復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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祝、柴犬TVアニメ二周年記念。

もう二年目か…


ドイツ連邦陸軍戦術機大隊「フッケバイン」

 西側諸国や東側諸国の連合部隊、ワルキューレの大部隊による大規模作戦、海王星作戦はその火力もあり、作戦は順調に進んでいた。

 出撃要請を受けて出撃した第666戦術機中隊は、やや暇を持て余すようだが、BETAはその被害を半日程度で回復し、再び数を増して迎撃しに来る。

 

「おいおい、あんだけバカスカ撃ち込んでも湧いて出てんぞ」

 

 カメラ越しに見える埋め尽くすほどのBETAの集団を見て、シュンはウンザリしながら突撃砲の照準を手近に居る方へ向けて撃ち込む。

 他の中隊機も発砲を開始し、次々と標的にしたBETAを始末して行くが、数は減らず、むしろこっちに来る方が増える。

 

『怯むな! 敵の数は八十体程度だ! 皆殺しにしろ!!』

 

 向かって来るBETAを始末して行く中、政治将校のグレーテルによる指示が喧しく無線機から聞こえて来る。

 これに中半苛ついていたシュンだが、自分の生殺与奪の権利は他の下っ端隊員と同様にグレーテルに握られており、突撃砲を向けるだけで操縦系統を乗っ取られる。

 ここで逆らっては元も子もないので、大人しくいつものBETA討伐を続ける。

 

『なに、あの早いの…?』

 

「ん、あれは…!」

 

 そんな時、アネットが上空を高速で飛来する物体を見掛けたとの無線連絡が入れば、シュンは邪魔なBETAをある程度片付けてから上空の方へ視線を向けた。

 そこには、爆装して飛来して来るVF-1の姿があった。

 ここの世界では、光線級の存在もあって航空機は余り発展していないが、並の戦闘機よりも早い速度で迫るジェット航空機に、初めて見たアネットと他のパイロット達は驚きの余り言葉を失ったが、アイリスディーナとシュンは自分等ごと巻き込まんと言わんばかりに爆弾をばら撒いてくるのを見逃さなかった。

 

『全機、退避!!』

 

 直ぐに爆撃に巻き込まれると判断したアイリスディーナは、中隊全機に退避命令を出した。

 このおかげで誤爆されずに済んだものの、海軍の航空部隊に対してグレーテルは無線連絡で文句を言う。

 

『貴様! 我々を巻き込むとは何のつもりだ!? 何所の所属だ!? 言え!!』

 

 恐ろしい剣幕で怒鳴り散らす様子が無線から伺えたが、当の爆弾をばら撒いた二機の内、一機のVF-1に乗るパイロットは言葉が通じないのか、ノルウェー語で応えて来る。

 当然ながら、グレーテルには何を言っているのか分からない。

 

『英語も喋れんのか!? クソッ!』

 

 これに怒鳴り散らすグレーテルに対し、二機のVF-1は母艦へと帰投するために湾岸の方へ帰って行った。

 誤爆され掛け、更には獲物まで奪われたことに、党本部より指示されたノルマを達成できないことにグレーテルは腹を立てたが、そんな彼女と中隊に救援指示が飛んでくる。

 

『全機、警戒態勢! 新たなBETA挺団の進行を確認! 我々は当初のルートを外れ、これを迎撃する! 数は約一万、位置は南西5キロだ! ワルシャワ条約機構軍と欧州連合軍との境界線だ! 急げ(シュネル)!!』

 

「なんてこった…一万を相手にする上に誤射までされるど真ん中に行けって言うのかよ…!」

 

 軍司令部より出された命令は、境界線上に出現した一万のBETAの迎撃と言う最悪の命令だった。

 これには欧州連合軍も来るだろうが、東側よりテロ活動を受け、共産主義に対する憎しみがあるので、こちらを巻き込む勢いで攻撃してくるだろう。それも高い確率で。

 士官学校の教科書で共産主義の恐ろしさと赤色テロの被害を知っているシュンは、逃げ出そうと辺りを確認したが、グレーテルの存在もあるので、大人しく命令に従う。

 

『何も一万全てを相手にする必要はない。目標は先頭の突撃級三百だ。橋頭保防衛のために突撃級のみを狙う。友軍機は何機か居るようだが、当てにはならんな』

 

 一万とはいかなくとも、突撃級三百体は九機の中隊では厳しい。

 友軍機、ガイドルフの情報によれば、ワルキューレの部隊が展開していたようだが、一万のBETAの前に踏み潰され、散り散りとなって敗走しているだろう。

 現場へと到着すれば、情報通り、ワルキューレの機動兵器部隊が三百体の突撃級に追われながらこっちへと逃げて来た。

 

『友軍機? なんだあれ、細いのが変なのを…』

 

 その機動兵器部隊は、MSのジムⅡとジム寒冷地仕様の混合部隊であり、ジムⅡはこの世界で最大級の火力を誇るビームライフルを迫り来る突撃級に撃ち込み、一発で片付けていたが、数が多過ぎて逃げながら専用のマシンガンを撃っているジム寒冷地仕様と共に跳ね飛ばされて破壊されていた。

 

『おい! お前たち待て!! なんて頼りない連中だ!』

 

「(お前の言う事なんて聞く奴は居ないだろう)」

 

 他にも残って居るが、生き残った機体は戦列に参加せず、逃げるばかりだ。

 これにグレーテルは更に怒りを積もらせたが、シュンはワルキューレの将兵の誰もが効かないと心の中で呟き、突撃級の前足に照準を向ける。

 先ほどの空爆を期待したが、ワルキューレの近接航空支援は自分等に限定しているのか、要請したところで来ない。九機で迎撃するしかないだろう。

 躱しつつ、無防備な背中を撃って確実に撃破する対突撃級用の機動防衛戦術の一つを駆使するが、数が多過ぎて対処できない。

 徐々に追い込まれて行き、テオドールは戦況が不利と判断してか、撤退を中隊長に進める。

 

『この数の迎撃は無理だ! 何所の国か知らんが、あの弱っちい戦術機は全部逃げてる! ここは撤退して…』

 

『喧しい! なら分隊ごとに分散して叩け!!』

 

『中尉、そんなの無茶だ! 囲まれちまう!!』

 

『党の命令は絶対だ! 敵前逃亡をするなら、この場で銃殺してやる!!』

 

 これがグレーテルに聞こえていたのか、テオドールとの言い争いを始めた。

 それでもなんとか機動防衛を行いながら突撃級の進行を食い止めていれば、ここでようやく欧州連合軍の部隊が救援に来た。

 しかし、シュンはこれには喜べない。何故なら自分等は西側が悪と掲げる社会主義者であって共産主義、赤色テロリストの親玉であり、こちらを巻き込む勢いで攻撃してくるのは目に見えていた。

 その証拠に元ドイツ連邦共和国の人間であるカティアが、アイリスディーナに西側の対BETA戦術を必死に知らせて来る。

 

『欧州連合軍は私たち戦術機部隊のように単独で突撃級と戦う事は想定しておりません! 最初に高威力のミサイルで徹底的に叩いてから接近して殲滅するんです! 我々とデータリンクを共有していないので、先ほどの誤爆と同様に巻き込まれる可能性があります!!』

 

「全く、危険な化け物相手にもっとも有効な戦術だな!」

 

 巻き込まれることは鼻から分かっていたシュンは、西側の戦術を皮肉交じりに評価した。

 それを聞いていたテオドールは、離脱するようにグレーテルに上申する。

 

『ここから早く一刻でも離脱すべきだ! このままじゃ味方の砲撃に巻き込まれて全滅する!!』

 

『ここから逃げるだと!? ふざけるんじゃない! 欧州連合軍の都合を優先したことになる! ここはワルシャワ条約機構軍の戦区! 先ほど逃げた変な連中の物では無い!! 奴らが我々に合わせるべきだ! 奴らは西側陣営、我々と志を異なる者達だ!!』

 

「(やれやれ、本気でぶっ殺すしか無さそうだな)」

 

 テオドールの上申に共産党員の意地として突っぱねるグレーテルに、シュンは本気で殺す為、突撃砲の照準を彼女のバラライカに向けた。

 だが、それがクリューガーに見えていたのか、銃身を彼女の指揮官用バラライカの左手に掴まれ、プライベートチャンネルで警告される。

 

『幾らあのイェッケルン中尉とはいえ、仲間を撃つ奴はこの俺が許さんぞ』

 

「けっ、わーたっよ」

 

 これに怒りを抑え、トリガーから指を離した。

 その物の数秒後、西側の部隊は遠慮なしに第666戦術機中隊へ向けてミサイルを撃ち込んで来た。

 

『っ!? 来たぞ!』

 

『本当に撃って来た! 私たちは味方なのに!!』

 

『これが我々東側に対する西側の意図か…! 総員退避!!』

 

 本当に撃って来たので、直ぐにアイリスディーナは隊員たちを纏め、離脱命令を出す。

 

『う、うわぁぁぁ! ま、待って!!』

 

 流石のグレーテルも命令に従い、先ほどの威勢を忘れて離脱する中隊へ続いた。

 数秒後、ミサイルは迫り来る突撃級の集団に着弾し、無数の集団を吹き飛ばした。

 

『全員、生きてるな!? 中隊各機、欧州連合軍からの警告だ。浸透突破する突撃級の集団をミサイルの飽和攻撃を行うようだ。死にたくなければ直ぐに離脱しろ!!』

 

 欧州連合軍の警告を受けたアイリスディーナは、先ほどの誤射は二度と経験したくないのか、中隊各機に離脱命令を出したが、威勢を取り戻したグレーテルはこれを払い除ける。

 

『同志大尉! 何を言っているのか分かっているのか!? 資本主義者の作戦の正しさを認めたことになるぞ! 奴らのミサイルは欠陥品だ! 命中精度が無い!!』

 

「欠陥品はお前の頭だろうが」

 

 断じてこの場を譲らないグレーテルに対し、シュンは無線連絡を切って悪態を付く。

 中隊各機は無事であったが、シュン機だけは巻き込まれ、左腕を損壊して戦闘力が低下していた。残弾も無いそんな状況にも関わらず、グレーテルは戦闘を継続しようとしていたが、アイリスディーナに捻じ伏せられた。

 そんな中隊の護衛に、欧州連合軍はドイツ連邦軍の戦術機部隊をエスコートとして回して来た。

 

『第666戦術機中隊だな? 巻き込んで済まなかったな、もう弾も残って無いだろう。整備基地まで案内しよう』

 

『あぁ、助かる。各機、補給と整備のため、整備基地へと帰投する』

 

 部隊長からの通信が来れば、アイリスディーナはそれを承諾して中隊各機に指示を出す。

 

「これで暫くは休めそうだ」

 

 後退命令をありがたく受け取ったシュンは、操縦桿を動かして損傷した機体を鞭打ち、西側の部隊に護衛されながら基地へと帰投する中隊の後へ続く。

 背後を振り返れば、過剰な程のミサイル攻撃の後からワルキューレ空軍の大規模な空爆が始まり、それが終わるのを待っている一個軍団規模の部隊が待っていた。

 

 

 

「おいおい、第三次世界大戦か?」

 

 それから数時間後、次の出撃を控えているため、格納庫へと向かったシュンであったが、先の誤射未遂の件で、中隊の一人であるアネットがドイツ連邦陸軍の衛士と口論を始めていた。

 テオドール、カティア、シルヴィアの三名が居るが、口論を見ているだけで止めようともしない。グレーテルとクリューガー、部隊長のアイリスディーナが居れば丸く収まるが、彼女らは用事でこの場に居ないようだ。

 西側にも居るが、三名と同様に傍観を決め込んでいる。一人、ジャンプスーツを着た茶髪の男は、欠伸をしながら缶ジュース片手に傍観している。彼も傍観しているだけだ。

 

「貴方たちを救い出すために、私の中隊が必要のない被害を被ったのよ。もう少しで戦死者も出る所だった。感謝して謝罪くらいはしなさいよ!」

 

「感謝ですって!? こっちはあんた等の砲撃で殺され掛けたんだよ! それが分かってんの!?」

 

「あんた達が勝手に突っ込んだだけじゃない! あのBETAの大群は、私たちと何処かの空軍の空爆だけで殲滅できたわ! 貴方たちはこちらの火力の集中を邪魔しただけだわ!」

 

「やれやれ、このままだと第三次世界大戦に発展しそうだ。止めに入るか」

 

 言い争いを更に広げようとする二人の少女に対し、シュンはここでの第三次世界大戦勃発を防ぐため、止めに入ろうとしたが、二人の口論は政治にまで及んだ。

 

「この犯罪国家め!」

 

「犯罪国家!? 私たちが!?」

 

「ベルリンの壁で西ベルリンの市民を孤立させ、数えきれない程の市民を拉致や誘拐して人質にしてるのも、西側への亡命者を全て殺害してるのも、私たちドイツ連邦共和国にドイツ赤軍を送り込んでテロ破壊活動をしてるのも、全部あなた達がやってることよ!」

 

 これは全て国家保安省が主導で行っていることだが、赤色テロで悩まされる西側諸国の者達は、東側諸国の人間、主に軍属の人間を全て社会主義者であるとプロパガンダで刷り込まされているようだ。

 好きで人民軍に入っている訳ではないシュンは、止めようと前に出ようとしたが、ここに来て余計に巻き込まないようにと、テオドールに抑えられていたカティアが前に出て来た。

 

「止めてください! そんな言い争いが何になるんですか!?」

 

「な、なによあんた? あんたもアカの兵隊? こっちはいつだって共産主義思想を持つテロリストが混じった難民が雪崩れ込んで来るか…」

 

「カティア…!? お前なのか!?」

 

 西ドイツ軍の少女衛士とアネットの口論を止めに入ろうとしたがカティアであったが、ここに来て更にややこしい状況に発展してしまった。

 なんとこの場に、まだカティアが西ドイツ軍の衛士として居た頃の同僚が居たのだ。

 他にも同僚たちが居り、最初に見た少年が一言発しただけで、憎き社会主義の軍に居るカティアを見に来る。その誰もが少年少女であり、下士官の衛士まで集まって来る。

 

「なんでカティアが東ドイツに? まさか…!?」

 

「この前の戦闘で戦死だって、ハーゲン中佐が言ってたわ!」

 

「おいおい、まさか…!」

 

 死んだと知らされていたカティアを見て次々に口を開く中、一人の血の気の多い少年が、憎き社会主義国家の東ドイツが、彼女を洗脳したと言い出し始めた。

 

「このアカ野郎共め! カティアを洗脳したな!?」

 

「やっぱり誘拐されて洗脳されていたのか! 許さねぇ!!」

 

「待ってろ! 今助け出してやる!」

 

 一人がかつての仲間であるカティアが洗脳されたと叫べば、その不確定な事実を信じ込んだ少年少女たちは、一斉に角材などで武装し、テオドールたちに殺意の目を向ける。

 

「ま、待て! 言いがかりだぞ! やるとしてもシュタージの奴らだ! 俺たちじゃねぇ!!」

 

「嘘つけ、この野蛮なアカ野郎め! だったらカティアを解放しやがれ!」

 

「みんな、私は洗脳なんてされてないよ! 私はただ…」

 

 これにテオドールは、カティアは洗脳されていないと必死に説得し、本人もされていないと必死に訴えるが、既に殺気立った少年少女らにはその声は届かない。シルヴィアも他の東ドイツ軍の衛士たちも、いつでも戦闘が行えるように、各々の得物を取り出し始める。

 まさに一色触発の状態であり、今での第三次世界大戦が起きそうな状況だ。

 ここでBETAと言う脅威に晒されている人類同士が、思想の違いで争って勝手に滅びるのは見ていられないのか、シュンはマカロフ自動拳銃をホルスターから引き抜き、天井に向けて撃ち込んで黙らせようとしたが、横から自分と同じ大柄な男が現れ、今にも殴り合いでも始めようとするアネットと、自分の隊と思われる少女の士官に近付く。

 その彼の取った行動は、周囲の者達を驚かせる行動であった。それは、二人の尻を触ると言う信じられない物だ。

 

「おいおい、セクハラじゃねぇか」

 

 大柄の男、それも西ドイツ軍の将校が取った行動に、シュンは殴られても文句は言えないと思ったが、不思議とこの行動は、双方の争いを止めた。

 

「ちょ、ちょっと! バルク少佐!!」

 

「何すんだよ! おっさん!!」

 

「おっと、悪いな。二人とも、良いケツをしていてな」

 

 どうやらこのバルクと言う将校は、その女性士官の上官であるようだ。

 そんなバルクは真剣な表情を浮かべてから、角材を持っている自軍の将兵らに向け、解散するように告げる。

 

「おい餓鬼共! プロパガンダを鵜呑みにするな! 東側の奴らだって俺たちと同じ、宇宙から来たエイリアン共と戦っている人間だ! とっとと原隊へ戻れ!」

 

 彼の言葉に従い、年少の将兵らはそれぞれの原隊へと帰って行った。

 これに舌を巻いたシュンは、ただのセクハラ親父で無いと判断して、バルクに話しかける。

 

「ただのセクハラ親父と思ったが、立派な軍人のようだな」

 

「アジア人か、珍しいな。ご覧の通り、軍人さ。不良の類に入るがな」

 

 シュンに声を掛けられたバルクは、そうと答えれば、止めに入ろうとしなかったジャンプスーツの男に何故この騒動を止めないのかを問う。

 

「で、空軍のあんたはなんで止めに入らないんだ?」

 

「俺は、政治云々の話に興味はねぇ。あるとすれば、空を飛ぶことさ」

 

「訳の分からねぇ野郎だな。まぁ、良い。それより」

 

 空軍の男の返答に呆れ返る中、バルクは部下とされる少女の方へ振り返った。

 部下の女性士官は諦めていないのか、再びアネットの方へ振り向き、同じく構えている彼女と口論を始めようとしたが、上官に止められた。

 

「おい、シュタインホフ。仲間内で何処かのアホや上官、政府を腐すならともかく、他国の部隊にぶちまけるのは感心しないぞ。後輩を何人か迎えたからって、好い気になってんじゃねぇぞ」

 

「はぁ、良いな。自由主義ってのは」

 

 バルクに止められ、更に説教まで食らったシュタインホフと言う部下の女性は、これには従わらず負えないのか、大人しく指示に従う。

 ここでシュンは改めて自由主義、自分が属する共産主義よりも更に自由な社会に改めて戻りたいと思った。

 そんなバルクは、シュタインホフを連れて自分等の兵舎へと戻ろうとする。

 

「戻るぞ、シュタインホフ。それとこいつが悪かったな。これも何かの縁だ。今後も仲良くしてくれ。じゃあな」

 

「待ってください!」

 

 立ち去ろうとする二人に、カティアは呼び止めた。

 

「ん? まだ何か用があるのか、お嬢ちゃん」

 

「その、そちらにもこっちに対する不満の気持ちがあるのは分かります。でも、こんな所で言い争ってる場合じゃないと思います! あなた方の亡くなられた人たちから託された思いがあるはずです。それを忘れないでください!」

 

「そ、それをあなた達に言われる筋合いなんて…」

 

 敵視する社会主義者のために、仲間が犠牲になる事に苛立つ気持ちは分かると、声を掛けて来たカティアに対し、シュタインホフは何か言い返そうとしたが、バルクに口を塞がれる。

 

「あぁ、ご丁寧にありがとよ。だが、国家間での不信や憎悪はどうにもならんこともある。お嬢ちゃんの意気込みは買うが、一人の力じゃ手に余る問題だな。それじゃあ、また何処かで会おうぜ!」

 

 カティアに余り一人で突っ走らないように告げてから、バルクはシュタインホフを連れて自分の兵舎へと戻った。

 騒ぎが収まったのか、空軍の男も上着を羽織ってからこの場を後にしようとする。

 

「おい、待てよ」

 

 そんな男を、シュンはこの世界の者では無い気配を感じ、誰も居なくなったところを見計らって声を掛けた。

 

「俺はそっちの気は無いぜ」

 

「そう言う話じゃない。お前、この世界の人間じゃねぇな?」

 

 空軍の男はこの世界の人間では無い。

 そうと見抜いたシュンが言えば、彼は鼻で笑ってから正直にこの世界の人間ではないことを明かした。

 

「ふっ、犬でも嗅ぎわけれねぇってのに。新統合軍、可変戦闘機パイロット、イサム・ダイソン大尉だ。空を飛ぶのが生きがいさ。その様子じゃ、お前もこの世界の住人って訳じゃねぇよな? 俺が名乗ったんだから、お前もぶちまけろよ」

 

 正体を明かしたイサムは、問うてきたシュンにも正体を明かすように告げる。

 イサムがワルキューレでは無く、新統合軍と言った辺りに気になったが、昔のワルキューレの傘下だと思ってそのことを聞かなかった。

 

「まぁ、お前は口が堅そうだしな。俺は瀬戸シュン。兎に角、俺もこの世界の人間では無く、お前と同じ異世界の人間だ。復讐の力を溜めるために、異世界を旅してる。教えられるのはそんだけだ」

 

 自分も正体を明かせば、次にイサムは興味本位で、復讐が終わった後にどうするのかを聞いて来た。

 

「復讐ね。良く聞く話、それが終わったらお前、どうする気だ?」

 

「さぁな、良く考えてねぇ。取り敢えず、そこらで野たれ死ぬんじゃねぇかな」

 

 この問いに、シュンは曖昧な答えを出した。それにイサムは驚き、復讐に託けて自分の欲求を満たしているのではないかと疑い始める。

 

「おいおい、復讐に託けて暴れ回ってるんじゃねぇだろうな。まぁ、俺は仲間を守ったり、空を飛べればどうでも良いがな。そんじゃ、復讐が終わった時の事を考えとけよ」

 

「あぁ、考えておく」

 

 だが、シュンの復讐に関わるつもりは無いので、イサムは復讐が終わった後のことを考えるように彼に言ってから、自分の兵舎がある場所へと帰って行った。

 これにシュンは考えておくと告げてから、カティアの方へと視線を向けた。

 彼女は元居た西ドイツ軍の部隊に事情を説明するのに忙しく、とても声を掛けられる様子では無い。事実、テオドールは余計に話をややこしくすると思って、ただ見守っているだけだ。

 

「さて、明日に備えて飲むか」

 

 そんな様子を見て、シュンは自分も関わらず、酒を飲んで疲れを癒す為、自分の部屋に帰った。

 

 

 

 海王戦作戦二日目。先日の大攻勢は更に大規模な物となり、多数の砲撃や爆撃で、人口の地震が起こる程であった。

 その殆どがワルキューレの物であるが、シュンやこの世界の各国の上層部以外に気付いている者は居ない。アイリスディーナは、別の勢力と考えているようだが、現実的に考えて西側の火力だと思っている。

 今回はポーランドに居る大量のBETA包囲殲滅戦であるらしく、遠くの方でかなり大きな盾を持ったMSのジム系統が大量に見えた。他にもその後ろを大量のゾイド類や、空を埋め尽くすほどのバルキリー群に土台のような航空機の上に乗るMS、飛行ゾイドの大群も見える。

 どうも先日の攻撃は本番では無いようだ。

 そんな時に、西ドイツ軍の衛士であるシュタインホフが昨日の事で謝りに来た。

 

「昨日は失礼いたしました。ドイツ連邦共和国陸軍の軍人として、恥ずべき言動だったと反省しております」

 

「昨日? あぁ、あの騒ぎか」

 

 謝罪しに来たシュタインホフに対し、カティアより事情を聴いていたアイリスディーナは、彼女に向けて視線を向ける。

 

「ベルンハルト大尉、ご寛恕いただけたなら幸いです。我がフッケバイン大隊は、予備の戦術機連隊の傘下として控えていますが、貴官らワルシャワ条約機構軍の不測の事態が起こった場合、助力するように命令されております。万が一の場合は、よろしくお願いします」

 

 昨日の彼女なら、共産主義陣営であるこちら側に対して嫌味たらしく言っているが、上官のバルクに何か言われたのか、口調は友軍の将校に敬意を抱く物であった。

 

「あぁ、その場合はよろしく頼むぞ。少尉(ロイトナント)

 

「はい、大尉殿」

 

 用件が終われば、シュタインホフは敬礼してから自分の隊の元へ帰って行った。

 シュンはシュタインホフの言っている意味が分かったのか、それをあえてグレーテルが居る目の前で口にし始める。

 

「やれやれ、昨日のように包囲網を抜け出したのがあれば、手伝ってやるから邪魔すんなってことだな」

 

「ちっ、分かったことを抜かすな! このゴリラめ! そんなことより早く出撃準備をしろ!!」

 

「はい、政治将校殿。バートル曹長、直ちに機に搭乗いたします!」

 

 それを嫌味ったらしく言ったためか、グレーテルはかなり頭に来ているのか、シュンに当たるように指示を出せば、彼は更に煽るような口調で敬礼してから告げ、自分の機体へと走る。

 他の隊の者達と同様に、強化装備に着替え終えた衛士たちは、即座に自分の機へと走り、コックピットへ滑り込むように乗り込み、それから機体を起動させ、携帯兵装を取った後に機体を滑走路にあるカタパルトへと向かわせる。

 カタパルトに両足を着ければ、駐屯基地より空を飛んで順次出撃して行く。

 

『出撃後、正面の防衛陣地に回る! 各機、西側の撃ち漏らしを一匹たりとも見逃すなよ!』

 

「了解! さぁて、お仕事、お仕事と」

 

 先に出撃したアイリスディーナの指示に従えば、シュンは肩の骨を鳴らしつつ、この世界における仕事をするべく、中隊の後へと続いた。




安定のジム回です。

次回からはガンダムが出たり、エゥーゴ系統のMSが出てきたりします。
ティターンズ系統のMSやジオン系、主にMSVの機体が出て来るかもよ。それと旧ゾイド勢も。

俺のところは、他の柴犬SSとは違って最近のロボット物は出さないんだ。

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