復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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ここでゴステロ様がご介入いたします。

ゴステロ様「原作キャラ生存? 馬鹿め! この俺がそんなことをすると思ったか!?皆殺しにしてやるぜ!!」



この壁を壊しなさい! 後編

 一方で第666中隊とハイム少将の西部方面軍、ワルキューレ空軍の航空部隊に攻め入られたベルリンでは、ネオ・ムガルの派遣部隊を含めたシュタージの戦術機部隊による激戦が繰り広げられていた。

 同じ東ドイツの者達は、首都であるベルリンに被害が出ないように戦闘をしているが、異界より来たネオ・ムガルはお構いなしに戦闘を行い、被害を広めている。

 原因は主力の無法者らが機動兵器に乗って調子に乗り、辺り一面に主兵装を乱射したり、大量に投入されたテラー・ストライカー(TS)と呼ばれる無人SPT、スカルガンナーが派手に暴れている所為である。

 ワルキューレも同様で、VF-1AバルキリーやVF-11Bサンダーボルトなどの可変戦闘機に乗るパイロット達は、お構いなしに市街地に向けてミサイルを発射している。

 サブフライトシステムと呼ばれる航空機に乗って前線に来たジムⅡやジムⅢ、バーザムも同様だ。

 この友軍の手加減の無さと、異界より来た無法者たちの戦闘行為に、テオドールは苛立ちを覚える。

 その際にテオドールが乗っていた機体は、鹵獲したMiG-23チェブラーシカであり、紛失した部分は残骸から使える物を使い、頭部にはMiG-21の物を使った改造機だ。

 

「クソッ! あいつ等、ここが市街地だって分からないのか!?」

 

『空の高機動を行う敵機を担当してくれるとは言え、市街地に被害をもたらすのは感心できん。特に放送局を破壊されては溜まらんからな。友軍の指揮官に市街地への被害を最小限にとどめてくれるように頼んで来る。代わりに副官に指揮を任せる』

 

 まだ人が居る市街地で戦闘を行う双方の部隊に苛立ちの言葉を吐けば、同じく見ていたハイムはワルキューレの航空部隊の指揮官に抗議する為、一時的に指揮を副官に任せるとの通信を指揮下の部隊全てに送った。

 肝心の放送局がどちらかに破壊されては、消された英雄の娘であるカティアことウルスラの声が、このベルリンに住む人々に届けられない。放送局だけは、絶対に破壊されてはならないのだ。

 この間にも敵機の数は増大し、ベルリンへの被害が更に増す。

 

『こいつ等、なんでこんなにも!?』

 

「クソッ、何機落とせば敵は怯むんだ!?」

 

 アネット機はスカルガンナーを含めた陸戦機や戦術機を含めた数十機を撃墜しているが、敵は減るどころか増えるかの如く湧いて前に出て来る。

 同じく無人機と市街地に居る敵を爆発させないように撃破していたテオドールも、スカルガンナーを含めた多数の敵機を撃墜しているが、余りの数の多さに焦りを見せ始めている。

 航空支援を勝手に行ってくれるワルキューレ空軍の方を見たが、あっちはあっちで空戦ポッドやブレイバーやソロムコ、それに航空機に乗ったネオ・ジオン系MSとの交戦で忙しいようだ。

 

『弱音を吐くな! この程度の数、BETAの梯団に比べれば足元にも及ばない!』

 

『そうよ。相手の殆どは統制の取れてない無法者。幾度もレーザーヤークトで経験してるでしょ!』

 

 復帰したクリューガーに続き、負傷しながらも戦闘に参加しているシルヴィアにレーザーヤークト程の脅威じゃないと言われ、テオドールやアネットは冷静さを取り戻す。

 

『そうだ、こいつ等はBETAじゃない! ただの雑魚共だ!!』

 

「あぁ、確かにBETAは埋め尽くすほど居たな! この程度の数で、俺たち黒の宣告者(シュヴァルツェ・マルケン)は止められない!! 全機、突撃! 他の部隊も続け!」

 

 冷静さを取り戻したテオドールは、副官で階級が上のクリューガーが居るにも関わらず、中隊各機や他の部隊にまで突撃命令を出した。

 士気が向上した状態であれば、数ばかりで統制も取れていない敵軍など容易く蹴散らせるだろう。

 そうと聞いたクリューガーは注意することなく、先行して突撃するテオドール機に続く。

 これに続き、残りの二機と他の戦術機中隊も突撃し、敵の防衛戦に大きな穴を開け、統制の執れない敵を混乱させる。

 

『突破された! ど、どうすりゃあ良いんだ!?』

 

『逃げろ! このままじゃ皆殺しにされる!!』

 

『逃げるな! 逃げる者は即座に死刑を執行…』

 

『指揮官がやられた!!』

 

 クーデター軍の戦術機部隊の突撃によって混乱した無法者らは右往左往になって戦線から逃げ始め、戦線を維持しようと、督戦隊を担当する指揮官機が機動兵器ごと逃亡しようとする友軍機の撃墜を行おうとするが、その前に突破して来たアネット機の長刀をコックピットの頭部に叩き込まれ、更にネオ・ムガルの守備隊を混乱させた。

 余りにも指揮官不足に、守備隊の立て直しは不可能であり、徐々に戦術機部隊に各個撃破されていく。真面に戦線に留まっているのは、シュタージの戦術機部隊くらいだ。

 市内の大部分に入り込んだところで、ワルキューレ空軍に抗議の通信を行っていたハイムからの連絡が入った。

 

「こちらシュヴァルツェ8、敵第一防衛ラインを突破。閣下、空軍はどうですか?」

 

『ご苦労。こちらもそちらの期待に答える形で何とかなった。ただし、航空支援は無いぞ。地上の諸君らには苦難を強いることになる。済まないが、この国家の未来のため、ウルスラの演説が始まり、民衆が行動を起こすまで耐え抜いてくれ…!』

 

「閣下、我々はそのつもりで革命に参加しました。元より死ぬ覚悟です!」

 

『本当に済まない…なるべく、地上部隊の増援を手配しよう。制空権が確保されるまで、頑張ってくれ。以上、交信終わり。次は革命後に会おう』

 

 こちらを心配するハイムに、テオドールは元より覚悟は出来ていると答えれば、彼は申し訳なさそうに謝罪しつつ、自分の部隊の指揮を行うために通信を切った。

 橋頭保を築いた所で、ウルスラの演説を成功させるために放送局がある地区の確保に向かおうとするが、前面を警戒していたクリューガーからの無線連絡が入る。

 

『敵の増援だ! ん、データに無い機体群の中に戦術機が! 一時方向より随伴機を連れて来るぞ!!』

 

「データに無い戦術機って…?」

 

『ソ連から送られて来た機体ね…!』

 

 クリューガーからの連絡でやって来る一時方向の方へカメラを向け、敵機の種類を確認してみれば、見たことも無い戦術機が、大隊規模のMiG-23などの随伴機を連れてこちらに向かって来るのが見えた。

 他に見たことが無い型のSPTに随伴している十二機のブレイバーが見える。

 直ぐにシルヴィアは、大隊長機の戦術機がソ連本土より送られて来た機体だと判断する。

 敵の増援部隊は劣勢の上空へ向かい、戦闘を始める。

 性能差から見て、バルキリーなどの可変戦闘機類に勝てるはずも無さそうだが、大隊長機と不明型のSPTは圧倒している。どうやら敵のエースが前線に出てきたようだ。

 その不明型のSPTより、それに乗っている男の狂気染みた言葉が聞こえて来る。

 

『ハハハハ! こりゃあ良い暇つぶしだぜぇ!!』

 

「こ、こいつは…! 相当ヤバい奴だぞ…!」

 

 直ぐにテオドールは、その男が乗るSPT、ブルグレンを恐れた。

 

 

 

 ワルキューレ空軍の優勢であったベルリン上空戦は、現れた敵の増援により押し戻されつつあった。

 原因はシュタージの戦術機部隊、ヴェアヴォルフ大隊の長機であるMiG-27アリゲートルに乗る当大隊の隊長であるベアトリクス・ブレーメと、SPTブルグレンに乗る咎人、ゴステロの技量による物であった。

 双方は圧倒的な技量で実戦経験が勝るはずのワルキューレのバルキリー部隊を圧倒している。中でもゴステロは異常で、脱出したパイロットまで嬉々としながら機体の主兵装であるレーザーライフルで撃ち殺している。

 

『フハハハ! 最高の的撃ちだぜ!!』

 

「獣ね…」

 

 そのゴステロの残虐性は味方からも恐れられる物であり、ベアトリクスは彼を獣と表した。

 

「大隊各機へ。空は連中に任せ、我々ヴェアヴォルフは地上の反体制派の掃討に向かう。第三中隊は中央庁舎の防衛を。第四中隊はベルリンに迫る敵増援部隊を守備隊と共に迎撃。残りは我に続け」

 

 そんな彼女は空の方はゴステロに任せることにし、自分は四機ほどのバルキリーを撃ち落としてから、配下の戦力と共に地上のテオドールらとクーデター部隊の排除の為、地上へと降下した。

 この時のシュタージの戦術機部隊は、ヴェアヴォルフを含む戦術機二個大隊、約九十六機いたが、ベルリン防衛戦や派遣した部隊の損害を含め、三十六機以上を失っているものの、それでも十分な戦力を備えている。

 彼女は半数の部隊を守備に回した後、残り半数の戦力でテオドールらに襲い掛かる。

 

『来るぞ! 対空迎撃!!』

 

 ベアトリクスらの戦術機大隊が来れば、クリューガーらは突撃砲で対空射撃を行った。

 即座に散会して対空弾幕を避けるが、数機が逃げ遅れて被弾するか撃墜される。

 ヴェアヴォルフ全機が市街地に降り立てば、直ぐに市街戦が再開された。

 ベアトリクスが狙うのは、テオドールが乗る鹵獲されて改造されたMiG-23だ。

 その現地改装機を見て、この機体を隊長機と判断したベアトリクスは、執念深く突撃砲の弾幕を浴びせる。

 

『新型だからって!』

 

 新型の戦術機に狙われたテオドールは左手の爆発反応装甲付きの盾で弾丸を防ぎつつ、回避行動を取りながら反撃する。

 この見事な動きと肩に描かれた所属を現すエンブレムで、ベアトリクスは第666戦術機中隊、通称シュヴァルツェ・マルケン機と判断し、無線機より聞こえて来た声で、テオドールであると判断した。

 

「あら、肩のエンブレムからして第666中隊ね。それにその声からして、あの坊やかしら? あのお嬢ちゃんかと思ったわ」

 

『その声は、ベアトリクス・ブレーメか!』

 

「西から亡命してきたあの子は何所かしら? 戦術機の腕はあの子の方が上で、その機体に乗ってるべきなんだけど。まさか、もう死んじゃったとか?」

 

 テオドール機からの攻撃を躱しつつ、ベアトリクスは余裕の笑みを浮かべながらカティアことウルスラが何所に居るのかを反撃しながら敵機のパイロットに問う。

 繋がっている周波数で問い掛けて来るベアトリクスに対し、テオドールはウルスラが何所に居るかを探るための鎌かけと見抜き、突撃砲の弾頭で返答する。

 

『…!? その手に乗るか!』

 

「あら、アイリスより駆け引きの講義でも受けた? まぁ、貴方が私に勝てるわけが無いけど!」

 

 見抜かれたベアトリクスであるが、技量や判断力においてはテオドールを大いに上回っているので、ただ逃げ回るしかない敵機を嬲殺しにするように突撃砲弾を浴びせる。

 

『テオドール! グッ!』

 

 ベアトリクスに嬲殺しにされているテオドール機を救出しようと、クリューガー機は割り込もうとするが、三機編隊のMiG-23に妨害される。

 アネットやシルヴィアも仲間を救おうとするも、こちらにも二個小隊が差し向けられ、テオドールは孤立する。

 

『クソッ、こんな所で俺は!』

 

「ここで投降して、カティア・ヴァルトハイムの居場所を吐けば、貴方だけは助けてあげるけど?」

 

『誰がそんなことを! せめてお前を道連れにしてやる!!』

 

「おっと、怖い、怖い。だったら一思いに…!」

 

 孤立したテオドールに、ベアトリクスは投降を呼び掛けたが、彼は無視して抵抗を続ける。

 こちらを道連れにしようとするテオドール機に対し、ベアトリクスはワザと外していた照準をコックピットの辺りに合わせ、妖艶に見える笑みを浮かべながらトリガーを引こうとした。

 その直後に警告音が鳴り響き、随伴していた僚機が一機、背後から来た攻撃で撃墜される。

 

「なに!?」

 

『五時方向より正体不明機! ビーム兵器を持ってま…』

 

「もう突破されたの? いや、その方角から西側の部隊は来てない…! だとすると…!」

 

 背後に居た二機の僚機がビーム攻撃で撃破されたのを見たベアトリクスは、逃げるだけのテオドール機を無視して三発目のビームを躱し、三番機が最後に言い残したビーム攻撃を行う正体不明機が来る五時方向に視点を向けた。

 そこに居たのは、空中の足場である航空機の上に乗ったMSであるガンダムMk-Ⅱだ。カートリッジ式のビームライフルがこちらに向き、直ぐに銃口からビームが放たれる。

 

「あの動きからして乗ってるのはカティア・ヴァルトハイム? 初めて動かす機体のように見えるけど、あの子の事だから油断できないわね!」

 

 ビームを躱して滑走砲で撃ち返せば、バックパックを使わずに足場の航空機から降り、それからの二発目を避けて反撃して来たので、ガンダムMk-Ⅱに乗っているのがカティアだと思った。

 だが、そのガンダムから聞こえて来た無線で、操縦しているのが意外な人物であることに驚愕する事となる。

 

『カティアじゃ無くて悪かったな…!』

 

「っ!? まさか…! アクスマンに捕らわれたはずじゃ…!?」

 

『残念ながら、彼は死んだよ。まぁ、お前にとってはどうでも良いことだがな…!』

 

 自分に襲い掛かって来たガンダムMk-Ⅱに乗っているのは、あのアイリスディーナ・ベルンハルトであった。

 無線機より聞こえて来た士官学校時代に聞き慣れた声で、直ぐにベアトリクスは彼女だと分かり、肝を冷やす。

 彼女が収監されている収容所が襲撃されたことを知り、アイリスディーナはアクスマンに捕らわれ、そのまま行方知れずになったと思っていたが、まさか自分の目の前に現れるとは思ってもみなかった。

 

『まさか大尉!? 自力で脱出を!』

 

『中隊長殿! お待ちしておりました!』

 

『大尉だ…! 生きていたのですね!』

 

『ベルンハルト大尉さえ戻れば、後はこっちの物よ!』

 

 先ほど逃げるしか無かった第666中隊の面々が隊の長であり、神輿であるアイリスディーナが帰ってきたことで、戦意を取り戻し、先ほどは劣勢だったクーデター側は押し始める。

 そんな悪化する戦況を気にしつつ、ベアトリクスはアイリスディーナが乗るガンダムと砲火を交える。

 

「ふっ、良いわ。貴方が来るなら、私の手でお兄さんの元へ送ってあげるわ!」

 

 目前のガンダムに乗る旧友は、容赦なく殺す気でビームライフルを撃ってくるので、戦況の悪化を気にするベアトリクスは、これに応える形で応戦を開始した。

 

 

 

 一方、ガンダムMk-Ⅱに乗るアイリスディーナと共にベルリンへと乗り込んだシュンは、ガンダムと共に渡されたザクの最終生産型であるザクⅡ改に乗り込み、シュタージの中央庁舎を破壊していた。

 

『こちらシュヴァルツェ1、敵大隊長機と交戦中。シュヴァルツェ8、そちらは任せるぞ』

 

「了解だ。あんたは思う存分に暴れてくれ。俺はここいらの連中を引き付ける」

 

『お言葉に甘えさせてもらう。とにかくお前は遭遇する戦術機や敵機を破壊しつつ、シュタージと社会主義党関連の施設を破壊しろ。市街地の被害は最小限に食い止めろよ』

 

「言われなくとも」

 

 破壊した庁舎の残骸に隠れつつ、シュンはアイリスディーナとの交信を終えれば、包囲して突撃砲弾を浴びせて来るMiG-23に向けて自機の主兵装である90mmマシンガンを浴びせる。

 ジオンと呼ばれる宇宙国家の軍隊がMS用に低コストで量産したマシンガンは、戦術機の突撃砲よりも口径も発射速度も高く、一瞬の内で狙った敵戦術機は蜂の巣となり、道路の上に横たわる。コックピットの部分に三発ほどの穴が開いている限り、パイロットはミンチになっているだろう。

直ぐにシュンは機体を残骸の物陰に隠れさせ、次なる敵機の索敵を行う。

 

「うぉ!? お返しだ!」

 

 背後より戦術機が二機ほど回り込み、地に足を着けて突撃砲弾を浴びせて来たので、警告音が聞こえてから何発かを右肩のシールドで防いだ後、機体を屈めさせてからMSサイズの手榴弾を右手で敵機に向けて投げ付ける。

 飛んできた手榴弾を瓦礫と誤認した二機の戦術機は、突撃砲を撃つばかりであり、物の数秒後で手榴弾は爆発、爆発に呑まれた二機は一瞬で鉄屑のスクラップとなって辺り一面に飛び散る。

 この手榴弾の威力を知ったシュンは、側面から撃ちながら接近してきた三機小隊の方へ投げ込み、三機ともバラバラに吹き飛んだので、その威力を気に入る。

 

「最高だぜ」

 

 最後に残っているハンドグレネードを、背後から接近しようとする集団に向けて見もせずに投げた後、包囲の薄い方へマシンガンを撃ちながら向かった。

 投げた手榴弾は数機を巻き込んで爆発、バラバラになった手足が道路の上へ落ちる。

 

「これでゲシュタポ共の本部は終わりだ。残りもぶっ潰すか」

 

 その後、空いている手で完全に中央庁舎を破壊したので、側面から現れた敵機の胴体に数発の弾丸を撃ち込んで無力化し、シュンはこの場から離脱しようとした。

 だが、索敵を怠ったのか、左側から敵機の体当たりを受け、道路の上に叩き付けられ、敵機の右腕から出て来た短刀で突き刺されそうになる。

 

「この野郎…!」

 

 短刀を持つMig-23の右手を自機の左腕で抑え、マシンガンを敵機のコックピットの部分に近付けてから直ぐに撃ち込んで無力化する。

 頭部のバイザーの光が消えて機能を停止したのを確認すれば、動かない屍のようなMiG-23を退け、機体を立ち上がらせて索敵を行う。

 

「ちっ、大人気だな…!」

 

 レーダーを見れば、立ち上がって早々のシュンのザクⅡ改を狙う敵機が現れた。

 その敵機はザクⅡ改の性能を遥か上を行くガルスJやドライセン、ザクⅢなどのネオ・ジオン系のMS群であり、シュンが乗るザクを見るなり手にしているビームライフルや固定武装のマシンガンを撃ち込もうとしたが、ようやくベルリンの防衛網を突破したのか、ワルキューレの陸軍部隊のMS部隊が雪崩れ込み、それらの敵機をハチの巣にした。

 

「ふぅ、遅いな…」

 

 ベルリンへと戦時中の赤軍の如く雪崩れ込んで来たネモやジムⅡを中心とするワルキューレのMS部隊は、シュンが乗るザクも敵機と思ってビームライフルを向けた。

 当然ながら、ワルキューレの部隊に自分の識別反応を示すデータは送っていない。敵と思われるのは仕方のない事だ。

 

「まっ、当然だな」

 

 ライフルを向けるネモやジムⅡの集団に敵でないことを示す為、シュンは自機の武器を捨てて両手を高く操縦桿で上げた。

 これで敵と思われて撃たれないだろうかと思っていたが、上空よりあの男が乗るSPTが迫る。

 

『ほぅ、地上もわんさかいるようだな!』

 

 空に居たワルキューレ空軍の部隊を一時的に後退させ、血に飢えたゴステロが乗るブルグレンがシュンや陸の増援部隊に襲い掛かって来た。

 眼下に見える多数の敵機に対し、ゴステロはレーザーライフルを手当たり次第に撃ち込み、周囲の建造物も含めて破壊し続ける。

 射程内に敵の歩兵や味方の歩兵、それに戦闘に巻き込まれた民間人らが居ようが、ゴステロには関係が無く、目に映る者、例え女子供、老人であろうが関係なしにレーザーを撃ち込み、大いに殺戮を楽しむ。

 

『ははは! たまらないな! 人殺しと言うのは!!』

 

「なんて滅茶苦茶な野郎だ! この外道が!!」

 

 敵と味方であろうと、無抵抗な人間を嬉々としながら殺し回るゴステロのブルグレンに対し、シュンは怒りを覚えたのか、道路の上に落としたマシンガンを拾い上げ、照準を飛び回るブルグレンに向け、ワルキューレのMS部隊と共に対空射撃を行う。

 だが、ゴステロが乗るブルグレンは、操縦技量だけは格別であり、流れ弾に当たって撃墜される他の敵機とは比べ程にならない程の機動性を見せ、その挙句に反撃を行って数機を撃破する。

 瞬く間にシュンの近くに居たワルキューレのMS部隊は全滅し、ゴステロが狙う得物は一機のみとなる。

 

「っ!? 俺一人だけかよ!!」

 

『料理はじっくりと、味わう物だ。グヘヘ、久々に骨のある奴だぁ。お前には少しお遊びに付き合ってもらうぜ』

 

 いつの間にか自分だけとなったシュンは少し焦りつつもマシンガンを撃ちつつ、味方の居る場所へと後退しようとしたが、ゴステロは最期に残った一匹の獲物を嬲殺しにして遊ぶため、わざとレーザーを外してその反応を楽しむ。

 

「嬲殺しにする気か!?」

 

 後退する方へレーザーを撃ち込まれ、更に冷静さを欠くシュンは、焦らないように平常心を保ちながらマシンガンの再装填を行うが、満タンの弾倉を持った左腕は破壊され、更には右脚をレーザーで撃ち込まれてバランスを崩される。

 道路の上に倒れ込んだシュンのザクⅡ改に対し、ゴステロは更にレーザーを撃ち込んで恐怖に煽られるザクのパイロットの反応を楽しむ。

 

『マシンガンも弾切れ、そしてまともに身動きも出来ない。じわりじわりと、たっぷりと可愛がってから殺してやる。お上の奴らはこいつを殺せる時に殺せなんて抜かしやがるが、こいつに何が出来るってんだ』

 

 コックピットの辺りにわざと照準を付けず、頭に武器を持っている右手、残っている左足などを撃って嬲殺し、ネオ・ムガルの上層部がシュンを即刻殺すようにとの命令を無視して殺しの次に好きな物であるいじめを楽しむ。

 そんな自分の醜い欲求を満たそうとしている最中に、ここまで突破したアネット機がネオ・ムガルのガルスJを長刀で撃破してから、突撃砲をゴステロのブルグレンに向けて放つ。

 

『この外道! 死ねぇぇぇ!!』

 

「あの嬢ちゃんか! 止せ! お前に敵う相手じゃない!!」

 

『ぬぉ!? せっかくの楽しみを邪魔しやがって!』

 

 楽しみをやってきたアネットに邪魔されたゴステロは怒り、突撃砲の弾丸を避けつつ、長刀を持つMiG-21に接近して左手のナックルショットと呼ばれる電撃系統の打撃を胴体に打ち込む。

 

『キャァァァ!!』

 

『フハハハ! この俺の楽しみを邪魔するからだ! 丸裸にしてたっぷりと楽しんでやるぜ!!』

 

「直ぐに脱出しろ! 殺されるぞ!!」

 

 小型のSPTの格闘攻撃を受け、建造物に墜落したアネット機に対し、ゴステロはシュンの代わりにアネットで楽しもうと、レーザーを撃ち込んで機体の戦闘能力を奪い、更には手足を撃って動きを封じる。

 シュンは機体から飛び出す前に、無線でアネットに脱出するように告げたが、それが聞こえているかどうかは不明だ。そう言ってから銃を持ってコックピットを飛び出し、アネット機が墜落した方へと走った。

 

『アネット!』

 

 戦闘不能となったザクを放棄して、ゴステロに襲われているアネットを救出するべく、空中戦が行われているベルリン市内を疾走する中、シュンは彼女の機体が墜落した方向へと向かうシルヴィア機を見付けた。

 飛び出したアネットに向けて面白半分にレーザーライフルを撃つゴステロのブルグレンに、突撃砲を連射するが、それに乗る残虐非道の男は見えているかの如く避け、即座に反撃する。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

『また邪魔しに来たか! お前も丸裸にしてたっぷりとイジメてから殺してやる!!』

 

 またも邪魔されたゴステロは、標的をシルヴィアに変える。

 このレーザー攻撃をシルヴィア機は盾で防ぎ切るが、長い間は持ちそうにも無い。

 その間にアネットは建物に隠れ、仲間たちがゴステロのブルグレンを追い払ってくれるように祈る。

 

『フハハハ! いつまで持つかな!』

 

 ただ防ぐことしかできない敵機に対し、ゴステロは盾が壊れるまでいたぶる様にレーザーライフルを連発する。

 

『シルヴィア! これ以上はやらせんぞ!!』

 

『また邪魔者か! アリンコみてぇに群がりやがって! もう止めだ! 全員ぶっ殺してやる!!』

 

 そんなシルヴィアを助けようと、敵機の掃討を終えたクリューガーがゴステロに挑む。

 次から次へと現れる妨害者に、ゴステロは苛立ちを覚えたのか、前腕部のミサイルをシルヴィアとクリューガーの機体に向けて発射した。

 飛んでくるミサイルに両機とも回避不可能な程の距離まで詰めてしまったのか、回避は諦めて盾でミサイルを防いだ。

 SPTのミサイルの威力はこの世界のミサイルと比べ物にならない科学力で作られた物であり、大破とはいかなかった物の、防御手段である盾と左腕を破壊されてしまった。

 

『へっ、ざまぁ見やがれってんだ! おっ! あんなところにサル共が数匹! あのサル共で口直しだ!』

 

 邪魔をしに来た二機が動けないうちに、ゴステロは偶然にも見付けた放送局の方へ向かうウルスラたちの集団を口直しとするべく、そこへ向かおうとする。

 

『まだだ!!』

 

 だが、思いのほかにシルヴィアの復帰は早く、突撃砲でゴステロの攻撃を妨害した。

 

『うぉ!? このクタバリぞこないが! まずはお前から殺してやる!』

 

 またしても邪魔をされたため、ゴステロは今度こそシルヴィア機を撃墜しようとレーザーライフルを何発も撃ち込んだ。

 この無数のレーザーをシルヴィア機は避けきれず、無数のレーザーを浴びて火を噴きながら市内へと墜落していく。

 

『シルヴィア!!』

 

『ヴァルター…私は、あんたが…』

 

 落ちて行くシルヴィア機に、クリューガーはいつもの冷静さを欠き、必死に彼女を助けようとしたが、シルヴィアは彼に自分の思いを伝えようとする前に、ブルグレンのとどめの一撃を受けて空中で爆散する。

 

『俺の楽しみの邪魔をするからこうなるんだ! さぁ、次はきさ、アアッ!?』

 

『貴様、貴様だけは!』

 

 邪魔された恨みでシルヴィア機のとどめを刺したゴステロのブルグレンに対し、クリューガーは撃たれる前に特攻を掛けた。

 ブースター前回の特攻を回避する間もなくブルグレンはクリューガー機に捕まり、身動きが取れなくなる。

 

『こ、この野郎! 離せ! 離しやがれ!!』

 

 手負いの機体に捕まれたゴステロのブルグレンはナックルショットを撃ち込んで引き剥がそうとするが、死を覚悟しているクリューガーが乗るMiG-21は離れず、残って居る右手で必死に8mは低い小型機にしがみ付いている。

 敵機の動きを止めている間、ゴステロを道連れに死ぬ気のクリューガーは、自爆装置を起動させながらテオドールに無線で最後の言葉を贈る。

 自分ではゴステロのブルグレンには対抗できないシュンは、上空でブルグレンを離さないMiG-21バラライカを黙って見ている。

 

『うおぉぉぉ!? 離せ! 離せぇ!!』

 

『テオドール、大尉とみんなを頼んだぞ…!』

 

『そんな、中尉! あんたまで行くなんて! もう少しでそっちに!!』

 

 シルヴィアに続き、クリューガーまで死ぬことを恐れるテオドールは説得を試みるも、もう既に覚悟は出来ている上官は自爆装置のカウントダウンを始めた。

 この間にもゴステロは、何度もしがみ付いている敵機の胴体にナックルショットを打ち込んでいるが、クリューガーは自分の身体が潰されながらも操縦桿を手放さない。

 

『いや、お前を待っていてはこのBETAよりも危険な奴は倒せない。最後に大尉と共に戦えてよかった…この通信は戦っている大尉の機体には聞こえないようにしてある…俺が自爆したら伝えてくれ…! ぬぉぉぉ!!』

 

『うわぁぁぁ!? や、止めろぉ!』

 

 クリューガーは先ほど戦場で再会した大尉に、自分の最後の言葉を伝えてくれるようにテオドールに頼んだ後、ゴステロのブルグレンを巻き添えに自爆した。

 敵機を巻き添えに自爆したクリューガー機を見て、テオドールは言葉を失う。

 危険な敵を巻き添えに自爆したクリューガーに対し、シュンは敬意を込めて敬礼してから、ウルスラたちを狙うネオ・ムガルの咎人を排除するため、突撃銃を抱えながら放送局がある方へと走った。

 

 

 

「誰がやられた!?」

 

 クリューガーからの通信が遮断されていたことも知らず、旧友のベアトリクスが乗るMiG-27アリゲートルとガンダムMk-Ⅱで交戦していたアイリスディーナは、全天周モニターから見える機動兵器二機分の爆発を見て、自分の部下たちの誰かが散ったことを知り、無線機で連絡を取ろうとしたが、敵機に乗る旧友は容赦なく攻撃を浴びせて来る。

 

『余所見してる場合かしら?』

 

「ちっ!」

 

 敵を巻き添えにして死んだのが誰かの確認を取っている最中に、滑走砲による攻撃を受けた。なんとかそれを躱したが、左腕に付いていた盾は無力化されてしまう。

 直ぐにビームライフルによる反撃を行うが、ベアトリクスは撃つ前に放たれたビームを躱し、続けて突撃砲を浴びせて来る。

 それに負けぬようにビームで撃ち返そうとするアイリスディーナであるが、カートリッジのエネルギーは先ほどの一発で最後のようだ。

 

「これ以上は無駄に出来ないな」

 

 近くのビルに機体を隠して最後のカートリッジをビームライフルに装填し、エネルギーの残量を考えつつ、良く狙ってから敵機に向けて放つ。

 だが、ベアトリクスの反応速度はアイリスディーナがライフルを向けた瞬間に撃つことが分かっており、放たれたビームを避け、突撃砲の銃口を向けながら投降を呼び掛ける。

 

『その機体のライフルは、突撃砲ほどに連射が効かないようね。降参すれば?』

 

「ふっ、降参はしない。せめて貴様を巻き添えにしてから死んでやるさ」

 

『…もうお遊びはここまで。今度こそさようなら』

 

 アイリスディーナの返答は、テオドールと同じものであった。

 この返答に今度こそ完全に叩き潰すべく、ベアトリクスは突撃砲をMk-Ⅱのビームライフルに向けて放つ。

 ライフルを守ろうとアイリスディーナは回避行動を取ったが、ベアトリクスは偏差射撃を行い、射撃武器であるライフルを破壊した。

 

『これでもう…っ!?』

 

 ビームライフルを破壊すれば、爆炎で見えない敵機にもう手足は出ないだろうと思ったベアトリクスであったが、アイリスディーナはMk-Ⅱの牽制用にバルカンポッドを撃ちながらMiG-27に急接近し、右手でビームサーベルを抜いて斬り掛かって来た。

 バルカンポッドで動きを封じられたMiG-27は、そのままビームの剣で切り裂かれるかと思われたが、ベアトリクスの咄嗟の判断で何とか回避に成功した。

 しかし、その代償として突撃砲をビームサーベルで切り裂かれる。

 

『悪足掻きを!』

 

 まだ抵抗するアイリスディーナのガンダムMk-Ⅱに対し、サブユニットにある予備の突撃砲を取ろうとしたが、取る前にサーベルの突きでその突撃砲も破壊されてしまう。

 ここは仕方なしに機体の前腕部外縁に搭載されている短刀を抜き、相手の残った射撃武器であるバルカンポッドを斬りおとした後、リーチの長いビームサーベルを持つMSとの近接戦に移行する。

 ビームサーベルを防がず、避けながら同じく避ける旧友が乗るガンダムと斬り合いを行う中、推進剤を節約するため、一度市街へと降り立ち、再び斬り合いを始める。

 時には蹴り付け、体勢を崩させてから斬りこもうとしたが、体当たりをされて膠着状態に戻されてしまう。

 

「ビームの剣を相手に良くやるな…!」

 

『そっちこそ、良く粘るわね。でも、もうこっちが勝ったも同然だわ。もう直ぐ私たち、いや、私が勝つ。理由は私が代わりに貴方が実現しようとしていたユルゲンの理想通りのドイツにするからよ。その為にシュタージの恐怖による統制と監視が必要不可欠だわ。恐怖こそが人を服従させるのに最も有効な物だって、歴史を見れば分かるでしょ? アイリス』

 

 再び双方が出方を見る中、ベアトリクスは社会主義やシュタージの為でも無い自分の真の目的、アイリスディーナの兄であるユルゲンの思想を自分の手で実現することだと明かした。

 クーデター容疑で反逆者とされ、自らの手で刑を執行した兄と同じ理想を抱き、その理想で祖国を救うのは自分こそ相応しく、その為にシュタージの監視と統制の正当であると視聴するベアトリクスに対し、アイリスディーナは兄の思想を自分の物のように扱う彼女に失望する。

 

「兄さんの思想通りのドイツ…? ベアトリクス、どうやらヒトラーの亡霊に取り付かれていたようだな。それはユルゲン兄さんの理想のドイツでは無い。お前の理想のドイツだ。そして、それは歪んでいる」

 

『あらら、否定するのね。アイリス、貴方が私に協力すると言ったら殺さずに済んだのに…残念だわ。本当にユルゲンの元へ送るしかないわね』

 

「当然だ。それ程に私たちの理想を歪める者に協力など出来ない!」

 

 自分の兄の理想を歪めたベアトリクスに対し、怒りを覚えたアイリスディーナは先に攻撃を仕掛けた。

 先に斬り掛かったガンダムに対し、ベアトリクスはカウンターを狙う。

 着き出されたビームの剣に左腕を敢えて突き刺させ、それからガンダムの左脇腹にマチェットを叩き込んだ。

 戦術機より装甲が遥かに硬い筈だが、MiG-27のマチェットは防げなかったようで、コックピットのハッチの部分にまで刀身が及べば、ガンダムMk-Ⅱは動かなくなる。

 当然ながらマチェットの刃の部分は、コックピットの中に居るアイリスディーナにまで届き、彼女の脇腹にまで達した。

 

「ぐぁ…!」

 

『フフフ、慣れない機体に乗ったのが悪かったようね。でも、良くやった方だわ。流石はこの国最強の戦術機部隊の指揮官のアイリスね。その操縦席の中で、私のドイツ、いや、ユルゲンの理想のドイツに変わる瞬間を見ているのね。もっとも、そこまで生きているかどうかの話だけど』

 

 マチェットを引き抜き、刀身に血痕が付着しているのを確認して立っている敵機を倒してからベアトリクスは機体を上昇させ、クーデター軍の最後の希望であるウルスラの抹殺のために放送局を探し始めた。

 テオドール機やワルキューレの部隊に対しては、部下たちの戦術機部隊とネオ・ムガルの機動兵器部隊が足止めしてくれているので、安心しきってウルスラ等が使いそうな放送局を探す。

 

『さて、あの子は何所かしら…?』

 

『全てのドイツ民主共和国の皆さん、革命軍の皆さん、シュタージのジェルジンスキー連隊ならび武装警察軍、ベルリン上空で戦っている皆さん、直ちに戦闘を止めて冷静になってください。現在、BETAが迫ってきており、人間同士が殺し合っている場合じゃありません。内乱を一刻も早く終わりにして、一丸となってこの脅威に立ち向かわなければなりません。それと、突然驚かせてすみません。ですが私の話を聞いてください』

 

 アイリスディーナとの戦闘の疲労を薬物なので回復しつつ、周囲を見回して一番ベルリン全域に届く電波を持つ放送局を探し回るベアトリクスであったが、既にカティアことウルスラは放送局に入った後であり、更には演説を行い始めた後であった。

 

『いけない! あの子に喋らせては…! 大隊各機から予備中隊に告ぐ! この放送を行っている放送局を破壊せよ!!』

 

 カティアが放送局でこのベルリンの住民に呼び掛ける放送を行ったことで、正体に気付いたベアトリクスは、動きが止まっている味方戦術機部隊に、直ちに彼女が居る放送局を破壊するように命じ、自身もその排除へと向かった。

 

『私は第666戦術機中隊のカティア・ヴァルトハイム。いえ、ウルスラ・シュトラハヴィッツです。この国の第一装甲師団の師団長、アルフレート・シュトラハヴィッツの娘です。父から西へと逃がされ、今まで先ほど述べた名前、カティア・ヴァルトハイムと名乗っていました』

 

『この放送だけは、止めなくては…!』

 

 放送が続く中、ベアトリクスは必死に発信源を探し回り、市内の空を飛ぶ。

 そんな時に部下たちが抑え込んでいた筈のテオドールが、ベアトリクスの元に迫って来る。

 

『絶対にやらせるか!!』

 

 

 

 カティアことウルスラの演説が行われる中、一度は停止した戦闘は、シュタージの戦術機部隊によって再開された。

 これに続き、ネオ・ムガルの無法者らも戦闘を再開し、ワルキューレ側も撃ち返した所で市内への被害を広げる。

 敵戦術機部隊の妨害を突破したテオドールは、アイリスディーナとの戦いで僅かな損傷を負ったベアトリクスのMiG-27を見付け次第、突撃砲の連射を浴びせる。

 

「うぉぉぉ!!」

 

『今は貴方にかまけている場合じゃ…!』

 

『な、なにをする!? うわぁぁぁ!?』

 

 雄叫びを上げながら突撃砲を浴びせて来るテオドールのMiG-23改に対し、ベアトリクスは空を飛んでいる敵機に夢中になっているMSのドライセンを盾にして防いだ。

 対BETA用の弾丸を何発も撃ち込まれたドライセンは数秒足らずで動かなくなり、爆発寸前であった。

 その爆発寸前の機体を追って来るテオドール機に投げ付け、更に逃げようとした。

 だが、テオドールは爆発寸前の機体を盾で防ぎ、ベアトリクス機への追撃を続行する。

 爆発が大きかったのか、突撃砲と盾を失ったが、まだ短刀が残って居るので、それを抜いてベアトリクス機を追う。

 

「カティア、いや、ウルスラは絶対にやらせない!」

 

『何故こうまでユルゲンの理想を邪魔するの!?』

 

「あんたがやろうとしていることが、大尉の兄さんの理想だと!? 違う! これはあんたの理想だ!」

 

 追跡するベアトリクス機より、なぜ自分の愛する男の理想の邪魔をするのかと問われたテオドールは直ぐにそれを否定し、スラスターを吹かせて斬り込む。

 これを紙一重で躱して反撃を行うが、ここに来てテオドールは持ち前の真価を発揮したのか、一振り目を避けて動かないMiG-27の左腕を斬りおとす。

 左腕を斬りおとした敵機に対し、ベアトリクスは蹴りを入れて距離を取り、防備が硬い放送局を探しながらテオドール機から逃げ回る。

 そんな時に、テオドールはアイリスディーナの兄と同じ理想を抱いているなら、なぜ協力しなかったのかをベアトリクスに問う。

 

「だったらなんで、大尉と一緒に協力しなかったんだ? そうすれば、こんな事にはならなかった筈なんじゃ」

 

『テオドール・エーベルバッハ君だったかしら? あんた、未だに人類が一つになれると思ってるの? BETAと言う共通の敵が現れても、人類は未だに冷戦を続けている! 現に両陣営はそれを利用して、お互いを削り合ってる! それでも寝言をほざくわけ? 歴史の独裁者のように、恐怖で戦わせるしかないのよ!』

 

「確かにそうだ。だが、あんたの理想は歪んでいる!」

 

『同じことを!』

 

 ベアトリクスの返答に、テオドールはアイリスディーナと同じことを言えば、彼女は逃げるのを止め、マチェットで鹵獲改造機に斬り掛かる。

 思わぬ敵の反撃で、テオドール機は持っていた短刀を弾かれてしまい、追撃から一転、負われる者になってしまった。

 

『形勢逆転のようね! ここで死になさい!!』

 

「クソッ!」

 

 追われる者となったテオドールは、敵機から繰り出される斬撃を必死で躱しながら反撃の糸口を見付ける。

 敵の斬撃を躱しながら必死で探し回れば、直ぐに見付かった。それは大破して戦闘不能となったアネット機の近くにある建物の屋根に突き刺さった長刀だ。

 それをテオドールは見過ごすことなく、そこへ飛び、素早く長刀を引き抜いて反撃に出る。

 長刀による連撃でベアトリクスのMiG-27は押され気味になるも、技量は彼女が上であり、数秒ほどで打ち合いになる。

 

『少しは肝を冷やしたけど、あんまり…』

 

 敵機の動きを見極め、尚且つ挑発を掛けてテオドールの冷静を欠かせようとしたが、戦闘の影響で外出禁止令が敷かれているはずの市民たちが家から出て、つるはしやハンマーを持って壁へと向かっていた。どうやらウルスラの演説に心打たれ、自らが東西統一に乗り出したようだ。

 ジェルジンスキー連隊の将兵らが群衆を解散させようと立ち向かうが、ネオ・ムガルや同じ組織が保有する戦術機部隊が負け始めているのを見て、これ以上の抵抗は無意味と判断し、銃を捨てて群衆を壁にまで通した。警察隊も同様であり、中には壁の破壊に向かう者までいる。

 群衆の中には、反体制派の者や政治犯収容所から逃げ出した者まで混ざっており、大群衆と言っても過言では無かった。

 

「皆殺しだぁ!!」

 

 戦況も分からないネオ・ムガルの咎人らは、彼らを殺そうと火炎放射器や装甲車、ATなどの機動兵器を持って武力制圧を行おうとするが、ここでPTRS1941対戦車銃を持ったシュンが姿を現し、咎人らが乗る装甲車やATを破壊する。

 ワルキューレの陸軍や追加の航空部隊も咎人らの排除に加わり、壁の崩壊は時間の問題であった。

 

『そんな…!?』

 

 この光景を戦いながら見ていたベアトリクスは動揺を覚え、目前の敵に隙を見せてしまった。

 

「…今だ!」

 

 その隙を逃さず、テオドールは操縦桿を動かし、戦略的敗北を見て動きが止まったベアトリクスのMiG-27に向けて、一切の躊躇いを捨てて長刀を突き刺す。

 長刀が突き刺される直前で気付いたようだが、既にコックピットのハッチ下に刃が届いた頃であり、長刀の刃はハッチを突き抜け、ベアトリクスの腹部まで達し、機体の背部まで貫いた。

 そのまま破壊されたシュタージの中央庁舎まで突き刺したままスラスターを吹かせて行き、瓦礫に激突した音が鳴った所で操縦桿を握る手を緩める。

 

「はぁ、はぁ…勝った…!」

 

 ベアトリクスのMiG-27が動かなくなったところで、テオドールは操縦桿から手を離し、呼吸を整えた。

 辺りを見渡し、戦闘が行われず、上空のバルキリーが来た場所を戻り、陸軍の部隊も撤収しているのを確認すれば、自分たちが勝ったことを確信する。

 一息つこうとした時に、ベアトリクスの瀕死の声が無線機越しより聞こえて来る。

 

『こんな時に限って、今さらシュタージに入ったことを後悔するなんて…ね…何所で…道を間違えた…のかな…? ベルンハルトについて行けば、こうはならなかったかしら…?』

 

 その声は、シュタージに入らなければ、思想の違いで殺し合いをせずに済んだと言う後悔の念であった。

 

『でも、今さらこんなことを言ったって、もう遅いよね…じゃあ、貴方たちが作るドイツに、少しでも希望がある事を…願うわ…』

 

 ベアトリクスはその言葉を最期に息を引き取る。

 テオドールは何も言わず、ただ遺言を聞いているだけであり、遺言が終われば、長刀から手を離して搭乗機と共にその場を去った。

 戦闘が終わった後、クーデター軍の勝利を祝うかのように夜は明けて日が昇る。

 太陽の光に照らされた東ベルリン市内は、破壊された数々の機動兵器の残骸が溢れていたが、十数年にもわたって東西を隔てていた壁の崩壊と、国民を恐怖で支配し、徹底的な監視していた象徴であるシュタージが崩壊したことにより、市民たちは恐怖と支配から解放されたことに歓喜していた。




後はエピローグを上げて、柴犬編は終わりです。
アイリスディーナがガンダムMk-Ⅱに乗ってベアトリクスと戦うと言うオリ展開がありましたが、ゴステロ様が戦場に居た所為で原作と同様に死にます。
その末路は、エピローグでやる予定です。

そんでアニメ版の作画スタッフが、同人のリクエストに応えて描いたイラスト↓

https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=68319510

これはカオスだわww

そんでエピローグ上げた後は、息抜きしようかと思います。
では、これにて。
それと、エピローグをうpした後、活動報告でアンケートあげるので、しくよろ。

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