復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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二週間経ってる…ちょっと、モチベが上がりません…
長いので、二分割にします。

タイトルは、1987年の6月に、ベルリン750周年祭のスピーチで発した言葉です。


この壁を壊しなさい! 前編

 政治犯収容所へ乗り込み、政治犯らを解放して暴動を起こし、アイリスディーナを救出して収容所を制圧したシュンであったが、政治犯たちが反体制派等と共にベルリンに雪崩れ込んで、彼女の護衛が手薄になったのを見計らったアクスマン等ベルリン派の奇襲により、毒矢を胸に射られ、全身麻痺を負ってしまう。

 更にアイリスディーナまで連れ去られ、シュンは毒矢の鏃に付いた強力な毒で死を待つ運命となる。

 だが、ここであっさりと終わるシュンでは無い。

 今にも忍び寄る死神を追い払うために来た男が、解毒剤と思われる注射器を片手にシュンに近付く。

 

「おい、大丈夫か? まさか毒矢でぽっくりイッちまったか?」

 

 その正体は何所か怪しい次元を渡る情報屋であるガイドルフだ。彼は解毒剤の入った宙先の針をシュンに突き刺し、解毒剤を大男の身体の血管に注入する。

 

「未来の解毒剤だ。ナノマシン薬品で殆どの毒を身体から消してくれる万能薬だ。まぁ、分かる範囲だけだけどな」

 

 解毒剤についてのことをガイドルフは言えば、シュンの身体を犯していた毒は、その未来の解毒剤のおかげで全て消え去り、身体が元の感覚が戻って来た。

 直ぐに上体を起こし、刺さっている矢を無理に引き抜いたシュンは、自分を助けてくれたガイドルフに礼を言う。

 

「助かったぜ。あんたが居なかったら、毒でオッチんでたぜ」

 

「騙されて毒でくたばるなんて下らねぇから助けた訳よ。で、どうすんだ。アクスマンを追うのか?」

 

「決まってんだろ。あの野郎、狙ってやりやがったんだ。奴の吠え面を見るまで腹の虫が治まらねぇぜ」

 

 煙草の箱を取り出し、一本を口に咥えてアクスマンを追うのかを問うガイドルフに、シュンは右拳を左手の掌にぶつけながら追うと答えた。

 そんな彼らの元へ、人民地上軍の基地から奪った強化装備と専用の上着を身に着けたグレーテルがやって来る。

 

「同志ベルンハルト大尉は何所だ!?」

 

「中尉殿か…助けたんだが…すまねぇ、アクスマンの奴に一杯食わされた。大尉はさらわれた」

 

「貴様! ただ黙って連れ去られるのを見ていただけか!?」

 

「無茶言うんじゃねぇ。毒矢を射られたんだ、動けるわけがねぇだろ!」

 

 やって来て早々にアイリスディーナが何所へいるかをシュンに問うが、彼がアクスマン等ベルリン派に彼女を連れ去られたと答えれば、グレーテルは激怒する。

 あれほど大口を叩き、アイリスディーナの傍を離れてしまったシュンにも悪いところがある。

 ここで言い争っている暇はないので、シュンは落ちてあるPPSh-41短機関銃を拾い上げ、次に罵声を浴びせようとするグレーテルの口を大きな左手で優しく塞ぐ。

 

「あれほどデカい口を叩いて、その様…」

 

「ここで言い争っても何の得にもならねぇ。奴の切り札のシュタージファイルって何所にあるんだ?」

 

「グモモ…!」

 

 口を塞ぎ、グレーテルを体格差で子供のようにあしらいながらシュンはアクスマンの切り札であるシュタージファイルが隠されている場所を、知っているガイドルフに問う。

 

「お前の事だ。断れば、俺を拷問し、場所を吐かしてでも行くつもりだろう。ここは正直に言うとも。ベルリン郊外にある放棄された旧ドイツ国防軍の施設だ。シュタージはその廃墟の地下を改造し、せっせっと集めた機密情報を保管している。諜報関連やらきな臭いもんばかりだ。場所は直ぐに分かるはずだ。この地図に正確な場所が書いてある」

 

 ガイドルフはシュンが自分を拷問して場所を聞き出そうとする男と知っていたので、シュタージファイルの位置とその正確な場所を記した地図を彼に渡した。

 それを受け取ったシュンは、地図に赤く記してある場所を確認すれば、情報を無償で提供してくれたガイドルフに礼を言う。

 

「いつも済まねぇな。感謝の酒でも渡したいくらいだが、生憎と手持ちがねぇ」

 

「良いさ。この混乱に乗じて共産党員の酒蔵でも荒らしてくる。健闘を祈る」

 

「そっちもな。そんじゃ、政治将校殿、行くぞ」

 

「ま、待て! 私は何も!?」

 

 ここまでやる用意するガイドルフに、シュンは更に疑念を抱いたが、今はアクスマンをどう殺すかが先決なので、グレーテルを抱き抱えて、彼女が軍から鹵獲したMiG-21戦術機の元へ駆け寄る。

 

「聞こえるか、ズーズィ。厄介なことになった。アクスマンの奴に同志大尉をさらわれた! これより我々は先行して救出に向かう! 聞こえているならこちらに人員を回せ! 以上!」

 

 そんな彼女も、強化装備の無線機で反体制派等にアイリスディーナがシュタージのベルリン派にさらわれたことを忘れずに知らせる。

 機体の元へ着けば、先にグレーテルをコックピットに乗せて左手に自分も乗り込めば、彼女に乗ったと頭部のメインカメラの方へ合図を告げる。

 

『掴まれ!』

 

 拡声器を使っての指示に、シュンは従って指の一本に捕まり、戦術機に乗るグレーテルと共に、ベルリン郊外にあるシュタージファイルの保管場所の旧ドイツ国防軍の防衛施設へと飛んで向かう。

 ベルリン上空では既にハイム少将の反乱軍や第666中隊と何故かやって来たワルキューレのバルキリーなどを初めとする空戦部隊、それらに対峙するシュタージや組みするネオ・ムガルとの空中戦が行われていた。

 そんな都市部への被害を考えない空戦を眺めつつ、シュンとグレーテルはアイリスディーナを攫ったアクスマンが居るシュタージファイルの元へ向かった。

 

 

 

 戦術機で飛べば、時間はそこまで掛からず、シュタージファイルが地下に保管されている旧ドイツ国防軍の施設だった廃墟に辿り着いた。

 

『ここだ。旧ドイツ国防軍、陸軍の防衛施設のようだな』

 

「見えるぜ…下にワンサカとあの野郎の手下どもがな!」

 

『お、おい!』

 

 グレーテルが先に発見すれば、シュンはアクスマンが配置した守備隊を見てからバリアジャケットを身に纏い、スレイブを元の状態に戻してから地上へと飛び降りる。

 どうやら内部へ単独で強行突入するらしい。雪原の上に着地したシュンは、生身で降り立つことや、何より毒矢を射られたのに生きていることに驚く守備隊に、容赦なくその大剣を振るい、次々と惨殺する。

 

「う、撃て! 奴を殺せ!! 絶対に中に入れるな!!」

 

 もはや人外と言うべき大男に対し、守備隊の兵士らは必死に手にしている銃を撃ち込むも、シュンが身に纏うバリアジャケットには通じず、続けて殺されるばかりだ。

 銃声が聞こえなくなるまで敵を斬り続ければ、背後より近付いてくる雪を踏む足音に反応し、そこへ大剣の刃を向けた。

 

「ひっ!? わ、私は味方だ!!」

 

「おっと、済まねぇ」

 

 近付いてくるのがグレーテルだと分かれば、シュンは大剣の刃を下げて謝罪してから内部を見た。

 

「どうせ中にも何名か待ち受けているだろう。俺が合図するまで入って来るな」

 

「ま、待て! それよりもその格好を!!」

 

 バリアジャケットを解除し、消音器付きのスチェッキンAPS自動拳銃をホルスターから出して内部の様子を窺うシュンに対し、バリアジャケットの事を問うグレーテルだが、大男は無視して人目につかない場所から建造物内部に入る。

 

「ここは、反体制派の者達が来るまであいつに任せるか…」

 

 いきなり中世の傭兵のような甲冑を身に纏い、更には馬鹿デカい鉄塊のような大剣を振り回し、足を折る高さから飛び降りる偽名を使って自分の隊に忍び込んだシュンの指示に、グレーテルは反体制派の人員が来るまで待機した。

 人目につかない場所から廃墟に潜入したシュンは、そこで待ち伏せていた敵兵が銃で撃つ前に撃ち殺し、物陰より周囲の様子を探っていた。

 

「(突撃銃が三名に短機関銃が四名、それに散弾銃を持ってるのが一人。全部で八名か。全員が人間同士の殺しのプロ、外で俺が皆殺しにした連中と同じだ)」

 

 物陰よりAKS74U突撃銃を持った三名と、Wz63短機関銃を持った四名、Ks-23散弾銃を持った一名を確認すれば、銃の扱い方からして人間同士の殺し合いのプロだと判断する。

 だが、歴戦練磨のシュンに言わせれば市街戦やゲリラ戦しかしていない者達であり、全員の位置を確認し、拳銃の残弾を確認してから物陰から飛び出す。

 飛び出した大男に一人が感付いて引き金に掛けてある指を引こうとした時に、眉間を消音器から発射された9mmマカロフ弾に撃ち抜かれる。

 

「殺せ!」

 

 一人が眉間を撃ち抜かれて硬い床の上に倒れようとした時に、シュンは立ち上がって自分に向けて銃口を向ける全ての敵に銃弾を撃ち込む。

 銃を撃った分、即ち七発の押し込められた銃声がした時には、全員が頭を撃ち抜かれるか、胸を撃ち抜かれるかして一人目と同様に床へと倒れた。

 立ち上がったシュンは生きている者全てにトドメの一発を撃ち込んだ後、大型自動拳銃をホルスターに戻し、散弾銃を拾い上げ、死体から予備の弾を幾つか持ち出してから地下へと続く通路を見付ける。

 

「入って良いぞ!」

 

 敵を全て片付ければ、外に居るグレーテルに合図を出し、中に入ってくるように伝える。

 その言葉の通り、グレーテルは辺りを警戒しながら廃墟へと入って来た。

 周囲に転がる死体を見て、グレーテルは散弾銃に何か仕込んでいないか確認するシュンに、人間であるかどうかを問う。

 

「あの銃弾を弾く魔法染みた格好をしなくとも、全員を全滅させるとは…貴様、本当に人間か?」

 

「さぁ、俺にも分からんな。戦場に出て来てこの方、何回も斬られ、何回も撃たれ、破片の一つや二つぶっ刺さり、軍医が諦めるレベルの重傷を負って来たが、俺はなぜか生きている。人間じゃねぇかもな」

 

「…私はお前が人間でない方が高いと見えるがな」

 

「さて、質問は終わりだ。大尉が待ってる。同じ部下、いや、同志だったな。助けようぜ、大尉を」

 

「そのつもりでここに来たんだ。私は逃げんぞ、絶対に!」

 

 シュンが出した答えに、グレーテルは目前の大男は人間でないと判断すれば、投げ渡された短機関銃を受け取り、共に地下へと続く階段に向かう。

 

「おっと! 当然だな!」

 

 当然ながら階段にも待ち伏せが居り、壁沿いに下るシュンを見るなり突撃銃や短機関銃を持った数名の敵兵等は撃ってくる。

 直ぐに一人を手にしている散弾銃で撃ち殺し、ポンプを引いて次弾を薬室へと送り込み、物陰から出てもう一人を撃とうとしたが、その中に少年や少女が居た。

 

「クソッ、胸糞悪いことを…!」

 

 過去のトラウマで成人に達していない少年少女が殺せないシュンは、震えるグレーテルに代わりに撃つように命じる。

 

「中尉、俺が囮になる。その間にあんたが餓鬼共を撃ってくれ」

 

「何を言っている! お前が全てやれば…」

 

「良いからさっさっとやれ! ぶっ殺すぞ!!」

 

「ヒィィィ!!」

 

 これにグレーテルは断るが、シュンが無理に散弾銃の銃口を向けて脅せば、彼女は従った。

 直ぐにシュンは囮となるために遮蔽物より飛び出し、少年少女らの注意を引く。敵の注意が飛び出した大男に向けば、グレーテルは震えながら短機関銃を乱射した。

 銃声がしなくなったのを確認したシュンは立ち上がり、無数の9mmマカロフ弾を受けて物言わぬ死体となった少年少女らの死体を見て、弾切れになった機関銃の引き金を引き続けるグレーテルに謝罪する。

 

「済まなかったな、餓鬼を殺させちまって」

 

「こ、こんなこと! 政治将校として当然だ! 行くぞ!!」

 

 謝罪するシュンに対しグレーテルは当然のようにふるまっていたが、銃を再装填するその手は震えたままだった。

 戦術機の画面越しによる敵前逃亡者の抹殺は慣れているようだが、生の視線での人を撃つことは余りに慣れていない様子だ。

 

「(まぁ、パイロットには荷が重いな)」

 

 無理に意気込んでいるグレーテルの様子を見て、シュンは先に向かった彼女の後を追った。

 最後の防衛ラインは階段までであったらしく、地下のシュタージファイルが保管してある階まで来れば、目前に刃アクスマンと数名の部下、それに人質にされているアイリスディーナしか居ない。

 

「ほぅ、プロの工作員、二個分隊が守りに着いていたのだが、まさかたった二人にやられる、否、一人のアジア系の大男にやられるとは、一目見た時からただ者ではないと分かっていた」

 

 ここまで迫ったシュンとグレーテルに対し、アクスマンは何の動揺も抱くことなく、マカロフ自動拳銃をホルスターから引き抜き、二人を歓迎するかのような発言をしながら銃口を向ける。

 部下たちも同様に各々が持つ銃を向け、直ぐに引き金を引けるように安全装置を外す。

 

「流石にこれだけの銃口を向けられていては、殺しのプロである君でも手が出せないようだ。ここに来た目的は何かね? 我々の背後にあるシュタージファイルが目当てか? それともモスクワ派に私の首でも献上するためか?」

 

 部下たちの銃と自分が持つ拳銃の銃口が向けられていては、シュンが動けないと判断してか、ここに来た目的を問う。

 その問いに対し、初めから答えが決まっているシュンはアクスマンの問いに直ぐに答える。

 

「お前をぶっ殺して、その諜報やら何やらのファイルを全部燃やす為だ」

 

「ハハハ、面白い答えだ。私を殺してシュタージファイルを焼く? なんとも野蛮な。全く持って君はファイルの価値を理解していない。これは政治的に有効な武器だ。まぁ、政治など理解できそうも無い君には全く分からないだろうがね」

 

「貴様! 何を言っている!? 今後のためにシュタージファイルは必要だぞ!」

 

「フッ、瀬戸らしい答えだ…」

 

 初めからアクスマンを殺し、シュタージファイルを焼くことしか考えていないシュンは、ありのままの事を告げれば、アクスマンは笑い、革命後にシュタージファイルを活用する腹であったグレーテルは怒鳴った。

 人質にされているアイリスディーナは、シュンらしいと答える。

 敵である西側陣営のみならず、同じ東側陣営の諜報関連や機密文書で記したシュタージファイルは政治的に利用価値があり、カードにも使える物だ。

 これを手に入れれば社会主義陣営の東ドイツが有利になるかもしれないだろうが、アイリスディーナの革命は社会主義、共産主義によるドイツ東西統一では無く、民主主義てきな物である。

 政治を全く理解できないシュンであるが、アイリスディーナの革命にはシュタージファイルが不要だと思っている。

 そんなシュンも、アイリスディーナが両手を拘束している縄を隠し持っていたカミソリで切り落とし、チャンスを窺っているのを見て、諦めたフリをして散弾銃を彼女の元へ蹴り滑らせる場所に落とす。

 

「おや、諦めたかな?」

 

「いや、これからだ!」

 

「っ!?」

 

 シュンが散弾銃を落としたのを見たアクスマンは諦めたかと思い、グレーテルは勝機が無いと判断したが、当の本人はアイリスディーナが拘束を自分で解いたのを確認済みであり、散弾銃を彼女の方へ向けて蹴り、何所から手に入れたのか、モトロフ火炎手榴弾を懐から取り出し、安全ピンを外して発火させ、それをアクスマン等ベルリン派の背後にあるシュタージファイルに向けて投げ付けた。

 アイリスディーナに向けて蹴り込まれた散弾銃と投げ込まれた火炎手榴弾を見たアクスマンは、余裕に満ちた表情からかなり混乱した表情に代わり、シュタージファイルに向けて飛んで行く火炎手榴弾を撃ち落とそうとする。

 

「よ、止せ! やめろぉぉぉ!!」

 

 シュタージファイルに向けて投げ込まれた火炎手榴弾を撃ち落とそうと、必死に拳銃を撃つアクスマンであるが、足元に来た散弾銃を手に取って構えるアイリスディーナよりも、シュタージファイルを優先したがため、背中を散弾で撃たれる。

 部下たちも火炎手榴弾を撃ち落とそうと必死に撃つも、シュンの自動拳銃のフルオート射撃やアイリスディーナとグレーテルによる妨害を受け、射撃に自信のある者を撃ち落とすのに裂いて、残りは三人に向けて撃ち返す。

 

「ぐっ!?」

 

「イェッケルン!?」

 

 銃弾に当たらずにシュタージファイルに火炎手榴弾が当たって燃え広がる瞬間、グレーテルはベルリン派の構成員の銃撃を受けて倒れた。

 自分の部下、同志が撃たれたのを見てアイリスディーナは視線をグレーテルに向ける。

 完全に焼き尽くす程の火がシュタージファイルを埋め尽くす中、残って居る部下たちは消化するのを止めて持ち出せるだけの資料を持ち出す為、銃を撃ちながら燃え盛る保管棚に向かう。

 

「な、なんという事を…何という事をしてくれたんだ…! 」

 

 背中に散弾を受け、まだ息のあるアクスマンであったが、近付いて来たアイリスディーナに頭を散弾銃で撃ち込まれて首無し死体となる。

 当のシュンは拳銃の再装填を終えてから撃たれたグレーテルに近付き、傷の具合を見る。

 

「こ、これだからドイツ製は…!」

 

「たく、通りでコンドームみたいに薄いわけだ。こんな服に何所に防弾性があるってんだ」

 

 身に付けている強化装備に防弾性があると思ったが、東ドイツ特有の安物で生産性向上のために防弾機能は外されていたようで、グレーテルは吐血しながら自国の強化装備を身に着けたことを後悔する。

 衛士の強化装備に防弾機能があるなんて知らないシュンは、強化装備を更に嫌い、銃弾が体内に残って居ないか銃創をライトで照らしながら確認した。

 

「傷の具合はどうだ?」

 

「あぁ、体内に残っちまってる。拳銃弾だろうが、早いとこ抜かねぇとな。まぁ、外にはあんたのお仲間が集まってることだから、大丈夫だろう」

 

「そうか。大丈夫だぞ、イェッケルン中尉。反体制派の同志達が治療してくれる」

 

 散弾銃を負い紐で背中に掛けたアイリスディーナに、グレーテルの傷の具合を問われたシュンは、ライトの光で肉を抉った拉げた拳銃弾を見付け、摘出しなければ生死に関わると答えたが、続々とシュタージのベルリン派を捉えるために反体制派の構成員達が乗り込んできているので、既に助かったも同然だと告げる。

 部下が死なずに済んだと分かれば、アイリスディーナは弱って行くグレーテルに励ましの言葉を掛け、突入して来た反体制派の者達に、負傷している彼女を運ぶように頼む。

 

「済まない、最優先で治療を頼む。彼女は私の部下なんだ」

 

「あぁ、分かった。直ぐに医者に見せよう。おい、担架を持って来い!」

 

 反体制派の者達に負傷したグレーテルを頼めば、アイリスディーナは散弾銃をシュンに渡し、シュタージのモスクワ派との決戦が行われているベルリンへと戻ると告げる。

 

「私はベルリンに戻るが、お前も来るか?」

 

 共に決戦の場へ来ないかと言う誘いに対し、そこにネオ・ムガルが居ることは確実なので、シュンは当然のように行くと答える。

 

「行くに決まってんだろ。クソ共が居るんだ、皆殺しにするまで別の所には行けねぇな」

 

「愚問だったようだな。私はイェッケルンの機体を借りて出撃する。お前は基地を占拠した同志に機体が残って居ないか確認を…」

 

 戻る事が分かれば、ベルリンで戦うテオドールらの加勢に向かおうと思ったが、この場にシュン用の戦術機が無いので、反体制派の者に戦術機を一機ほど確保していないか聞こうとした時、別の者がアイリスディーナに伝言があると知らせる。

 

「同志ベルンハルトですか? あなた宛てに奇妙な戦術機が」

 

「戦術機? 案内しろ」

 

「はい、こちらです」

 

 その連絡員が奇妙な戦術機と言ったので、アイリスディーナは彼に案内するように告げれば、連絡員は彼女を件の場所へ案内した。シュンもその後へ続き、何者かがアイリスディーナのために持って来た戦術機がある場所へと向かう。

 

「このトレーラーに載っているのがです。何の型かさっぱりで…それに、これをトレーラーごと渡して来た男は胡散臭くて…」

 

「海王星作戦で見たのと同じだが、胴体は違う形だな…」

 

 連絡員の案内に従って見た件の戦術機は、トレーラーに載せられたガンダムタイプのMSであった。

 海王星作戦も含め、ワルキューレの居た時にもガンダムを見たことがあるシュンは、アイリスディーナにその機体の事を告げる。

 

「ほぅ、こりゃあガンダムって奴だな。型は何なのか分からねぇが…」

 

「肩の辺りにMk-Ⅱと書かれているが? それに型式番号はRX-178だ。この手の戦術機の操作方法など、私は分からんぞ」

 

「まぁ、コックピットの中に説明書とかあんだろ。俺は自分の機体があるだろうから、そっちに行くぜ」

 

 機体名を肩に書かれている数字を読んで告げ、乗った事も無い機体だと言えば、シュンはコックピットの中に説明書でもあると言って、自分の機体があると思ってその場を離れた。

 このMSの名はガンダムMk-Ⅱ。海王星作戦時に出て来たガンダムの発展型であり、とある地球圏の治安を担う部隊がシンボルとして開発した物だが、ある事が切欠で反体制勢力の手に渡り、あろうことかそのシンボルとなったガンダムだ。

 当初はテスト機であって防御力が性能に反して劣っていたが、ワルキューレの手によってその問題は解決され、性能に見合う物となっている。

 更に専用のビームライフルに盾と装備も揃い、いつでも動かせるように整備されているので、操作法が分からない以外に文句は無かった。

 

「新品で得体の知れない機体で実戦か…やるしか無いようだな」

 

 操縦方法でも知っていそうなシュンが何処かに行ってしまったので、アイリスディーナは覚悟を決めてガンダムMk-Ⅱに乗り込んだ。


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