復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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?「弱者に生きる価値無し!」

令和二年、リガンをゼロ大帝化しますた。


弱肉強食

「ここまで逃げ切れたら大丈夫だろ」

 

 森の中で敵を撒くことに成功したシュンは後方を確認しながら呟き、村で撃たれた左肩の治療を始めた。もしもの時に備えて持ってきた市販用の医療キットを取り出し、摘出用のピンを一つ取り、それを傷口へ無理矢理突っ込んで、強引に銃弾を摘出しようとする。

 

「グッ…!」

 

 これに伴い凄まじい激痛が左肩に襲い掛かるが、シュンに取っては慣れた痛みであった。銃弾を摘出すれば、止血剤を傷口に撒き、血が止まれば包帯を乱雑に巻いた。包帯を巻き終えれば、アルコールで消毒した痛み止めを左手に打ち、左手を揺らす。

 

「うっし、これである程度は大丈夫だな。後で破傷風の薬を打って貰わないと」

 

 後で破傷風のワクチンを打って貰うことを忘れずに、シュンはM1ガーランド半自動小銃を持ち、自分がここで治療をしていた痕跡を消せば、合流地点まで急いだ。敵が自分を発見していないことを確認すれば、森林の中を進みながら移動する。暫く森林の中を進む中、シュンは人の気配を感じ、銃を握って辺りを警戒する。警戒しながら進むと、背後から男の声が聞こえた。

 

「動くな」

 

 男の声は小さかったが、シュンにはハッキリと聞こえた。それから引き金に指をかける音が聞こえ、銃口が自分の後頭部に当たっている感覚を感じる。どうやら反撃をさせないようにしているのだろう。シュンからすれば隙だらけであり、右手で銃身を弾き、自分の後頭部に銃口を当てた男を組み伏せた。

 

「うぉ!?」

 

「動くなよ、兵隊さんよ」

 

 逆に銃口を向けられる羽目となった男は、大人しく両手を挙げた。その男は迷彩服を着た兵士であり、先程シュンが弾いたライフルはAK74突撃銃であった。銃口を向けられている兵士は、シュンに何者かを問う。

 

「お、お前…敵のスパイか?」

 

「スパイ? 俺がスパイに見えんのか?」

 

「その動き、明らかにスパイだろ?」

 

「いや、俺はただの孤児院の園長だ。孤児を工作員に仕立てるなんて事はしてねぇぞ、絶対に」

 

 兵士の問いに対して答えれば、逃げられた場所を突き止められないよう伏せるように告げたが、周囲から近付いてくる気配に気付き、銃を向けた。

 

「よし、動くな。お前は完全に包囲されている大人しく手を挙げろ」

 

 しかし、一発目を撃てば、即座に蜂の巣にされているため、シュンは大人しく手を挙げ、自分が組み伏せた兵士と同じ迷彩服を着た兵士等に降伏した。それから銃口を突き付けながら歩かされること数分、兵士達の野営地と思しき場所へと辿り着いた。テントが幾つか張ってあり、何名かの兵士達が薪を囲んで水か珈琲を啜っていた。シュンを捕虜にして戻ってきた兵士等に気付いた士官が、何処から捕虜を獲得したのかを問う。

 

「おい、そこのデカイのは何処で拾ってきた?」

 

「はっ、中尉殿。近くの茂みで見付けました。スパイの疑いがあった為に捕虜にしたのであります」

 

「そうか。そこに座らせろ。後で尋問する」

 

「了解! 歩け」

 

 士官の問いに答えた後、シュンを一番目の届く場所へ置くよう指示した。拘束されたまま一番目立つ場所へ座らされたシュンは周囲で野営している兵士等を見て、彼らが敗残兵であることを見抜く。それが本当であるかどうかを自分の見張っている下士官に問うた。

 

「兵隊さん達は敗残兵か?」

 

「そうだ。ナロボ戦線で我が第18歩兵師団は最新式の装備を持つ敵軍に大敗を喫し、壊滅した。今では旅団ほどの兵員になって大隊ごとに散らばって撤退している。ちなみに我が小隊は小休止中だ、三十分後に第5機甲師団の戦区へと移動する」

 

「あぁ、そうかい。ちなみに俺はスパイじゃない」

 

「そうかよ」

 

 周囲にいる兵士達が敗残兵であることが分かれば、スパイでないと再度訴えたが、その兵士は適当に流した。それから数分、尋問を行う髭面の下士官が現れ、シュンを上から下まで見た。暫し見つめた後、捕まえた兵士にシュンの手荷物を確認したのかどうか聞いた。

 

「こいつの持ち物は確認したか?」

 

「はい、ちゃんと確認しました。これです」

 

 問われた後に、シュンの持ち物を下士官に手渡した。

 

「M1ガーランドに熊を一発でぶっ殺せるほどの猟銃、Mk23自動拳銃、日本刀に弓矢、それに大剣…?後は市販の医療器具に弾薬か…スパイらしい物が一切ないな」

 

「埋めたのでは?」

 

「いや、それはないな。こいつは明らかにスパイ向きじゃない」

 

「え、でも…」

 

 シュンがスパイではない事を断定した下士官に対し、兵士は折角の手柄を否定され、異議を申し立てるが、下士官はそれを払い除け、捕虜の解放を命じる。

 

「こいつはスパイじゃない。解放しろ」

 

「了解しました…」

 

 強く命じられた兵士は、嫌々とシュンの拘束を解き、自由にした。

 

「ありがとよ。あんた話が分かるな」

 

「あぁ、お前はスパイ向きじゃない。”馬鹿”だからな」

 

「…一言余計だぞ」

 

 礼を言った後に、その下士官は一言余計な事を言ったため、舌打ちしながら彼の後に続いた。向かった先は、焚き火の前で椅子に腰を下ろしている士官だ。近付いてきたシュンと下士官に気付いた士官は、何故解放したのかを問う。

 

「おい、なんで解放した?」

 

「はい、こいつがスパイでは無かった物で」

 

 答えを聞いた後、シュンを見れば、その答えに納得した。

 

「ふむ、確かにそうだ」

 

「はぁ、あんたもかよ…」

 

 髭面の下士官と同じく、自分を馬鹿にする士官の声を聞き、シュンは溜め息をついた。

 そんなシュンの心情に察することなく、士官は何故あそこに居たのかを問う。

 

「で、お前はあそこで何をしていた?」

 

「何って、ただ逃げてたんだ。あんた等と戦ってる軍隊から」

 

 正直なことを言えば、次の問いを掛けてくる。

 

「成る程。それで、ルソン上等兵が逆に組み伏せたお前は元特殊部隊関係の軍人か?」

 

「あぁ、馬鹿でかい軍事組織の空挺部隊に居た。色々あって辞めちまったが」

 

「最終階級は?」

 

「大尉」

 

「大尉? 大尉だと? その頭で?」

 

「なんだ、悪いのか? 何回か降格されたこともあっぞ」

 

 元軍人であることを察した大尉の問い掛けに対し、シュンは正直に答え、除隊時の階級が大尉であることを告げれば、その場にいた全員が腹を抱えて笑い始めた。

 

「ぶっ、ブッハハハ! た、大尉だって! ハッハッハッ!!」

 

「その頭で大尉だとわな! 笑わせるぜ!」

 

 周囲で笑いこける兵士達に対し、シュンは訳を話す。

 

「俺だって不思議だと思ってるよ。なにもそんなに笑うことはねぇだろうが!」

 

「だってよ! その頭で、ひっ、ヒヒヒ!」

 

「クソが! 笑ってろ!!」

 

 自分を嘲笑うのを止めない周りに対し、シュンは挑発のジェスチャーである中指を立ててその場に座り込む。そんなシュンの被弾した左肩に巻いた白い包帯が紅く染まり始めた。それを見逃さなかった衛生兵は、直ぐにシュンの左肩に目をやり、包帯を無理矢理解く。

 

「何すんだよ!」

 

 包帯を解いた衛生兵の手を払い除けたシュンだが、露わとなった左肩の銃創の治療跡を見た衛生兵は、余りにも下手な治療法に呆れる。

 

「おい、なんだこの下手くそな治療法は? これじゃあ、感染症に罹るぞ。ロソ、こいつを抑えてくれ」

 

「分かった。さぁ、我慢しろよ…ケツの穴にナニを突っ込まれるより痛てぇぞ」

 

 衛生兵はロソと呼ばれる大柄の兵士にシュンを抑え付けるよう指示した。それに応じてロソと呼ばれる兵士がシュンを抑え付けた。シュンは撫で回されるような感触と口調でロソが”ゲイ”であることを分かり、自分はゲイでない事を必死に訴えかける。

 

「おい! ちょっと待て! 俺にはそんな趣味はねぇぞ!!」

 

「大丈夫だ、俺はノンケを無理矢理犯すサディストじゃない」

 

「離せこら! うぉ!? 痛ってぇ!!」

 

 ゲイの大男に抑え付けられながら、シュンは麻酔無しの適切な治療を受けた。

 暫くして、シュンの左肩の治療は終わって二十分経った所で、小隊は味方の陣地へと移動した。それにシュンは途中で子供達が待つ場所まで通ると思い、同行することにする。もちろん、何処かの隊が子供達を保護したかどうかの確認を怠ることもなかった。

 

「二歳から十五歳までの子供らを保護したって? 聞いた事はないが、この地図の辺りまで、ノンダス人の傭兵部隊が通ったって無線を聞いたな」

 

 移動の最中、子供達の安否を通信兵に問えば、ノンダス人の傭兵部隊が保護したという情報を得た。確かかどうか再度問う。

 

「本当か? 空耳じゃないよな?」

 

「俺の耳を疑うつもりか? 森の空き地に集まっていたガキ共を保護したって凄い訛りで言ってたぞ。ガキ共が待ってるって聞かないから、そいつは死んだから諦めろって言ったら、すんなりついてきたって。この辺りを通ったぞ」

 

 自分を馬鹿にされたと思った通信兵はそれが記された地図を見せて正確であると証明する。

 

「そいつぁ良かった。後でガキ共に死んでないって言わなきゃな」

 

 子供達が無事に保護されたのを確認した後、シュンは安堵した。撤退の最中、敵の襲撃を警戒したが、幸いにも敵は補給のために進撃を停止していたのか、敵の攻撃を受けることもなかった。数時間歩いた後に、ようやく味方の陣地へとたどり着いた。早速歩哨が銃を向け、敵か味方かを問うてくる。

 

「止まれぇ! 誰か!」

 

「第18歩兵師団傘下第127歩兵連隊所属C中隊の第3小隊だ!」

 

「良く生き残ったな! 差し入れをいれてやるぞ!!」

 

 出迎えを受けた後、シュンは難民キャンプへと向かった。向かう最中、左右には装甲車や戦車、トラックに天幕が広がっていた。焚き火の周りを囲むように、迷彩服や鉄帽を被った兵士達がライフルを杖代わりにして、椅子に腰を下ろしている。煙草も吹かし、吸った煙を吐いている。更に進んでいくと、自分の孤児院の子供達を助けたノンダス人の傭兵達が珈琲を啜ったり、ギターを鳴らしたり、煙草を吸ったり、銃の整備などしていた。酒は流石に最前線のために、飲んでなどいなかった。そんな彼らを眺めつつ、砲兵陣地を抜ければ、難民キャンプが広がっていた。

 

「ここだな」

 

 難民キャンプについたシュンは、早速自分の孤児院の子供達を探し始めた。子供が集まっている場所を重点に探せば、直ぐに自分の孤児院の子供達を見付けることに成功した。子供達もシュンを見付け、彼の元へ寄り添う。

 

「兄ちゃん!」

 

「お前等、大丈夫だったか!?」

 

「うん、大丈夫だった。でっかいおじちゃん達が助けてくれたよ」

 

 子供達の安否をこの目で確認した後、全員を集めてから明日出発することを伝える。

 

「そうか…んじゃ、明日辺り、何処か安全な場所へ出掛けるぞ」

 

「えっ、お家に帰れないの?」

 

「あぁ。アテがある。ちょっと変わっちまうがな…まぁ、慣れるさ」

 

 問い掛けてくる子供に対し、自分の”コネ”を使ってこの世界から脱出すること告げた。荷造りのために子供らのキャンプ地へと向かうシュンであったが、遠くの方から銃声や爆発音が聞こえたので、そちらの方向へと視線を向けた。

 

「もう敵が攻勢を!?」

 

 敵軍が攻勢を再開したと思って、銃を持って最前線へ向かおうとする兵士を捕まえ、それが確かな事かどうかを問う。

 

「おい! もう敵軍が迫ってきたのか!?」

 

「剣と槍や素手の奴が前線で暴れ回ってんだとよ!」

 

「はぁ? 冗談も程々にしろ!」

 

「マジらしいぞ! あんたら民間人は早いとこ避難しろ!」

 

「一体、何が起こってんだ…?」

 

 剣や槍等の近接武器や素手で、銃器などの近代兵器を持つ軍隊を圧倒していると言う答えを聞き、シュンは何かの冗談だと思ったが、兵士の口振りと目からして嘘ではないと分かり、兵士の手を離した。

 前線近くまで行って、それが本当かどうかを確認しようとしたが、憲兵にその道を封鎖され、近くの砲兵陣地にある大砲が前線のある場所へと向けられ、砲弾が詰められれば、大きな砲声を上げた。どうやら本当に敵が攻めてきているようだ。シュンは急いで子供らの元へ戻り、荷造りを続けた。遠くから聞こえてくる銃声や爆発音で、敵の襲撃を知った難民達は、荷造りを終え次第、安全な方向へと逃げ始める。

 近くで野営をしていた兵士達も、銃の安全装置を外して前線へと向かう。装甲車や戦車、それに戦闘ヘリも続々と前線へと向かっていく。敵はかなり恐ろしく強いようだ。

 

「お兄ちゃん、終わったよ」

 

「よし、お前ら急げ。ここにももうじき敵が来る…! みんな行くぞ!」

 

 幼い少女から荷造りが終わったことの知らせに、シュンは戦場で獲得した感で危機が迫っていることが分かれば、子供達全員に出発すると告げた。全員がちゃんとついて来ているのを確認すれば、難民達が向かう方向へと進んでいく。後ろを振り返り、戦闘ヘリが撃墜されたのを見て、マリエが無事であるかどうか心配してきた。

 

「(大丈夫だろうな…?)」

 

 そう心中で彼女のことを心配しつつ、子供らを連れて難民達が向かう方向へと進む。難民達は左側の道路を進んでおり、右側には前線へと向かう戦闘車両や将兵等が進んでいた。右側に恐怖に駆られた難民が入らないよう、憲兵が整理を行っている。

 

「右側には入らないで! ここは軍専用の道路です!!」

 

 身に迫る危機から逃れようとする難民達を宥めつつ、憲兵は体を張って左側の道路に沿って進むよう指示する。銃声や爆発音は徐々に近付き、難民達の恐怖心を仰ぐ。更には兵士達の断末魔まで耳に入ってきた。

 

『ウワァァァ!!』

 

「兄ちゃん、恐いよ…」

 

「大丈夫だ、兵隊さん達が守ってくれる」

 

 聞こえてくる断末魔に、幼い少年が怖がったので、シュンは頭を撫でて安心させた。しかしその行為は、目の前に現れた一人の男によって無駄となる。

 

「な、なんだお前は!?」

 

「動くな!!」

 

 空からいきなり現れた男に対し、その場に居た兵士達は銃を向けるが、手から放った”何か”で一掃された。

 

「防空壕に避難を! おわぁ!」

 

 男に銃を向けた兵士達が瞬きする間に一掃されたため、生きている兵士は難民達に避難するよう叫ぶが、彼もまた男の攻撃を受けて頭を吹き飛ばされる。先程の兵士を自身の手からはなった物が命中したので、口笛を吹いて喜び始める。

 

「ヒュー、命中」

 

 それを見て喜んだ後、逃げ惑う難民達に向け、死んでいる兵士達から剥ぎ取った手榴弾を投げて吹き飛ぶ様子を楽しんでいた。自分に向けて撃ってくる兵士等に対しては、掌に溜め込んだ何かを飛ばし、無惨な死体へと変える。挑んだ装甲車や戦車、戦闘ヘリはスクラップに変えられた。兵士達から見れば、通常兵器の効かない敵は悪魔だ。そんな”悪魔のような男”だけでなく、槍を持った男や二挺拳銃の男、大きなハンマーを持った大男、剣を持った若い男が現れた。悪魔だけでなく、その男達も銃弾を物ともせず、周囲にいる兵士や難民問わず、自分の得物を振り下ろした。

 

「に、兄ちゃん…!」

 

「お前等は防空壕に行け! ここは俺が!!」

 

「で、でも…」

 

「良いから行け!!」

 

 目の前で繰り広げられる殺戮ショーから子供らを守るため、シュンは先に子供らを防空壕へ避難させ、自分から遠くまで離れたことを確認した後、剣を持って動いている物に対して手当たり次第に斬り掛かる男に向けて撃ち始めた。

 自分に惹き付けるように移動しながら撃ち、剣を持っている男の気を自分に向ける。読み通り、剣を持つ男はシュンの存在に気付き、自分の得物の錆にしようと斬り掛かってくる。

 

「こっちだクソアホ! どうした! 恐くて来れないのか!?」

 

 更に引き寄せるために男を挑発すれば、怒りを表情で表し、シュンが居る方向へと向かってきた。数発ほど撃ったときに、弾切れを知らせるクリップの排出音が鳴ったため、直ぐにポケットから新しい八発入りのクリップを装填し、銃撃を再開する。無論、超人的な相手には弾かれるだけだが、十分に気を惹き付けている。

 後ろに下がりながら撃ち続けるも、やがては接近さて、持っているM1ガーランドを剣で一刀両断にされてしまう。空かさず地面を蹴って後方に下がり、大剣を抜き、振り払われた二振り目を防いだ。

 

「大剣? なにそれ。馬鹿じゃないの」

 

 大剣を使って攻撃を防いだシュンを見て、若い男は目の前の大男を馬鹿にした。鎧などを身に纏った対象を圧し斬る物であり、それなりの重量を揃えているため、使い勝手の悪い武器だと判断したのだろう。だがシュンの腕力なら、その大剣を少し重量がある片手剣のように扱うことが出来る。

 

「あぁ? 馬鹿にすんなよクソアホ。こいつはでっかいロボットだって斬れるんだぜ」

 

「それなら僕の剣は、全ての物を斬れる!!」

 

 自分を馬鹿にしてきた若い男に対し、シュンが挑発すれば、相手は挑発に乗って斬り掛かってきた。若い男の持っている剣は軽いようで、二振り、三振りと斬撃を仕掛けてくる。だがシュンからの挑発で少々腹が立っているのか、動きが少し雑になっていた。シュンはこれを見逃さず、足下に砂があるのを確認すれば、相手の目に足で砂を掛ける。

 

「ぐぁ! 卑怯な!」

 

「手当たり次第に殺してるテメェ等よりはマシだ!」

 

 目潰しを受けて自分を卑怯者と罵る相手に対し、無抵抗な人間を殺す相手に言われる筋合いは無いと返して反撃に転じた。

直ぐにでもカウンターが来ると思ったが、相手は思わぬ反撃で怯み防戦一方となる。形勢は逆転したものの、まだ何か隠しているかもしれない。そう思ったシュンは、隠し球を警戒しつつ、攻撃を続けた。

 斬撃を浴びせている内に、間抜けにも相手は石に躓いて転ぶ。この隙を逃さず、シュンは若い男に向けて巨大な刀身を振り下ろそうとしたが、左手から出された薄緑に光る物体を腹にぶつけられ、吹き飛ばされる。

 

「ガハッ!?」

 

 腹に思いっ切りハンマーを叩き付けられると同格の攻撃を受けたシュンは吐血し、地面へ強く叩き付けられた。口から吹き出た血を空いている手で拭いつつ、大剣を杖代わりにして立ち上がり、奇声を上げながら斬り掛かってくる敵の迎撃に移る。

 

「キエェェェ!!」

 

「(この野郎、剣ばかり使うと思ったら、魔法の類だったのかよ)」

 

 若い男からの攻撃を防ぎながら観察し、シュンが魔法を使う類の剣士と断定した。連続した斬撃を受けていく内に、大剣の刀身にヒビが入っているのが見えたシュンは、そろそろ限界と判断し、防御しながら形勢逆転の策を弄したが、脇から男の声が聞こえ、目前の若い男が攻撃を止めて剣を下ろした。

 

「その男、この私が相手をする」

 

「はっ!」

 

「な、なんだ…!?」

 

 男の一声で武器を仕舞ったので、シュンは少し呆気に取られたが、直ぐに警戒態勢に入り、周囲に剣の尖端を向け、新手の敵に警戒する。

 目の前の敵が攻撃を止めたことで周囲に目をやってみれば、いつの間にか聞こえてきた難民達と兵士達の断末魔が消えており、全員物言わぬ死体となっていた。攻撃してきた男達が全員目に見える範囲に居ることを確認すれば、まだ子供達が無事であることに安堵する。そう安堵していられず、この大惨事を引き起こした元凶である男がシュンの目の前に現れた。

 

「貴様か。メルヴァエルが手こずったのは?」

 

 現れたのは、大柄で奇怪なデザインの兜を被った男だ。派手なデザインの甲冑を身に纏い、白いマントが風に靡いていた。両手には剣と盾が握られている。シュンは即座に、そ派手な格好の大男を敵の大将と察した。

 

「テメェがこいつ等の大将か? だったら話は早ぇ、テメェをぶっ殺してインチキ染みた連中を屈服させてやらぁ」

 

「威勢が良いな、大剣の男よ。しかし貴様は私に勝てぬ。何故なら貴様は我が道に転がる石ころだからだ」

 

「テメェ、減らず口は格好だけにしろや!」

 

 挑発を仕掛けたが、リーダーの男はそれを物ともせず逆に挑発を返した。それに少々旗を立てたシュンは、大剣を仕舞い、腰の鞘から刀を抜き、リーダーの男に斬り掛かった。

 刀身は盾で防がれたが、シュンは即座に刀身を盾から遠ざけ、リーダーの男の右手から繰り出される剣を防いだ。シュンを単細胞だと侮っていたリーダーの男は、その臨機応変さに驚く。

 

「ほぅ。単細胞だと思ったが、大振りを仕舞って中振りに変え、更に臨機応変の早さ…相当な死線を潜り抜けていると見える。歴戦の戦士と言える」

 

 シュンを歴戦錬磨の戦士と見たリーダーは、侮れない敵と判断して謝罪する。

 

「ありがとよ。だがあんたみたいな奴に、褒められるも謝れる筋合いはねぇな!!」

 

 それにシュンは、偶然にも足下に落ちていた自動小銃の空弾倉で答えた。右足で思いっ切り弾倉を蹴り込み、それをリーダーの顔に向けて飛ばしたのだ。

 

「ヌッ」

 

 飛んできた空弾倉に驚いたリーダーは、盾を持つ左手を前にして弾倉を防いだ。敵の視界が塞がっている間に、シュンは即座にリーダーの懐へ入り、派手な格好の男の横腹を斬ろうとした。そう思った通りに事は運ばず、横へ振った刀身は剣で防がれてしまう。直ぐにシュンは距離を取り、刀身を構える。

 

「卑劣な男よ、この程度の小細工を使うとは」

 

 剣の男と同じ手段を取るシュンを卑怯者と見るが、彼らは圧倒的な力で兵士達を蹂躙し、難民達を弱者であると決め付けて虐殺したので、言えたことでは無い。

 勝つためには手段を選ばないシュンと彼らのどちらか悪いのかを比べれば、後者の方が圧倒的に悪い。子供でも分かる事である。

 

「うっせぇぞ、ダサ野郎。ガキでもテメェ等の方が悪いって選ぶぞ」

 

「おのれぇ…! 愚弄するか。死ねっ!」

 

 シュンの安い挑発に乗ったリーダーは、地面を蹴って強烈な突きを放とうとする。それにシュンは刀身を鞘に戻して居合いの構えを見せ、相手が範囲に来るまで待つ。来たところで鞘から刀身を抜き、突きを横からの強い力で相殺しようとしたが、刀身が折れた。

 

「なっ!?」

 

「この剣は特殊兵器を防御するための合金で打った物だ、大量生産品の鈍では私の剣は弾けぬ。更に私の魔法を刀身に流し込んで威力を上げた。貴様の刀など、わが剣の前にはオモチャに過ぎぬ」

 

 リーダーは自信の得物である剣が特殊合金で作られた剣であるとシュンに教える。

 今までは防げていたようだが、リーダーが流し込んだ魔力で威力が上がった刀身で悲鳴を上げ、折れてしまった。防ぎきれなかった剣はシュンの右肩を突き、地面に叩き付けた。

 

「クソッ!」

 

 リーダーが接近して突き刺そうとしたので、身体を回転させて回避し、大剣を抜いてリガンの攻撃を防いだ。

 

「ほぅ、そのヒビの入った大剣は私の剣を耐えきるようだな。一体どの合金で出来てるのだ?」

 

「知るか! テメェ等みてぇなド畜生集団に答えるか!!」

 

 自分の剣を防ぐ大剣を見たリーダーは、ヒビが入っていながらも耐える程の耐久力を見て驚く。

 リーダーは大剣がどの合金で出来ているかを問うたが、それに対しシュンは罵声で返し、隙だらけの相手の足下へ向けて足払いした。倒れ込んだところで大剣を振ったが、盾で防御され、弾かれてしまう。

 空かさず後方へ下がり、大剣を地面に突き刺して猟銃である二連装散弾銃を背中から抜き、安全装置を素早く解除して倒れているリーダーに向けて発砲する。強い反動と共に大粒の散弾が撒き散らされたが、身を全て隠せるほどある大型の盾で防がれてしまった。

 

「小癪な」

 

 撃たれながらもリーダーは、強力な散弾を盾で防ぎながら接近する。それにシュンは大剣を自分の背中に戻し、後ろへ下がりつつ、素早く再装填を終えて撃ち続けるが、相手は物ともせずに近付いてくる。やがて再装填の合間に懐へ入られ、強力な猟銃と自分の胸を斬られた。

 

「ぐっ、あぁ…!」

 

 切り口から血が噴き出してくるが、致命傷まで達していない。シュンからすればまだ戦闘継続は可能であるため、最後に残された得物である大剣を引き抜き、息を荒げながら余裕の表情を浮かべて近付いてくるリーダーに向けて構える。

 

「はぁ、はぁ…」

 

「驚いた、そこまでの傷でまだ私と戦おうとは…そこまで命を賭ける理由とはなんだ? 大剣の男よ」

 

「はっ、テメェみてぇな弱者だの生きる価値がないのだと言って、逃げる奴等を殺しまくるような連中に言うかよ…このダサ野郎!」

 

 死しても戦おうとする精神を問い掛けるリーダーに対しシュンは、罵声で返して斬り掛かった。その動きは傷の所為で鈍っており、容易に避けられてしまった。

 そんなシュンに対し、リーダーは容赦なく背中へ向けて刃を振り下ろす。斬られた箇所から勢い良く血が飛び散り、リーダーの顔と鎧に付着する。

 脊髄にまでは達しなかったが、致命傷であることには違いない。だがシュンは戦うことを止めず、子供らのために身の丈はある大剣を敵に向けて振るい続ける。

 

「中々の精神力よ…貴様、守る物のために戦っていると見えるな、愚かな」

 

 シュンが何かを守るために戦っていることを察したリーダーは、次々と来る斬撃を避けつつ、満身創痍の相手に容赦なく剣を振るう。全身を隈無く斬り付けたところで、傷だらけで血塗れのシュンは地面に膝を突き、視線を地面に向けた。

 彼の視界は大量出血の御陰でぼやけ、身体も満足に動けない。しかし心は折れて居らず、渾身の力で大剣を杖代わりにして立ち上がり、目の前にいる敵に向けて斬り掛かった。

 

「オラァァァ!」

 

「まだ来るか。しぶとい男よ。しかし、これで最後だ…」

 

 執念深く自分を殺そうとしてくる相手に対し、リーダーは終わらせるために剣を振るった。振るわれた剣は、意とも容易くシュンのボロボロの大剣を砕いた。

 最後の武器が砕かれるのを見たシュンは一瞬放心状態になってしまうが、コンマ単位で無機物となった大剣の柄を手放し、リーダーを絞め殺そうと両手を突き出すが、その手は届くことなかった。腹に剣を突き刺され、剣が腹から抜かれれば、シュンの身体はそのまま地面へ倒れ込む。

 

「死んだか…?」

 

 自分に敵わずとも挑んできた相手が物言わぬ死体と思ったリーダーは立ち去ろうとしたが、死んでいたと思っていた相手に足を掴まれ、その方向へ視線を傾ける。

 

「ん、貴様、まだ息があったのか…」

 

「馬鹿野郎…俺ぁ、まだ生きてんぞ…行くなら、俺を殺してからに…」

 

 殺されても止めるような勢いでリーダーを止めようとするシュンを見た悪魔のような男が、代わりに殺そうとする。

 

「野郎、俺がトドメを…」

 

「待て、この者に完全なる敗北を認めさせる。この者が”守っている者達”を連れてこい。こやつ等を残せば、いずれは我らの脅威となろう」

 

「仰せの通りに」

 

 リーダーはシュンに敗北を認めさせることや後の脅威の排除の為、大男にシュンが守る物である子供たちを連れてくるよう告げた。その命令通り、大男は子供達が向かった方向へ足を進めた。

 

「て、てめぇ…!」

 

「おいおい、いい加減諦めろや。お前の人生の幕に、お前の大好きな連中も一緒に同行させてやるんだよ。どうた? 俺等は優しいだろ」

 

 それを見たシュンは、自分が死んでまで守ろうとする子供達を殺そうとしていると分かり、大男の元まで向かおうとしたが、悪魔のような男に身体の上に乗られ、動きを封じられた。

 その間にも、大男は子供らが隠れる避難壕に入り、子供らを連れてリーダーの元へ戻ってくる。シュンを見る子供らの表情は実に不安げであり、これからどうなるかも察しているようで、静かにその時を待っていた。

 

「連れてきました、殿下」

 

「ご苦労。この小童共はお前の子供…では無いな、孤児か…」

 

「全然そいつに似ていないから、そう言うことですな」

 

 大男が連れてきた子供らを見たリーダーは、全員シュンの子供でないことを理解し、二挺拳銃の男は全く似ていないと付け加える。

 横たわるシュンの身体の上に座っている悪魔のような男は、そこから子供らをどう殺すか、対人用の兵器である白燐弾を手にしながらリーダーに問う。

 

「でっ、どうする? こいつが精神崩壊するような殺し方をするか? 苦しめながら焼き殺すってんなら、白燐弾はここにあるぜ?」

 

「白燐弾か…ふん、そんな物を使わなくとも、我が炎で焼いてくれる」

 

「や、やめろぉ…! そいつ等は関係ねぇ! 俺はどうなっても良い! 晒し首にしたってかまわねぇ! そいつ等は解放してくれぇ…!! 頼む…!」

 

 自分が必死で守ろうとした子供らをどう殺すか議論するリーダー達に対し、シュンは自分がどうなっても良いから解放してくれるようせがむが、その願いは届かず、子供らの周りに何らかの魔法陣が浮かび上がる。

 どうやらリーダーの意見で通されたようだ。一瞬で子供たちは焼け死ぬ。それを見せ付けられるシュンにとっては、紅蓮の業火に焼かれるような物だ。

 

「や、やめろぉぉぉぉ!!」

 

「に、兄ちゃん…」

 

「案ずるな、痛みは一瞬よ。生まれ変わった時は、我が臣民となるのだな」

 

 シュンの断末魔のような叫びは届かず、子供らの年長者の最期の言葉の後に魔法は発動し、子供らはマグマに近い業火に焼かれ、僅かな悲鳴と共に跡形もなく消えた。

 子供達全員が焼き殺されたのを見ていたシュンは、少しばかり放心状態となっていたが、大事な者達が失った絶望感と大事な者達を奪った怒りが同時に込み上げ、座りながら自分を抑え付けている悪魔のような男を振り払おうと暴れ始める。その目は白目に変わり、歯軋りも起こしていた。リーダーを殺そうとする余り、完全に自我を失っている。

 

「グゥ、グゥゥゥ!!」

 

「うわぁ!? こいつ!」

 

 獣のような唸り声を上げ、自分の大切な者達の命を奪ったリーダーを殺そうともがくが、悪魔のような男に抑え付けられ、動けない。傷口が広がろうとも、必死で自分を抑え付けている男を振り払おうとする。

 余りにも暴れ回るため、後頭部を剣の男に蹴られ、気絶してしまった。悪魔のような男は、シュンを殺さなかった剣の男の胸倉を掴んで責める。

 

「おい! なんで殺さなかった!?」

 

「あの状況じゃ殺して良いか分からなかったんだ!」

 

 仲間内の殺し合いに発展しそうな勢いであったために、大男が仲裁に入り、二人を宥めた。それからまだ息のあるシュンをどう処分するかリーダーに問う。

 

「まぁ止せ。それでどうします、この男?」

 

「そうだな、では…」

 

「お待ち下さい、殿下。この男の生殺与奪、私にお預けを」

 

 自らの手でシュンの首を刎ねようとしたが、脇から現れた以下にも科学者な男に止められる。その男の髪は白髪で顔は醜く、鼻は垂れ下がっており、猫背であった。

 

「なんだ貴様か。この男を実験台にでもする気つもりか?」

 

「フヒヒヒ、左様でございます、殿下。我が忠実な戦士として、奴を生まれ変えさせるのです。ささ、まだ息のある内に…」

 

 リーダーに問われた科学者は、不気味な笑い声を上げながら答え、まだ息のあるシュンの身体を担ぎ、共に出て来た自分の手下達に渡した。

 それから自分の実験場があるとされる場所へ向かう。自分等の主の前でも自分の欲望を優先する科学者の横暴ぶりを見た悪魔のような男は悪態をつく。

 

「相変わらず勝手な野郎だな。俺等のリーダーの命令よりも、自分の趣味優先かよ」

 

「そう言うな、奴の御陰で我々の治癒力は不死に近い物となっている。あの男は相当頑丈な奴だ、これで我々も末端の兵士の治癒力も並外れた物となるだろう」

 

「あぁそうかよ。んじゃ、帰りますか、殿下? このまま敵の本丸に乗り込んで、大暴れしますかい?」

 

 二挺拳銃の男が、科学者が重要な人物であると説けば、悪魔のような男は頭を掻きながら生返事をした後、リーダーのことを殿下と呼んで帰還するかどうか問う。

 

「それもそうだ。この世界も制し、我が領土とする。では皆の者、後続の我が将兵に任せ、城へ帰還する!」

 

 全員に帰還することを告げた後、左手を横に振り、魔法で豪勢な門を召還する。その門を左手で軽く触れて開き、引き連れてきた部下達と共に入り、最後に大男が入ったところで門を閉じた。

 門が閉じればそれは消滅し、後に残されたのは難民と将兵を含める大量の死体と、無惨な姿となったシュンの武器等だけであった。




これで序章は終わりです。
次回からは…第一章に入るかな…と思います。

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