復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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今回のネタバレ「見付けた、お兄ちゃん!」


歪む愛情

 日が暮れて夜空となった頃、その瞬間を見計らって現地派遣されたワルキューレ陸軍の一個機甲旅団による攻撃が行われた。

 最初に尖端を切ったのは、先行していた狙撃兵一個分隊であった。

 H&K社のG3自動小銃の狙撃銃モデルであるG3SG/1を持つ狙撃兵が、ヴァスマール基地の歩哨を一人狙撃する。

 一人が頭を撃ち抜かれて雪原の上に倒れ込んだ瞬間に、何名かの狙撃兵は標的にしたそれぞれの歩哨を全て狙撃して排除した。ついでに見張り台に居る警備兵も狙撃して排除する。

 警備兵らが排除したことを無線で報告すれば、直ぐに自走砲による砲撃が行われた。

 砲弾のみならず、ロケット弾を発射するタイプまである。それも西側諸国の物だ。

 一歩間違えば、BETAを交えた第三次世界大戦が勃発する危険性がある。

 ワルキューレの機甲部隊はそんなことをお構いなしに、西ベルリンで殺された仲間の仇を討つべく、基地を吹き飛ばす勢いで容赦なく砲撃する。これにより、外で駐機されていた機体や格納庫に収容されていたネオ・ムガルの機体の大半が破壊される。

 砲撃が終われば、今度は狙撃班からかなり離れた距離に居るMSのジム・スナイパーⅡが、砲撃を逃れた基地の対空設備やレーダーを狙撃し、空から侵入路を確保した。

 それが達成されれば、カエルのような外見を持つ可変戦闘機、VF-8ローガンが投入される。その主翼には爆弾などが搭載されており、念には念を、徹底的に基地の防衛設備を破壊するつもりだ。

 目ぼしい格納庫や防衛設備などを破壊すれば、慌てて出て来たシュタージの戦術機であるMiG-23の対空掃射を受けて多少の脱落機を出しながらも、再び攻撃を行うために元の基地へと帰って行く。

 次に始まるのは、陸戦のメインである戦車と随伴している機械化歩兵による突撃だ。約一個大隊のレオパルド1戦車部隊を先頭に、その後からM113兵員装甲車などに乗った機械化歩兵が連隊単位で続く。戦車の乗員や機械化歩兵連隊、先ほどの狙撃班を含めて全員が女性である。

 無論、彼女らの頭上を飛ぶ二個中隊分のAH-1コブラ戦闘ヘリに乗っているのも女性だ。

 

「来たぞ! 攻めて来た連中はあの憎きメガミ人だ! 総員、今こそ復讐の時である! 奴らを全滅させるまで一歩も退くな!!」

 

 戦車のキューボラより顔を出している戦車長が女性兵士であると双眼鏡を覗いていたネオ。ムガルの将校が分かれば、配下の者達にかつて自分等の帝国を滅ぼした侵略者たちを全滅させるまで一歩も退くなと命じる。

 その大半の配下の者達はムガルとは何ら関係も無い甦らされた咎人達であり、士気は低い。なので、脱走兵が出てもおかしくない。それをネオ・ムガルの指揮官たちは背後から拳銃を突き付け、恐怖で前線に縛り付けるのだ。

 前からも敵、背後よりも敵と言う状態となった咎人らは、戦車を盾に前進して来る敵部隊に向けて半狂乱となった咎人らは無作為に手にしている銃を乱射する。

 もちろん全く意味が無いので、直ぐに榴弾や搭載機銃を撃ち込まれて蹴散らされる。

 

「退くな! 下がる者は銃殺刑だ!」

 

 そんな状態にも関わらず、ネオ・ムガルの将校は逃げる素振りを見せる者を撃ち殺しながら戦線を維持しようとするが、直ぐに狙撃や戦車砲で吹き飛ばされる。

 無事だったAT部隊が駆け付けて来るも、空を飛んでいる戦闘ヘリの機銃掃射で潰される。ATの装甲は小銃弾程度しか防げないのだ。

 ほんの数秒足らずで防衛線を突破され、基地内に戦車や兵員装甲車に乗っていた白い戦闘服を着た歩兵が雪崩れ込んで来る。

 戦術機が止めようと前に出るが、戦闘ヘリのロケット弾で呆気なく撃破されていく。

 優勢はワルキューレの方であり、統制が取れないネオ・ムガルと、実戦経験の無いシュタージの戦闘部隊は圧倒されていた。

 

「十一時方向より戦術機! 反応が速い!?」

 

「カールグスタフ!」

 

 基地に突入し、抵抗を排除しながら進む中、通常とは違う反応の速さを見せるMiG-23が突入部隊の前に現れた。

 それを見ていたM16A1突撃銃のカナダ軍モデルであるコルトC7A1を持っていた歩兵が知らせれば、そのカービン型を持った小隊長は、対戦車弾頭を搭載しているカールグスタフを持った対戦車兵に撃つように指示を飛ばす。

 これに応じ、カールグスタフを持った女性兵士らは、直ぐに照準を動きの速い戦術機に向けて撃とうとしたが、勘付かれて突撃砲の大口径弾で挽き肉に変えられる。近場に居た装甲車もその餌食となる。

 

『なんて速い!?』

 

「誘導弾を!」

 

 素早く動きその敵機に、やや戸惑いながらも、ワルキューレの歩兵や戦車に乗る兵士たちは対応しようと必死に動いた。

 

 

 

「もう始まったか!」

 

 敵より奪ったスノーモービルで基地へと辿り着いたシュンだが、既に攻撃が開始され、激戦となっていた。

 さらに激化すれば、囚われているアイリスディーナ等が巻き込まれる可能性がある。

 そうと分かって急いで向かおうとした時、自分と同じく戦友達を助けようとする者達が駆る機動兵器が見えた。

 

「ありゃあ坊主のバラライカじゃねぇか。それにバルキリー? 誰が乗ってんだ?」

 

 シュンが遠くに見た救出者らが乗る機体は、テオドールのMiG-21とカティアが乗るVF-1Jバルキリーであった。カティアは可変戦闘機に不慣れなのか、ガウォーク形態で何とか高度を維持しつつ、基地へと向かっている。

 

「まぁ、頼りになると良いがな」

 

 その可変戦闘機乗っているのがカティアだとは知らず、シュンは単独で基地へと接近した。

 基地の側面より要殺害対象であるシュンが近付いているにも関わらず、ネオ・ムガルとシュタージの武装部隊の将兵らは一個旅団で急襲を掛けて来たワルキューレの攻撃部隊の迎撃に手一杯の様子だ。

 急いでまだ無事な機動兵器を動かし、敵部隊の迎撃に回しており、他の襲撃者らのことなど全く見向きもしない。

 このおかげか、基地の中心地まで潜入できた。

 

「間抜けな連中だ。こんな時だからこそ別動隊を警戒するべきだろ」

 

 別動隊の攻撃も警戒していない敵にそれを指摘すれば、留置所まで目指す。

 

「ちっ! 見境無しか!」

 

 攻めて来たワルキューレの対処に敵が追われているおかげで留置所まで後少しの距離で来たが、ここに来てワルキューレの部隊が迫ってきているのか、先行しているM113兵員装甲車の機銃手が、AKM突撃銃を持ったシュンを見付ければ即座に搭載機銃であるM2ブローニング重機関銃を撃って来た。

 大口径弾を避けるために近くの建造物の壁に隠れれば、装甲車の後部ハッチより乗っていた歩兵が続々と出て、シュンに向けて手にしているコルトC7A1をフルオートで浴びせて来る。

 少しでも出れば一瞬でハチの巣にされてしまうだろうが、ここに来てネオ・ムガルのバイクに乗った咎人らが装甲車に向けて銃を撃ち、火炎瓶を投げようとしていた。

 走行しながらの射撃は当たらず、火炎瓶を投げる前に倍返しを受けて挽き肉へと変えられる。

 シュンは敵兵等にワルキューレの機械化歩兵部隊が気を取られている内に、全力疾走で留置所まで走った。

 

「よし、ここだな」

 

 留置所まで辿り着けば、シュンは待機状態にしていたスレイブを元の状態へ戻し、その大剣で壁に向けて叩きつけて破壊する。なんとも強引なやり方だ。彼にとってはこの方が早いのだろう。

 壁を破壊したシュンは、大剣を待機状態へと戻してから、適当に手榴弾を二つほど投げ込み、爆発してから留置所内へと突入した。

 

「奴だ!」

 

 突入前に投げ込んだ手榴弾は効果が無かったらしく、突入した瞬間に物陰に隠れていたM56ヘルメットを被ったシュタージの武装兵二人にいきなり撃たれた。

 

「ちっ、生きてやがったか!」

 

 少し左腕を掠めたが、戦闘には支障が無いので、死んだかどうか確認して来るシュタージの警備兵らに向け、同じ銃だけで製造国が違うAKMで撃ち込んで排除する。

 動かないのを確認すれば、アイリスディーナ等が捕らえられていると思われる留置所の地下に向けて辺りを警戒しながら進む。

 ここは既に敵地、いつどこからか敵兵が現れるか分からないし、それにワルキューレの機甲部隊に襲撃されているのだ。ここにもワルキューレの歩兵部隊が到達しているかもしれない。

 そうなれば、同胞を殺されての報復のために彼女らは見境なくアイリスディーナ等を撃ち殺すだろう。

 それを阻止するためにも、一刻も早く彼女らを解放しなくてはならない。シュンは遭遇する敵兵等を撃ち殺しながら、地下へと続く階段を目指した。

 

「出ろ! もうじきここは吹き飛ばされる!」

 

 時にはシュタージに反抗して牢に囚われていた人民軍の兵士や整備兵らを解放する。

 理由は無視して牢に入れられたままだったら、突入して来たワルキューレの歩兵に撃ち殺されないからだ。前の世界で共産主義と戦っていた彼女らなら、社会主義国の者と見れば、抹殺対象と捉えて見境なく撃ち殺すことだろう。

 シュタージの密偵にいつ密告されるか分からない極限状態に置かれた挙句に掴まり、共産主義者だと言う理由で殺される理不尽な彼らに、シュンは何らかの罪悪感が芽生えて解放したのだ。

 それを手早く済ませれば、解放した整備兵の一人に、アイリスディーナ等が地下に囚われているかどうかを問う。

 

「おい、大尉たちは何所に捉えられている?」

 

「地下牢だ! 中隊の面々は地下に囚われているが、大尉だけは先にベルリンに連れてかれた!」

 

「んだと!? クソッ、敵の本拠地とぁ。徹底的じゃねぇか!」

 

 解放した整備兵から、アイリスディーナがベルリンへ連行されたと聞けば、救出はほぼ不可能と悟った。

 おそらく厳重な警備下にあるシュタージが保有する強制収容所に連れていかれた筈だ。

 

「じゃあ、俺たちは脱出路を確保する。お前はクリューガー中尉達を!」

 

 中隊の面々が囚われている場所を話した整備兵は、死んでいるシュタージの兵士から武器を拾い上げ、仲間を連れて出ようとしていた。

 このまま彼らを外に出せば、確実にワルキューレの歩兵らに撃たれるのは間違いないので、呼び止めてワルキューレの歩兵には注意するように告げる。

 

「あぁ待て! M16やらを持った連中には気を付けろ!」

 

「M16? なんで西側の連中が? 救出か?」

 

「詳しい事は、中隊の奴らを解放してから話してやる。とにかく、アカを見れば撃ってくる」

 

「なんて奴らだ…」

 

 それを告げながらシュンが地下室へと向かえば、整備兵等は西側も信用できないと絶望感を浮かべる。

 そんな彼らを放置し、地下へと続く階段を発見したシュンは、下に敵兵が居ないか覗こうとした時に、銃声がした後に無数の銃弾が飛んできた。

 どうやらシュタージの兵士が軽機関銃で防衛線を張っているようだ。一人がPKM軽機関銃の銃身を上に挙げるように二脚を抱えている。流石は軍事組織と言った所か。

 これを紙一重で躱したシュンは破片手榴弾のピンを抜き、安全レバーを外して数秒ほど待ってから機関銃手が居る下へと落とした。

 直ぐに爆発音が聞こえ、二人分の悲鳴が聞こえて来る。二人とも始末で来たようだ。

 下を覗いてちゃんと死んでいるのを確認すれば、素早く階段を降りて仲間の救出に向かった。ついでにまだ無事な軽機関銃を回収する。

 

「何としても奴を通すな!」

 

 将校の怒号で最後の防衛戦が破られても、必死の抵抗を続けるシュタージの兵士らだが、兵士たちの戦意は落ちており、機関銃を乱射しながら突っ込んで来たシュンに制圧される。

 

「おい、無事か?」

 

「バートル? バートル曹長? なんでここに…?」

 

「話は後だ。早く仲間を解放しろ」

 

「わ、分かったよ…」

 

 死んでいる敵兵から鍵を奪い、最初に開けた牢に囚われていたアネットを解放する。

 先に解放されたアネットは見た目では無傷であるが、精神的にダメージを受けているようだ。そんな彼女はシュンの姿を見て助かったと思い、手渡された鍵を持って仲間たちを解放した。

 

「手酷くやられたな。クリューガー中尉は重傷じゃねぇか。それにファム中尉まで。大丈夫か?」

 

「私は大丈夫。貴方の言う通り、クリューガー中尉はかなり酷くやられたわ。今でも意識を取り戻さないし…」

 

「あいつよ…リィズ・ホーエンシュタイン…! やっぱり密告者だった…最初から分かっていれば…!」

 

 解放した面々を見て、アネット以外はシュタージから拷問を受けた様子だった。

 特に酷いのはクリューガーであり、意識を失ってシルヴィアに抱えられていた。

 彼を抱えているシルヴィアが、自分等に拷問を行ったのはリィズであると言い出す。ファムはリィズがただ言われてやっただけと思っているようだが、今の第666中隊の面々は彼女に対する憎悪に満ちている。

 シュンはそんな彼女らを纏め、脱出すると告げた。

 

「あいつの言う通りか。んじゃ、取り敢えず戦術機を確保して脱出だ。外では派手にドンパチやってる。あいつ等も来てるぞ」

 

「外でドンパチ? 一体誰が?」

 

「まさか反体制派の人達が?」

 

「いやアカ狩り共だ。この基地を占拠したシュタージと無法者共に攻撃している。アカ狩りは見境無しに俺たちまで攻撃して来る。奴らがM16を向けたら遠慮なしに撃て」

 

「こんな状況で人殺しなんて…」

 

 ファムが外で戦闘していると聞き、何者かであると問えば、シュンはワルキューレの部隊の事をアカ狩りと表して答え、更にはこちらにも撃ってくることも告げた。

それを聞いて一同は絶望感を覚える。目の前にBETAと言う脅威があるのに。

 

「今は脱出に専念だ。その後は反体制派やら俺らの味方をしてくれる奴らに合流すれば良い。銃を持て。行くぞ」

 

 四方八方より死が迫っていることを知り、絶望に打ちひしがれた面々に向けてシュンは、シュタージの兵士が持っていたMPi-AK-74突撃銃を渡し、脱出に専念しろと指示した。

 

「たくっ、曹長が士官たちに命令なんて。でも、貴方の方がよっぽど私たちより階級が上に見えるわ」

 

「まぁ、私らが助けてくれるなら誰でも良い。私は行くよ」

 

 自分より階級が下なシュンに指示されたファムは吹っ切れたのか、シュンが自分等より階級が上に見えると言いながら手渡したAKMを取る。

 上下関係は今ここでは関係ないので、シルヴィアはシュンに従えばクリューガーも生き残れると思い、PM-63RAK短機関銃を手に取り、彼を抱えながら進む。

 

「嬢ちゃんはどうだ?」

 

「私もあんたに従うよ。この状況じゃ、あんたが正しそうだし」

 

「そうか。なら先行しろ。お前は小さいからまずは撃たれない」

 

「ち、小さいとか言うな!」

 

 アネットにも視線を向けて問えば、彼女もまた仲間が無事に脱出するためには、シュンの指示が正しいと思って従う。

 そうと聞いたシュンは、先行しろと言ってAK-74をアネットに投げ渡す。

 その時にチビ呼ばわりされてか、少し怒りながらも指示に従って殺傷能力が高い小口径突撃銃を手にしながら先行した。

 先行したアネットの後にクリューガーを抱えたシルヴィアやファムが続く中、シュンは殿に回り、背後を警戒する。まだ生き残っているシュタージの息の掛かった兵士が居るかもしれない。

 先行した面々が地上へと続く階段を上がって行き、地下の何所からも誰も出てこないことを確認すれば、PKMの予備弾倉を死体から取ってから面々と同じ視線を向き、共に階段を上がった。

 

 

 

「ほ、本当に撃ち合ってる…」

 

「第三次世界大戦にならないかしら?」

 

 先に階段を上がり、外で東側のシュタージの兵士等が、西側の装備をした白装束のワルキューレの歩兵と交戦しているのを見れば、アネットは絶望し、ファムは第三次世界大戦にまで発展しないかどうかを心配し始める。

 そんな彼女らに向け、シュンは軽機関銃の再装填をしながら自分等に銃口を向けない者が味方であると告げる。

 

「俺たちに銃口を向けない奴が味方だ。さぁ、格納庫が吹っ飛ばされる前に急ぐぞ。俺が援護する。走れ」

 

 そう告げれば、シュンは再装填を終えた軽機関銃の二脚を立ててから寝そべり、RPD軽機関銃を乱射している無法者に狙いを付けて引き金を引いた。

 

「行け!」

 

 機関銃を乱射していた無法者を倒せば、シュンは壁に隠れているファム達に格納庫まで走るように告げた。

 直ぐに彼女らは負傷しているクリューガーを抱え、急いで格納庫まで走る。

 そんな彼女らを狙う銃撃戦を行っている双方に向け、シュンは軽機関銃の機銃掃射を浴びせて格納庫まで向かう者達を援護する。

 

「もう良いよ!!」

 

 遮蔽物となる戦術機の残骸まで着けば、アネットが大声で知らせて来た。シュンがここまで辿り着けるように、アネットとファムは援護射撃を始める。

 彼女らの援護射撃で敵が怯んでいる内に、シュンは機関銃を抱えながら急いでその場まで走る。この間にも銃弾が飛んでくるが、彼女らの援護射撃があるおかげか、ここまで辿り着くことが出来た。彼女らに撃たれて死んでいるのは、無法者が多かった。どうやら軍事訓練を受けていないようだ。

 辿り着けば、戦術機がある格納庫の様子を窺ってみる。

 格納庫の出入り口にはバリケードが築かれており、そこで整備兵たちが取り返そうと向かって来る無法者やシュタージの兵士等や、破壊しようと向かって来るワルキューレの歩兵と銃撃戦を繰り広げている。遠くの方では、カティアが乗るVF-1がバトロイド形態でガンポッドを連射しているのが見える。

 装甲車に戦車、戦闘ヘリに襲われれば、一溜りも無いが、それらの類は戦術機とネオ・ムガルの機動兵器の対応で手一杯らしい。

 

「シュトラウス中尉達が抵抗してる! それに海王星作戦の時の!」

 

「従ったふりをしてたらしいな。よし、行くぞ!」

 

 アネットの知らせで分かれば、シュン達は格納庫まで一気に走った。

 

「中尉!?」

 

「ごめん! 直ぐに戻る…」

 

 その時にファムが一人離れ、死んでいる無法者からRPG-7対戦車火器を拝借してから戻ろうとする。

 アネットの呼び掛けで直ぐに一団へ戻ろうとしたファムであるが、背後より迫って来たワルキューレの歩兵にC7A1突撃銃に撃たれた。

 撃たれてしまったが、その女兵士はシュンが懐より出した拳銃で射殺される。直ぐにアネットは彼女の元へ行こうとしたが、シュンに止められ、代わりに彼はファムに近付く。

 

「何やってんだ!」

 

「ごめん、殴られ過ぎて鈍っちゃったみたい…」

 

「言い訳は良い! とにかく、ここから…」

 

「っ!? 前から敵が来てる!」

 

 撃たれてもなんとか立ち上がろうとするファムに向けてシュンが叱る中、彼女は前からワルキューレの一個分隊程の人数の歩兵が迫ってきていることを知らせた。

 分隊支援火器手がミニミ軽機関銃を持っており、更にはグスタフカールを持った兵士まで居た。重装備の歩兵分隊だ。直ぐにシュンは手にしている機関銃を撃ち、弾丸の雨をその分隊に浴びせる。

 軽機関銃を持っている一人が倒れれば、残りの兵士らは直ぐに地面へと伏せた。

 

「行くぞ!」

 

 敵が怯んでいる内に、シュンは突撃銃を構えたファムを引っ張って全員が居る格納庫まで向かった。

 ファムは引っ張られながら前進して来ようとするワルキューレの歩兵に向けて銃を撃って前進を阻む。

 

「死ねやぁ!!」

 

 後少しまで来た時に、隠れていた無法者に襲われた。

 流石にこの距離では機関銃は撃てず、直ぐに拳銃へ切り替えようとしたが、間に合いそうも無い。ここに来てやられるかと思った瞬間に、自分を斧で斬り殺そうとした男は倒れた。

 背中にはナイフが刺されており、それを投げた者の正体はテオドールであった。

 

「おっ、坊主。降りて大丈夫か?」

 

「何やってんだ! 早くファム中尉を運べ!!」

 

 礼よりも戦術機を降りて大丈夫なのかと問うシュンに対し、テオドールは負傷しているファムを運ぶように叫んだ。

 それを受けてシュンはファムを安全な場所まで運んでから。テオドールが再び戦術機に乗り込むのを援護する。

 戦術機に乗り込もうとする彼を殺そうと、ネオ・ムガルの雑兵らが出て来るが、こちらに身体を晒してくれるおかげで的撃ちのように撃ち殺せた。

 テオドールが乗ったのを確認すれば、シュンは弾切れとなった機関銃を捨て、近場で死んでいたモヒカン男が持っているM16A1突撃銃や予備弾倉を手に取り、ファムを抱えて行こうとする。だが、彼女はそれを拒んだ。

 

「私は良いわ」

 

「どうするつもりだ?」

 

「何って、まだリィズちゃんが残ってるわ」

 

「おいおい、もうあの嬢ちゃんは駄目だぞ。引き込めるわけがねぇ」

 

「それなら、この私が手を下すわ…」

 

「あぁ、くたばるんじゃねぇぞ」

 

 ファムは裏切ったリィズの説得を試みるようであり、それが駄目なら自分で手を打つつもりのようだ。

 短い期間であるが、ファムの性格を知ったシュンは説得を止めて西側の突撃銃を抱えながら格納庫へと入った。

 格納庫に入る前にファムが居た方向を振り返れば、彼女は邪魔になるAKM突撃銃を捨て、RPG-7を抱えながらそこでリィズが来るのを待っていた。

 

「よし、全員乗った! ここから脱出するぞ!!」

 

 アネットとシルヴィアを初めとする衛士等がMiG-21に乗り込んだとの報告が誰かから出されれば、格納庫で抵抗を行っていた者達は直ぐにそこから脱出し、反体制派の者達が居る方向へ向かう。

 整備班や協力者たちは車両に乗り込み、カティアは上空を守れとテオドールに言われたのか、ガウォーク形態へと機体を変形させて上空を飛ぶ。

 殿はテオドールが担当するようだ。一人残されたシュンも、この後へと続く。

 

『おい、ファム中尉はどうした!? それと大尉は!?』

 

「お前の妹を説得するんだってよ! それと大尉はベルリンに連行された! もうここに居る意味はねぇ!!」

 

『っ…!? 連中の増援部隊か! とにかく手に乗れ! 脱出する!!』

 

 ファムとアイリスディーナの事を聞いてくるテオドールに対し、シュンは知っていることを全て話せば、彼はやって来たネオ・ムガルの増援を見て、彼女を見捨てるしかないと判断し、機体の手を出して乗るように告げる。

 ワルキューレの機甲旅団はかなりの損害を受けたのか、撤退を始めている。ここに残って居れば、ネオ・ムガルのSPTやMFに嬲殺しを受けることは時間の問題だ。

 それに応じ、シュンが左手に乗り込めば、テオドールは脱出のために飛び上がろうとした。

 

『見付けた! お兄ちゃん!』

 

『リィズか!?』

 

「来やがったか!」

 

 そんな時にリィズが駆るMiG-23が接近してきた。

 退却を始めたAH-1やVF-8を撃墜しながらこちらへと向かって来る。動きは他の実戦慣れしていないシュタージの衛士たちとは違い、第666中隊に属していたおかげか、かなり鍛えられており、機体の性能のおかげもあって圧倒的な強さだ。

 ただし、テオドールの事になれば敵味方は関係ないのか、テオドール機を攻撃しようとしたATやMSのカザDを撃破している。

 最後に二機編隊となって撤退の殿を務めていたガウォーク形態のVF-8を二機とも撃破した後、動けないテオドール機に突撃砲を構えたまま投降を呼びかける。愛する兄をシュタージに引き込むつもりだ。

 

『お兄ちゃん、そいつを捨ててこっちに来てよ。シュタージなんかに勝てるわけがないよ。今ならこっちに来れば、許してもらえるよ。今の上司はベアトリックス少佐でアクスマンじゃないけど、あいつよりは優しいよ』

 

 拡声器を使っての投降勧告、ではなくテオドールが乗る戦術機の左手に乗るシュンを捨ててこちらへ来いとリィズは言っている。

 無論、テオドールはシュタージに立ち向かうことを固く誓っており、仲間であるシュンを見捨てるつもりは毛頭も無い。直ぐにそれは出来ないと、義妹が乗る敵機に向けて告げ、逆にこちらの陣営に誘おうと試みる。

 もしもの場合に備えて、応急処置を終えて待っていたファムが、対戦車火器の照準をリィズのMiG-23に向ける。安全装置は解除し、いつでも撃てる状態だ。

 

『いや、出来ない。シュタージは倒さなくちゃならない敵だ。このドイツ民主共和国の未来、いや、全人類の未来のために。リィズ、分かるだろ? BETA相手にいつまでも西と東に対立し、自分たちの利益を守るだけの社会主義を続ける奴らに従うなんて馬鹿げているだろ? 連中に従っていたら未来は無い。ただ死ぬだけだ。俺たちと来れば、確実に未来は掴める。お兄ちゃんと一緒に未来を掴もう。なっ?』

 

 逆にこちらへ引き入れるための説得を行うテオドールであったが、リィズの返答は予想を遥かに上回る物だった。

 彼女は完全に心身に至るまでシュタージに洗脳されているようだ。更には義兄であるテオドールに対する異常なまでの依存を感じる。

 

『おかしいよ、お兄ちゃん…あのシュタージなんかに勝てるわけが無いんだ…分かるでしょ? 西の方へ逃げても直ぐに捕まったでしょ? それでどうなったか分かるでしょ? お兄ちゃんたちのしてる革命ごっこなんて、全くの無駄なんだよ!!』

 

 シュタージには逆らえない。

 リィズはそう言ってテオドールの説得を振り払い、突撃砲でテオドールの後ろから迫っていた友軍機を撃破した。

 胴体に数発の砲弾を浴びたネオ・ムガルが持ち込んだドライセンは倒れ込み、数秒後に爆散する。

 味方すら容赦なく殺す操縦士が乗る戦術機の次の照準は、テオドール機の左手に乗っているシュンに向けられている。

 これには流石のシュンも冷汗を搔き、思わず息を呑んでしまう。

 テオドールはリィズにいつ撃たれるか分からず、動けないでいた。

 

『どうして逆らうの? どうして私を避けるの? どうして一緒にこないの!? おかしいよ…! 勝てるわけが無いよ…! シュタージは大きな宇宙船をたくさん持って、BETAなんかを簡単に操る訳の分からない連中と組んだんだよ? もう勝てないよ。戦闘機をロボットなんかに出来る連中でも!!』

 

 どうやらシュタージがネオ・ムガルと組んでいるようだ。

 感情的となったリィズがそのことを明かしてくれた。これでシュンにとってシュタージもまた倒すべき標的となった。

 だが、代わりに突撃砲の砲弾が飛んできたが、すんでの所で頭を伏せて下げ、自分を殺そうとする下の無法者らをアメリカ製の突撃銃で一掃する。

 

『お前ら…! お兄ちゃんに近付くな!!』

 

 勝手に愛する自分の義兄を殺そうとする無法者らに気付いたのか、リィズの注意が彼らへ向き、味方であるはずの彼らを殺し始めた。

 

「今だ! 飛べ!!」

 

 リィズが自分の味方であるはずのネオ・ムガルの咎人らを殺している間に、シュンはテオドールにこの場からの離脱するように指示した。

 

『でも、ファム中尉が!?』

 

「大丈夫だ! 中尉は足を用意している! だから早く出せ!!」

 

『クッ…! 済まない、ファム中尉…リィズ…!』

 

 ファムが来ていないことで、離脱を拒むテオドールだが、シュンは嘘をついて彼を離脱させることに成功した。

 この場に優しい上官と義妹を置いて行くことに罪悪感を覚え、テオドールは彼女らに謝罪しながらシュンを機体の左手に乗せながら離脱する。

 

『お兄ちゃん! 待ってよ!』

 

 脱出しようと跳躍ユニットを吹かせて空を飛んだところで、味方の咎人らを殺し終えたリィズが気付き、こちらへ向けて突撃砲を撃とうとして来た。

 この状態では確実に撃破されてしまう。

 そう二人が思った瞬間に、ここを死に場所と決めたファムがRPG-7をリィズ機の横脇腹へ向けて撃ち込んだ。

 完全撃破とはいかなくとも、バランスを崩させて射撃を妨害することに成功した。それに残り数分辺りでその戦術機は爆発するだろうが、まだ管制システムは稼働しており、突撃砲の砲口がファムに向けられる。

 

『ファム中尉!? あれじゃあ…!』

 

「振り返るな! 中尉の犠牲を無駄にするんじゃねぇ!!」

 

『ファム中尉…!!』

 

 ファムに砲口が向いているのに気付き、助けに行こうとしたテオドールであるが、シュンに振り返るなと言われ、今の自分では助けられないと判断し、ドイツ東西統一のために助けに行こうとする気持ちを抑えながらこの場からの脱出を優先した。

 その後、砲声が鳴り響き、ファムはリィズが乗るMiG-23の突撃砲が放った砲弾により上半身を吹き飛ばされた。

 砲弾に当たる前のファムの表情は、リィズに対する憎しみは無く、ただ穏やかな笑みを浮かべていた。

 第666戦術機中隊のナンバー2、ファム・ティ・ラン地上軍中尉がリィズに撃たれて死んだと悟ったテオドールは、完全にシュタージの衛士となった自分の義妹と敵対することを固く誓い、今は後の戦いのため、先に脱出した面々の跡をシュンと共に追った。

 

 

 

「なんで…! なんで…!!」

 

 機体を破壊され、更にはもう少しで手に入るはずだったテオドールにまで逃げられたリィズは爆発する寸前の機体から飛び降り、倒れ込んでから床を何度も叩いて悔しがる。

 それから物の数秒後で機体は爆発し、リィズは吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされたが、怪我をするほどの物では無く、リィズは直ぐに立ち上がり、自分一人だけでも兄を追跡しようとしたが、目前にネオ・ムガルの指揮官と配下の咎人らが現れる。

 

「全く、共産主義者は犬の躾方がなってないようだな」

 

 どうやら彼らの咎人を撃ったことで、咎められたようだ。

 周囲に視線を向ければ、辺りを下賎な表情を浮かべた無法者らに包囲されている。

 一人の無法者が指揮官に近付き、欲情した目付きでリィズを見ながら下品な欲求を晴らす許可を求める。

 

「ボス、俺らにその子犬ちゃんの調教を許可してくださいよ。ちゃんと躾ますから…」

 

「ふっ、下賎な。まぁいい、許可する」

 

「グヘヘへ、ありがたや」

 

 自分を輪姦するつもりだ。

 その許可が出た無法者らは、リィズを輪姦しようと周りを囲んで下品な笑みを浮かべながら近付いてくる。

 

「お兄ちゃん…!」

 

 近付いてくる男達に、リィズは思わず先ほどこの基地より脱出したテオドールに助けを求めるが、聞こえるはずも無い。

 

「小さいのに良い身体してるぜ! た、たまらねぇなぁ…!」

 

 最初に来た男はリィズの身体つきを見て欲情し、強化装備を破ろうとした。その瞬間に男の右手が突然捩じり始めて千切れた。千切れた個所から血が勢い良く噴き出す。

 

「グェアァァ!? な、なんだぁ!?」

 

「の、能力者だ! 全員警戒しろ!!」

 

 一人の男の右手が勝手に千切れたことで全員は恐怖するが、指揮官は能力者だと判断して全員に警戒するように指示を出す。

 

「ごべばっ!?」

 

「あびゃぁ!?」

 

「う、うわぁぁぁ!?」

 

 もう既に遅く、全員が先に右手を千切り落とされた男のように手足や首を謎の力で千切り落とされ、やがて全員が出血多量で息絶えた。

 この場で動いているのは、血塗れのリィズ一人だけだ。

 そんなリィズにネオ・ムガルの咎人らを捩じり殺した正体が近付いてくる。

 

「だ、誰…?」

 

 周囲の男達を皆殺した正体に、何者かをリィズは問う。

 その正体はやや桃色の混じった腰まである長い金髪を持ち、スカイブルーの瞳を持つ長身の美女だ。美しさはアイリスディーナやベアトリックスに負けない程だ。

 近付いてくる謎の美女は、リィズの問いに答える事も無く、力が欲しいかと問うてくる。

 

「力が欲しいか?」

 

「力? 一体何を言って…」

 

「お前は今、力を欲している。その力、お前は必ず取る」

 

 何のことか分からないリィズだが、美女が言う力が兄を終える物なら使ってみたいと思い始める。

 それが分かっていたのか、美女はその力をリィズの前に見せた。

 美女の背後からは、巨大な紫色のガンダムタイプのMSが姿を現す。

 その巨大なガンダムこそが、リィズの求めていた力と言うのだろう。

 

「あれがお前の欲する力だ。サイコガンダムMk-Ⅱ。この世界の機動兵器である戦術機よりも更に大型だが、フォートレス形態に変形すれば長時間の航行することが可能だ。更にビーム兵器を多数搭載し、リフレクタービットがビームを反射して死角を防いでくれる。近接戦闘には両手首を90度回転させればビームソードが出る」

 

 現れた巨大なガンダム、サイコガンダムMk-Ⅱの特性と武装のことを説明すれば、リィズは操縦方法について問う。

 

「操縦は? 私、そんなに乗った事なんて…」

 

「大丈夫だ。これを被ればあの機械の巨人は思い通りに動く。まさに敵無しだ。この力を取るか取らないかはお前次第だ。この巨人の中で考えると良い」

 

「あっ、待って…! 貴女は…?」

 

 操縦方法について問えば、美女は奇妙な被り物を渡し、乗るか乗らないかは自分次第と告げ、その場を後にした。

 最後に何者かを問おうとしたリィズであったが、瞬きした瞬間に美女は消え、残されているのは自分と、全長40mはある紫色の凶悪な顔付きの巨大なガンダムだけであった。

 この力を取るか取らないかはお前次第だ。

 そう言われたリィズは、迷わずに巨人の力を取り、頭部にあるコックピットまで続くワイヤーをしっかりと掴んでから作動させた。




VF-8ローガンは、超時空騎団サザンクロスに登場する可変戦闘爆撃機ローガン。
こちらではロボテックの設定を使用。軽戦闘機兼戦闘爆撃機の類で登場。
無名のパイロットしか乗っていないので、ヤンデレ妹と化したリィズに撃ち落とされまくる。

他にワルキューレが西側のデンマーク軍装備で東側の基地にカチコミを掛けましたが、政治的に何にも問題はありません。
まぁ、何にもないとは言わないけど。

最後にやる予定だったことが実現した。
リィズにサイコガンダムMk-Ⅱを乗せる。うん、鬼に金棒だ。
我ながらに自分は素晴らしい決断をしたと思う。ストライクやらAEG3などの最近のガンダムに乗せるなど、芸が無い物よ。
やはりヤンデレにはヤンデレが乗ってたガンダムが似合う。

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