『あの上空に現れた敵超巨大空母は、ステルス機能を持っております。コヴナント軍は我々より遥かに巧妙です』
付近の洞窟まで撤退したノーブルチームに、専用のAIは上空に現れたコヴナント軍の超巨大戦艦は、レーダーには映らないステルス空母であると解説し、コヴナント軍が人類よりも巧妙であると告げる。
「あんな馬鹿デカい戦艦がレーダーに反応しねぇとわな。一体どうなってんだ、コヴナントってエイリアン共は?」
「それについては、簡単な話、俺たちは勝ち目のない戦争をしてるってことさ。圧倒的な科学力と物量を誇る宇宙の軍隊とな」
「なるほど。早く逃げた方が良さそうだな」
あれほどの巨大な物体が、レーダーに映らないことを不思議がるシュンは、先輩であるジュンに問えば、彼はこのコヴナントとの戦争は勝ち目のない戦いだと答える。
その答えを聞いたシュンは、早くここから逃げようかと冗談で口にしたが、ジュンはまだ早いと言って、リーチの戦いは人類かコヴナントが勝つのかと言う賭けを持ち掛ける。
「まぁ、逃げるのはまだ早い。でっ、ルーキー、お前はどっちに賭ける?」
「そうだな。俺はコヴナントに…」
「いや、コヴナントは止めておけ。コヴナントよりも、彼女の方が一枚上手だ。大損する羽目になるぞ」
賭けに誘われたシュンは、コヴナントに賭けようと思ったが、ジョージに止められる。
彼曰く、首脳部を悩ませる情報収集力を持つキャットが、コヴナントよりも一枚上手のようだ。
「あんなのを前にして、増援を待ってたら全滅しちゃうわよ」
「こちらの核爆弾は破壊されたか星系外だ。どうしようもないだろう」
リーチ防衛軍本部は、地球の総司令部に増援要請はしたらしいが、増援が来るまで二日以上の時間は掛かるそうだ。
反撃すべきと主張するキャットに対し、あの巨大な宇宙戦艦を破壊できる手元の核兵器は無いとカーターは答える。
だが、キャットにはこれを打開する考えがあるようだ。
「ほら、うちのチームの策士、キャット参謀の打開策が出されるぞ」
それを合図するかの如く、ジョージはシュンの肩を叩き、キャットの打開策が出ると彼女の方へ視線を向ける。
「どうかしら」
「考えがあるのか?」
「興味ある?」
「いや…」
カーターはキャットの考える打開策はおそらくろくでもないことであると長年の付き合いで分かり、聞くのを止めた。
そんなカーターに対し、キャットは自分の考えた打開策を告げる。
「なんだ?」
それでも聞いてやろうかと、カーターはその考えがどんな物かをキャットに問う。
「何年か前の事故を覚えてる? シグナス行きの船で七百人が死亡した」
「あぁ、覚えてる。スリップスペースドライブの故障だろう」
キャットの出したのは、数年以上前に起きた宇宙旅客船の事故であった。
これを聞いたカーターは自分の覚えている限りの事故の原因を言えば、キャットは事故の詳細と原因はドライブの取り付け具合の問題であると明かす。
「その為に、船の半分が地獄行きになったわけ」
「その事件と、関係が?」
事故とコヴナントの巨大空母と何の関係があるのかと問うたカーターに対し、キャットは事故と同じことをすると明かす。
「コヴナントの巨大空母も、ちょっと手を加えれば同じ目に遭わせられるわ」
「待て、キャット。それは…」
「名案?」
「あぁ、まぁな」
キャットが出した策とは、コヴナントの巨大空母を数年前の事故と同じスリップスペースドライブの不具合で撃沈すると言う物だった。
名案と言うのは、余りにも名案と言う他なかった。
そんな大それた起死回生の作戦を聞こうと、ジョージは二人に近付き、詳細を聞く。
「どんなお話で?」
「キャット、説明してやれ」
カーターは作戦の立案者であるキャットに説明を請えば、彼女はエミールのククリを借りようとしたが、止められる。
「いい?」
「あぁ、怪我するなよ」
ちゃんと許可を取れば、エミールは快くククリをキャットに貸した。
それを見ていたシュンは、この戦いの結末を知るギルアズに、キャットがどんな作戦を立てたのかを問う。
「おい、あの策士殿は一体どんな作戦をおっ立てるんだ?」
「そんなの、俺が知るか。俺が知っているのは、この戦いは確実に負けるって事だよ」
「ちっ、使えない奴め」
ギルアズは負けること以外の詳細を知らなかったようで、当然ながらキャットが立てた起死回生の作戦の事も知らない。
そんな彼に対し、シュンは酷い悪態を付いた。
余りにも酷い相方を睨み付けるギルアズの視線を他所に、キャットは皆に作戦の説明する。
「目的は、静止軌道上にあるコヴナントの馬鹿デカい空母の破壊よ」
「もう許可を?」
キャットが立てた作戦に、ジョージは上層部の許可を取っているのかを問えば、カーターは首を横に振った。
つまりキャットの独断である。
「いいや」
「あぁ」
いつも独断をしているのか、ジョージは呆れ返った表情を浮かべた。
彼の様子を見ていたシュンは、ジュンにいつも上層部の許可を得ずに独断で作戦を立てているのかと問う。
「なぁ、いつもこうなのか?」
「あぁ、うちの隊の恒例行事だ。危機を脱するのに、一々上官の許可が下りるのを待つのか? その間に、一体どれだけの被害と死傷者が出ると思う?」
「まぁ、確かに。ラーメンも早い内に食べないと延びちまうしな」
「そういうこと」
ジュンの返答は、許可が下りるのを待つのは時間の無駄だと言う事であった。
この返答をシュンは尤もな意見と捉え、キャットの説明に耳を傾ける。
「核の代わりに、スリップスペースドライブを使うわ。仕掛けるのは我々。問題は、そこまでの移動手段と、スリップスペースドライブが手に入るかどうか」
名案であるが、問題はそこまでの移動手段とスリップスペースドライブが手に入るかどうかだ。
説明を終えたキャットは、ククリをエミールに返す。ちゃんと柄の方を向けて。
丁寧に返されたククリをエミールは受け取り、それを鞘に戻す。
「軌道上までの移動手段とスリップスペースドライブの調達か…」
「私みたいな下っ端兵士には、入手できないリソースだけど、当たってみる所は例えば…そうね…」
佐官階級の自分の権限では手に入らない物と言って、何処かで手に入りそうな場所をキャットは見当がついているのか、その方向へ視線を向ける。
「政府が否定し続けているセイバープログラムの存在しない発射場なんてどうかしら。この付近にあるって噂よ」
不確かな情報であるが、度が過ぎる情報収集力を持つキャットが口にするならかなりの信用性が出てしまう。
更にキャットは、自分等の中に、そのテストパイロットが混じっているとまで言い始める。
「確かうちの新人さんがそこのパイロットだったはず」
このキャットの発言を耳にした6の表情は、ヘルメットのバイザーで隠れていて分からなかったが、かなり驚いている様子だ。
度が過ぎると上司たちの悩みの種であるキャットの情報収集能力に、エミールは仲間でありながらも恐るべき物であると口にする。
「全く怖い女だぜ」
エミールの発言を聞いてか、シュンもギルアズもとっくに自分等の正体を、キャットは知っているのではないかと不安を覚える。
「俺らの正体もバレてんじゃねぇのか?」
「そんな馬鹿な。俺とアウトサイダー様の情報改変だぞ。バレるわけが無い」
自分とアウトサイダーによる情報改変なので、この世界の人間に自分等の正体を見破れるわけが無いと、ギルアズは断言するが、その口調は振るえていた。
話は戻り、キャットは上司であるホランド大佐の許可が下りるかどうかが問題であると出す。
「大佐の許可が下りれば良い話だけど」
「そいつが問題だ」
「交渉次第よ」
自分等の上司であるホランド大佐の許可が下りるかどうかが問題であったが、その問題を既にキャットは対策していたのか、対策案が記録してある端末をカーターに渡す。
それを受け取ったカーターは、端末の情報を見る前に、許可は下りないだろうと断言する。
「答えはNOだと思うがな」
所変わって、存在しないはずのセイバープログラム発射場基地がある現場。
ノーブルチームを乗せたファルコンは、発射場から少し離れた距離に着陸し、乗っているチームの面々を降ろす。
既に発射場はコヴナント軍の攻撃を受けており、守備隊との交戦が始まっていた。
空は発射場に居る守備隊の対空砲がどうにか補っているようだが、長くは持たないだろう。
発射場まで行けば、撃墜されること確実だ。敵の攻撃が来ない近くに着陸し、そこから発射場まで徒歩で移動する。
降りたのはリーダーであるカーター、副官のキャット、古株のジョージ、新人の6とシュン、それにギルアズだ。ジュンとエミールは、予備に控えている。
「急げ、ノーブルチーム!」
ファルコンから降りて早々に、まだ距離がある発射場までノーブルチームは駆け足で向かう。
彼らが発射場まで行けたと言う事は、どうやらホフマン大佐はキャットの立案を許可したようだ。
「発射場は真正面よ」
「よし、急ぐぞ」
岩場を出て発射場が見えれば、一同はそこへ向かう。
無論、コヴナントからの攻撃を受けているので、発射場周辺にはグラントやジャッカル、エリートがうようよ居る。
それでも構わずにノーブルチームは敵の包囲網へ突撃し、食い破る勢いで前進する。
「うわっ!? 空から降って来たポッドからエリートが!」
銃を撃ちながら前進する中、上から敵の降下ポッドが降って来て、そこからエリートがカービン銃を片手に出て来る。
「降下兵だな。構うな、前進しろ!」
シュンが驚いて口にする中、それが降下兵であることを知っているジョージは、構わずに前進しろと伝え、ハンドメイドのチェーンガンを撃ちながら前進する。
増援は降下ポッドのみならず、中型の輸送機からも出されたが、これだけの戦力を持ってしてもスパルタンチームは止められず、発射場近くまでの接近を許す。
激しい戦闘が行われる中、一機のセラフが対空ミサイルか機関砲で撃墜され、発射場近くに墜落した。
それとは関係なしに、ノーブルチームは発射場まで辿り着くことに成功する。
「こちらへ!」
周辺の敵をノーブルチームが排除すれば、立て籠もっていた守備隊の兵士が出入り口のゲートを開け、チームを中へ手招く。それと同時に維持のための増援を乗せたペリカンが飛んできた。どうやら制空権の安全は確保された様子だ。それを証拠にUNSCの戦闘機がコヴナント軍のセラフ級戦闘機と交戦を始めている。
「コントロールルームは、こちらです!」
入って来たチームに、守備隊の兵士は事前に言われていたのか、彼らをコントロールルームへと案内する。
その道中に、ジョージは自分等の上司であるホランド大佐がキャットの作戦に許可を出したことに驚く。
「まさか大佐が許可を出すわな」
「名案過ぎると、断られたかしら?」
「どちらにせよ、大佐の気が変わる前に、セイバーを飛ばさないとな」
キャットが一度は断れるかと思っていたが、一回で通ったことに驚きつつ、カーターは上官の気が変わる前に、セイバーを飛ばす必要があると言って、コントロールルームへと急ぐ。
先陣を切るため、シュンは分隊支援火器から散弾銃に切り替え、チームよりも前に行く。
「うぉ!?」
「エリートだ!!」
コントロールルームはもう直ぐそことなるが、一体のエリートが侵入していたのか、一人の守備兵を弾き飛ばし、ノーブルチームの目の前に姿を現す。
直ぐにシュンは散弾銃を撃ち込み、そのエリートを即座に排除した。
排除して数秒後に他の区画にも敵の侵入があったのか、警報が鳴り始める。もう長くは持たない。急いでセイバー戦闘機を飛ばす必要がある。
そう察したカーターは、急いでコントロールルームまで向かった。
「お待ちしておりました。さぁ、早く乗ってください。ここはもう長くは持ちません」
ノーブルチームの到着を確認した技術者は、装置を動かし、一番近い発射台に駐機してあるセイバー戦闘機を起動させた。
「これがセイバー戦闘機か」
「おい、俺の分もあるか?」
シュンが目前にあるセイバー戦闘機を見て呟く中、ギルアズは自分の分があるかどうか技術者に問う。
彼は予備の機体も発射台に乗せ、出撃の準備はもう終わっていると答える。
「予備の機体もあります。パイロットが攻撃で戦死しため、空いています」
予備の機体は出撃状態で、後は乗るだけだと答えた技術者に、シュンはギルアズがセイバー戦闘機を動かせるかどうか不安になり、動かせるのかを問い詰める。
「おい、戦闘機なんて操縦できるのか? 俺はMSとかAT、戦術機とかのロボットしか動かしたことが無いぞ」
「何を言ってる。俺が技術者だ。戦闘機の操縦ぐらい、朝飯前だ」
そんな疑り深い相棒に対し、ギルアズは自信満々で応える。
「なんにせよ、一機でも多い方が良い。破壊される前に早くセイバー戦闘機に乗り込め。俺とキャットは、ジュンが迎えに来るファルコンで脱出する。ジョージ、6とブラック、ギアーズの事は頼んだぞ」
「任せておけ、リーダー。さぁ、早く乗り込もう」
ギルアズも操縦できると分かれば、カーターはジョージに新人たちを任せ、キャッと共にコントロールルームを離れた。
チームの隊長と副官がこの場から去れば、残った面々は発射台に駐機されているセイバー戦闘機に乗り込み、機体を起動させてキャノピーを閉める。
シュンとギルアズの方は、操縦が後者の方で、前者は後部の助手席へと座り、発進までに備える。
『発進五秒前。5、4、3、2、1。第一エンジン点火』
アナウンスがコックピット内で響いた後、セイバー戦闘機は発射台から第一エンジンを吹かして飛び出し、衛星軌道上を目指した。
6とシュン等の二機のセイバー戦闘機のみならず、打ち上げられたセイバー戦闘機は他にも三機、いや、十機いた。どうやら一個中隊規模のセイバー戦闘機が発射場から打ち上げられたようだ。
最も、一個大隊くらいは欲しいところだが、コヴナント軍に攻撃された影響で一個中隊くらいしか残らなかったらしい。
『大気圏突破を確認。第一ロケットを排除します』
第一エンジンの推力で大気圏を抜け出し、宇宙にまで達したら、燃料の切れた第一エンジンはコンピューター操作で自動的に本体から排除される。
それからセイバー戦闘機本体のエンジンが稼働して、セイバー戦闘機は予め入力されていた
その目的地はアンカー9。そこで、コヴナントの超巨大ステルス空母を破壊するために必要なスリップスペースドライブを調達する。
スリップスペースドライブを提供してくれるのは、フリゲート艦サバンナだ。
フリゲートからの取り外し作業が完了し、ペリカンにそれを取り付け次第、出撃した他のセイバー戦闘機と共に作戦行動に入る。
6とシュン等が乗るセイバー戦闘機は、宇宙ステーションであるアンカー9に急いだ。
『ノーブルアクチュラルよりセイバーブラボーO-29』
『聞こえています。ホランド大佐ですか?』
『そうだ、ジョージ。アッパーカット作戦にようこそ。ここからは私が指揮する』
アンカー9に達したセイバー戦闘機中隊に向け、シュン等には聞き慣れない声が聞こえて来た。
聞き慣れているジョージは、直ぐに声が上司であるホランド大佐であると分かり、本人であるかどうかを問う。
これにホランドは本人だと答え、キャットの立てた起死回生の作戦、アッパーカット作戦に参加した一同を歓迎し、作戦の指揮は自分が執ると告げた。
直ぐに作戦に備えるため、アンカー9とドッキングし、スリップスペースドライブの取り外し作業を行っているフリゲート艦サバンナと合流しようとしたが、所属不明機が多数レーダーに映る。
『レーダーに所属不明機多数!』
ジョージがそれを全機に知らせれば、サバンナのレーダー手からの無線連絡が入る。
『サバンナアクチュラルより複数の不明艦が接近中』
それから物の数秒ほどでアンカー9の司令官より無線連絡が入る。
『アンカー9より全UNSC艦へ。ステーションの防衛システムがダウンした。復旧するまで、戦闘支援を求む』
『よし、お前ら。腕の見せ所だ』
接近して来る不明艦の正体は、直ぐにコヴナント軍の威力偵察か斥候部隊であると分かっており、司令官は防衛システムが復旧するまでステーションを守る様に戦闘機部隊に要請した。
その命令を受けたセイバー戦闘機部隊は、接近して来るバンシー軽戦闘機部隊と交戦を始めた。
「来たぞ。十二時方向からバンシーが多数! ビビるなよ!」
「喧しい! 俺は空間戦のプロだ! この程度でビビるか!」
後部座席のレーダーで複数のバンシーが突っ込んで来るのが分かったシュンは、前座で操縦桿を握るギルアズに怖気づくなと注意したが、彼はシュンよりも実戦経験があるらしく、怒鳴り返して敵機との戦闘を始めた。
プロと自称する辺り、腕はそれなりであり、他のセイバー戦闘機のパイロット同じくバンシーを一機撃墜する。
「ほぅ、やるじゃねぇか」
「それより掴まってろ! かなり揺れるぞ!!」
「うぉ!?」
一機を機銃で撃墜したギルアズの腕前に、シュンは舌を巻いた。
そんなシュンに対し、ギルアズは敵機からの攻撃を躱して機体を揺らした。
アンカー9に攻撃してきたバンシーは、数が少なすぎたのか、短時間で全滅する。
「敵部隊は全滅だ!」
「馬鹿野郎。ありゃあ多分、斥候か威力偵察だ。直ぐに本隊が突っ込んで来るぞ。それも大多数でな!」
『ブラックの言う通り、今度はセラフが突っ込んで来る。本番はこれからだぞ!』
敵部隊を全滅させたことで、ギルアズは勝ったと思い込んだ様子だが、シュンは長年の感でこれが斥候や威力偵察であると見抜いた。
ジョージの言う通り、レーダーにセラフ級戦闘機部隊がバンシー軽戦闘機を随伴させて多数で突っ込んで来る。見事な編隊飛行であり、統制も取れて士気も高い。まさに宇宙最強の軍隊だ。
セラフ級戦闘機の撃墜方法を、ホランド大佐は無線で全セイバー戦闘機に知らせる。
『セラフ戦闘機は機関砲でシールドを削り、ミサイルでとどめを刺せ』
セラフ級戦闘機の撃墜の仕方が分かったが、迫る敵機の数に、ギルアズは怖気づき始める。どうやらギルアズは海賊くらいしか戦ったことが無いようである。
「よ、四十機以上はいるぞ! 俺が相手をしたのは海賊だ!」
「馬鹿野郎、相手は軍隊だ! 海賊じゃねぇ! 腹くくれ!!」
キャノピー越しから見える多数の敵機にギルアズが怯える中、シュンは敵が軍隊であると答え、覚悟を決めるように叱咤した。
そんな彼らが乗るセイバー戦闘機に容赦なく、先行して攻撃して来るセラフ戦闘機はプラズマ弾を浴びせる。
「うわっ!」
「敵機だ! 何ぼさっとしてる!? やり返せ!!」
セイバー戦闘機はUNSC海軍や空軍の既存のロングソード戦闘機とは違ってシールドがあり、ある程度の被弾なら受け切れるが、三機のセラフ戦闘機に囲まれたセイバー戦闘機はシールドを破られ、撃墜される。
敵機の攻撃は回避する必要はあるようだ。
それが分かれば、全機は回避行動を取りながらセラフ戦闘機とバンシー軽戦闘機と交戦を続ける。
敵機の攻撃を受け、怖気づき始めるギルアズに、シュンはやり返すよう怒鳴るが、彼は攻撃を避けるだけでまともにやり合おうともしない。
『敵機撃破! 次だ6!』
「大佐からの無線は聞こえてるな? 機関砲でシールドを削り取ってからミサイルだ!」
「そんなの、分ってるって!」
6がセラフ戦闘機を撃墜したのをジョージが逐一無線で報告する中、シュンは敵の攻撃を避けてばかりなギルアズにさいど攻撃するように言えば、負けていられないと思った彼はこちらに背後を見せたセラフ戦闘機に向けて機関砲を浴びせる。
照準機能が付いているので、照準器を敵機に合わせていれば、コンピューター操作で自動的に機関砲弾は標的に飛んで行き、敵機のシールドを削り取った。
シールドが回復する前に、照準を定めてからミサイルの発射ボタンを押し、ミサイルを発射させる。
「敵機撃破!」
「よし、良くやった!」
発射されたミサイルは敵機に命中し、セラフ戦闘機は爆散した。
敵機を撃破したことで、ギルアズは戦意を向上させ、シュンは敵機を撃墜した彼に労いの言葉を贈る。
その後は6がバンシーを七機、セラフ戦闘機を四機ほど撃墜し、ギルアズがバンシー五機、セラフ三機を撃墜すれば、残りは他のセイバー戦闘機が撃墜して敵第一波は全滅する。
第一波を全滅させたところで、ステーションから敵の第二派が迫って来ることが知らされる。
『アッカー9より全UNSCユニットへ。スリップスペース反応多数! おそらく第二派だ。反応の数からして大規模な物と思われる。セイバーチームと哨戒機はステーションを防衛せよ!』
『どこもコヴナントだらけか…!』
第二派は第一波とは比べ物にならない数らしい。
この無線連絡を聞いたジョージは、自分の故郷が完全にコヴナントの支配下になっているのではないかと心配し始める。
そんな敵に戦闘機一個中隊で対処せねばならないのかとシュンは悩み始めたが、少しはマシになる朗報が寄せられる。
『アッカー9より各UNSCユニットへ。ステーションの防衛システムが復旧した。道を開けてくれ。一斉射撃を行う』
この朗報の後、スリップスペースと呼ばれるワープ空間より、多数のセラフ戦闘機が姿を現し、目に付いた物に向けてプラズマ弾を浴びせ始める。
復旧したステーションの防衛システムは、すぐさま搭載している対空機関砲の一斉射を敵の集団に向けて放ち、数機を撃墜する。
一斉射を逃れたか回避した敵機に対しては、セイバー戦闘機部隊や増援としてやって来たロングソード戦闘機部隊が排除を始める。
『こちらセイバー8! ケツに着かれた! 助けてくれ!!』
戦闘を繰り広げる中、シュンやギルアズが乗る戦闘機の無線機から敵機に背後を取られた友軍機からの救援要請が来た。
救援要請を受け、レーダーを見ていたシュンは、自分等が一番近い事が分かり、ギルアズに救援に行くように告げる。
「俺らが近いな。八時方向だ。あいつのケツに、セラフが金魚のフンみたいにくっ付いてやがる」
「よーし、あいつだな。奴は敵機を落とすのに夢中だ。今のうちにやろう!」
シュンが指差した方向に、友軍機を必要に追い回し、撃墜しようとするセラフ戦闘機が見えた。
それを確認したギルアズは、操縦桿を動かして、友軍機を追い回す敵機の背後を取り、機関砲を浴びせる。
シールドを削いだところで、ミサイルを撃ち込み、完全に敵機を撃墜する。
『助かった! ありがとう!!』
友軍機を救出すれば、そのパイロットからお礼の言葉が無線機より聞こえて来る。
それから戦闘に没頭し、迫り来る敵機の攻撃を躱しつつ、敵機を出来る限りの範囲で撃墜し続ける中、敵の新手の出現を知らせる無線連絡が入る。
『アンカー9より全ユニットへ! 前方のベクトルからファントムを探知! 砲火級だ!』
『あれだ。ドデカイ大砲らしき物を詰んでいる! あいつを最優先だ!!』
その新手とは、対艦仕様のファントムだ。敵機との交戦を続ける6機の後部座席で砲火級のファントムを確認したジョージは、全員に存在を知らせる。
『真っ直ぐ防衛砲台へと進んでいる! 砲火級をマークする、雑魚に目をくれるな! 最優先で撃墜せよ!!』
ステーションの戦闘指揮所はそのファントムを驚異と断定し、最優先で撃墜するように命じた。
直ぐにレーダーに赤い大きなマーキング反応が示される。それがファントムであり、最優先破壊ターゲットである。
『俺たちでファントムを撃墜しよう。ギアーズ、俺たちに続け。他は護衛機の足止めを頼む!』
『了解!』
その最優先ターゲットを撃墜の担当をするのは、6とジョージが乗るセイバー戦闘機と、シュンとギルアズが乗るセイバー戦闘機だ。敵の護衛機は他のセイバー戦闘機や増援のロングソード戦闘機部隊が担当する。
防衛砲台を破壊しようと、ステーションに突き進むファントム兵員輸送機に向け、二基のセイバー戦闘機は機関砲を浴びせる。
迫り来る二機の機動防衛用戦闘機に向け、搭載砲を撃ち込んで迎撃を試みるファントムであるが、対艦に対施設用の砲であるため、簡単に避けられあっさりと撃破される。
二機、三機と次々とファントムは撃墜されていき、最後の一機はステーション内を射程距離に捉えたようだが、防衛砲台の集中砲火を浴びて爆散した。
砲火級のファントムを失った敵部隊は、これ以上の戦闘は損害を無駄に増やすばかりだと判断してワープ航法での撤退を始めた。
『アッカー9よりUNSC艦へ。全敵部隊は撤退した。追撃は無用、アッパーカット作戦に備え、当ステーションにドッキングし、補給を済ませろ。ブラボーO-29、ドッキング準備完了。マーカーで表示する』
追撃と言っても、敵はワープして逃げたので出来ないので、セイバー戦闘機はアッパーカット作戦に備え、アッカー9に向かってそこで補給を済ませる。
ノーブルチームのセイバー戦闘機二機も、補給のためにステーションに接近する中、ホランド大佐より無線連絡が入る。
『ホランドよりブラボーO-29、ノーブル5、準備は良いか?』
『はい、大佐』
その無線連絡は準備が出来ているかどうかの問いだ。直ぐにジョージは上官にいつでも準備が出来ていると答える。
6やシュン等を含めるセイバー戦闘機各機は、周辺の警戒を増援のロングソード戦闘機部隊に任せ、ステーションの誘導管制に従い、空いているハンガーにドッキングし、次の作戦に備えての補給に行う。
ステーションのハンガーにドッキングした6のセイバー戦闘機のキャノピーが開き、そこからジョージが無重力の世界へと飛び出す。
「俺はジョージの方へ行く。お前はそれに乗ってろ。戦闘機ならお前の方が上だ」
ギアーズが操縦するセイバー戦闘機でも、シュンはジョージに続いて戦闘機から降りて、宇宙へと飛び出した。
無重力空間は、数カ月ほど前に経験しており、移動の仕方も大分教わっているので、難なくサバンナの近くまで向かう事が出来る。
その時に、サバンナへと無重力の反動で向かうジョージから、聞き慣れぬ言語の言葉が無線に入って来る。
『【なんて無残な姿に…】』
『ノーブル5? 聞き取れません』
ノーブルチームのAIは、ジョージが口にした言語を聞き取れなかった。どうやらUNSC全体の公用語である英語しか聞き取れないようだ。
そんなジョージがスリップスペースドライブの取り付け作業を行っているペリカン輸送機に近付けば、AIにリーチの状況を問う。それと同時に、シュンもペリカンへと到着し、出されたジョージの右手を取って、ペリカンに到達できた。
『グリット19の22を頼む』
『はい、ノーブル5。ONIソード基地、セクター18G』
その後から、惑星に巨大な爆発が複数起こる。どうやらコヴナント軍の攻撃が本格化してきたようだ。
「大丈夫か、これ」
『熱感知を』
この状況下の惑星を見てシュンが呟く中、ジョージはまだ誰か残って居るのかを問う。
無機質なAIは、ジョージの脈拍が上昇しているのに気付き、落ち着くように告げる。
『ノーブル5、脈拍が上昇しております。あなた一人ではハルゼイ博士やソード基地の人々を救う事は出来ません。ノーブル5?』
一人ではハルゼイ博士を含める惑星リーチやソード基地の人々は救えないと言って、落ち着かせるAIに対し、ジョージは心を落ち着かせ、分っていると答えた。
『分かっている』
AIに少々苛立ちながら答えたジョージは、ペリカンにドライブを取り付けている整備兵にいつ終わるのかを問う。
『ドライブの取り付け作業は? もうセイバー戦闘機の補給が終わったぞ』
『あともう少しで終了します』
『急いでくれ。置いてきぼりはごめんだ。さぁ、ペリカンに乗るぞ、ブラック』
「おぅ…」
取り付け作業がもう少しで終わると分かったジョージは、シュンの肩を叩き、先にペリカンへと乗り込んだ。
これに応える形で、シュンもペリカンへと乗り込んだ。
『取り付け作業完了!』
「取り付け作業完了! 発進します!」
「出してくれ」
取り付け作業が終わったことが知らされれば、パイロットはドライブを搭載した自機を発進させた。
攻撃部隊はセイバー戦闘機一個中隊と、スリップスペースドライブを搭載したペリカン一機。その支援としてドライブを提供したフリゲート艦サバンナが続く。
かくして、起死回生の作戦アッカーカッと作戦は決行された。
作戦に従事するシュンやノーブルチームは、そこに更なる絶望が待っているとも知らずに…。
さて、艦これの愛宕とアズレンの愛宕のエロ短編SSでも書こうかな。