「こんな厳重な警戒態勢の拠点を落とすなんて、コヴナント軍ってのはそんなに凄い軍隊なのか」
陥落が運命付けられた惑星リーチへと降り立ったシュンは、目前に広がる厳戒態勢を敷くUNSC軍を見て、これだけの戦力を圧倒するコヴナント軍の存在自体が信じられなくなる。
まだコヴナント軍の圧倒的な科学力と戦力差を、シュンは見たことが無いのだ。
彼は圧倒的な物量を誇る敵と不利な戦況下で戦ったことがあるが、科学力で勝る敵軍と一戦も交戦したことが無かった。
異星人の軍隊との戦闘経験はあるが、あれは敗残兵の集まりであり、高い統制力と練度を誇る異星人の軍隊とは戦ったことは一度も無い。
人類との戦争で敗戦した影響で落ちぶれ、連邦軍と同じ物量に物を言わせた戦法しか取れない同盟軍の傘下となってしまったコヴナント軍であるが、リーチ戦時は全盛期であり、このコヴナント軍が惑星同盟に加わっていれば、真面な参謀部を持たない連邦軍はUNSCよりも敗戦を重ねたことだろう。
他にも先代アービターが率いるコヴナント軍と戦ったことがあるが、あの時は当時幼いなのは達や英霊たちの協力もあり、他の咎人諸とも難なく撃退することが出来た。
「さて、俺は何所の中隊の所属だ?」
そんな物量にも質でも勝る盛況な異星人の軍隊と戦うとはいざ知らず、シュンはスパルタンⅢとして何所の隊に所属しているのか知る為、アウトサイダーがアーマーに挟んであったメモを確認する。
「アルファ中隊のノーブルチーム所属で、コードネームはノーブル7。名前はスパルタンブラック。出身地はコヴナント軍に焼き払われ、自らスパルタンⅢに志願か」
「おい、お前か? アウトサイダー様に気に入られてんのは」
メモで自分のコードネームとスパルタン名、経歴を知れば、それを腰のポーチ類に入れようとした。その瞬間に、何者かに声を掛けられる。
誰かと思って声がした方向へと振り向けば、自分と同じスパルタンⅢのミニョルアーマーを身に着けた約180㎝の男が立っていた。脇にはゴーグル型のカメラのフルフェイスのヘルメットを抱えている。
アーマーが無ければ、おそらく160中頃だろう。顔立ちは至って普通だが、不機嫌そうな表情を常に浮かべている。そんな男に声を掛けられたシュンは、バッタのような二つの眼のヘルメットを取り、何者かを問う。
「で、何者だ。お前は?」
「おぅ、木偶の棒。俺はギルアズってもんだ。アウトサイダー様に言われて、お前と組んでサポートするように言われた」
ギルアズと名乗る男は初対面の自分に向けていきなり侮蔑的な言葉を吐いたため、シュンは苛ついたが、ここは敢えて抑え、同じ侮蔑的な言葉で返す。
「サポート? お前のようなチビをか? どうせなら、綺麗な姉ちゃんのほうが良かったぜ」
「なにぃ、チビだと!? この強姦魔め! もう一度言ってみろ! このビームガンでテメェの股にぶら下がってるもんをぶち抜いてやる!!」
「おいおい、落ち着け。冗談だよ、冗談。たくっ、何て面倒な奴を寄越してくれたんだ、あの黒目野郎」
やり返してやったが良いが、ギルアズは挑発に乗り易い性格であり、得物である青いビームガンを何所からともなく右手に召喚し、それをシュンに向けた。
これにシュンはギルアズを宥めれば、彼もアウトサイダーの命令を判っていたのか、ビームガンを何処かへ消し、落としたヘルメットを拾い上げる。
「フン、まぁ良い。アウトサイダー様から殺し合うなと言われてるからな。さぁ、さっさっとここに忍び込んだネオ・ムガルの蛆虫共を皆殺しにして帰ろうぜ。アウトサイダー様が話すにや、宇宙人の大艦隊が攻めて来て吹っ飛ばされるって話だ。早く行こうぜ」
ギルアズも味方同士で殺し合うことは無駄な事だと分かっており、物騒なことを口にしつつ、早く任務を全うしてしまおうと言って、ヘルメットを被ってアーマーの背中に付けていたUNSC軍規格のアサルトライフルを取り、戦艦オータムがある方へ振り向いた。
「さぁ、こっちだ。奴らが向かうとすれば、戦艦オータムがある方だ。既にコールドスリープ状態のマスターチーフを詰み込んでる。さて、連中が宇宙戦艦を吹っ飛ばす武器を構える前に、とっととぶっ殺さなくちゃな」
「その前に、俺のベルトの強化品を取りたいんだが…」
「なに、デバイスの強化アイテムが欲しいだって? そんなもん、ネオ・ムガルのクソ共を皆殺しにしてからだ。ちんたらしてたらオータムを吹っ飛ばされちまう。急ぐぞ」
チーフの命を狙うネオ・ムガルの暗殺部隊の排除を目的としているギルアズは、先を急ごうとするので、シュンは自分のデバイスの強化アイテムを探しに行きたいと呼び止めれば、彼はネオ・ムガルが先決だと言って先へ向かう。
確かに、ギルアズの言っていることは正しい。だが、シュンに取って彼の言動は癪に障るようで、悪態を付きながらもギルアズの後へ続く。
考えも無しに向かっているように見えるようなので、シュンはギルアズにネオ・ムガルの暗殺部隊とこの時代の人間との区別がつくのかを問う。
「なぁ、見分けとかついてんのか?」
「あぁ? 見分けがついてるだって? 当たり前だ! 俺のヘルメットには、この時代の人間と未来の人間を区別する特殊なセンサーが搭載されている。俺が丹精込めて作り上げた傑作だ! これがあれば、未来を変えようと、過去の時代にやって来た馬鹿たれを特定して叩き出すかぶっ殺すこともできる」
この問いに対し、ギルアズは自分のミニョルアーマーのヘルメットには、過去の人間と未来からやって来た人間を区別するセンサーが搭載されていると自慢げに語り始める。
これでUNSC海軍の将兵に変装されても見分ける事が出来るが、ギルアズの下は一度喋り始めたら止まらないのか、聞いてもいないのに別の機能の事についても喋り出す。
ギルアズの長々とした聞きたくも無いアーマーの機能説明にウンザリし、シュンは彼だけを殺してそのアーマーだけ盗んで自分だけでもチーフを守ろうかと思ったが、初対面の事を思い出し、ここは敢えて我慢して彼の後について行く。
暫くすると、ギルアズのヘルメットのセンサーがチーフを殺しに過去の世界へとやって来た暗殺者達を捕らえた様子だ。
センサーに反応にいち早く気付いたギルアズは、シュンに向けて止まれのハンドサインを送り、ネオ・ムガルの暗殺者達を捕らえたことを知らせる。
「止まれ、奴らだ。奴らを俺のヘルメットのセンサーが嗅ぎ付けたぞ! 間違いない、俺が作った装備品は一級品だ。そこらの猟犬よりも鼻が利く! さて、ここから一時方向か。よし、奴らがオータムを吹き飛ばす武器を用意する前に早いとこ片付けるぞ! こっちだ!!」
一時方向にネオ・ムガルの暗殺者達をヘルメットのセンサーで捕らえたギルアズは、早く任務を終わらせようと、シュンを待たずに直ぐに現場へと駆け付ける。
「間違いだったらどうするつもりだ。あいつ」
自分が作ったセンサーに過剰なまでの自信を抱くギルアズに対し、シュンはこれが間違いだった場合はどうする気なのかと心配しつつ、先に突っ走るギルアズの後を追う。
林を抜け、何処かの資産家の私有地と思われる生垣を抜け、戦艦オータムの側面と中心部を狙える丘の近くに辿り着いた。
最初にこのリーチの地に降り立った時は、近くの森林地帯が邪魔で見えなかったが、ここに宇宙戦艦を一撃で葬り去れる武器を配置すれば、停泊中のオータムを撃沈とはいかなくとも、航行不能状態にすることは可能だ。
ギルアズが言った通り、怪しげな集団がその丘の上に居て、何かを覆っているシートを中心に運び出そうとしている。
近くの茂みに身を隠し、本当にネオ・ムガルの暗殺部隊かどうか見分けがついているのかをギルアズに問う。
「本当にあのクソッタレ共の暗殺部隊か? UNSCの工兵部隊かもしれないぜ」
「馬鹿たれ! 俺の発明品に故障も不具合は無い! 赤外線センサーで見てみろ! 向こう側に殺された住人が見える! きっと奴らが殺したに違いない!!」
「反乱軍って可能性があるんだが…」
ギルアズは自分の作る物に間違いはないと断固として答え、あの丘の集団がネオ・ムガルの暗殺部隊だと言い張る。
それを証拠に、赤外線センサーに丘の近くに殺された近隣の住人が映っていると言い出す。
だが、人類軍であるUNSCの敵はコヴナントだけとは限らない。同じ人類である反乱軍も敵なのだ。今の人類の危機的状況からして、共闘しているかもしれないが、彼が己の目標のためにUNSC軍に破壊工作を仕掛ける可能性も捨てきれない。
あの丘の集団がネオ・ムガルでは無く、反乱軍の破壊工作部隊では無いかと言う疑いを、ギルアズに言ってみたが、自分の意見に一々口を挟んで来るシュンに苛立ったのか、怒鳴り散らし始める
「図体に割りに一々煩い奴だな! 俺が作った物はどれも正常だ! この時に備えて何度も動作確認をした!! 壊れることは無い! 早く銃の安全装置を外せ! 奴らを皆殺しにして、陥落確定の惑星からおさらばだ!!」
「へいへい、分かった。あんたの言う通りにする」
ギルアズに言い返しても、先の見えない口論になる事は明白なので、シュンは彼に従うことにして、銃の安全装置を外してバトルライフルの照準を武器らしき物に被せてある布を剥そうとする男に合わせた。
しかしシュンは、彼らがネオ・ムガルであると言う確証はない。
丘の上に持ち込んだ布に覆われた物が武器であるなら、ネオ・ムガルの暗殺部隊だと確定だ。
そう思ったシュンは、銃を構えるギルアズの銃身を片手で掴み、無理やり下げさせた。
「何をする!? 奴らであることは間違いないんだぞ!」
「布を取るまで待て。それなら間に合うだろう」
「ぬぅ…! そんなに俺が信用ならねぇのか…! だったら良い。俺一人で、奴らを皆殺しにしてやる!」
正体を見極めるため、攻撃を控えるようにギルアズに進言するが、彼は自分の考えに固執しており、シュンの言葉に耳を貸さなかった。
手を振り払い、ギルアズはアサルトライフルで暗殺者と思われる集団に向けて銃弾を放とうとした。
「っ!? コヴナント軍の斥候だ! 奴らがクソ共を襲ってる!!」
ギルアズが引き金を引く前に、何所からともなくコヴナント軍の
状況はエリート側の一方的な虐殺となり、一人はステルス状態のエリートのエナジーソードで胸を貫かれ、もう一人はビームライフルで頭を撃ち抜かれ、残り数名は戦意損失して逃げている所を後ろからプラズマ弾を撃ち込まれて全滅する。
「なんて奴らだ、ネオ・ムガルのクソ共を瞬きする間に皆殺しにしやがった。これが全盛期のコヴナント軍か…」
コヴナント軍全盛期のエリートの戦闘力は高く、未来からやって来た暗殺者の集団を僅かな時間で更に反撃の間も与える間もなく全滅させるほどの物であった。
戦闘力だけでなく、高度な連携も取れている。この戦闘エリートの集団と戦い、見事に存続を勝ち取ったUNSC軍に敬意を表すべきだ。
こんな連中と戦うのかとシュンは少し臆したが、奇襲を仕掛ければ勝機はある。
同じような目的の際に、エリート族との交戦したことがあるが、あれは落ち武者であって戦闘力は目前に居るエリート族より低いだろう。
これまでもシュンは数々の強敵と戦い、勝利と敗北を味わって来た。
今更なんだ、この程度の敵に勝てないなら、ネオ・ムガルに勝つことは出来ない。
シュンは奇襲の利を生かす為、武器らしき物を包んでいた布を剥ぎ取ったリーダーらしき白いアーマーを纏ったエリートにバトルライフルの照準を合わせる。
「あれは武器だったのか…ありがとな、顎割れ野郎共」
布に覆われていたのが、戦艦を破壊する武器で、先ほどまで生きていた怪しげな集団がネオ・ムガルの暗殺部隊であると分かったシュンは、エリート族に侮蔑的な言葉で感謝する。
小声である事と彼らに通じない言葉で発しているので、死体と武器を調べ回すエリートたちには聞こえていない。
一方でギルアズは、ネオ・ムガルの暗殺部隊を瞬きする間に皆殺しにしたエリート族と戦おうとするシュンに対し、本気で戦うつもりなのかと、先ほどの威勢が嘘だったかのように震えながら問い始める。
「お、おい! まさか奴らと戦うつもりか!? 返り討ちにされてしまうぞ!!」
「騒ぐな馬鹿野郎。あれはお前が言った通り戦艦をぶっ潰せる兵器だ。あの顎割れ野郎共がそれを使ったらどうする? お前の任務を忘れたか?」
エリートと戦うことに酷く怯えるギルアズに対し、シュンは戦う事はあのエリートたちに武器を使われるのを阻止するために当然のことだと答えた。
自分の思った通り、エリートに全滅させられた集団がネオ・ムガルの暗殺者集団だったが、その者達が持ち込んだ武器が、自分等の手間を省かせてくれたエリートたちが使おうとしている。
未来を守る為にも、彼らを絶対に阻止せねばならない。
「ぐぅ…! 確かに未来を守る為にも、あのサンヘイリたちを倒さねばならない…でも、俺は戦闘があまり得意じゃない…しかし、ここで退いては任務が失敗だ…! マスターチーフを守る為にもやらなくては…!!」
「その意気だ。お前はここから援護射撃でもしておけ。残りは俺が殺す」
ギルアズの意気込みに、シュンは評価しながら照準を合わせていたエリートに向けて引き金を引き、三点バーストの銃弾を放った。
三発のライフル弾は標的にしたエリートに全て命中したが、彼らが身に着けるアーマーにはシールドが施されており、シールドを剥すには何発もの銃弾を放つ他ない。
「やっぱりな。ギルアズ、援護しろ! こいつで全員叩き斬る!!」
「任せておけ!」
エリートのアーマーにはシールドがある事が分かっているシュンは、ここから撃っていては倍返しが来るだけだと判断し、ギルアズに援護を頼んでから茂みから飛び出した。
ギルアズの援護射撃を受けたシュンは敵陣に向けて突撃し、手にしているバトルライフルでこちらに気付いて即座に反撃して来るエリートに向けて撃つ。
全員がシールド持ちであり、殆ど無効化に近かったが、一体のシールドが剥がれ、ギルアズの援護射撃で死亡する。
「おらっ!!」
飛び掛かった一体にバトルライフルの銃座を叩き込んで怯ませた後、背中の得物である大剣を抜き、怯んだエリートに向けてその大剣を振り下ろす。
巨大な大剣を振り下ろされたエリートは、シールド関係なしに真っ二つになり、周囲のエリートをざわつかせた。
この隙に素早くコヴナント軍の手榴弾であるプラズマグレネードを取り、戦艦を一撃で粉砕できる武器へ向けて投げ付ける。
プラズマグレネードは投げた箇所に引っ付くタイプであり、使用時には青く発光し、その後爆発して敵を殺傷する。
だが、通常の破片型手榴弾より爆発に時間が掛かり、爆破の範囲も人類側の手榴弾よりあまり広くない。故にシュンは、コヴナント軍のプラズマ弾よりも、使い慣れた人類側の武器を好む傾向にある。
これで武器は破壊した。後は目前のエリートたちをどうにかして、コヴナント軍の大艦隊に寄って陥落するリーチから脱出するだけだ。
「根っこからの戦闘民族ってわけかい!」
シールド関係無く自分等を斬れる大剣を持つシュンに対し、一瞬戦意を失い掛けたエリートたちであるが、骨のある敵と出会えたことに喜びを感じて戦意を更に向上させ、射撃武器を捨てて敵に対する敬意の象徴であるエナジーソードの抜き、斬り掛かって来る。
射撃武器を捨てて近接武器で挑んで来るエリートたちに、シュンは彼らに応える形でバトルライフルを背中に付けてから大剣を構え、一体目の斬撃を防ぐ。
その斬撃は力強い。戦闘以外でも鍛錬を欠かしてないと言う証拠だ。
だが、自分も復讐のために鍛錬を欠かさず、常に常人では持てない鉄塊で日々鍛錬に勤しんでいる。
二振り目を打ち込もうとするエリートに大剣を押し込み、怯んだところを素早く大剣を振り下ろして排除した。
二体目のエリートの斬撃は避け、空かさずに大剣を叩き込んで手早く排除して次に備える。
「やるな! 俺だって!!」
複数のエリートと大剣一振りで互角にやり合うシュンに、ギルアズも負けていられないのか、アサルトライフルを撃ちながら飛び出す。
「ぐぉ!」
一体に銃弾を集中させて倒せたが、もう一体は‟敬意すべき敵‟との戦いを邪魔された怒りで、邪魔をしたギルアズに飛び掛かる。
「うわぁぁぁ!? た、助けてくれぇ!!」
これにギルアズは回避できず、倒れ込んだところを馬乗りされ、エナジーソードを突き刺されそうになる。
そればかりかシュンに助けを求めてしまい、結果的に足を引っ張ってしまう。
「ちっ、まさか飛び出してくるとわな!」
馬乗りにされ、エリートに殺され掛かっているギルアズを、シュンは回転切りで四方から斬り掛かって来るエリートたちを排除した後、引き続き斬り掛かって来るエリートを排除しつつ助けに向かう。
ギルアズを殺そうとしているエリートに十分な距離まで近付けば、ホルスターに収めてあるコンバットナイフを引き抜き、それで投げナイフを行い、馬乗りになっているエリートを排除する。
「た、助かった…!」
「装備だけでなく、戦闘訓練もやっておけ!」
足を引っ張ったギルアズに対し、シュンは装備の新機能搭載だけでなく、戦闘訓練もやっておけと忠告してから、背後より斬り掛かって来るエリートを見ずに大剣を振り下ろして排除した。
「さて、お前もチャンバラをするか?」
「無茶言うな。そんな原始的な戦い、この俺がすると思ってんのか?」
一旦足を止め、隙を窺うエリートたちと対峙しつつシュンは、ギルアズに古典的な戦いである接近戦をするかと勧めたが、彼は原始的な戦いだと称して嫌う。
そんなやり取りをするシュンとギルアズに対し、先制攻撃で仕留め損なった白いアーマーのエリートがエナジーソードを抜き、他のエリートたちと共に追い込み始める。
幾つかの危機を脱してこの状況に離れているシュンだが、戦闘力が低いギルアズを守りながらの戦いでは分が悪過ぎる。
「…俺一人ならどうにかなったのにな」
「俺を足手纏いするんじゃない!」
「冗談だよ」
「そうか。分かってたさ」
この期に及んで自分を足手纏い扱いするシュンに対し、ギルアズは残って居る拳銃を構えながら怒鳴り散らす。
ここでギルアズが自分を殺して降伏すると言う行動に出るかもしれないので、シュンは冗談だと謝れば、まるで怒鳴り散らしていたことを無かったかのように気にも留めなかった。
追い込まれているには変わりないので、死の恐怖を感じたギルアズはシュンと組んでいきなりここで死ぬと喚き始める。
「お、終わりだ…! 俺たちは顎割れ野郎共に八つ裂きにされて! あぁ、お前みたいな疫病神と…」
「喚くんじゃねぇ、馬鹿野郎! 上を見てみろ! どうやら助かったらしい」
万事休すかと追い詰めて来るエリートたちを見て思った二人であるが、ここに来てこの世界で自分の設定である所属の部隊が助けに来た。
所属部隊は四輪車両のワートホグやマングース偵察車を装備したUNSC陸軍の機械化歩兵二個分隊を随伴させており、残りはアメリカの航空機であるV-22オスプレイを小型化したような外見を持つ三機のUH-144ファルコンに乗っていた。
陸と空からの集中砲火で瞬く間にエリートで編成された斥候部隊を片付け、偽のスパルタンであるシュンとギルアズを救出する。
あっと言う間にエリートたちを機甲戦力の火力で制圧した所属部隊の隊長が、ヘルメットの無線機能で問い掛けて来る。
「ふぅ、まさか助けに来てくれるとわな」
『聞こえているな? こちらはノーブル1、お前たちの隊長であるカーターだ。遊んでいる暇があれば、直ぐにワートホグに搭乗して原隊に合流しろ。ヴィエリー地区の奪還に向かう』
カーターと名乗る同じスパルタンⅢである上官は、自分等の任務である地区奪還を行うべく、同じ部隊所属の二人を回収する様子だ。
一難去ってまた一難。シュンとギルアズは激戦へと投入される羽目になってしまった。
「なんてこった。俺の記憶が正しければ、ヴィエリー地区のLZを制圧した後、コヴナントの馬鹿デカい空母に吹き飛ばされてしまう…」
「ちっ、前線送りか。全くついてねぇな。だが、チャンスはありそうだ」
事の末を知っているギルアズは、自分の設定である原隊、ノーブルチームがこれから激戦区に投入されると聞いて顔を青ざめさせる。
ギルアズとは対照的に、数々の激戦区へと身を投じて呆れるほど慣れていたシュンは、自分のデバイスの強化アイテムの入手だと判断し、逆にチャンスと捉えた。
『よし、自己紹介は道中で行おう。さぁ、早く乗るんだ』
「俺は一度も戦争に行ったことが無いのに…うぅ…」
「まぁ、脱走兵として銃殺刑にされるよりはマシだろう。さぁ、アレが俺らのタクシーらしい。乗ろうぜ」
チームのリーダーであるカーターに急かされ、二人は自分等の近くに止まった後部に対空気銃を搭載した標準型のワートホグに乗り込んだ。
銃撃戦の経験があるギルアズであるが、彼は一度も戦争に行ったことが無く、今度こそ死んでしまうのではないかと不安になる。
そんな彼とは対照的に、突撃戦法しかしないBETAとは違って高度な知性がある軍隊と大規模な戦闘を行えることに僅かながら喜びを感じているシュンは、身震いを始めるギルアズの背中を叩いてワートホグの左座席にある運転席へと乗り込んだ。ギルアズは複座席の右側だ。ハンドルを握っていた陸軍の兵士は後部の銃座へと着く。
ここでシュンがワートホグの運転が出来るかどうかであったが、ワルキューレに属していた頃にジープを乗り回してきたことがあったので、短期間でワートホグを乗りこなし、先に向かう車列とノーブルチームの後と追う。
『ついて来てるな。さぁ、奴らに思い知らせに行くぞ』
上空のファルコンに乗るカーターが、シュンとギルアズが敵前逃亡せずについて来ていることを確認すれば、先に攻勢を仕掛ける陸軍の戦闘ヘリ部隊と合流した。
車列に合流した偽のスパルタンⅢであるシュンとギルアズは、異星人の軍隊であるコヴナント軍と初の大規模戦闘に身を投じる事となった。
他にもネオ・ムガルの暗殺部隊も居ますが、そこは他のスパルタンやエリートに呆気なくやられています。