える。

 

「盗んだ物を返せば助けてやるぞ!」

 

 大口径の拳銃から消音器を外し、弾倉の残りを全て撃ち切ってから少年にタイムピースを返すように大声で告げれば、少年はシュンの方へ巨漢の騎士が向かっているのを見て、彼の言葉を信じて盗んだタイムピースを投げた。

 

「よし、いい子だ」

 

 タイムピースを返してもらったシュンは、それを懐に仕舞い、向かって来る巨漢の騎士に距離を取りつつ、拳銃の再装填を素早く済ませ、足に向けて数発ほど撃ち込む。

 

「ちっ、特殊甲冑はワルキューレの十八番じゃねぇのかよ!」

 

 普通の西洋甲冑は重く、それに小口径の拳銃ですら防げないただの重い物であるはずだが、巨漢の騎士が身に纏う西洋甲冑はワルキューレの騎士たちが身に纏う特殊な素材を使った合金で出来ているのか、銃弾を弾いた。

 遭遇して早々に撃っても弾いていたが、シュンは当たりどころが悪くて跳弾したと思っていた。

 

「だったらこいつだ」

 

 そんな甲冑を紙切れのように引き裂けるのは、自分の大剣しかないと思い、シュンは自分の得物であるスレイブを引き抜き、斧を振り下ろそうとする巨漢の騎士に構えた。

 身の丈はある巨大な剣を持って構えるシュンに対し、巨漢の騎士は力一杯に斧を振り下ろす。

 この巨漢の騎士が持つ巨大な斧は、人間を紙屑のように切断できるほどの物であるが、シュンはそれを大剣の刃で受け止めた。

 大剣は鉄ですら斬りそうな斧を防いだが、衝撃は持っているシュンに響き、その衝撃で床に両足が減り込む。

 

「まさかこの世界でデカいのを戦うとわな!」

 

 全身を流れる衝撃に耐えつつ、シュンは力一杯に大剣の刃を押して巨漢の騎士を怯ませた後、体勢を立て直す前に一撃目を入れ込んだ。

 

「ちっ、やたら硬いな!」

 

 一撃目を脇腹に入れ込んだが、巨漢の騎士の甲冑は固いのか、切れ込みが入る程度あった。

 直ぐに大剣を引き抜き、巨漢の騎士が振るった左拳を躱し、久方の連射式プラズマ弾を左腕のガントレットに付け、切れ込みを入れ込んだ部分に撃ち込む。

 バリアジャケットを身に纏わずの連射であるが、左腕を右手で抑え付けて反動を抑え、切れ込みにプラズマ弾が当たる様にした。

 凄まじい勢いで発射されるプラズマ弾を甲冑の切れ込みに何十発も受けている巨漢の騎士は、痛みを感じることなく突っ込んで来るが、甲冑が絶えられないのか、砕けて横っ腹にプラズマ弾が減り込む。

 凄まじい激痛が走ったのか、巨漢の騎士は膝を付いた。かなりのダメージを与えたはずだが、巨漢の騎士は何事も無かったかのように立ち上がる。

 

「やはり兜を引き剥がす必要があるな」

 

 立ち上がった際に、腐敗した肉が破損した個所から見えた。

 出血が余りない事から、シュンは巨漢の騎士が動く死体と判断し、兜を引き剥がして脳を破壊する必要があると判断した。

 何らかの呪いか魔法で動く死体となった巨漢の騎士は、最初に遭遇したと同じく大振りの斧を振り回してくる。今度は痛みが力を与えたのか、斧を振るう速度は速く、迂闊に大剣を斬り込めず、避けるのが精一杯だ。

 壁際まで寄ってワザと追い込まれたフリをし、斧を振り下ろすのを待った。

 

「今だ!」

 

 巨漢の騎士が斧を振り下ろした瞬間に、シュンは床を蹴って避け、壁に斧の刃が突き刺さったのを見れば、相手が引き抜かない隙に背後へ回り、動きを止めるために右脚に大剣の刃を強く叩き込んだ。

 力一杯に叩き込んだおかげか、巨漢の騎士の丸太のように太い脚は斬れ、自分の巨体を支える二本の足の内、一本を斬りおとされた巨漢の騎士はバランスを崩す。

 この隙にシュンは相手の利き手である右腕を切り落し、背中を伝って上り、敵が反撃する前に、大剣の刃を兜に向けて叩き込む。

 機動兵器だろうが容易に斬れる大剣の刃を兜に撃ち込まれた巨漢の騎士の頭は、見るも無残に潰れ、視界を確保するために空いている穴から目玉が飛び出していた。

頭部を潰された巨漢の騎士は、そのまま前のめりにうつ伏せとなって倒れて動かなくなった。

 

「やれやれ。まさかこの世界に来て怪物と戦う羽目になるとは」

 

 物言わぬ屍に戻った巨漢の騎士の巨体を蹴り、大剣を待機状態に戻す。

 鎧の形状とデザインを見て、シュンは遺体を詳しく調べ、何百年前の物であると判断する。

 

「おそらく、数百年くらい前の騎士だな。でも、こんなにデカい騎士は存在しない。おそらく、誰かが魔法を使った」

 

 同時に魔法に寄って動かされた物であると分かれば、こちらを陰から見ている少年に向けて数週間分の食料が入った袋を投げる。

 

「そいつをやる。家族か友達と分けろ。また盗まれたら困るからな。それと兵隊には絶対に見せるな。どっちの兵隊にもな。あと一つ、俺の事は絶対に喋るな。分かったら、さっさと行け。俺にはやらなきゃならないこともある。」

 

 少年に食料を渡した後、シュンはタイムピースを持ちながらこの場を後にした。

 この過去のスターリングラードに怪物のような巨漢の騎士を召喚した正体が気になるが、今は水晶を探すのが先決だ。

 シュンは水晶探しを第一として、タイムピースを動かし、ソ連赤軍が有利な戦局の時期へと向かった。

 

 

 

 ソ連赤軍が有利な時期、それも大規模な反撃を行った時期に来たシュンは、この時は冬季でかなり気温が低下し、雪が降り積もっているので、ベルトのコアから出した防寒着を身に纏っていた。

 その時に背後から不穏な視線を感じたので、近くに置いていた消音器を付けた拳銃を拾い上げ、銃口を視線の感じる方へ向けた。

 

「そこに居るのは分かってるぞ」

 

 シュンが警告すれば、爆撃で破壊された家屋の天井に腰掛けた派手なチェニックとズボンと言う格好の男は、用紙とペンを仕舞って両手を挙げて撃たないでくれと告げた。

 男の容姿は高身長な優男と言うべき物で、口の上には実に形の良い髭を生やしている。髪は茶色で、人種はアングロサクソン系の白人だ。

 

「待て待て、俺はお前の敵じゃない。ただの傍観者で語り部だ」

 

「傍観者? その格好からして、この時代の人間じゃないな? 何所からの刺客だ?」

 

「刺客? 物騒な、俺は語り部だ。決して、お前に危害を加えようとする気は無い。本当だ」

 

 銃を向けて怯える謎の男は、傍観者と語り部だと名乗った。

 これでシュンが納得するはずが無く、彼は何所の刺客だと銃を向けながら問い詰める。

 傍観者と語り部を自称する男は、危害を加えるつもりは無いと必死に訴え、武器になるような物は持ってないとシュンにアピールする。

 

「これで分かって貰ったか?」

 

「あぁ、何所の誰かは知らんが、元の世界へ帰れ。今からここは、恐ろしい激戦となるぞ。流れ弾が怖く無ければ、殺し合いを見ても構わないが」

 

 その男の敵意がない事が分かれば、シュンは自分と同じ別世界より来た男に帰るように言った。

 だが、傍観者と語り部を自称する男は、それが目的で来たわけではないと答える。

 

「いやいや、俺はそんな野蛮な物を見るために来たわけじゃない。お前の復讐の旅を記録するために来たんだ」

 

「俺の復讐の旅? おい、なんでそのことを知っている? ガイドルフとか言う情報屋から聞いたか?」

 

 男はシュンの復讐の物語を記録するために来たのだと答えた。

 自分の復讐はガイドルフかアウトサイダーくらいしか知らないはずなのに、何故かこの男は知っているので、シュンは新手の刺客だと思って再び銃口を向けた。

 再び銃口を向けられた男は両手を挙げながら、ストーカーのように影からつきまとっていたことを謝罪し始める。

 

「あぁ、不味かったようだ。済まない、ストーカーのような真似をして悪かった! 実は麻薬の都市からお前を見ていたんだ。見えない場所から。決して、懸賞金目当てや家族を人質にされてやらされていると言うことは無いぞ」

 

 なんと、あのジャンキーで溢れた都市から自分を見ていたと言うのだ。

 この事実を知ったシュンが、何らかの嫌悪感を思い出して再び銃口を向ける中、男は額に汗を浸らせながら自己紹介を始める。

 

「お前が思っているような趣味は無いぞ! よし、自己紹介しよう。俺はナハターだ。実に興味深い人物を見付け、その人物の記録を物語にしている。断じて誰にも手を出していないぞ!」

 

 ナハターと名乗る男の必死の訴えに、殺意が失せたのか、シュンは銃口を下げて安全装置を掛け、ホルスターに戻した。

 

「必死こいてそう言う辺り、敵じゃ無さそうだな。で、ストーキングして許可なしに書いてんのか?」

 

「あぁ、プライバシーの問題で断られる。ちなみにお前の初夜の相手、童貞を卒業した相手は知っているぞ。名前は…」

 

 敵ではないと分かった後、シュンはナハターにちゃんと許可を取っているのかを問う。

 これにナハターは断られると答え、何を思ったのか、シュンの初夜の相手の名を口にしようとした。その瞬間にシュンは再び殺意を覚え、ナイフを投げ付ける。

 投げたナイフはナハターの頬を掠め、近くの壁に突き刺さった。これで、彼はシュンの前で余計なことは口にしないと、固く誓う。

 

「あぁ、うん。悪かった。済まない」

 

「そうだ、それで良い」

 

 ナハターを黙らせたシュンは、なぜ自分の復讐の旅を記録して物語にしようなどと思ったのかを問う。

 

「で、なんで俺みたいなのを主人公にした物語なんぞ作ろうなんて思ったんだ? ネタにでも困ったか?」

 

「それもあるがな。最近は、人から貰った力を自分の力だと思って好き勝手する奴らばかりでつまらん。俺はそう言う奴は反吐が出るくらいに嫌いでな、力に呑まれて我を忘れて見境なく暴れ回る奴も嫌いだ。自分の力で何とかしようと努力する奴の方が好みだ」

 

 人から貰った力を自分の物のように自慢する者や、力に溺れて我を忘れる者は嫌いであると答える。

 好きな物語は、自分自身の力と努力で難関を突破する物であると、ナハターは意気揚々に答えた。

 

「あぁ、俺も好きだな。近頃は、なんでも楽して手に入れようとする奴らが多い気がする…」

 

 ナハターの熱意にシュンは引き気味であったが、休憩の間にアウトサイダーが話してくれた最近の転生者が、他人の力や絶対的な力を要求する傾向にあることを、話題として振ってみた。

 この話をナハターは知っていたのか、シュンが出した話題に食い付き、愚痴をこぼすように語り始める。

 

「そうだろう? 奴らの過去については同情を得る物だが、なぜ自分を虐めた者達と同じことを他人にするのか理解できない。それに、大抵は自分が楽をしようとする能力ばかりを神に要求する。挙句の果てに、憧れの人物その者になろうとする。その神も駄目だ、奴らを立派な人間にする課題を課すべきで、甘やかして良い物は無い。お遊び半分とは言え、下々の者達にどれだけの迷惑を掛けているか分からないのか? それと一体、今の若者たちが楽を出来るのは誰のおかげか? それは先代たちの何千もの挫折と努力、血と涙の上で成り立っているからだ。それを理解しているか、奴らが分かっているかどうか怪しい物だが」

 

 最近の転生者の傾向を熱く語るナハターに、シュンは絶対的な力を貰い、楽をして何もかも手に入れようする傾向と、なんの努力もせずにお遊び半分に暴れていることしか分からなかった。

 

「人様の力を勝手に貰って使う奴もだ。その力は、その人物が必死に考えて血が滲むような努力をして手に入れた物だ。それをおいそれと神から貰って自分の力のように使って自分に酔いしれる。まるで悪党だ。まぜ周りは否定しないのか、俺だったらきつく言ってやるがな。まぁ、奴らは自分を否定する奴らは大嫌いで、自分を否定や非難する奴は皆殺しする事だろう」

 

「あぁ、そう言えば、絶対的なチートの女と出会ったぞ。不老不死で無茶苦茶せこい女だった」

 

「なに、誰だその女は? まさか、性転換をした奴じゃないだろうな?」

 

「マリ・ヴァセレートだ。見てくれは男の願望を叶えた良い女だが、中身は最悪だ。まぁ、剣術とか魔術の類は努力したと認めてやるが」

 

 熱く語るナハターに、少し乗ってやろうかと思ったのか、シュンはマリの事を告げた。

 事実、シュンはマリの常識を覆す圧倒的な力の前に敗北し、自分にとっては屈辱的な物であった。

 悔しさを言ったが、どうやらこれがマリを咎めていると受け取られたのか、先ほどの熱が嘘だったかのように冷め、嫌悪な表情を浮かべ、睨み付けながらシュンに彼女を馬鹿にするなと言う。

 

「おい、お前は彼女の事は知らんのだろうが、彼女のあの不老不死や美しさ、それに強さは自分の力で手に入れた物だ! 生まれてから二歳ではっきりと言葉を喋り、その上に才能に恵まれた才色兼備だ。だが、周りの大人は理解できず、彼女を魔女呼ばわりして奴隷商人に売り飛ばし、性欲の捌け口に使った。その所為で精神年齢は十五歳の少女のようだが、それでも一番の努力家であることは変わりない」

 

「あんた、あの女のファンか…?」

 

 マリのことを咎めたと思われ、ナハターは彼女の経歴や努力家であることを熱く語り、卑劣な女性では無い事をシュンに告げた。どうやら、ナハターはマリの大ファンのようだ。

 

「もちろんだとも。これほど天に恵まれた才能と容姿の持ち主なのに、自分に溺れず、しかも努力家だ。いささか感情的で性格に問題あり、人格破綻者にロリコン、同性愛者であるが、それらの欠点を覆す程の実力と頭脳を彼女は持って居る。おそらく、彼女に適う者はそうは居ない。今は愛しの恋人であるルリを探しに、各異世界を回り、感情的になって探し回っているが…」

 

「分かった、分かった。あんたがマリの事が大好きなのは分かった。そろそろ、行って良いか?」

 

 これ以上、ナハターに喋らせ続けていると、マリの事を延々と聞かされる羽目になるので、シュンは主戦場が行われている方向を指差し、そろそろ行くと彼に告げた。

 

「あぁ、済まない。どうも癖でな、この所為で大抵は断られるんだ。お前は断らないよな? お前の物語を書くことを許可してくれれば、良い店を紹介してやるぞ。こう見ても俺はその手の類にも精通している。自慢じゃないが、女性にはかなり持てる方だ」

 

 シュンが引いていることが分かっていたのか、自分の癖の事を謝罪しつつ、物語を書く許可を、風俗店を紹介することを条件に求めた。

 これに反応してか、シュンはナハターの許可を、邪魔をしないことを条件に承諾して戦場へと戻る。

 

「OK、許可しよう。だが、邪魔すんなよ」

 

「分かった。邪魔しないように、お前の物語を書こう」

 

 ナハターも条件を呑んだ後、シュンはウォッカを飲んで苛立ちを消し、拳銃を片手に再び赤の広場へと向かった。

 

 

 

 赤の広場へ再び訪れれば、ソ連赤軍が再び奪還のために集結していた。

 あの無謀な突撃戦法は何所へ行ったのか、兵士全員に銃火器が行き渡り、完全装備の軍隊となっている。違うところ言えば、女性兵士が混じっているか、T-34中戦車やT-70軽戦車が配備されていることだ。更にはソ連海軍の歩兵隊まで混じっている。

 突撃の事前砲撃の最中、政治将校は突撃を行う彼らに向けて拡声器で演説を行う。

 

「同志諸君、遂に反撃の時は来た! 憎きファシスト共をこの母なる大地より消し去るのだ!! 母なるロシアの為、同志スターリンの為に! ウラー!!」

 

『ウラー!!』

 

 砲撃が終われば、政治将校は先陣を切って突撃する。

 その後に続いて男女混合のソ連赤軍の歩兵隊と戦車部隊も、自分等と同じ防寒着を着て迎撃準備を整えたドイツ陸軍第6軍に突撃した。

 

「派手にやってるな」

 

 装備を整えたソ連赤軍が突撃を行う中、安全な場所からシュンは、双眼鏡でその様子を探っていた。

 凄まじい十字砲火が攻撃側のソ連赤軍に浴びせられ、歩兵がバタバタと薙ぎ倒されていくが、あの無駄な消耗品のような扱いをされた強制徴兵された者達とは違い、ちゃんと遮蔽物に身を隠すか、撃破された戦車を遮蔽物に使って一歩ずつ確実に前進している。

 一個中隊規模の狙撃兵部隊の援護もあり、これなら確実に赤の広場を取り戻せるだろう。

 

「今がチャンスだ」

 

 ドイツ軍は包囲されて士気が低いのか、押され気味であった。

 この戦闘はソ連赤軍が有利だと判断したシュンは、ベルトを押して着ている防寒着をソ連兵と同じ物へ変え、武器もPPSh-41短機関銃に変えて続々と敵陣へと突撃していくソ連兵たちに混じる。

 ソビエト連邦は多民族国家だ。アジア圏にも領土を広げ、そこからもかなりの数の若者を徴兵して前線に投入している。隣国のモンゴルも然りで、故にシュンが混じっても、誰も疑いもしない。

 そんなソ連赤軍歩兵隊に混じってドイツ軍の陣地へ突っ込んでいけば、中世さながらの白兵戦へと突入する。

 前列の集団はドイツ兵等の小銃に着いた銃剣で突き刺されたが、後続が手にしているPPSh-41短機関銃の乱射で全員が倒される。

 銃剣やスコップ、ナイフで迫り来る赤軍兵に対し、ドイツ兵等も持てるだけの近接武器を使い、国家の為でなく、己の生存のために自分等を殺しに来るソ連兵たちに対抗した。

 

「懐かしいな」

 

 集団に混じって突撃するシュンもまた、自分の得物である大剣は出さず、数発以上を撃ってから右手にスコップを持ち、左手にナイフを持って数名を短機関銃で撃ち殺したドイツ兵に殴り掛かった。

 ドイツ兵は真横から来るアジア人の大男に反撃する間もなく飛び掛かられ、顔面を勢い良く振られたスコップで殴られた衝撃で首の骨が折れて即死する。

 一人目を撲殺したシュンは、二人目のドイツ兵の腹にナイフを突き刺し、突き刺した刃を強く抉って動か無くなれば、ソ連兵をスコップで刺殺して近付いてくる下士官の胸に向け、スコップを投げナイフのように投げて殺害した。

 

「うぉ!? おらぁ!!」

 

 下士官を殺して次なる標的を探している間に、背中を小銃の銃座で殴られた。

 kar98kの銃座は金属製なので、それで殴られれば痛いと言う話では無かったが、その金属製で何度も殴られたことがあるシュンは、怒りで痛覚を誤魔化し、自分を銃座で殴ったドイツ兵の首にナイフを突き刺す。

 強く突き刺したため、ドイツ兵は自分の血に溺れながら息絶えた。

 四人目を殺したことで更にアドレナリンが高まり、他の兵士達と同様にドイツ兵等を殺そうとするが、標的にしたドイツ兵が動いていないことに気付いた。

 

「どうなってる…!?」

 

 初めは蛇に睨まれた蛙のように動けずにいたと思っていたが、周りを見れば、まるで時間が止まっている様にその場で固まったままだ。否、世界その物の時が止まっているのだ。ただし、自分を除いて。

 

「敵の攻撃か? なぜ俺だけが?」

 

 時間が止まったのは、敵の魔法による物か、異世界の武器による攻撃の物であると判断したシュンは、タイムピースを見た。

 この道具が自由に時間を行き来きできるおかげで、時間を止める攻撃を自分だけ避けられたようだ。

 

「何所のどいつだ? さっきのデカい騎士といい」

 

 時間を止めた者の正体を掴むべく、シュンは殺し合いの最中に時間が止まった者達を掻き分けながら探した。

 その中を進んでいると、まるでジオラマの中に放り込まれたようだ。本物の人間と兵器を使った物であるが。

 動いている人間の気配を探しながら殺し合いをする両軍の兵士たちの中を掻き分けて進む中、白い防寒着を纏った腰まで金髪を伸ばした謎の人物を見付けた。

 戦前か戦後ならまだしも、とてもこの殺伐としたスターリングラードには似合わない人物だ。金髪の兵士は両軍にも居るが、あそこまで髪を伸ばした者は居ない。身長は欧州人らしく高いが、身体がやや細いので、女性だと思われる。

 

「魔女か?」

 

 自分の存在に気付いていないようで、シュンは時が止まっている周囲の兵士で身を隠し、様子を窺う。

 彼女は制帽を被り、雄叫びを上げながらソ連兵たちを撃っている将校の首にぶら下がっているメダルなような物を取った。

 普通、この手の将校はレプリカの鉄十字勲章か本物を襟元に着けるはずだが、幸運のお守りとして身に付けていたようだ。

 メダルは普通の円形だが、模様は違う。昔、何処かの店で買った物だろうか、オリンピックの金メダルでも銀でも銅でもない。何所か魔法の類を感じる怪しげな模様だ。

 それを見付けた彼女はそれを将校から引き千切り、何処かへ去ろうとした。

 

「待ちな、魔女。てっ、お前かよ…くそっ、噂をすればか!」

 

 何処かへ立ち去る前に、シュンは呼び止める。

 だが、その人物は意外な人物であった。振り返った女性の顔を見れば、直ぐに誰だか分かった。そう、スターキラー要塞にて、華奢な外見とは思えぬ圧倒的な力で自分を倒したあのマリ・ヴァセレートだ。

 戦闘に入る前にナハターにマリのことを言った所為か、はたまた偶然か?

 自分に最大の屈辱を与えた女が目の前に居る。不老不死であるが、再生が困難な程の粉々にしてしまえば、暫くはマリの顔を見ずに済む思ったシュンは、待機状態のスレイブを握る。

 果たして、そう簡単に上手くいくのだろうか?

 そうこの世界の時間自体を止めたのに、一人だけ動いているシュンを見てやや驚いた表情を見せるマリを見ながら考える。

 そんなマリは、止めた時間の中を動けるシュンに向け、宙を飛んでいるMP40短機関銃を取り、殺そうと撃って来た。

 

「うぉ!?」

 

 飛んでくる銃弾を周りの時が止まっている兵士等を盾にしながら避け、肩にぶら下げてあるPPSh-41短機関銃で反撃する。

 ドイツのMP40とロシアのPPSh-41。連射性に勝っているのは後者であり、連続で吐き出される無数の拳銃弾を避けるため、マリも周りの時が止まった兵士たちを盾にしながら避けた。

 

「不老不死なんだから避けなくて良いだろうが!」

 

 不老不死なのに銃弾を避けるマリに対し、シュンは悪態を付きながら動き回るロングヘアーの金髪の女から来る銃撃をローリングで躱して、ドイツ軍の塹壕へと飛び込む。

 この時が止まった状態の殺し合いをする人混みの中を、マリだけを見分けるのは容易だ。

 なんたって彼女は軍服を着ておらず、髪も結んでない上に目立つような赤いマフラーをしている。おまけに周りの時間が止まっているのに、動き回っている。見付けるのは簡単である。

 

「そんな派手な格好をするからよ」

 

 シュンは動いているマリを見付ければ、ドラムマガジンの短機関銃では無く、精密な射撃が出来るモシン・ナガン小銃を取って、周りの時が止まっている兵士たちに隠れながら近付いてくるマリに向けて放つ。

 

「きゃっ!」

 

「ちっ、惜しい! 脳天を逸れた!」

 

 撃った銃弾はマリに命中したが、左肩に当たっただけであった。

 頭を狙って死んでいる内にマリが将校から取ったメダルを盗むつもりであったが、左肩を撃たれ、自分の防寒着を汚された彼女は、周りの時を止める魔法を解き、周りに紛れ込む。

 

「くそっ! やりやがった!!」

 

「死ね! イワン!!」

 

 時間が再び動けば、両軍の兵士たちは何事も無かったかのように動き出し、殺し合いを再開する。

 シュンとマリが盾にした兵士たちは何に攻撃されたのか、訳も分からずに死んだ。

 時間が動き出したので、マリは突撃するソ連兵に混じって逃げようとする。

 当然、塹壕に居るシュンにも殺そうとする者が向かって来る。殺そうとして来る相手は、StG44突撃銃の試作型であるMKd42の木製ストックで殴り掛かって来る。

 その兵士に対しシュンは、ストックの攻撃を避けてから相手の腹に拳を強く打ち込んで怯ませた後、突撃銃を奪って相手を撃ち殺す。

 マリを逃さぬため、シュンはMG42を撃っていたドイツ兵を撃ち殺し、機関銃を奪って彼女が居る方向へ向けて機銃掃射を行う。

 

「逃がすか!」

 

 乱戦状態になっていた両軍の兵士は、電気のこぎりのような銃声を鳴らす毎分千二百発もの連射力を誇る機関銃の連射力で次々と倒れて行く。

 その連射力に合わせ、射手にも凄まじい反動が来るが、シュンは似たような銃を何度か撃った経験があり、それを抑え付ける腕力もある。これにより、手足が引き千切れる兵士が続出し、瞬く間に死体だらけとなった。

 

「同志を撃ったな!」

 

 阿吽絶叫の戦場となる中、政治将校がシュンに向けて手にしているトカレフ自動拳銃を撃とうとする。MG42は弾切れであるが、シュンには拳銃がある。手にしている機関銃を、一発外して慌てて照準を治す政治将校に投げ付け、相手を怯ませてから、素早く引き抜いた拳銃で政治将校を撃ち殺した。

 それから同じくMG42の掃射で倒れているマリを探しに、塹壕から飛び出す。周りの兵士たちは、戦闘に夢中で誰も見向きもしない。

 血の跡は周りで死んでいる兵士たちが流す血のおかげで見分けがつかず、それどころかマリの姿は何所にも居なかった。

 

「ちっ、まあいい。まずは水晶だ」

 

 シュンはこの時代にマリが何の目的で来たのか真意は分からなかったが、今は彼女に構っている暇はないので、水晶を探すことを優先し、戦闘に紛れて赤の広場を離れようとする。

 ただ一人、戦場へと脱出しようとするシュンを、ソ連赤軍の将兵の誰もが気にも留めず、侵略者であるドイツ兵を殺すことに集中していた。

 そのおかげで容易に赤の広場から脱出に成功、激戦区からの脱出に成功したところで、シュンは水晶の位置を示すコンパスを取り出し、針が差す方向に沿って向かう。

 

「さて、あの女が何をしようとするのは分からんが、水晶を取られちまう前に、見付けねぇとな」

 

 マリがなにを考えてこの場に来た理由は、あの不気味な模様のメダル以外に不明だが、先のスターキラー要塞のように水晶を狙っているかもしれない。

 彼女より先に水晶を見付ける為、コンパスが示す方向へと急いだ。




取り敢えず、大剣使う回を入れてみた。

マリマリが来た理由は、次回でする予定。

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