復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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高機動型ザク、カッコいいよね?


機動戦

「あのスターキラーに潜入? 正気か?」

 

「あぁ、マジだ。あの中にこいつの強化する物があるって情報を掴んだ」

 

 惑星同盟軍の最強の宇宙要塞、スターキラーに潜入すると口にしたシュンに対し、ガイドルフは気が確かであるかどうかを問う。

 この発言は他のゲリラの面々は面を食らったのか、薬物の類を使用しているのかと疑い始める。

 

「おい、こいつ薬でもやってんじゃねぇのか?」

 

「黙ってろ。今度言ったらテメェのケツにこいつをぶち込むぞ」

 

「ひっ…!?」

 

 一人がそのことを言えば、シュンはアウトサイダーから貰った日本刀、それも大太刀の刃を鞘から抜いて見せながら脅せば、男は怯えて黙り込んだ。

 

「考えはあるのか?」

 

「ここの装備を使えば、何とかなるだろ」

 

「やれやれ、地上戦ではエキスパートでも、宇宙ではアマチュアのようだ」

 

 潜入方があるかどうかを問えば、シュンはここの装備で何とかなると答えた。

 これにガイドルフは頭を抱え、シュンを宇宙のアマチュアと表した。

 

「どういうことだ?」

 

「簡単な話だ、ここは海とは違う。海よりも馬鹿デカい。そんで重力も無いから、一度押されたら、何かにぶつかるまで止まらない。何処かに流されてお前だけならミイラになっちまう」

 

 自分をアマチュアと表したガイドルフに対し、どういう意味なのかを問えば、彼は宇宙の生活におけるイロハをシュンに教えた。

 移動方法に、酸素、宇宙服の着方は訓練で習っているから良しとして、宇宙のサバイバル方法や遭難した場合の行動などを教え込む。

 これに小一時間ほどの時間を費やせば、シュンはやっと理解して単独でのスターキラー潜入を断念する。

 

「陸地と違って容易くいかないか」

 

「お前さんは地上ではスペシャリストだが、宇宙ではアマチュアその物だからな。とにかく、モビルスーツは動かしたことはあるか?」

 

 地上とは大きく違う事を痛く理解したシュンは、協力者を募っての潜入に決めた。

 協力者ありでの潜入方に決めたシュンに対し、ガイドルフは次なるレッスンである宇宙におけるモビルスーツの動かし方を教え込もうとする。その前に、MSを動かしたことがあるかどうかを問う。

 これにシュンは、ワルキューレの陸軍に居た際、空挺兵の訓練で操縦した経験があると答えた。

 

「あぁ、あるぜ。だが、地に足を付けての奴だ。陸軍だからな。宇宙で操縦した経験なんざねぇよ」

 

「よし、ならば特訓だ。丁度、訓練用の旧ザクが空いている。そいつで宇宙の戦闘に慣れよう」

 

 宇宙での操縦経験が無いと答えれば、ガイドルフはシュンをMSの宇宙戦に慣れさせるための特訓を始めた。

 特訓すると言っても、ゲリラのMSは大変貴重な戦力であるので、至難の業だが、MSの調達もガイドルフが兼ねているのか、あっさりと許可は下りた。

 彼らも御得意様には逆らえないようだ。

 

 

 

「よし、乗ったぞ」

 

 宇宙服を身に着け、旧ザクと呼ばれるザクⅡよりも前に生産されていた古いMSに乗ったシュンは、コックピットのハッチを閉め、乗ったことを無線機で知らせる。

 敵勢力下での訓練を行う際、敵の巡回部隊に対しての警戒が必要であるが、今の同盟軍は連邦軍の対処で忙しいのか、ゲリラに対する警戒心を疎かにしていた。

 こうして、シュンの特訓は安心して行えるわけだ。

 

『なら、機体を起動させろ。マニュアルを読めば、直ぐに分かるはずだ』

 

 無線機のガイドルフの指示通りに、シュンはマニュアルを読みながら旧ザク、ザクⅠを起動させた。

 地に足が付いている状態なので、操縦訓練の通りに宇宙港の端まで難なく進むことが出来た。

 

「これからどうすんだ?」

 

『まずは飛び込め。受け止めてやる。スラスターは吹かすなよ』

 

 宇宙港への端へ出て次はどうするかを問えば、ガイドルフは自分が乗っているザクⅡの更なる発展型であるザクⅡF2型の腕を振るいながらここまで飛び込めと無線で指示を出す。

 その指示に応じ、シュンは操縦桿を動かし、彼のザクの元へ機体と飛んだ。

 宇宙には重力が無いので、一度飛んだら何かにぶつかるまで止まらない。

 宇宙に住まう者達に取って常識であるが、シュンは地上に住まう者であるので、余り慣れないのだ。

 飛んできた旧ザクを受け止めたガイドルフのザクは、離れた距離までシュンのザクを飛ばす。無線連絡で、スラスターを吹かせて停止させるのを忘れさせずに告げる。

 

『スラスターを吹かせて定位置に付かせろ』

 

「…うしっ、止まったぞ」

 

『良くやった。では、射撃訓練と行こう。あの的をこれで撃て』

 

 シュンの旧ザクが完全に止まったのを確認すれば、ガイドルフはザクの左手を動かし、彼の旧ザクの手に同サイズの機関銃である105mmマシンガンを渡す。

 これを自機の手に持たせたシュンは、訓練を思い出して目前に見える的に照準を合わせてトリガーを引く。

 反動は銃身が動いているので、流されずに済み、初弾はちゃんと的に命中した。

 

『ほぅ、良く当たるな』

 

「訓練じゃ、当たるまで降りれなかったからな。まぁ、こんなもんか」

 

 命中した個所を見れば、訓練時代の苦い経験をガイドルフに語る。

 

『なら、動く的は撃ったことがあるか? 軌道を読まなきゃ当たらんぞ』

 

 次にガイドルフが動く的を撃つように指示すれば、シュンは操縦桿を動かし、動いている的の予想進路に照準を向けてからトリガーを引いた。

 結果、撃った五発中、二発が外れたが、三発は真との中心部に命中した。これもまた訓練で味わった物であり、その経験がこの特訓で生かされた。

 

『ほぅ、中々やるな。これなら戦闘でも出来るだろう。では、宇宙の動き方について教え込むぞ』

 

 宇宙での射撃訓練が終わった後、今度は動き方についての訓練に入った。

 地上では動かしたことがあるシュンであるが、宇宙では初めてなので、遠くに流され掛けたが、ガイドルフのサポートの甲斐あって、何とか宇宙でのイロハを覚えることに成功する。

 次に戦闘訓練だ。これに最初は宇宙で溺れ、ボロ負け状態であったシュンだが、長年戦場で培って来た生命への執着と闘争本能でMSによる宇宙の戦い方を覚え、新兵以上の動きを出せることが出来た。

 その他諸々の訓練を終えた後、ガイドルフはより実戦に近い方法で鍛え上げようと思い、一度、拠点へと引き返し、休憩を挟んだ後に、彼はシュンに実戦配備型のザクがある格納庫まで案内した。

 

「こいつはMS-06R、高機動型ザクだ。ザクを更に宇宙戦に特化させた特注品だ」

 

「資料で見たことがあるぜ。宇宙戦用のザクだろ? でも旧型だ、まさかガタ落ちで実戦とでも?」

 

「安心しろ、中身は別だ。連邦や同盟の現行機にも性能的には対抗できる。さぁ、こいつで特訓と行こう」

 

 ガイドルフに見せられた高機動型ザクⅡを見て、シュンはこれで同盟軍と戦うのかと問えば彼は肯定し、これで訓練を行うとも告げた。

 早いところスターキラー要塞に潜入したいシュンは、この無茶な訓練を受けて立った。

 

「兎に角、こいつは早い。凄まじいGが来て吐き出しそうになるが、ここは敢えて吐き出さずに呑み込め。ヘルメットがゲロだらけになっちまうぞ」

 

「あぁ、吐きはしねぇよ。一度、似たようなことを訓練でやってるからな」

 

「よし、その意気だ。操縦はオリジナルとは違ってシンプルになっている。同盟傘下のジオンの末裔共と同じ規格だ。お前でも動かせるぜ」

 

「馬鹿にされてるような気がしてならねぇな。兎に角ありがとな。じゃあ、行ってくるぜ」

 

 無茶な訓練を受ける前に、ガイドルフは高速移動で強力なGが掛かる事を忠告し、それから嘔吐しそうになれば呑み込むように言えば、似たような訓練を経験しているシュンは決して吐かないと返した。

 その意気を買ったガイドルフは、操縦が同盟軍傘下のザクを主力機としたジオンの末裔が運用しているMSと同じ規格になっていることも教えれば、シュンはお礼を言ってからコックピットに入り、シートに座ってシートベルトを締めてからハッチを閉めて訓練に出掛けた。

 旧ザクの通りに宇宙へ出て、それから学んだことを生かし、自由に動き回る。乗り回している間に、かなり速度を出した所為か、Gが身体に掛かる。

 

「結構、キツイな。もっと早く動かしてみるか!」

 

 十分に慣れ親しんだところで、シュンは更に機体を加速させた。

 恐ろしいGが身体を襲い、腹の中にある物が口へと込み上げて来る感覚を感じたが、ガイドルフに言われた通りに呑み込み、吐かずに外の映像を映すモニターに視線を集中させる。

 次に過度な方向転換を行えば、先よりも激しいGが身体を襲う。だが、幾千もの死線を潜り抜けて来たシュンに取って、その痛みは身体に染み付き、大した痛みでは無い。

 

「この状態で射撃訓練だ!」

 

 高機動型ザクの複雑な機動を行いつつ、シュンは付近にある連邦軍の宇宙艦艇の残骸を射撃用の標的と見立て、射撃訓練を行った。

 主兵装は旧ザクが持つ105mmマシンガンよりも大口径な120mmマシンガンであり、かつて戦ったザクⅡF型もこの機関銃を持っていた。

 高速移動しているので照準はぶれるが、銃を撃つ感覚を思い出し、撃った三十発分の内、約十九発が標的にした宇宙艦艇の残骸、駆逐艦に命中させた。

 

『シュン、もう推進剤が切れるだろう。ここは戻れ』

 

「ガス欠って奴か。まぁ、訓練は十分。後は、実戦だな…」

 

 その後もかなり無茶な機動を行っていたが、推進剤の残りが少なくなってきたので、ガイドルフから入った無線の戻れと言う指示に従い、シュンはゲリラの根城であるセツルメントの残骸に戻った。

 

 

 

「おい! 同盟軍の補給艦隊がこの付近を通るぞ!」

 

 残骸を根城とするゲリラの厄介となり、ガイドルフによるMSの特訓を受ける中、遂に要塞へと潜入する手段が来たと報が寄せられた。

 その手段は、哨戒に出ていたゲリラのMS部隊が、スターキラー要塞への補充部隊を輸送する補給艦隊を発見。根城に即座に通信で告げ、それを聞いた伝令兵は通信兵の命令で司令室に居るリーダーたちに報告した。

 それを聞いたリーダーたちは、補充の機会だと捉え、直ちに出撃命令を出す。これにシュンとガイドルフも耳を寄せた。

 

「よし、全員出撃だ! 嘘吐き共から物資を奪うぞ!!」

 

 ゲリラたちが物資奪取に意気込む中、シュンは難攻不落の要塞への潜入と捉える。

 

「補給艦隊か。要塞へ忍び込めるチャンスかもな」

 

「ここの連中にとっては、物資を補充するいい機会と捉えているだろう。何か作戦があるのか?」

 

「あぁ、ちょいと‟痛い‟がな」

 

「…正気か?」

 

 補給艦隊と聞いてか、ガイドルフは逃れようとする輸送艦の中に入り込み、要塞内へと潜入する物だと思ってシュンに尋ねたが、「痛い」と言う答えに彼はやり方を直ぐに理解し、正気であるかどうかを問う。

 

「正気だよ。こいつ等の様子を見るなり、この手しか思い付かないしな」

 

 ガイドルフの問い掛けに対し、シュンはゲリラの状況を見てこの手で行くしかないと答えた。

 理由は簡単、この補給艦隊の出現は同盟軍がゲリラを誘い出すための罠と思われ、補給艦隊を装った戦闘艦で固められた正規の艦隊である可能性が高いからだ。

 スターキラー要塞の周辺宙域の連邦艦隊との交戦はシュンの耳にも届いており、同盟軍が後方の安全を確保し、正面の正規軍に集中するため、連邦軍の小間使いとなっているゲリラの排除を優先しようと罠を張ったのだろう。

 十三歳より軍に入り、苛烈な戦場を駆け抜けて来たシュンは、長年培って来た戦場での勘で、補給艦隊の出現を罠だと思ったのだ。

 

「なるほど、これが罠って事か。正面切って戦うために、背後からの心配を無くす。筋は通っている。だが、本物の補給艦隊かもしれないぜ?」

 

 この補給艦隊の出現を罠だと言う説を敢えて言わずに立てたシュンに対し、本物である可能性もある事をガイドルフは指摘すれば、今のゲリラの装備では勝てないと返す。

 

「あぁ、それもあるな。だが、あんだけ馬鹿デカい軍隊だ。それの補給艦隊と言っても、全部が輸送艦ばかりじゃねぇ。護衛の軍艦も、艦載機も山ほど居るだろうよ」

 

「まぁ、こいつ等は素人に毛が生えた程度だしな。では、行くとしますか」

 

 ガイドルフの指摘に対し、ゲリラは戦力差で叩き潰されるだろうとシュンは反論した。

 これにガイドルフが納得すれば、シュンは補給艦隊の襲撃に向かうゲリラたちに続いた。ガイドルフは吸っていた煙草の火を消してから後へと続く。

 

 

 

 補給艦隊の出現を聞いて、出撃したシュン等を含めるゲリラ部隊は、要塞の最短ルートである前の戦争の残骸が漂うデブリに待ち伏せしていた。

 傍受した無線に寄れば、連邦艦隊との交戦は急を要する物であり、要塞の備蓄では足らず、外部からの援軍と補給が必要な様子だ。

 勢力下にある他の基地や拠点からも続々と余剰戦力を援軍として要請して居る辺り、かなり切羽詰まった状況のようだ。

 このまま連邦艦隊が要塞を陥落させてくれればいいが、そんなに上手く事が運ぶわけが無い。少しでも連邦軍の勝率を上げるため、援軍よりも補給を出来る限り断つ。

 命令は既に暗号を通じて連邦軍の小間使いであるゲリラやレジスタンス、テロリストらに出されている。ガイドルフがスポンサーとして参加しているゲリラでは出されていないが、憎き惑星同盟軍の補給を遮断し、尚且つ物資を奪えるなら命令を出されなくともやる。

 例え、これが罠であろうとも、彼らは故郷を占領して恐ろしい破壊兵器へと改造した惑星同盟軍に対する報復心で仕掛ける。

 

『見えた! 嘘吐き共の補給艦隊だ! 前衛は偵察艦にフリゲート、両脇は駆逐艦と巡洋艦が固めている! 護衛機も一緒だ!』

 

 前衛の機影を捉えたゲリラからの報告で、シュンとガイドルフはそちらの方へカメラを向けた。

 報告通り、前衛は偵察艦一隻とフリゲート四隻が勤め、輸送船団の両脇を駆逐艦や巡洋艦が固めている。

 ゲリラの装備は連邦軍が同盟軍の勢力下にばら撒いた主力MSであるストライクダガーに、主力アーマード・トルーパー(AT)のスコープドックだ。ストライクダガーはビーム兵器が主兵装であるが、ゲリラの運用面から実弾のマシンガンを装備している。バズーカなどを持っている機体も確認できる。

 シュンは高機動型ザクであり、ガイドルフはザクⅡF2型と言う旧式だ。重武装であるが、同盟軍の主力機と戦えるかどうかは、性能差でも無く、パイロットによる腕次第だ。

 

「やっぱり罠だな…」

 

 同盟軍の輸送船団防衛の陣形を見て、シュンはこれを罠と見抜いた。

 

『罠だって? どう見てもゲリラ攻撃に怯えながらの前進に見えるが?』

 

 プライベートチャンネルでシュンが罠だと言ったので、そうとは見えないガイドルフは、襲撃に怯えながら目的地へ進む補給部隊にしか見えないと答えた。

 戦場は地上であるが、同じ目に遭った経験のあるシュンは、それこそが罠であると告げる。

 

「それが罠なんだよ。あぁやって釣り糸を垂らし、餌に掛かるのを待つ。あの輸送船が魚の餌って訳だぜ」

 

『考え過ぎじゃないのか? それなら気付いていないフリでもすればいい筈だが』

 

「それじゃあ見え見え過ぎんだよ。俺のような経験のある奴なら見抜かれる」

 

 これに更に異論を唱えたガイドルフであるが、シュンは気付いていないフリをすれば、自分のような歴戦の兵士に見抜かれると返した。

 次にガイドルフは、補給艦隊に仕掛けるかどうかをシュンに問う。

 

『ふむ、一理ある。で、仕掛けるか?』

 

「その為に来たんだ。ゲリラの連中には悪いが、俺のために死んでもらう」

 

 ガイドルフの問いに対し、シュンは非情なる答えを出した。

 復讐のためなら手段を問わないシュンに対し、ガイドルフは鬼になると心に決めたから問うた。

 

『非情だな。復讐のために鬼になるって心に決めたからか?』

 

「それもある。だが、連邦が勝ったところで子分のこいつ等は親玉に裏切られるだろうよ。そんな残酷な目に遭う前に、戦って立派に死なせてやる方が良いと俺は思うね」

 

『何とも残酷な考え方だ。だが、それでこそ復讐者って所だろう』

 

 問い掛けに対して正直に答えれば、連邦軍が次に脅威となりえるゲリラを生かしておくはずが無いとも告げ、戦いで死なせてやる方が良いとも答えた。

 そんな残酷な答えを出すシュンに対し、ガイドルフは甘さを捨てた復讐者になったと褒め称える。

 

「皮肉に聞こえるな。まぁ良い、何を言われようが知っちゃこっちゃねぇ」

 

『よし、驚かせてやる! みんな後へ続け!!』

 

「さて、俺は宇宙の殺し合いと洒落込むぜ!」

 

 何を言われようが知ったことではない。

 皮肉にも聞こえるガイドルフに対してそう答えれば、無線機越しからゲリラのリーダーの言葉に続き、シュンはゲリラの部隊と共に攻撃に移った。

 第一射のロケット弾が前衛の偵察艦に向けて放たれれば、それを合図にゲリラの機動兵器部隊は一斉に補給艦隊へと襲い掛かる。

 これが罠であるとシュンは見抜いているが、ゲリラはそれに気付かずに攻撃を始めた。

 前衛の偵察艦は奇襲攻撃により、成す術も無く轟沈した…筈だが、前衛の三隻はただのバルーンであり、後列の輸送船と両脇を固める護衛艦の反撃を受け、ゲリラの部隊は損害を被る。

 

『来たな! テロリスト共め! 返り討ちにしてくれるわ!!』

 

 無線機より同盟軍の補給艦隊の提督の声が響いて来れば、輸送艦の外装が外れ、無数の機動兵器が現れた。

 

『わ、罠だ! これは罠だ!! ひ、退け…』

 

 先陣の部隊が無数のビームを浴びて粉砕されて、これが罠だと分かったリーダーは退却を指示しようとしたが、全部隊に告げる前に護衛艦の艦砲射撃で機体ごと吹き飛ばされた。

 肝心なリーダーがやられてしまったことにより、ゲリラの部隊は大混乱を起こし、同盟軍に蹴散らされ始める。

 

『だ、誰が指揮を執るんだ!? ぐわっ!』

 

『指示をくれ! 退却か!? 攻撃か!? どっちだ!?』

 

「頭がやられたらこの様かよ。まぁ、こいつ等は素人だしな」

 

 無線機より聞こえるゲリラの混乱した声を聞いていたシュンは、仕方の無い事と割り切り、初の宇宙における戦闘を行う。既に戦闘は開始されていたが、状況はまずこちらの方が不利だ。ゲリラは一方的に嬲り殺されている。

 まずは小物から倒すことにする。その小物とは、同盟軍の主力ATであるファッティーだ。カエルが二足歩行をした外見で、えらく腹が出っ張っていることからそのあだ名で呼ばれている。本来は型式番号であるBATM-3と呼ばれる。

 そんな敵機に夢中になっているATを照準器に捉えたシュンは、即座にトリガーを引いてザクの主兵装である120mmマシンガンを単発で撃ち込んだが、一発はあらぬ方向へ飛んで行く。

 

「何所飛んでんだ!」

 

 外してしまったことにより、こちらに気付いた敵機が手にしているランチャー発射銃を撃とうとして来る。

 相手が撃つ前にシュンはもう一度、照準器に捉えた敵機に向けてトリガーを引き、二発目を発射した。

 放たれた弾は見事に敵機へ命中し、大口径の機関砲を防ぐ装甲を持ち合わせていないファッティーは爆散して粉々となった。シュンの宇宙における初の撃墜だ。

 

「初弾は調子が狂うと見たな」

 

『シュン! スカートの下から敵機だ!!』

 

「っ!? うぉ! 本当に居やがった!」

 

 初の撃墜に呆けている間に、ガイドルフの知らせで真下より向かって来る敵機の存在に気付いた。

 即座にレーダーを確認して敵機と捉えれば、マシンガンを真下へ向け、戦闘機に手足の生えた機動兵器に向けて連射で撃ち込む。

 これも対した装甲が無いのか、無数の120mm弾を浴びた敵機は蜂の巣となって爆散した。一発辺りがコックピットに命中したようで、血のような液体が隙間より見えた。

 

『気を付けろ。同盟軍の奴らは全力で殺しに来るぞ。餓鬼であろうと、溺れている奴でもな。周囲には目を配れ』

 

「ハイエナって事か。なんとかコツを掴んでみる! フォロー頼むぜ!」

 

『あいよ!』

 

 ガイドルフが無線で注意してくる中、シュンは宇宙の戦闘におけるコツを掴むべく、彼にフォローを頼んでから、ウジャウジャとこちらに向かって来る同盟軍機に向けて機動戦闘を挑んだ。

 無数の機関砲弾やビーム、プラズマ弾が飛んでくる中、それを機体の特性である機動性で避けつつ、マシンガンを乱射して数機を落とす。

 同盟軍の機動兵器に乗るパイロット達が正規兵であるはずだが、たった数時間足らずのシュンに撃墜される機体が見えた。ガイドルフなら尚更であるが、同盟軍にとってはパイロットですから歩兵のように消耗品であるため、訓練の質はかなり悪いようだ。これにはシュンも何か言わずにはいられない。

 それを言うために、敵艦の対空砲を近接兵装であるヒートホークで叩き潰し、甲板に背中を付け、マシンガンの再装填しながらガイドルフに向けて自分が言いたいことを告げる。

 

「こいつ等は本当に正規兵か? 的みたいだぞ」

 

『同盟も連邦と同じく、機動兵器は消耗品なのさ! こんなに死を恐れずに突っ込んで来るのは、四六時中にプロパガンダを聞かされているからさ!』

 

「うちの古巣じゃ考えられねぇな!」

 

 無線機よりガイドルフの二大軍事同盟の事情を聞いたシュンは、古巣のワルキューレでは考えられないと答え、再装填を終えたマシンガンで、こちらに回って来た敵機の胴体に向けて数発撃ち込んだ。

 コックピットに当たったのか、敵機は機能を失い、暗い宇宙の彼方へと彷徨い始める。

 自分もここで戦っていれば、ああなってしまう物だと思ったが、そんな目に遭わないため、シュンは必死に操縦桿を動かし、次々と出て来る敵機を、ガイドルフのザクと共に落とし続ける。

 

「やる気か?」

 

 盾にしている駆逐艦より退避用の小型船が出て来るのをカメラで見たシュンは、駆逐艦ごと自分等をやると判断し、甲板を蹴ってそこから離脱した。

 物の数秒ほどで巡洋艦の主砲が火を噴き、味方の駆逐艦を沈める。敵はそこら中に居るので油断ならず、回避行動を取るシュンのザクに向けて弾幕を浴びせて来る。

 ゲリラの部隊が居るはずであるが、レーダーに味方機の反応がガイドルフのザクしかないので、彼に味方はどうなったのかを、敵機を破壊してから問う。

 

「おい、こっちに敵機が集中してきてるぞ! ゲリラの連中は全滅か!?」

 

『あぁ、全滅じゃないが、それに近いな! 何機かは逃げている! 戦っているのは俺たちだけらしい』

 

「ひ弱な奴らだ! クソッタレめ!」

 

 ガイドルフの返答で、自分たちしか戦っていないことを知らされれば、シュンは背後に張り付ついたジンに向けてザクの肘打ちを胴体に食らわせた。

 一発叩き込んだところで相手は怯まず、マシンガンを手にしている右手を空いている右手で抑え、友軍機のマシンガンに撃たせようとする。

 

「そんな手はくわねぇよ!」

 

 機体のスラスターを動かし、シュンは敵機が撃った瞬間を見計らって背中に張り付いているジンを撃たせた。

 背中のエンジンに十数発の機関砲弾を浴びたジンは、残り数秒ほどで爆発寸前となる。これにシュンは敵機の腰に付いているMSサイズの剣を爆発の寸前で奪い取り、爆風に巻き込まれぬように即座に退避する。

 凄まじい爆発が起こる中、爆発で目が眩んでいる敵機に向けてマシンガンを乱射。完全に沈黙したのを確認してから、背後に回ってライフルを撃とうとして来る敵機に向けて振り向き、マシンガンを浴びせる。

 これで撃墜数は数十機であるが、敵機の数はまだ百以上は残っており、レーダーは敵機の反応まみれだ。そんな絶望的な状況なのに、マシンガンの残弾は残り少なく、幾つか敵機からの攻撃を被弾していて機体も限界に近い。

 

「おい、もうそろそろ逃げて良いぜ」

 

『頃合いって所か? なら、退かせて貰おう。死にたくないんでな』

 

 マシンガンの残弾も予備の弾も無くなったのを確認したシュンは、そろそろ頃合いと見計らって、ガイドルフに離脱するように無線で告げた。

 これにガイドルフは有り難く受け入れ、最後に少しでも楽をさせようと思ってか、向かって来るコルベットのブリッジに向け、マシンガンの銃身の下部に付いている擲弾発射機のグレネードを撃ち込み、撃沈してから離脱した。

 何機か追撃機が居るが、殆どの敵機がシュンのザクに集中し始める。

 

「さぁて、十機切りでも洒落込むか」

 

 弾切れとなったマシンガンを手放し、左手にずっと持っているジンの剣を右手に持ち替え、左手にヒートホークを持てば、十機ほどを落とした後に、潜入方に移行すると決めてから、手近な敵機に斬り掛かった。

 標的にされた敵機は、複雑な機動をしながら向かって来るザクに恐怖し、手にしているライフルを乱射する。照準を絞らせないためにそんな機動をしているため、全く当たらず、ヒートホークを胴体に投げ付けられる。

 

「うっし、命中」

 

 投げられたヒートホークは見事に胴体に突き刺さり、機能を停止した。

 それを取ろうと近付こうとしたが、集中砲火を浴びせられ、諦めるしかなくなる。

 武器が剣一本となったシュンは、ムキになって接近戦を挑んで来る敵機に対し、接近戦で答え、振るわれたビームの剣を避けてから胴体を斬る。

 即座に飛んでくる攻撃を避け、背後より撃ってくる敵機に標的を絞り、一機目と同じく同じ機動の仕方で接近し、剣を胴体に突き刺して撃破する。

 

「三機目!」

 

 数十秒で三機の敵機を近接武器のみで撃墜したシュンは、攻撃を避けつつ次なる標的に向けて斬り掛かった。

 四機目を撃墜したところで、推進剤の残りは心許なくなっており、いつ切れてもおかしくない状況だ。それでも、計器や推進剤の残量に注意しつつ、シュンは近い敵機を斬り掛かる。

 五機目、六機目、七機目と斬り捨てて撃破したところで、推進剤の残りはもう少なくなって来た。

 

「推進剤の残りが…ぐぁ!?」

 

 推進剤の残りを気にした瞬間に、敵機の放ったビームで左腕を捥がれた。更に右脚を捥がれ、まともな機動が取れなくなる。続けて胴体の付近に被弾したので、コックピットの景気の一部が爆発して破片が飛んできた。

 

「ここが限界か…!」

 

 放たれる無数の攻撃を何とか避けているが、もう機体は限界であるため、シュンはここが限界と判断し、操縦桿を動かして機体の残った右手に握られている剣を手放させた。それから残った手を上げ、敵部隊に対して投降の意思を示す。

 これが、シュンがスターキラー要塞の潜入に考えた方法だ。敵にワザと捕まって奥深くまで潜入する。尋問されることは間違いないだろう。

 その瞬間、部隊指揮官が射撃中止命令を出したのか、他の機動兵器は攻撃を止めた。

 

「…嬲殺しか?」

 

 敵に嬲り殺しにされると思ったシュンだが、敵機は自分のボロボロのザクに近付き、護衛艦の近くまで運んだ。

 それから物の数分、カメラの上に銃を持って宇宙服を着た集団が見えた。どうやら、自分をゲリラの隠れ家の場所を吐かせるために、近くの基地まで護送するようだ。

 だが、仲間を大勢殺された報復として、殺されるかもしれない。

 そんな最悪な場合も考慮しつつ、シュンは持って来た拳銃をいつでも撃てるように近くに置き、相手がハッチを開けて来るのを待った。

 

『おい、ハッチを開けろ。開けない場合は撃墜する』

 

「連行のようだな」

 

 外に居る兵士たちが開けるように無線で指示したのを聞けば、シュンは大人しくハッチを開け、両手を上げながら機体から降りた。

 この付近の基地と言えば、スターキラー要塞しか無いので、そこへ護送されることは確実だろう。

 こうして、シュンの思惑通り、スターキラー要塞への潜入に成功した。

 後は尋問と言う名の拷問に耐え、牢屋から脱出する方法を考えるだけだ。

 そう頭の中で思っているシュンは、同盟宇宙軍の将兵等に護衛艦へと護送された。




機体解説

高機動型ザクⅡ
型式番号MS-06R。
ジオンの量産型MSであるザクを宇宙戦に特化したバリエーションの一つ。
両足にスラスターが沢山ついて、バックパックが大きいことが特徴。
ザクと同じ外見だが、中身は別物であり、その所為であってかリック・ドムに主力を取られた。
しかし、熟練のパイロット達には愛されているらしく、このザクを手に入れるのにパイロット達は連邦軍の軍艦や航空機を撃墜しまくり、ジムやボールが出て来れば死ぬ気で落として手に入れようとした。
本篇ではシュンがこれに乗る、無論、中身は現用機に近い性能を持っている。

ザクⅡF2型
型式番号MS-06F2
ザクの後期生産型。統合整備計画と言う一年戦争末期に立てられた計画の中で生産されたので、殆どの武装と操縦性は同じ計画で生まれた機体と同じ。
だが、一年戦争で運用されておらず、戦闘に導入されたのは、戦後であった。
ガイドルフがこれに乗る。使っている武器は、後期型のザクマシンガン。

ジン
型式番号ZGMF-1017
ザフトが最初に作った量産型MS。宇宙世紀で言えば、ザクのような存在であるが、後にSEED世界のザクが現れたので、リーオー的な存在になる。
様々な武装を出来るが、連合軍が対抗して作ったストライクダガーにボコボコにされる。
更には出回り、色んな勢力に使われる。連合軍もMSが出来るまで、鹵獲した機体を使っていた。
この作品でも、数多くの勢力に運用されている。

ストライクダガー
型式番号GAT-01
連合軍の量産型MS。ちなみに最初はダガーである。SEEDのジム枠。
「ナチュラルなんかにMSが作れるわけがねぇ!」と意気込んでいたザフトのMSたちを一方的に撃破しまくる。WW2で言えば、T-34戦車みたいな存在。
戦後、大量生産品の所為か、正式から外された。
この作品では、連邦軍を初め、小間使いの抵抗勢力やテロリストに運用されている。

スコープドック
言わずと知れたむせるの最低野郎共の棺桶であり、ゆりかご。ギルがメス軍所属機。
大口径の弾くらいしか防げない装甲しか持たない機体に、歩兵を乗せたようなもん。大量生産品である。
だが、火力と機動力は折り紙付きで、様々な兵器を使うことが出来る。
主人公キリコ・キュービィーの愛機であり、余裕が無い場合においてキリコは本機に乗る。最低野郎共も、操縦性の高いこの機体を愛機とした。
ここでは連邦軍でも運用され、小間使いにも運用された。テロリストも運用している。
日々、消耗品たちはこの機体と共に戦場で散っていく。

ファッティー
バララント軍の主力AT。
デカいカエルだが、装甲はスコープドックと大して変わらない。
主人公のキリコもこの機体に乗り、古巣のギルがメス軍のATを落としまくった。
ここでも同盟軍に運用され、日夜を問わず、何処かの戦場で消耗品たちが散っていく。

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