復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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マクロスΔの劇場版公開か…

その記念にマクロス一挙配信なので、更新遅れますた。いや~、スマンスマン!(柿崎風に

原作でもアニメでも西方総軍だったけど、共産国の軍隊らしく西部方面軍に変更。


二度目のベルリン

 目的を達成してからの戦闘の後、シュタージに命を狙われていることを知ったシュンは、再び狙われないよう、身を隠すようにして何とかアイリスディーナ達が待つ基地へと戻ることに成功した。

 それと同時にネオ・ムガルが何も無いこの世界に来ていることを知り、無法者たちからテオドールやアイリスディーナ達を守る為、シュンは俄然に残る他なかった。

 ついでに基地近くの盗聴器の無い廃教会の屋内で、シュタージの衛兵連隊の一部に襲われたことをアイリスディーナに報告する。

 

「そうか…シュタージがお前を…」

 

「あぁ。そこまでする辺り、あのゲシュタポ共は何か企んでいるらしい。軍上層部の幹部連中をクーデターやら何やらでしょっ引いた辺りが証拠だぜ」

 

「どうやら、シュタージはこの国を本格的に掌握するつもりのようだな」

 

 遂に手を出して来たかとアイリスディーナが思う中、シュンはここまでシュタージが出て来るのは、何か大事を仕掛けて来ると告げる。

 そうと聞いてか、シュタージが国家掌握のために何か手を打つ前に、こちらも動かなければならないと、アイリスディーナは判断する。

 そんな彼女に対し、シュンはネオ・ムガルの事も知らせた。

 

「考えてるところ悪いが、悪い知らせがもう一つある。ゲシュタポ共が無法者共とつるんでる。詳しくは言えねぇが、近いうちに襲ってくるだろう。銃の整備はきちんとしておいた方がいい。それと戦術機に乗ってる時でも警戒しておけ。前線でも容赦なく襲ってくるかもしれねぇ」

 

 異世界より来た無法者たちとは敢えて告げず、常に警戒しておくことと、戦術機に乗って前線に居る時も常に周りに警戒しろとアイリスディーナに告げた。

 後者の辺りに疑問を抱いたアイリスディーナは、リィズの着任後の出撃後で交戦したBETAの死骸と壊れた戦術機に襲われた件を持ち出し、その訳をシュンに問う。

 

「なぜ前線でも襲ってくると分かる? リィズが着任した時に受けた任務で私たちを襲撃して来た者と関係があるのか?」

 

「あぁ、あれか。だが、あんなのは序の口だろ。本番はこれからだ。見れば嫌でも分かる。多分、化け物共と一緒に出て来るはずだ。次の戦場でな」

 

「BETAと共に? 幾ら無法者とは言え、そんなことはあり得ん事だ。BETAを使役する実験はあったようだが、連中には脳と言える物は無い。死んでいるならまだしも、実質不可能に近いだろう」

 

「まぁ、信じられねぇだろうな。だが、連中は何でもありだ。死んでる奴じゃなくても、操れるかもしれねぇ。出来ることは、何が起きても動じず、速やかに対応するしかねぇってことさ」

 

 戦場でネオ・ムガルが襲撃してくるなら、BETAと組んでやって来る。

 そんな信じられないことを言うシュンに対し、アイリスディーナはかつてBETAを操ろうとして失敗した科学者たちの試行錯誤のことを持ち出して否定したが、死体や壊れた戦術機を操って来る連中なので、出来るのではないかと微かに思ってしまう。

 疑いの目を向ける彼女に対してシュンは、何が起きても動揺せず、対応出来るようにするしかないと答え、鞄よりアイリスディーナのための土産を出す。

 その土産は、あのドイツ国防軍の陸軍大尉の制帽である。手渡された制帽を見て、何所で手に入れたのかを問う。

 

「この帽子は?」

 

「あぁ、俺の探し物のついでに拾って来た。あんたに似合うと思ってな。それに前の城主かナチ公の金塊も拾って来た。もしもの際は、そいつで仲間を連れて西側にでも亡命しろ。そいつがあれば、アメリカの辺りで不自由のない暮らしができるだろう」

 

 探し物ついでに拾って来たと答え、ついでに見付けた宝物や金塊も渡し、シュタージに負けた場合はその金塊を使って亡命しろと告げる。

 そんなお節介とも言える気遣いに対し、アイリスディーナは自分と仲間たちの信念、愛国心を持って断る。

 

「結構な気遣いだな。だが、我々はこの国から離れる気は無い。負けるならこの祖国の地で死ぬつもりだ。カティアのために使うならまだしも、誰も受け取らないだろうな」

 

 きっぱりと断ったことに、シュンは驚いた。

 まさかこれ程までの信念を持つ愛国者を目にしようとは。

 シュンが知る愛国者とは、自国のためなら他国の領土を平気で蹂躙し、他人を使い捨てる卑劣で傲慢なろくでなしだからだ。

 絵に描いたような愛国者であるアイリスディーナに感服したシュンは、後頭部を搔きつつシュタージに対する勝算があるかどうかを問う。

 

「やれやれ。せっかく俺が死ぬ気で手に入れたってのに。まぁ、もしもの時にこいつは俺が預かっておく。それより勝算とかあんのか?」

 

「あるにはあるが、勝率は低い。だが、勝率を高めることは可能だ。そこでベルリンへと出張しようと思う。メンバーはテオドールとグレーテルだ。ベルリンに居る軍や政治将校の高官らに我が隊を売り込む。少しでも政治的立場を確立させるためにな。だが、テオドールだけでは心もとない。お前も護衛として同行してもらうぞ、バートル」

 

「またベルリンか。向こう側の壁にある娼館に行きたいが、んなことをすればハチの巣だ。良いだろう」

 

 シュンの問いに彼女の案は、ベルリンに赴き、軍や党に自分の隊を売り込んで政治的立場を高めて勝率を少しでも上げるとのことだった。

 その案にシュンは西側にある娼館に行きたいのだと言ったが、アイリスディーナの目線を感じて冗談だと無言で返し、案に賛同した。

 

「では、明日は早い。そろそろ怪しまれる頃だろう。帰るぞ」

 

「応よ」

 

 明日の打ち合わせも済ませれば、二人はここを後にし、基地へと帰った。

 

 

 

 翌日、シュンはテオドールとグレーテルの護衛として、再びドイツ民主共和国の首都であるベルリンへと来ていた。

 とっ、言っても市内の党本部や政治総本部に居る将校との会合をするグレーテルの付き合いであるが。

 会合の際はテオドールも含め、二人は室外待機ではあるが、その間に市内の重要施設の地理を把握することは可能だ。シュンは酒を一滴も飲まず、いずれかは乗り込むベルリンの重要施設をテオドールと共に見る。

 会合を終えた後、国防省の参謀本部へと徒歩で向かう。

 その道中、どうやって目当ての将校を味方に付けるかを、テオドールはグレーテルに問う。

 

「でっ、イェッケルン中尉殿。どうやって参謀本部の将校を味方に引き入れるつもりでありますか?」

 

「あぁ、その件に関してだが、私も政治将校だ。それなりのコネがある。任せておけ」

 

「(その歳で良く言えるな)」

 

 テオドールの問いに、グレーテルは政治将校としてのコネを使って味方にすると堂々と答えた。

 これにシュンはいささか心配になったが、彼女がいざ個室で件の将校との会合を行った際、将校の不正の事実を掴んだようだ。そのおかげか、交渉は見事に成功し、第666中隊の政治的立場は少し良くなった。

 

「やれやれ、中尉殿にそんな才能があるとは」

 

「おい、貴様。言葉に気を付けろ。今すぐにでも貴様を差し出すことだって出来るんだからな!」

 

「おっと、怖い、怖い」

 

 海王星作戦の際に撃たなかったことを幸いに思い、皮肉を込めた褒め言葉をグレーテルに投げれば、彼女は脅し付ける。だが、シュンは動ずることも無い。

 作戦本部から出て舗装路へ出た際、不注意のシュンに幼い少年がぶつかって倒れた。

 

「おっと、済まねぇな。怪我はないか、坊主」

 

 尻餅を付いて倒れた少年に、シュンは手を差し伸べて立たせようとした際、この少年の父親が直ぐに駆け付けて来る。

 

「す、すみません! うちの子の不注意で!」

 

 大きな巨体に軍用の冬服、シュンの鋭い目付きの所為もあり、詫びて来る父親より愛想笑いから怯えた様子も見て取れる。

 この国は社会主義国家であり、制服を身に纏っている者で下手な相手だと、何をされるか分からない。共産主義は農民や労働者の味方では無いのだ。

 そんな怯える父親に対し、シュンは笑みを浮かべ、敵意は無い事を見せて子供に怪我はないかどうか問う。

 

「俺は大丈夫ですよ。それより坊ちゃんは?」

 

「あっ、えぇ。うちの息子は丈夫なのが取り柄でして…それより、貴方は前線勤務者ですか?」

 

「あぁ、確かに前線に出てますよ。丁度、ここに休暇をね」

 

 自分の子供を立たせたシュンに、前線に居る軍人なのかを父親が問えば、彼は正直に答えた。

 答えを聞いた少年は興奮し、大きくなれば国家人民軍に志願すると言い出す。

 

「そうか、お兄さんは軍に入って戦場に出てるんだ! ねぇお父さん、僕も軍に入って良い? 世界最強の国家人民軍に入って僕も貢献するんだ! 第666戦術機中隊『シュヴァルツェ・マルケン』とかに会えたら良いな!」

 

 少年が言い出した言葉に、シュンはこの西側に大きく装備が劣る東ドイツ軍がいつの間にか世界最強になったことを知った。

 どうやら予想した通りに、自軍が単独でBETAを倒したなどと宣伝したようだ。

 これにシュンは呆れる他なかった。あの時は西側の部隊とワルキューレの部隊が居なければ、レーザーヤークトなど成功しなかったのだ。

 

「世界最強のドイツ国家人民軍ね…」

 

「こら、ハンス! すみません、不躾な子で。その、失礼なんだと思いますが、衛士の方でありますか?」

 

「衛士? あぁ、そうだが?」

 

 一人呟いたシュンに、この父親は衛士なのかを問うてきた。

 その問いに目前に居る親父は黄色人種の自分が戦術機に乗っていることに対する偏見だと思って目を細めれば、睨み付けられたかと思って謝り始める。

 

「い、いや! 人種差別的な事は一切思っていません! で、では、私たちはこれで! 行くぞ、ハンス!」

 

 誤ってから親子は、早々に逃げるように立ち去った。

 これにシュンは待っているテオドールとグレーテルの元へ戻ると、二人に白い目に見られる。

 

「おい、脅してないだろうな?」

 

「あっ? お前、俺を何だと思ってるんだ?」

 

「私は短気な暴力漢だと認知している」

 

「ちっ、ポンコツが」

 

 どうやらぶつかって来た子供を脅していると勘違いされたようだ。

 これには心外だったシュンは、文句を言った後に宿泊先のホテルへと戻る。

 

「世界最強の国家人民軍か…」

 

「ん? 悪い物でも食ったか?」

 

 グレーテルが呟いたことに、シュンは彼女とは言うとは思えない言動に無礼な言葉を小声で呟いた。

 このシュンの悪口を、テオドールは聞こえていないフリをし、呟いたグレーテルを見る。

 

「いや、あの男の子の声が聞こえて来たものでな。あのように言われると、面はゆい物だ」

 

 いつものグレーテルとは思えない言動に、シュンがますますと疑いの目を向ける中、彼女は小さくなっていく親子を寂しそうに視線を向ける。

 

「私もな、あの男の子と似た感じの子供だったよ。我が国はどの国家よりも社会主義を実践した先進国であり、世界で最も優れている国家だと信じて疑いは無かった」

 

「あっ?」

 

 あの男の子を見て、グレーテルは自分の子供時代を思い出し、あの子と自分を重ねたようだ。

 政治将校である彼女が、今はこのドイツ民主共和国を疑っていると聞いて、シュンは鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情を浮かべる。

 前線の兵士を監視し、逃げるものなら銃殺する政治将校が自国の優位を疑っているのだ。

 士官学校や第二次世界大戦のモスクワ戦でそれを知ったシュンは驚く他ない。

 自分の知る政治将校と言う物は、党に絶対の奴隷的な忠誠を誓い、党に逆らう者は容赦なく殺していく狂信者だからだ。

 

「幸い才能に恵まれ、政治将校として道を歩むことができた。が、同時に我が国の様々な矛盾点を知る事となった。それを解決しようと出世を目指したのだがな…」

 

 更に続けるグレーテルの過去を聞き、シュンは彼女なりにこの国を変えようとしていると分かった。だが、彼女が出世して党幹部になろうとも、あまり意味は無さそうだ。

 

「これ以上は体制批判になってしまうな。だが、それでも私はこの国が好きだ。BETAの海に沈む運命だとしても、出来る限りの事はしたい」

 

 あの政治将校のグレーテルが自国の体制批判に近い考えをしている辺り、海王星作戦で彼女は変わったようだ。

 ようやく、こんな時期に関わらずに政治を優先する政府に疑問を抱いたに違いない。

 これもアイリスディーナの影響か説得のおかげなのだろうかと、シュンは呆けた表情を浮かべながらグレーテルを見る。

 そんな時にテオドールは自分等を付ける男の気配を感じ、前を歩くシュンとグレーテルに小声で知らせた。

 

「二人とも振り向かないように。つけられている。このままホテルに戻るとヤバい」

 

「尾行か。人気のない場所に誘い込んで締め上げるか?」

 

 尾行されていると聞かされてか、シュンは自分等を付けて来る尾行者を締め上げるのかを問えば、グレーテルは止めるように注意する。

 

「止めておけ、このバカ。ややこしいことになる」

 

 これにはテオドールも同意見だ。何者かであるかを、乱暴に聞けば敵を増やしかねない。

 

「わーったよ。取り敢えず、ゲシュタポかどうか見極めるか」

 

「シュタージだ、マヌケ」

 

 シュンも冷静になり、二人の案に乗った。

 ここでシュンがシュタージの事を旧政権の秘密警察であるゲシュタポと言ったので、テオドールに注意された。

 

 

 

 人が多い近くの公園まで尾行者を引き連れた後、尾行の人数が三名であると分かった。向こうがしびれでも切らしたのか、尾行の一人がこちらに向かって来る。

 自分等をつけ回して来た男に対し、シュンは暗殺を警戒して懐に忍び込ませてあるマカロフ自動拳銃に手を伸ばす。

 だが、敵意は無いようだ。

 

「安心したまえ。我々は君たちを捕らえるつもりは無い。少し話をさせてほしい。ご同行願おう。それと拳銃から手を離せ。事を構えるつもりは無い」

 

 敵意は無く、自分等の上司が居る場所へと案内するようだ。

 拳銃に手を伸ばしたことに気付かれたシュンは、手を離して尾行者の後へ二人と共についていく。

 もし、彼らが監獄へと案内しようと言うなら、シュンは尾行者三名を絞め殺すか隠し持っているナイフで刺殺している所だ。

 案内された場所は、監獄へと向かう護送車では無く、公園近くで目立たずに止めてある高級車であった。

 偽装しているかもしれないと思い、警戒して開けられたドアから車内の様子を窺えば、人民地上軍の将官クラスの老人が席に腰を下ろしていた。

 老人が着ている制服は仕立て屋に発注したオーダーメイドの物であり、胸のポケットには幾つもの勲章が付けられている。どうやらドイツ国防軍時代の将校のようだ。

 

「何故、貴方が…!?」

 

 グレーテルはこの将校を知っているようだ。だが、テオドールやシュンは何処かの地上軍の師団長と捉えているようだ。

 驚いた表情を見せるグレーテルに、老人は謝罪と自分の名を口にする。

 

「驚かせて済まなかったな。私は国家人民地上軍のフランツ・ハイム少将だ。西部方面軍傘下の教育軍総監を務めている。よろしければ中で話そうか。外で話をするわけでは無いし、温かい飲み物も用意してある。どうかね?」

 

 これにシュンは、外で待機しているハイムの部下を見れば、拳銃を向ける素振りをしている。

 断る理由も無いので、三名は車内へと入った。

 

「それで西方教育軍総監殿が我々に何の御用があるのでしょうか?」

 

 まずは出された温かいココアで身体を温めたグレーテルがハイムに自分等を呼んだ件を問う。

 

「あぁ、それは君たちがシュタージと事を構えるつもりでいるからだ」

 

 この問いに、ハイムはアイリスディーナ等がシュタージと対峙していると戦おうとしていると見抜いていた。

 更にハイムは話を続け、シュタージがこの時期に付け込んでクーデターを起こす可能性がある事も告げる。

 話を聞く限り、こちら側へ引き込む構えだ。

 シュンは出されたココアを一気に飲み干しながら、グレーテルとハイムの会話を聞いていた。

 

「君たちにこの場での判断は求めないよ。中隊に話を持ち帰り、指揮官とよく相談した上で言ってくれたまえ」

 

「はい、閣下。同志大尉と相談させて上で決めさせてもらいます。では、これで失礼を」

 

 シュタージのクーデターに備え、自分の隊を動かす準備をしているハイムからの話が終わった所で、グレーテルとテオドール、シュンは敬礼してから彼の車から出ようとした。

 だが、シュンのただならぬ気配を前大戦の経験で感じ取ったハイムは、最後に出ようとするシュンを呼び止める。

 

「あぁ、バートル曹長だったかな? 済まないが君に少し話がある。なに、そんなには掛からない」

 

「え? あぁ、はい。モンゴル陸軍の迷子兵であります」

 

 ハイムに呼び止められたシュンは車内へと戻り、自分を見る老人に視線を向ける。

 暫く見詰めた後、ハイムはシュンにこの世界の人間ではないと見抜いた。

 

「君、この世界の人間では無いな?」

 

「っ!?」

 

 この世界の人間では無い。

 そう目前の前大戦を経験した老人に見抜かれたシュンは、思わずネオ・ムガルの刺客と思って拳銃を引き抜こうとする。

 拳銃を抜こうとするシュンに対し、ハイムの部下たちは一斉に同じ拳銃の銃口を向ける。

 

「落ち着きたまえ。君を捕らえようとは思ってはいない。だが、君の目は歳の割には合わなさ過ぎる。このBETAとの戦争を経験した者の目では無い。まるで四十年前の戦争に居る熟練兵の目だ。人間同士の殺し合いを嫌と言うほど経験したな。そんな兵士は皆私のような老人となり、後方で指揮を執るか、病院のベッドの上で余生を過ごすか、このアルマゲドンのような世界で何も出来ずに暮らすばかりだ」

 

 シュンを含める部下たちを宥めた後、ハイムは一体どこから来たのかを問う。

 

「さて、君は小説のようにタイムスリップしてきたのかな? さては童話のように別の世界から来たか…答えてくれないかね?」

 

 この問いに対し、シュンは敬語を止めて普段の喋り方で答えた。

 

「あぁ、後者の方が正解だな。取り敢えず、俺は余所者だ。目的は達成したが、俺の気に入らねぇ連中が居る。そいつ等も俺と同じ余所者だ。でっ、邪魔しようと思って残ってる。そんなとこだ」

 

「なるほど、君と同じ余所者を邪魔しようと思って残って居るか。その者達は、この内乱に乗じて来るか?」

 

 答えた後、ネオ・ムガルのことは名前を言わずともその存在をハイムに告げ、その無法者たちを追い払うまで残ると決めたことも告げた。

 それを聞いてハイムは、ネオ・ムガルがシュタージの内乱に乗じて騒ぎを起こすのかを問う。

 

「来るだろうな。あいつ等は無法者だ。この世界を乗っ取るか派手に更地にするまで暴れ回るな。まぁ、そんな連中は俺に任せて、あんた等はこの内輪揉めにでも専念してろ」

 

「なるほど、で、君一人で勝機はあるかね?」

 

 皮肉を交えて答えたシュンに対し、ハイムは一人でネオ・ムガルに勝てる算段があるかを問うた。

 今のシュンは大剣も戦艦の主砲すら防げる甲冑を持ち合わせていない。ハイムは目前の黄色人種の大男一人で、大勢の無法者たちと戦えるかどうか疑っている。

 そんなハイムに対してシュンは自信を込めて勝てると答える。

 

「安心しろ、是が非でも奴らをぶっ殺してやる。あんた等は統一とやらに専念するんだな」

 

「良かろう。久しぶりに会えた戦友である君に免じ、我々の背中を預けよう」

 

「あぁ、安心してあんた等は東西統一闘争でもしてくれ」

 

 シュンは東西統一に対して何の興味も無かったが、ネオ・ムガルの邪魔だけは出来るので、ハイムの背後を守ると約束した。

 話は終わったので、シュンは寒い外へと出ようとすると、ハイムから酒瓶を渡された。

 それは将校用のコルンだ。かなり質の良い瓶の中に入っている。

 

「止めた詫びだ。後で飲みたまえ。ここでは飲むなよ」

 

「あんがとよ、いや、ありがとうございます! 閣下!!」

 

 渡された酒を手にしたシュンは車外に降り、敬語に切り替え、ハイムに見事な敬礼をしてから外で待っている二人の元へ向かった。

 

 

 

 それから宿泊先のホテルへと戻り、ロビーでくつろいでいる最中にグレーテルは先の西部方面軍の重鎮との接触を図られた物だと悔しそうに口にする。

 

「あの女め、西部方面軍の動きを予想してたな。そこで我々をベルリンへと向かわせた。自らでは無く、私を寄越したのは、私の退路を断つためか…くそっ、相変わらずいけ好かない女だ」

 

 いつかは昇進のために捕らえようとしたアイリスディーナに、手のひらの中で踊らされ、更には退路まで断たれたので、グレーテルは苛立ったのか、親指の爪を噛み始めた。

 そんな彼女を見てシュンは「今さら気付いたのか」と言いそうになったが、ここで言えば噛み付いてくるかもしれないので、あえて口にしなかった。

 

「同志中尉、運命の時は近付きつつあるようです。俺たちも急いで帰還して、BETAと…そのほかに備えなければなりません」

 

 ロビーにあるテレビに流れているニュースで、ミンスクハイブ周辺で大量発生したBETAの進行を知ったテオドールは、シュタージのクーデター計画も含めて二人に知らせる。

 

「ついに来たか」

 

「やれやれ、これじゃあオチオチと戦えねぇ。背後にも敵が居るんじゃ、四面楚歌だぜ」

 

 ただでさえBETAとの戦いが厳しいのに、背後でシュタージのクーデターがあると分かり、安心して戦えないとシュンは愚痴る。

 

「BETAの進行速度からして、第一波がドイツに来るのは二、三日だな。明日には中隊に出撃命令が下るだろう」

 

 この状況に乗じて、シュタージは当然ながら動き、国家掌握に乗り出す。

 そんな予想がついているグレーテルは、二人に向けて自分はベルリンに残る事を告げた。

 

「貴様たちは先にヴァスマール基地へ帰れ。私はここに残る」

 

「どうした? 怖くなったか?」

 

「そうじゃない。連中が動く可能性がある。もしその場合、我々が政治的に動けない状況を仕掛けて来ることは十分に考えられる。その時に備えて残ると言ったのだ。私は引き続き交渉を続ける。私はこの中隊の政治将校だ。ならば政治的に中隊が生き残れるように、ここで全力を尽くす」

 

 残ると聞いてシュンは怖気付いたと思ったが、グレーテルの意思はそれとは真逆だった。

 だが、ネオ・ムガルの存在があるので、シュンは一人で残るのは危険であると告げる。

 

「同志中尉。ここは奴らの庭で、連中よりおっかないのが出て来る可能性もある。一人じゃ危ないぜ」

 

「心配御無用だ。政治本部のツテを頼って護衛を頼む。この状況ならば、奴らは政治的圧力を掛けて来る! 私がここでやることは、中隊存続にどうしても必要な事なのだ…!」

 

「良いだろう。お前がそこまで言うなら、背中は任せるぜ、政治将校殿」

 

「馬鹿者、敬語を使え。このゴリラめ」

 

 政治将校と思っていつかは背後から誤射に見せかけて殺そうかと思ったグレーテルであるが、この仲間と国に対する熱意でシュンは彼女を見直して褒め称えた。

 敬語を使わず、シュンに貶されていると思ってか、グレーテルは言動を注意する。

 注意し終えれば、ファムが戦線に復帰することを基地へ戻る二人に伝える。

 

「私が抜けた代わりにファム・ティ・ラン中尉が戦線に復帰する。戦術機に武装、装備その他諸々は優先するように手配しておく。しっかりと戦って来い」

 

「気前が良いな。人員も含めて、女も頼むぜ」

 

「女? この状況で何言ってんだ?」

 

「人員は手配するが、娼婦などは諦めるんだな。と、言うか貴様、冗談にも大概にしろ。ここで捕まっては元も子もないぞ!」

 

 政治将校として出来るだけ中隊の支援をすると約束すれば、シュンはグレーテルに補充員も含め、娼婦の手配を要請したが、それは当然の如く却下された。

 翌日、グレーテルをベルリンへ残し、シュンとテオドールは基地へと帰投した。

 

 

 

 シュン等が基地へと帰投して以降、シュンはリィズがシュタージの情報提供者(コラボレイター)と疑われていることに改めて気付いた。

 二日ほど前のシュタージの情報提供者の目から逃れながらなんとか基地へ帰投した際、中隊全員がリィズに対する視線が疑いの目であると分かったが、とうとう化けの皮が剥がれたとシュンは思う。

 だが、情報提供者と言ったのが、あのアクスマンであり、それに敵対派でソ連側のモスクワ派であることも明かした。

 それをアイリスディーナの報告後に、相談のために自分を呼び出したカティアより知ったシュンは、漁夫の利を得られると言い始める。

 シュタージが西側との協力を図ってBETAの脅威を脱するベルリン派と、親ソビエト派であるモスクワ派に分かれて政争をしていると分かった。

 

「やれやれ、連中も一筋縄じゃねぇのか。こりゃあ、好都合じゃねぇのか?」

 

 元からシュンはリィズのことをガイドルフに聞かされてスパイと判断している。

 遂に本性を現したと思い、シュンはカティアにリィズに決定的な何か聞かれなかったのかを問う。

 

「で、嬢ちゃんはあのブラコン嬢ちゃんに何か聞かれたか?」

 

「えっ、は、はい…ベルリンでテオドールさんに買ってもらった人形を、リィズさんが更衣室に落ちてたよっと言って渡してくれました。でも、私、その時まで人形なんて落としてないのに…それに渡してくれた時に、色々と聞かれました。何所で買ったのとか、どうしてそんな所へ行ったのとか、テオドールさんとベルンハルト大尉の関係とか…こんなこと考えてたくないんですけど、もしかしてリィズさんは本当に…?」

 

「なるほど…こりゃあ黒だな」

 

 カティアの出した答えに、シュンはリィズをスパイだと断定した。

 単に兄を慕うなら、ここまでは聞かない。シュンは似たような物を一度だけ見た事があるが、あれは異常だったと思い出す。

 リィズがスパイだと分かったシュンだが、その目的は分からなかった。

 何にせよ、第666中隊をハメようとしていることには変わりない。

 

「黒…?」

 

「スパイ探しは俺たちに任せて嬢ちゃんは自分がするべきことを考えてろ」

 

 シュンはリィズに対する警戒を抱きつつ、心配げな表情を浮かべるカティアに、スパイ探しは自分等に任せるように告げてからこの場を離れた。

 リィズの目的は何かだが、スパイには全く向かないシュンは直接締め上げて吐かせれば良いと判断し、食堂へと向かった。

 

 

 

 昼食を終えた後、中隊長のアイリスディーナは隊員等を格納庫へ招集し、訓示を行った。

 

「諸君、傾注! 我々は再び襲い掛かるBETAの大規模梯団を迎え撃つため、ゼーロウ要塞陣地へと向かう。ゼーロウ要塞背後にはベルリンがある。ここを突破されれば、ドイツ民主共和国の崩壊に繋がる! 私を信じ、各々の戦いに全力を尽くしてほしい」

 

 その訓示の後、グレーテルの離脱とファムの復帰、ゼーロウ養蚕陣地における作戦行動、全般状況など、ブリーフィングは続く。

 東ドイツに向かって来るBETAの数は二十万であり、これを迎撃するために国家人民軍はほぼ全戦力を投入する。

 更に西ベルリンにワルキューレの軍集団本部があるのか、その防衛のために二個歩兵師団と機動兵器を有する二個機甲師団で編成された機甲軍団がゼーロウ要塞陣地に投入されるようだ。

 それらを含めてブリーフィングが終了して解散となった後、シュンはリィズの居場所を知っている者に聞き出し、彼女が居る屋上へと向かう。

 理由は簡単、捕まえて目的を聞き出すためだ。おそらくテオドールやカティアに非難されるだろう。それをシュンは敢えて悪役になる事を選び、シュタージから一時的な戦友達である中隊の面々を守る為、屋上へと上がる。

 リィズは既に屋上へと居たが、この場に居ては厄介なカティアも一緒だった。

 

「あれ、バートルさん? あなたもテオドールさんに?」

 

「いや、ここに来たと聞いてな。ココアを持って来てやった」

 

 ここでいきなりリィズを取り押さえ、尋問すればカティアが邪魔してくるだろう。

 そう思ってシュンは持って来た二つのコップに入っているココアを二人に手渡して誤魔化す。

 それから数分後に、二人を呼び出したテオドールが屋上へと来た。

 彼はシュンを見るなり、何か口出しされるかと思って出て行くように告げる。

 

「おい、ゴリラ。お前には関係ない話だ。何処かへ行け」

 

「テオドールさん、そんな言い方…」

 

「あぁ、分かった。痴話喧嘩には興味ねぇしな。一杯やっとくぜ」

 

「ちっ、あいつめ」

 

 普段のシュンならここでただでは引き下がらないが、ここは敢えて引き下がり、三人には見えない場所に移動し、隠し持っていた酒で身体を温めながら話を盗み聞きする。

 その話の内容は、リィズのシュタージの情報提供者疑惑だ。シュンは直ぐにでもリィズを捕らえようとしたが、テオドールが拳銃を抜いて撃ってくる可能性があるので、話が終わるまでスキットルの中身を口に流しながら待つ。

 話は口論となり、徐々に激しくなっていく。

 これにアルコールの影響なのか、少し苛立ったシュンは割り込んでリィズに尋問しようかと思ったが、出入り口からシルヴィアが現れた。

 

「そのまま続けなさい。カティア・ヴァルトハイム」

 

「お前らもか…」

 

 考えることは同じかと、シュンは背後で自分と同じく盗み聞きをしていたシルヴィアとアネットを見て呟く。

 どうやら彼女らも、リィズを捕まえてスパイなのかどうかを聞き出そうとしているようだ。

 

「アネット、貴方も来なさい。貴方も聞くべきよ」

 

「どういうつもりだ! シルヴィア!! それにお前も!」

 

 現れた二人に、テオドールは声を荒げる。シュンにも疑いの目を向けた。

 

「そんなこと分かってるでしょ? 結局はそう言う結論になる。もうリィズ・ホーエンシュタインを信用しているのは、貴方だけってこと。貴方の腰巾着だったカティアもこの子も。あんたもそう思うでしょ、バートル曹長」

 

「坊主には悪いが、シルヴィア少尉の言う通りだ。その嬢ちゃんは探りを入れる行為をしている。俺が中隊から離れた時にシュタージの下っ端共に襲われた。そこの嬢ちゃんがチクったとしか考えられねぇ」

 

 シルヴィアに振られた際、海王星作戦後に一人だけ離れたシュンは、シュタージの衛兵連隊の一個小隊やネオ・ムガルに襲われたことを引き合いに出し、リィズを頑なに庇うテオドールを孤立無援にした。

 そんな状況でも、テオドールは反論して来る。

 

「シュタージのコラボレイターに対する確たる証拠はないだろ! これがアクスマンの狙いだとしたらどうするんだ!?」

 

 そんな反論に対し、シルヴィアも反論する。たちまち口論に発展した。

 

「もうリィズがシュタージの犬かどうかなんてどうでも良い事なのよ! 証拠探しに手間取るより、確実にリスクを潰す方が重要だわ!」

 

「リィズは中隊に取って欠かせない戦力な筈だ! こんなことで!」

 

 この言い争いは、先よりも止まらないだろう。これに苛立ったシュンは、口を挟んである提案を出す。

 

「埒が明かねぇな。だったらこの嬢ちゃんを閉じ込めちまえば良いんだ。外部から連絡の取れない場所にな! 戦闘の時は、操縦を大尉やファム中尉、クリューガー中尉の三人にでも握らせれば良い。こうすれば問題解決だ。不審な行動をするなら弾をぶち込めば良い。なんなら、手錠でも付けるか? 犬らしき首輪でも付けとくか?」

 

「てめぇ! リィズをなんだと…!!」

 

「頭が悪そうに見えて優秀ね。私も考えてた所だわ。それで良いわね、リィズ・ホーエンシュタイン?」

 

 シュンが出した囚人のような扱いをする提案にテオドールが反対する中、シルヴィアはその提案に賛成し、冷たい視線をリィズに向けた。

 

「いや…いやぁぁぁ!!」

 

 その目で見られたリィズは、震えながらか細い悲鳴を上げて逃げて行った。

 

「シルヴィア! 言う事に…! クソッ、カティア! 離せ!! ぐわっ!?」

 

「ここは大人しくしろ、坊主。ぐぇ!?」

 

「リィズ!」

 

 カティアを振り払い、リィズを追おうとしたテオドールだが、シュンに組み伏せられた。

 だが、テオドールは大柄のシュンを足払いし、更には肘打ちを顎に食らわせ、脱出してリィズの後を追った。

 

「クソッタレ! あのクソガキ…!!」

 

「ば、バートルさん…! 余り…」

 

「分かってるよ! クソッ!」

 

 顎を殴られたシュンは、カティアに次の戦闘のことで言い止められ、怒りを抑えた。

 それから屋上に居た面々は、次の戦闘に備えるため、リィズを追ったテオドールを追い掛ける事も無く、それぞれの自室へと戻った。




本棟はテオドールとリィズがズコバコしてるところをシュンが「家政婦は見た」の如く目撃するとこまで書く予定でしたが、断念しました。

次回からはトンデモ展開をする予定です。その為の伏線なのだ!

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