復讐異世界旅行記   作:ダス・ライヒ

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最後まで書くと、長いので、ここで上げておく。


時の庭園へ 前編

 ネオ・ムガルの暗殺部隊の指揮官を殺害し、更にネオ・ムガル将兵全員を殺害したアービターは、アースラの突入の前に、先にプレシアの居城である時の庭園に来ていた。

 理由はジュエルシードを条件に、自分等の指揮下に置くことだ。

 アービターはジュエルシードの入った袋を片手に、主人の間の椅子に座るプレシアの元にそれを彼女の足元に投げ付ける。

 

「私に何の用?」

 

「協力しろ。その為にこの宝石を持って来た。袋の中身を確認してみろ」

 

 堂々とまるで脅すかのように来たアービターに対し、プレシアは何も動じることなく何をしに来たのかと問う。

 これにアービターは袋の中身を確認しろと告げ、プレシアは自分の足元に落ちている袋を拾い上げ、中に入ってある物を確認した。中身にちゃんとジュエルシードが四つ入っていることが分かれば、アービターの協力を受け入れる。

 

「好きにして良いわ。丁度、手駒の数が足りなかったし」

 

「同盟成立だな。任せておけ、俺が残りのジュエルシードとやら集めてやる」

 

 協力が受け入れられれば、アービターは残りのジュエルシードも手に入れてやると豪語し、部下たちに指示を出した。

 

「艦艇を出来るだけ集めろ。奴らの船よりジュエルシードとやらを全て奪うのだ!」

 

『はっ!』

 

 部下たちはそれに応じれば、直ちに実行すべく、それぞれの配置へと向かった。

 

「俺は直接指揮を執る。部下を何名か残しておく、下手な真似はするなよ」

 

 アービターとその部下たちが最低限の人数を残して主人の間を去った後、プレシアは目前に画面を出し、自分が数時間前に敗北したフェイトに向けて放った高出力の魔法が、彼女の盾となったシュンに当たったのを見て、呆れた声を上げた。

 

「あんな人形を庇うなんて、愚かね…いや、知らないのかしら」

 

 そんなシュンを憐れんだ目で見つつ、もうじきここへ乗り込んで来る管理局の武装局員たちに備えた。

 

 

 

『目覚めろ、シュン。お前はここで死ぬ運命(さだめ)ではない』

 

 一方でフェイトからプレシアの高出力の魔法を代わって受けたシュンは、余りの激痛に気を失い、深い眠りへとついていた。

 夢はワルキューレに属していた時に、何処かの戦場の塹壕内で、敵部隊と銃撃戦を繰り広げている記憶の中の物だ。

 手には他の兵士たちと同じAK103突撃銃が握られ、押し寄せて来る敵兵に向けて撃っている。身に着けている装備は旧式で、女性兵士たちだけは現代歩兵のような装備を身に着け、ブルパップ式突撃銃が握られている。

 背中には、スレイブを持つ前にシュンの愛刀だった対戦車剣が背負われていた。

 そんな中、彼を目覚めさせようと、夢の中にアウトサイダーが姿を現して呼び掛ける。

 

「ウルセェな! 今はそれどころじゃねぇ!」

 

 その声に耳を貸さないシュンは、ただひたすらと銃剣突撃を敢行する敵兵を撃ち殺すだけだ。

 数名を撃ち殺したのち、弾が切れたのか、弾倉を取り換えるために塹壕内へ引っ込んでポーチより新しい弾倉取り出し、空の弾倉を本体から弾いて新しい弾倉を取り付ける。

 彼が再び銃を撃とうとした時に、敵の迫撃砲から放たれた砲弾が近くに着弾し、爆風の衝撃で塹壕の壁に叩き付けられる。

 意識が朦朧とする中、目の前に自分を呼びかけるアウトサイダーが現れ、シュンに向けて目覚める時だと語り掛ける。

 

「シュンよ、もう目覚めの時だ。この過去の世界における最後の戦いに向かうのだ」

 

 アウトサイダーがそれを言えば、シュンはたちまち夢の世界から現実へと引き戻された。

 

 

 

「はぁっ!?」

 

 アウトサイダーによって現実の世界へと戻って来たシュンは、自分が目覚めた場所が、アースラの医務室であることに気付き、頭を抱える。

 

「お、俺はどうして…? 確か、あの時…!」

 

「おぉ、起きたか。あれを受けて生きているなど、真に信じられんぞ」

 

 シュンは目覚めたとき、最後に気を失う前の記憶を思い出す。そんな彼に介護していたヴェセミルは、プレシアからの高出力の魔法を受けて気絶していたと知らされる。

 ちなみにヴェセミルらの傷は、アースラの船医らによって、元通りに治された様子だ。

 

「んなもん食らってたのか? それより、あの金髪の嬢ちゃんはどうした? 無事か?」

 

 それを知らされたシュンは、自分が庇ったフェイトが無事であるかどうかを自分の身よりも先にヴェセミルに問う。

 

「あぁ、無事だとも。全くなんて恐ろしい魔術師だ。わしらの世界には、あんな魔法は無い。あの栗毛の少女の放った物もだ」

 

「まぁ、何度も修羅場潜り抜けて来てそうなあんたには、初めてのことだらけだもんな。それより、あの後どうなってる? 局の連中は金髪の嬢ちゃんをお縄に掛けたりはしてねぇか?」

 

「全く、質問の多い奴だ。大丈夫だ、リンディ等は彼女には何も悪い事はしておらん。それと、フェイトにジュエルなんたらを集めさせていた奴のアジトを見付けたようだ。今、魔術師を集めて突入の準備をしておる」

 

「なにぃ? トーシロー共が…?」

 

 シュンの問いにヴェセミルが答えれば、今度はフェイトがどうなったのかを問う。

 これにヴェセミルは頭を抱えつつも悪いようにはされていないと答え、次にシュンが聞いてくると思う問いを予測し、フェイトにジュエルシードを集めさせていた者のアジトの位置を特定して、突入部隊を編成していることを最後に付け加える。

 敵の居城へ武装局員が突入すると聞いたシュンは、眠っているベッドから飛び起き、急いで艦橋へと向かった。

 

「おい! 何所へ行く!? まだ完全に治り切ってないと船医が言っておるぞ!! 全く、何所のどいつに似たのやら!」

 

 自分の静止の声も聞かず、医務室から包帯を巻いた半裸で裸足の状態で飛び出たシュンに、ヴェセミルは自分が知る人物を思い出し、悪態を付いた。

 

 

 

「ん? もう起きたのか。医者の話によれば、半日くらいは起きないと聞いていたが…」

 

 医務室から飛び出たシュンは、半裸で裸足のまま、艦橋へ駈け込んで来た。

 そんなシュンの姿を見た頭に包帯を巻いているバウアーは、回復の速い奴だと思う。他の者達は、ズボンを履いただけで入って来たシュンに、何事かと思い始めた。

 尚、ヴェセミルを除く四名となのはにユーノ、アルフ、それにフェイトも艦橋の中に居た。

 

「ヴェセミル爺さんから聞いたぜ。敵のアジトに乗り込むだってな! 止めておけ、ネオ・ムガルのクソッタレと顎割れ野郎共が居るかもしれねぇ!」

 

 入って早々にシュンは、武装局員による時の庭園への突入を止めるように告げるが、リンディは既に転送した後であると答える。

 

「あの次元犯罪者集団が? あり得ないわ、彼らはジュエルシードを集めているプレシア・テスタロッサたちと敵対していた。今さら手を組むなんて…まさか…!?」

 

 今まで敵対していた者達が、今さら手を組むとは思えないと返したリンディであったが、見付からない四つのジュエルシードの事を思い出し、それでプレシアとネオ・ムガルが組んだ可能性があると判断して、目前のモニターに映る突入部隊に知らせる。

 

「突入部隊、直ぐに聞いて! そこにネオ・ムガルの兵士が居る可能性が高いわ! 追い込まれた者が何をしでかすか…」

 

 そう知らせようと通信機を起動したときはもう遅く、突入した武装局員たちは、魔法で作られた機械の兵隊である傀儡兵や、ステルス迷彩で姿を消しているエリートたちに背中からエナジーソードで貫かれ、一瞬の内に全滅してしまう。

 

「一体これは!? どうしてエリートがあそこに!?」

 

「どうやら、リンディ・ハラオウン艦長の最悪の予想が当たってしまったようです」

 

「最悪の展開だ、あれではもう助からない…」

 

 罠にはまり、全滅してしまった突入部隊の隊員等を見て、シオンは時の庭園にエリートが居ることに驚き、KOS-MOSはリンディの最悪の予想が当たったと告げ、隊員等の傷の具合をモニター越しで確認したイムカは、もう助からないと口にする。

 この惨状をモニターで見ていたリンディは、即座にオペレーターらに突入部隊を転送装置でアースラに帰還させるよう指示を出す。

 

「局員たちの送還は!? 直ぐに戻さなきゃ助からないわ!!」

 

「駄目です! 受け付けません!!」

 

 オペレーターは何度も送還装置を動かすが、全く受け付けないと答える。

 その瞬間に、モニターの映像は乱れ、ある場所の光景に変わる。

 

「…フェイトちゃん?」

 

「え…?」

 

 そこに映っていたのは、培養液に満ちたカプセルの中に居るフェイトと瓜二つの少女、アリシアだ。彼女を見たなのはは目を見開き、フェイト自身は目前の映る物を信じられないでいる。

 KOS-MOSとアルフは知っていたが、まさかプレシアが見せるとは思ってもみなかったようだ。

 その沈黙を、シオンの一言が破る。

 

「クローン技術…! まさか、フェイトちゃんは…!?」

 

「そうです、フェイトはカプセルの中で保存されている少女、アリシアのクローンです」

 

「…嘘だ」

 

 シオンの言葉に知っていたKOS-MOSが答えれば、フェイトはそれを受け入れない。

 何度も怒らせていた母親は、これまで自分には見せなかった表情で巨大な培養液の中で眠る少女を、まるで我が子のように見ていた。

 それは哀しみで、いつも自分に見せる怒りの表情では無く、真に誰かを慈しむ表情だ。

 これにフェイトは、培養液の中に眠る少女に嫉妬を覚える。

 他の者達は、何をしようと言うのか警戒している。

 そんな彼らを嘲笑うかのように、プレシアは口を開き、語り始める。

 

『余り揃わなかったけど、貴方たちから奪い取れば、行けるわ、アリシア。もう、苦悩の日々はお終い。管理局によって失われた貴方を、私は取り戻して見せる。ねぇ、聞いているんでしょ? 時空管理局。長かった暗鬱な時間、永遠にさえ感じる苦悩の日々。貴方たちを殺し足りないと感じていたけど、それはもう良いわ。この子はもうじき帰って来る。次元の狭間、アルハザードへの道は開く。貴方たちから‟奪え‟ばね。この子の身代わりの人形を娘扱いするのは、もう疲れたの』

 

 モニター越しに暗く、無機質な独白の中で、奪えと言う単語に、何名かはネオ・ムガルと組んだプレシアが何らかの行動を移すと予想する。

 同時に、培養液の中に居る少女を知るKOS-MOSとアルフ、それを知らない幾人かは、人形と娘扱いと言う単語を聞いて、直ぐにフェイトの事情を理解した。

 そのプレシアは、モニターに視線を向け、そこに居るフェイトと思って語り掛けて来る。

 

『聞いているでしょう? フェイト。貴方にアリシアの記憶を上げたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない私のお人形』

 

「酷い…!」

 

 プレシアがフェイトに向けて言った言葉を聞いた面々は、怒りを覚えるか、シオンのように非難するかの二択だ。

 それを聞かされた本人は、かなりの精神的ダメージが与えられたことだろう。その証拠に、フェイトは手錠を掛けられた両手で、これが悪い夢であるかのように祈っている。

 彼女の言葉を聞いていたエイミィは、この間にプレシアのデータを調べ上げていたのか、それらを皆に伝えた。

 

「プレシア・テスタロッサは、以前、ミッドチルダの中央技術開発局に勤めていたけど、その時に事故で娘を亡くしたの。その後は使い魔を超える人造生命に死者蘇生の技術の研究を伝えた。その時のプロジェクト名が『F.A.T.E(フェイト)』。どんな悪党な機関が協力していたかはまだ分かってないけど、取り敢えず、協力者はモニターに映ってる悪い宇宙人さんたちじゃ無いよ」

 

『そうよ。良く調べたわね、小娘。それくらい普段から些細なことに対応すればいいのに。本当、貴方たちは嫌いよ』

 

 エイミィが調べ上げたことを、艦橋に居る一面に言えば、それが聞こえていたのか、プレシアは正解だと答え、同時にそれ程の労力を自分にも使って欲しかったと怒りを現す。

 それからアリシアの眠るカプセルに手を当て、独白を始める。

 

『それに失った物の代えは効かない。アリシアはもっと優しく笑ってくれた。アリシアは時々我儘も言うけれど、それでも私の言う事はとても良く聞いてくれた。アリシアはいつも私には優しかった…』

 

「最低だよ…あんた! この子は、あんたの為に戦ってたじゃないか! なんでそれを判ってあげないんだよ!!」

 

 その独白に、アルフは怒りを覚える。シュンも冷静を保っているが、内情では今すぐにでもプレシアを絞め殺してやりたいと思う感情が渦巻いている。

 

『その子が偽物だからよ。せっかく上げたアリシアの記録も、貴方じゃ駄目だった。アリシアを蘇らせるために、私が慰みに使うお人形。だから貴方はもう要らない。その船と共に使い魔と人形諸共潰えなさい』

 

「あ、あ…ああ…!」

 

 アルフが言った後に、プレシアはフェイトに対し、もう用済みと言わんばかりの言葉を突き付ける。

 これにフェイトは信じられず、聞きたくないと震える手で両耳を抑えようとするが、手錠の所為で塞ぐことが出来ない。

 最後に、プレシアはとどめを刺すような事を、フェイトに向けて放った。

 

『冥土の見上げに良い事を教えてあげるわ、フェイト。貴方を作ってからずっと、私は貴方の事が大っ嫌いだったのよ!』

 

 その言葉の後に、フェイトは崩れ落ちた。自分にとっての世界の中心である母が自分を否定する言葉こそが、崩壊させる銃爪(ひきがね)であるのだから。

 そんなフェイトを、なのはやシオンが寄り添う中、プレシアの前にアービターが姿を見せる。

 

「顎割れ野郎…!」

 

『聞け、時空管理局とやら。貴様らが持つジュエルシードを全てこちらに渡せ。さもなくば…』

 

 シュンが姿を見せたアービターに対して怒りを燃やせば、彼が口を止めた瞬間、アースラ全体に振動が走る。

 遠くの方で爆発音が聞こえたので、これは時の庭園か、もしくはアースラと同じ次元航行艦による攻撃であると推測される。

 

「右舷前部に被弾! これは、次元航行艦です…! それも武装したのが十五隻出現!」

 

「武装した次元航行艦ですって!? 十五隻って、艦隊じゃない!」

 

 オペレーターからの報告に、リンディは武装した次元航行艦の艦隊に攻撃されたと知り、冷静さを欠く。

 艦橋に居る一同を更に追い込むかの如く、その次元航行艦の艦隊、否、コヴナント軍の巡洋艦一隻と駆逐艦二隻、フリゲート四隻、ジオン公国と呼ばれるかつて存在したスペースコロニー国家の軍隊が所有していたムサイ級軽巡洋艦二隻にチベ重巡洋艦一隻、ザフトと呼ばれる同じコロニー国家の軍隊が所有するユーラシア級フリゲート二隻にナスカ級高速駆逐艦一隻、それにネオ・ムガルの巡洋艦二隻が、こちらに主砲を向けていた。

 

『これで分かっただろう。早くジュエルシードとやらを全てこちらに差し出せ。さもなくば今度は本気で沈める。全て差し出せば、生かしておいてやろうではないか』

 

「嘘だな。目に見えるSF小説のような戦艦がこちらに主砲を向けている。あの一撃はワザと外さずに当てた。生かす気など毛等も無いだろう」

 

「バウアー大尉の言う通り、我々の生存確率は、0.1%未満です」

 

 アービターは先ほどの攻撃で、残るジュエルシードを全て出すように警告したが、これをバウアーは嘘だと見抜く。

 シュンもイムカもこれが嘘であると見抜いており、KOS-MOSもまた、アービターが自分等を生かすことは微塵も無いと、計算して出した。

 そんな時に、先の攻撃で大いに慌てているヴェセミルが環境に駆け込んで来る。

 

「一体何事だ!? この船が揺れているぞ! みんなは攻撃を受けたと言っているが、何が起こっているのだ!?」

 

 駈け込んで来たヴェセミルに対し、シュンは分かり易ように今の状況を説明した。

 

「おぅ、ヴェセミル爺さんか。艦内で騒いでいる連中と同じく、この船はネオ・ムガルのクソッタレ共に攻撃を受けている。ジュエルシードを全部渡さきゃ沈めるとかほざいているが、相手は沈める気満々だ」

 

「なんだと!? 渡そうが渡すまいが、我々は死ぬしかないじゃないか! 何か、良い装備は無いのか?」

 

「残念だけど、このアースラは敵艦との撃ち合いなんて想定してないわ。もう打つ手は無いの」

 

「やれやれ、ここで終わりと言う事か…」

 

 シュンが説明した後、ヴェセミルはアースラに艦隊戦が出来る装備があるかどうかを問うが、艦長であるリンディはそんな装備は無いと答える。

 答えを聞いたヴェセミルは、ここで自分等は終わりであると頭を抱えて諦め掛ける。

 

『未来より、助けに来たわよん!』

 

『っ!?』

 

 だが、艦橋内に陽気な見知らぬ女性の声が響いた瞬間に、艦橋の窓越しに見えるムサイが上方より来た高出力ビーム砲三発で撃沈した。

 即座にレーダー手は、艦橋内に無理やり通信を繋ぎ、敵艦を沈めた者の正体を突き止める。

 

「一時上方より正体不明の高速物体が接近! 数は一機、いや、二機!?」

 

「一体何者!?」

 

 レーダー手は敵艦を撃沈させたのは、ビームを放った高速物体であると告げたが、急にレーダーにもう一つ現れた為、そのもう一つの出現も、慌てながら知らせる。

 これにリンディが困惑する中、KOS-MOSはその二つの物体のデータが残って居たのか、この場に居る全員に自分の内臓レーダーが捉えたデータを告げる。

 

「レーダーにキャッチ、機種特定。パーソナルトルーパーのアルトアイゼンとヴァイスリッターです」

 

「KOS-MOS! そんなデータ何所に手に入れたの!?」

 

「三度目の次元転移の際に、二度目と同じ世界のデータを収集しました」

 

 現れた二体の高速物体の正体が、パーソナルトルーパーと呼ばれる機動兵器であるとKOS-MOSが告げれば、シオンは何所でそのデータを手に入れたのかを問う。

 これにKOS-MOSは三度目の異世界転移で収集したと答えれば、シュンはそれらに乗る何者か達が、ネオ・ムガルの暗殺作戦を嗅ぎ付けたと推定した。

 

「取り敢えず、何処かの奴がネオ・ムガルの暗殺作戦を嗅ぎ付けたようだな」

 

「何所かって? 一体何所の勢力だ? タイムスリップ出来る組織など、俺はこれっぽっちも知らんぞ」

 

 何処かの勢力と聞いてか、バウアーはそれに反応したが、生憎とタイムスリップが出来る装置を持っている組織など知らない。

 数分辺りすると、艦橋が騒がしくなり、そのタイムスリップが出来る装置を持っていそうなシュンが知る組織が自分等の目前に現れる。それは、艦橋窓越しに巨大な艦影として見える。

 

「答えが来たぞ。俺の元の古巣のワルキューレだ。船の形からして、空軍か宇宙軍だな」

 

 未来より助けに来たのが、ワルキューレだと分かれば、艦橋の窓越しに見える艦影から、空軍か宇宙軍が保有する艦艇と、古い記憶を抉じ開けて判断する。

 その艦艇は艦載機の二機のPTと共に、アースラの前に出て、他の艦載機であるマリが乗っていた可変戦闘機のVF-25シリーズや、見慣れないバルキリーを展開し、敵艦隊との交戦を始める。

 敵も突如として現れたワルキューレに対し、対応が遅れていたが、艦載機を慌てて出して対応する。敵艦隊が展開した艦載機の数は、ワルキューレの部隊よりも十倍以上の差だが、的のように落とされるばかりだ。

 そんなアニメのような戦闘が行われる中、シュンを初めとする転移者らは、敵の本拠地となった時の庭園に乗り込むべく、艦橋を出ようとする。

 

「何所に行くんですか?」

 

「何って、敵の本拠地に乗り込むんだよ」

 

「フェイトちゃんのお母さんの家に?」

 

「あぁ、そうだ。直接乗り込んで、あの婆をぶっ飛ばす」

 

 出ようとした時に、なのはに何所へ行くか問われたため、シュンが代表して時の庭園に、プレシアをぶっ飛ばす為に乗り込むと答える。

 次に、理由を聞いてくるなのはに対し、シュンはどうしたいのかを問う。

 

「で、お前はどうしたい? ここで金髪の嬢ちゃんの元に居るのか?」

 

「それは…」

 

「…私、行きます。一緒にお母さんの元に行かせてください!」

 

「フェイトちゃん!?」

 

「なんだ、お前も婆をぶん殴りに行きたくなったか? それとも、殺したいか?」

 

 シュンに問われたなのはは、どうして良いか分からなかったが、フェイトが共に行くと言う事に驚き、彼女と一緒に行きたいと言う気持ちが湧く。

 志願してきたフェイトに対し、シュンは完全に自分を否定したプレシアに殺意でもあるのかと問う。

 何故、こうも彼女らの同行を断るのかは、時の庭園はプレシアがネオ・ムガルと協力してしまったため、傀儡兵だけでなく、エリートやグノーシス、それに無法者らで溢れかえっているのでかなり危険な状態である。

 そんな魔女の鍋の中のような状況となった場所へと、足手まといになりそうな二人を向かわせるのは、シュン等にとっては迷惑なことだ。

 これを理由に、自分等が守る必要が無いかどうかを、シュンはなのはとフェイトに問うているのだ。

 殺し行くかと問うてくるシュンに対し、フェイトはプレシアに対する強い気持ちを告げた。

 

「違う。私はお母さんと話したいだけです。出来れば、仲直りしたい」

 

「私も行きます。行ってフェイトちゃんの力になりたいの」

 

 母との対話を願う気持ちを明かしたフェイトに続き、なのはも友達である彼女の力になりたいと告げる。

 

「九歳かそこらの嬢ちゃんにしては、中々良い目をしてやがるな。良いだろう、足引っ張んなよ!」

 

 そう強い気持ちを明かし、決心を決めた二人の瞳を見て、とても九歳とは思えない物と判断し、シュンは彼女らの同行を許した。

 

「やれやれ、この歳にしては、人間良くできている」

 

「中々肝が据わった嬢ちゃんじゃないか。ここで断れば、後悔するかもしれんしな」

 

「私達」

 

『行けるんだ!』

 

 歴戦の戦士であるヴェセミルもバウアーも、二人の同行を許可する言動を口にしたので、なのはとフェイトは互いに向き合って大きく喜んだ。

 だが、流石に待ったが掛かる。

 

「待ってくれ。これは僕たち管理局の管轄下だ。勝手に民間人たちを…」

 

 待ったを掛けたのはクロノだ。これ以上の民間人の戦闘介入は、管理局の執務官としてのプライドが許せないのか、呼び止めるも、艦橋を指差すシュンに、目前の現実を突き付けられる。

 

「そうかい。で、あれはお前らに何とかできるのか? 出来てねぇだろう。未来からやって来た連中に助けられぱなしじゃねぇか。兎に角だ、お前らの手柄って事にしても良いから、俺たちに協力しろ」

 

「クッ、僕にもっと力があれば…! 良いだろう。だが、今回だけだぞ」

 

「餓鬼が一丁前な事を。お前も許可するぜ。足手まといになんなよ」

 

「どっちが!」

 

 目前の状況を突き付けられ、執務官としての未熟さを思い知らされたクロノは、シュンたちの力に頼るしかない自分を恥じつつ、突入を許可した。

 それにシュンは同行の許可を出せば、クロノは強気でそれを受け入れる。

 

「僕も行きます! 元は、僕がジュエルシードを発掘したからこんな事件が起きてしまったんだ!」

 

「私も行く! 私はフェイトの使い魔なんだ! 使い魔が主の傍に居ないとね!」

 

 クロノの同行に続き、ユーノやアルフもその後に続き、シュンも彼らの同行を許す。

 今の状況では、自分ら時空管理局ではどうする事も出来ないと、クロノと同じく思い知らされたリンディは、未来よりやって来た彼らに、事件解決を委ねる。

 

「まっ、今の装備じゃどうすることも出来ないわね。良いわ、好きにしてちょうだい。でも、失敗は許されないわよ?」

 

「こんだけ揃ってんだ。失敗する訳ねぇだろ。じゃあ、行ってくるぜ」

 

 失敗は許されない。

 そうプレッシャーを掛けるリンディに対し、シュンは面々を見回して、失敗することは無いと答え、艦橋を後にした。

 

 

 

 時間は、アースラがネオ・ムガルの艦隊に砲撃されるまでの時点まで遡る。

 この過去の世界にも、シュンと同じく当時九歳のなのはとフェイトの暗殺作戦が行われているとの知らせを受け、未来よりやって来た者達が来た。

 その者達は、神と悪魔の融合した存在であるアウトサイダーとは違い、度重なる情報集中で入手したため、こうして遅れて過去の世界へと、長期間に渡る次元航行に耐えることが出来る次元航行艦を持ってやって来たわけだ。

 タイムスリップが可能な次元航行艦は、アースラや時空管理局が運用する次元航行艦とは違い、砲塔やミサイル発射口を持ち、機動兵器や搭載機を出せるハンガーを二基ほど持った完全な軍用、即ち軍艦であり、単艦でも複数の敵艦との交戦が可能な程の装備を持っている。

 船体には、ワルキューレの宇宙軍の所属を示すマークが描かれていた。

 この次元航行艦は、ワルキューレの物、言わば、その数分後にアースラを助けたのは、ワルキューレだと言う事だ。

 

「艦長、こちらアサルト4。まだ見えないのですか?」

 

『は、はい! えーと、まだ見えないみたいですね。アンコウ型なお舟』

 

「アースラですよ、艦長。ブリーフィングで散々聞かされたでしょう?」

 

『あぁ、私。元輸送艦の艦長なので、こういう特殊作戦は初めてなんです』

 

『いやーね、なんで輸送艦の艦長を、こんな主人公チームが乗りそうな戦闘艦に』

 

 ハンガー内で待機するPT(パーソナルトルーパー)と呼ばれる人型の機動兵器で、性能も上位である改装機のアルトアイゼン・リーゼに乗るパイロットは、コックピット内にて、アースラがまだ見えないのかと、通信を繋いで艦長に問う。

 映像通信で映された妙齢の美人の分類に入る長髪の女性艦長は双眼鏡を覗き、まだ見えてないと答える。

 これにパイロットはアースラの艦名を知らない彼女にそれを教えれば、艦長は元輸送艦の艦長だから、特殊作戦は初めてだと言って返す。

 それに呆れたのか、アルトアイゼンのパイロットの同僚である同じ系統のPTだが、何処か違うライン・ヴァイスリッターに乗る女性パイロットが不満を口にする。

 

「同感だ。だが、今は文句を言っていられない。俺たちは未来を守るために過去へ来た」

 

 どうして元輸送艦の艦長に、特殊作戦向きの戦闘艦の艦長を任命させたワルキューレの人事課に疑問を抱くが、今は文句を言っている場合では無い。

 自分等の未来が掛かっている。

 ただ男のパイロットは同僚に告げ、操縦桿を強く握り、出撃の合図を待つ。

 

『見えました! アースラです! 十五隻以上の戦闘艦に攻撃されてます!!』

 

「見えたか! エクセレン!!」

 

『はいな! エクセレンじゃなくてアサルト2、行っきまーす!!』

 

 艦長からの報告の通信を聞けば、パイロットは出撃準備を手早く済ませ、同僚の名を叫んで彼女を先に出撃指示を出す。

 これに応じ、陽気に出撃すると言えば、ライン・ヴァイスリッターは予め装着されていたカタパルトで次元の中に打ち上げられ、背中の二つの悪魔のような翼を広げ、先行して出撃する。

 ライン・ヴァイスリッターに続き、アルトアイゼン・リーゼに乗るパイロットも出撃し、エクセレンと言う女性が乗るPTと思われる機動兵器の後に続く。

 

『キョウスケ! 見えたわ! ムサイがアンコウ魚を!』

 

「そのままブリッジを狙撃しろ!」

 

『はいはーい! こんなのは、ちょちょいのちょい!』

 

 先行しているエクセレンが知らせれば、キョウスケと呼ばれるアルトアイゼンのパイロットは、自慢の狙撃でムサイのブリッジを狙撃するように指示する。

 恋人関係であるのか、エクセレンはそれに応じ、高速移動しながらも、見事にムサイのブリッジを右手に手にしたハウリングランチャーと呼ばれる銃で狙撃して破壊、それだけでなく、三つの主砲に左右のエンジンすら正確に狙撃し、更には船体の中央にまで命中させ、狙ったムサイを轟沈させた。

 

『名付けて、めぐりあい撃ち!』

 

「誰がそこまでやれと言った!」

 

 オーバーキルと言うべき狙撃でムサイを撃沈させたため、キョウスケは注意しながらステルス迷彩で完全に姿を消しているザフト系MSのジン長距離偵察型の存在を見抜き、右腕のリボルバー式パイルバンカーで貫き、蹴って引き剥がしてから撃破した。

 それから、突然の出現で慌てているとされるアースラに向け、エクセレンは自分等が味方であると通信で伝える。

 

『未来より、助けに来たわよん!』

 

 そうカメラに見られていると思い、空いている機体の左手でピースのジェスチャーをすれば、同じくかなり動揺しているネオ・ムガルの迎撃に当たる。

 

「エクセレン、あれはやり過ぎだ。俺たちはこの過去の世界には存在しないんだ」

 

『でも、目の前の連中もそうでしょ。私達が来なければ、こいつ等の俺最強状態じゃない』

 

「たくっ! まぁ、俺たちが来なければ、アースラは沈み、歴史は最悪な方向へと変わる。歴史を正すことには変わりない!」

 

 アースラに向けて通信を行ったエクセレンに対し、注意するキョウスケであるが、彼女は自分等が味方であることをアースラに居る面々に知らせているので、彼は先の通信を見逃し、目前の自分と同じ者達を倒して歴史を正すことのみに集中した。

 キョウスケとエクセレンは、この時代の者ではないが、元からワルキューレ所属でもない。

 元の世界は惑星同盟軍の侵攻を受け、彼らも決死の抵抗を行ったが、圧倒的な物量の前に敗走を余儀なくされ、こうして戦友たちと共にワルキューレの軍門に下る。

 二人が現在より過去へ来たのは、ワルキューレから過去のなのはとフェイトを守れとの命令を受けての事である。

 他にも居るが、彼らはある作戦の召集を受けて来られず、予備戦力として残されたキョウスケとエクセレンに白羽の矢が立てられ、過去への救出作戦に動員されたのだ。

 エクセレンを除き、キョウスケはタイムスリップなど少し馬鹿々々しく思ったが、ネオ・ムガルの歴史を自分等の思い通りに改変すると聞き、彼らの悪行を聞かされていたキョウスケはその使命感に燃え、この作戦に志願した。

 

「数は五十八機か…多いな」

 

『一人二十九機って所かしら? 航空機を除けばの話だけど』

 

「数は全部合わせて百機以上と言う所か。だが、どんな数で来ようと、過去へ来た俺たちは歴史を正すのみ…!」

 

『そうね! いつもやって来たところ! それにこっちには凄いのもあるから!』

 

 アースラを撃沈しようと向かって来た攻撃機数機以上を撃破したところで、キョウスケは敵の残りを数えた。

 分かるなら戦闘艦艇が十四隻、機動兵器が五十八機、宇宙航空機の類が八十機相当だ。

 この数を見たキョウスケは、臆することなく過去へ来た使命を果たすのみと告げる。

 これに応じ、エクセレンはいつも通りであると告げ、後からVF-25シリーズや新型バルキリーなどの艦載機を出しながらやって来た母艦を見た。

 

「バルキュリャ! 敵の密集地点に向け、対空気化弾を発射!」

 

『さぁ、景気よくやっておしまい!』

 

『りょ、了解! 対空気化弾、目標、敵密集地帯!』

 

 母艦であるバルキュリャに対し、キョウスケとエクセレンは、その艦が持つ多数の敵機に対しての有効な武装である対空気化弾の発射を要請した。

 これに応じ、バルキュリャは船体中央にあるハッチより三連装の砲塔を展開させ、砲身を敵が密集している地点に向け、対空気化弾が装填されたのち、照準を完了させて発射する。

 撃ち込まれた弾頭は早く、敵部隊は散会する間もなく、三つの気化弾による爆風に呑まれ、航空機や機動兵器を合わせて四十機以上が消滅し、勝率が上昇した。

 

『わぉ! 凄い威力!』

 

「油断するな! 敵はまだ残っている! 行くぞ!」

 

『OK、キョウスケ。派手に行っちゃいましょう!』

 

 三発の気化弾による爆風で敵の三分の一の戦力を減らしたが、数の上では敵が勝っており、油断できない。

 強い爆発を見て興奮するエクセレンに対し、キョウスケは油断しないように告げれば、彼女は怯まずに向かって来る敵機を撃墜しつつ、愛機のヴァイスリッターや、恋人が乗るアルトアイゼンと共に、敵機を撃破しながら敵艦へと向かう。

 

『キョウスケ! 後ろ!!』

 

「分かっている!」

 

 エクセレンからの知らせに、キョウスケは目前の敵機であるテレビのような頭部を持つMSのリーオーの撃墜を確認した後に、シールドのビームサーベルを突き刺そうとして来るザフトの高性能量産型MSのゲイツに気付き、右腕のパイルバンカーで胴体を串刺しにした。

 モノアイの光が消え、機能が停止したのを確認すれば、杭を引き抜いて左手より向かって来るガザDと呼ばれるネオ・ジオンの可変MSに向けて投げ付け、左腕のバルカン砲を撃ち込んでその敵機も撃破する。

 

『凄いわね、キョウスケ! もう十機目!』

 

「お前はなんだ。機動兵器十四機と航空機二十機を落としてるじゃないか」

 

『あら、もうそんなに!? ごめん、数えてなかった。てへ』

 

 十機目を撃墜したとエクセレンより知らされれば、キョウスケは彼女に向けて撃墜した数が多いと告げる。

 これにエクセレンは自分の落とした数を数えていなかったらしく、攻撃を避けながらキョウスケに向けて謝る。

 二人の撃墜数は、高性能のVF-25シリーズや新型のVF-31シリーズに乗るパイロット達よりもずば抜けており、もはや二人だけで良いのではないかと思うくらいだ。

 そんな二人は、対空砲の弾幕を張る敵艦隊に向け、阿吽の呼吸とも言える連携攻撃を行う。

 

「敵艦隊を一気に殲滅する! エクセレン、援護しろ!」

 

『了解! 張り切って、いきまっしょー!』

 

 その連携攻撃は、どんな強敵にも有効的な攻撃手段だ。

 格闘戦特化のアルトアイゼン・リーゼを前衛に、射撃特化のライン・ヴァイスリッターが邪魔な護衛機や護衛艦に向けてランチャーを撃って援護する。

 この間にライン・ヴァイスリッターは、あり得ない分身を行ってランチャーを撃っており、アルトアイゼン・リーゼを邪魔する物全てを撃ち落としていた。

 原因はどうあれ、エクセレンが元の世界で何らかの常識外れな力を手に入れたことは確かだ。

 それにキョウスケも異常な悪運の強さを持っており、数々の死神の鎌を避けて来た。

 この二人に敵う者は、この過去の世界には呼び出された英霊かシュン、ここに居るなのはとフェイトくらいしか居ないだろう。

 

『ミサイル発射! そしてビーム!』

 

 数機の敵機とムサイとユーラシアを撃沈させた後、ヴァイスリッターは固定兵装であるミサイルを発射し、数機の航空機を撃墜すれば、シールドを持つコヴナント軍の戦闘機であるセラフに向けて左腕のビームを発射。六発以上ものビームを受けたセラフのシールドは持たず、爆散する。

 

「目前の駆逐艦はシールドか。ならば、打ち貫くのみ!」

 

 目前の駆逐艦にしては大き過ぎるコヴナント軍の戦闘艦に向け、キョウスケのアルトアイゼンはエクセレンのヴァイスリッターの元、突撃を敢行する。

 ヴァイスリッターはまたあり得ない分身ランチャー攻撃を行い、船体の対空砲全てを破壊し、更には慌てて出て来た護衛のリオンを数機撃墜した。

 その一方で突撃しているアルトアイゼンは、邪魔な敵機を左腕のバルカン砲で落としつつ、敵艦に向け、右腕のリボルバー式パイルバンカーを撃ち込もうと真っ直ぐに敵艦へと突っ込む。

 

「全弾叩き込む!」

 

 対空弾幕を突破し、戦隊へと近付いたキョウスケは、残りのパイルバンカーの薬莢の残弾を全て打ち込んでシールドを無効化した後、機体頭部の角を帯電させ、勢い良くブースターを吹かせて突進し、敵艦の船体をぶち破る。

 突き破った後、アルトアイゼンはパイルバンカーの空薬莢を全て排出し、新しい弾を左腕で装填し終え、次なる索敵を行う。

 

『わぉ! そんな使い方もあるのね!』

 

「整備に文句を言われるな。この攻撃は」

 

 アルトアイゼンの突進を受けた駆逐艦が爆発しながら沈み行く中、キョウスケは先の攻撃は機体に多大な負荷を掛けていると分かり、後で整備にどやされると呟く。

 これにエクセレンは大いに喜びつつ、背後より迫る敵機に気付き、ランチャーを後ろへ向けて撃墜する。

 

「雑魚には構っていられないな! こいつを使わせて貰う!」

 

 まだ敵の戦力が多いので、キョウスケは愛機の多数の敵に対して有効な攻撃を使おうと、シールドを持たず、集まって対空弾幕を張るだけの敵艦群の上方を取り、両肩のハッチを開ける。そこに詰まっているのは、大量のチタン製の弾丸だ。一つずつに破壊力を高めようと、火薬が入っている。

 

「一発一発がチタン製の特注品だ。この距離で放てば、シールドを持たないお前たちには耐えられまい!」

 

 上方を取ったキョウスケは、遠慮なしにそれを敵艦隊へ向けて放てば、眼下に居たシールドを持たない敵艦隊は穴だらけとなり、多数が弾薬庫に当たって内部爆発を起こして轟沈する。運良く大破で生き延びた敵艦も居たが、バルキュリャの主砲であるビームを受け、とどめを刺されて沈められる。

 

『敵戦力、大幅に低下っと! どうする? あのおっきいのもやっちゃう?』

 

「いや、あの巡洋艦か戦艦かどうか分からんのはバルキュリャとバルキリー隊に任せる。俺たちは、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの援護だ。時の庭園内に敵の陸戦兵器が数多く確認されている。更に二十機の機動兵器も居る。油断ならんぞ」

 

『OK! 魔女じゃないけど、プリティーな魔法少女を助けに、騎士二名で露払いと行きましょうか!』

 

 半数以上もの敵戦力を自分たちだけで削った二人は、残りの敵戦力の掃討をバルキュリャの隊に任せる。

 時の庭園にも、多数の敵戦力が確認されるため、二人はなのはとフェイトの安全を確保するべく、それらを排除しに向かった。

 

 

 

「やっぱ居るか!」

 

 キョウスケとエクセレン、それに戦闘艦バルキュリャの隊が敵を圧倒する中、時の庭園と転送装置で乗り込んだシュン達は、早速待ち構えていたアービターが寄越したコヴナントの陸戦兵器群による歓迎を受けていた。

 多数のローカストの小型兵器に加え、恐ろしい事に、同軍の四足歩行の大型兵器、スカラベまで居る。先の戦いで見えなかったが、どうやらここで投入したようだ。

 他には陸戦兵器ばかりではなく、コヴナントの中で厄介とも言えるハンター、レクゴロ族が二十体以上も居る。後はエリートにグラント(アンゴイ)、ジャッカル(キグ・ヤー)、昆虫型異星人のドローン(ヤンミー)、大多数の無法者と傀儡兵だ。

 数は圧倒的にこちらが不利。装備に関しても向こう側が圧倒だ。戦闘車両や航空支援でも無ければこちらが負けているだろう。

 

「残り四十秒後に、我々は圧倒的物量に押し潰されます」

 

「言うんじゃねぇ! 畜生、こうなりゃあ気化爆弾でも盗んで来るんだったぜ!」

 

 全員と同じく、近くの遮蔽物に身を隠しているKOS-MOSは数十秒後に敵の物量に押し潰されると告げた。

 これにシュンは少しイラついたが、飛んできたミサイルで目前の集団が吹き飛ぶ。

 

「お前の魔法か!?」

 

「いや、こいつは…あれだ!」

 

『ハロー! 純粋の騎士、ただいま参上!』

 

 使い捨ての対戦車火器パンツァーファウストを持っているバウアーは、先ほどのミサイルはシュンの物であるかどうかを問うが、本人はここまでやって来る機械の巨人、純粋の騎士の名を持つPT、ライン・ヴァイスリッターだ。名前とは裏腹に、外見は悪魔に近いが。

 乗っているエクセレンが拡声器でシュン達に声を掛ければ、アルトアイゼン・リーゼも現れ、左腕の五門のバルカン砲を浴びせる。ヴァイスリッターも左腕のビーム砲を浴びせたので、一瞬にして出迎えていた敵部隊は半数どころか、スカラベかハンターを初めとする歩兵戦力しか残らなくなる。

 

「データ照合に遭いますが、形がやや違います。改良型のようです。ヴァイスリッターは違いますが」

 

「凄いわね。ああ言うのが私の世界にあれば、良かったわ」

 

 やって来たのがキョウスケのアルトアイゼン・リーゼと、エクセレンのライン・ヴァイスリッターと分かったが、データにある照合と合わず、改良型とKOS-MOSが言い、シオンはその二機のPTが自分の世界あればと嘆く。

 

「アニメとかに出て来るロボットだ…!」

 

 バウアー、ヴェセミル、イムカは初めて見る人型機動兵器に驚愕して声を出せず、なのははアニメでしか見たことが無い大型ロボットに、驚きの声を上げている。

 

「恐ろしい質量兵器だな…君たちは何者だ!?」

 

『クロノ…いや、俺たちの事か。俺はそこに居る連中と同じように助けに来た奴らだ』

 

 これにクロノは、大量破壊兵器そのものと言える機体に乗るキョウスケに対し、何者であるかどうかを問う。それにキョウスケは、危うく同じ軍門に居る現在のクロノの名を言いそうになったが、言い直してシュン等と同じ未来より助けに来た増援だと答える。

 

「あれも英霊と言う奴か?」

 

「いえ、あの二機には英霊は乗っておりません。タイムワープでこちらに来たようです」

 

「この戦いが終われば、タイムトラベル全体を止めさせる法案を提案しなくちゃな…」

 

 目前に飛んでいる二機のPTに乗っている者を、ヴェセミル等と同じ英霊なのかとクロノは問えば、KOS-MOSはキョウスケとエクセレンは英霊で無いと答え、タイムスリップしてきた現代人であると答える。それを知ったクロノは、タイムトラベルに関する全面禁止法案を、上層部に提案しなくてはと呟く。

 そんなクロノを気にせず、キョウスケとエクセレンは、なのは等の邪魔な障壁を片付けるべく、残って居る二機のスカラベに突撃する。初めに放つのは、左腕のバルカン砲だ。それで牽制射撃を行ったが、スカラベにもシールドが搭載されており、防がれてしまう。

 

『こいつもシールド付きか。どんなシールドであろうと、打ち貫くのみ!』

 

 右腕のパイルバンカーで貫くことが有効と判断し、弾幕を回避しながらスラスターを吹かせて一気に上方を取り、右腕のパイルバンカーを突き刺す。

 

『リボルビングバンカー!!』

 

 技名を叫びながら突き刺せば、パイルバンカーはスカラベの弱点まで突き刺さり、スカラベを大破させた。

 

『今度は私の番よん!』

 

 最後のスカラベに対しては、エクセレンが排除を担当する。

 

『わおーん! 雄叫びランチャー!』

 

 狼の鳴き声の真似をした後に、エクセレンはランチャーをスカラベに向けて撃ちまくる。

 最初に実弾を撃ち込んで、衝撃で二本の前足を地から離したのを確認すれば、次はビームに切り替え、スカラベの背後へ瞬間移動し、撃ち込んで衝撃で後ろ足二本を離させ、その巨体を浮かばせる。

 

『カッキーン!』

 

 浮いた瞬間を見逃さず、ランチャーをバットにして上まで叩き上げた。

 それからランチャーを持ち替え、銃口を大口径の高出力ビーム砲に変更させ、飛び上がるスカラベに照準を定める。

 

『前から思うけど、これ、どういう仕組みかしら?』

 

 愛機の主兵装の仕組みに疑問を抱きつつ、エクセレンは気にせずビーム砲を発射。シールドすら容易く貫通できるほどのビームを受けたスカラベは、盛大に爆散した。

 

「無茶苦茶な女だな」

 

「感心している場合じゃない! あいつ等が来る!」

 

 シュンがそのエクセレンの無茶苦茶な戦い方を見て関心の声を上げる中、イムカがエリートにハンターやグノーシスが接近して来ることを知らせる。

 

「ヒルベルトエフェクト!」

 

 その知らせを受けたKOS-MOSは、即時にヒルベルトエフェクトを発動させ、グノーシスを実体化させる。

 即座に一同は迎撃態勢を取り、最初に突っ込んで来るグノーシスを、銃火器を持つバウアーやイムカ、KOS-MOSらが射撃による迎撃を行う。

 それに伴い射撃魔法を持つなのはやフェイト、クロノも迎撃に参加し、ある程度の敵を削る。

 

「武装解放!」

 

 この際にイムカは、ヴァールの真の技であるマルチロックオンの機能を備えたミサイルを発射し、多くのエリートとグノーシスを仕留めることに成功した。

 

「ん? あのデカ物、まるで戦車のように突っ込んで来るぞ!」

 

「重装甲の宇宙人でこと!?」

 

「やれやれ、岩トロールのようだ」

 

 だが、ハンターは仕留められないらしく、十体以上が銃弾を物ともせずに突っ込んで来る。

 バウアーがパンツァーファウストを用意しながら知らせれば、シオンは驚き、ヴェセミルは元の世界のよく似た魔物を思い出す。

 

「弱点は何所ですか?」

 

『背中の露出した肉の部分だ! それか隙間を狙え!!』

 

「弱点は背中の露出した肉か関節部です」

 

 KOS-MOSが弱点を上空で戦っているアルトアイゼンに乗るキョウスケに問えば、彼は素直に聞かされていたハンターの弱点を教えた。

 この情報を直ぐにKOS-MOSが知らせたが、もう既にハンターが接近した後であり、乱戦が繰り広げられていた。なのはとフェイト等と使い魔のアルフは空を飛べるため、上空へと逃げるが、ハンターが手にしている小火器を浴びせられる。

 

「うっ! この…!」

 

 盾の機能を持つ武器を使うシオンは、ハンターの体当たりを何とか防ぐ。

 強力なPTに乗るキョウスケとエクセレンに支援して貰いたいが、生憎と彼らは時の庭園の守備に就いている機動兵器と戦闘艦艇、それに対空車両の対処に追われ、こちらを援護する余裕は無さそうだ。

 

「弱点は背中と関節部とな。トロールより分かり易くて助かり易い!」

 

 仕方なく、ヴェセミルはシオンを殴り殺そうとするハンターの背後に回り込み、怪物用の銀の剣で背中の露出した肉の部分を突き刺し、宇宙の怪物を無力化した。

 

「なるほど、背中と甲羅の隙間か」

 

 ハンターの弱点が分かれば、続々と味方の戦士たちが討伐して行く中、シュンは背後には回らず、機動兵器の装甲を易々と切り裂く大剣でそのまま斬り掛かる。

 これに体当たりで応えるハンターであるが、シュンが持つ大剣、スレイブの切れ味はハンターの持つ艦船などで使う装甲坂すら易々と切り裂き、巨体を真っ二つに叩き割った。

 

「おぉ、斬れたな。物は試し用だな!」

 

 少し自信は無かったが、機動兵器すら切り裂くスレイブが厄介なハンターを叩き斬ったので、シュンは自信を付け、弱点関係なしに自分に襲い掛かって来るハンターを次々と斬り倒していく。

 

「周囲に敵影無し。増援の気配もありません。制圧完了です」

 

「あの大剣、やはりただ物では無かったか」

 

 それから物の数分で、敵の掃討が完了する。

 周囲にセンサーを巡らせ、敵影や増援も無い事を皆に知らせれば、ヴェセミルは銀の剣を背中に背負っている鞘に納めてから、シュンが持つ大剣の滅茶苦茶さに舌を巻く。

 この際に、周囲に居る敵機や迎撃設備の掃討を終えたアルトアイゼンとヴァイスリッターがシュン達の元に近付いてくる。

 まずはアルトアイゼンがシュン達を見下ろせる位置にホバリングすれば、コックピットのハッチを開け、乗っているキョウスケが皆に姿を現す。

 

「お、おい! 鉄の巨人から人が出て来たぞ!?」

 

「一々驚くなよ、ヴェセミル爺さん。俺をお縄にするために、わざわざ来たのか?」

 

 アルトアイゼン・リーゼより人が出て来たことに、機動兵器の事を全く知らないヴェセミルが驚きの声を上げる中、シュンは彼を黙らせ、コックピットより出て来たキョウスケに自分を捕らえに来たのかどうかを問う。

 

『いや、お前が俺の賭けに見合うかどうかを、自分の目で確かめるために出て来た。それだけだ』

 

 これにヘルメットを被ったままのキョウスケは、機体の拡声器でシュンが自分の賭けに見合うかどうかを確認するために出て来たと答える。

 自分を賭けの対象にしたことに、シュンは苛ついたのか、勝利が確実であると告げた。

 

「賭けに見合うかどうかだぁ? 賭ける間でもねぇ! 行って婆と顎割れを叩き潰す! ただそれだけだ! そこで勝ち馬に乗ったつもりでいろ!」

 

『そうか。では、中は任せた。俺たちは外の敵を…』

 

 シュンの有言実行を信じ、この戦いにおける自分の役割を果たそうと、コックピット内へ戻ろうとするキョウスケであるが、エクセレンがなのはとフェイトに何か伝言があるのか、それを伝えに、わざわざ機体を近くまで寄せ、コックピットから出て更にはヘルメットまで取って長い髪と顔を彼らに晒す。

 この際に、エクセレンは軍用で味方識別の際に使われるクリックを落としたが、気付かなかった。

 

『はーい、ちょっと待った! 救済の貴方たちに未来の貴方たちからの伝言があるわ!』

 

『おい!』

 

「え、何でしょう…?」

 

「それはね」

 

「お、女だと!? 魔術師か!?」

 

 キョウスケより静止の声が掛かるが、エクセレンは気にせず、茫然とする二人に未来の二人より受け取った伝言を告げようとする。ヴェセミルが驚いているが、バウアーとイムカは対して驚きの声を上げず、ただその様子を眺めている。

 

「何事も、全力全開で挑めって事よ」

 

「何事も全力全開で挑め…未来の私は幸せなんだ…」

 

「全力全開…はい! ありがとうございます! 未来からやって来たお姉さん!」

 

「そうよ。その意気で頑張りなさいな! じゃあ、外の敵は、お姉さんたちにお任せよ!」

 

 未来の自分達からの伝言を聞いたなのはとフェイトは、やる気を見出し、先行して時の庭園内部へと突入した。

 それを見届けたエクセレンは、長い髪を纏めてからヘルメットを被り、コックピットへ戻ってキョウスケのアルトアイゼン・リーゼと共に周辺宙域に居る敵の掃討へ向かった。

 

「たくっ、なんてこと言いやがるんだ。おい、俺たちも行くぞ!」

 

 意気揚々と内部へと突入した二人を負うべく、シュン達も時の庭園へと突入した。

 この時、シュンはエクセレンの落としたクリックを回収し、懐へ忍ばせていた。




博打うちのキョウスケに、ネタの化身、エクセレンが参戦。

ピクシブの外伝に出たゼンガーと同じく、ワルキューレの軍門に下っている。

続きは明日にあげる予定。

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